「言志録抄 」その他を参照する。
一燈(いっとう)を提(さ)げて暗夜を行く。暗夜を憂うることな.かれ。ただ一燈を頼め。.
少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、則ち老いて衰へず。老いて学べば、則ち死して朽ちず.(言志晩録第60条)
春風(しゅんぷう)を以て人に接し秋霜(しゅうそう)を以て自らを粛む。
他人の行いを見るとき、長所を見て短所を見ないようにするのがよい。 ..
たとえ他の人が自分を裏切る行ないをしても、自分はその人を見捨ててはならない。そして、他の人からそむかれた原因を十分に反省し、自分の 人間をきたえ、みがく材料にするのがよい。このようにすれば、私にとって利益となる。どうして敵視する必要があろうか。すこしもないのだ。
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生はこれ死の始め、死はこれ生の終わり。生ぜざれば則ち死せず、死せざれば則ち生ぜず。.
老人の自らの養ふに四件有。曰く和易、曰く自然、曰く遺遥、曰く流動、是れなり。諸々激烈の事皆害有り...
人我に負くとも我人に負く勿れ。
人の言は須らく容れて之を択むべし。拒むべからず。又惑ふべからず。
愚か者の鈍さは利口者の砥石です。 人の賢者は初見の時に於いてこれを相す。多く誤らず。 愚かな知恵者になるよりも、利口な馬鹿者になれ。 昨の非を悔ゆる者はこれあるも、今の過ちを改むる者は鮮し。
逆境に遭ふ物は宜しく順境を以てこれを処するべし。順境に居る者は宜しく逆境を忘れざるべし。
人間がものになるには良い本を師とする、良い人格を持った人を師尚とする、天地自然を師とすることである。 |
1 憤之一字 憤の一字は、是れ進学の機関なり。舜何人ぞや。予何人ぞやと、まさに是れ憤なり。学は立志より要なるはなし。立志もまた之を強いうるにあらず。ただ本心の好む所に従わんのみ。 |
2 人須自省察 人須らく自ら省察(せいさつ)すべし。天何が故に我が身を出生する、我をして果たして何の用に供せしむる。我既に天物なれば、必ず天役有り。天役供せざれば、天咎必ず至る。省察して此に到れば、則ち我が身の苟(いやし)くも生くべからざるを知る。 |
3 多聞多見 吾既に善を資(と)るの心有り。父兄師友の言、唯聞くことの多からざるを恐る。読書に至りても、亦多からざるを得ん。聖賢云う所の、多聞多見、意正に此の如し。 |
4 間思雑慮 間思雑慮、紛々擾々たるは、外物の之を溷(みだ)すによる。常に志気をして剣の如く一切の外誘を駆除し、敢えて襲近せざらしめば、肚裏(とり)自ら浄潔快豁(じょうけつかいかつ)を覚ゆ。 |
5 省心一助 心の邪正、気の強弱、筆画これを掩うこと能わず。喜怒哀懼、勤惰静操に至るも、亦皆これを字に形(あらわ)す。一日の内自ら数字を書して、以って反観するも、亦省心の一助なり。 |
6 自責厳 自ら責むること厳なる者は、人を責むることも亦厳なり。人を恕すること寛なる者は、自ら恕するところも亦寛なり。皆一偏を免れず。君子は則ち躬自ら厚くして、薄く人を責む。 |
7 口説多忙 今人おおむね口に多忙を説く。其の為す所を視るに、実事を整頓する十に一・二、閑事を料理する。十に八・九、又閑事を認めて、以って実事と為す。むべなり其の多忙なるや。志有る者誤りて此の窪を踏むこと勿れ。 |
8 緊立此志 緊(きび)しく此の志を立てて以って此れを求むれば、薪を搬び水を運ぶといえども、亦是れ学の在る所。況や書を読み理を窮むるおや。志の立たざれば、終日読書に従事するも、亦唯是れ閑事のみ。故に学を為すは立志より尚(たか)きはなし。 |
9 富貴貧賎 富貴は、譬えば則ち春夏なり。人心をして蕩せしむ。貧賎は譬えば則ち秋冬なり。人心をして粛ならしむ。故に人富貴に於いては、則ち其の志を溺らし、貧賎に於いては、則ち其の志を堅くす。 |
10 天尊地卑 天尊く地卑く、乾坤定まる。君臣の分、既に已に天定に属す。各其の職を尽くすのみ。故に臣の君に於ける、まさに畜養の恩如何を視て、其の報を厚薄にせざるべし。 |
11 実際学問 山嶽に登り、川海を渉(わた)り、数十百里を走り、時有りてか露宿して寐ねず。時有りてか餓えて食わず、寒えて衣ず。此は是れ多少実際の学問。夫の徒爾(とじ)の明窓浄几、香を焚き書を読むがごときは、恐らく力を得る処少なからん。 |
12 砥砺切磋 凡そ遭う所の患難変故、屈辱讒謗、払逆の事、皆天の吾才を老する所以にして、砥砺切磋(しれいせっさ)の地にあらざるなし。君子は当に之を処する所以を慮るべし。徒に之を免れんと欲するは不可なり。 |
13 第一等人物 世間の第一等の人物為らんと欲する、其の志小ならず。余は則ち以って猶小なると為す。世間の生民衆しと雖も、而も数に限り有り。茲(こ)の事恐らくは済し難きにあらざらん。前古己に死するの人の如きは、則ち今に幾万倍す。其の中聖人賢人、英雄豪傑、数うるに勝(た)うべからず。我今日未だ死せずんば、則ち稍出頭の人に似たり。而も明日既に死すれば、 すなわち忽ち古人の録中に入る。是に於いて我が為す所を以って、これを古人に校するに、比数するに足る者無し。是れ則ち愧づべし。故に志有る者、要は当に古今第一等の人物を以って自ら期すべし。 |
14 惜陰 人少壮の時にあたりて、惜陰を知らず。知ると雖もはなはだ惜しむに至らず。四十己後を過ぎて、始めて惜陰を知る。既に知るの時、精力漸く耗す。故に人学を為すは、須らく時に及びて勉励するを要すべし。しからざれば則ち百悔すとも亦竟(つい)に益無し。 |
15 学問不離日用 経を読む時にあたりては、須らく我が遭う所の人情事変を把(と)りて注脚となすべし。事を処する時に臨みては、則ち須らく聖賢の言語を把りて注脚となすべし。事理融会し、学問日用を離れざる意思を見得するに庶からん。 |
16 一部歴史 一部の歴史、皆形迹(けいせき)を伝え、情実或いは伝わらず。史を読む者、須らく形迹に就いて以って情実を討出するを要すべし。 |
17 読書 吾書を読むに当たりて、一たび古昔聖賢豪傑体魄皆死するを想えば、則ち首を俯して、感愴(かんそう)す。一たび聖賢豪傑精神尚(なお)存するを想えば、則ち眼を開いて憤興(ふんこう)す。 |
18 責善 善を責むるは朋友の道なり。只須らく懇到切至(こんとうせっし)以って之に告ぐべし。しからずして、徒(いたずら)に口舌に資りて以って責善の名を博せば、渠 (かれ)以って徳と為さず。卻(かえ)って以って仇と為す。益無きなり。 |
19 食貨 国家食貨に於いて遺策無し。園田山林市廛(してん)を連ね、尺地の租入を缺く無し。金銀銅並びに署をゥきて鋳出す。知らず日に幾万計なるを。而るに当今上下困弊し、財帑足らず。或いは謂う奢侈の致す所と。余は則ち謂う。特に比のみならず。蓋し治安日久しきを以って、貴賎人口繁衍し、これを二百年前に比すれば、恐らくは翅に十数倍のみならず。之を衣食する者、逐年増多し、之を生ずる者給せず。勢い必ず此に至らん。然らば則ち困弊此の如きも、亦試治安の久しきに由る。 |
20 如此国危 一物の是非を見て、大体の是非を問わず。一時の利害に拘わりて、久遠の利害を察せず。為政此の如くんば、国危からん。 |
21 慎口 人最も当に口を慎むべし。口の職は二用を兼ぬ。言語を出し、飲食を納るる。是なり。言語を慎まざれば、以って禍を招くに足り、飲食を慎まざれば、以って病を致すに足る。諺に云う、禍は口より出、病は口より入ると。 |
22 鬼神将伺之 枚乗曰く、人の聞くこと無きを欲するは、言うこと勿きに若くは莫し。人の知ること無きを欲するは、為すこと勿きに若くは莫し。薛文靖以って名言と為す。余は則ち以って未だしと為す。凡そ事当に其の心如何を問うべし。心苟くも物有れば、己言わずと雖も、人将に之を聞かんとす。人聞かずと雖も、鬼神将に之を伺わんとす。 |
23 心猶火 心は猶火のごとし。物に著きて体を為す。善に著かざれば、則ち不善に著く。故に遊芸の訓は、特に諸を善に導くのみならず、又不善を防ぐ所以なり。博奕の已むに賢るも、亦此れを以ってなり。 |
24 理到之言 理到るの言は 人服せざるを得ざる。然れども其の言激する所有れば則ち服せず。強うる所有れば則ち服せず。挟む所有れば則ち服せず。便する所有れば則ち服せず。凡そ理到りて人服せざれば、君子必ず自ら反す。我先ず服して後人之に服す。 |
25 人家乗除之数 有名の父は、其の子家声を墜さざる者鮮し。或いは謂う。世人其の父を推尊し、因りて其の子に及ぶ。子為る者、眷養に長じ、且つ挟む所有り。遂に傲惰の性を養成す。故に多くは不肖なりと。固より此の理無きに非ず。而るに独り此のみならず。父既に常人に非ず。寧んぞ慮予め之が防を為すに及ばざらんや。畢竟之を反する能わず。蓋し亦数有り。試みに之を思えば、草木の如きに就きて、今年結実過多なれば、則ち明年必ず歉(けん)す。人家乗除の数も、亦然る者有り。 |
26 吾躯為父母 吾静夜独り思う。吾が躯の一毛一髪、一喘一息、皆父母なり。既に吾が躯の父母為るを知れば、又我が子の吾が躯為るを知る。則ち推して之を上ぐれば、祖・曾・高我にあらざる無きなり。逓(てい)して之を下せば、孫・曾・玄我にあらざる無きなり。聖人九族をを親しむ。其の念頭を起こす処、蓋し此に在り。 |
27 忠孝両全 君に事えて忠ならざれば、孝にあらざるなり。戦陣勇無きは、孝にあらざるなり。曽子は孝子なり。其の言此の如し。彼の忠孝両全ならずと謂う者は、世俗の見なり。 |
28 孔門之学 孔門の学、専ら躬行に在り。門人の問目、皆己の当に為すべき所を挙げて、之を質す。後人の経を執りて叩問するが如きにあらず。故に夫人の之に答うるも、亦人々異なり。大抵皆偏を矯め弊を救い、長を裁ち短を補い、以って諸を正に帰せしむるのみ。譬えば猶良医の症に対して剤を処するがごとし。症は人々異なり故に剤も亦人々異なり。懿子・武伯・游子・夏子問う所同じくして、答え同じからず。亦以って当時の学を想うべし。 |