小説舞台温泉地考

 更新日/2018(平成30).5.21日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「小説舞台温泉地考」をものしておく。

 2018(平成30).5.21日 れんだいこ拝


小説舞台温泉地考
 昔の芸術家、文人、墨客は、好みの温泉地を見つけて長逗留(ながとうりゅう)して作品(小説なり絵なり)を書いている。歴史ある温泉地の老舗の宿に泊まると、「文人墨客に愛された」様子を今に伝えている。「文豪○○先生執筆のお部屋」が当時のまま保存されていて、宿の名物になっている。これを確認しておく。文人と温泉の関係について、温泉通としても有名な嵐山光三郎氏が、「温泉旅行記(ちくま文庫)」という作品で、「なぜブンジンは温泉にはまったか」という文中で分析している。

 夏目漱石は温泉好きで有名で、温泉地に纏わる小説を書き遺している。「坊ちゃん」の道後温泉(愛媛/松山)、「草枕」の小天(おあま)温泉(熊本/天水町)、「二百十日」の内牧温泉(熊本/阿蘇)、「明暗」の湯河原温泉(神奈川)、「吾輩は猫である」の姥子温泉(箱根)。
漱石は神経性胃炎からきた胃潰瘍の持病があり、明治42年には修善寺温泉に転地療養に行っている。

 川端康成は「伊豆の踊り子」を天城湯ヶ島温泉で執筆し、河津温泉を作品の舞台とした。「雪国」では越後湯沢温泉が舞台となっている。

 太宰治と熱海温泉。太宰には温泉を舞台とした作品はないが、熱海温泉に長期逗留して仕事場のようにしていた。「綺麗なお湯だ、ソウダ、まるで水晶をとかしたように美しい、僕の身体を入れるのは何だかもったいない様な気がした」、「ほんとうに静かだ、僕の身も魂も湯気とともに天上に浮き立つ様な気がした」(「温泉」より)。


 志賀直哉の短編小説「城の崎にて」の城崎温泉。

 「温泉と文人墨客

笹沢左保「鶴が湯治する温泉」と言われる古湯鶴霊泉は、笹沢左保氏は東京からわざわざ移住したほどの霊泉。

島木赤彦『太虚集』感冒のために臥床し長崎の病院に入院していた斎藤茂吉を見舞い、温泉療養をすすめ、一緒に雲仙の山上の湯に赴く。

温泉を描いた小品 [架空または不明]

二反長半

『青桐温泉』

近松秋江

『早春の温泉場』

菊池寛

『温泉場小景』

川端康成 『温泉場の事』「サンデー毎日」大正15年7月4日号に発表。その後、昭和23年の新潮社版全集まで、どの完本にも収められなかった短編。

川端康成

『温泉宿』

萩原朔太郎『猫町』「その頃私は、北越地方のKという温泉に滞留していた・・」とあり、軽便鉄道が走っているところから草津かと思われる。


 「文人の愛した温泉」。
都道府県 市町村 温泉名&旅館 文人/温泉関連作品、備考
【北海道】
登別市 登別温泉 与謝野晶子/。
川湯温泉 原田康子 挽歌。釧路出身の原田康子氏の代表作。
塩狩温泉  三浦綾子/塩狩峠
【東北】
青森県 浅虫温泉 太宰治/津軽。
碇ヶ関温泉 石坂洋次郎/水で書かれた物語。
板留温泉 石坂洋次郎/霧の中の少女。
大鰐温泉 太宰治/津軽。
酸ヶ湯温泉 石坂洋次郎/水で書かれた物語。
嶽温泉 石坂洋次郎/草を刈る娘。
湯川温泉 佐藤春夫/詩境湯川温泉。吉川英治/宮本武蔵。
風間浦村 下風呂温泉 井上靖/海峡。
蔦温泉 大町桂月/蔦温泉帖。
田代元湯 新田次郎/八甲田山死の彷徨。
湯野川温泉 水上勉/飢餓海峡。
秋田県 鷹の湯温泉 伊藤永之介警察日記。森繁久弥主演で映画化された。
湯沢市 秋の宮温泉郷
稲住温泉
武者小路実篤/稲住日記。家族とともに疎開。
山形県 上山温泉
葉山館
山口瞳。
温海温泉 横光利一妻の故郷(鶴岡)。松尾芭蕉や与謝野晶子なども訪れ歌を詠んだ。
湯田川温泉
銀山温泉 橋田寿賀子/おしん。
小野川温泉 小野小町「立ち別れ都の空を後に 何処を宿と定むものかな」。
岩手県 志戸平温泉 佐多稲子/雪の舞う宿
大沢温泉
高村山荘
高村光太郎/。
花巻温泉郷
鉛温泉 
藤三旅館
田宮虎彦/銀心中。日本一深い岩風呂(深さ1.25m)「白猿の湯」が有名。高村光太郎・宮沢賢治等も訪れている。
花巻温泉 宮沢賢治/。高村光太郎/花巻温泉。
花巻 花巻温泉郷
大沢温泉
宮沢賢治
鶴岡市 あすみ温泉 横光利一/「夜の靴」。
宮城県 上山温泉 斎藤茂吉/。
川崎町 青根温泉
湯元「不忘閣」
山本周五郎/「樅の木は残った」。
峩々温泉
(峨々温泉)
島尾敏雄/冬の宿り。
福島県 いわき湯本温泉
宿「新つた」
野口雨情。
東山温泉
「新瀧」
竹久夢二。横光利一誕生の宿
湯ノ花温泉
旅館清滝
中山義秀/逃避行。
猫啼温泉 舟橋聖一/ある女の遠景。和泉式部/和泉式部日記。
坂温泉 松尾芭蕉/奥の細道。
【関東】
栃木県 塩原市 塩原温泉郷 田山花袋/日光と塩原。国木田独歩/欺かざるの記。
塩原温泉郷
福渡温泉
和泉屋旅館
「佐野屋」 尾崎紅葉/金色夜叉。後に小説中の宿名「清琴楼」に改名。
「清琴楼」 大岡昇平/逆杉。
群馬県 沢渡温泉  若山牧水/枯野の旅
草津温泉
「日
新館」
河東碧梧桐/草津最古の宿「日
新館」の木看板は1921年、俳人
河東碧梧桐の直筆によるもの。
高村光太/道程。斎藤茂吉/白桃。太宰治/姥捨。山岡荘八/「徳川家康」執筆開始。若山牧水/みなかみ紀行。志賀直哉/草津温泉。平井晩村/湯けむり。十返舎一九/上州草津温泉往来。
霧積温泉 森村誠一/人間の証明。
伊香保温泉 徳富蘆花/不如帰。島崎藤村/伊香保みやげ。三遊亭円朝/霧陰伊香保湯煙。竹久夢二が上州をこよなく愛し伊香保・草津の温泉は頻繁に訪れていた。
上牧温泉 山下清/大峰沼と谷川岳。
赤城温泉郷
滝沢温泉
幸田露伴。
奈女沢温泉 木山捷平/奈女沢温泉。別名「釈迦の霊泉」といわれるほど療養に良い温泉。
四万温泉 三遊亭円朝/霧陰伊香保湯煙。
谷川温泉
丸沼温泉 幸田露伴/対髑髏。
東京都 麻布十番温泉 川本三郎/麻布の温泉。
神奈川県 厚木市 七沢温泉 小林多喜二/「オルグ」。
湯河原町 湯河原温泉 島崎藤村/夫婦でくつろぐ。夏目漱石/「明暗」。
奥湯河原温泉
加満田旅館
小林秀雄「ゴッホの手紙」。水上勉、石川達三も定宿利用。
箱根町 姥子温泉 夏目漱石/「吾輩は猫である」
神奈川県 芦の湯温泉 きのくにや 滝錬太郎/『箱根八里』。”箱根の山は天
下の剣・・・”と誰にも親しまれる歌「箱根
八里」。
神奈川県 塔ノ沢温泉 島崎藤村 『春』塔ノ沢は『春』の
舞台。老舗旅館「環翠楼」は藤村
も宿泊した。水戸光圀、伊藤博文
なども訪れている。
神奈川県 七沢温泉 福元館 小林多喜二/『オルグ』。本館浴
場の湯船に板を渡して座り、よく
歌(ブラームスの歌曲『日曜日』)
を口ずさんでいたという。
永井荷風荷風の父、久一郎は大正2年1月2日没。その日、荷風は新婚まもないというのに、お気に入りの芸者と箱根の温泉にいっており、所在不明。父の臨終に立ち会えなかった。
湯河原温泉 [神奈川県]夏目漱石『明暗』漱石の最後の小説「明暗」(大正5年5月~12月朝日新聞に188回連載の未完作)で 170回から湯河原が舞台となった。この話の中に付近の不動滝を散歩する話が出てくる。漱石自身も温泉旅館天野屋に逗留し、療養や執筆活動を続けた。 芥川龍之介『トロッコ』他に『一塊の土』『百合』等の作品は、湯河原を舞台とした小説で、いづれも熱心な吉浜の芥川の支持者であった力石平蔵と深い関係がある。龍之介自身も、幾度となく中西旅館へ逗留し、保養を続けた。
竹内栖鳳栖鳳は湯河原・天野屋旅館の敷地内に画室(山桃庵)を設け、 1934年から没するまで晩年のほとんどをこの地で送り、大作「東本願寺大寝殿障壁画」もここで制作した。
国木田独歩
『湯河原より』最初の湯河原行(明治34年)の時の作品。で旅館の女中に恋心を抱き・・・という書簡体の短編。
池波正太郎『渡辺崋山』新国劇『渡辺崋山』の脚本、松竹映画「敵は本能寺にあり」のシナリオを「塵外境楽山荘」にて執筆。
山本有三『濁流』湯河原を終生の棲家として、執筆した晩年の大作。
甲府市 甲府湯村温泉郷 旅館明治 太宰治/「正義と微笑」、「右大臣実朝」。
身延町 下部温泉 古湯坊 源泉館 井伏鱒二/趣味の川釣りの拠点として利
用。
山梨県 増富温泉 井伏鱒二/『増富温泉場』。増富温泉・笛吹川
・下部温泉・御坂の谷川・境川などを訪れては
、釣りに明け暮れる。
塩山温泉 [山梨県]岩野泡鳴『耽溺』
下部温泉 [山梨県]井伏鱒二『温泉夜話』善光寺の帰りに立ち寄った時の話。井伏鱒二は「古湯坊源泉館」を定宿としていた。
奈良田温泉 [山梨県]田中冬二『奈良田のほととぎす』「岩魚を料理する手を窓からのぞく山」 田中冬二は、早川渓谷の奈良田温泉を幾度か訪れている。
要害温泉 [山梨県]井伏鱒二『とぼけた湯治場』神経痛と痔のためによった要害温泉と下部温泉のこと。 石和温泉 [山梨県]井伏鱒二『旧・笛吹川の跡地』明治40年8月の笛吹川の大洪水を素材に、その後温泉が湧き現在の石和温泉に発展して行く姿をたんたんと描いた作者85歳時の傑作。湯村温泉  [山梨県]太宰治 『美少女』『美少女』の舞台。太宰治執筆の宿「旅館・明治」では小説「正義 と微笑」「右大臣実朝」の二編が生みだされた。
山ノ内町長野県 角間温泉   林芙美子家族と疎開、「ようだや」で執筆。「林芙美子文学館」
があり。
山ノ内町 上林温泉 山の湯 壺井栄/「二十四の瞳」執筆。
松本市 白骨温泉 湯元斎藤旅館 中里介山/「大菩薩峠」。
松本市 上高地温泉 上高地温泉ホテル 高見順など。高見順、尾崎一雄、斎藤茂吉ら
が訪問。
長野県 別所温泉 有島武郎/『信濃日記』。有島は
妻の死の傷心を癒す為に大正5年
夏に柏屋別荘素檗庵(現名、臨泉
楼柏屋別荘)に泊まった。
長野県 上林温泉 せきや 三好達治/新婚時代の二カ月を
ここで過ごしている。宿は、大正
元年の創業以来、三好
達治や壺井栄、林芙美子などの
文人や画人が常宿したことで知ら
れる老舗旅館。また「志賀山文庫
」では、竹久夢二、小林秀雄、三
好達治など画家、俳人、小説家な
ど志賀高原ゆかりの作家達の作
品を展示、紹介している。

壺井栄『二十四の瞳』昭和18年から軽井沢に別荘を構える29年まで、毎年夏、「塵表閣」に逗留して「二十四の瞳」等の作品を執筆。
壺井栄『母のない子と、子のない母と』湯宿「山の湯」にていくつかの作品を執筆。
林芙美子
夫の生まれ故郷である信州には、頻繁に来訪。
松谷みよ子
『竜の子太郎』児童文学作家の松谷みよ子が地獄谷温泉「後楽館」滞在中、代表作の一つ「龍の子太郎」を執筆。
切明温泉 [長野県]鈴木牧之『秋山記行』秘境・秋山郷の最奥部に位置する温泉。江戸時代に訪れた鈴木牧之の紀行文にも温泉の記述があり、絶賛している。

五色温泉 [長野県]板倉勝宣『山と雪の日記』日本の登山黎明期に活躍したアルピニスト。「五色温泉スキー日記」を収録。

保科温泉 [長野県]井伏鱒二『保科温泉』

山田温泉 [長野県]森鴎外 『みちの記』

森鴎外をはじめ多くの文人墨客が愛した、開湯200年の歴史をもつ古湯。
信州戸倉温泉 [長野県]志賀直哉『豊年虫』昭和2年、滞在して小説「邦子」を書き上げる。また「豊年虫」はここを舞台としている。志賀直哉が良く訪れた蕎麦屋「豊年屋」も温泉街にある。 田沢温泉 [長野県]島崎藤村 『千曲川のスケッチ』島崎藤村が小諸時代にここを訪れ小説の構想をねったといわれ、「「ますやというのは眺望のよい温泉宿だ~」と記されている。
白骨温泉 [長野県]中里介山 『大菩薩峠』武田信玄が、銀山開発により傷ついた堀人を湯治させる目的で開所。白骨の巻の中で白骨と呼ばれたことからこの温泉が一躍有名になり小説に記された「白骨温泉」がそのまま一般通称となった。 昔は、白船と書かれ「シラフネ」とも呼ばれていました。
池波正太郎『真田太平記』石湯は岩風呂で、『真田太平記』には、幸村と向井佐平次が出会うシーンなど度々登場。

葛西善蔵『不能者』葛西善蔵は大島屋旅館(現食事処大島館)に三ヶ月も泊まって「不能者」を書き別所を有名にした。
川口松太郎
『愛染かつら』川口はその題名を愛染明王堂の近くにある大カツラからとったといわれている。
久米正雄『父の死』上田で育った久米正雄は、他に『不肖の子』『路傍』等いくつかの作品に別所を取り入れている。

新穂高温泉 [岐阜県]井上靖『氷壁』北アルプスを仰ぐ高原に広がる温泉地、北アルプスの槍ヶ岳・穂高岳への登山口

湯田中温泉 

小林一茶/「雪ちるやわきて
捨てある 湯のけぶり」。
新潟県湯沢町 湯沢温泉(越後) 高半 川端康成/「雪国」。
【甲信越】
赤倉温泉 [新潟県]木下杢太郎『木下杢太郎詩集』「赤倉温泉にて」「高原の寂しき温泉場の薄暮」などの詩を残す。
月岡温泉 [新潟県]笹倉明『新・雪国』川端康成生誕百年を機に執筆・刊行。美人を作る温泉として知られる月岡温泉を舞台にした小説。
越後湯沢温泉 [新潟県]川端康成『雪国』「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」の書き出しで知られる。昭和9年11月から12月にかけて宿「高半」に逗留し執筆。 之山温泉 [新潟県]坂口安吾 『黒谷村 』坂口安吾は、昭和五年ごろから、姉セキの嫁ぎ先、新潟県松之山町を何度も訪れている。安吾自身も夏などに長期間滞在して「黒谷村」など同町を舞台とした作品を書いた。
【伊豆、熱海】
静岡県熱海市 熱海温泉   尾崎紅葉/「金色夜叉」。海岸には”お宮の
松”、”貫一・お宮の像”
伊東温泉 木下杢太郎/伊東出身の医学者で詩人で
もある木下杢太郎の記念館があり。
尾崎紅葉/ 『金色夜叉』。
伊豆市 修善寺温泉 新井旅館 芥川龍之介、岡本綺堂、船橋聖一らが
滞在。
修善寺温泉 岡本綺堂/『修禅寺物語』。
蓮台寺温泉 清流荘 綱淵謙錠『伊豆下田の旧家』
下賀茂温泉 幸田露伴/川原に穴を掘り、
川水で湯加減を調節する「か
わら湯」が露伴のお気に入りだ
った。
静岡県伊豆市 天城温泉郷
湯ケ島温泉
白壁荘 井上靖/幼少期から親しむ。
湯本館 川端康成/「伊豆の踊子」。「湯本館」は、川端康成が実際に宿泊した当時の部屋が残されている。取材地・執筆
地。
梶井基次郎『温泉』大正10年に紀州湯崎温泉、大正12年に別府温泉、大正14年には道後温泉を訪れ、昭和元年以降、伊豆湯ヶ島温泉で療養を重ねている。宿「湯川屋」に1年4カ月滞在。『闇の絵巻』『交尾』など名作を遺す。 尾崎士郎/『鶺鴒の巣』、『人生劇場』。
井上靖『しろばんば』井上靖が天城湯ケ島町湯ヶ島で少年時代を過ごした頃の思い出を描いた自伝的小説。
川端康成/「伊豆の踊子」。
土肥温泉
玉樟園新井
渡辺淳一/『失楽園』 山本容朗/『今昔温泉物語』伊豆
・箱根、関東の温泉を訪れた文学
者たちの紀行文アンソロジー。
花登筐/『細腕繁盛記』。土肥を舞台にしたこの作
品を「玉樟園新井」にて執筆。
静岡県河津町 天城湯ケ野温泉河津温泉 福田家 花登筺/「細うで繁盛記」。
熱海温泉 [静岡県]舟橋聖一『雪婦人絵図』宿「起雲閣」で執筆。小説舞台も熱海の旅館の女将を主人公としている。
太宰治 『人間失格』
心中相手となる山崎富栄を伴って、宿「起雲閣」に逗留して執筆。その三ヵ月後、自ら命を絶つこととなる。 今井浜温泉 [静岡県]石坂洋次郎河津温泉郷の一つ。石坂洋次郎の作品の多くはこの地ではぐくまれた。「私の奥伊豆参りも、かなり年期が入っており、小説の舞台にもしばしば採り上げている。主に短編小説であるが・・。」
修善寺温泉 [静岡県]芥川龍之介『温泉だより』大正14年4月から5月にかけて1ヶ月滞在
山本周五郎 『楡の木は残った』5年間かけて書かれた長編大作の原稿の相当部分を「水口旅館」にて執筆。また静養の目的でもしばしば逗留。
畑毛温泉 [静岡県]上林暁『浴泉記』函南と韮山の町境にある畑毛温泉の湯治場の様子およびその先の奈古谷温泉について
古奈温泉 [静岡県]吉行淳之介『薔薇』学生の時に梅原龍三郎夫妻と偶然出会ったエピソード。 谷津温泉 [静岡県]石坂洋次郎『美しき暦』昭和15年初の長編作品を書き上げる。
林芙美子『魚介』昭和15年の作品。木太刀温泉が舞台。
永井荷風
『冬の日』
坪内逍遥
明治の末期から昭和10年に歿するまでの30年余り、この地で執筆活動を続けた。三遊亭円朝『熱海土産温泉利書』
【中部】
吉良温泉 [愛知県]尾崎士朗 『人生劇場』忠臣蔵で知られる吉良上野介や作家尾崎士朗ゆかりの史跡が点在する歴史と文学の町。
【近畿】
能美市 辰口温泉 まつさき 泉鏡花/「海の鳴る時」。
加賀市 山代温泉 吉野屋ほか 北大路魯山人/逗留して風流人と交流、
香箱ガニや甘海老、くちこ、鴨、猪などの
味を覚える。
山中・芦原温泉 吉行淳之介/『北陸温泉郷芸者問
答』。
黒薙温泉 [富山県]田中冬二黒部市生地出身の詩人・田中冬二は黒薙温泉をたびたび訪れ、優れた詩や随筆を残している。昭和3年「くずの花」はその一つ。第十六詩集『織女』の一編「黒薙温泉の菩提樹」などもあり。
鐘釣温泉  [富山県]幸田露伴「巌殿の 湯や夜をさびて 河鹿なく」 黒部渓谷の谷川を眺望できる絶景の秘湯。
生地温泉 [富山県]田中冬二『青い夜道』田中冬二の家は生地温泉「たなかや」の分家にあたり、幼少にして両親と死別し、母の弟に引きとられる。銀行等に勤めながら創作活動に専念。昭和四年、三十五歳の時最初の詩集「青い夜道」を刊行した。
高山市 奥飛騨温泉郷新穂高温泉 中崎山荘 井上靖/「氷壁」、新田次郎「白い壁」にも登場。
あわら市 芦原(あわら)温泉   水上勉/「越前竹人形」。
山代温泉 [石川県]北大路魯山人大正初期、まだ三十代の無名芸術家だった魯山人は、須田菁華の元で手ほどきを受けながら一年間ほど山代温泉で過ごす。
泉鏡花 『みさごの鮨』山代温泉が小説の舞台。大正時代の温泉町での人情話を細やかな描写で描く。
山本周五郎
『虚空遍歴』人形浄瑠璃師を目指す主人公の冲冲也が諸国遍歴の果てに、山代温泉に辿り着く。江戸時代の湯治場としての情景が描かれている。
山中温泉 [石川県]松尾芭蕉「山中や菊は手折らじ湯のかおり 」松尾芭蕉に名句を詠ませる辰口温泉 [石川県]泉鏡花 『海の鳴る時』語り手の「予」が辰口温泉にいる「叔母」を訪ねる。鏡花の母方の伯母、中田千代一家は辰口温泉で置屋(おきや)を開業していた。
湯涌温泉 [石川県]竹久夢二湯涌なる山ふところの小春日の眼閉ぢ 死なむときみのいふなり
片山津温泉 [石川県]中谷宇吉郎『雪』「雪は天から送られた手紙である」の言葉で知られ、世界で初めて人工的に雪の結晶を作りだした中谷宇吉郎の出身地。「中谷宇吉郎・雪の科学館」があり。
芦原温泉 [福井県]水上勉『越前竹人形』芦原温泉の遊女と竹人形師の悲しい愛をつづった不朽の名作。
菰野町 湯の山温泉 寿亭 志賀直哉/「菰野(こもの)」。
西尾市 吉良温泉   尾崎士郎/「人生劇場」。
兵庫県豊岡市 城崎温泉 三木屋 志賀直哉/「城の崎にて」、「暗夜行路」。
吉田兼好 『徒然草』。
木山捷平『出石城崎』
湯村温泉 早坂暁 『夢千代日記』。ドラマ
の舞台は山陰の小さな温泉町
の設定。原作の早坂暁氏は、
イメージに合った湯村温泉で
執筆活動をされたので、この町
の風景がそのまま作品の舞台
になっている。
兵庫県 有馬温泉 幸田露伴『まき筆日記』。松尾
芭蕉の旅になぞらえた風流の
旅を記した紀行文。
島崎藤村 『山陰土産』北但大震災の翌々年、昭和2年に画家の次男、鶏次とともに来遊。朝日新聞の委託をうけて紀行文「山陰土産」を連載。
志賀直哉『城崎にて』 大正2年電車にはねられ養生のため来遊。
田山花袋 『山水小記』紀行文。
和歌山県 龍神温泉 有吉佐和子/ 『日高川』。和歌
山県を流れる日高川。その源流
に涌く。
龍神温泉 中里介山 『大菩薩峠』。主人
公・机竜之介が、失明寸前に
当地の曼荼羅の滝で洗眼治
療したことで有名になった。
吉野温泉 [奈良県]島崎藤村 『訪西行庵記』島崎藤村が22歳の明治26年の春、この温泉を訪れ、約1ヵ月余り滞在して「訪西行庵記」などの作品を執筆。
三重県 榊原温泉 清少納言/ 『枕草子』。
「湯は七栗の湯(現在の榊原)。有
馬の湯。玉造の湯」と讃えられた
名湯のなかの名湯。
【中国】
山口市 湯田温泉 西村屋 中原中也/生家近傍。結婚式を
挙げる。中原中也 『帰郷』。
岡山県 奥津温泉 藤原審爾/『秋津温泉』。『秋津
温泉』の舞台となった山里の湯。
美しい自然の残る吉井川上流の
渓谷にある温泉地で、古くは津山
藩の湯治場。
奥津温泉 与謝野晶子/「山陰と山陽の山
立つ中の奥津の 夏の浴めりわれ
は」。
島根県 有福温泉  斎藤茂吉「有福のいで湯 浴み
つつ人麻呂の 妻のをとめの歳を
そおもふ」。
鳥取県 皆生温泉 生田春月/『相寄る魂』春月は明
治25年、鳥取県米子市の皆生温
泉生まれ。16歳の時、東京へ出
て、同郷の生田長江の書生とな
り、詩人佐藤春夫と同宿していた
。皆生温泉海浜公園には米子地
方を舞台にした小説「相寄る魂」
の冒頭の詩が刻まれた文学碑が
ある。
浜村温泉 小泉八雲/『日本の面影』。素朴
な人情のある小さな村として感動
的な表現で紹介。
【四国】
松山市 道後温泉 道後温泉本館 夏目漱石/「坊ちゃん」。近代俳
句の父と言われた正岡子規をは
じめ、吉川英治も菊池寛も、与謝
野晶子も道後温泉に来遊している
。アニメ「千と千尋の神隠し」の湯
の屋のモチーフとしても知られてい
る。
香川県小豆島 小豆島温泉  壷井栄/『二十四の瞳』。瀬戸内海に浮か
ぶ小豆島に生まれた壷井栄は、郷里を舞台
とする作品を多く著した。
【九州】
福岡県 二日市温泉 大伴旅人/「湯の原に鳴く芦田鶴
はわがごとく妹に恋ふれや時わず
か鳴く」万葉集961番の歌。万葉
集にも詠まれた由緒ある温泉。
佐賀県

嬉野温泉

種田山頭火/「鐘が鳴る温泉橋
を渡る」、「湯壷から桜ふくらんだ
」。
佐賀県 熊の川温泉 郭沫若/『行路難』。大正13年9
月に家族5人で訪れる。新屋旅館
にしばらく泊まってから近くの民家
二階を間借りして自炊。約1ヶ月
半ほど執筆活動を行い、自伝的小
説『行路難』『紅瓜』や随筆を書き
上げている。
佐賀県 古湯温泉 斎藤茂吉/『つゆじも』
長崎県 雲仙温泉 斎藤茂吉/『つゆじも』
熊本県玉名市 小天(おあま)温泉 前田家別邸 夏目漱石/「草枕」。明治30年の
大晦日に、漱石は第五高等学校
の同僚、山川信次郎と小天の地を
訪れた一週間滞在。後に作品の題
材とする。
熊本県阿蘇市 阿蘇内牧温泉 養神館 夏目漱石/「二百十日」。
熊本県 杖立温泉

葉隠館

火野葦平『花扇』。
別府市 別府温泉   三島由紀夫/新婚旅行で”地獄めぐり”。
別府市 別府温泉   田山花袋/「温泉めぐり」、文壇随一の
温泉通の全国温泉紹介。
大分県 別府の流川通り 織田作之助/『雪の夜』。
大分県 別府温泉 鹿児島寿蔵『鉄輪淹留吟』鉄輪
(かんなわ)とは別府温泉の一部
。ここに滞在しながら歌をよみあ
げている。
大分県 由布院温泉 亀の井 永井龍男/『朝霧と蛍の宿』
大分県 筌ノ口温泉 川端康成/『波千鳥』 。昭和28年の
大分再訪の時、川端康成は筌ノ口温泉
の「御宿小野屋」に逗留。飯田高原一
帯を取材。
大分県 法華院温泉 川端康成/ 『波千鳥』。小説中で
文子は、飯田高原から諏峨守越
を越え、北千里ケ浜におり、法華
院温泉へと向かう。
大分県 天瀬温泉 田山花袋/『水郷日田』紀行文。
大分県 垂玉温泉  山口旅館 与謝野鉄幹/『五足の靴』。鉄幹
が、北原白秋、木下杢太郎、吉井
勇、平野万里を率いて長期旅行し
た時の紀行文。
鹿児島県 古里温泉 林芙美子「花の命は短くて、苦しきことのみ
多かりき」出世作『放浪記』の中の一節。
林芙美子が幼い頃を過ごした。
鹿児島県 指宿温泉 島尾敏雄/『湯船の歌』。島尾敏
雄は、昭和50年から約2年間、奄
美から指宿に移り住んだ。
(注)山代温泉は当図録で追加
(資料)東京新聞大図解「文人の愛した温泉」2011年12月25日




(私論.私見)