佐藤弁護士は、モンゴル国内でのバッシングが想定を超えたとし、「人口が三百十数万のお国で、インターネット、フェイスブックなどの普及がものすごい。一つのバッシングがあると、相当強いものになる。特にお兄さん方に対するバッシングは強かったと聞いています」と話した。佐藤弁護士は貴ノ岩の心境について、「ものすごい精神的な苦痛があった。当初は話し合いで解決するということで本人もそのつもりだと思うんですが、どんどんバッシングが強くなってくると、本人も耐えられなくなったんじゃないかなと思っています」と限界に追い込まれたとの見方を示した。「治療費も四百数十万くらい支出しているんですけど、『それも自分が負担します』と。そうしないと、モンゴルの国内で理解してもらえないんじゃないかという気持ちがある」と苦渋の舞台裏を明かした。佐藤弁護士は、「こういうスポーツ界の中で暴力行為があって、その被害が回復しないうちに、いわば泣き寝入りの状態になっている。今後のスポーツ界を考えた場合、好ましいことではないと思っている」と不満をあらわにした。日本とモンゴルを比較し「日本は法治国家。法治国家の中で暴行への被害者を、人権を擁護できないということは、我々法律家としてはそこは最も残念なこと。特に、今回の場合はモンゴル国内でのバッシングは第二次被害みたいなもの。そういうことのゆえに、正義を実現できなかったのは大変残念」と無念の表情を浮かべた。代理人弁護士は同番組の取材に「モンゴル国内では上下の格差が厳しくて、上の者(元日馬富士)を下の者(貴ノ岩)が訴えること自体が向いていない。元日馬富士氏は母国で英雄扱いされている。そういうことの背景で、いろいろバッシングを受けたと理解しています」と説明した。
この日、貴ノ岩は、福岡・篠栗町で行われた朝稽古に姿を見せて、四股やすり足などの基礎運動で汗を流した。秋場所後に旧貴乃花部屋から転属したため、慣れない稽古内容に苦戦する場面もあったが、笑顔を浮かべるなどリラックスした様子だった。秋巡業を左足首痛で全休したが「少しずつよくなっている。一生懸命やるだけです」と話し、訴訟について問われると「代理人に任せている」と多くは語らなかった。その後、訴訟を取り下げたことを文書で発表した。
「裁判を起こしてから、母国であるモンゴルでは私に対する想像を超える強烈なバッシングが始まり、私の家族もモンゴルで非常につらい目に遭うことになりました。実際に家族から何度も耐えられないとの連絡があり、もう裁判をやめてくれとの要請がありました。私はどのような反応にも立ち向かう覚悟でしたが、これ以上、私の家族がモンゴルでつらい思いをすることは私自身の気持ちとして耐えられません。したがいまして、日馬富士氏に対する損害賠償の請求をせず、治療費をはじめ一切の費用を自分で負担することにしました。これからは相撲道にまい進し、相撲で活躍して、私の家族にはモンゴルで平穏な生活をさせたいと思います」。 |
貴ノ岩は正午に、福岡市内で行われた力士会に出席。帰り際に、訴訟を取り下げたことについて聞かれると「代理人が発表した通りです」と、またしても多くは語らなかった。