公取委によるジャスラックの独占禁止法違反抵触告発考

 更新日/2019(平成31).4.15日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 JASRACの独占禁止法抵触の実態が明らかになりつつある。これを検証しておく。

 2007.10.18日 れんだいこ拝


 2006(平成18).9.8日、JASRACは、音楽使用料徴収マーケットを事実上独占している状態であるとして公正取引委員会の監視対象事業者にされた。違反の内容により、次のような措置が採られることになる。 
 公正取引委員会では,違反行為をした者に対して,その違反行為を除くために 必要な措置を命じます。これを「排除措置命令」と呼んでいます。
 価格等のカルテルが行われた場合は,カルテル等に参加した企業や業界団体の会員に対して,課徴金が課されます。
 カルテル,私的独占,不公正な取引方法を行った企業に対して,被害者は 損害賠償の請求ができます。この場合,企業は故意・過失の有無を問わず 責任を免れることができません(無過失損害賠償責任)。
 カルテル,私的独占などを行った企業や業界団体の役員に対しては,罰則が定められています。

 (参照、 「公正取引委員会 」、「ガイドライン・公正競争規約」、「音楽著作権管理業者認識と公正取引委員会回答箇所読解の試み」)

Re:れんだいこのカンテラ時評395 れんだいこ 2008/04/24
 【再びジャスラック問題を訴える、ジャスラックの独占禁止法違反抵触考その1】

 2008.4.23日、公正取引委員会が、著作権管理団体の日本音楽著作権協会(JASRAC、以下ジャスラックと云う)に対して、テレビやラジオなどの放送局に音楽の使用料を一括して支払わせていることについて、同業他社の市場への新規参入や事業展開を不当に制限しており独占禁止法違反(私的独占)の疑いがあるとして、同協会の本部(東京都渋谷区)に初めて立ち入り検査した。

 ジャスラックは、作詞家や作曲家から著作権を預かり、音楽の利用者から使用料の支払いを受けて著作者に還元する業務を行っている。1979(昭和54)年、NHKや民放各局に対し、歌唱演奏放送が著作権侵害であるとして課金制を適用する旨通告し、これに応じた各社と契約を締結した。

 その際、番組内で流す楽曲の使用料については使用する回数が多いことと使用状況が把握しにくいことから流した回数や時間ごとに計算するのではなく、つまり実際の歌唱演奏に課金するというのはもなく、放送局の年間放送事業収入(NHKは受信料収入)に一定率(1.5%)を掛けたものを音楽著作権使用料として徴収する包括的利用許諾契約を締結した。

 ジャスラックは、各放送局のサンプリング調査をもとに、作曲家らへの配分を計算していると云う。しかし、そもそもみなし課金であるので、実際の配分はさじ加減にならざるを得ない。優遇配分される著作権者は良いとして不遇の著作権者からの不平は絶えない。これが問題とされ燻り続けているのが実際である。

 音楽放送分野の市場規模は年間約260億円で、ジャスラックは、約264万6000件の音楽著作物のうち約261万4000件を管理しており、シェア占有率は約99%となっている。2006年度は全体で約1110億円の音楽著作権使用料を徴収している。2001年以降に参入した事業者は数億円程度だという。

 音楽著作権の使用料を徴収し、作曲家や作詞家に分配する業務は、かってはジャスラックの独占市場だった。これに対し、ネット配信の普及を狙う音楽出版社などから自主的な管理を希望する声が拡大し、2001(平成13).10月施行の著作権等管理事業法改正で業者の新規参入が認められ、それまでの文化庁への認可制から登録制になった。現在イーライセンス等7社がすでに事業を開始している。

 関係者などによると、新規事業者は楽曲が使用されるごとに支払う個別処理方式での契約にしていたが、ジャスラックが包括契約方式をとってきたため、放送局はジャスラック以外に新たな追加支出コストが発生するのを嫌って新規事業者の管理楽曲の使用を控え、作曲家など権利者も新規事業者への楽曲の管理委託をとりやめるなどするため、新規のライバル社の参入を困難にしている疑いがあるという。こうして、参入はしたものの、ライバル社は使用料徴収額で圧倒的な差を付けられている。

 楽曲の使用をめぐる独禁法違反事件では、公取委が2005.3月、音楽配信会社への利用許可を不当に制限したとして大手レコード会社5社に排除勧告を出した例がある。

 ジャスラックは、こたびの立ち入りに対し次のようにコメントしている。

 概要「検査が入ったことを真摯に受け止め、立ち入り検査には全面的に協力している。具体的な容疑は分からないが、我々は適正に音楽著作権の管理業務をしてきた。検査の結果が出しだい、迅速に対応していきたい」。

 2008.4.24日 れんだいこ拝

Re:れんだいこのカンテラ時評396 れんだいこ 2008/04/24
 【再びジャスラック問題を訴える、ジャスラックの独占禁止法違反抵触考その2】

 れんだいこは、ジャスラックの解体再生を指針させている。この論法は靖国神社考と通底している。その趣旨は後で述べるとして、こたびジャスラックが「独占禁止法違反の疑い」で公正取引委員会の立ち入り検査を受けたとの報道が為されていることにつき見解を述べておく。これまでジャスラックは手前達が立ち入り調査することはあれ、初めてされる立場に追い込まれたことになり皮肉である。

 この事件をどう受け止めるべきであろうか。れんだいこは、ジャスラックが特有の著作権論を編み出し、課金制と暴力金融並みの強引な取り立てによる悪徳商法に走っており、その結果なるほど売上は定向進化で巨大化し続けているが、同時にその使用料金徴収実態が社会問題化しつつあり、そういうこともあってこたび公正取引委員会がようやく重い腰を上げざるを得なくなったと見立てている。

 れんだいこは、公正取引委員会の摘発とは違う面でジャスラック商法のイカガワシサを告発している。公正取引委員会は、独占禁止法違反で実態解明に向かえば良い。そもそも公益性の強い社団法人格であるはずのジャスラックが民間の営利企業さえ恥じろいたじろぐばかりの儲け商法に走り始め、市場独占し続けている不当性は糾弾されて然るべきと考える。政治家は、パーティー券をたくさん買ってくれるので知らぬ顔をしているという腐敗がある。

 れんだいこは、ジャスラックの偏狭強権的な著作権論に着目し、著作権法並びに音楽著作権法違反で実態解明に向かおうと思う。以下、れんだいこの趣意を述べる。

 ジャスラックは、著作権法並びに音楽著作権法が本来要請していない著作権侵害論を編み出し、人民大衆の音楽愛唱演奏にのべつくまなく課金し、その責任を店舗経営者に転嫁し、強引な取立で顰蹙を買い続けている。一体全体、人民大衆が歌唱演奏したとして、店舗がカラオケ機器を置いて営業利用したとして、何でそれが著作権侵害であるものかは。ジャスラックは本来、音曲文化の裾野形成として喜ぶべき事象に対し、著作権侵害だとして罵詈雑言しつつ取り立てに向かっているが、狂気の沙汰ではないのか。

 暴力団はその昔、恐いお兄さんやオジさんを連れてきて嫌がらせをしてミカジメ料を取り立てた。ジャスラックは暴力団の代わりに弁護士を連れてくる。それでもラチがあかないとなると法廷闘争で脅迫する。この時、請求額が、暴力金融さえ驚く高額請求に跳ね上がっている。これができるよう一応法律で通しているが、金銭消費貸借でもない著作権侵害で、金銭貸借上の延滞金利上限枠以上の暴利を取ることができるのかどうか。これを誰も問題にしていないが違法性が強いと云うか違法そのものだろう。仮に著作権侵犯だとして、金銭貸借以上の制裁を科すのは狂気の沙汰ではないのか。

 そういう問題があるというのに、裁判所司法はジャスラックに迎合的で、あたかも手足の如く立ち振る舞う。裁判官から書記官、執行官までがグルになっている。人民大衆は、ジャスラックの強引さに反発しつつも司法当局まで巻き込んだ権力の壁の前で切歯扼腕し、滂沱の涙を余儀なくされる仕掛けになっている。ここにジャスラック問題の由々しき深刻さがある。

 れんだいこはこれに闘う。ジャスラックの著作権理論にどこが問題があるか。これに答えられる者はそう多くは無い。むしろ、ジャスラック的著作権理論を最近流行の知的所有権論の一種として受け入れ、尻馬に乗って講釈したり薀蓄たれたり説教する者が殆どである。人は、文明的だとか先進的だとか知的所有権云々と聞かされると、これに異議を唱えると知性がないことを見破られるのを恐れて、分かったような顔をして相槌を打つ。これが、ジャスラック式著作権論をのさばらせる要因になっている。

 れんだいこは、ジャスラック式著作権理論の野蛮性を告発している。著作権槍で文化の森を突いて獲物を追う姿をダブらせている。何が先進的で文明的であるものかはと。これに合点する者が少ない、というか居ない。しかしながら、れんだいこの著作権論の方が数等倍洗練されていることがそのうち分かるだろう。今は堪えるしかない。

 ジャスラック式著作権理論の野蛮性は、音楽の奏でられるところなら何でも金儲けの対象とするところにある。歌唱演奏それ自体を著作権侵犯とする野蛮な法理論を構築している。問題の原点はここにある。しかし、考えてもみよう。本来の著作権法の引用転載条項は、1・「できる」規定している。2・但しとして同一性保持や著者名、出典元、引用先の明記を条件つけている。3・著作者が敢えて拒否するときその意思が尊重されるとしている。これを仮にソフト型著作権論と命名する。

 これに対し、ジャスラック式著作権論は、1・引用転載は原則として不可として理論構成している。2・利用するなら事前通知要承諾制であるとしている。3・引用転載するなら承諾の対価料を支払えとしている。こういう三段論法を編み出している。こうして課金制が生み出されているが、ここにマヤカシがある。これを仮にハード型著作権論と命名する。

 しかしこれは何もジャスラックのみが咎を受けるものではない。昨今の自称インテリの著作権論は皆これにシフトしている。従って、ジャスラック式著作権論は彼らの論法の当然の帰結であり、独りジャスラックのみが責められる筋のものではない。新聞協会の著作権論然り、出版協会、放送協会、各種学会の著作権論然りである。彼らは皆、同じ穴のムジナである。故に、ジャスラック的行き過ぎを咎められない。咎めれば、お前もナーと返答されるからである。

 違いがあるとすれば、ジャスラックが承諾対価料としての課金制をシステムアップして実践していることにある。しかも、弁護士を尖兵として裁判所を巻き込んで、云う事を聞かなければ利息制限法さえたじろぐ高額の懲罰金制裁を課し、更に延滞金利でも稼ぐと云う傍若無人、無法ぶりで取り立てている。つまり、理論的には他の業界のそれも似たり寄ったりだが、ジャスラックが傑出して理論を生硬に実践しているところに特徴が認められる。

 ならばどこが間違いと云うべきか。ここで、れんだいこが伝授しておく。そもそも著作権法は、人民大衆の著作権付き著作物の利用に関して対価制を認めたものではない。この観点をしっかり持つことが肝要だ。そもそも著作権法は、著作権者と版権所有出版者と同業他社との関係に於いて、海賊版を取り締まることから始発しており、当時に於ける在るべき姿を定めた権利調整法であると弁えるべきである。(ここでは、権力側が、不都合情報を規制する為に設けた経緯の面は問わない)つまり、業者間規制法であり、そういうタガハメされた法として生まれたものである。この観点をしっかり持つことが肝要だ。

 このようにして始まった著作権法がやがて一人歩きし始める。著作権法の打ち出の小槌的活用に目をつけた或る邪悪な勢力が、これを悪徳商法的に利用し、人民大衆の利用に対する課金制へと発展させたのが現代強権著作権論である。この理論は1970年代に始まり、80年代から強力に吹聴されてきているという経緯がある。今日では、こちらの著作権法の方が通念化している。

 この悪智恵を誰が付けたのかはここでは問わない。いずれにせよ、この飛躍は大いなる不正である。この観点をしっかり持つことが肝要だ。始発時点での著作権の目的趣旨からすると、著作権者と版権者の権利を擁護しつつ業界と目指す文化の健全な発展が義務付けられている。この後段の「業界と目指す文化の健全な発展」を阻害してまで著作権者と版権者の権利を擁護することまでは法が予定していない。にも拘らず、著作権者と版権者の権利を万能化させたのが現代強権ハード型著作権論である。この観点をしっかり持つことが肝要だ。

 それはあたかも、憲法9条が有りながら、警察予備隊が自衛隊となり国防軍とならんとしている現下の状況、防衛庁が防衛省となり、イージス艦が漁船を真っ二つにしても直ちに救助活動せず被害漁民を放置し行方不明に追いやった様と似ている。法や機関がどんどん本来の目的から疎外しつつある。著作権法も叉弁えのない方向にどんどん資質劣化させられつつある。

 れんだいこは、かく捉えている。だがしかし、このような著作権論が生まれず、現代強権ハード型著作権論に引きずられっぱなしで定向進化し続けているのが現下の状況である。何がうれしいのか知らんが、自称インテリは自分の首を絞めて恍惚している。その程度のインテリが多過ぎる。これを如何せんか。ジャスラックへの公正取引委員会の立ち入り事件は、この由々しき事態を考える記念すべき元一日にしたい。

 2008.4.24日 れんだいこ拝

【JASRACの加藤衛理事長の居直り記者会見考】
 2008.5.14日、日本音楽著作権協会(JASRAC)の加藤衛理事長は、この日の定例記者会見で、公正取引委員会から独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査を受けたことについて次のように述べた。(「JASRAC理事長、公取委の立ち入り検査『どこが問題なのかとびっくり』」その他参照)

 加藤理事長は、「具体的な疑義の理由がわからない。公式な見解は調査結果が出ないとコメントできない。調査には全面的に協力する」としながらも、問題視されている著作権料の包括許諾契約については「いきなり来られてびっくりした。包括契約はそもそも放送事業者の要望で始めた仕組み。どこが問題なのかという気持ちが強い。30年も続いている仕組み。利用者ニーズに対応したものだ」と存在意義を訴えた。

 JASRACには1曲ずつ使用料を許諾する仕組みもあるが、利用曲数の多い放送局やラジオ局などがすべての利用状況を把握することは困難。JASRACは利用楽曲を自動的にカウントするシステムの開発にも取り組んでいるが、導入のメドは立っていない。加藤氏は「ユーザーにとっても便利な仕組みという自負がある。楽曲を自由に使えるのは音楽文化の多様性を担保しているとも言える」と理解を求めた。

【2009.2.7日、公取委が、私的独占の疑いでJASRACに排除命令事前通知】
 2009.2.7日、公取委は、公取委は昨年4月に立ち入り検査した結果を踏まえ、社団法人「日本音楽著作権協会」(JASRAC、東京都渋谷区)が、テレビなど放送される音楽の使用料をめぐり同業者の新規参入を阻んだとして独占禁止法違反(私的独占)で排除措置命令を出す方針を固め、協会に事前通知した。

 関係者によると、JASRACはNHKや民放各局と、著作権を管理するすべての曲の放送や放送用録音を一括して認める「包括利用許諾契約」と呼ばれる形態の契約を結んでいたが、公取委はこの契約方法が他事業者の新規参入を阻害していると指摘した。JASRACの契約方法では、管理する楽曲数が多く、包括契約で一定額を支払えば、その楽曲を好きなだけ使えるため、放送局側にとっては別の業者と新たに契約を結ぶことは追加支出が必要になる。公取委は、解消の具体的な方法には触れない方向で調整しているが、実際の使用頻度に応じて徴収する方法に改めるなどして独占状態を解消するよう求めるとみられる。

 文化庁によると、「著作権等管理事業法」の施行によって、JASRACの著作権管理事業の独占状態が解消された2001年以降、11社が新規参入したが、放送分野への進出は2社だけ。 JASRACが99%以上のシェア(市場占有率)を占めている。 包括契約は各放送局の前年度の放送事業収入の1・5%を使用料と定めており、07年度にJASRACが集めた使用料は約265億円に上る。

【2009.2.27日、公取委が、私的独占の疑いでJASRACに排除命令】
 2009.2.27日、公正取引委員会は、社団法人「日本音楽著作権協会」(JASRAC、東京都渋谷区、以下「ジャスラック」と記す)に対し、テレビ局など放送事業者向け音楽の著作権管理事業に於けるテレビなどで放送される音楽の著作権使用料をめぐり、同社が他事業者の新規参入を阻んでいるとして、独占禁止法違反(私的独占)で排除措置命令を出した。

 公取委によると、ジャスラックはNHKや民放各局約550社との間で、放送事業収入の1・5%を徴収し、管理楽曲の放送を一括して認める「包括的利用許諾契約」を結んでいる。この方式では、放送局にはジャスラックに対する著作権料の他に他事業者が管理する楽曲利用に対して他事業者ごとの「追加負担」が生じることになり、楽曲放送上由々しき煩雑さと著作権料負担を強いられることになる。結果的に、ジャスラックの管理する楽曲のみを選択させることになっており、このことが「新規事業者の管理する曲が放送でほとんど利用されない状態になっている」と認定し、「放送事業者側に他社との契約を回避させ、新規参入を阻んでおり、現状は私的独占にあたる」として改善を命じた。

 公取委は、楽曲をいくら使っても使用料が一定率で変わらない包括契約内容を違反と認定し、使用実績を反映させた料金設定に改めることなどを求めた。来月の3.2日以降、ジャスラックの管理楽曲と他業者の管理楽曲が実際に放送された比率に応じて、使用料を分配する契約形態を選択できるようにするなど、具体的な改善策を指示する方針を示している。仮に放送局が他社管理の曲を利用した場合、その割合に応じてJASRACが減額する仕組みなどを改善策の一つに想定している。

 放送事業者による楽曲使用料の市場規模は年間約206億円、ジャスラックのシェア(市場占有率)は99%以上となっている。2003年、公取委の研究報告は、2001年にジャスラック以外の業者による楽曲管理が可能となった後に於けるジャスラック式徴収方法の問題点を指摘している。2005.9月、日本民間放送連盟も、競合他社の市場参入を見越し、ジャスラックに使用料の減額を提案したが、ジャスラックは拒否していた。

 JASRACと放送局側との間で約30年続いた慣行に公取委が排除措置命令を出した背景には、後発業者参入が阻害された現実がある。公取委の調査の過程で、新規参入した音楽著作権管理会社「イーライセンス」(港区)が実際に排除されたケースが発覚している。同社は2006.10月に大手レコード音楽出版社「エイベックスマネジメントサービス」から人気歌手の大塚愛さんの新曲「恋愛写真」や倖田來未さんらの67曲について著作権管理を委託され参入を試みたものの、各放送局が追加支出を嫌い、エイベックス楽曲の使用を控え番組などではほとんど流されなかった。同社が使用料を3か月間無料にするサービスを実施しても状況は好転せず、結局、3ヵ月後の2007.1月にレコード会社から放送利用に関する契約を解除されたという事例が確認されている。公取委は、これを競争阻害の事例と認定した。


【ジャスラックが徹底抗戦声明】
 これに対し、ジャスラックは即日、加藤理事長(中)と菅原常務理事(左)、顧問弁護士の矢吹氏が約50人の報道陣を前に記者会見し、加藤衛理事長が代表して次のように反論した。

 正当性を次のように主張した。
 概要「(放送事業者と締結している包括契約について)欧米では随分早くから利用者側と権利者側が合意した上で定着している。日本でも30年前以上に合意がされており、いわばデファクトスタンダード(世界標準)と言っても過言ではない」。

 審判請求する方針を明らかにし公取委と全面的に争うとして次のように述べた。
 概要「テレビ・ラジオ局との包括契約は現段階でベストの方法。特に新規参入を排除しているとの公取委の判断は誤り。事実認定、法令適用とも誤っている。この命令に不承知である。我々は新規参入を妨害していない。排除措置命令の根拠となった事実関係から徹底的に争いたい。公取委からの説明をよく検討したうえ審判を請求し、その後の訴訟も視野に入れている」。

 具体的に次のように反論した。
 「1・放送事業者に他の事業者の管理著作物を利用しないよう要請する行為はしていない。2・命令は放送使用料の算定について、どのような方法を採用すべきか明確にしていない。3・回の命令に対応して利用された音楽著作物の割合を放送使用量に反映させるには、放送事業者から利用楽曲をすべて報告してもらう『全曲報告』が必要になる。現時点ではすべての放送事業者が全曲報告をするまでには至っていない。放送事業者の協力がなければ実行不可能であり、現状では、公正取引委員会の命令に従うことが困難である」。
 「あたかもJASRACがあらゆる楽曲を100%管理しているという理解もあるが、JASRACが管理していない部分はたくさんある。例えばインディーズ系の楽曲などだ。わかりやすい例を挙げれば、北朝鮮の楽曲をある放送局が放送して問題になったが、これはJASRACが管理しているのではない。そういう場合は、放送局が別途使用料を支払っている」。

 公取委の「使用料減額提案」に対して次のように反論した。
 概要「新規管理事業者参入後、JASRAC管理楽曲が他の管理事業者に移ったという事実はなく、従ってJASRAC管理楽曲のレパートリーが新規事業者参入後に減少したわけではない。管理楽曲自体が減っていないのだから、利用割合に応じて契約使用料を減らすという考え方は当てはまらない。音楽は嗜好性が強く、その競争力はレパートリーの数によって決まるものではない」。

 独占禁止法では排除措置命令が下された時点で効力が生じるが、具体的な徴収方法については、3.2日、公正取引委員会がジャスラックに説明することになっている。
ジャスラックは、排除措置命令に不服がある場合、公取委に審判を請求できる。ジャスラックと公取委が互いに主張を述べ合い、審判官(公取委職員)が1・命令取り消し、2・変更、3・請求棄却などの審決を出す。審決に不服がある場合、東京高裁に審決取り消し訴訟を起こすことになる。審判・裁判終結まで命令の執行を免れたい場合は、東京高裁に「執行免除の申し立て」を行う。

 ジャスラックは、公取委の説明をもとに対応を検討することになるが、加藤理事長は、「2カ月以内に審判請求を申し立てる。一方的に歩み寄ることはない。公正取引委員会に主張を理解してもらうことで円満に解決することが一番」と強気の姿勢を見せた。 ジャスラックは、公取委に対して徹底抗戦の構えを示したことになる。

 会場からの質疑応答では、放送分野でのシェアの高さが指摘されたが、この点について加藤理事長は次のように説明した。
 「(新規事業者が参入可能となった)著作権等管理事業法が施行されて6年目だが、JASRACは70年前からこの仕事を始めている。後発の事業者が魅力のあるレパートリーを集めて利用してもらうというのには時間がかかるかもしれないが、サービスを怠ればいずれJASRACも追い越されてしまうかもしれない」。

 ジャスラックは、インターネット動画配信事業者や動画共有サービス事業者とも包括契約を結んでいる。YouTubeやニコニコ動画など動画共有サイトの運営者と締結している包括契約は、運営者が使用楽曲をすべて報告することが前提。サービス利用者がアップロードした動画に使われている楽曲を1曲ずつ調べ上げて報告する契約になっている。今回の排除措置命令がYouTubeやニコニコ動画などの動画共有サイトに与える影響について質問され、、ジャスラック常任理事の菅原瑞夫氏は次のように説明した。

 概要「今回の排除命令は放送に対して出されたものであり、すぐに明日から(影響がある)ということはない。ネット関連の包括契約においては、最初から使用楽曲の全曲報告が盛り込まれており、使用料と使用実態の関係性を疑われた今回のケースには当てはまらない」。

 放送における使用楽曲の全曲報告について、次のように説明した。

 概要「NHKや民放キー局、またFMラジオ局などではすでに全曲報告の形が整えられており、ローカル局やAMラジオ局に関しても対応が進みつつある。使用楽曲数に応じた料金徴収を準備している段階だ」。
 「プレスリリース」の2009.2.27日付け「JASRACKの公正取引委員会に対する審判請求について」を転載しておく。(ゴシックはれんだいこ分責)
 公正取引委員会に対する審判請求について

 当協会は、2月27日付けで公正取引委員会から受けた排除措置命令について、事実認定及び法令適用の両面において誤ったものと考えており、到底承服することができませんので、法令の手続に従って審判を請求する方針です

 今回の命令は、当協会が放送事業者との間で包括契約(当協会の管理著作物の使用料を放送事業収入等に応じて包括的に徴収する内容の契約)を締結していることが、当該放送事業者が放送番組において利用した音楽著作物の総数に占める当協会の管理著作物の割合を使用料に反映させていないことになるから、私的独占(独占禁止法2条5項)に該当すると判断し、この徴収方法の変更等を求めています。

 当協会は、現在の当協会の管理著作物に関する放送等使用料の徴収方法が独占禁止法上の私的独占に当たるとは考えておりません。また、今回の命令に対応するためには、これまで放送事業者との間で取組を進めてきた放送曲目の全曲報告が必要になるものと考えられますが、現時点ではすべての放送事業者が全曲報告をするまでには至っておりません。

 昨年4月に立入検査を受けて以降、当協会は、公正取引委員会に対し、現行の放送使用料の徴収方法や将来的に考え得る変更内容、その実現のための課題、実現に要する時間等について詳細に説明してまいりました。しかしながら、このような状況に至ったことから、今後は、審判を請求して適正な事実認定と正しい法令の適用を求めつつ、あるべき方向性を見出していきたいと考えています。

 当協会といたしましては、委託者・利用者の皆様にご迷惑をお掛けしないことを第一義として本件に対処してまいる所存ですので、今後ともご理解、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

◇ 今回の命令に関する当協会の見解の概要は、次のとおりです。

1. 当協会は反競争的な指示・要求などを一切していません。
 

 当協会は、放送事業者に対して他の管理事業者の管理著作物を利用しないよう要請するなどの行為を一切していません。公正取引委員会も、排除措置命令に先立つ事前説明の中で、当協会と放送事業者との間にそのような事実が見られなかったことを認めています。それにもかかわらず、本件について私的独占に該当するとの判断がされました。
 放送事業者は視聴者の嗜好に合わせて音楽著作物を利用するのであり、放送事業者が利用しないと判断したことの結果責任を当協会に負わせることには合理性がありません。

2. 今回の命令では、放送使用料の算定において具体的にどのような方法を採用すべきなのかが明確にされていません。
 

 放送事業者が当協会に支払う放送使用料は、著作権等管理事業法の定めを踏まえ、利用者代表(個々の放送事業者が加入する事業者団体等)と当協会との間の協議によって定められるものであり、その結果合意に達した内容が、仮に、当協会の管理著作物の割合が放送使用料に反映されるような方法でないとしても、そのこと自体特に問題になるものではないと考えます(4参照)。

 放送事業者が放送番組において利用した音楽著作物の総数に占める当協会の管理著作物の割合を放送使用料に反映するためには、放送事業者が放送番組において利用した音楽著作物の総数とこれに占める当協会管理著作物の数とが明らかになる必要がありますが、いずれも放送事業者の協力がなければ把握することができません。

 それにもかかわらず、今回の命令では、使用料徴収方法を具体的にいつまでにどのように変更すべきなのかが示されていません。

3. 今回の命令は、放送事業者の協力が得られない限り、当協会単独では実行不可能な内容です。
 

 仮に、放送事業者が放送番組で利用した音楽著作物の明細をすべて当協会に報告すること(放送曲目の全曲報告)ができるとすれば、放送番組において利用された音楽著作物の総数に占める当協会の管理著作物の割合を放送使用料に反映させることも不可能ではありません。

 放送曲目の全曲報告については、昨年4月の立入検査よりはるか以前の平成15年から放送事業者との間で具体的な協議を行っており、現在、NHKや民放キー局を中心とした一部の放送事業者において既に実施され、残りの放送事業者においても実現に向けた取組が進められています。実現までにはなお時間を要するものと予測されますが、放送事業者の理解と協力を得ながら対応していきたいと考えています。

 このように、関係者が自発的に努力を続けているさなかに、具体的方策も時間的猶予も明確にされないまま排除措置命令が出されました。

4. 当協会にお支払いただく使用料は、あくまでも当協会の管理著作物についての利用許諾の対価です。
 

 当協会は、放送事業者との間で、あくまでも当協会の管理著作物に係る利用許諾契約を締結しているのであり、この契約における使用料の算定において、他の管理事業者の管理著作物の利用状況を把握したり、それを考慮したりすると、かえって公正かつ自由な競争に反することとなるおそれもあります。

 放送事業者が当協会以外の管理事業者の管理著作物を利用した場合に、当協会の管理著作物についての利用許諾の対価(使用料)とは別に、その管理事業者に対して使用料を支払うことは当然のことであり、そのこと自体特に問題になるべきものではないと考えます。


【各界の反応】

 一方、日本作曲家協議会の小林亜星会長は「新規参入が促されることは当然で、ジャスラックは命令に従うべきだ」と歓迎している。公取委が立ち入り検査した昨年4月以降、協議会はJASRACに説明を求めてきたが、正式な報告はなかったことを明らかにし、「もっと積極的に情報を公開すべきだ」とジャスラックの姿勢に注文をつけた。

 ジャスラックを監督する文化庁は、「評価する立場にはない」が正式コメント。或る文化庁幹部は次のように述べ、排除措置命令の実効性に疑問を呈したと云う。

 概要「問題を指摘しながら『後はお前らで考えろ』という内容。録音やネット配信と違い、管理に膨大なコストがかかる放送権は競争になじまない。排除命令を出したところで新規参入を促すことは難しいのでは」。

 当事者の放送事業者、レコード会社は静観の構えだ。NHK(広報局)は「ジャスラック以外の音楽管理事業者とも契約を締結し、利用している。ジャスラックの対応を当面見守り、必要があれば適切に対応する」とコメント。

 日本民間放送連盟の広瀬道貞会長(テレビ朝日相談役)は「民放事業者にも多大な影響が及んでくると思われる。民放連では、権利者への適正な音楽著作物使用料配分のため、ジャスラックと様々な議論を重ねている。今後、命令の内容について十分検討したうえで、ジャスラックなどと協議したい」とコメントを出した。フジテレビの豊田社長は、27日の定例会見で、「現時点ではコメントを差し控えたい。ジャスラックと十分話し合っていきたい」と述べた。日本テレビ(総合広報部)も、「今後、内容を十分に検討した上で対応していきたい」とコメントした。レコード会社は一様に「コメントする立場にない」などと述べた。

 NHKと在京民放キー局は、ジャスラックとの合意に基き、2009.1月までに、放送での楽曲使用の全容をカウントするシステムを開発した。音声の指紋認証のような方法で、個々の楽曲の使用を集計できるという。


Re::れんだいこのカンテラ時評546 れんだいこ 2009/03/01
 【公取委とジャスラックが全面対決模様事件考】

 2009.2.27日、公正取引委員会は、社団法人「日本音楽著作権協会」(JASRAC、東京都渋谷区、以下「ジャスラック」と記す)に対し、放送事業者向け音楽の著作権管理事業に於けるテレビなどで放送される音楽の著作権使用料をめぐり、同社が他事業者の新規参入を阻んでいるとして、私的独占による独占禁止法違反で排除措置命令を出した。3.2日にも、具体的な改善策を指示する方針を示している。

 これに対して、ジャスラックは即日、加藤理事長と菅原常務理事、顧問弁護士の矢吹氏が約50人の報道陣を前に記者会見し、加藤衛理事長が代表して縷々反論し、徹底抗戦する旨を決意表明し驚かせた。一体ジャスラックとは何者かと。

 驚くのも無理はない。この事件の興味は、社団法人格の事業体が国家機関である公取委の行政指導に公然と叛旗を翻しているところにある。通常であれば、人民大衆の支持が得られるところであるが、この場合はどうであろうか。れんだいこは逆に公取委を支援しようと思っている。むしろ、これまでさんざん国家機関の司法裁判所や警察を使って攻勢的に弱いものイジメしてきたジャスラックが初めて逆に防戦を強いられているケースとして注目している。

 ジャスラックは追う立場から追われる立場へと移った。してみれば遂に時代の潮の流れが変わったということであろう。ということは、知的所有権とか先進国権利だなどと云われると、分けもわからいのに何となく追認してきた多くの著作権病者がそろそろホンマかいなぁーと反省し始める契機になることを意味する。「公取委とジャスラックが全面対決模様事件」の歴史的意義はここにある。

 今、公益法人が儲けるのはケシカランとして漢字検定協会が槍玉に挙げられている。同じような例として財団法人やら社団法人の幾つかが藪を突かれつつある。しかし、マスコミはこれまで、売上の桁が二桁も違うジャスラックに対してはなぜだか及び腰で言及を避けてきた。アンフェアこの上ないが、これが実際の話である。ジャスラックは社団法人なのだが、マスコミ記者諸君はまさか国営企業だとは思っては居るまいに、これまでいつもジャスラック的正義をプロパガンダしてきた。

 しかし、ジャスラックは自ら墓穴を掘りつつある。公取委の行政指導に対してが楯突くと云う前代未聞のドラマを開演しつつある。当然相応の責任が伴う。真実と実態が解明されねばなるまい。遂に臭いものの蓋が開いた感があり、今後否応無く注目を浴びることになるだろう。そうなればなるほど、ジャスラック式著作権論の著作権法を無視したえげつないマルチ商法振りが露見することになるだろう。官僚天下りの実態が白日のもとに晒されることになるだろう。利用料金取立ての権利暴力ぶり、サラ金をも驚かせる暴利ぶりが明るみにされることになるだろう。余りにも数多くの理事、評議員がぶら下がっており、利権に群がっている生態が暴かれることになるだろう。

 そういうこともあって、れんだいこは成り行きに注目している。それにしても我々はそろそろ、あるべき著作権行政の確立を目指して奮闘せねばならない。問題は靖国神社同様であり、単に機械的に反発するのではなく、革命的再生を目指さねばならないだろう。業の理念と業界の利益と著作者の権利のあるべき在り方を同時的に追求達成する制度を創造せねばなるまい。

 その為にも、現下のジャスラックの実態解明、検証に向かわねばならない。良い季節になった気がする。小泉政権の売国奴ぶりと同様、国会で採り上げ、喚問し証言させるべきであろう。問題は、切れ味鋭く糾さねばならないのだが、質す者がジャスラック式強権著作権論を信奉しているようではどうもならん。それが心配だ。

 2009.3.1日 れんだいこ拝

【考】
 2019.4.14日付け「JASRACはもう一つのエンジン手に入れる」浅石理事長が語る「著作権管理」の未来」を転載しておく。
 今年80周年を迎えるJASRAC(日本音楽著作権協会)の浅石道夫理事長は、弁護士ドットコムニュースによるインタビューの前半で、「JASRACは、日本の経済発展と共に歩んできた」と話した。インタビュー後半では、JASRACに40年以上つとめてきた浅石理事長にとって、一番印象に残っている出来事や、JASRACの今後について聞いた。(弁護士ドットコムニュース・山下真史)

 ●排除措置命令の審判請求を取り下げた

 ――浅石理事長が、1975年にJASRACに入ってからこれまで、一番印象に残っている出来事は何ですか?

 浅石道夫理事長(以下、浅石):JASRACは、公正取引委員会の排除措置命令(2009年2月)に対して、審判請求をしていましたが、私が理事長に就任した2016年の9月、審判請求を取り下げました。これが、私にとって一番大きな出来事です。

 (編集部注:公正取引委員会は2009年2月、JASRACに排除措置命令を出した。その理由は、JASRACが各テレビ・ラジオ局との間で行っていた「包括徴収方式」が「排除型の私的独占」にあたるというもので、JASRACは不服として審判請求をおこなっていた。詳しくはこちらの記事参照   https://business.bengo4.com/articles/95)

 JASRACにとって、著作権の訴訟は、勝ったり、負けたりも含めて、いろいろなものをやってきましたが、本格的な行政訴訟は初めて。しかも足掛け10年近くにもなっていました。この行政訴訟にかかわる人的・金額的なコストは、軽視できないような状況でした。一方、2016年9月の段階では、排除措置命令が問題視していた事実が、すべて解消していました。残りは、「黒か白か」という結論部分だけ。この審判請求を取り下げたことが、私のJASRAC人生の中で、一番大きなことだったと思います。

 ――どういうことを考えましたか?

 浅石:当時、「課徴金が50億円弱くらい課されるのでは?」という話がありました。(理事長就任当時)私以外、審判請求したときの役員がいなかったんです。ですから、私の責任として、もう一度、公正取引委員会の中で争って、最高裁まで争うのか。それともここで終わりにするのか。終わりにするにしても、50億円弱という課徴金の話は絶対に避けて通れません。


 JASRACの一般会計は130億円くらいですので、そこから50億円とられたらやっていけるのか。私たちは、最悪の事態を想定しないといけません。簡単に「大丈夫だろう」という判断はできませんから、万が一の状況になっても、JASRACが立ち行くにはどうするかを固めたうえでしないといけなかった。理事長になったのは、2016年6月末ですから、それから2カ月間考えて、もちろんその前から考えていたのは事実ですけども、9月頭の理事会で「取り下げる」という判断をしました。個人というよりも、ある意味で、JASRACの運命を決する判断でした。おかげさまで、結果として、課徴金は課されずにすんでいます。

 ●神戸支部長時代の経験が大きい

 ――決断の際は悩みましたか?

 浅石:そうですね。ただ、繰り返しになりますが、排除措置命令が問題視していた事実が、すでに解消していました。争いごとは、すべてなくなっていて、あとは「白黒の判断」だけという状況です。ずっと訴訟をつづけるという判断もあったかもしれないけど、「白と黒の決着のためだけに、何年もつづけるべきではない」と早くから考えていました。というのも、当時、JASRACの著作権管理業務がかなり停滞していたからです。私は「失われた10年」と呼んでいます。やはり、公正取引委員会との争いに対する資本の投下というのは、非常に大きかった。われわれは著作権管理団体なのだから、それに特化する必要があるだろうと思っていました。公正取引委員会との争いを抱えながら、音楽教室や映画上映の問題に取り組むのは、なかなかできません。著作権の処理として残っている問題に取り組むためには、著作権管理業務以外については、できるだけ早く片を付ける必要があるのではないか、という考えもありました。


 ――その判断力・決断力は、どう養ったのですか?

 浅石:やはり、神戸支部長時代の経験ですね。経営者は、現場で問題があって、「どうしよう?」と言われたとき、その場で、右か左か判断しないといけません。後ろを振り返っても誰もいません。神戸支部は、本部から離れているので、いちいち「お伺い」を立てることができません。日々の業務は、その都度判断しないといけない。それだけの責任を負って、判断することの厳しさと醍醐味は、支部長時代に培われたと思っています。だから、現場の職員に対しては、「お金を払ってでも支部長をやれ」と言っています。昔の先輩から言われたことですが、「支部長になったら、退職届はちゃんと白紙のやつを用意しておけ。何かあっとき、その理由を書いて出したらいいものをポケットや机の中に入れて、仕事をしろ」と。実際に入れていました。そうすることで、「何か判断ミスしたらやめればいい」とスッキリしたというのがありました。ただ、理事長は、自分の家族だけでなく、職員の家族や関係者も入れると、何千人にも責任を負うので、その比ではありませんが。阪神大震災の経験も、理事長での仕事のベースになっていると思っています。震災時ちょうど兵庫県に住んでいて、揺れも経験して、お金があっても水さえ買えない経験もしました。この教訓から、JASRACでは、震災に備えたシミュレーションと対応策を講じています。


 ●サンプリング方式をやめる

 ――JASRACはどこに向かっているのですか?

 浅石:JASRACは、日本の経済発展と共にありました。ただ、これから日本の経済がシュリンクしていくことは目に見えています。人口減少を考えれば、当然のことです。そういう中で、音楽市場世界第2位という国が、その規模を誇れなくなる時期がやってきます。日本の音楽産業が外に出ていく、世界貿易していく時代に入っていくと思っています。日本の近隣を見れば、まだまだ発展途上の国がたくさんあります。アジア地域については、まだまだ著作権団体が創立20年、30年未満ですので、JASRACはそういう団体と手を取り合って、著作権分野のインフラをつくり、アジア全体の著作権思想の普及と文化発展に寄与していかなければなりません。また、「デジタルトランスフォーメーション」を進めていきます。RPA(ロボット)、AI、そしていろいろな新技術を積極的に取り入れていく必要があります。単純な仕事はロボットに、複雑な仕事はビッグデータをもとにしたAIに、人がやらなければならない仕事は人に特化して、JASRACの業務を変えていきます。


 ――働き方改革はしますか?

 浅石:これから先の仕事のやり方に合わせて、組織を変えていきます。現在、本部職員は本部に、支部職員は支部で仕事をしています。自宅や、途中のステーションのようなところでも仕事ができるようにするなど、いろいろな働き方が可能な職場にしていきたいと思います。全体的な規模は少し増やして、機械化によって、総労働時間を減らしていこうと考えています。私の経営目標は「国際化と演奏権の管理」「改革と挑戦」「女性活躍推進からジェンダーへ」です。2023年度を見据えた指針は、デジタルトランスフォーメーション、組織人事見直しです。合理化というと、何か悪いイメージがありますが、「働き方改革」をすることで、80年を機にちがうJASRACになっていくと思っています。

 ――ほかには?

 浅石:著作権管理業務の手数料を見直します。今の演奏(演奏権)、録音(複製権)、インタラクティブ配信や放送に係る管理手数料率の抜本的な見直しを進めていきます。これから3年間(2019年、2020年、2021年)かけて見直して、2022年の完成をめざしています。また、来年度中にサンプリング方式をやめる方針です。地上波ラジオなど、難しいところもありますが、基本的に(全曲報告データをもちいる)「センサス方式」を採用します。サンプリング方式の多かったライブハウスは、利用者や実演家の協力を得て、センサス方式に切り替えていって、今年12月か来年3月には、サンプリング方式がなくなると思っています。


 ――これまでのJASRACと変わっていく?

 浅石:JASRACは日本だけでなく、世界で競争しています。世界の人たちが、どの著作権協会に作品の管理を委託するか。世界を相手にして、率先して管理を委ねるような団体にしていかないといけないと思っています。そのためには、全職員が「常に競争にさらされている」という認識を持つことが必要だと思っています。これまで「著作権管理」という一つのエンジンしかありませんでしたが、もう一つのエンジンを持とうと考えています。具体的にはまだ言えませんが、今年中にはめどをつけたいと思っています。通常JASRACがやっていることを補完するものです。ツインエンジンを持っている団体は他にないので、世界に先駆けて、そのツインエンジンを持ちたいと思っています。
(了)
(私論.私見)



 



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