カラオケ法理考

 (最新見直し2007.11.15日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「カラオケ法理」を検証する。既成の解釈は、殆ど全て御用解説であり役に立たない。

 2005.1.27日 れんだいこ拝


【「カラオケ法理」とは】
 カラオケ機器を店に置いて客に歌わせているスナックが、「歌ってるのは客であって、店ではないので、店がJASRACに著作権料を払う必要はない」と主張したのに対して、最高裁判決は、「店はカラオケの設置によって客を呼び込んで間接的に利益を得ているし、機器の管理もやっているので、店が歌っているのと実質同じ」と解釈して、店側に著作権料支払いを命じた法理を「カラオケ法理」と云う。

 つまり、著作物の物理的な利用者(甲)と、その利用行為に関与する者(乙)が存在するときに、乙が甲の著作物利用行為を支配・管理し、甲の利用行為によって乙が利益を得ているなどの事実が認められる場合には、乙もその著作物の利用者(利用主体)であるとみなし、乙の著作権侵害責任を問いうるとする日本国著作権法の解釈ということになる。

 「カラオケ法理」の名称は、カラオケスナック店の著作権(演奏権)侵害が問われた「クラブキャッツアイ事件」(最高裁判所判決、昭和63.3.15日民集42巻3号199頁)で判示されたことに由来し、「クラブキャッツアイ法理」、「利用主体拡張法理」とよばれることもある。この法理は、物理的な利用行為の主体とは言い難い者を、「著作権法上の規律の観点」を根拠として、1・管理(支配)性および2・営業上の利益という二つの要素に着目して規範的に利用行為の主体と評価する考え方を云う。

 同事件では、カラオケスナックにおいて客に有料でカラオケ機器を利用させていた店側に対し日本音楽著作権協会(JASRAC)が著作権料の支払いを求めたのに対し、店側は「著作権を侵害しているのはカラオケ機器を利用して歌を歌う客であり、店はただ機器を提供しているだけに過ぎず、著作権料の支払い義務はない」と主張した。

 これに対し最高裁は「店側はカラオケ機器を設置して客に利用させることにより利益を得ている上、カラオケテープの提供や客に対する勧誘行為などを継続的に行っていることから、客だけでなく店も著作物の利用主体と認定すべきである」として、店側に著作権料の支払いを命じる判決を下した。


 この判決自体は法律関係者の間では概ね妥当なものと考えられているが、後のファイルローグ事件などにおいてはこの法理を元に、直接的な著作権の侵害者(ファイルを不正コピーした者)だけでなくそのためのツールを開発・提供した者についても著作権侵害を認め、損害賠償の支払いやサービスの停止を命じる判決が出されていることから、「今後同法理の拡大解釈により、著作権侵害の範囲が必要以上に広く認定され、Winny事件判決[1]に見られるように、ソフトの開発等に伴うリスクが高まるのではないか」と危惧する意見も一部では出されている。

 しかしこのような意見に対しては、「この判決は、ソフトの開発自体を著作権侵害の幇助になるとしているのではなく、ユーザーが著作権侵害に利用するであろうことを認識、認容しつつ、当該ソフトを被告が提供したという理由で有罪としたものである」[2]との論評があるように、著作権独自の問題ではなく、一般刑法上の幇助の故意責任とその事実認定の問題であるとする指摘がなされているところである。

 カラオケ法理については、著作権侵害の主体の認定の範囲において立法によらなければ認定し得ない者についても適用される場合があるのではないかとの指摘がなされている。この点、デジタル化・ネットワーク化時代においても著作権保護を確保するために、著作権侵害を効果的に拡大防止すべきと同時に、著作物の利用の促進を図るという観点から、物理的利用行為によらずに著作権侵害に関与している者のうち、いかなる範囲の者を差止請求の範囲とすべきかについて、立法措置が望まれている。


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 03/04/2006 「カラオケ法理」は必要悪だったのか

 いわゆる「カラオケ法理」の主たる機能の一つに、適法な行為に間接的に関与する行為を違法化する機能があります(特別の規定がない限り適法な行為を幇助しても適法であることとは大違いです。また、米国の寄与侵害責任、代位責任、誘因責任とも、「違法な行為」にも関与していることが責任の前提です。)。

 この適法な行為に関与する行為を違法化する機能の嚆矢は、なんといってもクラブキャッツアイ事件最高裁判決です。カラオケスナックで楽しそうにカラオケを楽しんでいる客のほとんどは、「公衆に直接聞かせる」目的もなしに、無償かつ非営利目的で歌を歌っています。従って、客による歌唱自体は著作権侵害とはなりませんから、客による歌唱を幇助したということでカラオケスナックの経営者に幇助責任を問うことはできなかったのです。だからこそ、最高裁は、JASRACの要望を聞き届けるために、カラオケスナックの経営者を歌唱の主体と認定するという荒技を用いる必要があったのです。

 しかし、翻って考えてみると、最高裁判所はそのような禁じ手のような技法を用いてまでクラブキャッツアイ事件でJASRACを勝訴させる必要があったのかというと、それは大いに疑問だったりします。

 クラブキャッツアイ事件当時、音楽著作物(特にカラオケでの歌唱の対象となるような大衆音楽)の著作権者がその音楽著作物を経済的に利用する方法としては、主として、コンサートなどでプロの歌い手に歌ってもらい、レコード等に収録して広く頒布してもらい、テレビやラジオで放送してもらう等することであって、それらを通じてその音楽のファンになった大衆がその歌を口ずさむこと自体から収入を得るということはそもそも収入源としては想定されていませんでした。そして、その楽曲のファンがカラオケスナック等でその歌を気持ちよく歌うということは上記レコード等の売り上げやコンサート収入、テレビ・ラジオ等のスポンサー料等を減少させるものではなく(注1)、従って、著作権者の著作権収入を減少させるものではありませんでした。したがって、クラブキャッツアイ事件でJASRACを敗訴させた結果カラオケスナックにおける客の歌唱に関してJASRACが著作権使用料の支払いを受けられないということになったとしても、それにより作詞家、作曲家たちの創作へのインセンティブが低下するということはなかったということができます(所詮、現状維持なのですから。)。

 もちろん、作詞家・作曲家の創作へのインセンティブをより高めるために、カラオケスナックでの客の歌唱について作詞家・作曲家等が収入を得られるようにしようという政策論議というのはあり得ると思います。しかし、そのような新たな政策を実現するのは、裁判所ではなく、議会の役割であったはずです。従って、著作権法を改正したり特別立法をしたりなどしてカラオケスナックでの客の歌唱について作詞家・作曲家等が収入を得られるようにするというのはそれはありだと思うのですが、裁判所が過度に技巧的な解釈を行うことによって議会の承認を得ずしてカラオケスナックでの客の歌唱について作詞家・作曲家等が収入を得られるようにしてしまうというのは、やはりまずかったのではないかと思います。

 今後、著作権法についても間接侵害の規定を設けることの当否が議論されることになるかとは思います。その際には、適法な行為への関与を違法化する機能は「カラオケ法理」から継承しないようにしてもらいたいと思います。

 Voici les sites qui parlent de 「カラオケ法理」は必要悪だったのか:


【カラオケ法理と刑事罰】

 ライブハウスの経営者に有罪判決が下された事案が紹介されていますが、刑事法の分野でもカラオケ法理が適用された裁判例としては、大阪地判平成6年4月12日判タ879号279頁)があります。

 この事件でも、弁護人は、カラオケ法理を刑事法に適用するのは罪刑法定主義に反するとの批判をしていますが、これに対して裁判所は次のように判示しています。
 弁護人は、カラオケの伴奏部分は適法とされているにもかかわらず、客等の歌唱の部分のみを取り上げて演奏権を侵害するというのは、犯罪構成要件明確性の原則、類推解釈禁止の原則を唱った罪刑法定主義に違反する旨主張するが、カラオケ伴奏自体はやはり歌唱に対して付随的役割を有するにすぎないとみざるを得ず、カラオケ店における客によるカラオケを伴奏とする歌唱が、店の経営者による演奏権の侵害になるという結論自体は前記の判例等から確定的であるといってよい。然るに、民事上は演奏権の侵害とされるのは仕方がないとしても、刑事上は罪刑法定主義の観点から演奏権の侵害にはならないかの如き解釈は、演奏権の概念を徒らに混乱させるものであって、到底採り得ない。演奏権の概念自体は民事上、刑事上を問わず一義的に明確であるべきものであり、また同一内容のものとしてとらえるべきものと解する。

 河上元康裁判長は、民事と刑事とでは、法解釈の限界に差違がないとの見解にお立ちなのではないかと思われます。

 Posted by H_Ogura at 11:37 AM dans sur la propriètè intellectualle |

[][]刑事事件とカラオケ法理

著作権違反での逮捕事例(2)/刑事事件としての著作権違反と民事事件としての著作権侵害 - 言いたい放題の一審判決がありました。

著作権料不払い>元ライブハウス経営者に有罪 名古屋地裁

 著作権料を支払わずに飲食店で生演奏をさせたとして、著作権法違反の罪に問われた名古屋市中区大須2、元ライブハウス経営田中まり子被告(45)に対し、名古屋地裁は19日、懲役1年、執行猶予3年を、同被告社長を務めていた「ワールド・コーポレーション」に求刑通り罰金80万円をそれぞれ言い渡した。

毎日新聞) - 5月19日15時19分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060519-00000068-mai-soci

まだまだ頭の中で整理できていませんし、判決文も読んでみたいところですが、少し思うところを。これって、個人(社長)と会社起訴されていたんですね。犯罪主体は誰なんでしょう? おそらく社長(法人代表者)が犯罪主体で、両罰規定適用で、会社罰金ではないかと。ただ、本件で著作物を現実に演奏したのは演奏者。演奏者から、いわゆるカラオケ法理で利用責任主体性を転換するのであれば、利益帰属は法人たる会社そのものというべきであって、個人に帰属させるは困難ではないかと(私見)。

本来会社が主体だが、もし会社と個人を実質的に同一視するというのであれば、両罰適用は実質的に二重処罰になる。(少なくとも、本件で代表者を処罰するのであれば、法人処罰は否定すべき)おそらく民事事件(特に差し止め請求)であれば、法人の責任を認めれば足りる(私見では、責任主体は会社であるべき)。

刑事事件の場合、法人の犯罪能力(否定)論ともかかわってくると思うのだが、かなり技巧的にならざるを得ず、ここまで拡張的にカラオケ法理を適用することは罪刑法定主義の観点から問題があるように思うのである。

前回、

 (ただし、記事からみえる本事例についてあてはめることについては不当とは思いません。)としたが、上記のようなわけで「本事例については不当」と改めたい。

 刑事事件については、罪刑法定主義という憲法上の要請が働く以上、カラオケ法理の適用については、より慎重であるべきように思う。もちろん上記私見によれば、法人経営の場合と個人経営の場合と不均衡と思えなくはない。しかし、そうであれば、むしろいずれも処罰を否定すべきであり、不都合は立法措置で補うべきであろう。

 ところで、上記判決の2日前、「464.jp」運営者に有罪判決 2006年05月17日 20時29分 更新

 人気漫画を違法ネット公開したとして著作権法違反の罪に問われていた「464.jp」運営者ら3人に対する判決公判が5月17日、福岡地裁であり、主犯格の東京都大田区のネット喫茶経営の男(52)を懲役2年執行猶予3年とするなど、それぞれ有罪判決が言い渡された。

(以下、略)

[ITmedia]

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0605/17/news112.html

という判決もあった。

この漫画喫茶事案が、典型的な刑事事案。もし、これが法人(に準ずるもの含む)なら、会社に両罰規定適用しうることになる。代表者、従業員ですら、利益帰属主体たる法人に犯罪を課すには両罰規定が必要なのである。もちろん、両罰規定は非自然人に刑罰を科すための規定であるといえば、それまでだが、価値判断としては、やはり不均衡さが残る。

まだまだ整理中なのだが、判決文が公表されれば、じっくり考えてみたい事件である。

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 次のような相談がサイトアップされている。(「Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…」)

 Qはじめまして。私は都市部のとある公立図書館で司書をしている公務員です。たまたま図書館と著作権についてヤフーで検索していたら、このブログのQ6を見つけたので、図書館の著作権問題について質問させていただきます。

公立図書館でコピーをする場合には著作権法31条によりある一定の条件でコピーをすることが例外的に認められているのは知っていますが、当館の利用者から図書の一部分(半分)しかコピーできないのにおかしい、コンビニでセルフコピーをしても全部分のコピーが認められるのに、時代遅れでお役所的な仕事であるとのクレームが多数ありました。

そこで考えに考えた末、図書館の図書・雑誌のコピーは利用者が個人的に使用する目的で行われるのであるから、著作権法30条1項による私的複製によるコピーということにしようと考えつきました。これだったら複写の量の制限はありません。当館はあくまでコピー機の場所貸しをしているだけという立場に立ち、コピーは利用者とコピー機業者の間の問題であると処理することにしました。

早速実施したところ、利用者からのコピーについてのクレームはなくなり、職員も利用者も万々歳という状況になりました。ところがそれから1年経ったころ、わが市のウェブサイトの「市民なんでも目安箱」に、当館で行っているコピーサービスは著作権侵害であり直ちにやめるべきであるとの意見が寄せられました。

この意見に対しては、コンビニでセルフコピー機を便利に使える時代になったのに、著作権法31条は図書館利用者の利便性を阻害する時代遅れのものであるため、来館者の声を反映させて著作権法30条による複写とみなし、時代に順応した措置を行った旨回答しました。

これに対して意見提出者から、コンビニでのコピーは100%持込み資料であるのに対して、図書館でのコピーは図書館資料を使うものであり、著作権侵害を助長する許されない行為であるとの再意見が出されました。

一方のクレーマーを処理したと思ったら、またクレーマーが出てきて苦慮しておりますが、この「目安箱」への意見提出者の言っていることは本当なのでしょうか。よろしく御教示ください。


イメージシティ事件判決(3)オーソドックスな判決だが適用範囲には疑問も

 前回,イメージシティ事件判決の考え方について検討しました。今回のこの判決については,IT業界の関係者からはかなり批判的な意見が多かったようです。裁判長のことを,ともすればおかしな判決を出す傾向があるかのような批判もありました。

 当然ながら,判決自体を批判することは自由であるべきだと思います。しかし,今回の判断が一裁判長の個性に基づく判断であるというのは少し的はずれです。IT業界の関係者が本判決の結論に違和感を感じることはよく分かるのですが,この判決で採用されている考え方は本判決で突然発生したものではありません。いままでの判例法理,あるいは最近の下級審判決の流れに沿ったものです。ある意味,オーソドックスな判決といっていいでしょう。

 ここでいう判例法理とは,いわゆる「カラオケ法理」と呼ばれるものです。この理論ですが,もともと,キャバレー,スナック等においての無許諾での演奏・上映について,スナック等の経営者を著作権侵害の主体ということができるのか,というものです。仮に,スナック等の経営者は著作権侵害の主体ではないということになれば,カラオケを歌っている客の歌唱自体は著作権侵害にあたらないため(注1),著作権侵害は成り立たないことになります。クラブ・キャッツアイという事件では,最高裁まで争われました。

 この点について,クラブ・キャッツアイ事件最高裁判決(注2)は,スナックの経営者を音楽著作物の利用主体として認めました。同最高裁判決は,物理的に演奏行為等を行っていなくとも,規範的な見地から利用主体を判断するという考え方をとり,(1)著作物の利用についての管理・支配の帰属,(2)著作物の利用による利益の帰属,の2点を総合的に判断するという判断の枠組みを採用しています。

 その後も,同様の考えに基づき下級審判決が積み重ねられました。クラブ・キャッツアイ事件はスナックでの歌唱行為の事案でしたが,その後,カラオケボックスの事案(注3)においても,このような考え方は踏襲されています。

 カラオケボックスの事案においては,「顧客は被告らの管理の下で歌唱し,被告らは顧客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからすれば,各部屋における顧客の歌唱による管理著作物の演奏についても,その主体は本件店舗の経営者である被告ら」であるとして,カラオケボックスの経営者が侵害の主体であると認定しています。また,その認定の中で「本件店舗に来店する顧客は不特定多数の者であるから,右の演奏及び上映は,公衆に直接聞かせ,見せることを目的とするものということができる」とも言っています。イメージシティ事件判決の「公衆」の認定と,同じ考え方であるといえるでしょう。

判例の積み重ねに忠実な予想された判決だった

 このように,カラオケに関連して判例は積み重ねられています。また,カラオケ以外にカラオケ法理が適用されたのは,イメージシティ事件判決が初めてではありません。既にいくつかの判決が,このような考えに基づいて出されています。

 まず,ピア・ツー・ピア方式による電子ファイル交換サービスの事案であるファイルローグ事件(注4)があります。中間判決では,ファイル交換サービスの提供者が送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害の主体であるかどうかについて,

i)同サービス提供者の行為の内容・性質
ii)利用者のする送信可能化状態に対する同サービス提供者の管理・支配の程度
iii)同サービス提供者の行為によって受ける同者の利益の状況

等を総合斟酌して判断すべきであるとした上で,サービス提供者を侵害の主体と認定しています。控訴審判決でも若干認定理由は異なりますが,同様の判断をしています。

 これ以外にも,サービス提供者がテレビチューナー付きのパソコンを設置して,インターネットを通じて利用者がテレビ録画を予約,視聴できるようにしたサービスに関する「録画ネット」事件(注5),録画ネットと同様のサービスをソニーが販売しているロケーションフリーテレビを使用して提供した「まねきTV」事件(注6),集合住宅向けのテレビ放送を対象としたハードディスクレコーダー・システムに関する「選撮見録」事件(注7)は,いずれも著作権侵害の主体が誰かという論点が問題となっています。

 なお,録画ネット事件とまねきTV事件は,結論は正反対になりました。録画ネット事件はサービス提供者側の敗訴,まねきTV事件はサービス提供者側の勝訴です。しかし判例法理に関しては,どちらも基本的にカラオケ法理に従っています。結果の違いは事実の“あてはめ”の違いに過ぎず,まねきTV事件の判決がカラオケ法理を採用していないわけではありません。

 従って,イメージシティ事件判決は,一裁判官(あるいは一合議体)の判断の問題ではなく,判例法理から導かれた結論であるということを押さえておく必要があります。これだけ判決例が積み重ねられていると,実務的には無視できない重みがあります。イメージシティ事件の判決は,このようなカラオケ法理に忠実な判決であり,本判決は予測された結論ということになるのでしょう。

 ただし,私自身はこの判例法理をIT関連サービスにそのまま適用することがよいのか(特に射程範囲)については,懐疑的です。IT系のサービスへのカラオケ法理の適用(拡張)については,批判的に検討すべき点もあるのではないかと思います。特に疑問に思っているのは,本判決のような考え方をとると,当該本人以外の人物による著作物利用を回避しようとして,個人認証をしっかりすればするほど,サービス提供者の積極的関与が認定され,著作権侵害の主体がサービス提供者であると認定されてしまう,というところです。

 複製権侵害の点については,分析的に見れば確かに複製は行われているわけですが,「果たしてその複製(あるいは,本事案のような形の送信)で著作権者が損害を被るのか?」というところが根本的な問題でしょう。通常のカラオケの場合には,まだしも著作権者の損害というのが想像しやすいのですが,本判決のような事案で「著作権者に何か損害があるか」と問われるとよく分かりません。

 著作権者に損害がなければ複製をしても構わないという理屈は,著作権法上認められているわけではありません(もちろん,私的利用の複製等は認められていますが,損害の有無と直接は関係しません)。しかし,個人が適法に取得したコンテンツをその当該個人が便利に利用する行為自体は,他人が関与する部分があったとしても許されても良いように思います。その意味でカラオケ法理の修正というものも考えられるべきではないかと思います。

(注1)著作権法38条1項により,営利を目的にしない上演,演奏,上映等は著作権者の許諾を得ないで,上演等を行うことができます。カラオケとして歌う場合には,聴衆からお金をもらうわけではないので,同38条1項が適用されることになります
(注2)最高裁昭和63年3月15日判決
(注3)東京地裁平成10年8月27日判決「カラオケボックス・ビッグエコー事件
(注4)東京地裁平成15年1月29日中間判決および東京高裁平成17年3月31日判決
(注5)知財高裁平成17年11月15日決定(著作隣接権侵害差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件)
(注6)原審:東京地裁平成18年8月4日決定および抗告審:知財高裁平成18年12月22日決定
(注7)大阪地裁平成17年10月24日判決および大阪高裁平成19年06月14日判決


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。



 



(私論.私見)