ジャスラックの映画音楽の上映使用料考

 更新日/2017(平成29).11.24日

【ジャスラックの映画音楽の上映使用料考】
JASRAC、映画音楽の上映使用料値上げ求める 洋画は「18万円」→「興収の1~2%」に」、「ASRACはなぜ洋画の音楽使用料を値上げしたいのか 映画音楽に何が起きた?」その他参照。
  2017.11.8日、東京・代々木上原の本部ビルを持つ日本音楽著作権協会(JASRAC)が、外国映画(洋画)を日本で上映する際、劇中音楽の著作権者らに支払われる使用料が「海外に比べて著しく低い」として、日本音楽著作権協会(JASRAC)が事実上の値上げを求めた。現在は「1作品当たり18万円」の定額制のところ、「適正な対価が還元されていない」と判断し「興行収入に応じた額」に変更するよう業界団体に求めている。JASRACの大橋健三常務理事は、「欧州各国に比べると、映画音楽の上映使用料徴収額が極端に少ない。内外格差を縮めたい。最終的には興業収入の1~2%の徴収にしたい」と話している。

 現在、海外映画の音楽の上映使用料は1985年以来「1作品当たり18万円」を配給業者がJASRACに支払っている。この額は、映画館運営事業者の業界団体・全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)との規定で決まっている。一方、日本映画は、1曲当たり「映画の録音使用料の5%×同時上映最大スクリーン数」という計算。これも配給業者がJASRACに支払っている。2014年、JASRACが徴収した上映使用料の額は約1億6657万円と、映画の総興行収入(約2000億円/邦画・洋画合計)の約0.08%。英国の1%やフランスの2%などと比べると極めて低く、「適正な対価が還元されていない」と判断した。

 JASRACは、日本と欧州とで2014年に支払われた映画音楽の使用料の総額を比較して、日本がいかに安いかを説明する。日本(邦画含む)/約1億6657万円仏/約22億7307万円(興行収入の2%)。伊/約17億848万円(同2・1%)。 独/約12億7332万円(同1・25%)。日本はドイツの12分の1、フランスの22分の1だ。なお、これら欧州3カ国の音楽使用料の算出方法は、国内と外国映画の違いはない。このため日本も邦画を含んだ金額になっている。

 「10年以上前から、欧州や米国の著作権管理団体から、徴収額を上げるよう強く言われている」(JASRACの大橋常務理事)など、海外の権利者からも値上げを求める声が寄せられているという。JASRACは6年前から、値上げについて全興連と協議してきた。全興連側は「これまでの状況との乖離が激しい」と反発しており妥協案を協議中。JASRACとしても「実情を見ながら段階的に着地点を目指したい」としており、急激な値上げは避け段階的な対応を検討している。全興連はITmedia NEWS取材の取材に対して「弁護士と相談して協議する」と述べるにとどめた。 またJASRACは、上映使用料の支払い者を、配給業者から劇場に変えていきたいという。「映画の上映主体は、配給事業者ではなく劇場。興行収入も劇場が把握している」(JASRACの江見浩一複製部長)ためだ。

 この18万円が興収の何%に当たるかを、記憶に新しい大ヒット米アニメ映画「アナと雪の女王」(2014年)で計算すると、「アナ雪」の日本での興収の総額は約255億円で音楽使用料は日本中で合わせて定額18万円だから、興収の0・0007%。2%前後の欧州の水準とは大きく異なる、というわけだ。「音楽は俳優に劣らないぐらい重要な役割を担っている。努力に見合う対価や適正な報酬が(作曲家、作詞家に)支払われなければならない」と話すJASRACは、1作品18万円の「定額制」を欧州同様、興収の1~2%程度の「従量制」に改める目標に掲げ、「関係団体と交渉する」としている。年度内に関係者団体から合意をとりつけ、文化庁への使用料規定の届け出を済ませ、来年度からは実施したい考えだ。

 外国作品の音楽の権利者は海外作家が多い。値上げが実現すればハリウッドの映画などに支払う上映使用料が大きく増えるとみられ、海外作品に提供している作家の取り分が増える一方で、日本の映画業界や映画ファンの支出が増えることにもつながり、日本にとっては“損”なようにも思える。この点について江見複製部長は、「外国映画でも、日本の作曲家が作品提供する例はあり、日本の作家からも問題だと指摘を受けている」と話す。また、「日本で大きな興業収入をあげている作品について、楽曲を提供した作家に大きな分配が行かなければどうなるか、長期的な目線で考える必要がある。ほかの国で使用料収入を得ているからいいと考えるか。興行収入に見合った対価はきちんと還元し、次の作品の提供につなげるべきと考えるかだ」と述べる。日本映画の場合は、最大上映スクリーン数に応じた額を徴収している上、楽曲が「買い切り」契約で提供されているケースも多いため外国映画とは状況が異なるという。ただ現状の徴収形態だと、ロングラン上映やリバイバル上映が行われた場合に追加の使用料が徴収できない点をJASRACは問題視しており、日本映画についても今後、「支払い者を配給業者から劇場に変えたい」、「興行収入に応じた徴収額にしたい」としている。

 ●「合理的」だが……福井健策弁護士の見解

 今回のJASRACの方針をどう評価するか。コンテンツの著作権に詳しい弁護士の福井健策さんに、見解を聞いた。

 ――JASRACが、外国映画で使われている音楽の上映使用料を、現在の定額(1作品当たり18万円)から、「興行収入の1~2%」に変更するよう、業界団体と協議しています。

 興行収入によるパーセンテージ制自体は合理的だと考えます。舞台やコンサート、放送、Webなど他の分野でも、収入比例の使用料が原則になっており、映画も同様にしたいという意図でしょう。 ただ、目標値にしている「興行収入の1~2%」が適正かは検討が必要でしょう。例えばコンサートの場合は「想定興行収入の5%」が原則。音楽が主役のため、音楽著作権だけで収入全体に対して5%程度の寄与度はある気もする一方、「ライブの平均利益率は低い」「赤字興行でも下げてくれる訳ではない」など、現場では反発の強い数字でもあります。

 映画の場合、脚本家や映像制作者など、権利者はコンサートよりも多くなります。放送の場合は、放送事業収入の1.5%です。これも議論はありましたが今では定着している。映画も同じ映像ビジネスだから、大体同率なら良いのか。それぞれのビジネスの経費率や寄与する権利者数などに基づいた議論が必要そうですね。また、長年続いたルールからの変更ですので、現場が混乱しないような段階的な導入が必要かと思います。

 ――外国映画の権利者に支払うべき上映使用料が増えると、日本にとって損なようにも思えます。JASRACはなぜ推進しようとしているのでしょうか?

 音楽の権利者団体は横のつながりが非常に強いので、欧米の団体の手前、集めたい部分もあるのでしょう。権利者団体の世界組織「CISAC」(JASRACも加盟)の有力メンバーは欧米各国というということもあり、JASRACは欧米の影響を受けやすいように見えます。

 私は、「欧米がそうならそれが世界標準であり、日本も追いつかないと」という意識は、著作権保護期間延長問題の根底にも大きく横たわっていたと思います。でも、前世紀の思考ですね。文化や情報社会のルールは、それぞれの実情に照らして各自が考えるべきです。日本の映画配給の多様性と規模なんて、全然引けを取っていないと思いますし。

 東京宣言

 JASRACは、なぜ、このタイミングで洋画の音楽使用料値上げの口火を切ったのか。JASRACの会見と同日、東京では「国際音楽創作者評議会」(CIAM)の総会が開かれた。世界中の著作権者で作るCIAMの総会がアジア・太平洋地域で開かれたのは、これが初めだったが、この総会後、CIAMとアジア・太平洋地域の著作権者で作る「アジア・太平洋地域音楽創作者連盟」(APMA)が共同で記者会見、APMAが「東京宣言」を発表した。この宣言は「アジア・太平洋の多くの国、地域においては、映画音楽の創作者に適正な対価還元がなされていない」と現状を憂えて、「映画の成功を音楽創作者も共に喜ぶにふさわしい上映使用料の還元がなされるべきである」と訴えるもので、実際、中国、タイ、インドなどでは映画の上映から音楽使用料を、まったく徴収できていないのだという。

 JASRACは、この東京宣言を受けて会見をした。だから、会見にはAPMA会長で、昭和歌謡のヒットメーカー、作曲家の都倉俊一さん(69)らも出席したし、音楽家らが寄せたコメントの内容も東京宣言に重なっている。たとえば、映画「ラストエンペラー」などの音楽を手がけたミュージシャンの坂本龍一さん(65)は「日本が、先進国ならびにアジアの中でリーダーシップを発揮し、クリエーターの経済的基盤を守るために尽くしてくださることを願って止みません」。映画「レッドクリフ」の音楽を担当した作曲家の岩代(いわしろ)太郎さん(52)も「日本が著作権管理業界における世界の先駆者として、これからの映画業界や音楽業界で、その存在感を広げ、知らしめてほしいと願うばかりです」。

 とうてい受け入れられない

 「確かに現状の18万円は、欧州と比べてかなり安い…」JASRACの会見を受けて、こう話すのは「外国映画輸入配給協会」(外配協)のある幹部だ。ここで、洋画配給会社の集まりである外配協が出てくるのは、実際に使用料を支払っているのが外配協だからだ。JASRACに支払っているのは全興連だ、と前述したが、厳密には「JASRACと洋画の音楽使用料について契約を結んでいる」のが全興連で、外配協が費用を捻出して全興連を通じてJASRACに支払っている。その外配協は、JASRACの指摘通り、日本の音楽使用料が欧州と比べて安いことは認める。が、「とはいえ…」と、その幹部は続ける。「JASRAC側の『興収の1~2%』という基準では、経営が成り立たない配給会社も出る。とうてい受け入れられない」

 外配協はJASRACの会見を受け11月18日に理事会を開き、次のような方針を確認した。(1)使用料の値上げはやむを得ない。(2)しかし、入場料に転嫁せざるを得ない値上げは受け入れられない。(3)JASRACとの交渉は全興連を通して行う。「興収の1~2%」は「交渉のための“ふっかけ”」だろう、と見て出てきた方針だという。いずれにしろ、外配協はJASRACと全興連の交渉の行方を見守る構えだ。 一方、JASRACは、上映スクリーン数などから算出している「邦画の音楽使用料」も、「このままで良いとは思っていない」と言及している。(文化部 竹中文、高橋天地)

 一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)

 1939年設立。作詞者、作曲者、音楽出版者などから権利を委託された楽曲(管理楽曲)の著作権管理業務を行っている。管理楽曲を演奏、放送、録音、ネット配信などで利用する際、利用者はJASRACに使用料を支払う。JASRACは、これを定期的に権利者らに分配する。ことし2月には音楽教室から使用料を徴収する方針を表明。6月には教室を運営する音楽事業者が、JASRACに徴収する権限がないことの確認を求めて訴えを起こした。なお、洋画上映における音楽使用料徴収は1964年に一律5万円で始まった。







(私論.私見)