第一篇/国帝(*第一篇 四一条のうち三〇条まで省略) |
第一章/帝位相続 |
第二章/摂政官 |
第三章/国帝権理 |
31 |
法司を訴告する者あるときは国帝之を聴き、なお参議院の意見を問ふて後に之を停職することを得。 |
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32 |
国帝は国会を催促徴喚し、及び之を集開終閉し、又之を延期す。 |
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33 |
国帝は国益の為に須要とする時は会期の暇時に於て臨時に国会を召集することを得。 |
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34 |
国帝は法律の議案を国会に出し、及びその他自ら適宜と思量する起議を国会に下附す。 |
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35 |
国帝は国会に議せす特権を以て決定し、外国との諸般の国約を為す。但し、国家の鞏保と国民に密附の関係(通商貿易の条約)をなすことに基ひする者、又は国財を費し、もしくは国境所属地の局部を譲与変改するの条約、及びその修正は国会の承諾を得るにあらざれば、その効力を有せず。
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36 |
国帝は開戦を宣し、和議を講し、及びその他の交際修好同盟等の条約を準定す。但し、即時に之を国会の両院に通知すべし。且つ国家の利益安寧と相密接すと思量するところの者を同く之を国会の両院に通照す。 |
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37 |
国帝は外国事務を総摂す。外国派遣の使節諸公使、及び領事を任免す。 |
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39 |
国帝は国会の定案、及判決を勅許制可し之に鈴印し、及び総て立法全権に属するところの職務につき最終の裁決を為し之に法律の力を与へて公布すべし。 |
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40 |
国帝は外国の兵隊の日本国に入ることを許すこと、又太子の為めに王位を辞することとの二条につては特別の法律により国会の承認を受けされば、その効力を有せず。
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41 |
国帝は国安の為に須要する時機に於ては同時、又別々に国会の両院を停止解散するの権を有す。但し、該解散の布告と同時に四十日内に新議員を選挙し、及び二ヶ月内に該議院の召集を命ずべし。
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第二篇/公法(36条) |
第一章 国民の権理 |
42 |
左に掲ぐる者を日本国民とす。 一、凡そ日本国内に生るる者。二、日本国外に生るるとも日本国人を父母とする子女。三、帰化の許状を得たる外国人。但し帰化の外国人が享有すべきその権利は法律別に之を定む。
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43 |
左に掲ぐる者は政権の受用を停閣す。 一、外形の無能(廃疾の類)、心性の無能(狂癲白痴の類)。二、禁獄もしくは配流の審判。但し、期満れば政権剥奪の禁を解く。 |
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44 |
左に掲ぐる者は日本国民の権利を失ふ。 一、外国に帰化し外国の籍に入るもの。二、日本国帝の允許を経ずて外国政府より官職爵位称号もしくは恩賜金を受くる者。
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45 |
日本国民は各自の権利自由を達すべし。他より妨害すべらず。且つ国法之を保護すぺし。 |
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(解説)自由権の規定であり、現行憲法と同じ視点に立っている。 |
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46 |
日本国民は国憲許すところの財産智識ある者は国事政務に参与し。これが可否の発言を為し、之を議するの権を有す。 |
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(解説) |
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47 |
凡そ日本国民は族籍位階の別を問はず、法律上の前に対しては平等の権利たるべし。 |
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(解説) |
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48 |
凡そ日本国民は日本全国に於て同一の法典を準用し、同一の保護を受くべし。地方、及び門閥、もしくは一人一族に与ふるの時(特)権あることなし。 |
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(解説)平等権の規定、その後発生した華族制度を見抜いた警世の条文である |
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49 |
凡そ日本国に在居する人民は、内外国人を論せず、その身体生命財産名誉を保固す。 |
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(解説) |
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50 |
法律の条規は、その効を既往に及ぼすことあるべからず。 |
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(解説) |
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51 |
凡そ日本国民は法律を遵守するに於ては万事につき、予め検閲を受くることなく、自由にその思想意見論説図絵を著述し、之を出板頒行し、或いは公衆に対し講談討論演説し、以て之を公にすることを得べし。但し、その弊害を抑制するに須要なる処分を定めたるの法律に対しては、その責罰を受任すべし。 |
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(解説)思想信条表現の自由権。 |
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52 |
凡そ思想自由の権を受用するにより、犯す所の罪あるときは法律に定めたる時機並に程式に循拠して、その責を受くべし。著刻犯の軽重を定むるは法律に定めたる特例を除くの外は、陪審官之を行ふ。 |
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(解説)陪審官制。 |
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53 |
凡そ日本国民は法律に拠るの外に、或いは強いて之を為さしめられ、或いは強いて之を止めしめらるる等のことあるべからず。 |
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(解説)刑罰の法治主義。 |
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54 |
凡そ日本国民は集会の性質、或る数人連著、或いは一個人の資格を以てするも、法律に定めたる程式に循拠し、皇帝国会、及び何れのガ(ママ)門にむけても直接に奏呈請願、又上書建白するを得るの権を有す。但し該件に因て牢獄に囚附せられ、或いは刑罰に処せらるることあるべからす。もし政府の処置に関し、又国民相互の事に関し、その他何にても自己の意に無理と思考することあれば、皇帝国会何れの衛門に向ても上書建白請願することを得べし。
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(解説) |
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55 |
凡そ日本国民は華士族平民を論ぜず、その才徳器能に応し国家の文武官僚に拝就する同等の権利を有す。 |
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(解説)公務員登用の同等権。 |
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56 |
凡そ日本国民は何宗教たるを論ぜず、之を信仰するは各人の自由に任す。然れども政府は何時にても国安を保し、及び各宗派の間に平和を保存するに応当なる処分を為すことを得。 但し、国家の法律中に宗旨の性質を負はしむるものは国憲にあらざるものとす。 |
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(解説)信教の自由。 |
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57 |
凡そ何れの労作工業農耕と雖ども、行儀風俗に戻り国民の安寧若くは健康を傷害するに非れば之を禁制することなし。 |
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(解説)過剰禁制の禁止。 |
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57 |
凡そ日本国民は結社集会の目的、もしくはその会社の使用する方法に於て国禁を犯し、もしくは国難を醸すべきの状なく、又戎器を携ふるに非ずして、平穏に結社集会するの権を有す。但し、法律は結社集会の弊害を抑制するに須要なる処分を定む。 |
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(解説)平穏な結社集会権。 |
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59 |
凡そ日本国民の信書の秘密を侵すことを得ず。その信書を勾収するは現在の法律に依り法に適したる拿捕、又は探索の場合を除くの外、戦時もしくは法衛の断案に拠に非れば、之を行ふことを得ず。
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(解説)信書の秘密不可侵権。 |
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60 |
凡そ日本国民は法律に定めたる時機に際し法律に定示せる規程に循拠するにあらざれば、之を拘引、招喚囚捕、禁獄、或いは強いてそ住屋戸鎖を打開することを得ず。 |
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(解説)令状なければ拘引不可権。 |
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61 |
凡そ日本国民各自の住居は全国中何方にても、その人の自由なるべし。而して他より之を侵すべからず。もし家主の承允なく、あるいは家内より招き呼ぶことなく、又火災水災等を防御する為に非ずして、夜間人家に侵し入ることを得ず。 |
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(解説)居住の自由権、侵入禁止権。 |
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62 |
凡そ日本国民は財産所有の権を保固にす。如何なる場合と雖ども財産を没収せらるることなし。公規に依り、その公益たるを証するも、仍ほ時に応ずる至当なる前価の賠償を得るの後に非ざれは、之が財産を買上らるることなかるべし。
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(解説)財産所有権。 |
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63 |
凡そ日本国民は国会に於て決定し、国帝の許可あるにあらざれば、決して租税を賦課せらるることなかるべし。 |
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(解説)国会式租税賦課権。 |
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64 |
凡そ日本国民は当該の裁判官、もしくは裁判所にあらざざれば、縦令規程の刑法により、又その法律に依て定むる所の規程に循ふも、之を糺治裁審することを得ず。
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(解説)法治処罰権。 |
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65 |
法律の正条に明示せる所に非ざれば甲乙の別を論ぜず。拘引逮捕糺弾処刑を被ることなし。且つ一たび処断を得たる事件に付き、再次の糺弾を受くべからず。
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(解説)法治処罰権、同一事案再処罰不能権。 |
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66 |
凡そ日本国民は法律に掲ぐる場合を除くの外、之を拿捕することを得ず。又拿捕する場合に於ては裁判官自ら署名したる文書を以てその理由と劾告者と証人の名を被告者に告知すべし。
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(解説)罪刑法定主義、法治拿捕権。 |
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67 |
総て拿捕したる者は二十四時間内に裁判官の前に出すことを要す。拿捕したる者を直に放逐すること能はざるときに於ては、裁判官より、その理由を明記した〔る〕宣告状を以て該犯を禁錮すべし。右の宣告は力〔めて〕所能的迅速を要し、遅くも三日間内に之を行ふべし。但し、裁判官の居住と相隣接する府邑村落の地に於て拿捕するときは、その時より二十四時間内に之を告知すべし。もし裁判官の居住より遠隔する地に於て拿捕するとき〔は〕、その距離遠近に準じ法律に定めたる当応の期限内に之を告知すべし。
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(解説)。 |
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68 |
右の宣告状を受けたる者の求に因り裁判官の宣告したる事件を遅滞なく控訴し、又上告することを得べし。 |
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(解説)。 |
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69 |
一般犯罪の場合に於て法律に定むる所の保釈を受くるの権を有す。 |
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(解説)。(※これは日本国憲法にも書いていない) |
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70 |
何人も正当の裁判官より阻隔せら〔る〕ることなし。是故に臨時裁判所を設立することを得べからず。 |
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(解説)。 |
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71 |
国事犯の為に死刑を宣告さるることなかるべし。 |
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(解説)「国事犯」(「政治犯」)死刑不適用権。政治的信条に基づいて犯罪を犯した者には、破廉恥罪を犯した者とは異なり、それなりの「敬意」をもった処遇を行うのが相応しいとしている。後の「大逆事件」や治安維持法に基づく思想弾圧の歴史を振り返れば、鋭い指摘だったことになる。 |
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72 |
凡そ法に違ふて命令し、また放免を怠りたる拿捕は政府より、その損害を被りたる者に償金を払ふべし。 |
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(解説)国家責任賠償権。 |
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73 |
凡そ日本国民は何人に論なく法式の徴募に〔あた〕り、兵器を擁して海陸の軍伍に入り、日本国の為に防護す可し。 |
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(解説)自由徴兵制権。 |
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74 |
又その所有財産に比率して国家の負任〔公費租税〕を助くるの責を免るべからず。皇族と雖ども税を除免せらるること得べからず。 |
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(解説)納税義務権。 |
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75 |
国債公費は一般の国民たる者負担の責を免るべからず。 |
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(解説)国債公費負担義務。 |
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76 |
子弟の教育に於て、その学科及び教授は自由なるものとす。然れども子弟小学の教育は父兄たる者の免るべからざる責任とす。 |
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(解説)教育権と義務教育権。 |
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77 |
府県令は特別の国法を以てその綱領を制定せらるべし。府県の自治は各地の風俗習例に因る者なるが故に、必らず之に干渉妨害すべからず。その権域は国会と雖ども之を侵すべからざるものとす。 |
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(解説)地方自治権。中央集権に懸命であった明治政府にはまったく考えられない条文である。地方の 自治は国会の権限をも凌駕するというもの。アメリカの州と連邦政府との関係に近い。 |
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第三篇 立法権 (*第三篇 79条) |
第一章 民撰議院 |
78 |
民撰議院は選挙会法律に依り定めたる規程に循ひ、撰挙に於て直接投籤法を以て単撰したる代民議院を以て成る。但し、人口二〇万人に付一員を出すべし。
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(解説)。 |
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79 |
代民議員の任期三ヶ年とし、二ヶ年毎に其半数を改撰すべし。但し、幾任期も重撰せらるることを得。 |
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(解説)。 |
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80 |
日本国民にして俗籍に入り(神官僧侶教導職耶蘇宣教師に非る者にして)、政権民権を享有する満三十歳以上の男子にして、定額の財産を所有し、私有地より生ずる歳入あることを証明し、撰挙法に定めたる金額の直税を納るる文武の常職を帯びざる者は、撰挙法に遵ひて議員に撰挙せらるるを得。 |
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(解説)。 |
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81 |
凡そここに掲げたる分限と要款とを備具する日本国民は、被撰挙人の半数はその区内に限り、その他の半数は何れの県の区にも通して選任せらるることを得。
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(解説)。 |
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82 |
代民議員は(撰挙せられたる地方の総代に非ず)日本全国民の総代人なり。故に撰挙人の教令を受く るを要せず。 |
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(解説)。 |
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83 |
婦女・未成年者・治産の禁を受けたる者・白痴瘋癲の者・住居なくして人の奴僕雇傭たる者・政府の助成金を受くる者・及常事犯罪を以て徒刑一ヶ年以上実決の刑に処せられたる者・又稟告されたる失踪人は、代民議員の選挙人たることを得ず。
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(解説)。 |
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84 |
民撰議員は日本帝国の財政(租税国債)に関する方案を起草するの特権を有す。 |
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(解説)。 |
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85 |
民撰議院は往時の施政上の検査、及施政上の弊害の改正を為すの権を有す。 |
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(解説)。 |
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86 |
民撰議院は行政官より出せる起議を討論し、又国帝の起議を改竄するの権を有す。 |
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(解説)国会の天皇に対する優越を明確にした条文である。五日市憲法は体裁上は君主主権を認めながら、 運用面で君権と民権と競合した場合、民権にくみする憲法であった。
(国会の天皇に対する優越)。 |
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87 |
民撰議院は緊要なる調査に関し、官吏並に人民を召喚するの権を有す。 |
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(解説)。 |
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88 |
民撰議院は政事上の非違ありと認めたる官吏(執政官 参議官)を上院に提喚弾劾する特権を有す。 |
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(解説)。 |
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89 |
民撰議院は議院の身上に関し左の事項を処断するの権を有す。一、議員民撰議院の命令規則若は特権に違背する者。二、議員撰挙に関する訴訟。 |
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(解説)。 |
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90 |
民撰議院は其正副議長を議員中より撰挙して国帝の制可を請ふべし。 |
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(解説)。 |
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91 |
民撰議院の議員は院中に於て為したる討論演説の為に裁判に訴告を受くることなし。 |
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(解説)。 |
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92 |
代民議員は会期中及会期前後二十日間、民事訴訟を受くることあるも答弁するを要せず。但し民撰議院の承認を得るときはこの限りにあらず。 |
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(解説)。 |
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93 |
民撰議院の代民議員は現行犯罪に非れば、下院の前許承認を得ずして、会期中及会期の前後二十日間、拘留・囚捕・審判せらるることなし。 但し現行犯罪の場合に於ても拘致囚捕、或は会期を閉つるの後糺治又囚捕するに於ても、即時至急に
裁判所より代民議員を拿捕せしことを民撰議院に通知し、該院をして其件を照査して之を処分せしむべし。 |
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(解説)。 |
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94 |
民撰議院は請求して会期中及会期の前後廿日間、議員の治罪拘引を停止せしむるの権を有す。 |
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(解説)。 |
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95 |
民撰議院の議長は院中の官員(書記等其他)を任免するの権あり。 |
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(解説)。 |
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96 |
代民議員は会期の間旧議員任期の最終会議に定めたる金給を受くべし。又特別の決議を以て往返の旅費を受くべし。 |
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(解説)。 |
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第二章 元老議院 |
97 |
元老院は国帝の特権を以て命する所の議官四十名を以て成る。但し、民撰議院の議員を兼任するを得ず。 |
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(解説)。 |
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98 |
満三十五歳以上にして左の部に列する性格を具ふる日本人に限り、元老院の議官たることを得べし。
一 民撰議院の議長
二 民撰議院に撰ばれたること三回に及べる者
三 執政官諸省卿
四 参議官
五 三等官以上に任ぜられし者
六 日本国の皇族華族
七 海陸軍の大中少将
八 特命全権大使及公使
九 大審院上等裁判所の議長及裁判官又其大検事
十 地方長官
十一 勲功ある者及材徳輿望ある者 |
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(解説)。 |
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99 |
元老院の議官は国帝の特命に因りて議員中より之を任ず。 |
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(解説)。 |
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100 |
元老院の議官は終身在職する者とす。 |
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(解説)。 |
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101 |
元老院の議官は一ヶ年三万円に過ぎざる一身俸給を得べし。 |
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(解説)。 |
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102 |
皇太子及太子の男子は満二十五歳に至り文武の常職を帯びさる者は、元老院の議官に任すること〔を〕得。 |
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(解説)。 |
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103 |
諸租税の賦課を許諾することは、先づ民撰議院に於て之を取り扱ひ、元老院はただその事ある毎に民撰議院の議決案を覆議して、之を決定するか、もしくは抛棄するかの外に出でず。決して之を変改することを得べからず。
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(解説)。 |
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104 |
元老院の編制及び権利に関する法律は、先づ之を元老院に持出さざるを得ず。民撰議院は唯之を採用するか、棄擲するに過ぎず。決して之を刪添すべからず。 |
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(解説)。 |
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105 |
元老院は立法権を受用するの外左の三件を掌どる。
一、民撰議院より提出劾告せられたる執政大臣諸官吏の行政上の不当の事を審糺裁判す。その劾告手続は法律別に之を定む。
二、国帝身体若くは権威に対し、又は国安に対する重罪犯を法律に定めたる所に循ひ裁判す。
三、法律に定めたる時機に際し、及びその定めたる規程に循ひ元老院議官を裁判す。 |
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(解説)。 |
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106 |
元老院議官は、その現行犯罪に由りて拘捕せらるる時、又は元老院の集会せざるときの外、予め元老院の決定承認を経すして、之を糺治し又は拘致囚捕せらるることなし。
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(解説)。 |
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107 |
何れの場合たるを論ぜず、議官を糺治し、もしくは囚捕する時は、至急に之を元老院に報知し、以て該院権限の処を為さしむ。 |
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(解説)。 |
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第三章 国会の職権 |
108 |
国家永続の秩序を確定、国家の憲法を議定し、之を添刪更改し、千載不抜の三大制度を興廃する事を 司る。 |
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(解説)。 |
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109 |
国会は国帝及び立法権を有する元老院、民撰議院を以て成る。 |
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(解説)。 |
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110 |
国会は総て公行し、公衆の傍聴を許す。 但し国益のため、或いは特異の時機に際し、秘密会議を開くことを要すべきに於ては、議員十人以上の求めに因て各院の議長傍聴を禁止するを得。
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(解説)。 |
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111 |
国会は総て日本国民を代理する者にして、国帝の制可を須つの外、総て法律を起草し、之を制定する の立法権を有す。 |
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(解説)。 |
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112 |
国会は政府に於て、もし憲法、或いは宗教、或いは道徳、或いは信教自由、或いは各人の自由、或いは法律上に於て、諸民平等の遵奉財産所有権、或いは原則に違背し、或いは邦国の防御を傷害するが如きことあれば、勉めて之が反対説を主張し、之が根元に遡り、その公布を拒絶するの権を有す。
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(解説)。 |
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113 |
国会の一部に於て否拒したる法案は、同時の集会に於て再び提出するを得ず。 |
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(解説)。 |
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114 |
国会は公法及私法を製定す可し。即ち国家至要の建国制度、及根原法一般の私法、及び民事訴訟法・ 海上法・礦坑法・山林法・刑法・治罪法・庶租税の徴収、及国財を料理するの原則を議定し、兵役の義務に関する原則・国財の歳出入予算表を規定す。 |
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(解説)。 |
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115 |
国会は租税賦課の認許権、及び工部に関して取立たる金額使用方を決し、又国債を募り、国家の信任 (紙幣公債証書発行)を使用するの認許権を有す。
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(解説)。 |
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116 |
国会は租税全局(法律規則に違背せしか、処置その宜しきを得ざるや)を監督するの権を有す。 |
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(解説)。 |
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117 |
国会議する所の法案はその討議の際に於て、国帝之を中止し、もしくは禁止することを得ず。 |
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(解説)。 |
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118 |
国会(両院)共に規則を設け其院事を処置するの権を有す。 |
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(解説)。 |
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119 |
国会は其議決に依りて憲法の欠典を補充するの権、総て憲法に違背の所業は之を矯正するの権、新法律及び憲法変更の発議の権を有す。 |
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(解説)。 |
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120 |
国会は全国民の為に法律の主旨を釈明すべし。 |
|
(解説)。 |
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121 |
国会は国帝・太子・摂政官もしくは摂政をして、国憲及法律を遵守するの宣誓詞を宣へしむ。 |
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(解説)。 |
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122 |
国会は国憲に掲げたる時機に於て、摂政を撰挙し其権域を〔指〕定し、未成年なる国帝の太保を任命す。 |
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(解説)。 |
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123 |
国会は民撰議院より論劾せられて元老院の裁判を受けたる執政の責罰を実行す。 |
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(解説)。 |
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124 |
国会は内外の国債を募り起し、国土の領地を典売し、或いは彊域を変更し、府県を発立分合し、その他の行政企画を決定するの権を有す。 |
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(解説)。 |
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125 |
国会は国家総歳入出を計算したる(予算表)を検視の上、同意の時は之を認許す。 |
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(解説)。 |
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126 |
国会は国事の為めに緊要なる時機に際し、政府の請に応し議員に該特務を許認指定す。 |
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(解説)。 |
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127 |
国会は国帝没(ママ)するときは、もしくは帝位を空ふするとき、既往の施政を検査し、及び施政上の弊害を改正す。 |
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(解説)。 |
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128 |
国会は帝国若くは港内に外国海陸軍兵の侵入を允否す。 |
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(解説)。 |
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129 |
国会は毎歳政府の起議に因り、平時若くは臨時海陸軍兵を限定す。 |
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(解説)。 |
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130 |
国会は内外国債を還償するに適宜なる方法を議定す。 |
|
(解説)。 |
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131 |
国会は帝国に法律を施行するために必要なる行政の規則と行政の設立、及びその不全備を補ふ法を決定す。 |
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(解説)。 |
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132 |
国会は政府官僚及びその俸給を改正設定し、もしくは之を廃止す。 |
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(解説)。 |
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133 |
国会は貨幣の斤量・価格・銘誌・模画・名称、及び度量衡の原位を定む。 |
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(解説)。 |
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135 |
国会は兵役義務執行の方法、及びその規則と期限とに関する事、就中毎歳召募すべき徴兵員数の定数、及び予備馬匹の賦課、兵士の糧食屯営の総則に関する事を議定す。
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(解説)。 |
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136 |
政府の歳計予算表の規則、及び諸租税賦課の毎歳決議、政府の決算表並びに会計管理成跡の検査、新公債証券の発出、政府旧債の変更、官地の売易貸与、専売並びに特権の法律、総て全国に通する会計諸般の事務を決定す。
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(解説)。 |
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137 |
金銀銅貨及び銀行証券の発出に関する事務の規則、税関・貿易・電線・駅逓・鉄道・航運の事、その他全国通運の方法を議定す。 |
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(解説)。 |
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138 |
証券の銀行、工業の特準、度量衡製造の模型・記印の保護の法律を決定す。 |
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(解説)。 |
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139 |
医薬の法律、及び伝染病・家畜疫疾防護の法律を定む。 |
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(解説)。 |
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第四章 国会開閉 |
140 |
国会は両議院共に必ず勅命を以て毎歳同時に之を開くべし。 |
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(解説)。 |
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141 |
国帝は国安の為に須要とする時機に於ては、両議員の議決を不認可し、その議会を中止し、紛議するに当りては、その議員(ママ)に解散を命するの権を有す。然れどもこの場合に当りては必らず四十日内に新議員を撰挙せしめ、二ヶ月間内に之を召集して再開すべし。 |
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(解説)。 |
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142 |
国帝崩して国会の召集期に至るも尚ほ之を召集する者無き時は、国会自ら参集して開会することを得。 |
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(解説)。 |
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143 |
国会は国帝の崩御に遭ふも、嗣帝より解散の命ある迄は解散せず。定期の会議を続くることを得。 |
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(解説)。 |
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144 |
国会の閉期に当りて、次期の国会未だ開かざるの間に国帝崩御することあるときは、議員自ら参集して国会を開くことを得。もし嗣帝より解散の命あるに非ざれば定期の会議を続くることを得。
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(解説)。 |
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145 |
議員の撰挙既に畢り未だ国会を開かざるの間に於て、国帝の崩御に遭ふてなお之を開く者なきときは、その議員自ら参集して之を開くことを得。もし嗣帝より解散の命あるに非ざれば定期の会議を続くることを得。
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(解説)。 |
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146 |
国会の議員その年限既に尽きて次期の議員未だ撰挙せられざる間に、国帝崩御するときは、前期の議員集会して一期の会を開くことを得。 |
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(解説)。 |
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147 |
各議院の集会は同時にすべし。もしその一院集会して他の一院集会せざるときは国会の権利を有せず。但し、糾弾裁判の為〔に〕元老院を開くはその法庭の資格たるを以てこの限りにあらず。
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(解説)。 |
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148 |
各議院議員の出席過半数に至らざれば会議を開くことを得ず。 |
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(解説)。 |
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第五章 国憲改正 |
149 |
国の憲法を改正するは特別会議に於てすべし。 |
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(解説)。 |
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150 |
両議院の議員三分の二の議決を経て国帝之を允可するにあらざれば、特別会を召集することを得す。特別会議員の召集及撰挙の方法は都て国会に同じ。 |
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(解説)。 |
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151 |
特別会を召集するときは民撰議院は解散するものとす。 |
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(解説)。 |
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152 |
特別会は元老院の議員及国憲改正の為に特に撰挙せられたる人民の代民議員より成る。 |
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(解説)。 |
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153 |
特別に撰挙せられたる代民議員三分の二以上、及び元老院議員三分二以上の議決を経て国帝之を允可するにあらざれば、憲法を改正することを得ず。 |
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(解説)。 |
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154 |
その特に召集を要する事務畢るときは、特別会自ら解散するものとす。 |
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(解説)。 |
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155 |
特別会解散するときは、前に召集せられたる国会は定期の職務に復すべし。 |
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(解説)。 |
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156 |
憲法にあらざる総ての法律は両議院出席の議員過半数を以て之を決定す。 |
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(解説)。 |
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第四篇 (*第四篇 13条) |
第一章 行政権 |
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158 |
行政官は太政大臣、各省長官を以て成る。 |
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(解説)。 |
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159 |
行政官は合して内閣を成し、以て政務を議し、分れて諸省長官と為り、以て当該の事務を理す。 |
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(解説)。 |
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160 |
諸般の布告は太政大臣の名を署し、当該の諸省長官之に副署す。 |
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(解説)。 |
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161 |
大政大臣は大蔵卿を兼任すべし。 |
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(解説)。 |
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162 |
大政大臣は国帝に奏し、内務以下諸省の長官を任免するの権あり。 |
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(解説)。 |
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163 |
諸省長官の序次左の如し。 大蔵卿 内務卿 外務卿 司法卿 陸軍卿 海軍卿 工部卿 宮内卿 開拓卿 教部卿 文部卿 農商務卿 |
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(解説)。 |
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164 |
行政官は国帝の欽命を奉して政務を執行するものとす。 |
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(解説)。 |
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165 |
行政官は執行するところの政務に関し、議院に対してその責に任するものとす。もしその政務につき議員の信を失する時はその職を辞すべし。 |
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(解説)。 |
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166 |
行政官は諸般の法案を草し、議院に提出するを得。 |
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(解説)。 |
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167 |
行政官は両議院の議員を兼任するを得。 |
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(解説)。 |
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168 |
行政官は毎歳国費に関する議案を草し、之を議院の議に付すべし。 |
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(解説)。 |
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169 |
行政官は毎歳国費決算書を製し、之を議院に報告すべし。 |
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(解説)。 |
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第五篇 (*第五篇 35条) |
第一章 司法権 |
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171 |
司法権は不羈独立にして、法典に定むる時機に際し、及ひ之を定むる規定に循ひ、民事並に刑事を審理するの裁判官・判事及陪審官、之を執行す。 |
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(解説)。 |
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172 |
大審院上等裁判(所)下等裁判所等を置く。 |
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(解説)。 |
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173 |
民法・商法・刑法・訴訟法・治罪法・山林法、及び司法官の構成は全国に於て同均とす。 |
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(解説)。 |
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174 |
上等裁判所・下等裁判所の数、並びにその種類・各裁判所の構成・権任・その権任を執行すへき方法、及び裁判官に属すべき権理等は、法律之を定む。 |
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(解説)。 |
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175 |
私有権及該権より生したる権理・負債、その他凡そ民権に管する訴訟を審理するは、特に司法権に属す。 |
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(解説)。 |
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176 |
裁判所は上等下等に論なく廃改することを得ず。又其構制は法律に由るに非ざれば変更すべからず。 |
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(解説)。 |
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177 |
凡そ裁判官は国帝より任し、その判事は終身その職に任じ、陪審官は訴件事実を決判し、裁判官は法律を準擬し、諸裁判の所長の名を以て之を決行宣告す。 |
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(解説)。 |
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178 |
軍裁判所を除くの外は、国帝の任したる裁判官の三年間在職したる者は法律に定めたる場合の外は、復之を転黜することを得ず。 |
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(解説)。 |
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179 |
凡そ裁判官法律に違犯〔すること〕あるときは各自その責に任ず。 |
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(解説)。 |
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180 |
凡そ裁判官は自ら決行せらるべき罪犯の審判あるときを以てするの外、有期もしくは無期の時間その職を〔一字不明〕はるることなし。又司法官の決裁(裁判所議長もしくは上等裁判所の決裁等を云ふ)を以てせらるるか、又は充分の緒由ありて国帝の令を下し、且つ憑拠を帯びて罪状ある裁判官を当該の裁判所に訴告する時の外は、裁判官の職を停止することを得ず。 |
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(解説)。 |
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181 |
軍事裁判及び護卿兵裁判亦法律を以て之を定む。 |
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(解説)。 |
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182 |
租税に関する争訟及違令の裁判も同く法律を以て之を定む。 |
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(解説)。 |
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183 |
法律に定めたる場合を除くの外、審判を行ふがために例外非常の法ガ(*)を設くることを得ず。如何なる場合たりとも臨時もしくは特別の裁判所を開き、臨時もしくは特別の糺問掛りを組立、裁判官を命じて聴訟断罪のことを行はしむべからず。 |
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(解説)。 |
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184 |
現行犯罪を除くの外は、当該部署官より発出したる命令書に依るに非ずして、拿捕することを得ず。もし縦ままに拿捕することあれば、之を命令じたる裁判官及び之を請求したる者を法律に掲ぐる所の刑に処すべし。
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(解説)。 |
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185 |
罰金及禁錮の刑に問ふべき罪犯は勾留することを得ず。 |
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(解説)。 |
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186 |
裁判官は管轄内の訟獄を聴断せすして、之を他の裁判所に移すことを得ず。是故を以て特別なる裁判所及び専務の員を設くることを得ず。 |
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(解説)。 |
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187 |
何人もその志意に悖ひ、法律を以て定めたる正当判司・裁判官より阻隔せらるることなし。是故を以て臨時裁判所を設立することを得ず。 |
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(解説)。 |
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188 |
民事刑事に於て法律を施行するの権は、特に上下等裁判所に属す。然れども上下等裁判所は審判及び審決の決行を看守するの外、他の職掌を行ふことを得ず。
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(解説)。 |
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189 |
刑事に於ては証人を推問し、その他凡て劾告の後に係る訴訟手続の件は公行すべし。 |
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(解説)。 |
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190 |
法律は行政権と司法権との間に生ずることを得べき権限抵〔触〕の裁判を規定す。 |
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(解説)。 |
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191 |
司法権は法律に定むる特例を除き、亦政権に管する争訟を審理す。 |
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(解説)。 |
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192 |
民事・刑事となる裁判所の訟庭は(法律に由て定めたる場合を除くの外は)法律に於て定むる所の規程に循ひ、必ず之を公行すべし。但し、国安及び風紀に関するに因り、法律を以て定めたる特例はこの限りにあらず。 |
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(解説)。 |
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193 |
凡そ裁判はその理由を説明し、訟庭を開いてこれを宣告すべし。刑事の裁判はその処断の拠憑する法律の条目掲録すべし。 |
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(解説)。 |
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194 |
国事犯の為に死刑を宣告すべからず。又その罪の事実は陪審官之を定むべし。
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(解説)国事犯、政治犯を死刑にしないという保護規定を設けている。
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195 |
凡そ著述出版の犯罪の軽重を定むるは、法律に定めたる特例の外は陪審官之を行ふ。 |
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(解説)。 |
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196 |
凡そ法律を以て定めたる重罪は陪審官その罪を決す。 |
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(解説)。 |
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197 |
法律に定めたる場合を除くの外は、何人を論ぜず拿捕の理由を掲示する判司の命令に由るに非れば、囚捕すべからず。 |
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(解説)。 |
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198 |
法律は判司の命令の規式、及罪人の糺弾に従事すべき期限を定む。 |
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(解説)。 |
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199 |
何人を論ぜず法律に由てその職任ありと定めたる権を以てし、及び法律に指定したる規程に於てするの外は、家主の意志に違ひて家屋に侵入することを得ず。
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(解説)。 |
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200 |
如何なる罪科ありとも犯罪者の財産を没収すべからず。 |
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(解説)。 |
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201 |
駅郵若くは其他送運を掌る局舎に託する信書の秘密は、法律に由り定めたる場合に於て判司より 特殊の免許あるときを除くの外は、必ず之を侵入すべからず。
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(解説)。 |
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202 |
保塞(ママ)の建営・土堤の築作修補のためにし、及び伝染病その他緊急の情景に際し、前文に掲ぐる公布を必需とせざるべき時は、一般に法律を以て之を定む。
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(解説)。 |
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203 |
法律は予め公益の故を以て没収を要することを公布すべし。 |
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(解説)。 |
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204 |
公益の公布及没収の前給は、戦時・火災・溢水に際し即時に没収することを緊要とするときは、之を要求することを得ず。然れども決して没収を被りたる者は没収の償価を請求するの権を損害せず。 |
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(解説)。 |
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(色川大吉氏の注)
注1 |
五日市草案はタテ23.3センチ×32センチのごく薄い和紙二四枚綴りの文書である。平明方直な文字で浄書されているうえ、「葉卓」という朱印が、それも全て異なる印が最初と最後の四箇所おされている。
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2 |
本文中、若干の虫喰いのための不明箇所がある。その部分は〔 〕の中へ推定の字句を挿入しておいた。 |
3 |
本文には各編ごとに「日本帝国憲法」というタイトルが付してあったので繁をいとわずそのまま収録した。 |
4 |
各条文については全くナンバーが付されていないが、利用者の便宜を考え、それぞれの条文の頭に数字を付し、 通し番号をつけた。 |
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