前ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカ論

 更新日/2016.4.6日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「前ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカ論」をものしておく。

 2016.4.6日 れんだいこ拝


 「★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK203 」の赤かぶ氏の 2016 年 4 月 03 日日付投稿「安倍首相はウルグアイ前大統領から日本人の心を学べ(永田町異聞)」を参照する。
 安倍首相はウルグアイ前大統領から日本人の心を学べ
 http://ameblo.jp/aratakyo/entry-12145996888.html
 2016年04月02日 永田町異聞

 2016.4.5日、「清貧」の生き方を、少年時代、近所に住んでいた日本人移民から学んだウルグアイの政治指導者、「世界一貧乏な大統領」として知られるホセ・ムヒカが来日する。昨年3月に退任したが、ウルグアイ国民に今も愛され続けている前大統領だ。

 ムヒカ自身が前大統領でありながら財産の少ない、普通の農村の暮らしをしている。在任当時、大統領に与えられる給料の90%近くを慈善団体に寄付し、自身は月に10万円程度の生活費があればこと足りた。無限の欲を満たそうと思えば、人は死ぬまで満たされず、貧しい心をかかえたままになる。昔の日本人のように、足るを知れば、苦しいながらも、心豊かに暮らしていける。ところが、消費社会が進むにしたがって、カネや贅沢なモノを所有し美食と飽食にふけることが出世の証のような価値観が定着した。本質的な人間の幸福とはそんなものではないだろう、と云う。

 指導者としてのムヒカは言う。「私たちが際限なく消費と発展を求め、世界中で原料を探し求めるグローバリゼーションの社会をつくってきた。たとえば消費をひたすら早く多くしなくてはならない。消費が止まれば経済がマヒし、経済がマヒすれば不況のお化けが現れる。10万時間もつ電球をつくれるのに、1000時間しかもたない電球を売る社会にいるのです。これは政治問題です。別の解決の道に私たち首脳は世界を導かなければなりません」 。

 2012年6月、リオデジャネイロ。188ヵ国の首脳らが参加したRio+20 地球サミット2012 (国連持続可能な開発会議)で、ホセ・ムヒカ大統領は人間の幸せとは何か、そのために政治は何ができるのかを問いかけた。 「人類は消費社会にコントロールされている。私たちは発展のために生まれてきたのではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです。人生は短い。すぐ目の前を過ぎてしまいます。命よりも高価なものは存在しません」 。世界の貧困問題などが議論されたその会議。ムヒカは貧しさについてこう述べた。「貧乏な人とは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらものがあっても満足しない人のことです」 。ムヒカは一人ひとりの人間が幸せに生きること、短い人生の貴重な時間を無駄にしないことが大切だ、と説く。幸せに生きるとはどういうことか。彼はシンプルに言い切る。「子どもを育てること、友達を持つこと、そして必要最低限のものを持つこと。これらをもたらすべきなのです」 。 「残酷な競争で成り立つ消費主義社会で、みんなの世界を良くしていこう、というような共存共栄をめざす議論ができるのでしょうか。どこまでが仲間でどこからがライバルなのですか」。 


 2016年4月1日05時00分 朝日新聞「(インタビュー)清貧の政治思想 前ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカさん」を転載しておく。
 質素な暮らしぶりから、「世界で一番貧しい大統領」として注目を集めた南米ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領が、近く出版社などの招きで初来日する。「清貧の思想」を地でいく農園暮らしの根っこには、いったい何があるのか。いまも上院議員として、国民から熱い支持を受ける政治家の自宅を訪ね、その原点を聞いた。 《首都モンテビデオから車で30分。畑のわきの小さな平屋で、ムヒカ氏は上院議員の妻と2人で暮らす。愛車は1987年製の昔懐かしいフォルクスワーゲン。自ら家事をし、畑も耕す。秋を感じる南半球の3月。トレパン姿で出てきたムヒカ氏が、庭のベンチに腰を下ろした。》

 ――大統領公邸には結局、引っ越さなかったそうですね。

 「当たり前だよ。私はもともと農民の心を持って生まれた。自然が大好きなんだ。4階建ての豪邸で30人からの使用人に囲まれて暮らすなんて、まっぴらだ」

 ――アラブの富豪が、あなたの愛車に100万ドル払うと購入を申し出た噂(うわさ)を聞きました。

 「本当の話だ。息子が珍しい車を集めていると言っていたな。もちろん断ったさ。あの車は友人たちからもらった大事な贈り物だ。贈り物は売り物じゃないんだよ」

 ――「世界で一番貧しい」という称号をどう思いますか。

 「みんな誤解しているね。私が思う『貧しい人』とは、限りない欲を持ち、いくらあっても満足しない人のことだ。でも私は少しのモノで満足して生きている。質素なだけで、貧しくはない」 「モノを買うとき、人はカネで買っているように思うだろう。でも違うんだ。そのカネを稼ぐために働いた、人生という時間で買っているんだよ。生きていくには働かないといけない。でも働くだけの人生でもいけない。ちゃんと生きることが大切なんだ。たくさん買い物をした引き換えに、人生の残り時間がなくなってしまっては元も子もないだろう。簡素に生きていれば人は自由なんだよ」。

 ――2012年にブラジルの国連会議(リオ+20)でした演説は、日本で絵本になりました。

 「このまま大量消費と資源の浪費を続け、自然を攻撃していては地球がもたない、生き方から変えていこう、と言いたかったんだ。簡素な生き方は、日本人にも響くんだと思う。子どものころ、近所に日本からの農業移民がたくさんいてね。みんな勤勉で、わずかな持ち物でも満ち足りて暮らしていた。いまの日本人も同じかどうかは知らないが」

 《60~70年代、ムヒカ氏は都市ゲリラ「トゥパマロス」のメンバーとなり、武装闘争に携わった。投獄4回、脱獄2回。銃撃戦で6発撃たれ、重傷を負ったこともある。》

 ――軍事政権下、長く投獄されていたそうですね。

 「平等な社会を夢見て、私はゲリラになった。でも捕まって、14年近く収監されたんだ。うち10年ほどは軍の独房だった。長く本も読ませてもらえなかった。厳しく、つらい歳月だったよ」 「独房で眠る夜、マット1枚があるだけで私は満ち足りた。質素に生きていけるようになったのは、あの経験からだ。孤独で、何もないなかで抵抗し、生き延びた。『人はより良い世界をつくることができる』という希望がなかったら、いまの私はないね」

 ――刑務所が原点ですか。

 「そうだ。人は苦しみや敗北からこそ多くを学ぶ。以前は見えなかったことが見えるようになるから。人生のあらゆる場面で言えることだが、大事なのは失敗に学び再び歩み始めることだ」

 ――独房で何が見えました?

 「生きることの奇跡だ。人は独りでは生きていけない。恋人や家族、友人と過ごす時間こそが、生きるということなんだ。人生で最大の懲罰が、孤独なんだよ」 「もう一つ、ファナチシズム(熱狂)は危ないということだ。左であれ右であれ宗教であれ、狂信は必ず、異質なものへの憎しみを生む。憎しみのうえに、善きものは決して築けない。異なるものにも寛容であって初めて、人は幸せに生きることができるんだ」

 《民政復帰とともに85年に釈放されたムヒカ氏は、ゲリラ仲間と政治団体を創設。89年にいまの与党、左派連合「拡大戦線」に加わった。下院、上院議員をへて昨年まで5年間、大統領を務めた。》

 ――有権者はあなたに何を期待したのでしょう。

 「自分たちの代表を大統領に、と思ったのだろう。特に貧しい層やつつましい中間層がそうだ。特権層には好かれなかったが」 「貴族社会や封建社会に抗議し、生まれによる違いをなくした制度が民主主義だった。その原点は、私たち人間は基本的に平等だ、という理念だったはずだ。ところが、いまの世界を見回してごらん。まるで王様のように振る舞う大統領や、お前は王子様かという政治家がたくさんいる。王宮の時代に逆戻りしたかのようだ」 「私たち政治家は、世の中の大半の国民と同じ程度の暮らしを送るべきなんだ。一部特権層のような暮らしをし、自らの利益のために政治を動かし始めたら、人々は政治への信頼を失ってしまう」

 ――実際、既成政治への不信から米国ではトランプ旋風が起きています。代議制民主主義が機能していないとも言われます。

 「いまは文明の移行期なんだ。昔の仕組みはうまく回らず、来たるべきものはまだ熟していない。だから不満が生まれる。ただ、批判ができるのもそこに自由があるからだろう。民主主義は欠陥だらけだが、これまで人が考えたなかではいい仕組みだよ」 「ドイツやスイスでも政治に不満を持つ多くの若者に出会った。市場主義に流される人生は嫌だという、たっぷり教育を受けた世代だった。米国でも、大学にはトランプ氏とは正反対の開放的で寛容な多くの学生がいる。いま希望を感じるのは彼らだね。貧乏人の意地ではなく、知性で世界を変えていこうという若者たちだ」

 《かつてウルグアイは「南米のスイス」と呼ばれ、福祉国家を目指して中間層も比較的厚かった。民政移管後は格差が拡大。01年のアルゼンチン経済危機の余波も受けて不満が高まり、ムヒカ氏らの左派政権誕生につながったとされる。ムヒカ氏の退任前の支持率は65%に達した。》

 ――格差が広がったのは?

 「次々と規制を撤廃した新自由主義経済のせいだ。市場経済は放っておくと富をますます集中させる。格差など社会に生まれた問題を解決するには、政治が介入する。公正な社会を目指す。それが政治の役割というものだ。国家には社会の強者から富を受け取り、弱者に再分配する義務がある」  「れんがみたいに、みんな同じがいいと言っているわけではないよ。懸命に働いて努力した人が、ほうびを手にするのは当然だ。ただ、いまはどうかね。働いてもいないような1人のために、大勢が汗水たらしている世の中じゃないか。これは気に入らない。富の集積にも限度がある」 「怖いのは、グローバル化が進み、世界に残酷な競争が広がっていることだ。すべてを市場とビジネスが決めて、政治の知恵が及ばない。まるで頭脳のない怪物のようなものだ。これは、まずい」

 ――ご自身を政治的にどう定義しますか。

 「できる限り平等な社会を求めてきたから左派だろう。ただ、心の底ではアナキスト(無政府主義者)でもある。実は私は、国家をあまり信用していないんだ」

 ――えっ、大統領だったのに?

 「もちろん国家は必要だよ。だけど、危ない。あらゆるところに官僚が手を突っ込んでくるから。彼らは失うものが何もない。リスクも冒さない。なのに、いつも決定権を握っている。だから国民は、国家というパパに何でも指図されていてはいけない。自治の力を身につけていかないと」

 ――日本で何をしたいですか。

 「日本のいまを、よく知りたいんだ。世界がこの先どうなるのか、いま日本で起きていることのなかに未来を知る手がかりがあるように思う。経済も技術も大きな発展をとげた働き者の国だ。結局、皆さんは幸せになれたのですか、と問うてみたいな」

     *

 Jose Mujica 1935年生まれ。左翼ゲリラ、農牧水産相をへて2010~15年に大統領。12年の国連会議での演説は、日本では絵本「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」(汐文社)として刊行された。

 ■取材を終えて

 まるで王様のように振る舞う権力者たちの姿を目にしていると、日本にもムヒカ氏のような政治家が1人でも現れてくれたら、と思う。そんな新党の旗のもとなら、支持も集まるはずだ。「いまだけ、カネだけ、自分だけ」といわれる最近の風潮には、未来なんてあるはずがない、と多くの人が感じているのだから。

 (萩一晶)
 http://www.asahi.com/articles/DA3S12288362.html


 「ムヒカ氏「テレビに必ず疑いの目を持つこと」 情報を判断する力の必要性を説く」。
 2016年4月7日に東京外国語大学で行われた、前ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカ氏来日公演会。スピーチ後の質疑応答では「テレビと政治の関係についてどう思いますか?」「愛がゆえに闘争とか貧困を生み出すということもあるのではないですか?」といった会場に集まった日本人学生からの質問に、ムヒカ氏が1つ1つていねいに回答していきます。最後には、ともに世界を良くしようと戦ってきた妻のルシア・トポランスキー氏のことについても触れました。
東京外国語大学 ムヒカ前ウルグアイ大統領講演会 2016年4月7日のログ
  前ウルグアイ大統領 ホセ・ムヒカ氏

 テレビは利害関係を映し出すもの

 司会 ありがとうございました。本来はもうお時間なんですが、たくさんの方が挙手してくださいましたので、あとお二人、ご質問をお受けしたいと思います。それでは、後ろから2列目のスーツの男性にマイクをお願いします。
 質問者4 (スペイン語で)非常にすばらしいスピーチをありがとうございました。あなたの見方では、テレビと政治の関係についてどう思われますか? 現在、ここに多くのテレビ局が来ています。多くのジャーナリストがいます。マスコミの人がたくさんいます。私は、日本のテレビは政治のテーマについて、深く伝えることはないというふうに思っています。

 ホセ・ムヒカ氏(以下、ムヒカ) そうですね。たしかに実際、気をつけなければいけないことはあると思います。私は3日、4日ほど前から日本に滞在しています。私は日本語がわかりませんが、いろいろな絵、図案を見てきました。それによってさまざまなコミュニケーションがなされています。全般的なかたちで唯一私がこれについて申し上げられることは、当然ながら、私たちは市場社会に住んでいます。文明とその周りには、市場の機能があります。テレビがそれらの全体的なものを示しているとも思いません。しかしながら、「このクリームを使えばシワがなくなる」とか言って、いろいろなコマーシャル、いろいろなプロモーションをするわけです。「こういうものを買いなさい」というようなことがたくさん言われます。なぜならば、当然、企業というのは予算を組んで、その製品を売るためのいろいろなキャンペーンしなければならないからです。でも、世界の中においては客観性があります。すなわち、客観性ある名誉ということです。だけど、中立なんてありえないんです。誰も中立であることはありえません。なぜなら私たちは物事を見るときに、自分が考えることに基づいて、いろいろなものを見るからです。ですから、利害と社会階級があるのです。そして、情報は人間によって作られるものです。ある意味でテレビはそういった利害関係を映し出すものかもしれません。情報は、そういった人たちによって作り上げられているからです。それは現実かもしれません。

 必ず疑いの目を持って、裏を取る必要がある

 ムヒカ ですから、しっかり学ぶ必要があります。自分自身の考え方を、いろんな情報源を当たりながら、自分の考えを構築する必要があります。必ず疑いの目を持って、裏を取る必要があると思います。私たちはマスコミが大きな比重を占める社会に生きています。テレビのない社会はありません。例えば、テレビに出てこないものは、まるで存在しないかのようです。見かけ上は。しかし、テレビは世論形成に重要です。今、私は学生、大学生に向けて話しています。一般の市民、一般の市井の人々というのはわりと無邪気で、何か言われたことを鵜呑みにして信じてしまいます。でも、みなさま方はもっと高い教養を持っている人だとすれば、さらに深い洞察をする義務があります。もっと深く考えること。ほかの人が表面的な部分しか見ていないことを、しっかりと見ていく。そういったことをみなさま方がしなければいけません。それが闘争の一部でもあると思います。私たちは理性で考えなければいけません。しっかり物事を見なければいけません。それに基づいて、現在、社会に何が起きているのかを、深い洞察をすることによって分析し、それをほかの見えない人に伝えなければいけないと思います。ですから、よく考えてください。そして、口を閉じないでください。ちゃんと伝える手段を、みなさんは持っているんですから。私は好きじゃないですけど、みなさんが毎日毎日使っている、こういう使える道具(注:スマートフォン)があるんですから。もちろんバカげたことに使うこともできるでしょう。でも、非常にすばらしい高貴な大義のために、この道具を使うこともできるでしょう。質問者4 ありがとうございました。(会場拍手)

 男性は女性から選ばれているんです

 司会 大変貴重なご質問をありがとうございました。では、残すところ、あと1人の方、お願いします。それを決めるのは大変心苦しいんですが……。では、一番高く挙げてくださっている、セーターをお召しの方にお願いいたします。
 質問者5 こんにちは。そろそろムヒカさんは日本語を聞きたいと思っていると思うので、日本語をしゃべらせてもらいます。(会場笑)
 質問者5 ムヒカさんは、この世で一番大切なものは愛だとおっしゃいました。僕も、たしかにそうだと思います。しかし、ときに愛ってものは、やっぱり愛がゆえに闘争とか貧困を生み出してしまうのかな、って僕は思ってしまいます。例えば、ここに美しいすてきな女性がいるとします。僕は彼女を手に入れたい。でも、また違うところに、いっぱいいろんな男が狙ってるわけですよ。やっぱり僕は、「彼らをいかに倒すか」ってことを考えてしまうんですよね。ここに僕がもしすべての人を愛したら、やっぱりここにいる男たちと彼女を一緒にシェアするのが一番いいわけなんですけど、それはできない。やっぱりここには闘争が生まれてしまう。で、僕はそのために財力をつけたり、いかに魅力的な人間になるために教養を身につけたり、そういうことを考えます。で、やっぱりそういうことを考えると、愛がゆえに闘争が生まれるのかなって思ってしまいます。そしてまた、家族ができたとします。家族ができたら、やっぱり人間は自分の家族が一番かわいいですから、ほかの人たちより自分の家族をいい目にあわせたい。だから、おいしいご馳走をしたり、すてきな場所に連れて行ったりするわけです。そういうことをしていると、やっぱりこういう自分の家族だけをいい目にあわすっていう気持ちが、やっぱり貧困とかを生んでしまうのかなと思ってしまいます。そういうことを考えたら、人を愛すっていうことは難しいなと思って、また、すべての人を愛すっていうことは同時に、誰も愛してないってことになるかもしれませんし、いかに僕はここにいる人間っていうか、世界のすべての人々を愛すことができるのでしょうか?

 ムヒカ もちろん、あなたの愛に対するビジョンは、非常に個人主義的な考え方だと思います。所有的な考え方だと思います。あなたは好きな女性を自分のものにしたい。手に入れたい。……でも、彼女に聞かなければいけないじゃないですか?(にっこりと微笑む)あなたに征服されたいと思っているかどうか、彼女にも聞かなければいけないでしょう。

 質問者5 最近、それでよくもめています(笑)。

 ムヒカ 私が思うに、それはちょっと男尊女卑の考え方もあるような気がします。知性的に……。例えば男尊女卑ではなくて、女性が選ぶんですよ。ひょっとしたら気づかないかもしれませんけれども。自分だけが独立している、自分だけで決められるなんて思わないでください。

 質問者5 わかりました。(会場笑・拍手)

 ムヒカ 今言っているのは冗談に聞こえるかもしれませんけど、生物科学的に考えれば、彼女も無意識かもしれません。でも、彼女が選んでるんですよ。彼女にとって、子孫を残すとしたら誰と残したほうがいいのかと。これはバカげたことではありません。ここに(胸に手を当てながら)メカニズムとして、私たちに刻まれているんです。まるで私たち自身が自分たちを支配しているような錯覚があるかもしれませんけれども、自然としてのメカニズムに私たちは動かされているんです。ですから、自然学、生物としての本性を尊重しなければいけないと思います。おっしゃるコンフリクト(衝突・対立)というのはわかります。でも、生きるということは、コンフリクトを持つことなんです。コンフリクトがない人間は墓場にいる人だけでしょう。生きてる人なら、誰でもコンフリクトは抱えています。問題は、どうやってそのコンフリクトをマネジメントしていくのか。コンフリクトを持つことは避けません。ですから、みなさんは家族のために、例えば家族を守るために戦うというのは当然です。それはいいことです。でも、だからといって、ほかの人のために何にもできない、ということではないですよね? ほかの人にも何かができたとすれば、自分と家族にとってもすごく幸せに感じるでしょう。隔離されて、社会の中で生きていくことはできません。

 パートナーと世界を良くしようと戦ってきた

 ムヒカ 例えば、私は私のパートナーと、一生懸命、世界を良くしようと思って戦ってきました。それで、子供を持つ時間がありませんでした。私たちは小さな地区に住んでいます。多くの子供たちがいます。勉強する経済力がない子供たちがいっぱいいます。私たちはそういった子供たちが勉強できるように学校を建てて、国にプレゼントしました。なぜならば、私たちは子供を作ることができなかったけれど、親がなくて勉強できない子供たちがいるわけですね。生物学的には私の子供はできなかったけれども、彼らは私にとって子供です。私たちは、それが人間だし、私は人生を愛しているから、そういうことをしています。そういうふうに考えてみてください。自分の子供のことも。質問者5 ありがとうございます。(会場拍手)

 司会 大変すてきなアドバイスをありがとうございました。学生のみなさんもたくさんの質問をありがとうございました。お時間の関係で当てられなかった方、本当にごめんなさい。それでは、これをもちまして質疑応答の時間を終了いたします。ここで写真撮影の時間をほんの少しお取りしたいんですけど、よろしいでしょうか? ぜひこの機会に写真を収めたいという方は、今(カメラを)出していただきまして、その座席のまま、その場でお撮りいただければと思います。それでは、写真撮影の時間にさせていただきます。(会場の学生がスマートフォンを取り出し、客席からムヒカ氏を撮影する)

 ムヒカ (微笑みながら手を振る)あの……写真を撮るよりも、もっとすごく楽しいこと、いいことってあるんじゃないですか? って思うんですけどね。司会 すいません。日本人はどうしてもこの写真を撮るというのが大変好きなもので(笑)。その時間をちょっと設けさせていただきました。さ、それでは、みなさま大丈夫ですか? 撮れましたか? お付き合いくださいまして、ありがとうございました。さあ、それではよろしいでしょうか?これで本日の「世界で一番貧しい大統領、ムヒカ前大統領による講演会」終了したいと思います。ムヒカ前大統領、本当に今日はたくさんのご質問も受けてくださってありがとうございました! 盛大な拍手でお送りしたいと思います、ありがとうございました!(会場拍手)
  





(私論.私見)