NHK動画ニュース
パナマ文書「情報提供は犯罪行為止めたくて」
4月7日 18時56分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160407/k10010470761000.html
各国の首脳などが租税回避地、いわゆるタックスヘイブンを利用していたと指摘されている問題で、調査報道に取り組んでいる団体の責任者が、NHKのインタビューに答え、この問題が明るみに出るきっかけとなる情報をもたらした人物が、その動機について「犯罪行為を止めたいからだ」と話していたことを明らかにしました。
この問題は、中米パナマにある法律事務所の文書が流出し、各国の首脳らが租税回避地、いわゆるタックスヘイブンにある企業を通じて金融取り引きを行っていたことなどが明らかになったもので、名前の挙がったアイスランドのグンロイグソン首相が批判を受けて辞任するなど影響が広がっています。
この問題に取り組んでいる調査報道を行う世界各国の記者で作る団体、ICIJの記者のウィル・フィッツギボンさんが、6日、NHKのインタビューに答えました。フィッツギボンさんはこの問題の調査を始めたきっかけについて、ドイツの有力紙「南ドイツ新聞」の記者に去年、ある人物が「見せたい情報がある。関心はあるか」と接触を図ってきたことを明らかにしました。
そのうえで、この人物に記者が、「なぜこのようなことをするのか」と尋ねたところ、「犯罪行為を止めたいからだ」と答えたということです。
記者はこの人物から膨大な量のデータを提供されたため、ICIJに連絡したということで、その後、世界各国のおよそ400人の記者が、分担して1年がかりで分析を進め、報道につなげたとしています。データは、会計書類や電子メール、パスポートの写しのほか、会話の録音などの音声ファイルもあるということで、分量は2.6テラバイト、ファイルの数は1100万を超え、その規模は、「ウィキリークス」がインターネット上で公表している政府の内部文書などのデータの量と比べても、はるかに大きいとしています。
フィッツギボンさんは「世界各地で、今も記者たちが新しい事実を掘り起こしている。今後、数か月にわたって、文書を巡る報道が続くだろう」と述べました。今回の調査の意義について、フィッツギボンさんは「権力や金を持っていれば、異なるルールの中で生きることを決められる。二つの世界が存在していることを示している。不公平だと感じる」と述べました。
そして、「ガラス張りにすることが重要だ。年収10万ドルの政治家が、なぜ会社を保有して、外国に登録するのか、その会社がなぜ多額の資産を持っているのか。市民が聞きたいと思うのは当然だ」と述べ、世界各国の首脳などを対象に不透明な資金の動きがないか、調査を続ける考えを示しました。
一方、流出したデータの公開に、法的な問題はないのかという問いに対しては、「対象は、権力者とその関係者が中心だ」と述べ、問題はないという認識を強調しました。
パナマ大統領 調査委員会設置を
各国の首脳などが租税回避地、いわゆるタックスヘイブンを利用していた疑惑で、その発端となった文書が流出した法律事務所があるパナマのバレーラ大統領は6日、パナマで行われている金融取引の実態を調査するため、独立した委員会を設置する考えを明らかにしました。
そして、現地で開いた会見で、「パナマの国やその金融システムのイメージが損なわれようとしている。われわれは、パナマの法律に基づいて調査に協力し、情報交換にも応じるつもりだ」と述べ、各国から協力を要請されれば応じる姿勢を強調しました。パナマの司法当局は、4日に出した声明で、「いわゆる『パナマ文書』については犯罪行為や被害の有無、それに関わった人物の特定などが捜査の対象だ。法律の枠組みの中であらゆる手段を用いて調べる」として捜査に乗り出す方針を明らかにしています。
顧客リスト流出 過去にも
いわゆるタックスヘイブンの顧客リストが流出したケースは過去にもあります。
2006年には、ヨーロッパのリヒテンシュタインの銀行員が持ち出した顧客の口座のリストをドイツの連邦情報局が買い取り、郵便事業を行う会社の会長の脱税事件に発展したほか、日本の国税庁もドイツからの情報提供を受けて15億円に上る遺産相続の申告漏れを見つけ、追徴課税しました。
また、2013年にはシンガポールやケイマン諸島、英領バージン諸島などにある信託財産やペーパーカンパニーの所有者のリストをオーストラリアの税務当局が入手したことが明らかになり、日本も資料の提供を受けました。
タックスヘイブンは、各国の税務当局に対しても守秘義務を理由に銀行などの顧客情報を簡単には開示しないため、こうしたリストは税務当局にとって貴重な情報となっています。一方、情報が古かったり、合法的に資金や財産を移したりしている場合が少なくなく、課税にいたるケースは必ずしも多くありません。
タックスヘイブン その実態は
いわゆるタックスヘイブンは、銀行の顧客の秘密を守ることで知られ、脱税やマネーロンダリングの温床になっているとして、先進各国とのせめぎ合いが続いてきました。
OECD=経済協力開発機構は、2000年に初めてリストを公表し、カリブ海のケイマン諸島やパナマ、英領バージン諸島など35の国や地域をタックスヘイブンに当たると名指ししました。
こうした国や地域の多くに共通するのは、経済規模が比較的小さく目立った産業がないという点です。
このうちケイマン諸島は、人口5万5000のイギリス領の島ですが、法人税や所得税がないため世界中の富裕層や企業の資金が集まっています。島の中には、外資系の会計事務所や銀行が建ち並び、数万社に上るペーパーカンパニーが登記されている建物もあります。
財務省によりますと、日本とケイマン諸島の間では去年、1兆3000億円を超える資金がやり取りされていて、ケイマン諸島は金融機関に課す手数料などで財政を賄っています。
こうしたタックスヘイブンに対して先進各国は圧力を強めていて、今では各国の税務当局の求めに応じて銀行などの顧客情報を開示するようになってきています。
ムヒカ氏「ばかげたことで悲惨なこと」
来日している「世界で一番貧しい大統領」として知られるウルグアイの前の大統領、ホセ・ムヒカ氏は、都内の大学で開かれた講演会で、いわゆるパナマ文書について言及し、「自分の資本を増やすために行動するのは、ばかげたことで悲惨なことだ」と述べ、名前が挙げられている各国の首脳や企業などを批判したうえで、「このような行動をやめるために、若者が戦わないといけない。組織すれば戦えるし、そうすることこそ人類の団結だ」と述べました。
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