http://opinion.infoseek.co.jp/article/750
2月4日、政治資金規正法違反の容疑で逮捕された、民主党 石川知裕衆院議員(36)の拘留期限が切れた。これを受けて、Infoseek
内憂外患編集部と、THE JOURNAL編集部は合同で、郷原信郎氏に独占インタビューを行った。
■検察VS小沢一郎、決着は……未だつかず
――東京地検特捜部は、16:00の定例会見で石川議員に対する処分や、小沢幹事長の「起訴・不起訴」について発表するとしていましたが……。
郷原:まだ処分の発表が遅れているようなんですよ。普通だったら4時の定例会見のときに、起訴事実など全部を発表するんだろうと思っていたんだけれども、それが未だに処分が発表されていない。まだ調べが続いているという話があって、よっぽど小沢氏の起訴の問題よりも、石川知裕議員の起訴に関して何か(検察内で)問題が指摘されているんだろうと、私は見ているんですよね。
これはもう今までいろんな形で書いてきたんだけれども、とにかく私は今回の政治規制法違反で、石川議員を起訴できるとは思わない。だから未だに信じられないの。(定例会見が)遅れているというのは、それに関する問題が指摘されて、何とかしてクリアしようとして、遅れているんじゃないかと、思っています。
何が問題かと言うと、石川議員が逮捕される前からずっと私が言い続けてきた、2004年の陸山会の収支報告書に、小沢一郎氏からの借入金4億円という記載がある、あの事実はものすごく大きいんです。あれを、新聞、テレビはずっとスルーしてきてたでしょ。
でも、小沢氏からの借入金より、銀行からの借り入れのほうが大事なんです。銀行からの借り入れについての記載があって、小沢氏からきた現金の4億円は記載されていないと言うんだけれども、もしそうだとしたら、記載しなかったことが本当に意図的なものなのかどうかについて、それは非常に問題になるんですよ。
まず、非常に重要なことでして、小沢氏からの現金4億円が入っているのに、それとは別に、陸山会からのお金で4億円の定期預金を設定して、それに担保設定をして銀行から4億円借りたんだってことになっている。
しかし、本来ね、小沢さんからの現金4億円のことが、表に出ないようにしようと思えば、もっと簡単な方法があったでしょう。小沢さんから入ってきた4億円があって、それで不動産代金を払ったんであれば、小沢さんから借りている状態の4億円を、定期預金の名義を小沢さんにすることで、そうすれば、返したと言うか、立替って言うことになるでしょ?
「小沢さんから4億円入ってきたけれども、それを小沢さん名義の定期預金にしました」ということであれば、借り入れにならない。その小沢氏名義の定期預金を担保して、銀行から4億円を借りましたということであれば、銀行から小沢氏名義で借りたお金を、陸山会が小沢氏から借りたということで、4億円の小沢氏からの借り入れが1本書かれているだけであって、そうしていれば、何の問題もなかった。
何でそうしなかったかって言うと、預金の名義を小沢さんの名義にしないで、陸山会の名義にしたからでしょ。そんなこと別にどっちでも良いわけです。ということは、やっぱり、ミスとしか考えられないでしょ。
それを考えたら、いくら石川氏が、自白証書を山ほど署名してても、こんなものは足利事件の菅谷さんがそうだったように、後からひっくり返ったのと同じでしょ。客観的にありえない。もっと簡単な方法があるのに、何でそれを取らなかったのか? ということがね。
だからこそ、こうした問題を一昨日の日経ビジネスの記事で指摘したんです。それが影響したのかどうなのか分からないけれど、みんな改めて考えてみて、これちょっと、石川の意図的な虚偽記載(容疑)は危ないよね、という話になって、そこの問題をクリアした上で、やっぱり預金を小沢氏名義にしなかったのかということを、「ちゃんと石川にしゃべらせろ」となって、まだ(検察は石川議員を)調べているんじゃないかなぁ。そうすると、やっぱり事務上のミスですよと言われて、収拾のつかないことになってるんじゃないかな、と私は思ってるんですけどね。
とにかく今回のこの事件は、石川氏たちを逮捕したところからムチャクチャ。どうしてこんなことをやっちゃったのか……。今までの検察の歴史の中で、こんな政治的に大きな影響を及ぼす事件もそんなにないんだけれども、あまりにも慎重な検討を欠いている。検察としては大打撃としか言いようがないでしょう。
■検察はメディアへのリークで世論誘導した?
――今回、検察は報道各社に取り調べ情報などをリークして、世論をある程度ムリ筋捜査にならざるを得ない、ということを納得させながら進めたと言われているが?
郷原:いや、僕はいわゆるリークというのは、捜査を進めている側が世の中に風を吹かせて、煽って捜査を進めていこうという気持ちで行われているとは思えないんですよ。そんな単純なものじゃなくて、むしろ、検察内部で一体となって、何とか捜査を進めて欲しいという気持ちでいるのと、司法クラブ系のメディアとが一体となっている。そういう関係だと思うんです。
一体となって同じ方向に進もうとしているから、司法メディアは検察と方向性が一致している。メディアはメディアなりに、いろんな調査はしていると思うけど、その方向が一緒だからほとんど検察の言っていることと内容が変わらないんだということです。
たとえるなら、検察内部の人間はJリーガーで、司法クラブはスタンドで応援してるサポーター。顔に丸特(特捜)ってペインティングしているようなね(笑)。一方であなたたちのような非司法クラブの人間はスタジアムの外からしか中のことが聞こえない。実況はサポーターがやっているから、本当にだれかがキラーパスをやったか? とか、だれかが得点を決めたか? とか、どうなっているのか分からないわけです。サポーター報道だから、熱狂だけが伝わってしまう。検察とメディアが一体になっていることが問題なんです。個別具体的に情報がどうやって漏洩されたか、にこだわればこの問題の本質は分からなくなってしまう。
■着地点はどうなる?――郷原さんだったらこの問題をどういう風に幕引きしますか?
郷原:現段階では結論が出ていないので、どういう着地点があるか分からない。私は、冷静に客観的に見て、この件で逮捕する意味が分からない。起訴や略式起訴だと公民権停止になるので、そうなると国会議員失職になってしまいますね。なので、公民権不停止で罰金だけ払ってもらって釈放するしかないかな、と思います。私だったらこのタイミングではそうすると思う。それしかないでしょ。
■法務大臣の“底力”をみせるには?――検察の「暴走」には、法務大臣の抑制力のなさを指摘する声もありますが?
郷原:法務大臣は、ちゃんと検察のことが分かっている人がいないと、こんなとんでもないことが起こる。政権交代を前提とした「政治と検察の関係」はものすごく微妙なので、法務大臣はそれを分かっていないといけない。だれでもいいけど、検察は正しい、全部おまかせ、全部正義だ、ということだけではやっていけないです。
検察だって人がやっていることなんだから、きちんと報告を受けて、やっていることがどうなっているのか、間違いがないか、といったことを法務大臣としてチェックしないといけない。ちゃんと政治の側も検察に対して理屈の通ったチェックをしていかないといけないです。
■捜査方法について――石川議員の秘書が強引な聴取を受けていたことがネット上をはじめ、議論されています。
郷原:週刊朝日などで報じられているところによると、それまで秘書が検察庁に呼ばれるときは押収品を返すような事務的な用事のときだったらしいです。それが突然、「被疑者だ」と、取り調べられることになったと。おそらく、石川議員の捜査がうまくいってないので、何とか石川議員に対して、他の“攻める”ネタや、別の事件で再逮捕できるように焦ったのでしょう。それで秘書を呼んだ。
ただ、彼女は石川事務所の会計にはかかわっていたのでしょう。逮捕事実そのものには関係ないけれど、検察としては、石川議員自身の問題が何かほじくり出せないか、と思ったのでは?
しかし、具体的に問題があるなら具体的に早く説明を求めるべきです。8時間も9時間も、何を聞きたいのか分からないのにグダグダと留め置く、ということはやり方として問題ですよね。そこまでやろうということは、よっぽど検察側が追い込まれているのだろうな、と思って見ていました。
■検察の監視機関を――今回のような「ムリ筋」が増えると、検察を常に監視する機関を作ろう、という発想になりますね。
郷原:まずは、社会的だったり政治的に影響が大きい重要な事件については、しっかり法務大臣のチェックがきかないと。法務大臣を支えるような体制がきちんと機能しないといけません。
指揮権が聖域のように封印されていたけど、検察だって人でできた組織だから、間違うことだってありうる。それでも、組織全体が間違った方向にいかないようにチェックをやっていかないといけない。
現行法から考えると、法務大臣が単なる政治的などうのこうの、ではなく、証拠や事実関係など、客観的に見て捜査に問題がないのかきちっとチェックするべきです。そのためには法務大臣の元に、そういう組織を作って、指揮権発動をサポートするようにしなければならないと思います。
最終的に指揮権を発動するというハッキリした形の権限行使に至らなくてもいいが、その前に、「問題だと思うことは、問題としてきちっと指摘できる」ような体制を作らないといけない。
■検察には、検証し今後の教訓にして欲しい郷原:地検・高検・最高検、それに法務省の中心となる検事と、あれだけの組織全体として意思決定しているから間違いない、と思うかもしれないが、本当はそうではない。
検察の内部にもいろんな力関係があって、特定の力を持った人が大きな声で「これはなにがなんでもやるんだ!」といったとき、それに引きずられることもあるし、これは問題だ、という指摘がなかなか聞き入れないときもある。
だから客観的な検証をしていかないといけないと思う。今回の件は、どう考えても検察の捜査には問題があった。まずは、捜査経過を検察自身がきちんと検証して、どこにどういう問題があったか、自ら明らかにして、今後の教訓にしていく必要があると思います。
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