野田首相の所信表明演説考

 (最新見直し2011.9.17日)

 (れんだいこのショートメッセージ)

 2011.9.13日、野田首相は、衆参両院本会議で就任後初の所信表明演説を行った。ここで、野田首相の所信表明演説を確認しておくことにする。「首相官邸公式Webサイトの動画(参照リンク)」、「野田首相所信表明演説全文」を転載参照する。

 2009.9.12日 れんだいこ拝



【所信表明演説全文】
 野田首相の所信表明演説全文(1)

 第178回国会の開会に当たり、東日本大震災、そしてその後も相次いだ集中豪雨や台風の災害によって亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。また、被害に遭われ、不自由な暮らしを余儀なくされている被災者の方々に、改めてお見舞いを申し上げます。

 この度、私は内閣総理大臣に任命されました。政治に求められるのは、いつの世も「正心誠意」の4文字があるのみです。意を誠にして、心を正す。私は国民のみなさまの声に耳を傾けながら、自らの心を正し、政治家としての良心に忠実に、大震災がもたらした国難に立ち向かう重責を全力で果たしていく決意です。まずは連立与党である国民新党始め、各党、各会派、そして国民のみなさまのご理解とご協力を切にお願い申し上げます。

 あの3月11日から、はや半年の歳月を経ました。多くの命と穏やかな故郷での暮らしを奪った大震災の爪跡は、いまだ深く被災地に刻まれたままです。そして大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故は、被災地のみならず、日本全国に甚大な影響を与えています。日本の経済社会が長年抱えてきた課題は残されたまま、大震災により新たに解決が迫られる課題が重くのしかかっています。

 この国難のただ中を生きる私たちが、決して忘れてはならないものがあります。それは、大震災の絶望の中で示された日本人の気高き精神です。

 (宮城県)南三陸町の防災職員として、住民に高台への避難を呼びかけ続けた遠藤未希さん。防災庁舎の無線機から流れる彼女の声に勇気付けられ、救われた命が数多くありました。恐怖に声を震わせながらも、最後まで呼びかけをやめなかった彼女は、津波に飲まれ、帰らぬ人となりました。生きておられれば、今月、結婚式を迎えるはずでした。

 被災地の至るところで、自らの命さえ顧みず、使命感を貫き、他者をいたわる人間同士の深い絆がありました。彼女たちが身をもって示した、危機の中で公に尽くす覚悟。そして、互いに助け合いながら、寡黙に困難を耐えた数多くの被災者の方々。日本人として生きていく誇りと明日への希望が、ここに見出せるのではないでしょうか。

 忘れてはならないものがあります。それは、原発事故や被災者支援の最前線で格闘する人々の姿です。先週、私は原子力災害対策本部長として、福島第1原発の敷地内に入りました。2000人を超える方々がマスクと防護服に身を包み、被ばくと熱中症の危険にさらされながら、事故収束のために黙々と作業を続けています。

 そして大震災や豪雨の被災地では、自らが被災者の立場にありながらも、人命救助や復旧、除染活動の先頭に立ち、住民に向き合い続ける自治体職員の方々がいます。ご家族を亡くされた痛みを抱きながら、豪雨対策の陣頭指揮をとり続ける(和歌山県)那智勝浦町の寺本真一町長もその1人です。

 今この瞬間にも、原発事故や災害との戦いは続いています。さまざまな現場での献身的な作業の積み重ねによって、日本の今と未来は支えられています。私たちは激励と感謝の念とともに、こうした人々にもっと思いをいたす必要があるのではないでしょうか。

 忘れてはならないものがあります。それは被災者、とりわけ福島の方々の抱く故郷への思いです。多くの被災地が復興に向けた歩みを始める中、依然として先行きが見えず、見えない放射線の不安と格闘している原発周辺地域の方々の思いを福島の高校生たちが教えてくれています。

 「福島に生まれて、福島で育って、福島で働く。福島で結婚して、福島で子どもを産んで、福島で子どもを育てる。福島で孫を見て、福島でひ孫を見て、福島で最期を過ごす。それが私の夢です」

 これは先月、福島で開催された全国高校総合文化祭で、福島の高校生たちが演じた創作劇の中の言葉です。悲しみや怒り、不安やいらだち、あきらめや無力感といった感情を乗り越えて、明日に向かって一歩を踏み出す力強さがあふれています。こうした若い情熱の中に、被災地と福島の復興を確信できるのではないでしょうか。

 今般、被災者の心情に配慮を欠いた不適切な言動によって辞任した閣僚(鉢呂吉雄前経済産業大臣)が出たことは、誠に残念でなりません。失われた信頼を取り戻すためにも、内閣が一丸となって、原発事故の収束と被災者支援に邁進することを改めてお誓いいたします。

 大震災後も世界は歩みを止めていません。そして、日本への視線も日に日に厳しく変化しています。日本人の気高い精神を賞賛する声は、この国の政治に向けられる厳しい見方にかき消されつつあります。「政治が指導力を発揮せず、物事を先送りすること」を「日本化する」と表現して、揶揄(やゆ)する海外の論調があります。これまで積み上げてきた国家の信用が今、危機にひんしています。

 私たちは、厳しい現実を受け止めなければなりません。そして克服しなければなりません。目の前の危機を乗り越え、国民の生活を守り、希望と誇りある日本を再生するために、今こそ、行政府も、立法府も、それぞれの役割を果たすべき時です。

 野田首相の所信表明演説全文(2)

 最大の課題は東日本大震災からの復旧・復興

 言うまでもなく、東日本大震災からの復旧・復興は、この内閣が取り組むべき最大、かつ最優先の課題です。これまでにも政府は、地元自治体と協力をして、仮設住宅の建設、がれき撤去、被災者の生活支援などの復旧作業に全力を挙げてきました。発災当初から比べれば、かなり進展してきていることも事実ですが、迅速さに欠け、必要な方々に支援の手が行き届いていないというご指摘もいただいています。

 この内閣がなすべきことは明らかです。復興基本方針(参照リンク)に基づき、ひとつひとつの具体策を着実に、確実に実行していくことです。そのために、第3次補正予算の準備作業を速やかに進めます。自治体にとって使い勝手の良い交付金や、復興特区制度なども早急に具体化してまいります。

 復旧・復興のための財源は、次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合うことが基本です。まずは歳出の削減、国有財産の売却、公務員人件費の見直しなどで財源を捻出(ねんしゅつ)する努力を行います。その上で時限的な税制措置について、現下の経済状況を十分に見極めつつ、具体的な税目や期間、年度ごとの規模などについての複数の選択肢を多角的に検討します。

 省庁の枠組みを超えて被災自治体の要望にワンストップで対応する復興庁を設置するための法案を早急に国会に提出します。被災地の復興を加速するため、与野党が一致協力して対処いただくようお願いをいたします。

 原発事故の収束は、国家の挑戦です。福島の再生なくして、日本の信頼回復はありません。大気や土壌、海水への放射性物質の放出を確実に食い止めることに全力を注ぎ、作業員の方々の安全確保に最大限努めつつ、事故収束に向けた工程表(参照リンク)の着実な実現を図ります。世界の英知を集め、技術的な課題も乗り越えます。原発事故が再発することのないよう、国際的な視点に立って事故原因を究明し、情報公開と予防策を徹底します。

 被害者の方々への賠償と仮払いも急務です。長期にわたって不自由な避難生活を余儀なくされている住民の方々。家畜を断腸の思いで処分された畜産業者の方々。農作物を廃棄しなければならなかった農家の方々。風評被害によって、ゆえなく廃業に追い込まれた中小企業の方々。厳しい状況に置かれた被害者の方々に対して、迅速、公平かつ適切な賠償や仮払いを進めます。

 住民の方々の不安を取り除くとともに、復興の取り組みを加速するためにも、すでに飛散してしまった放射性物質の除去や周辺住民の方々の健康管理の徹底が欠かせません。特に、子どもや妊婦の方を対象とした健康管理に優先的に取り組みます。毎日の暮らしで口にする食品の安全・安心を確立するため、農作物や牛肉等の検査体制のさらなる充実を図ります。

 福島第1原発の周辺地域を中心に、依然として放射線量の大変高い地域があります。先祖代々の土地を離れざるを得ない無念さと悲しみをしっかりと胸に刻み、生活空間にある放射性物質を取り除く大規模な除染を、自治体の協力も仰ぎつつ、国の責任として全力で取り組みます。

 また、大規模な自然災害や事件・事故など国民の生命・身体を脅かす危機への対応に万全を期すとともに、大震災の教訓も踏まえて、防災に関する政府の取り組みを再点検し、災害に強い持続可能な国土作りを目指します。

 世界に率先して新たなエネルギー社会を築く

 大震災からの復旧・復興に加え、この内閣が取り組むべきもう1つの最優先課題は日本経済の建て直しです。大震災以降、急激な円高、電力需給のひっ迫、国際金融市場の不安定化などが複合的に生じています。産業の空洞化と財政の悪化によって、国家の信用が大きく損なわれる瀬戸際にあります。

 日本経済の建て直しの第1歩となるのは、エネルギー政策の再構築です。原発事故を受けて、電力の需給がひっ迫する状況が続いています。経済社会の血液とも言うべき電気の安定的な供給がなければ、豊かな国民生活の基盤が揺るぎ、国内での産業活動を支えることができません。

 今年の夏は、国民のみなさまによる節電のお陰で、計画停電を行う事態には至りませんでした。多大なご理解とご協力、ありがとうございました。

 我慢の節電を強いられる状況から脱却できるよう、ここ1、2年にかけての需給対策を実行します。同時に2030年までをにらんだエネルギー基本計画を白紙から見直し、来年の夏を目途に新しい戦略と計画を打ち出します。その際、エネルギー安全保障の観点や費用分析などを踏まえ、国民が安心できる中長期的なエネルギー構成のあり方を、幅広く国民各層のご意見をおうかがいしながら、冷静に検討してまいります。

 原子力発電について、脱原発と推進という二項対立でとらえるのは不毛です。中長期的には「原発への依存度を可能な限り引き下げていく」という方向性を目指すべきです。同時に、安全性を徹底的に検証・確認された原発については、地元自治体との信頼関係を構築することを大前提として、定期検査後の再稼働を進めます。原子力安全規制の組織体制については、環境省の外局として原子力安全庁を創設して規制体系の一元化を断行します。

 人類の歴史は、新しいエネルギー開発に向けた挑戦の歴史でもあります。化石燃料に乏しい我が国は、世界に率先して新たなエネルギー社会を築いていかなければなりません。我が国の誇る高い技術力を生かし、規制改革や普及促進策を組み合わせ、省エネルギーや再生可能エネルギーの最先端のモデルを世界に発信します。

 歴史的な水準の円高は、新興国の追い上げなどもあいまって、空前の産業空洞化の危機を招いています。我が国の産業をけん引してきた輸出企業や中小企業が正に悲鳴を上げています。このままでは国内産業が衰退し、雇用の場が失われていく恐れがあります。そうなればデフレからの脱却も、被災地の復興もままなりません。

 欧米やアジア各国は、国を挙げて自国に企業を誘致する立地競争を展開しています。我が国が産業の空洞化を防ぎ、国内雇用を維持していくためには、金融政策を行う日本銀行と連携し、あらゆる政策手段を講じていく必要があります。まずは予備費や第3次補正予算を活用し、思い切って立地補助金を拡充するなどの緊急経済対策を実施します。さらに円高メリットを活用して、日本企業による海外企業の買収や資源権益の獲得を支援します。

 野田首相の所信表明演説全文(3)
 債務が債務を呼ぶ財政運営は続けられない

 大震災前から、日本の財政は国の歳入の半分を国債に依存し、国の総債務残高は1000兆円に迫る危機的な状況にありました。大震災の発生により、こうした財政の危機レベルはさらに高まり、主要先進国の中で最悪の水準にあります。国家の信用が厳しく問われる今、雪だるまのように、債務が債務を呼ぶ財政運営をいつまでも続けることはできません。声なき未来の世代に、これ以上の借金を押し付けてよいのでしょうか。今を生きる政治家の責任が問われています。

ah_noda2.jpg 債務残高の国際比較(対GDP比、出典:財務省)

 財政再建は決して一直線に実現できるような単純な問題ではありません。政治と行政が襟を正す歳出削減の道。経済活性化と豊かな国民生活がもたらす増収の道。そうした努力を尽くすとともに、将来世代に迷惑をかけないためにさらなる国民負担をお願いする歳入改革の道。こうした3つの道を同時に展望しながら歩む、厳しい道のりです。

 経済成長と財政健全化は、車の両輪として同時に進めていかなければなりません。そのため、昨年策定された新成長戦略の実現を加速するとともに、大震災後の状況を踏まえた戦略の再強化を行い、年内に日本再生の戦略をまとめます。

 こうした戦略の具体化も含め、国家として重要な政策を統括する司令塔の機能を担うため、産官学の英知を集め、既存の会議体を集約して、私が主宰する新たな会議体を創設します。

 経済成長を担うのは、中小企業を始めとする民間企業の活力です。地球温暖化問題の解決にもつながる環境エネルギー分野、長寿社会で求められる医療関連の分野を中心に、新たな産業と雇用が次々と生み出されていく環境を整備します。また、海外の成長市場とのつながりを深めるため、経済連携の戦略的な推進、官民一体となった市場開拓を進めるとともに、海外からの知恵と資金の呼び込みも強化します。

 「農業は国の本なり」との発想は、今も生きています。食は命をつなぎ、命を育みます。消費者から高い水準の安全・安心を求められるからこそ、農林漁業は新たな時代を担う成長産業となりえます。東北の被災地の基幹産業である農業の再生を図ることを突破口として、食と農林漁業の再生実現会議の中間提言(参照リンク、PDF)に沿って、早急に農林漁業の再生のための具体策をまとめます。

 農山漁村の地域社会を支える社会基盤の柱に郵便局があります。地域の絆を結ぶ拠点として、郵便局が3事業の基本的なサービスを一体的に提供できるよう、郵政改革関連法案の早期成立を図ります。また、地域主権改革を引き続き推進します。

 日本に希望と誇りを取り戻すために

 東日本大震災と世界経済危機という2つの危機を克服することとあわせ、将来への希望にあふれ、国民ひとりひとりが誇りを持ち、「この国に生まれて良かった」と実感できるよう、この国の未来に向けた投資を進めていかなければなりません。

 かつて我が国は「一億総中流の国」と呼ばれ、世界に冠たる社会保障制度にも支えられながら、分厚い中間層の存在が経済発展と社会の安定の基礎となってきました。しかしながら、少子高齢化が急速に進み、これまでの雇用や家族のあり方が大きく変わり、人生の安全網であるべき社会保障制度にもほころびが見られるようになりました。かつて中間層にあって、今は生活に困窮している人たちも増加しています。

 あきらめはやがて失望に、そして怒りへと変わり、日本社会の安定が根底から崩れかねません。失望や怒りではなく、温もりある日本を取り戻さなければ希望と誇りは生まれません。

 社会保障制度については全世代対応型へと転換し、世代間の公平性を実感できるものにしなければなりません。

 具体的には、民主党、自由民主党、公明党の3党が合意した子どもに対する手当の支給や、幼保一体化の仕組み作りなど、総合的な子ども・子育て支援を進め、若者世代への支援策の強化を図ることが必要です。医療や介護の制度面での不安を解消し、地域の実情に応じた、質の高いサービスを効率的に提供することも大きな課題です。さらに、労働力人口の減少が見込まれる中で、若者、女性、高齢者、障害者の就業率の向上を図り、意欲あるすべての人が働くことができる全員参加型社会の実現を進めるとともに、貧困の連鎖に陥る者が生まれないよう確かな安全網を張らなければなりません。

 本年6月に政府・与党の社会保障・税一体改革成案(参照リンク、PDF)が熟議の末にまとめられました。これを土台とし、真摯に与野党での協議を積み重ね、次期通常国会への関連法案の提出を目指します。与野党が胸襟を開いて話し合い、法案成立に向け合意形成できるよう、社会保障・税一体改革に関する政策協議に各党・各会派の皆様にご参加いただきますよう、心よりお願いいたします。

 日本人が希望と誇りを取り戻すために、もう1つ大事なことがあります。それは、決して内向きに陥らず、世界に雄飛する志を抱くことです。

 明治維新以来、先人たちは果敢に世界に挑戦することにより、繁栄の道を切りひらいてきました。国際社会の抱える課題を解決し、人類全体の未来に貢献するために、私たち日本人にしかできないことが必ずあるはずです。「新たな時代の開拓者たらん」という若者の大きな志を引き出すべく、グローバル人材の育成や、自ら学び考える力を育む教育など人材の開発を進めます。また、豊かな故郷を目指した新たな地域発展モデルの構築や、海洋資源の宝庫と言われる周辺海域の開発、宇宙空間の開発・利用の戦略的な推進体制の構築など、新しい日本のフロンティアを開拓するための方策を検討していきます。

 国民のみなさまの政治・行政への信頼なくして、国は成り立ちません。行政改革と政治改革の具体的な成果を出すことを通じて、信頼の回復に努めます。すでに終戦直後の昭和21年、「国民の信頼を高めるため、行政の運営を徹底的に刷新する」旨の閣議決定がありました。60年以上を経たにもかかわらず、行政刷新は道半ばです。

 行政に含まれる無駄や非効率を根絶し、真に必要な行政機能の強化に取り組む。こうした行政刷新は、不断に継続・強化しなければなりません。政権交代後に取り組んできた仕分けの手法を深化させ、政府・与党が一体となって「国民の生活が第一」の原点に立ち返り、既得権と戦い、あらゆる行政分野の改革に取り組みます。

 真に国民の奉仕者として能力を発揮し、効率的で質の高い行政サービスを実現できるよう、国家公務員制度改革関連法案の早期成立を図り、国家公務員の人件費削減とあわせて、公務員制度改革の具体化を進めます。

 政治改革で最優先すべき課題は、憲法違反の状態となっている1票の格差の是正です。議員定数の問題を含めた選挙制度のあり方について、与野党で真剣な議論が行われることを期待します。

 野田首相の所信表明演説全文(4)
 経済連携協定の締結を戦略的に追求

 我が国を取り巻く世界の情勢は、大震災後も日々、変動し続けています。新興国の存在感が増し、多極化が進行する新たな時代の呼びかけに対して、我が国の外交もしっかりと応えていかなければなりません。

 我が国を取り巻く安全保障環境も不透明性を増しています。そうした中で、地域の平和や安定を図り、国民の安全を確保すべく、平時からいかなる危機にも迅速に対応する体制を作ることは、国として当然に果たすべき責務です。昨年末に策定した新防衛大綱(参照リンク)に従い、即応性、機動性等を備えた動的防衛力を構築し、新たな安全保障環境に対応していきます。

 日米同盟は我が国の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための公共財であることに変わりはありません。

 半世紀を越える長きにわたり深められてきた日米同盟関係は、大震災でのトモダチ作戦を始め、改めてその意義を確認することができました。首脳同士の信頼関係を早期に構築するとともに、安全保障、経済、文化、人材交流を中心に、さまざまなレベルでの協力を強化し、21世紀にふさわしい同盟関係に深化・発展させていきます。

 普天間飛行場の移設問題については、日米合意を踏まえつつ、普天間飛行場の固定化を回避し沖縄の負担軽減を図るべく、沖縄のみなさまに誠実に説明し理解を求めながら、全力で取り組みます。また、沖縄の振興についても、積極的に取り組みます。

 今後とも世界の成長センターとして期待できるアジア太平洋地域とは、引き続き政治・経済面での関係を強化することはもちろん、文化面での交流も深め、同じ地域に生きる者同士として信頼を醸成し、関係強化に努めます。

 日中関係では、来年の国交正常化40周年を見すえて、幅広い分野で具体的な協力を推進し、中国が国際社会の責任ある一員として、より一層の透明性を持って適切な役割を果たすよう求めながら、戦略的互恵関係を深めます。

 日韓関係については、未来志向の新たな100年に向けて、一層の関係強化を図ります。北朝鮮との関係では、関係国と連携しつつ、日朝平壌宣言(参照リンク)に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を図り、不幸な過去を清算して、国交正常化を追求します。拉致問題については、我が国の主権に関わる重大な問題であり、国の責任において、全ての拉致被害者の一刻も早い帰国に向けて全力を尽くします。

 日露関係については、最大の懸案である北方領土問題を解決すべく精力的に取り組むとともに、アジア太平洋地域のパートナーとしてふさわしい関係の構築に努めます。

 多極化する世界において、各国との確かな絆を育んでいくためには、世界共通の課題の解決にともに挑戦する大きな志が必要です。こうした志ある絆の輪を、官民のさまざまな主体が複層的に広げていかなければなりません。

 大震災からの復旧・復興も、そうした取り組みの一例です。被災地には、世界各国から温かい支援が数限りなく寄せられました。これは、戦後の我が国による国際社会への貢献と信頼の大きな果実とも言えるものです。我が国は唯一の被ばく国であり、未曽有の大震災の被災国でもあります。各国の先頭に立って核軍縮・核不拡散を訴え続けるとともに、原子力安全や防災分野における教訓や知見を他国と共有し、世界への恩返しをしていかなければなりません。

 国と国との結び付きを経済面で強化する取り組みが経済連携です。これは、世界経済の成長を取り込み、産業空洞化を防止していくためにも欠かせない課題です。包括的経済連携に関する基本方針(参照リンク)に基づき、高いレベルの経済連携協定の締結を戦略的に追求します。具体的には、日韓・日豪交渉を推進し、日EU、日中韓の早期交渉開始を目指すとともに、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への交渉参加について、しっかりと議論し、できるだけ早期に結論を出します。

 資源・エネルギーや食料の安定供給の確保などの面でも、経済外交を積極的に進めます。また、途上国支援、気候変動に関する国際交渉への対応、中東・北アフリカ情勢への対応や、ぜい弱国家対策といった諸課題にも、我が国として積極的に貢献していきます。

 議論を通じて合意を目指す

 政治とは、相反する利害や価値観を調整しながら、粘り強く現実的な解決策を導き出す営みです。議会制民主主義の要諦は、対話と理解を丁寧に重ねた合意形成にあります。

 私たちはすでに前政権の下で、対話の積み重ねによって、解決策を見出してきました。ねじれ国会の制約は、議論を通じて合意を目指すという、立法府が本来あるべき姿に立ち返る好機でもあります。

 ここにお集まりの国民を代表する国会議員のみなさま。そして国民のみなさま。改めて申し上げます。この歴史的な国難から日本を再生していくため、この国の持てる力のすべてを結集しようではありませんか。閣僚は一丸となって職責を果たす。官僚は専門家として持てる力を最大限に発揮する。与野党は、徹底的な議論と対話によって懸命に一致点を見出す。政府も企業も個人も、すべての国民が心を合わせて、力を合わせて、この危機に立ち向かおうではありませんか。

 私はこの内閣の先頭に立ち、ひとりひとりの国民の声に、心の叫びに、真摯に耳を澄まします。正心誠意、行動します。ただ国民のためを思い、目の前の危機の克服と宿年の課題の解決のために、愚直に一歩一歩、粘り強く、全力で取り組んでいく覚悟です。

 みなさまのご理解とご協力を改めてお願いして、私の所信の表明といたします。


Re::れんだいこのカンテラ時評746 れんだいこ 2010/06/12
 【鳩山、菅の所信表明演説の物足りなさ、角栄のそれの素晴らしさ考】

 2009年の政権交代により鳩山民主党連合政権が生まれ、鳩山首相は「友愛政治」を詠った。続く2010.6月の突然の鳩山首相−小沢幹事長同時退任劇を受けて菅政権が誕生し、菅首相は「リーダーシップ政治」を打ち出した。物足りなさを覚えたれんだいこはふと田中角栄の政治を仰ぎ見たくなった。角栄は、首相就任直後の所信表明演説で「決断と実行の政治」を詠っている。

 比較するに、鳩山、管のそれの総花的言葉遊びの感触を得るのに対し、角栄のそれは簡潔明瞭、数等倍もより人民大衆生活擁護的である。興味があれば下記の演説で確認するが良かろう。問題は、既に角栄の立派な所信表明演説内容が呈示されていると云うのに、自公からの政権交代を掲げて登場している鳩山、菅が何故にこのラインから大きく後退した線しか打ち出せないのであろうかということにある。誰か、この問題を解いて見せてくれないだろうか。資質問題に拘わることではなかろうか。

 「1972.10.28日、第70回国会に於ける角栄の初の所信表明演説」
 (ttp://www.marino.ne.jp/~rendaico/kakuei/enzetu/syoshinhyomei.htm)

 付言すれば、角栄は、所信表明演説で約束したテーマを次から次へと履行していることである。中国との国交正常化、成長経済政策の維持、国土の均衡ある発展、魅力的な地方都市育成、社会保障・年金・医療制度の充実、高齢者の雇用対策、公務員給与の改善、公共投資の充実による社会資本整備、平和憲法の擁護等々を目標に掲げ、単に口先で云うだけでなく具体的な施策を講じている。鳩山には耳が痛いだろうが、次のように述べている。「政治家は、国民にテーマを示して具体的な目標を明らかにし、期限を示して政策の実現に全力を傾けるべきであります」。

 以上は前置きである。ここでは、「ポスト佐藤の政権取り抗争に於ける角栄の対福田先取の是非」を考察しておきたい。今まで考察したかったのにしていなかった。ここで取り組む。世評の一部では、ロッキード事件で潰された角栄に対し、年の若い角栄が先に福田に譲り、その後に政権取りに向かうのが順序であり、これを顧慮しなかった角栄の自業自得であるなる論を唱えている者が居る。結果論で云えば一理ありそうではあるが正論であろうか、これを問いたい。これを逆に云うと、角栄はなぜ福田より先に政権取りに向かったのか、その真意は奈辺にありやということになる。れんだいこはずっと気になっている。誰か、これを解いて説いてくれないだろうか。

 れんだいこが思うに、角栄と福田では、同じ自民党の且つ同じ佐藤派の重役でありながら、歴史観、社会観、政治観、それらを一まとめにしての政治哲学が違い過ぎていたのではなかろうか。それ故に、角栄は福田に政権を渡せなかったのであり、福田に先んじて角栄政治を実践敷設したかったのではなかろうか。角栄にとって、政治の内実はそれほど真剣なものであり、年齢の順序による政権たらい回しなぞ許されなかったのではなかろうか。これが角福戦争の真意であり、政治史的位置づけになるべきではなかろうか。

 では、福田と角栄の政治にはいかほどの間隔があったのか。これを見ていおくことは興味深いが紙数を増すので割愛する。要するに、福田政治は官僚派のそれであり体制的であり且つ現代世界を牛耳る国際金融資本帝国主義の御用聞きとセットされたものであった。他方、角栄政治は党人派のそれであり新体制的であり且つ国際金融資本帝国主義と対抗する在地土着派的な民族主義のものであった。この原理的な対立が両者を非和解的にしたのではなかろうか。

 もとより政治的な意味においてである。実際の両者は同じ自民党の同じ佐藤派の席を並べ合う仲であり、大人の芸でほどよく付き合っていた。日本政治の特質である半ば抗争半ば和睦と云う高等な暗闘関係を維持していた。その両者であるが、ポスト佐藤の後継争いの段になると両者申し合わせた上で死闘戦に及ぶことになる。これに決着するやルールに従う。勝者側の角栄は敗者を人事で労り、禍根を和らげて行く。決して勝てば官軍の論理で非情の采配を振るうことはない。まさに大人の政治芸を史実に刻んでいる。自民党が長らく政権を保持し得た秘密がここある。つまり政治能力が高いと云うことであろう。

 れんだいこは、ポスト佐藤を廻る政権取り抗争出馬時、角栄が何故この争いに向かったのかの角栄語録、決意表明文を探しているが手に入らない。誰かに教えてくれないだろうか。これをなぜ欲するのかと云うと、角栄政治が如何にマジメなものであったのかを確認する為である。今日びの甘ちゃん政治の姿勢との違いを確認する為である。今や政治家は口をそろえて「政治とカネ」を頻りに云い、クリーン政治を第一に掲げる。しかし出てくるのは、マミー献金であったり、仮想事務所経費であったり、漫画やキャミソール代の経費計上であったりする。この連中が、小沢前幹事長の秘書寮建設の経緯に口を尖らせ、説明責任を唱えて憚らない。

 れんだいこは、その要因は本質的には政治の遊び人性にあると考えている。政治にマジメであれば、自らがマミー献金、仮想事務所経費計上、漫画やキャミソール代経費を計上している場合には、「政治とカネ」問題では黙して語らないものである。それが実際には手前の不祥事が露見するまで他者に対しては説明責任ありと批判し抜くのが相場となっている。そんなみみっちいことより私の政治の質を見てくれ、そこで評価してくれと開き直るのならまだ良い。そうではなく、説明責任あり、役職辞任当然、証人喚問の要あり、議員辞職せよとして訴追運動に精出す。この手合いが如何に精力的にクリーン政治を弁じようとも、人間性に於いてそもフマジメと云うべきではなかろうか。

 なぜこういうことを敢えて記しておきたいのか。それは、昨今ブーメランが手前の頭上に降りかかってくる者が多いからである。野党の自公がクリーン政治を云うのはお笑いでしかないのに、よほど野党ボケしたかクリーン政治の裾を引っ張って放さない。昨今の自民党諸君は口を調法に回す者が政治家とでも思っているのだろう。そういう政治家ばかりになっている気がする。連中がマジメそうにクリーン政治を云えば云うほど、ブーメランが戻って来た時に当たらなければ良いのだが心配してやらねばならない。世話の焼ける御仁たちではある。

 もとへ。こうなると我々は、マジメさとはどういう意味なのか、根本から考察し直さなければならないのではなかろうか。その際、角栄政治のマジメさは鏡になると思う。よしんば二号をもとうが三号をもとうが、政治におけるマジメさは何ら毀損されない、と、れんだいこは考える。違うだろうか。最近は安っぽい正義派が多くて困る。これもネオシオニズム派が流行らしているように思えるのではあるが。なぜなら、かの著作権も連中がもたらしてきたものであり、当のアメリカではかっての著作権万能社会から抜け出しを始めているというのに、日本ではさぁこれからますます強化しようと云うのだから、トラック競技に例えれば既に二周ほど遅れ過ぎていることになる。よってレースにならない。この手合いが殊のほか安っぽい正義を好む。この安っぽい正義が徘徊しており、本当の政治に向かっていないように思えて仕方ない。

 以上、十分ではないが云いたかったことを云い得たと思う。どなたかの参考になればよいとも思う。

 2010.6.12日 れんだいこ拝


Re::れんだいこのカンテラ時評814 れんだいこ 2010/10/01
 【「2010.10.1日の菅首相の所信表明演説」考】

「2010.10.1日の菅首相の所信表明演説」をコメントしておく。総評として、菅首相の低能ぶりを示す稀にみる子供演説であるとしておく。こういう演説を許したとと云うことは、2009年の政権交代以来1年有余、政権交代効果がほぼ潰えたことになる。但し、それは鳩山−菅と続く党内右派によるアクセルではなくブレーキを踏み続けた結果であって、僅かの望みとして党内土着派の小沢政権であったらどうなっていただろうかと憶測し得る余地は残されている。

 ここン十年、自民党もダメ、民主党もダメ、その他諸党もダメと云うダメ尽くしの政治が横行している。お陰で日本は往年の勢いをすっかり失い、米国の一州にされるのか中国の一省にされるのか、はたまた都市部は国際金融資本派に占拠され、日本人民は田舎の山岳に追いやられる悪夢のアジェンダシナリオに歩一歩近づいている気がする。ここで回天させずんば日本丸いよいよ危うしであろう。その為に何を為すべきか。発想を変えないと生き延びられないとひしひしと思う。

「2010.10.1日の菅首相の所信表明演説」は、冒頭、「有言実行内閣」を詠う。解決すべき重要政策課題として、「経済成長」、「財政健全化」、「社会保障改革」の一体的実現、その前提としての「地域主権改革の推進」、「主体的な外交の展開」の五つ問題を掲げている。問題は中身である。どういう按配のものであろうか。

 第一の「経済成長」について。何と、経済成長の為の基礎的要件として何を為すべきかに触れず雇用を増やせば全部解決するかのような「雇用万能論」にシフトしている。雇用自体を自己目的化している。極めて危険な経済音痴ではなかろうか。「円高、デフレ状況に対する緊急的な対応」として、第1段階、第2段階、第3段階と分け、それぞれの効能を詠っているが具体的なキモに触れていない。総じてコマーシャルになっている。首相の意向を受けた官僚作文の原稿読みに過ぎないことが分かる。

 第二の「財政健全化」について。2015年度までに基礎的財政収支の赤字を対国内総生産(GDP)比で今年度の半分、20年度までに黒字化を達成するとしている。無駄を徹底削減した来年度予算を組むと云う。事業仕分けを継続し、引き続き強力に無駄の削減を徹底すると云う。国家公務員の総人件費の2割削減を云う。国の出先機関の統廃合を含め各府省の機構や定員をスリムにすると云う。云うのは勝手だが、できもしないのに或いはヤル気もないのに云うのを無責任と云う。

 第三の「社会保障改革」について。何とここで「多少の負担をお願いしても安心できる社会を実現することが望ましい」として増税策を呈示している。「社会保障に必要な財源をどう確保するか一体的に議論する必要がある」、「結論を得て実施する際は、国民に信を問う」としている。要するに、社会保障を引き合いに出して増税論をぶっていることになる。社会保障に情熱があるのではなく、増税に力んでいることが分かる。誰かが知恵を付け、こう云わせているのであろう。

 第四の「地域主権改革の推進」について。中央政権と地方自治との理念的在り方論を掲げ、大綱を示すと云う作風は微塵もない。元々確固とした政治哲学がないのだろうと思われる。「ひも付き補助金」の一括交付金化に着手する、各府省の枠を超えて投資的資金を集め、自由度の高い交付金に再編すると云う。「投資的資金を集め」とはどういう意味だろう。ギャンブルでもしようと云うのだろうか。

 第五の「主体的な外交の展開」について、「防衛計画の大綱の見直しに当たっては、真に役に立つ実効的な防衛力を整備するため、これからの時代にふさわしいものを、本年中に策定する」と云う。どういうステキなものがでてくるのだろうか。「日米同盟基軸論」、「日中関係一衣帯水論」、「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)重視論」、「東南アジア諸国連合(ASEAN)環境整備論」、「北朝鮮注視論」をおざなりに述べている。補足として、「政治改革と議員定数削減」に触れ、「カネのかからないクリーンな政治の実現」、「企業・団体献金の禁止」、「国会議員の定数削減」について言及している。

 一体、この首相所信表明演説は何なんだろうか。このところのそれがレベルが低いのは知られているが、こたびのそれは更に劣化させている。この内閣で第一に何を目指すのか。国内的には何を、国外的には何をと云う焦点になるものが一切ない。情況に合わせて漂う浮草政権論、つまり国家論をぶっているに過ぎないことになる。

 れんだいこの予見では、こういう所信表明演説であるからして、トンデモナイおバカな政権であったことが知れる日は近いと思う。既に兆候が出ている。政治主導、官邸主導をを云いながら、それが問われる際になると官僚のしたこと検察のしたことで政府は与り知らぬと逃げの手を打っている。尖閣諸島事件では平然と「ビデオは見ていない」と云う。有り得て良いことだろうか。れんだいこには信じられない。

 こうなると、問題は、国際金融資本帝国主義が、この政権をどう操作誘導しようとしているのかを窺うべきだろう。これが今後全ての政治事象、政変を説き明かすカギになりそうだ。国会質疑は一切ムダ、考証の必要なしと極論しておこう。

 2010.10.1日 れんだいこ拝






(私論.私見)