管首相の所信表明演説考

 (最新見直し2010.10.01日)

 (れんだいこのショートメッセージ)

 ここで、菅首相の所信表明演説を確認しておくことにする。

 2009.9.12日 れんだいこ拝



【所信表明演説全文】
 菅首相の所信表明演説全文(1)

 菅直人首相の所信表明演説全文は次の通り。

 一 はじめに

 国民の皆さま、国会議員の皆さま、菅直人です。このたび、国会の指名により、内閣総理大臣の重責を担うこととなりました。国民の皆さまの期待に応えるべく、力の限りを尽くして頑張る覚悟です。

 (信頼回復による再出発)

 長きにわたる閉塞状況を打ち破って欲しい、多くの方々の、この強い思いにより、昨年夏、政権交代が実現しました。しかしながら、その後、「政治と金」の問題、さらに普天間基地移設をめぐる混乱により、当初いただいた政権への期待が大きく揺らぎました。私も、前内閣の一員として、こうした状況を防げなかった責任を痛感しています。鳩山前総理は、御自身と民主党の小沢前幹事長に関する「政治と金」の問題、そして普天間基地移設問題に対する責任を率直に認め、辞任という形で自らけじめをつけられました。

 前総理の勇断を受け、政権を引き継ぐ私に課された最大の責務、それは、歴史的な政権交代の原点に立ち返って、この挫折を乗り越え、国民の皆さまの信頼を回復することです。

 (「草の根」からの取組)

 私の政治活動は、今を遡ること三十年余り、参議院議員選挙に立候補した市川房枝先生の応援から始まりました。市民運動を母体とした選挙活動で、私は事務局長を務めました。ボランティアの青年が、ジープで全国を横断するキャラバンを組むなど、まさに草の根の選挙を展開しました。そして当選直後、市川先生は青島幸男さんと共に経団連の土光会長を訪ね、経団連による企業献金の斡旋を中止する約束を取り付けたのです。この約束は、その後骨抜きになってしまいましたが、まさに本年、経団連は企業献金への組織的関与の廃止を決めました。「一票の力が政治を変える」。当時の強烈な体験が私の政治の原点です。政治は国民の力で変えられる。この信念を胸に、与えられた責任を全うしていきます。

 (身一つでの政治参加)

 私は、山口県宇部市に生まれ、高校生のとき、企業の技術者だった父の転勤で東京に移りました。東京ではサラリーマンが大きな借金をしないと家を買えない。父の苦労を垣間見たことが、後に都市部の土地問題に取り組むきっかけとなりました。大学卒業後、特許事務所で働きながら、市民運動に参加しました。市川先生の選挙を支援した二年後、いわゆるロッキード選挙で初めて国政に挑戦しました。初出馬の際には、論文で、「否定論理からは何も生まれない」、「あきらめないで参加民主主義をめざす」と題して、参加型の民主主義により、国民の感覚、常識を政治に取り戻すことが必要だと訴えました。三度の落選を経て、一九八〇年に初当選しましたが、議員生活はミニ政党からのスタートでした。民主党の国会議員の仲間にも、私と同様、若くして地盤も資金もない身一つで政治の世界に飛び込んだ人達がたくさんおられます。志をもって努力すれば誰でも政治に参加できる。そういう政治を創ろうではありませんか。

 (真の国民主権の実現)

 私の基本的な政治理念は、国民が政治に参加する真の国民主権の実現です。その原点は、政治学者である松下圭一先生に学んだ「市民自治の思想」です。従来、我が国では、行政を官僚が仕切る「官僚内閣制」の発想が支配してきました。しかし、我が国の憲法は、国民が国会議員を選び、そして、国会の指名を受けた内閣総理大臣が内閣を組織すると定めています。松下先生が説かれるように、本来は、「国会内閣制」なのです。政治主導とは、より多数の国民に支持された政党が、内閣と一体となって国政を担っていくことを意味します。これにより、官僚主導の行政を変革しなければなりません。広く開かれた政党を介して、国民が積極的に参加し、国民の統治による国政を実現する。この目標に向け邁進いたします。

 (新内閣の政策課題)

 私は、新内閣の政策課題として、「戦後行政の大掃除の本格実施」、「経済・財政・社会保障の一体的建て直し」及び「責任感に立脚した外交・安全保障政策」の三つを掲げます。

 二 改革の続行―戦後行政の大掃除の本格実施

 (改革の続行)

 第一の政策課題は、昨年の政権交代から始めた改革の続行です。鳩山前内閣は、「戦後行政の大掃除」として、それまでの政権が成し得なかった事業仕分けや国家公務員制度改革に果敢に挑みました。しかし、道半ばです。新内閣は、国民に約束した改革を続行し、貫徹させなければなりません。改革には反発や抵抗がつきものです。気を緩めれば改革は骨抜きになり、逆行しかねません。時計の針を決して戻すことなく、政治主導によって改革を推し進めます。

 (無駄遣いの根絶と行政の見直し)

 まず、これまで推進してきた無駄遣いの根絶を一層徹底します。前内閣の下では、昨年と今年の二回にわたって事業仕分けを実施しました。これまで国民に見えなかった予算編成の過程や独立行政法人等の政府関連法人の事業内容、これらを一つ一つ公開の場で確認し、行政の透明性を飛躍的に高めました。限られた人材・予算を有効に活用するため、この取組を続行します。

 行政組織や国家公務員制度の見直しにも引き続き取り組みます。省庁の縦割りを排除し、行政の機能向上を図るとともに、国家公務員の天下り禁止などの取組も本格化させます。

 行政の密室性の打破も進めます。私は、一九九六年、厚生大臣として薬害エイズ問題に力を注ぎました。当時、厚生省の事務方は、関連資料は見つからないという態度に終始しました。これに対し、私は資料調査を厳命し、その結果、資料の存在が明らかになりました。この情報公開を契機に、問題の解明や患者の方々の救済が実現しました。情報公開の重要性は、他の誰よりも強く認識しています。前内閣においては、財務大臣として、外務大臣とともに日米密約の存在を明らかにしました。情報公開法の改正を検討するなど、今後も、こうした姿勢を貫きます。

 (地域主権・郵政改革の推進)

 さらに、地域主権の確立を進めます。中央集権型の画一的な行政では、多様な地域に沿った政策の実現に限界があります。住民参加による行政を実現するためには、地域主権の徹底が不可欠です。「総論の段階」から「各論の段階」に進む時が来ています。地方の皆さまと膝をつきあわせ、各地の要望を踏まえ、権限や財源の移譲を丁寧に進めていきます。その上で、特区制度も活用しつつ、各行政分野で地域ごとに具体的な結論を出していきます。

 郵政事業については、全国において郵便局の基本的なサービスを一体的に提供し、また、現在の経営形態を再編するため、民主党と国民新党の合意に基づき、郵政改革法案の速やかな成立を期してまいります。

 三 閉塞状況の打破―経済・財政・社会保障の一体的建て直し

 第二の政策課題として、国民が未来に対し希望を持てる社会を築くため、経済・財政・社会保障を一体的に建て直します。九十年代初頭のバブル崩壊から約二十年、日本経済が低迷を続けた結果、国民はかつての自信を失い、将来への漠然とした不安に萎縮しています。国民の皆さまの、閉塞状況を打ち破って欲しいという期待に応えるのが、新内閣の任務です。この建て直しは、「第三の道」とも呼ぶべき新しい設計図によるものです。

 (「第三の道」による建て直し)

 過去二十年間の経済政策は、私が「第一の道」、「第二の道」と呼ぶ考え方に沿って進められてきました。「第一の道」とは、「公共事業中心」の経済政策です。六十年代から七十年代にかけての高度経済成長の時代には、道路、港湾、空港などの整備が生産性の向上をもたらし、経済成長の原動力となりました。しかし、基礎的なインフラが整備された八十年代になると、この投資と経済効果の関係が崩壊し、九十年代以降は様相が全く変わりました。バブル崩壊以降に行われた巨額の公共事業の多くは、結局、有効な成果を上げませんでした。

 その後の十年間は、行き過ぎた市場原理主義に基づき、供給サイドに偏った、生産性重視の経済政策が進められてきました。これが「第二の道」です。この政策は、一企業の視点から見れば、妥当とも言えます。企業では大胆なリストラを断行して業績を回復すれば、立派な経営者として賞賛されるでしょう。しかし、国全体としてみれば、この政策によって多くの人が失業する中で、国民生活はさらに厳しくなり、デフレが深刻化しました。「企業は従業員をリストラできても、国は国民をリストラすることができない」のです。生産性を向上させる支援は必要ですが、それと同時に、需要や雇用を拡大することが一層重要なのです。それを怠った結果、二年前の日比谷公園の派遣村に象徴されるように、格差の拡大が強く意識され、社会全体の不安が急速に高まったのです。

 産業構造・社会構造の変化に合わない政策を遂行した結果、経済は低迷し続けました。こうした過去の失敗に学び、現在の状況に適した政策として、私たちが追求するのは「第三の道」です。これは、経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげようとする政策です。現在まで続く閉塞感の主たる要因は、低迷する経済、拡大する財政赤字、そして、信頼感が低下した社会保障です。新内閣は、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の一体的実現を、政治の強いリーダーシップで実現していく決意です。

 (「強い経済」の実現)

 まず、「強い経済」の実現です。一昨年の金融危機は、外需に過度に依存していた我が国経済を直撃し、他の国以上に深刻なダメージを与えました。強い経済を実現するためには、安定した内需と外需を創造し、富が広く循環する経済構造を築く必要があります。

 菅首相の所信表明演説全文(2)

 では、どのように需要を創り出すのか。その鍵が、「課題解決型」の国家戦略です。現在の経済社会には、新たな課題が山積しています。それぞれの課題に正面から向き合い、その処方箋を提示することにより、新たな需要と雇用の創造を目指します。この考え方に立ち、昨年来、私が責任者となって検討を進めている「新成長戦略」では、「グリーン・イノベーション」、「ライフ・イノベーション」、「アジア経済」、「観光・地域」を成長分野に掲げ、これらを支える基盤として「科学・技術」と「雇用・人材」に関する戦略を実施することとしています。

 第一の「グリーン・イノベーション」には、鳩山前総理が積極的に取り組まれ、二〇二〇年における温室効果ガスの二十五パーセント削減目標を掲げた地球温暖化対策も含まれます。その他にも、生物多様性の維持や、人間に不可欠な「水」に係わる産業など、期待される分野は数多く存在し、その向こうには巨大な需要が広がっています。運輸部門や生活関連部門、原子力産業を含むエネルギー部門、さらには、まちづくりの分野で新技術の開発や新事業の展開が期待されます。

 第二は、「ライフ・イノベーション」による健康大国の実現です。子育ての安心や老後の健康を願う思いに終着点はありません。こうした願いを叶える処方箋を示すことが、新たな価値を産み、雇用を創り出します。

 第三は、「アジア経済戦略」です。急速な成長を続けるアジアの多くの地域では、都市化や工業化、それに伴う環境問題の発生が課題となっています。少子化・高齢化も懸念されています。また、日本では充足されつつある鉄道、道路、電力、水道などは、今後整備が必要な社会資本です。世界に先駆けて、これらの課題を解決するモデルを提示することで、アジア市場の新たな需要に応えることができます。こうした需要を捉えるため、海外との人的交流の強化、ハブ機能を強化するインフラ整備や規制改革を進めます。

 第四の「観光立国・地域活性化戦略」のうち、観光は、文化遺産や自然環境を活かして振興することにより、地域活性化の切り札になります。既に、中国からの観光客の拡大に向け、ビザの発行条件の大幅緩和などが鳩山前内閣の下で始められました。

 農山漁村が生産、加工、流通までを一体的に担い、付加価値を創造することができれば、そこに雇用が生まれ、子どもを産み育てる健全な地域社会が育まれます。農林水産業を地域の中核産業として発展させることにより、食料自給率の向上も期待されます。特に、低炭素社会で新たな役割も期待される林業は、戦後植林された樹木が生長しており、路網整備等の支援により林業再生を期待できる好機にあります。戸別所得補償制度の導入を始めとする農林水産行政は、こうした観点に立って進めます。また、今この瞬間も、宮崎県の畜産農家の方々は、我が子のように大切に育てた牛や豚を大きな不安をもって世話しておられます。地元では口蹄疫の拡大を止めようと懸命な作業が続けられています。政府は、迅速な初動対応や感染拡大の阻止に総力を挙げるとともに、影響を受けた方々の生活支援・経営再建対策に万全を期します。

 さらに、地域の活性化に向け、真に必要な社会資本整備については、民間の知恵と資金を活用して戦略的に進めるとともに、意欲あふれる中小企業を応援します。

 これらの成長分野を支えるため、第五の「科学・技術立国戦略」の下で、我が国が培ってきた科学・技術力を増強します。効果的・効率的な技術開発を促進するための規制改革や支援体制の見直しを進めます。我が国の未来を担う若者が夢を抱いて科学の道を選べるような教育環境を整備するとともに、世界中から優れた研究者を惹きつける研究環境の整備を進めます。イノベーション促進の基盤となる知的財産や情報通信技術の利活用も促進します。

 第六の「雇用・人材戦略」により、成長分野を担う人材の育成を推進します。少子高齢化に伴う労働人口の減少という制約を跳ね返すため、若者や女性、高齢者の就業率向上を目指します。さらに、非正規労働者の正規雇用化を含めた雇用の安定確保、産業構造の変化に対応した成長分野を中心とする実践的な能力育成の推進、ディーセント・ワーク、すなわち、人間らしい働きがいのある仕事の実現を目指します。女性の能力を発揮する機会を増やす環境を抜本的に整備し、「男女共同参画社会」の実現を推進します。

 人材は成長の原動力です。教育、スポーツ、文化など様々な分野で、国民一人ひとりの能力を高めることにより、厚みのある人材層を形成します。

 こうした具体策を盛り込んだ「新成長戦略」の最終的とりまとめを今月中に公表し、官民を挙げて「強い経済」の実現を図り、二〇二〇年度までの年平均で、名目三パーセント、実質二パーセントを上回る経済成長を目指します。また、当面はデフレからの脱却を喫緊の課題と位置づけ、日本銀行と一体となって、強力かつ総合的な政策努力を行います。

 (財政健全化による「強い財政」の実現)

 次に、「強い財政」の実現です。一般に民間消費が低迷する経済状況の下では、国債発行を通じて貯蓄を吸い上げ、財政出動により需要を補う経済政策に一定の合理性はあります。しかしながら、我が国では、九十年代に集中した巨額の公共事業や減税、高齢化の急速な進展による社会保障費の急増などにより、財政は先進国で最悪という厳しい状況に陥っています。もはや、国債発行に過度に依存する財政は持続困難です。ギリシャに端を発したユーロ圏の混乱に見られるように、公的債務の増加を放置し、国債市場における信認が失われれば、財政破たんに陥るおそれがあります。

 我が国の債務残高は巨額であり、その解消を一朝一夕に行うことは困難です。だからこそ、財政健全化に向けた抜本的な改革に今から着手する必要があります。具体的には、まず、無駄遣いの根絶を強力に進めます。次に、成長戦略を着実に推進します。予算編成に当たっては、経済成長や雇用創出への寄与度も基準とした優先順位付けを行います。これにより、目標の経済成長を実現し、税収増を通じた財政の健全化につなげます。

 我が国財政の危機的状況を改善するためには、こうした無駄遣いの根絶と経済成長を実現する予算編成に加え、税制の抜本改革に着手することが不可避です。現状の新規国債の発行水準を継続すれば、数年のうちに債務残高はGDP比二百パーセントを超えることとなります。そのような事態を避けるため、将来の税制の全体像を早急に描く必要があります。

 以上の観点を踏まえ、前内閣の下では、私も参画し、経済の将来展望を見据えつつ「中期財政フレーム」と中長期的な財政規律を明らかにする「財政運営戦略」を検討してきました。これを今月中に策定します。今国会、自民党から、「財政健全化責任法案」が国会に提出されました。

 そこで提案があります。我が国の将来を左右する、この重大な課題について、与党・野党の壁を越えた国民的な議論が必要ではないでしょうか。財政健全化の緊要性を認める超党派の議員により、「財政健全化検討会議」を創り、建設的な議論を共に進めようではありませんか。

 (「強い社会保障」の実現)

 以上述べたような「強い経済」、「強い財政」と同時に、「強い社会保障」の実現を目指します。

 これまでの経済論議では、社会保障は、少子高齢化を背景に負担面ばかりが強調され、経済成長の足を引っ張るものと見なされる傾向がありました。私は、そのような立場に立ちません。医療・介護や年金、子育て支援などの社会保障に不安や不信を抱いていては、国民は、安心してお金を消費に回すことができません。一方、社会保障には雇用創出を通じて成長をもたらす分野が数多く含まれています。他国の経験は、社会保障の充実が雇用創出を通じ、同時に成長をもたらすことが可能だと教えています。

 経済、財政、社会保障を相互に対立するものと捉える考え方は、百八十度転換する必要があります。それぞれが互いに好影響を与えうる「WIN・WIN」の関係にあると認識すべきです。この認識に基づき、新成長戦略において「ライフ・イノベーション」を重点分野に位置づけ、成長戦略の視点からも、「強い社会保障」を目指します。そして、財政健全化の取組は、財政の機能を通じて、社会保障の安定的な提供を確保し、国民に安心を約束することにより、持続的な成長を導くものなのです。

 こうした「強い社会保障」を実現し「少子高齢社会を克服する日本モデル」を提示するため、各制度の建て直しを進めます。年金制度については、記録問題に全力を尽くすとともに、現在の社会に適合した制度を一刻も早く構築することが必要です。党派を超えた国民的議論を始めるため、新たな年金制度に関する基本原則を提示します。医療制度についても建て直しを進め、医療の安心の確保に努めます。介護についても、安心して利用できるサービスの確立に努めます。子育て支援の充実は待ったなしの課題です。子ども手当に加え、待機児童の解消や幼保一体化による子育てサービスの充実に、政府を挙げて取り組みます。

 さらに、社会保障分野などのサービス向上を図り、真に手を差し伸べるべき方々に重点的に社会保障を提供する観点からも、番号制度などの基盤整備が求められています。このため、社会保障や税の番号制度の導入に向け、国民の皆さまに具体的な選択肢を近く提示します。

 (「一人ひとりを包摂する社会」の実現)

 こうした施策に加え、今、私が重視しているのは、「孤立化」という新たな社会リスクに対する取組です。私は一昨年から、「反・貧困ネットワーク」事務局長の湯浅誠さんと一緒に、派遣村などの現場で貧困・困窮状態にある方々を支援してきました。その活動の中で、「ホームレス」には二つの意味があることを再認識しました。一つの意味は、物理的に住む家がないという「ハウスレス」ということですが、もう一つの、より重要な意味は、ある人が様々な苦難に遭遇したときに、「傍で支援してくれる家族がいない」ということです。人は誰しも独りでは生きていけません。悩み、挫け、倒れたときに、寄り添ってくれる人がいるからこそ、再び立ち上がれるのです。我が国では、かつて、家族や地域社会、そして企業による支えが、そうした機能を担ってきました。それが急速に失われる中で、社会的排除や格差が増大しています。ネットカフェに寝泊まりする若者や、地域との関係が断ち切られた一人暮らしの高齢者など、老若男女を問わず、「孤立化」する人々が急増しています。従来のしがらみからの解放は、強者にとっては自由を拡大するものかも知れませんが、弱い立場の人にとっては、孤独死で大切な人生を終えてしまうおそれがあるのです。

 菅首相の所信表明演説全文(3)

 私は、湯浅さんたちが提唱する「パーソナル・サポート」という考え方に深く共感しています。様々な要因で困窮している方々に対し、専門家であるパーソナル・サポーターが随時相談に応じ、制度や仕組みの「縦割り」を超え、必要な支援を個別的・継続的に提供するものです。役所の窓口を物理的に一カ所に集めるワンストップ・サービスは、今後も行う必要がありますが、時間や場所などに限界があります。「寄添い・伴走型支援」であるパーソナル・サポートは、「人によるワンストップ・サービス」としてこの限界を乗り越えることができます。こうした取組により、雇用に加え、障がい者や高齢者などの福祉、人権擁護、さらに年間三万人を超える自殺対策の分野で、様々な関係機関や社会資源を結びつけ、支え合いのネットワークから誰一人として排除されることのない社会、すなわち、「一人ひとりを包摂する社会」の実現を目指します。鳩山前総理が、最も力を入れられた「新しい公共」の取組も、こうした活動の可能性を支援するものです。公共的な活動を行う機能は、従来の行政機関、公務員だけが担う訳ではありません。地域の住民が、教育や子育て、まちづくり、防犯・防災、医療・福祉、消費者保護などに共助の精神で参加する活動を応援します。

 四 責任感に立脚した外交・安全保障政策

 (国民の責任感に立脚した外交)

 第三の政策課題は、責任感に立脚した外交・安全保障政策です。

 私は若い頃、イデオロギーではなく、現実主義をベースに国際政治を論じ、「平和の代償」という名著を著わされた永井陽之助先生を中心に、勉強会を重ねました。我が国が、憲法の前文にあるように、「国際社会において、名誉ある地位を占め」るための外交は、どうあるべきか。永井先生との議論を通じ、相手国に受動的に対応するだけでは外交は築かれないと学びました。この国をどういう国にしたいのか、時には自国のために代償を払う覚悟ができるか。国民一人ひとりがこうした責任を自覚し、それを背景に行われるのが外交であると考えます。

 今日、国際社会は地殻変動ともいうべき大きな変化に直面しています。その変化は、経済のみならず、外交や軍事の面にも及んでいます。こうした状況の中、世界平和という理想を求めつつ、「現実主義」を基調とした外交を推進すべきと考えます。

 (外交・安全保障政策の考え方)

 我が国は、太平洋に面する海洋国家であると同時に、アジアの国でもあります。この二面性を踏まえた上で、我が国の外交を展開します。具体的には、日米同盟を外交の基軸とし、同時にアジア諸国との連携を強化します。

 日米同盟は、日本の防衛のみならず、アジア・太平洋の安定と繁栄を支える国際的な共有財産と言えます。今後も同盟関係を着実に深化させます。

 アジアを中心とする近隣諸国とは、政治・経済・文化等の様々な面で関係を強化し、将来的には東アジア共同体を構想していきます。中国とは戦略的互恵関係を深めます。韓国とは未来志向のパートナーシップを構築します。日露関係については、政治と経済を車の両輪として進めつつ、最大の懸案である北方領土問題を解決して平和条約を締結すべく、精力的に取り組みます。ASEAN諸国やインド等との連携は、これを、さらに充実させます。今年開催されるAPECにおいては、議長として積極的な役割を果たします。EPA・広域経済連携については、国内制度改革と一体的に推進していきます。

 我が国は、地球規模の課題にも積極的な役割を果たしていきます。気候変動問題については、COP16に向けて、全ての主要国による、公平かつ実効的な国際的枠組みを構築するべく、米国、EU、国連などとも連携しながら、国際交渉を主導します。この秋、愛知県名古屋市で開催されるCOP10では、生物の多様性を守る国際的な取組を前進させます。「核のない世界」に向け、我が国が先頭に立ってリーダーシップを発揮します。アフガニスタンの復興支援、TICAD4の公約を踏まえたアフリカ支援を継続するほか、ミレニアム開発目標の達成に向け最大限努力します。

 北朝鮮については、韓国哨戒艦沈没事件は許し難いものであり、韓国を全面的に支持しつつ、国際社会としてしっかりと対処する必要があります。拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決を図り、不幸な過去を清算し、国交正常化を追求します。拉致問題については、国の責任において、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国に向けて全力を尽くします。国連安保理決議の違反を重ねるイランに対し、我が国は平和的・外交的解決を求めていきます。

 国際的な安全保障環境に対応する観点から、防衛力の在り方に見直しを加え、防衛大綱の見直しと中期防衛力の整備計画を年内に発表します。

 (普天間基地移設問題)

 沖縄には米軍基地が集中し、沖縄の方々に大きな負担を引き受けていただいています。普天間基地の移設・返還と一部海兵隊のグアム移転は、何としても実現しなければなりません。

 普天間基地移設問題では先月末の日米合意を踏まえつつ、同時に閣議決定でも強調されたように、沖縄の負担軽減に尽力する覚悟です。

 沖縄は、独自の文化を育んできた、我が国が誇るべき地域です。その沖縄が、先の大戦で最大規模の地上戦を経験し、多くの犠牲を強いられることとなりました。今月二十三日、沖縄全戦没者追悼式が行われます。この式典に参加し、沖縄を襲った悲惨な過去に想いを致すとともに、長年の過重な負担に対する感謝の念を深めることから始めたいと思います。

 五 むすび

 これまで述べてきたように、私の内閣が果たすべき使命は、二十年近く続く閉塞状況を打ち破り、元気な日本を復活させることです。その道筋は、この所信表明演説で申し述べました。後は実行できるかどうかにかかっています。

 これまで、日本において国家レベルの目標を掲げた改革が進まなかったのは、政治的リーダーシップの欠如に最大の原因があります。つまり、個々の団体や個別地域の利益を代表する政治はあっても、国全体の将来を考え、改革を進める大きな政治的リーダーシップが欠如していたのです。こうしたリーダーシップは、個々の政治家や政党だけで生み出されるものではありません。国民の皆様にビジョンを示し、そして、国民の皆様が「よし、やってみろ」と私を信頼してくださるかどうかで、リーダーシップを持つことができるかどうかが決まります。

 私は、本日の演説を皮切りに、順次ビジョンを提案していきます。私の提案するビジョンを御理解いただき、是非とも私を信頼していただきたいと思います。リーダーシップを持った内閣総理大臣になれるよう、国民の皆様の御支援を心からお願いし、私の所信表明とさせていただきます。


Re::れんだいこのカンテラ時評746 れんだいこ 2010/06/12
 【鳩山、菅の所信表明演説の物足りなさ、角栄のそれの素晴らしさ考】

 2009年の政権交代により鳩山民主党連合政権が生まれ、鳩山首相は「友愛政治」を詠った。続く2010.6月の突然の鳩山首相−小沢幹事長同時退任劇を受けて菅政権が誕生し、菅首相は「リーダーシップ政治」を打ち出した。物足りなさを覚えたれんだいこはふと田中角栄の政治を仰ぎ見たくなった。角栄は、首相就任直後の所信表明演説で「決断と実行の政治」を詠っている。

 比較するに、鳩山、管のそれの総花的言葉遊びの感触を得るのに対し、角栄のそれは簡潔明瞭、数等倍もより人民大衆生活擁護的である。興味があれば下記の演説で確認するが良かろう。問題は、既に角栄の立派な所信表明演説内容が呈示されていると云うのに、自公からの政権交代を掲げて登場している鳩山、菅が何故にこのラインから大きく後退した線しか打ち出せないのであろうかということにある。誰か、この問題を解いて見せてくれないだろうか。資質問題に拘わることではなかろうか。

 「1972.10.28日、第70回国会に於ける角栄の初の所信表明演説」
 (ttp://www.marino.ne.jp/~rendaico/kakuei/enzetu/syoshinhyomei.htm)

 付言すれば、角栄は、所信表明演説で約束したテーマを次から次へと履行していることである。中国との国交正常化、成長経済政策の維持、国土の均衡ある発展、魅力的な地方都市育成、社会保障・年金・医療制度の充実、高齢者の雇用対策、公務員給与の改善、公共投資の充実による社会資本整備、平和憲法の擁護等々を目標に掲げ、単に口先で云うだけでなく具体的な施策を講じている。鳩山には耳が痛いだろうが、次のように述べている。「政治家は、国民にテーマを示して具体的な目標を明らかにし、期限を示して政策の実現に全力を傾けるべきであります」。

 以上は前置きである。ここでは、「ポスト佐藤の政権取り抗争に於ける角栄の対福田先取の是非」を考察しておきたい。今まで考察したかったのにしていなかった。ここで取り組む。世評の一部では、ロッキード事件で潰された角栄に対し、年の若い角栄が先に福田に譲り、その後に政権取りに向かうのが順序であり、これを顧慮しなかった角栄の自業自得であるなる論を唱えている者が居る。結果論で云えば一理ありそうではあるが正論であろうか、これを問いたい。これを逆に云うと、角栄はなぜ福田より先に政権取りに向かったのか、その真意は奈辺にありやということになる。れんだいこはずっと気になっている。誰か、これを解いて説いてくれないだろうか。

 れんだいこが思うに、角栄と福田では、同じ自民党の且つ同じ佐藤派の重役でありながら、歴史観、社会観、政治観、それらを一まとめにしての政治哲学が違い過ぎていたのではなかろうか。それ故に、角栄は福田に政権を渡せなかったのであり、福田に先んじて角栄政治を実践敷設したかったのではなかろうか。角栄にとって、政治の内実はそれほど真剣なものであり、年齢の順序による政権たらい回しなぞ許されなかったのではなかろうか。これが角福戦争の真意であり、政治史的位置づけになるべきではなかろうか。

 では、福田と角栄の政治にはいかほどの間隔があったのか。これを見ていおくことは興味深いが紙数を増すので割愛する。要するに、福田政治は官僚派のそれであり体制的であり且つ現代世界を牛耳る国際金融資本帝国主義の御用聞きとセットされたものであった。他方、角栄政治は党人派のそれであり新体制的であり且つ国際金融資本帝国主義と対抗する在地土着派的な民族主義のものであった。この原理的な対立が両者を非和解的にしたのではなかろうか。

 もとより政治的な意味においてである。実際の両者は同じ自民党の同じ佐藤派の席を並べ合う仲であり、大人の芸でほどよく付き合っていた。日本政治の特質である半ば抗争半ば和睦と云う高等な暗闘関係を維持していた。その両者であるが、ポスト佐藤の後継争いの段になると両者申し合わせた上で死闘戦に及ぶことになる。これに決着するやルールに従う。勝者側の角栄は敗者を人事で労り、禍根を和らげて行く。決して勝てば官軍の論理で非情の采配を振るうことはない。まさに大人の政治芸を史実に刻んでいる。自民党が長らく政権を保持し得た秘密がここある。つまり政治能力が高いと云うことであろう。

 れんだいこは、ポスト佐藤を廻る政権取り抗争出馬時、角栄が何故この争いに向かったのかの角栄語録、決意表明文を探しているが手に入らない。誰かに教えてくれないだろうか。これをなぜ欲するのかと云うと、角栄政治が如何にマジメなものであったのかを確認する為である。今日びの甘ちゃん政治の姿勢との違いを確認する為である。今や政治家は口をそろえて「政治とカネ」を頻りに云い、クリーン政治を第一に掲げる。しかし出てくるのは、マミー献金であったり、仮想事務所経費であったり、漫画やキャミソール代の経費計上であったりする。この連中が、小沢前幹事長の秘書寮建設の経緯に口を尖らせ、説明責任を唱えて憚らない。

 れんだいこは、その要因は本質的には政治の遊び人性にあると考えている。政治にマジメであれば、自らがマミー献金、仮想事務所経費計上、漫画やキャミソール代経費を計上している場合には、「政治とカネ」問題では黙して語らないものである。それが実際には手前の不祥事が露見するまで他者に対しては説明責任ありと批判し抜くのが相場となっている。そんなみみっちいことより私の政治の質を見てくれ、そこで評価してくれと開き直るのならまだ良い。そうではなく、説明責任あり、役職辞任当然、証人喚問の要あり、議員辞職せよとして訴追運動に精出す。この手合いが如何に精力的にクリーン政治を弁じようとも、人間性に於いてそもフマジメと云うべきではなかろうか。

 なぜこういうことを敢えて記しておきたいのか。それは、昨今ブーメランが手前の頭上に降りかかってくる者が多いからである。野党の自公がクリーン政治を云うのはお笑いでしかないのに、よほど野党ボケしたかクリーン政治の裾を引っ張って放さない。昨今の自民党諸君は口を調法に回す者が政治家とでも思っているのだろう。そういう政治家ばかりになっている気がする。連中がマジメそうにクリーン政治を云えば云うほど、ブーメランが戻って来た時に当たらなければ良いのだが心配してやらねばならない。世話の焼ける御仁たちではある。

 もとへ。こうなると我々は、マジメさとはどういう意味なのか、根本から考察し直さなければならないのではなかろうか。その際、角栄政治のマジメさは鏡になると思う。よしんば二号をもとうが三号をもとうが、政治におけるマジメさは何ら毀損されない、と、れんだいこは考える。違うだろうか。最近は安っぽい正義派が多くて困る。これもネオシオニズム派が流行らしているように思えるのではあるが。なぜなら、かの著作権も連中がもたらしてきたものであり、当のアメリカではかっての著作権万能社会から抜け出しを始めているというのに、日本ではさぁこれからますます強化しようと云うのだから、トラック競技に例えれば既に二周ほど遅れ過ぎていることになる。よってレースにならない。この手合いが殊のほか安っぽい正義を好む。この安っぽい正義が徘徊しており、本当の政治に向かっていないように思えて仕方ない。

 以上、十分ではないが云いたかったことを云い得たと思う。どなたかの参考になればよいとも思う。

 2010.6.12日 れんだいこ拝

 所信表明演説全文(時事ドットコム)
 http://www.asyura2.com/10/senkyo96/msg/560.html

 【1・はじめに】

 国民の皆さん、国会議員の皆さん、菅直人です。6月に政権を担って4カ月、9月に民主党の代表に再選され、党と内閣の改造を行い、政権を本格稼働させる段階に入りました。「有言実行内閣」の出発です。何を実行するのか。一言で申せば、これまで先送りしてきた重要政策課題の実行です。経済低迷が20年続き、失業率が増加し、自殺や孤独死が増え、少子高齢化対策が遅れるなど、社会の閉塞(へいそく)感が深まっています。この閉塞感に包まれた日本社会の現状に対して、どの政権に責任があったか問うている段階ではありません。先送りしてきた重要政策課題に今こそ着手し、これを、次の世代に残さないで解決していかなければなりません。それが、「有言実行」に込めた私の覚悟です。解決すべき重要政策課題は、「経済成長」、「財政健全化」、「社会保障改革」の一体的実現、その前提としての「地域主権改革の推進」、そして、国民全体で取り組む「主体的な外交の展開」の五つです。本日は、この五つの課題について、私の考えを申し上げます。

 【2・経済成長の実現−経済対策と新成長戦略の推進】

 (成長と雇用による国づくり)
 まず最初の課題は、経済成長です。国内消費を取り巻く状況には、厳しいものがあります。需要が不足する中、供給側がいくらコスト削減に努めても、値下げ競争になるばかりで、ますますデフレが進んでしまいます。これでは景気は回復しません。供給者本位から消費者目線に転換することが必要です。消費も投資も力強さを欠く今、経済の歯車を回すのは雇用です。政府が先頭に立って雇用を増やします。医療・介護・子育てサービス、そして環境分野。需要のある仕事はまだまだあります。これらの分野をターゲットに雇用を増やす。そうすれば、国民全体の雇用不安も、デフレ圧力も軽減されます。消費が刺激され、所得も増えます。その結果、需要が回復し、経済が活性化すれば、さらに雇用が創造されます。失業や不安定な雇用が減り、「新しい公共」の取り組みなども通じて社会の安定が増せば、誰もが「居場所」と「出番」を実感することができます。こうした成長と雇用に重点を置いた国づくりを、新設した「新成長戦略実現会議」で強力に推進します。

 (円高、デフレ状況に対する緊急的な対応−第1段階)
 そのため、まず、今から来年度に向けて「3段構え」で成長と雇用に重点を置いた経済対策を切れ目なく推進します。既に、その「第1段階」、急激な円高・デフレ状況に対する緊急的な対応を実行に移しています。政府・日銀は、為替介入を実施しました。今後も、必要に応じ、断固たる措置をとります。また、即効性のある雇用対策に重点を置いて予備費約9200億円を執行します。特に、新卒者の就職に力を入れます。仕事を探す側、雇用する事業者、双方の負担を軽減し、ワンストップで雇用を「つなぐ」仕組みを全国展開します。さらに、低炭素産業の新規立地を補助して雇用を「守る」取り組みや、地域の雇用を「つくる」取り組みも盛り込みました。日銀に対しては、政府と緊密な連携を図りつつ、デフレ脱却の実現に向け、さらなる必要な政策対応を取ることを期待します。

 (今後の動向を踏まえた機動的な対応−第2段階)
 そして、デフレ脱却、景気回復を軌道に乗せるため、今国会での補正予算の編成を含む「第2段階」に入ります。中身が重要です。野党からの提言も踏まえ、五つの柱からなる大枠を提示しました。第1の柱が雇用・人材育成、第2が新成長戦略の推進、第3が子育てや医療・介護・福祉、第4が地域活性化、社会資本整備と中小企業対策です。第5の柱として、規制・制度改革に取り組みます。例えば、再生可能エネルギーの利用拡大に向け、全量買い取り制度の円滑な導入を目指すとともに、大規模太陽光発電や新エネ・省エネ設備に係る規制を緩和します。日本を国際医療交流の拠点とするため、ビザや在留資格の取り扱いを改善します。さらに、雇用創出効果の大きい国内立地促進策を、新設した円卓会議で早急にまとめます。いずれも国民生活に直結する課題です。与野党間で意見交換を進め、補正予算を含め、合意を目指したいと思います。

 (新成長戦略の本格実施−第3段階)
 「第3段階」は、既に作業を始めている来年度予算編成と税制改正です。予算編成では、「元気な日本復活特別枠」も活用し、需要創造や雇用創出を強化します。法人課税については、税制の簡素化、海外と比較した負担といった観点から、年内に見直し案を取りまとめます。ものづくりでも、サービス産業でも、業種を問わず、新しい需要を引き出し、豊かで安心な暮らしを実現するイノベーションを起こすことが重要です。この観点から研究開発や人材育成も強化します。改めて申し上げます。今国会の最大の課題は、「第2段階」である経済対策のための補正予算の成立です。与野党間での建設的な協議に心から期待いたします。そして、切れ目なく「第3段階」に進み、新成長戦略の前倒し実施により、日本経済を本格的な成長軌道に乗せていきたいと考えます。ぜひとも、ご理解、ご協力をお願いいたします。

 【3・財政健全化と行政の無駄削減】

 (財政運営戦略の実施)
 2番目の重要政策課題は、財政健全化です。現在の財政状況を放置すれば、どこかで持続できなくなります。政府は、6月に財政健全化の道筋を示した「財政運営戦略」をまとめました。2015年度までに、基礎的財政収支の赤字を対国内総生産(GDP)比で今年度の半分にし、20年度までに黒字化を達成するものです。大変高い目標ですが、成長と雇用拡大を実現しながら、一歩ずつ達成を目指します。

 (来年度予算編成に向けて)
 最初の一歩が、無駄の徹底した削減を含む来年度予算の編成です。昨年は、449の事業を仕分けし、約2兆円の財源確保を実現しました。引き続き、強力に無駄の削減を徹底します。そもそも、財政がいかなる状況にあろうと、無駄は許されません。事業仕分けを特別会計に広げるなど、幅広く事業を見直します。マニフェスト(政権公約)実現には、引き続き誠実に取り組みます。財源の制約などで実現が困難な場合は、国民に率直に説明し、支給の方法や対象を含め、国民が納得できる施策に仕上げていきます。

 (行政改革、公務員制度改革の推進)
 歳出見直しは、単に切り詰めることが目的ではありません。行政が利用者の視点に立ってサービスを提供し、より効率的に奉仕する体制にすることが重要です。公務員制度改革も、この目標を共有しています。国家公務員の総人件費の2割削減と併せ、一体的に取り組んでいきます。また、国の出先機関の統廃合を含め、各府省の機構や定員をスリムにします。公務員諸君に改めてお願いします。行政のプロとしての皆さんの心構えが問われています。

 【4・社会保障改革】

 (改革の必要性)
 3番目の重要政策課題は、社会保障改革です。社会保障制度がしっかりしなければ、国民の将来に対する不安はぬぐえません。この不安が、消費の低迷、経済の停滞の背景になっています。改革を急がなければなりません。一般論として、多少の負担をしても安心できる社会をつくっていくことを重視するのか、それとも、負担はできる限り少なくして、個人の自己責任に多くを任せるのか、大きく二つの道があります。私は、多少の負担をお願いしても安心できる社会を実現することが望ましいと考えています。まず、求める社会保障の姿について議論を進めます。安定した年金制度や、十分な医療・介護・福祉サービスを確保していかなければなりません。高齢化などに伴い、今のままでも、社会保障費は毎年1兆円以上増加していきます。さらに、新たなニーズも生じています。孤立したお年寄りを守る、女性を乳がん・子宮頸(けい)がんから守る、子どもを貧困や虐待から守る、あらゆる人を自殺や災害から守る。強者の論理ではなく、弱者に寄り添い、こうした課題にも応えなければなりません。社会保障の基盤となる番号制度をどう整備するか決める必要もあります。個々の課題にばらばらに答えを出しても根本的な解決策にはなりません。政府は、社会保障改革の全体像について、必要とされるサービスの水準・内容を含め、国民に、分かりやすい選択肢を提示していきたいと思います。

 (与野党間の議論)
 その上で、国民の選択に当たり、社会保障に必要な財源をどう確保するか一体的に議論する必要があります。消費税を含め、税制全体の議論を進めたいと思います。結論を得て実施する際は、国民に信を問う。この方針に変更ありません。当然、与野党を超えた議論が不可欠です。それに向け、政府・与党で社会保障改革の全体像を検討する場を設け、野党の皆さんとも意見交換をしていきたいと思います。

 (子ども・子育て支援の充実)
 子ども・子育て支援にも、引き続き重点的に取り組みます。どの子どもも、この国の将来を担う宝です。家族だけでなく、地域、さらには国で、大切に育てなければなりません。高校の授業料実質無償化を着実に実施し、子ども手当は、現金給付と保育所の整備などの現物支給のバランスをとって拡充する方針です。幼保一体化を含む法案を来年の通常国会に提出する準備を進めます。少子高齢化の下で、労働力人口が減少し始めています。待機児童の解消を急ぎ、働く女性を応援し、男女共同参画を推進します。

 【5・地域主権改革の推進】
 以上の三つの重要政策課題の解決に当たっては、地域主権改革の推進が鍵となります。地域が主役となって、特色ある産業振興や、住民の要望に応じた社会サービスの提供ができるよう、われわれの世代で確たる道筋を付けます。残念ながら、これまで実感のある変化は生じていません。壁を打ち破るため、まず、「ひも付き補助金」の一括交付金化に着手します。来年度予算では、各府省の枠を超えて投資的資金を集め、自由度の高い交付金に再編します。地域で、霞が関の発想に縛られない、独自のモデルを構想してください。国の出先機関が扱う事務・権限移譲については、各府省が検討結果を8月末に提出しましたが、不十分であり、やり直しを指示しました。横断的な移譲の指針を示し、年内を目標に検討を進めます。

 【6・国を開き未来を開く主体的な外交の展開】

 (「歴史の分水嶺(れい)」における外交)
 5番目の重要政策課題は、主体的な外交の展開です。今日の国際社会は、安全保障面でも経済面などでも「歴史の分水嶺」とも呼ぶべき大きな変化に直面しています。新興国の台頭で、世界の力関係も変貌(へんぼう)を遂げています。わが国周辺地域に存在する不確実性・不安定性は、予断を許しません。こうした国際情勢の下、天然資源・エネルギーや市場を海外に依存するわが国は、いかにして平和と繁栄を確保するのか。受動的に対応するだけでは不十分です。国民一人一人が自分の問題としてとらえ、国民全体で考える主体的で能動的な外交を展開していかなければなりません。その際、国を思い切って開き、世界の活力を積極的に取り込むとともに、国際社会が直面するグローバルな課題の解決に向け、先頭に立って貢献することが不可欠です。また、防衛計画の大綱の見直しに当たっては、真に役に立つ実効的な防衛力を整備するため、これからの時代にふさわしいものを、本年中に策定します。

 (日米同盟)
 日米同盟は、わが国の外交・安全保障の基軸です。先日のオバマ大統領との会談でも、日米同盟がアジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための共有財産であること、そして、日米同盟を21世紀にふさわしい形で、安全保障、経済、文化・人材交流の3本柱でさらに深化・発展させていくことを確認しました。また、アフガニスタン・パキスタン支援、イランの核問題、気候変動、核軍縮・核不拡散など、国際社会が直面する課題へも日米が協力して対処することで一致しました。11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際に予定されている日米首脳会談では、さらに日米同盟深化のための具体策を詰めていきます。普天間飛行場の移設問題については、本年5月の日米合意を踏まえて取り組むと同時に、沖縄に集中した負担の軽減にも取り組みます。沖縄の方々のご理解を求め、誠心誠意説明してまいります。

 (日中関係)
 日中両国は、一衣帯水のお互いに重要な隣国であり、両国の関係はアジア太平洋地域、ひいては世界にとっても重要な関係だと認識しています。近年、中国の台頭については著しいものがありますが、透明性を欠いた国防力の強化や、インド洋から東シナ海に至る海洋活動の活発化には懸念を有しています。尖閣諸島は、歴史的にも国際法的にもわが国固有の領土であり、領土問題は存在しません。先般の事件は、わが国の国内法にのっとり粛々と処理したものです。中国には、国際社会の責任ある一員として、適切な役割と言動を期待します。日中両国間にさまざまな問題が生じたとしても、隣国同士として冷静に対処することが重要と考えます。日中関係全般については、アジア太平洋地域の平和と繁栄、経済分野での協力関係の進展を含め、大局的観点から戦略的互恵関係を深める日中双方の努力が不可欠です。

 (東アジア地域の安定と繁栄に向けて)
 この秋は、わが国において、重要な国際会議が開催されます。生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、議長国としての重要な役割を果たします。また、私が議長を務めるAPEC首脳会議では、米国、韓国、中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、オーストラリア、ロシアなどのアジア太平洋諸国と成長と繁栄を共有する環境を整備します。懸け橋として、経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)が重要です。その一環として、環太平洋パートナーシップ協定交渉などへの参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指します。東アジア共同体構想の実現を見据え、国を開き、具体的な交渉を一歩でも進めたいと思います。

 北朝鮮については、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決を図り、日朝平壌宣言に基づき、不幸な過去を清算し、国交正常化を追求します。拉致問題については、国の責任において、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国に向けて全力を尽くします。なお、北朝鮮の政治情勢については、引き続き注視していきます。

 【7・政治改革と議員定数削減】
 以上の課題に臨むわれわれ国会議員のあり方について、一言述べます。カネのかからないクリーンな政治の実現。国民の強い要望です。私自身の政治活動の原点です。民主党は、企業・団体献金の禁止、国会議員の定数削減について党内で徹底的に議論し、年内に方針を取りまとめたいと思います。その後、与野党間で協議し、まとめたいと思います。

 【8・結び】
 本日、国会が召集されました。日本が現在抱える課題を解決し、次の世代に先送りしない責任を、国会議員が協力して果たせるか。国民の期待に応えることができるか。この国会が試金石となります。郵政改革法案、地球温暖化対策基本法案、労働者派遣法改正法案などの審議もお願いすることとなります。私は、今回の国会が、具体的な政策をつくり上げる「政策の国会」となるよう願っています。そのために、議論を深める「熟議の国会」にしていくよう努めます。結論を出す国会になるよう期待します。この場にいるわれわれを隔てるものは、どこに座っているかではありません。野党の皆さんにも真摯(しんし)に説明を尽くし、この国の将来を真剣に考える方々と、誠実に議論していきます。そして、何とか合意できないか知恵を絞ります。国民に選ばれた国会議員が全力を尽くし、この国の政治を築いていく。真の国民主権の政治に向け、ともに頑張りましょう。
 http://www.jiji.com/jc/c?g=pol  


Re::れんだいこのカンテラ時評814 れんだいこ 2010/10/01
 【「2010.10.1日の菅首相の所信表明演説」考】

「2010.10.1日の菅首相の所信表明演説」をコメントしておく。総評として、菅首相の低能ぶりを示す稀にみる子供演説であるとしておく。こういう演説を許したとと云うことは、2009年の政権交代以来1年有余、政権交代効果がほぼ潰えたことになる。但し、それは鳩山−菅と続く党内右派によるアクセルではなくブレーキを踏み続けた結果であって、僅かの望みとして党内土着派の小沢政権であったらどうなっていただろうかと憶測し得る余地は残されている。

 ここン十年、自民党もダメ、民主党もダメ、その他諸党もダメと云うダメ尽くしの政治が横行している。お陰で日本は往年の勢いをすっかり失い、米国の一州にされるのか中国の一省にされるのか、はたまた都市部は国際金融資本派に占拠され、日本人民は田舎の山岳に追いやられる悪夢のアジェンダシナリオに歩一歩近づいている気がする。ここで回天させずんば日本丸いよいよ危うしであろう。その為に何を為すべきか。発想を変えないと生き延びられないとひしひしと思う。

「2010.10.1日の菅首相の所信表明演説」は、冒頭、「有言実行内閣」を詠う。解決すべき重要政策課題として、「経済成長」、「財政健全化」、「社会保障改革」の一体的実現、その前提としての「地域主権改革の推進」、「主体的な外交の展開」の五つ問題を掲げている。問題は中身である。どういう按配のものであろうか。

 第一の「経済成長」について。何と、経済成長の為の基礎的要件として何を為すべきかに触れず雇用を増やせば全部解決するかのような「雇用万能論」にシフトしている。雇用自体を自己目的化している。極めて危険な経済音痴ではなかろうか。「円高、デフレ状況に対する緊急的な対応」として、第1段階、第2段階、第3段階と分け、それぞれの効能を詠っているが具体的なキモに触れていない。総じてコマーシャルになっている。首相の意向を受けた官僚作文の原稿読みに過ぎないことが分かる。

 第二の「財政健全化」について。2015年度までに基礎的財政収支の赤字を対国内総生産(GDP)比で今年度の半分、20年度までに黒字化を達成するとしている。無駄を徹底削減した来年度予算を組むと云う。事業仕分けを継続し、引き続き強力に無駄の削減を徹底すると云う。国家公務員の総人件費の2割削減を云う。国の出先機関の統廃合を含め各府省の機構や定員をスリムにすると云う。云うのは勝手だが、できもしないのに或いはヤル気もないのに云うのを無責任と云う。

 第三の「社会保障改革」について。何とここで「多少の負担をお願いしても安心できる社会を実現することが望ましい」として増税策を呈示している。「社会保障に必要な財源をどう確保するか一体的に議論する必要がある」、「結論を得て実施する際は、国民に信を問う」としている。要するに、社会保障を引き合いに出して増税論をぶっていることになる。社会保障に情熱があるのではなく、増税に力んでいることが分かる。誰かが知恵を付け、こう云わせているのであろう。

 第四の「地域主権改革の推進」について。中央政権と地方自治との理念的在り方論を掲げ、大綱を示すと云う作風は微塵もない。元々確固とした政治哲学がないのだろうと思われる。「ひも付き補助金」の一括交付金化に着手する、各府省の枠を超えて投資的資金を集め、自由度の高い交付金に再編すると云う。「投資的資金を集め」とはどういう意味だろう。ギャンブルでもしようと云うのだろうか。

 第五の「主体的な外交の展開」について、「防衛計画の大綱の見直しに当たっては、真に役に立つ実効的な防衛力を整備するため、これからの時代にふさわしいものを、本年中に策定する」と云う。どういうステキなものがでてくるのだろうか。「日米同盟基軸論」、「日中関係一衣帯水論」、「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)重視論」、「東南アジア諸国連合(ASEAN)環境整備論」、「北朝鮮注視論」をおざなりに述べている。補足として、「政治改革と議員定数削減」に触れ、「カネのかからないクリーンな政治の実現」、「企業・団体献金の禁止」、「国会議員の定数削減」について言及している。

 一体、この首相所信表明演説は何なんだろうか。このところのそれがレベルが低いのは知られているが、こたびのそれは更に劣化させている。この内閣で第一に何を目指すのか。国内的には何を、国外的には何をと云う焦点になるものが一切ない。情況に合わせて漂う浮草政権論、つまり国家論をぶっているに過ぎないことになる。

 れんだいこの予見では、こういう所信表明演説であるからして、トンデモナイおバカな政権であったことが知れる日は近いと思う。既に兆候が出ている。政治主導、官邸主導をを云いながら、それが問われる際になると官僚のしたこと検察のしたことで政府は与り知らぬと逃げの手を打っている。尖閣諸島事件では平然と「ビデオは見ていない」と云う。有り得て良いことだろうか。れんだいこには信じられない。

 こうなると、問題は、国際金融資本帝国主義が、この政権をどう操作誘導しようとしているのかを窺うべきだろう。これが今後全ての政治事象、政変を説き明かすカギになりそうだ。国会質疑は一切ムダ、考証の必要なしと極論しておこう。

 2010.10.1日 れんだいこ拝






(私論.私見)