菅政権出航考

 更新日/2020(平成31→5.1栄和改元/栄和2).9.14日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「菅政権出航考」をものしておく。

 2019(平成31).5.8日 れんだいこ拝


 2016.8.30日、FRIDAYデジタルのレイモンド・ベーダー「麻生太郎が画策する「石破を潰して菅総理誕生」シナリオの深層」。
 麻生氏は腹をくくった

 8月28日17時10分、安倍総理が記者会見で辞意を表明した。持病である潰瘍性大腸炎が悪化して「政権投げ出し」の再現に追い込まれる前に、コロナ対策に道筋をつけたうえで、先手を打って辞意表明したのだ。 総理が記者会見で体調について説明するという情報が事前に流れていたとはいえ、「体調不安を払拭する説明だろう」というのが大方の予想だった。いきなりの辞意表明は日本中に大きな衝撃を与えている。

 政界事情に詳しい永田町関係者はこう言う。 「総理の様子から近い将来の辞任が避けられないという感触を持ってた麻生太郎副総理兼財務相にしても菅義偉官房長官にしても、28日の辞任表明は寝耳に水だったようです。それ以外の安倍側近も含めて、虚を突かれた政治家が大半でしょう。自民党の各派閥は緊急会合を開き、ポスト安倍をめぐる臨戦態勢に入りました」。

  では、ポスト安倍は誰になるのか。 キーパーソンとして今、もっとも注目されているのが麻生太郎副総理だ。 安倍総理の盟友として7年8ヶ月の長期政権を支え続けた麻生氏は、安倍総理の無念を誰よりも理解している人物といえる。自身が総理を務めていた2009年には、総選挙で敗北し政権を民主党に明け渡した苦い思い出もあり、安倍政治をいかに継続させるかという「継承性」が、今の麻生氏にとって重要なポイントになっていることは間違いがないだろう。 麻生氏は戦後日本の礎を築いた吉田茂元首相の孫であり、かつ寛仁親王妃信子殿下の兄にあたる。綿々と続く日本の保守本流そのものを担う自覚は、政界随一だ。 その麻生氏だが、ポスト安倍を「岸田文雄政調会長」ではなく、「菅官房長官」で腹をくくったという情報が流れている。 本来であれば、麻生副総理の本命は岸田氏のはず。現在は独自の麻生派(志公会)を率いているとはいえ、麻生氏はもともと吉田茂直系の池田勇人が創設した「宏池会」(現・岸田派)の出身だ。 しかし、急展開を始めたポスト安倍レースで、いま岸田氏を押すと、岸田嫌いで知られる菅官房長官だけでなく、2019年9月の人事で、自分に代わって幹事長の座につこうとした岸田氏のことを忘れてはいない二階俊博幹事長との関係が微妙になる。 もし、菅=二階連合が敵に回ると、どうなるか。 総裁選は現在のところ、党員投票を行わず、自民党所属国会議員396人から大島理森衆議院議長と山東昭子参議院議長を除いた394人と、各都道府県連代表3名(計141人)からなる両院議員総会で行われる見込みと伝えられている。 しかし、安倍総理は、辞任会見の直前に二階幹事長と面談し、後継選出の党内手続きを全て二階幹事長に一任しているのだ。 その二階幹事長が、岸田政権樹立を阻止するべく石破茂氏(元幹事長)と手を結び、党員投票を実施するフルスペックの総裁選実施に踏み切った場合、不測の事態が起きかねない。実際に二階幹事長は28日の民放番組収録で「石破氏は政策通で、有力な候補者だ」と持ち上げ、八方美人策を隠そうともしていない。 石破氏といえば7月9日、中国の習近平国家主席の国賓来日をめぐり、石破派(水月会)の会合で、「礼儀を尽くさないといけない」と述べて、国賓来日中止を求める自民党外交部会の非難決議に同調しない考えを示している。 仇敵である石破政権誕生を阻止するためには、回り回って、菅=二階連合と手を組み、岸田を諦めて、あえて菅を推す――。これが、日本の将来を憂える「ザ・保守本流」麻生太郎氏の現在の心境ではないだろうか。 もしそうだとした場合、菅義偉候補は数の上からして優勢になる。 自民党各派閥の構成は現在、 細田派(清和会)98人 麻生派(志公会)54人 竹下派(平成研)54人 岸田派(宏池会)47人 二階派(志帥会)47人 石破派(水月会)19人 石原派(近未来政治研)11人 となっている(その他に谷垣グループや無派閥議員がいる)。 このうち、麻生派54人と細田派98人が、二階派47人と組むだけで計199人。これに、参議院議員グループを除いた竹下派と、無派閥議員の中にいる「菅グループ」を足すと250人を超える。 両院議員総会が開かれた場合、国会議員394票および都道府県連票141票の合計(計535票)の過半数(268票)を制することは難しいことではない。 もちろん、岸田政調会長自身は自らの派閥(宏池会)を率いて総裁選に出馬する。しかし、安倍総理は辞任表明会見であえて岸田政調会長の名前に言及せず、禅譲を期待していた岸田氏を突き放す構えを見せた。細田派(安倍総理の出身派閥)が岸田氏を推すというシナリオはすでに自明のものではなくなっているのだ。 他方で、イージス・アショア配備中止で名を馳せた河野太郎防衛大臣(麻生派)など、有力な若手も総裁選の候補者になるかもしれない。下村博文選挙対策委員長(細田派)や野田聖子元総務大臣(無派閥)も立候補の構えを見せている。 総裁選に多彩な候補者が揃えば国民の注目を集める。立憲民主党と国民民主党が合流する新党結成を霞ませるには十分だ。しかし、重要なのは「決選投票」だ。総裁選に岸田・石破・菅三氏が揃って出馬した場合でも、最初の投票で過半数を得た者がいない場合、上位者2名による決選投票になる。その局面でこそ、「麻生副総理が担ぎ、二階幹事長と握った場合の菅官房長官」が最終的な勝者になる可能性が高い。 その場合、菅新総裁の任期は、自民党則80条3項が適用されて、安倍現総裁の任期を受け継ぎ「来年9月末」までとなる。早々に臨時国会が召集され、首班指名選挙を経て菅義偉首相が誕生することになろう。 菅新政権では、来年10月21日に任期満了を迎える衆議院議員の総選挙に向けて、解散を打てるだけの高支持率獲得が至上命題となる。選挙の顔となりうる若手(小泉進次郎環境大臣や小林史明党青年局長等)が重用されるとともに、コロナ禍における経済対策が最重要政策となるであろう。 それを、引き続き副総理兼財務大臣として支えるのか、それとも去就が取りざたされている大島理森衆議院議長の後継として、幣原喜重郎以来となる「首相経験者による衆議院議長就任」を引き受けるのか。 恩讐を超えた政治判断は、大宰相吉田茂の真骨頂であった。いま麻生太郎氏の判断が、日本の将来を決めようとしている。


 自民党総裁選への立候補を目指している岸田文雄政調会長は31日の記者会見で、自身初の著書「岸田ビジョン 分断から協調へ」を9月11日に出版すると発表した。岸田氏は著書出版を総裁選立候補に向けたステップと位置づけ、昨年から準備してきた。著書では「国民の協力を引き出せるリーダーになりたい」として首相を目指す考えを強調。安倍政権の経済政策「アベノミクス」について「大きな成果をあげてきた」と評価しつつ、中間層を底上げする必要性を主張し、「格差という名の分断の解消も、取り組みたい大きなテーマ」とした。施策としては、短期的な株の売買で得た所得に対する税率を現状の20%から引き上げてその税収を中間層に分配する他、高等教育の奨学金制度の拡充、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を実施した企業への税制優遇を掲げた。


 8月28日、安倍総理が突然の辞任表明をした。その瞬間、自民党の次期総裁を決める総裁選の始まりを告げる号砲が鳴らされた。自民党の次期総裁を選ぶ総裁選の火ぶたが切って落とされた。菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、河野太郎防衛相らの名前が取りざたされている。総裁選は通常の総裁選とは違い、地方の党員投票を伴わない両院議員総会での投票になりそうな雲行きだ。

 首相の後継を選ぶ自民党総裁選で、官房長官(71)が出馬の意向を固めたことを受け、各派閥は31日、相次ぎ対応を協議した。短期決戦で行われる総裁選は、既に派閥横断で一定の支持のある菅氏が軸になる見通し。政調会長(63)も立候補を明言しており、元幹事長(63)の動向を含め、選挙戦の構図がどう定まるかが焦点だ。

 自民党は総裁選日程を「9月8日告示―同14日両院議員総会で投開票」とする案を決めた。菅氏は派閥に所属していないが、幹事長の率いる二階派(47人)が支持する方針。他派の幹部や無派閥議員からも推す声が出ている。新型コロナウイルス対応が急務とされる中、歴代最長の安倍政権を支えてきた安定感や「政策の継続性」を理由としている。

 菅氏は31日午前、首相官邸で定例記者会見に臨み「私の件を含めて総裁選についてはコメントは差し控えたい」と述べた上で「当面は新型コロナ対策が最大の課題だ」と強調した。1日に総裁選日程が決まった後に正式に態度表明する。

 8.31日、ポスト安倍、自民内で動き活発化…派閥・グループが対応協議。安倍首相の後継を選ぶ自民党総裁選で、菅官房長官と岸田政調会長が出馬の意向を固めたことを受け、党内の各派閥やグループは31日、それぞれ会合を開いて対応を協議する。石破茂・元幹事長も出馬に意欲を示しており、党内の動きが活発化している。

 党内第2派閥の竹下派の参院議員ら20人は31日朝、国会近くのホテルで会合を開き、対応を関口昌一参院議員会長に一任することを決めた。同派の石井準一幹事長代理は会合後、記者団に「一致団結という方針を確認した。この力を衆参で結集していく」と語った。竹下派は前回2018年の総裁選で事実上の自主投票となり、首相を支援した衆院側と石破氏を支持した参院側で対応が割れた。このため、31日昼に衆参両院議員による会合を開き、今回は派内で共同歩調をとることを目指している。


【菅政権出航考】
 2020.9.14日午後、自民党総裁選が東京都内のホテルで投開票が行われ、菅義偉(すが・よしひで)官房長官(71)が、岸田文雄政調会長(63)、石破茂元幹事長(63)を破り、第26代総裁に選出された。

 国会議員票、各3票の都道府県連票を合計した開票の結果、菅氏が計377票で1位、岸田氏が計89票で2位、石破氏が計68票で3位となり、菅氏が初回の投票で過半数を得た。菅氏は岸田派、石破派を除く5派閥が支持に回り国会議員の大半を固めたほか、都道府県連票でも石破氏、岸田氏を大きく引き離した。

合計 得票率 岸田 得票率 石破 得票率 棄権
議員票 394 288 73.3% 79 20.1% 26 6.6%
地方票 141 89 63.1% 10 7.1% 42 29.8%
合計票 535 377 70.6% 89 16.7% 68 12.7%

 菅氏は党内7派閥のうち、最大派閥の細田派(清和政策研究会、98人)、麻生派(志公会、54人)、竹下派(平成研究会、54人)、二階派(志帥会、47人)、石原派(近未来政治研究会、11人)の支持を得た。

 割り当てられた地方票につき、全国一斉の党員・党友投票を省略したため、多くの都道府県連で予備選を行った。
 自民党総裁選の九州7県の地方票計21票は各県連がドント式で配分。新総裁の菅義偉氏が11票でトップとなり、次いで石破茂氏が8票、岸田文雄氏は2票だった。福岡、佐賀、大分、鹿児島は菅氏が2票、石破氏が1票と分け、長崎、熊本は3氏が1票ずつを分け合った。宮崎は石破氏が2票、菅氏が1票だった。岸田氏は福岡では、自身が会長を務める派閥に所属する国会議員を4人抱える。岸田氏は総裁選期間中、同県連を訪れ、直接支持を呼び掛けたが票は獲得できなかった。一方、派閥所属の国会議員が3人いる長崎では1票を得た。石破氏は唯一、宮崎で菅氏を上回りトップに。衆院宮崎3区選出の古川禎久氏が石破派のため「党員・党友が、(来県する)石破氏に会う機会が多く、なじみが深かった」(宮崎県連)とみる。他6県でも1票ずつ獲得しており、「地方に根強い人気がある」との声もあった。
 9.16日午後に臨時国会が召集され、安倍内閣が総辞職し、菅氏が首相指名選挙で第99代首相に選出される見通しだ。認証式などを経て16日中に新内閣が発足する見通し。菅氏の総裁任期は安倍首相の任期だった来年9月まで。
 新総裁に選出された菅氏は党役員・閣僚人事に着手する。党内では、党ナンバー2の幹事長に二階俊博氏の再任が有力視されている。15日には公明党との連立政権合意を結び、16日の臨時国会で第99代首相に選出され、菅内閣を発足させる予定だ。
 菅氏は2012年12月の第2次安倍政権の発足に合わせて官房長官に就任。7年8カ月に及ぶ歴代最長政権の番頭役として、安倍晋三首相を支え続けた。
 2020.9.14日、自民党総裁選は菅義偉新総裁を選出した。無派閥の菅氏に5派閥が競うように相乗りし、告示前に勝負はついた。石破茂元幹事長が最下位になり、再起不能事態に陥った。「岸田文雄君、89票」。野田毅・総裁選挙管理委員長が読み上げた瞬間、総裁選会場のホテルにどよめきが広がった。岸田氏の地方票はわずか10票。岸田派は47人のため、数字は岸田氏が事前の予想をはるかに上回る国会議員票を獲得した事実を告げていた。「よしっ」と強くあごを引く岸田氏。今回、菅氏を推した首相と麻生氏は、岸田氏も見捨てたわけではなく、一方で石破氏を毛嫌いしているのは周知の事実。国会議員票が伸びず、計68票にとどまった石破氏は、硬い表情を崩さず会場を後にした。首相が辞意表明した翌日の8月29日、二階俊博幹事長らと菅氏が密会して流れをつくり、5派閥が勝ち馬に乗ろうと「菅氏支持」で雪崩を打った構図だった。派閥に属さず、党内基盤の薄さが弱点だった菅氏。自身の派閥に総裁候補を持たないため、「キングメーカー」になることでしか党中枢の地位を保てない二階氏。両者は利害がピタリと一致し、補完し合える関係にあった。二階氏は地方で人気の高い石破氏に有利とならないよう、党員・党友投票を省略する「簡易型」の選挙方式も早々にレールを敷き、菅氏に大きな恩を売った。大勢は決した。告示前から各派閥の関心は菅政権を見越した猟官運動に移り、「論功行賞」狙いの綱引きが際立った。

 2020.9.16日、
指名者 衆院 参院 合計
菅義偉 314 142
枝野幸男 134 78
片山虎之助 11 16
中山成彬
小泉進次郎
白票
合計 462 240
過半数 232 121

 菅新内閣、陣容を発表 加藤氏、官房長官に横滑り。自民党の菅義偉総裁(71)は16日午後、衆参両院本会議で第99代首相に選出された。
 新内閣の陣容を決定し、厚生労働相から横滑りした加藤勝信官房長官(64)が閣僚名簿を発表した。安倍晋三前首相の総裁任期途中の辞任を受け、路線継承を前面に出す。
「菅内閣」16日発足 新閣僚顔ぶれ一覧出身/一言メモ
総理 菅義偉 71 無派閥 第99代首相。秋田県/神奈川2区。法大卒。腹筋100回が日課。
副総理・財務 麻生太郎 79 麻生派 №2。福岡県/福岡8区。学習院大卒。射撃で五輪出場。大の漫画好き。
総務  武田良太 52 二階派 故田中六助元官房長官の甥。二階氏側近。防災相から横滑り。福岡県/福岡11区。早大院終了。
法務  上川陽子 67 岸田派 3度目の法相起用。静岡県/静岡1区。米ハーバード大院終了。国裁縫上手。日本舞踊。
外務 茂木敏充 64 竹下派 栃木県/栃木5区。米ハーバード大院終了。「空から降る一億の星」にハマリ中。
文部科学  萩生田光一 57 細田派 副長官時代に菅長官とタッグ。東京都/東京24区。明大卒。
厚生労働  田村憲久 55 石破派 自民党の新型コロナ対策本部長。額賀派から石破派に移動。三重県/三重1区。千葉大卒。
農林水産  野上浩太郎 53 細田派 初。富山県/富山選挙区。慶大卒。バスケ大好き。八村選手と同郷。
経済産業  梶山弘志 64 無派閥 菅首相の師・梶山静六氏の長男。茨城県/茨城4区。日大卒。
国土交通 赤羽一嘉 62 公明党 東京都/兵庫2区。慶大卒。ラグビー元全日本高校選抜。
環境 小泉進次郎 39 無派閥 レジ袋有料化を推進。神奈川県/神奈川11区。米コロンビア大院終了。滝川クリスタルと結婚、イクメン。 
防衛  岸信夫 61 細田派 初。安倍前首相の弟。台湾と友好構築。山口県/山口2区。慶大卒。
復興 平沢勝栄 75 二階派 初。東大生時に安倍前首相の家庭教師。岐阜県/東京17区。東大卒。
行政改革 河野太郎 57 麻生派 父は河野洋平元衆院議長、祖父は河野一郎元農相。神奈川県/神奈川15区。米ジョージタウン大卒。ツイッターのフォロワー170万人。
1億総活躍  坂本哲志 69 石原派 初。熊本県/熊本3区。中大卒。皇居ラン愛好者。好物はトンカツ。
経済再生  西村康稔 57 細田派 コロナ担当。兵庫県/兵庫9区。東大卒。元東大ボクシング部。
デジタル 平井卓也 62 岸田派 元IT相。スマホは常に最新モデル。香川県/香川1区。上智大卒。趣味はゴルフ。
五輪  橋本聖子 55 細田派 北海道/参院比例区。駒大苫小牧高卒。スケート・自転車で7度五輪出場。
万博 井上信治 50 麻生派 初 。東京都/東京25区。東大卒。青梅マラソン常連でお祭り大好き。
国家公安 小此木八郎 55 無派閥 菅首相は父・彦三郎氏の元秘書。神奈川県/神奈川3区。玉川大卒。
官房  加藤勝信 64 竹下派 副長官時代に菅長官とコンビ。 東京都/岡山5区。東大卒。
幹事長 二階俊博 81 二階派 和歌山県。
政調会長 下村博文 66 細田派 群馬県。
総務会長 佐藤勉 68 麻生派 谷垣派から麻生派に転身。 栃木県。趣味はゴルフ。
国対委員長 森山裕 75 石原派 鹿児島県。
選対委員長 山口泰明 71 竹下派 埼玉県。

 2020年9月、約7年8か月に亘った安倍政権の安倍晋三前総理の電撃的な辞任劇から総裁選を経て菅義偉政権ガ誕生した。安倍政権路線を継承するとして始まった菅政権は、安倍政権の金融緩和路線、構造改革路線を踏襲すると謳い、これを政権の目玉とした。菅政権発足に併せて文藝春秋から加筆の上で再版された『政治家の覚悟』には、例えば安倍前総理が『美しい国へ』で披瀝した保守的な国家観の発露や憲法改正への熱情は極めて薄く、保守派の歓心を買うるであろう部分は僅かに対北朝鮮(朝鮮総連)政策ぐらいのものであった。強力な保守的世界観を披歴する安倍前総理に対し、菅総理の保守色はかなり減退し、保守派にとってこの内容は「幻滅」に近い内容ですらあった。

 菅政権発足直後、保守派が菅を「安倍政権の正統なる継承」と見做す事件が起こった。日本学術会議の推薦する新会員候補6名の任命拒否-所謂「日本学術会議の任命拒否問題」である。学術会議から推薦されたにもかかわらず任命拒否された6人は、所謂「安保関連法」や「特定秘密保護法」に反対姿勢の強いメンバーとされるや、たちまち保守派はこの拒否について諸手を上げて政権側に立ち賛同した。端的に言えばこの拒否問題は、その委細を度外視して、「菅内閣が進歩的価値観を拒否した」とうつり、所謂左派学者や左派メディアとの対決姿勢の前衛として認知された。「日本学術会議は反日学者の巣窟」というレッテル(?)が右派的ネット言論を寡占し、この時の保守派は『政治家の覚悟』で謳われた菅総理自身の無色に近いイデオロギーを実際的に保守側に補強するものとしてその支持最高潮に達した。


 第二次安倍政権では、安倍前総理が政権発足後1年に当たる2013年12月26日に靖国神社を参拝した。これは小泉純一郎元総理以来7年ぶりの出来事であったが、この第二次安倍政権における現職総理大臣の靖国参拝が以後、保守派による安倍政権支持を決定的なモノにしたのに対し、菅政権は成立直後の2020年10月の靖国神社における秋の例大祭に「真榊(まさかき)」を奉納しただけで、翌2021年4月の春の例大祭でも同様に「真榊」を奉納するにとどまった。保守派は「真榊」を奉納するだけで最も重要な参拝をしないのではないかと疑念を抱いた。

 
2021年5月3日の憲法記念日、菅総理は保守派が主催する改憲派集会(民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会共催)にビデオメッセージを送り、「コロナ禍にあって、緊急事態条項など憲法の見直しが必要である」旨ビデオメッセージを送った。このビデオメッセージの形式は安倍前首相も同じ方式を取っていたのだが、保守派にとっては総じて菅総理の憲法改正意欲は安倍政権と比して相対的に低いものと映った。何故なら安倍前総理は、総理就任早々から「憲法改正の先頭に立つ」と記者団等のインタビューに積極的に応えていたのに対し、菅総理にはそういった積極性が見えにくかったからである。

 2021年4月19日における米誌ニューズウィークによる菅総理へのインタビュー報道で、菅は、「われわれは何度か改正を試みてきたが、現状では非常に難しいと認めなければならない。国会で可決されなければならないので、政権の考えで簡単に変えられるようなものではない」(2021年4月19日,産経新聞)と憲法改正を事実上あきらめたともとれる発言を発した。憲法改正を金科玉条の如く叫んできた保守派にとって、技術的に改憲がいかに不可能であっても、それを率直にいう事は禁忌であった。第二次安倍政権では、こういった弱腰姿勢は漏らさず、「次の参院通常選挙で改憲発議に必要な2/3を得る」を常に合言葉にした。安倍前総理の憲法改正への熱情と、菅総理のそれとは比べようもなかった。

 3)オリンピック開催と窮地の菅政権

 東京五輪の開会式(2021年7月23日)で、保守派による菅政権への期待は徹底的に粉砕された。開会式に於いて今上天皇からの開会宣言の際、天皇陛下の隣に座っていた菅総理が不起立のままだったことについて、保守界隈から「菅は不敬である」との大ブーイングが起こった。事の真相は、天皇陛下が開会宣言をする直前に流されるはずだった「ご起立ください」という場内アナウンスが準備不足(?)のため不徹底であったこととされるが、とにもかくにも天皇の開会宣言に際して菅総理が当初不起立のままであったことは事実であり、これが「皇室への畏敬の念」を宰相としての資質の大きな要素として判定している保守派からは徹底的な顰蹙を買った。これによって保守層からの菅政権への期待・支持は完全に離反した。

 保守派とそれを支持するネット上の右派的勢力は、飲食店をはじめとする中小自営業者が多い傾向にある。菅政権で飲食店を過度に締め上げたことなどの実際経済的な都合においての皮膚感覚としての反発も多いところであったが、保守派が当初「安倍政権の継承者」として期待した菅政権が、保守派が理想とする「安倍政権的国家観、イデオロギー」を全く踏襲しない宰相であると判明するや、保守派からの菅政権への期待はまるで剥離する様に離反していった。

 第二次安倍政権は、たとえそれがリップサービスに過ぎなかったとしても、「日教組!日教組!」などという国会での揶揄や、「こういう人たち(野党)に負けるわけにはいかないんです」などの反政権・進歩勢力への敵対姿勢、または進歩系メディアへの敵愾心を都度入れ込むことによって保守派からの求心力を不動のものにしてきた。このような刹那的な保守派へのリップサービスは、仮に対露北方領土交渉が後退しても、尖閣諸島に於いて中国公船の領海侵犯が激増しても、実際は保守派の意に沿う対外政策をしなくとも「保守派にリップサービスをしておく」という一点のみに於いて保守派からの熱狂的な支持を得ることに最後の最後まで成功したのである。

 そのような意味で安倍晋三前首相の保守派に対する「操縦術」は極めて高度のものであったが、菅政権にはそれが全くと言ってよいほど無かった。それは端的に、菅総理個人に保守派が好むイデオロギーが初手から存在していないことが要因であり、保守派に対し「たとえ空疎空論でもよいから保守的なイデオロギーをバラまいておく」という戦術的側面が欠損していたからである。そうこうするうちに菅政権は完全に保守派から見限られ、「より(保守的)国家観が明瞭」であるとする高市早苗氏に支持が集中する帰結となったのである。

 菅政権1年間の失敗とは、端的に言えば「安倍路線の継承」を謳っておきながら、保守派の想定する安倍的イデオロギーを全く踏襲しなかったことに尽きる。安倍的イデオロギーを完全に首肯する人々の存在は現実社会では少数ではあるが、実際にはそれが中道、中道右派に与える「空気感」は殊更大きい。安倍政権は、極端な右のイデオロギーを盤石にすることによって、その「空気」に依存する中道の有権者の意識を、「微温的に政権支持に改造する」という雰囲気を、有権者の皮膚感覚のみならず既存大メディアの側にも作り上げることによって数多の国政選挙で勝利してきた政権である。





(私論.私見)