中曽根の最大の欠点は軽率な点であり、それを作家の平林たい子は「中曽根という人はカンナ屑のようにペラペラ燃えすぎる」と形容しているが、思いついたら突っ走って我慢が出来ないから、それを慌て者は中曽根の実行力と錯覚してしまうのである。後藤田にとって最も気がかりだったのは、中曽根の複雑で奇妙な交友関係であり、友達との付き合いになると前後の弁えがなくなるから、首相好みの餅肌秘書官を牽制するために、警官から選び抜いた屈強な人間を張り付けたが、問題は中曽根が住んでいる野球の長島から借りた家だった。世田谷区上北沢の長島邸は鉄筋二階建てだが、長島が巨人軍の監督を降ろされた秘密は、試合に勝利するために有能な選手を結集して、彼らを戦力として上手く指揮しなければならないのに、長島にはそれが困難だったのが原因だそうである。(中略)
中曽根政権を包んでいる倒錯人脈は、「アメリカから日本の本を読む」(文芸春秋社刊)に書いてある通りで、実に淫靡(いんぴ)で凄まじい内容と人脈であり、そういった爛れた人間関係に属すものが、江副に対しての中曽根による特別の引きにある点は、知る人ぞ知る中曽根政治の恥部であった。それにしても、中曽根時代を特徴づけた倒錯政治は、スキャンダルとしては超一流とはいえ、余りに多くの政・財・官界の上層部が関与していたので、その暴露は日本の支配機構に打撃を与えて、体制を大崩壊させるインパクトを持つ。だから、財界のマスコミ抜刀隊長を引き継いだ鹿内議長としては、直接それを使うのはあまりにリスクが大きいので、どうしてもためらいの気分を感じたらしい。(中略)
優れたルポライターとして多くのスクープを誇る歳川隆雄の「NTT事件の金脈と人脈」(アイペック刊)の中に。「真藤の『稚児』はNTT社内に二人、社外に三人いた。社内の二人は逮捕された長谷川寿彦、式場英の両元取締役。社外の『稚児』は江副のほかに二人。ベンチャービジネスの花形企業コスモ・エイティの碓井優社長と、件のゼネラルコースト・エンタープライズの熊取谷(いすたに)稔社長である」という記述があるが、これはリクルート疑獄の全体像をつかむうえで大変重要な意味を含んだ指摘である。
文芸春秋社から出版した「アメリカから日本の本を読む」の中に、私は「日本ではナルシスト集団の饗宴の日々が、司祭政治としての中曽根時代を特徴づけた。(中略)中曽根首相の私的諮問グループに結集した学者の八割が、倒錯精神によって特徴づけられる人材だったという事実」といった指摘をしておいた。すると、これを東京に行って話題にした時、日本の最上流の家庭の奥方が教えてくれた話に、中曽根が長い髪を垂らして女装している写真があり、それがカルメンの姿だったという情報だった。このエピソードを「加州毎日」新聞の記事に書いたところ、情報誌の「インサイダー」が日本国内に紹介した。そのために、日本から国際電話が沢山かかり、週刊誌や新聞記者と情報を交換し合ったが、多くのジャーナリストやルポライターが注目し、「中曽根、江副、鬘」という奇妙な組み合わせに関心を持って、わざわざ高い国際電話を使ったり、中にはロスまで取材に来た人まで出現した理由は、ここに突破口があると感じたプロとしてのカンがあったからだろう。私が「加州毎日」に書いた記事は中曽根の鬘姿だったが、東京からの情報は江副と鬘についての物が多かった。最初の頃に江副が雲隠れして入院した時に、鬘をつけた変装で外部と連絡したことは有名だが、それ以前から彼には鬘をつける趣味があり、その後にも、岩手から女装して東北線で上野駅に到着したところを、週刊誌に証拠の写真を撮られている。また、中曽根が財界から寄付を集めて作った「世界平和研究所」には、リクルート事件で世界的に名を上げる以前の段階で、事業家の江副浩正が女装で時々出入りしていたと言われている。ある新聞の社会部記者の話によると、世界平和研究所は女装趣味を持つ集団の拠点らしく、この研究所を地検が家宅捜査すれば、ダンボールに幾箱もの女装用のかつらが押収できそうだ、という実にうがった珍説まであるそうだ。それに、中曽根が行った弁明記者会見によると、中曽根が江副と公式に会う時には、いつも奇妙に演出家の浅利慶太の同席があるが、演劇は鬘のコレクションの宝庫だとすれば、リクルート事件の別の側面は鬘コネクションではないのだろうか。
そのような状況分析が始まった段階で、NTTの真藤会長が株式受領で浮上して、急速度で逮捕から起訴に移行したし、中曽根に影のように付き添う瀬島竜三が、NTTの取締役で相談役であることが注目されており、これも事件の見落とせない隠れた鎖の環である。最初は否認していた真藤が観念して、事前共謀と村田秘書の工作を供述した理由は、検察当局が江副と真藤の特殊な関係について、何か確証を握ったことが重要な決め手らしい。かつて写真雑誌フォーカスを舞台にして、女の写真をめぐって中曽根と江副の嫉妬に基づく暴露合戦が起こり、そこを突破口にして追及した地検は、江副、真藤、中曽根の三角関係について何かを探り当てたようだ。それを掘り起こされると政経官界の恥部が露呈し、支配体制は崩壊しかねないので、たとえ竹下内閣を潰しても中曽根の召喚を防ぐというのが、体制防御総司令官の後藤田が下した最終的な決断であり、それを自民党執行部が承認したということである。
それにしても問題はまだ色々と残っているのであり、児玉誉士夫、三島由紀夫、小佐野賢治( 三島、小佐野がこの中に入るには不適切だろう。三島、小佐野は中曽根とは反目系である)、長嶋茂雄、瀬島龍三、江副浩正、高坂正尭などの中曽根康弘を囲んでいる顔ぶれには、将来の或る時点で精神病理学の専門家の手によって、詳しい分析が行われた時に初めて明らかになる、実に興味深い共通の病症例が観察できるそうである。江副は物心身の全領域で中曽根と真藤の稚児役であり、それは日本のエスタブリッシュメントの、歪んだ部分の小姓とピエロ役を演じていたが、リクルート事件で一番分かり難かったのは、株のやり取りと利益金の保管を秘書が関与して、当事者達は一切知らないというパターンの横行である。しかし、議員や経営者の年間給与を上回る金額を、卑しい目つきで金脈漁りに明け暮れ、パーティー券を売り歩く人々が知らないわけがない。 |
(私論.私見) 中曽根と野球の長島、リクルートの江副、NTTの真藤との怪しい交際考 |
中曽根と野球の長島、リクルートの江副、NTTの真藤との怪しい交際がかく指摘されている。貴重な指摘である。但し、後段で、中曽根康弘を囲んでいる顔ぶれとして、児玉誉士夫、三島由紀夫、小佐野賢治、長嶋茂雄、瀬島龍三、江副浩正、高坂正尭などを挙げている。「三島由紀夫、小佐野賢治」は余計な付け加えであろう。このレポートのここが臭い。
2012.1.2日 れんだいこ拝 |