日本郵政株式会社・西室泰三社長考

 更新日/2017(平成29).8.2日

 (れんだいこのショートメッセージ)


 2017.5.24日、企業・経営ライフ週刊現代 「日本郵便元副会長が実名告発『巨額損失は東芝から来たあの人が悪い』」。
 掟破りの資金調達

 実際、買収したトール社にしても、もとは石炭運搬会社として設立されており、郵便とはまったく別物だった。「しかも、郵政社員には物流事業のノウハウもないので、うまくいかないことは目に見えていた。私が日本郵政公社の常務理事時代にも海外物流会社と提携する話が浮上したが、当時の生田正治総裁に『この会社と組むべきではない』と進言し、結局ご破算にした経緯もある。アメリカでも郵政公社は郵便に特化し、物流に手を出していない。これが世界の常識。ところが西室氏を始めとする電機メーカーや銀行出身の日本郵政首脳陣は、その違いすらよくわからず、無理矢理に突っ走った」。 

 当時、上場の目途とされていたのは'15年秋。刻一刻とその「期限」が迫ってくる中、西室氏は一部の幹部だけを集めて買収チームを組織してプロジェクトを進めたが、その過程では掟破りともいえる一手を断行している。「トール社を買収するには巨額の資金が必要だったので、その資金捻出のために『ウルトラC』をやったのです。そのスキームというのは上場前の'14年に実行されたもので、親会社の日本郵政が所有するゆうちょ銀行の株式を、ゆうちょ銀行に買い上げさせるもの。ゆうちょ銀行に自社株買いをさせて、1兆3000億円ほどあったゆうちょ銀行の内部留保を日本郵政に吸い上げさせた。自社株買いは制度的に認められているものとはいえ、このような大規模な『資金還流』は本来なら許されないものです」。

 西室氏がこのように強引に進めてきたトール社買収が、世間にお披露目されたのは'15年2月のこと。西室氏は発表会見で、「必ず(買収)効果は出る」と胸を張ってみせた。しかし、そんな西室氏の「楽観論」に水を差すように、この巨額買収をめぐっては、発表直後からさっそく辛辣な意見が噴出した。「英フィナンシャル・タイムズ紙は、約6200億円という買収価格について、『49%のプレミアム』をつけたと報じました。郵政の経営陣がトール社の企業価値について過大に評価したということです。実際、当時すでに鉄鉱石など資源価格が下落し始め、トール社の業績には先行き不安が出ていました。しかも、西室氏はトール社を日本郵政傘下の日本郵便の子会社としたため、日本郵便は'15年以降、買収にかかわる会計処理として毎年200億円級の巨額を償却しなければいけなくなった。'15年3月期の日本郵便の最終利益は約150億円だったのに、です」。

 東芝とまったく同じ構図

 しかも、周囲が懸念していた通り、買収後のトール社の業績は低迷。買収した郵政側に物流事業のノウハウがないため、その経営をまともにマネジメントすることもできない状態に陥った。当然、晴れて上場した日本郵政グループの株価も振るわないまま「じり貧化」。そして、買収発表からたった2年しか経過していない今年4月、トール社の業績悪化を理由に、日本郵政は4000億円の巨額損失計上に追い込まれたのである。 

 「いま西室氏の出身母体である東芝は巨額損失で危機的状況だが、その原因となった米原発会社ウェスチングハウス社の巨額買収に当事者としてかかわっていたのが、東芝相談役だった西室氏でした。その意味では、今回も同じ構図が繰り返されているように見えます。西室氏の経営手腕には、ほかにも疑問に感じる部分がありました。それは社長就任早々のこと、米大手生保アフラックと提携して、アフラックに全国の郵便局の窓口でがん保険を独占的に販売できるようにしたのです。これはグループ会社のかんぽ生命の収益を圧迫する施策だったため、かんぽ生命を民業圧迫と批判していた米国政府に配慮したものだと囁かれました。そもそも、郵政民営化というのは'94年以降、米国が毎年の対日年次改革要望書で求めていたもので、その郵政民営化委員会の委員長だったのが西室氏でした。いずれにしても西室氏はグループの利益を失するような手を打ってきた。西室氏は昨年、体調不良を理由に社長職を退任しましたが、その責任は重大と言わざるを得ない。そんな西室氏を推薦した安倍晋三首相、菅義偉官房長官にも『任命責任』がある」。

 西室氏の後任に就いた長門社長も、赤字転落を発表した4月25日の会見で「トール社買収の狙いは正しかったといまでも考えている」と語り、自らの責任については6ヵ月間の役員報酬20%カットで済ませた。

 稲村氏は言う。「私は5月8日に、著書『「ゆうちょマネー」はどこへ消えたか』の共著者である菊池英博氏との連名で『辞任勧告書』を長門氏に送りました。長門氏はトール社の実態を知りながら、適切な経営指導もせずに放置してきたのだから、経営者失格です。トール社の4000億円もの損失処理に使われる原資は元々、国民の資産。役員報酬のわずかな減額だけで責任を取ったふりをするのは国民への背信行為で、絶対に許せません。西室氏も病気療養中というが、代理人を通じて責任についてコメントを発表することぐらいはできるはずです」。

 赤字発覚直後、日本郵政の株価は急落して1200円台にまで落ち、上場前の公募価格(1400円)を下回った。それでも、日本郵政の経営陣たちはまともに責任を取ろうとしない。株主たちはこの怒りを、いったいどこにぶつけたらいいのだろうか。
 「週刊現代」2017年5月27日号より







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