日米安全保障条約考



 (最新見直し2010.06.23日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 「60年安保全文」を参照する。

 2009.2.16日 れんだいこ拝


【日米安全保障条約考】
 日米安保条約の正式名称は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」である。1951年の旧安保の正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」であった。改定安保では「相互協力」の語句が追加されたことになる。その理由は、1・日米が政治的経済的に相互協力すること、2・安保は軍事同盟ではなく協力条約であることを強調するためである。

 新条約は、前文を、「政治的協力」、「経済的協力」、「国連憲章」、「日本の自衛権」、「極東の平和」の五つの部分に分けて解読している。 これを確認する。

 「前文1 政治的協力」。「日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し」と規定している。条文の意味するところ、日米政治経済外交の一体化であり、これは実際には「政治体制として、日本が米国に対して引き続き、あるいは更なる従属化路線を選択する」ことを意味する。

 「前文2 経済的協力」。「また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し」と規定している。条文の意味するところ、政治体制の従属を経済体制の従属で補完することを意味する。

 「前文3 国連憲章」。「国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し」と規定している。条文の意味するところ、外交的にも国際連合憲章即ちそれを支配する第2次大戦の戦勝国支配体制に従属することを意味する。

 「前文4 日本の自衛権」。「両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し」と規定している。条文の意味するところ、日本国憲法第9条の軍備禁止、不戦宣明条項を骨抜き反故にして、国連憲章即ちそれを支配する第2次大戦の戦勝国軍事体制に従属し指令に従うことを意味する。

 「前文5 極東の平和」。「両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よって次のとおり協定する」と規定している。条文の意味するところ、日本の位置する極東地域に於ける防衛を日米共同軍事体制で行うことを意味する。これにより、日本は、米軍の軍事行動に対する協力が義務付けられることになる。 

【「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約条文」】
 第1条

 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。

 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。
(私論.私見)
 これによると、新条約は、国際連合憲章、国際連合の目的、国際連合の任務に合致することが要件とされており、制約されていることになる。
 第2条

 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによって、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。

 締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、同盟国の経済的協力を促進する。
(私論.私見)
 これによると、新条約は、自由主義経済体制の維持強化、同盟国の経済的協力促進を義務としていることになる。
 第3条

 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持発展させる。
(私論.私見)
 これによると、新条約は、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、それぞれの国の憲法の規定に従いつつ維持発展することが義務づけられていることになる。
 第4条

 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
(私論.私見)
 これによると、新条約は、極東地域に於ける有事発生に対して締約国間の随時協議が義務付けられていることになる。在日米軍が出動前に日本側と協議する(事前協議)ことを取り決めている。次の三種の協議が想定されている。 1・日米安全保障協議委員会による日常的な随時協議。2・日本が軍事攻撃された場合の有事協議。3・日本周辺の極東で軍事衝突があった場合の有事協議。

 極東の範囲について、日本政府は概ねフィリピン以北の日本周辺としていた。しかしベトナム戦争時、在日米軍が沖縄から直接出撃して以来、ベトナムまでが極東に組み込まれた。小泉政権になって、極東条項が意味を失い、極東の「範囲」は在日米軍の出動できる範囲という既成事実ができあがってしまった。イラクも極東になってしまい、自衛隊が派遣された。米軍の出動は無制限ではなく、次のいずれかの場合に制約される。1・国連軍としての軍事活動。2・韓国やフィリピンなど、軍事同盟国との防衛義務としての活動。3・極東の安全が米国の自衛の目的になる場合。 しかし、極東の範囲が無制限になったことにより「米軍出動制限」も無意味になっている。
 第5条

 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

 前記の武力攻撃及びその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第51条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない。
(私論.私見)
 これによると、新条約は、日本国施政下の領域に於ける武力攻撃事態が発生した場合に於いて、共同行動が義務づけられていることになる。但し、「直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない」とされている。

 日本の領内に軍事攻撃があった場合、アメリカには日本を共同防衛する責任がある。しかし、アメリカ領内が軍事攻撃を受けた場合、日本にはアメリカを防衛する責任はない。日本は日本領内を守るだけである(個別的自衛権)。もちろん、在日米軍基地は日本領内であるから、それを防衛する責任は日本側にもある。ここでも憲法9条の故に海外派兵ができないことが一つの歯止めになっている。
 第6条

 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍、及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。

 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、1952年2月28日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
(私論.私見)
 これによると、新条約は、米国軍の日本国内に於ける軍事基地使用を相互に認めていることになる。但し、米国軍の地位は、1952年締結の日米安保条約第3条の規定に拘束されている。

 この「米軍の地位と利用できる施設・設備を規定する協定」(「地位協定」)に基づく米軍維持費用は、「地位協定24条の1」により1960年時点ではすべて米国側の負担とすることが決められている。しかし、1978年、日本側が在日米軍の維持経費の大半を負担するようになった。法的根拠がないので「思いやり予算」といわれる。日本人従業員の給料、空港・港の補修費用、兵員宿舎の建設など、年間数千億円の財政負担になっている。

 地位協定では、米軍と兵員とに治外法権的特権が認められている。これにより、米兵による犯罪があっても、日本側は手を出せないことになっている。その後、米国側は反基地運動への発展を恐れ、米兵の日本人に対する事件事故は日本の司法にゆだねることにした。しかしこれも、穴だらけの不十分なものになっている。
 第7条

 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響を及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。
(私論.私見)
 これによると、新条約は、国際連合の役割に対して影響を及ぼすものではないとされている。
 第8条

 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続きに従って批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生じる。
(私論.私見)
 新安保条約は、1960年1月19日にワシントンで署名、1960年5月20日には衆議院本会議で承認された。参議院の議決がないまま6月19日には自然承認された。そして、1960年6月23日に東京で批准書が交換され、効力が生じた。
 第9条

 1951年9月8日にサン・ワシントン市で署名された日本国とアメリカ合衆国の間の安全保障条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。
(私論.私見)
 これによると、新条約は、1951年の日米安保条約を改訂したことになる。
 第10条

 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。もっとも、この条約が10年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行われた後1年で終了する。
(私論.私見)
 これによると、新条約は、10年間拘束しており、その後は逐年ごとの更新になっていることになる。
 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。1960年1月19日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書2通を作成した。

 日本国のために
  岸信介
  藤山愛一郎
  石井光次郎
  足立 正
  朝海浩一郎

 アメリカ合衆国のために
  クリスチャン・A・ハーター
  ダグラス・マッカーサー2世
  J・グレイアム・パースンズ 

【天木ブログの60年安保条約不平等条約論】
 2007年5月3日付け天木ブログ「ビル・トッテンという日本人 」。
 昨日(4月2日)のブログでベンジャミン・フルフォードというカナダ人が日本のために「米国から自立しろ」と警鐘を鳴らしていると書いた。今日はビル・トッテンという米国人を紹介する。もっとも彼は最近米国籍を捨てて日本国籍を取得したので日本人だ。彼が米国籍を捨てた理由がふるっている。2004年8月に乗った米国の航空会社で厳しい身体検査を受け、「なぜこんなに厳しく調べるのだ」とたずねたら、お前は日本で米国の悪口を言ってばかりいるので米国のブラックリストに乗っているからだ、と聞かされ立腹し、これではもはや米国には住めないと決意したというのだ。9・11以降以降米国は変わったというのだ。

 そのビル・トッテン氏が「日本は略奪国家アメリカを棄てよ」(ビジネス社)という本を最近出版した。数ある対米批判の書のなかで、これほど分かりやすい本はない。この国の首相や官僚、財界をふくめ、米国の本質が何も分かっていない大方の日本人にとって、これは一読すべき本である。

 その中で私が最も注目したのは、日米安保条約こそ不平等条約であるという事実を喝破したくだりである。周知のように日米安保条約はサンフランシスコ講和条約を締結した1951年に、米国に恫喝されて吉田茂が単独で秘密裏に締結した条約である。そしてそれが10年経って期限が来る前に、米国に命令されて岸元首相が恒久条約化させられて今日に至っている。あの安保騒動の時である。

 安保改定の最大の改善点は岸元首相が頑張って、それまでの片務協定から、「米国が日本を守る」という事を義務付けた点であるということになっている。

 ところがビル・トッテン氏は、改定後の安保条約こそ不平等条約であるというのだ。つまり改定された安保条約をよく読むと、「共通の危険に対処するよう行動する」と書かれているだけで、どこにも「日本を守る」とは書かれていない事をあらためて日本人に教えてくれている。いったいどれほどの日本人がわずかA4二枚ほどの安保条約に目を通したというのか。

 この文言については今でも関係者の議論が分かれているのである。アメリカが共通の危険を感じる相手から攻められない限り、日本を守ろうとしないという解釈ができる。つまり中国や北朝鮮が日本を攻めてきても、その時点で中国や北朝鮮が米国の友好国となって米国にとって危険を感じる国でなければ、米国は日本を守ろうとしないのだ。そしてその現実が今まさに起きようとしているのだ。その一方で日本は米国の軍隊を日本全土に受け入れることを約束させられ、そのための人的、財政的負担を支払わされている。しかもこれからは「テロとの戦い」という日本の防衛とは何の関係もない米国の戦争の為に、ほとんどすべて日本の自衛隊が使われるのだ。これは大変な不平等条約ではないか。

 実はこの指摘こそ外務省が決して口に出さない、国民に知られたくない点なのである。突き詰めて言えば、日米安保条約は完全にその機能を変えてしまったのである。日米同盟を原点から見直すべき時にきているにもかかわらず、外務省はそれをごまかしているのである。これ以上の怠慢はない。これ以上の不誠実はない。

 それにしてもフルフォードといい、トッテンといい、日本のためを思って「米国から独立せよ」と言ってくれるのがカナダ人や元アメリカ人だけであるというのが、いかにも情けない。右翼も左翼も一致団結して日米関係を見直す努力をすべき時が来ている。彼らに日本国民を思う気持ちがあるのなら、今こそ日本の国益のために、「米国から裏切られる前に、日本のほうから日米関係を見直せ」と日本政府に詰め寄るべきなのである。






(私論.私見)