臓器移植法案考

 (最新見直し2009..6.19日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、日本における臓器移植法史を確認する。現行の臓器移植法の制定過程は次の通り。日本移植学会広報委員会より」、「臓器移植法の成立過程 生命科学科・福島祐介」その他を参照する。

 問題は、1・死人の臓器移植を是とすることの倫理的是非、2・1を認めたとしても、人の死を何を基準に判定するのかの法律的検討、3・誰が判定し権限を持つのか、そのチェック体制如何の制度的検討、4・臓器移植の認める臓器の確定、5・臓器移植の与える側と貰う側のそれぞれの合理性の審議等々にある。極めて高度な問題を抱えているが、これをどう処理していったのであろう。これを確認せねばならない。

 2009.6.19日 れんだいこ拝


【角膜移植】
 1958年、「角膜移植に関する法律」が制定された。心臓死体からの角膜の摘出を認める。最初は、対象を角膜のみに限定していた。

【腎臓移植の追加】
 1979年、「角膜および腎臓の移植に関する法律」が制定された。1958年制定の「角膜移植」に加えて「腎臓移植」が追加されたことになる。これを旧法と云う。これにより、医師は、腎臓を「死体から摘出し、臓器移植できる」ことになった。しかし、「死」を廻る定義を未解決にした為、医師に対する殺人罪告発の余地が残されることになった。

【脳死臨調の動き】
 1988年、臓器移植を法律によって定めるべきだとすることになり、国会議員が集まって「脳死・生命倫理及び臓器移植に関する調査会」が結成された。首相の公的諮問機関である「臨時脳死及び臓器移植調査会」(「脳死臨調」)の設置を求めた。以降、「心臓死基準から脳死基準に向かう臓器移植の流れ」が始まった。

 1990.3月、「脳死臨調」(永井道雄会長)が発足し、約2年間に渡って審議を行った。

 1992..1月、「脳死臨調」が最終答申を行い、脳死を「人の死」とすることについて、「概ね社会的に受容され合意されているといってもよいものと思われる」と述べ、脳死者からの臓器摘出を容認した。但し、これに反対する少数意見を併記していた。立法の必要性については、「法律がなければ実施できない性質のものではないが、臓器移植法(仮称)を制定することにより、臓器移植関係の法制の整備を図ることが望ましい」と結論した。

 並行して、司法当局、厚生省、立法化を推進していた「生命倫理研究議員連盟」などから、「脳死臓器移植は法を制定した上で行うべきである」という見解が示された。ところが、各党の足並みが揃わず立法化の調整に難航する。漸く各党間の調整が進み、「脳死及び臓器移植に関する各党協議会」が結成され、法案が提出できる段階に入った。  

【脳死臨調の動き】
 1992.4月、「脳死臨調」の答申以後、立法化の作業と平行して脳死臓器移植を公平公正に行うための社会的システムの構築など移植実施へ向けての必要な準備が始まった。「移植関係学会合同委員会」が組織され、レシピエントの適応基準(移植を受けることが必要と認められる病状の基準)や脳死臓器移植を実施する施設の特定などの作業が行われた。

 同10月、「臓器移植ネットワークのあり方等に関する検討会」が設置された。  

 1993.6月、衆議院が解散され、総選挙の結果、自民党政権に代わって野党系の細川連立政権が発足するという予想外の事態が起きた。これにより各党協議会の作業の仕切り直しを余儀なくされ、法案の提出は再び遅れることになった。

 同12月、「日本臓器移植ネットワーク準備委員会」が引き継いで、臓器提供から臓器移植に至る一連のプロセスが迅速かつ公正に行われるため、不可欠とされるネットワークシステムの構築が進められた。その他、ドナーカードの普及、コーディネーターの養成などについても検討された。

【臓器移植法案の初上程、廃案になる】
 1994.4月、脳死臨調答申から2年以上を経て、社会、公明、日本新、さきがけ、新生、民社、自民の7党15名の超党派議員による議員立法として臓器移植法案が初めて国会に上程された。法案は「医師は、移植技術に利用されるための臓器を死体(脳死体を含む)から摘出できる。本人が書面で臓器提供の意思を示していて遺族が拒まない場合や、本人の意思は不明でも遺族が書面で承諾した場合は臓器摘出が可能」としていた。日弁連は対案を出し、「本人の意思が不明な場合は、臓器摘出してはならない」とした。市民団体は抗議集会を開き、「同法案が可決した場合、重症患者への医療の早期打ち切りが起こるのでは」と懸念した。

 衆議院厚生委員長は、「今国会は少数与党政権(細川内閣)で先行きが不透明な上、年金法改正や健康保険法改正など重要な案件が山済み。よって今国会での同法案の審議は困難」と見通しを述べた。

 同12月、衆議院本会議での趣旨説明と質疑が行われた。この法案は、脳死は人の死であること、また、脳死者の家族の申し出による臓器提供を認め、臓器提供者(ドナー)本人の意思表示は不可欠の要件ではない、という主旨であった。しかし、慎重意見や反対も多く、法案の趣旨説明が衆院本会議で行われるものの、厚生委員会での審議はなかなか始まらず、早期の法制化をめざしたにもかかわらず結局は実質的な審議が行われないまま4回も連続で先送りにされ会期ごとに次期国会への継続審議となった。約二年もの間、棚ざらしにされた。

【臓器移植法案の2回目の上程、廃案になる】
 1995.6.6日、衆議院厚生委員会が臓器移植法案の審議を実質的に開始した。衆議院厚生委員会で提案理由の説明。6.13日、厚生委員会で参考人の意見聴取が行われた。その後 、最初の臓器移植法案が修正され、「本人意思が書面で残された場合にのみ臓器摘出を認める法案」とされた。但し、集中的に審議されることはなく、1996.9月に衆議院が解散されるまでの二年半の間の審議回数は3回、審議時間は延べ6時間に止まった。9月の衆議院解散で臓器移植法案は廃案となる。同年11月に名古屋で地方公聴会が開かれた。日本移植者協議会をはじめとする患者団体は、国会議員に対して法案の審議を繰り返し陳情した。
 
 1996.1月、臓器移植法案は国会に再提出された。同6月、仙台、福岡で地方公聴会が開かれた。  

 同5月末、通常国会が会期末を迎える頃、提案中の法案の内容を修正して法案の成立を図ろうとする動きが起こる。


 同6月、生命倫理研究議員連盟の中山会長らは、急遽修正案を準備し衆院厚生委員会に提出した。修正案のポイントは、臓器提供の条件を「脳死者からの臓器摘出については本人が生存中に書面で提供の意思表示をしたときに限る、つまり本人の意思が不明なときは不可とする。」と改正したところにあった。世界においては、本人の意思が不明の場合は家族の同意によって提供できるとするのが主流であったが、家族の忖度により提供できるとする条件に反対の声があることに配慮したものである。

 修正案に対する反応は、日弁連は「修正案が依然として脳死を人の死と認めている点で法案の根本的欠陥が是正されていない」。患者団体は「修正案が本人の意思表示に限定した点については批判的。書面でなくてもいいのでは」。但し、この修正案が提出されたのは国会の会期末ぎりぎりになってからであり、その実質的な審議は行なわれていない。結局、この修正案も審議されることなく継続審議となり、次の臨時国会での1996.9.27日の衆議院の解散に伴って廃案となった。この間約2年半、国会での審議はほとんどなされず、次期国会へ送る継続審議の手続きを繰り返すのみで、実質的に放置されていた。

 こうして、「臓器移植法案」は1994年と96年に二度流産したことになる。臓器移植の前提となる「される側の死の判定を廻る合意」の取り付けが難航していたからである。死を廻って、慣習的宗教的なそれと法律的なそれと臓器移植学会のそれとが食い違っている。これをどう解決するかという未解決の問題があった。「臓器移植の際の生命の倫理問題」、「心臓死と脳死とことなる判定基準の是非問題」も横たわっていた。誰がこれを判定するのか、主治医の死亡診断書権限の適正確認という問題もある。実際に後に「和田移植事件の悪夢」が発生している。

【再上程の動き】

 1996.9.28日、日本移植学会は、理事会を開いて廃案後の方針を決定し、野本亀久雄理事長の次のような声明を発表した。

 概要「日本移植学会は法律の存在いかんに関わらず、臓器移植を行う環境を整備する事を責務とする。このため、脳死臓器移植が公平、公正、確実に行われるよう日本移植学会の責任において行動指針を作成する。環境が整備された後は、日本移植学会の主導の下に脳死臓器移植を行う」。

 以降、従来より日本移植学会において設置を準備していた3つの作業部会(ワーキンググループ)を発足させ、各グループが分担して、脳死臓器移植を公平、公正かつ的確に行うための行動指針をまとめる作業に入った。

【臓器移植法案の3回目の上程、成案になる】
 1996.12月、が゜ 臓器移植法案(中山案)が衆議院に提出される。(旧法案とほぼ同じ内容) 1997.1月、通常国会に三度目の臓器移植法案(修正案と同じ内容の中山案)が再提出された。

 1997.3月、ようやく通常国会で厚生委員会の実質審議が始まる。中山案に対する対案として金田案(「脳死を死とせずに臓器摘出を認める法案」)が衆議院に提出される。が、厚生委の審議は採決なく打ち切られ、採決が直接衆院本会議でなされることになる。衆院本会議には2つの法案が提出された。一つは自民党議員・中山太郎氏の中山案「脳死を人の死と認め臓器を摘出」(衆院本会議でいったん廃案となった修正案)、もう一つは民主党議・金田誠一氏の金田案「脳死を人の死とせず臓器摘出」であった。小泉厚生大臣(当時)は「脳死を死とする法案」に賛成の姿勢を見せた。国会議員(志賀氏)は「脳死を人の死とするという法案の前提自体に疑問を提起」した。日本医師会は、「脳死を死とする法案」を強く支持。脳死を人の死と規定しない法案は医療現場で混乱が起こると主張した。

 1997.4.24日、自民党の中山太郎氏らの提案する臓器移植法案が衆議院で320票対148票で可決された。金田案は否決された。共産党を除く各党は、党議で議員に可否の拘束をしないという決定をして議決に臨んだ。アメリカの議会では、議員が党議に拘束されない票決をすることが、しばしばあるが、日本ではほとんど前例がない。

 「衆院本会議での2つの臓器移植法案採決結果」は次の通り。
投票総数 賛成 反対
金田案 475 76 399
中山安 468 320 148

 「各党内での内訳」は次の通り。

 各党とも共産党を除いては党議拘束を行わなかった。そのため党内でも票がわれた。
中山案 金田案
賛成 反対 賛成 反対
自民 200 23 223
新進 87 49 26 109
民主 19 33 30 22
共産 26 26
社民 13 10
太陽
21世紀
さきがけ
無所属
320 148 76 399
投票総数 468 475

 中山案は自民党の大半の議員が賛成したほか、新進、民主、社民、太陽、さきがけの各党から幅広い支持を集めた。橋本首相(当時)は中山案も金田案も棄権した。「私自身も迷いに迷った。内閣の中からも国会の側からも行政の最高責任者が判断を示すべきではないという意見があった」(日経新聞4月25日)と述べている。

 この後中山案が参議院にまわされることになる。金田案をもとにした対案(猪熊案)が参議院に提出される。中山案が参議院にまわされるも、足踏み状態。そこで対案が登場する。参議院に提出されることになった2法案は、中山案「脳死を人の死と認め臓器を摘出」(衆院で可決)と参議院議員 猪熊重二氏の猪熊案「脳死を人の死とせず臓器摘出」(中山案の対案、金田案を引き継ぐ形)。しかし、安易な採決は避けるという姿勢から参院でも足踏み状態が続き、上2法案からの2者択一では限界があると感じだ参院自民党は新たな修正案を提示した。

 修正案は、中山案の一部を改定するものであった。次のように修正された。   

争点 法案 内容
死の判定基準 中山案 脳死を死とする
修正案 臓器を提供する人に限って脳死を死とする
臓器提供基準 中山案 臓器提供には本人が事前に書面で臓器提供の意思を示し家族も同意することが必要がある
修正案 中山案に加えて脳死判に従う意思も本人が書面で示し家族が同意する必要がある

 衆院通過時点では脳死を一律に「人の死」としていたが、参院の審議の中で「臓器移植の場合に限り脳死を人の死とする」という内容の文言を加筆する修正が行われた上で、修正案は整理すれば本人が臓器提供と脳死判定に従う意思を書面で示し、かつ家族がこれを拒まないときに限って脳死を人の死と認めるとした。この修正案に、中山案の提案者も、猪熊案の提案者も同調する方針を表明。6.11日、参院自民党が中心になってまとめた修正案が参院特別委員会に提出。6.16日、委員会で可決。

 6.17日、参、衆本会議で可決し「臓器の移植に関する法律」(「臓器移植法」)が成立した。「修正臓器移植法案に対する衆参両院の本会議政党別投票結果」は次の通り。

参院 衆院
賛成 反対 賛成 反対
自民 110 223
新進 26 109
民主 13 23 25
共産 26 24
社民 11 13
太陽
21世紀
さきがけ
無所属
132 54 74 399
投票総数 186 473

 これを臓器の移植に関する法律「平成9年(1997年)法律第104号」と云う。10.16日から施行された。これを新法と云う。


【新法の内容】
 第六条(臓器の摘出)
1 医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。
2 前項に規定する「脳死した者の身体」とは、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。
3 臓器の摘出に係る前項の判定は、当該者が第一項に規定する医師の表示に併せて前項による判定に従う意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないときに限り、行うことができる。
4 臓器の摘出に係る第二項の判定は、これを的確に行うために必要な知識と経験を有する二人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死した者の身体から臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の一般に認められている医学的知見に基づき厚生省令で定めるところにより行う判断の一致によって、行われるものとする。
5 前項の規定により第二項の判定を行った医師は、厚生省令で定めるところにより、直ちに、当該判定が的確に行われたことを証する書面を作成しなければならない。6 臓器の摘出に係る第二項の判定に基づいて脳死した者の身体から臓器を摘出しようとする医師は、あらかじめ、当該脳死した者の身体に係る前項の書面の交付を受けなければならない。

 特徴として、1・移植の対象となる臓器が、従来の角膜と腎臓の他に、新たに心臓、肺、肝臓、そして厚生省令で膵臓と小腸が加えられた。2・従来の心臓死体の他に「脳死した者の身体」からの臓器摘出もゆるされることとなった。3・摘出用件が厳格になり、ドナー本人が生存中に臓器提供の意思及び脳死判定に従う意思を書面で示していて、かつ遺族がこれを拒まない(または遺族がいない)場合に限り、摘出が許されることになった。4・記録の作成、保存及び閲覧の規定、臓器売買を厳重に処罰する規定等が設けられたなどが挙げられる。

 今回の臓器の移植に関する法案では、脳死を人の死とするのか、しないのかといった点が争点となった。人の死に関する定義を、このように法で規定するようなケースにおいては個人の倫理観の問題もあり、統一した見解というものが得られにくい。よって法案の動向に関して多くの異なった立場からの意見が出たし、衆参の本会議においても2つの法案が提示されたわけである。内容の重さを考慮して安易な議決を避けるために、こういうような二極対立的なあるいは多極対立的な構造が、法律の成立過程に限らず政策過程全般においてしばしば見うけられると思う。  

【その後の見直し】
 現行の臓器移植法には施行後3年の見直し規定があり、臓器提供条件の緩和や15歳未満の臓器提供を認めるよう、患者団体や日本移植学会が法改正を求めてきた。

 2006年にA、B両案が与党の有志議員によって国会に提出された。C案は両案の対案として、野党の有志議員によって07年に提出されたが、長らくたなざらしの状態が続いていた。2008.5月、国際移植学会が自国外での臓器移植自粛を求めた「イスタンブール宣言」を採択し、世界保健機関(WHO)も臓器移植の自国内完結を促す指針を取りまとめる方向となった。このため、15歳未満の臓器提供が禁止されている日本の小児患者は臓器移植を受ける道が閉ざされる可能性が出てきたことから、にわかに同法の改正論議が活発化した。

 患者に対し、ドナー(臓器提供者)から提供された臓器を移植するのが臓器移植で、欧米では1980年代より、移植成績の向上に伴って、心臓移植、肝臓移植が急速に普及した。現在、腎臓移植、心臓移植、肝臓移植、肺移植、膵臓移植などが行われている。日本臓器移植ネットワークに登録している待機患者は6月1日現在、1万2000人以上。現行法は1997年に施行されたが、現在までの臓器提供はわずか81例、年間でも10例前後にとどまっている。

【2009年、見直し4法案が上程される】

 2009.6.15日、自民・民主両党の有志議員が新たな臓器移植法改正案(D案)を衆議院に提出した。提出者は自民党の根本匠、民主党の笠浩史の両衆院議員ら7名。衆院厚生労働委員会の自民党筆頭理事の鴨下一郎氏、民主党筆頭理事の藤村修氏ら自公民の衆院議員26人が賛成者に名を連ねた。D案は、脳死になった15歳以上の人からの臓器提供については、現行法と同様、本人が書面で提供の意思を示してある場合に可能とし、現在は認められていない15歳未満は、家族の承諾と第三者によるチェックを条件に可能とする。改正案は四つめ。在までの臓器提供はわずか81例、年間でも10例前後にとどまっているからだ。

 現行の臓器移植法と改正案の比較
法案 法案提出者
脳死の概念と臓器提供
臓器提供年齢
現行法 臓器提供をする場合に限り人の死として、本人の書面による提供意思と家族の同意が必要。
15歳以上
A案 中山太郎自民党)、河野太郎(自民党)、福島豊(公明党)ほか衆議院議員計6名
脳死は一律に人の死として、子どものケースを含めて本人の拒否がない限り家族の同意で可能。
無制限
B案 提案者は、石井啓一(公明党)の衆議院議員計2名(斉藤鉄夫議員(公明党)は、大臣就任のため、提案者からはずれ賛同者)
現行法と同じ
12歳以上
C案 阿部知子(社民党)、枝野幸男(民主党)、金田誠一(民主党)の衆議院議員3名(臓器移植に慎重な議員)
脳死の定義をより厳格化させ、現行法と同じ
15歳以上
D案 提案者は、鴨下一郎(自民党)、根本匠(自民党)、藤村修(民主党)ほか衆議院議員計7名
15歳以上は現行法と同じ。14歳以下は家族の同意で可能
無制限

 これまでは脳死状態となった本人があらかじめ書面で脳死状態での臓器提供を明らかにしている場合のみ、本人は死体と見なされ、臓器移植が可能とされてきた。これは脳死臓器移植を待ち望む側と脳死状態となった側との間で、脳死を人の死とする国民的コンセンサスが得られていない状態で、脳死臓器移植を可能とするための智慧であった。 A案は、脳死は人の死であると決定し、生前に書面で脳死判定を拒否することを明らかにした場合のみ、例外的に脳死臓器移植を拒否することができることに変わった。臓器提供の際の「本人同意」さえ不要としている。家族が幼児の生殺与奪の権利を持つことになるA案は、子供の生きる権利を奪うものだ。国会に提出された四つの改正案のうち、最も臓器移植の機会を拡大する可能性があり、患者団体や日本移植学会などが支持していた。

 A案支持者は提出者の中山太郎元外相(自民)、提案者の河野太郎衆院議員(自民)他、山内康一衆院議員(自民)ら。

 残る3案は、臓器提供可能年齢を現在の「15歳以上」から「12歳以上」に引き下げるB案、脳死の定義を厳格化するC案、15歳未満について家族の同意と第三者による審査を条件に可能とするD案。

 2009.6.17日、.衆院議院運営委員会は理事会で、18日に衆院本会議で採決する臓器移植法改正4案の採決順について、A案→B案→C案→D案とすることを正式に決めた。4案とも採決で過半数に達しなかった場合の扱いなどは18日午前の理事会で協議する。採決は共産党を除く各党が党議拘束を外して臨む方針で、自民党は全衆院議員に本会議への出席を義務づけた。


【中山A案が衆議院で可決される】
 2009.6.18日、衆院本会議で臓器移植法改正案の採決が記名投票で行われた。審議が十分に尽くされいないという声がある中で与野党一致で採決に付された。個人の死生観や倫理観に基づく問題であるとして、共産党を除く各党は党議拘束をかけず議員個人の判断に委ねるという珍しい採決スタイルとなった。

 脳死を「人の死」とすることを前提に、臓器提供の条件について、書面による生前の意思表示と家族の同意を必要としている現行制度を大幅に緩和した。本人意思が不明でも生前の拒否がない限り家族の同意で臓器提供できるよう改める。現行では禁止されている15歳未満からの臓器提供を可能とする乳幼児からの臓器提供が可能となることを柱としたA案が予想を上回る賛成を得て大差(投票総数430、賛成263票、反対167、欠席・棄権(議長含む)48)で可決され衆議院を通過した。採決は国会提出順に、A、B、C、D各案の順で行われ、いずれかの案が投票総数の過半数の賛成を得た時点で、残りの案は採決されずに廃案になるルールだった。より広範な支持を集めようと、折衷案としてつくられたD案も、採決されないまま廃案となった。

 477衆院議員の投票行動は次の通り。麻生内閣の首相と13人の閣僚の投票行動を見ると、賛成は河村官房長官ら9人、反対は首相や石破農相ら4人。与謝野財務相は同時刻に開かれた参院財政金融委員会に出席するため、棄権した。麻生首相はA案に反対票を投じた。採決後、記者団に「脳死については世の中の意見がきっちり固まっていないのではないかと思っていたので、D案を考えていた」と説明した。ただ、「少なくとも臓器移植を望んでいる方々に、立法府として結論を出したのは良かった」とも語った。衆院には厚生相・厚生労働相経験者が8人在籍しているが、7人が賛成、1人が反対だった。

 自民党は、賛成202人、反対77人、棄権・欠席24人。賛成者は所属議員の67%に上り、A案の可決を大きく後押しした。首相経験者のうち、福田康夫、小泉純一郎、森喜朗、海部俊樹各氏は賛成したが、安倍晋三氏は棄権した。安倍氏は採決後、「子どもに臓器移植を可能にすることには賛成だが、脳死を一般的な『人の死』とすることには問題があると思った」と述べ、D案支持だったことを明らかにした。

 民主党・無所属クラブは賛成41人(37%)、反対65人、棄権・欠席6人で、反対が多数派だった。小沢、菅両代表代行、岡田幹事長が賛成、鳩山代表は反対した。鳩山氏は記者団に、脳死を「人の死」とする立場に疑問を呈し、「D案が良かった」と語った。参院で主導権を握る民主党議員の賛成は2割以下にとどまった。

 公明党も反対の方が多く、賛成12人(39%)、反対18人、棄権・欠席1人だった。北側幹事長は賛成したが、太田代表は「B案を考えていた」と反対に回った。 

 社民党・市民連合は党議拘束を掛けなかったが7人全員が反対。「国民新党・大地・無所属の会」も党議拘束を掛けなかったが国民新党所属の5人全員が棄権した。

 共産党は、平成9年の臓器移植法採決時には反対の党議拘束をかけていたが、こたびは9人全員が本会議に出席した上で棄権するという党議拘束を掛けた。穀田恵二国会対策委員長は採決に先立つ記者会見で、「4案はどの案も、その根幹で国民的合意が得られていない問題を抱えている。今後、合意が形成されることもあり得るので反対はせず、『保留』の態度を取ることにした」と説明した。

 「産経ニュース【臓器移植】A案に賛成・反対・棄権 全衆院議員の投票行動」 その他によれば、臓器移植法改正案(A案)の賛否で【可とする者】(賛成)は次の通り。

 ▽自民党(202人)

 赤間二郎/安次富修/逢沢一郎/愛知和男/赤城徳彦/赤沢亮正/甘利明/井上喜一/井上信治/井脇ノブ子/伊藤公介/伊藤忠彦/伊藤達也/飯島夕雁/石崎岳/石田真敏/泉原保二/稲葉大和/猪口邦子/今津寛/岩永峯一/岩屋毅/宇野治/上野賢一郎浮島敏男臼井日出男江崎鉄磨江崎洋一郎/衛藤征士郎/遠藤宣彦/小川友一/小此木八郎/小野次郎/小野晋也/小渕優子/尾身幸次越智隆雄近江屋信広/大高松男/大塚高司/大塚拓/大野功統/大前繁雄大村秀章岡下信子岡本芳郎奥野信亮/加藤勝信/加藤紘一/海部俊樹/片山さつき/金子一義/金子善次郎金子恭之亀井善太郎亀岡偉民川崎二郎/河井克行/河村建夫/瓦力/木原稔/木村太郎/木村隆秀/木村勉/木村義雄/岸田文雄/北川知克/北村茂男/久間章生/倉田雅年/小池百合子/小泉純一郎/小坂憲次小島敏男/小杉隆/木挽司/河野太郎/河本三郎/高村正彦/近藤三津枝近藤基彦佐田玄一郎/佐藤勉/佐藤ゆかり/佐藤錬/坂井学/坂本哲志/桜井郁三桜田義孝/笹川堯/清水鴻一郎清水清一朗/塩崎恭久/篠田陽介/柴山昌彦島村宜伸新藤義孝/菅義偉/菅原一秀/杉浦正健/杉田元司/杉村太蔵/鈴木俊一/鈴木淳司/鈴木恒夫/園田博之/田中和徳/田中良生/田野瀬良太郎田村憲久平将明高市早苗竹本直一谷公一谷川弥一谷本龍哉/玉沢徳一郎/中馬弘毅/津島雄二/土屋品子/渡嘉敷奈緒美/戸井田徹/渡海紀三朗/土井亨/徳田毅/冨岡勉/中川秀直/中川泰宏/中谷元/中野正志/中山太郎/仲村正治/永岡桂子/長崎幸太郎長島忠美/長勢甚遠/二階俊博/西村康稔西銘恒三郎西本勝子/額賀福志郎/野田聖子/野田毅/萩生田光一萩山教厳/橋本岳/馳浩/鳩山邦夫/浜田靖一/林幹雄/原田憲治/原田令嗣/原田義昭/平井卓也/深谷隆司/福岡資麿/福田峰之/福田康夫/藤井勇治/藤田幹雄/藤野真紀子/船田元/古川禎久/古屋圭司/細田博之/馬渡龍治/牧原秀樹/町村信孝/松浪健四郎/松浪健太/松本純/松本文明/三ツ林隆志三原朝彦御法川信英/宮腰光寛/宮沢洋一/武藤容治/村田吉隆/茂木敏充盛山正仁/森英介/森喜朗/森山裕/森山真弓/山際大志郎/矢野隆司/谷津義男/安井潤一郎/保岡興治/柳沢伯夫/柳本卓治山内康一/山口俊一/山口泰明/山本明彦/山本拓/吉川貴盛/吉田六左エ門/吉野正芳/渡辺具能/渡部篤

 反対は次の通り。南関東・赤池誠章-、南関東・鈴木馨祐、東京・土屋正忠、東京・若宮健嗣、 北陸信越・高鳥修一、東海・平田耕一、東海・斉藤斗志二-、東海・土井真樹、近畿・山本朋広-、近畿・井沢京子、中国・阿部俊子、中国・萩原誠司、四国・七条明、九州・広津素子、九州・林田彪、九州・山本幸三

 ▽民主党・無所属クラブ(41人)

 安住淳赤松広隆/石川知裕/石関貴史市村浩一郎/内山晃/小沢一郎/大畠章宏/太田和美/逢坂誠二/岡田克也/川端達夫/菅直人/吉良州司/黄川田徹/小平忠正/小宮山洋子/近藤洋介/下条みつ神風英男/仙谷由人/田嶋要/田村謙治/高山智司/津村啓介/土肥隆一/中井洽/中川正春/長島昭久/長安豊/羽田孜/馬淵澄夫/牧義夫/松野頼久/松原仁/松本龍/村井宗明/山岡賢次/山口壮柚木道義/渡部恒三

 反対。
 北海道1・横路孝弘-、北海道2・三井辨雄、北海道4・鉢呂吉雄-、北海道6・佐々木隆博、北海道7・仲野博子-、北海道8・金田誠一、北海道9・鳩山由紀夫、岩手1・階猛、秋田1・寺田学、福島3・玄葉光一郎、埼玉1・武正公一、埼玉5・枝野幸男、埼玉6・大島敦、千葉 4・野田佳彦、山梨1・小沢鋭仁、新潟1・西村智奈美、新潟4・菊田真紀子、新潟6・筒井信隆、静岡5・細野豪志、静岡6・渡辺周、愛知  2・古川元久-、愛知3・近藤昭一、愛知11・古本伸一郎、愛知14・鈴木克昌、滋賀2・田島一成、滋賀3・三日月大造、京都2・前原誠司、京都3・泉健太、京都6・山井和則、大阪11・平野博文-、山口2・平岡秀夫、長崎1・高木義明、 北海道・松木謙公、東北・横山北斗-、東北・田名部匡代、東北・郡和子、東北・吉田泉、北関東・福田昭夫、北関東・細川律夫、北関東・小宮山泰子、南関東・岩國哲人、南関東・笠浩史、南関東・後藤斎、南関東・池田元久、南関東・藤井裕久、東京・長妻昭、東京・末松義規、東京・加藤公一、北陸信越・鷲尾英一郎-、北陸信越・笹木竜三、北陸信越・篠原孝、東海・園田康博、東海・伴野豊、東海・岡本充功、東海・森本哲生、近畿・奥村展三、近畿・北神圭朗、近畿・藤村修、近畿・松本剛明、中国・松本大輔、中国・三谷光男、中国・和田隆志、四国・小川淳也、四国・高井美穂、九州・古賀一成、九州・原口一博、九州・大串博志、九州・山田正彦、九州・横光克彦、九州・川内博史、九州・楠田大蔵。

 ▽公明党(12人)

赤羽一嘉/伊藤渉/池坊保子/石田祝稔/江田康幸/北側一雄/坂口力/谷口和史/谷口隆義/福島豊/冬柴鉄三/桝屋敬悟

 反対。神奈川6・田勇-、東京12・太田昭宏、大阪3・田端正広、北海道・丸谷佳織、東北・井上義久、北関東・石井啓一、北関東・遠藤乙彦、南関東・富田茂之、南関東・古屋範子、東京・高木陽介、東京・高木美智代、北陸信越・漆原良夫、東海・大口善徳、近畿・赤松正雄、近畿・佐藤茂樹、近畿・西博義、中国・斉藤鉄夫、九州・神崎武法、九州・東順治。

 ▽国民新党・大地・無所属の会(2人)

 鈴木宗男/野呂田芳成

 ▽無所属(6人)

 江田憲司/滝実/中村喜四郎/西村真悟/前田雄吉/渡辺喜美

 反対。新潟5・田中真紀子、岡山3・平沼赳夫-


【参議院での審議】
 採決されたA案は同日中に参院に送付され、参院厚生労働委員会で審議が行われることになる。参院議院運営委員会は同日午後、理事会を開き、A案の審議日程の協議に入った。自民党が19日の参院本会議での趣旨説明を求めたのに対し、民主党は「早急すぎる」として反対したため審議入りは早くても24日となることが固まった。これに関連して、民主党の輿石東参院議員会長は18日の記者会見で「最優先でやらないといけないとは思っていない」と述べ、早期の実質審議入りに慎重な考えを示した。参院本会議での採決が7月以降となることは確実で、衆院解散の時期によっては廃案となる可能性もある。衆院が解散された場合、衆参両院に提出された法案は慣例によりすべて廃案となるため解散前の成立が不可欠となる。麻生首相は18日午後、記者団が「臓器移植法改正案の今国会の成立を目指すことが、衆院解散の時期に影響を与える可能性があるか」と尋ねたのに対し、「(影響は)ないと思う」と答え、解散時期は同改正案の成立とは関係なく判断する考えを示唆した。

 参院の民主、社民両党の有志議員はC案の考えに近い新案を参院に提出する構えを見せており、西岡武夫・参院議院運営委員長は「参院でまだ何の議論もしていない。この問題は慎重にあらゆるケースを考えないと禍根を残す」として、一定期間の審議が必要との認識を示している。審議の舞台は参院に移るが、A案の成立に消極的な意見や慎重審議を求める声が出ており、成立までには曲折も予想される。
 2009.7.13日、6.18日に衆院で投票総数の6割の賛成で可決され参院に送付されていた臓器移植法改正案が参院本会議で採決され、3法案のうち、脳死を一般的な人の死とする「A案」(衆院通過)が賛成138、反対82の賛成多数で可決、成立した。

 与野党の有志はA案を踏襲しつつ死の定義は現行通りとする修正A案が提出され、修正A案、A案に続き、現行法の枠組みを残しながら子どもの臓器移植のあり方を1年かけて検討する「子ども脳死臨調設置法案」の順で採決を行う予定だったが、修正A案が賛成72、反対135で否決後、A案が可決されたため、臨調設置法案は採決されなかった。臨調法案に賛成の共産党以外の各党は党議拘束をかけず、各議員が自らの死生観に基づいて投票した。

 
立した法律骨子は次の特徴がある。1・死亡者の意思が不明で遺族が書面で承諾していれば、医師は死体(脳死した者の身体を含む)から臓器を摘出できる。2・本人の意思が不明でも、家族が書面で承諾していれば医師は脳死判定できる。3・親族に臓器を優先提供する意思を書面で表示できる。4・政府は虐待児から臓器が提供されないようにする。

 修正A案、A案の反対者は次の通り。

 民主

 小川勝也、主浜了、岡崎トミ子、藤田勝久、*瀬進、富岡由紀夫、小川敏夫、鈴木豊、大河原雅子、千葉景子、牧山弘恵、森ゆうこ、輿石東、羽田雄一郎、林久美子、福山哲郎、松井孝治、川上義博、姫井由美子、植松恵美子、大久保勉、川崎稔、犬塚直史、松野信夫、円より子、高嶋良充、ツルネン・マルティ、神本美恵子、西岡武夫、白真勲、那谷屋正義、藤末健三、喜納昌吉、工藤堅太郎、下田敦子、松岡徹、前田武志、相原久美子、青木愛、今野東、藤原良信、藤谷光信、室井邦彦、大石尚子。

 自民

 有村尚子、山谷えり子、丸山和也。小泉昭男と谷川秀善は棄権・欠席。

 公明
 
 白浜一良。加藤修一は棄権・欠席。

 国民新党

 亀井亜紀子。

 無所属
 
 鈴木陽税、川田龍平、田中直紀、糸数慶子。
 共産と社民は全員反対。但し、社民の又市征治は棄権・欠席。



 



(私論.私見)