ジェンキンス問題考

 「ジェンキンス問題」が浮上してきた。曽我さんの夫で元米兵チャールズ・ジェンキンス(64)さんは、1965.1月、在韓米軍に所属していた軍役を放棄し、韓国側から軍事境界線を越えて北朝鮮に入った。入国後は反米映画にも出演し米国の面目を損傷している。米国は目下、イラク人虐待事件で軍の規律が厳しく問われており、軍の士気への影響を考慮すれば、「ジェンキンス氏の引渡し」をかなり強硬に要求する可能性が強い。日米関係筋は、「特別に扱えば、米国にとって国の根幹を曲げて、反逆者を許すということになる。日本が考えているほど小さい話ではない」と指摘する。

 政府内には6月の日米首脳会談での政治決着に期待を寄せる声もあるが、外務省筋は「大統領がサービスできる問題ではない。大統領が小泉首相に手を貸すと、自らの政権に傷を与えかねない問題だ」と指摘している。

 こういう問題の折柄、小泉首相は、先の「小泉第二次訪朝」で、金総書記との会談の後約1時間かけてジェンキンス氏と曽我さんとの間の子女二人を交えて会談した。米国との事前折衝を何も為さないまま、席上、小泉首相はジェンキンス氏と二人の娘の来日を誘った。ジェンキンス氏は、来日すれば米軍に逮捕されることを理由に断った。米国政府が、「ジェンキンス問題」についての「現在も米陸軍の脱走兵であり、訴追される」との見解を示している以上、無理も無い。

 この時小泉首相はどう対応したか。何と、「大丈夫だから日本に来てください。米国には行かせません。日本国総理大臣の責任で身の安全は保証する」と見栄をきった後、「首相としての私がジェンキンス氏の身元の安全を保証する(I guarantee)」という外交的にどこまで有効か定かでない首相自身の保証による一筆口上書を呈示し説得を試みている。

 この場合求められているのは米政府の保証書であるのに、それを事前に根回ししておくべきであるのに、小泉首相自身のお墨付きで糊塗しようとした。この御仁はこういう馬鹿げた行為を時にする。これが不審行為として問われない日本の政界事情ではあるが、その場ばったりの思いつきサーカス芸を平気で為す軽薄首相であることが判明する。


 ジェンキンス氏は、小泉首相の誓約を信用しなかったのだろう、断った。こうして曽我一家の同時帰国要請会談は不調に終わったが、小泉首相の何とも軽率な政治力ぶりが見えてくる。しかし、我らがマスコミ、国会どもにおいてはこのことが問題にされず、小泉首相の年金問題の方に関心が集まっている。れんだいこは、「小泉首相の年金問題」もさることながら「ジェンキンス問題」の方がより重要と考える。

 小泉首相は帰国後、「I guarantee」の意味を、「家族がいっしょに暮らせるように最大限努力する、という意味だ」と説明している。再び何と、「保証」の意味を「努力する」という意味に解している。5.27日の参院イラク復興支援・有事法制特別委で、「米側と事前に話がつく問題ではない。ジェンキンス氏が帰っていないのに、恩赦しますとか、訴追しないとか、事前に米側が公式的な場では言えない」と居直り答弁している。.

 これは無茶苦茶答弁であろう。この答弁にブーイングが起こらなかったら不思議である。「米側と事前に話がつく問題ではない。ジェンキンス氏が帰っていないのに、恩赦しますとか、訴追しないとか、事前に米側が公式的な場では言えない」が罷り通るなら、外交のその殆どは意義を失うであろう。

 いずれにせよ「ジェンキンス問題」は尾を引きそうだ。そこで本サイトを設け、以下考察する。

 2004.5.29日 れんだいこ拝


【「ニューズウィーク」副編集長・ジェームズ・ワグナー氏の「引き渡しを拒まない日本政府の不思議」】
 拉致被害者の曽我ひとみを落胆させたのは、北朝鮮ではなくてアメリカだった。
 先週、訪朝した小泉首相は曽我の夫チャールズ・ジェンキンスに来日を強く働きかけた。だがアメリカに身柄を引き渡され、脱走兵として裁かれるのを恐れたジェンキンスはかたくなに拒否した。

 最近、日本で交わされた議論を知っていたら、それも当然かもしれない。相変わらずアメリカの「弟分」の地位に甘んじている日本の姿勢に、ため息をついた人は多いはずだ。ジェンキンスをめぐる日本の論調は、日本が長年続けてきた受け身の対応そのものだった。

 ジェンキンスの訴追を主張するアメリカのせいで日本が板挟みになるというのが、おおかたの懸念のようだ。しかし肝心なのは、アメリカではなく日本の態度だ。日本が立場を明確にすれば、アメリカへの対処のしかたも見えてくる。

 アメリカは現在戦時下にあり、ブッシュ政権が脱走兵を寛大に扱うとは考えられない。だとすれば、日本もアメリカと同じく明確な態度をとれば言い。「ジェンキンスの身柄は引き渡さない。以上」米政府は気に入らないだろうが、彼らには手の出しようがない。

 日本はいま、非常に強い立場にある。アメリカは北朝鮮の核開発の野望を抑えるためにも、イラクでの「国際協調」を維持するためにも、日本の協力を必要としている。

 ジェンキンスの身柄を引き渡さないのは条約違反だが、真のパートナーなら「例外」を認めるよう交渉できるはずだ。たとえ交渉が決裂しても、何が問題だというのか。友人だからといって、常に意見が一致するとは限らない。

 友好的な態度でアメリカに「ノー」を伝えるのは、健全なことだ。そうすることで、対等な日米関係に一歩近づくこともできるはずだ。


【曽我さん一家の再会場所を廻って混乱】

 2004.5.30日、拉致被害者の曽我ひとみさん(45)と夫ジェンキンスさん(64)らの再会問題で、政府は杉浦正健官房副長官と中山恭子内閣官房参与を新潟県佐渡市内に派遣し、曽我さんの意向を聞いた。中山参与は、「曽我さんの意向を踏まえ北京以外の候補地を物色する」と述べ、杉浦氏はこれを否定するという混乱が生じ混沌としてきた。

 いずれの地を選ぶにせよ、日米間でジェンキンスさんの扱いについて道筋をつけることが先決であろうに。目下のところ米国政府の要求は頑なであり、小泉氏の一存で米国がジェンキンスさんの恩赦に応じる状況にはない。日米調整の無いままに第三国を設定しても、その候補国が「米国との間で新たに外交問題を抱えることになり米国との関係悪化も懸念される」恐れがある。

 「ジェンキンス問題」は膠着の可能性が強い。



【ジェンキンス一家急遽来日考】
ジェンキンス氏問題とよど号赤軍派問題の奇妙な絡み考 れんだいこ 2004/08/06
 これも云っておきたかったことなので書き付けておこう。
 ジェンキンス氏のその後はどうなっているのだろう。れんだいこが見るところ、小泉政権に取ってジェンキンス問題は恐らくかなりなボディブローになるだろう。この問題は案外難しい。小泉は、その難しさを弁えず「アイ、ギャランティー」し、参院選最中に政治利用した挙句遂に来日させた。

 かなり難問の法的問題を全てフリーパスさせての「快挙」である。さて、ジェンキンスは今後どうなるのだろう。既に腹中のイガ、のど仏に刺さった針となった。

 米軍に引渡しすれば、小泉保証の軽率さが満天下に晒される。もっとも小泉はんにはそういうことの感覚が欠如しておりあっけらかんかも知れない。そして今日の政治はすんなりそれを許すかも知れない。何とならばもはやこの国には主権概念がないのだから。

 アジアに向けては偉そうにするが米英ユ同盟に対しては仰せのままにしかできないこの体質はいつから創り出されたのだろうか。

 そういうことが云いたいのではない。云いたいことはこちらの問題。つまり、小泉はんがブッシュ政権にジェンキンス免責を求めるならその同じ論理で例のよど号事件赤軍派が免責されることになる、という面白い関係についてである。だから、小泉−外務省の対米交渉の論理が気になる。どういう風に交渉するのだろうか。

 有り得ないように思うが、ジェンキンス氏が免責釈放され、よど号事件赤軍派が免責帰国となるなら、それは実に目出度いことである。赤軍派の不法出国問題の免責とジェンキンス氏の不法離隊の免責とはよく似ているように思われる。

 小泉はんに、ジェンキンス氏は免責釈放、赤軍派は有責収監の論理を編み出す力がありや為しや。それを思うから、れんだいこは、ジェンキンス氏の米軍への譲り渡し、つまりは「アイ、ギャランティー」は全くの絵空事であったことになると思われる。たとえ、「最大限の努力」と言い換えようとも、どういう努力をしたのかを明示せねばなるまい。実は、何もしなかった、できなかった、云われるままに差し出したとなるのがオチだろう。

 こういう御仁が長らく我が国の首相にとどまり、何やかや断行しつつあるが、れんだいこには全てが疎(うと)ましい。中曽根−小泉がやったこと、やろうとしていることの全てを無効にして再検証することこそ日本再生の第一歩と思う。

 しかしあかん。自称インテリたちによってこの二名が提灯され、大統領張りの評価を受けている。この仕掛けをどうやって崩すべきか、考えねばなるまい。


(私論.私見) 【ジェンキンス氏の米軍出頭考】

 2004.9.11日、北朝鮮による拉致被害者の曽我ひとみさん(45歳)の夫で、元米兵のジェンキンス(64歳)氏の去就が注目されていたが、この日、東京・新宿の東京女子医大を退院し、在日米陸軍司令部のある神奈川県のキャンプ座間の憲兵隊事務所(PMO)に任意出頭した。これが、小泉首相の「I guarantee」の結果である。ジェンキンスがこの後どう処遇されるのか不明であるが、日本政府の責任問題まで絡んでいることは間違いない。

 ジェンキンス氏は、PMO前で出迎えた憲兵隊長のポール・ニガラ中佐に右手を挙げて最敬礼し、「上官、私はジェンキンス軍曹です。只今出頭しました」と告げた。ニガラ中佐は、「あなたは米軍の指揮下に置かれます。あなたと家族が敬意を持って手続きが行われることを保証します。質問はありますか」と述べた。ジェンキンス氏は硬い表情を崩さず「ありません」と答え、PMO事務所に入っていった。

 アンバーグ在日米陸軍司令部広報室長によると、ジェンキンス氏が米軍から訴追されている容疑は、(1)脱走、(2)二件の脱走教唆、(3)利敵行為、(4)二件の米国に対する忠誠放棄の教唆−の四件。米軍は、ジェンキンス氏の容疑を、「休戦ライン警備のチームリーダーの戦線逃亡者であり、その内容は重罪に値する。脱走兵・戦争犯罪者として時効すら認められない」との見解を示している。軍法会議は罪の重さによって三種類あるが、ジェンキンス氏が問われている罪は重いことから高等軍法会議で審理が進められる見通しだとのこと。

 「ジェンキンス問題」は、ベトナム戦争時の脱走兵がどのように処遇されたのかの関心を高める。伝えられるところによると、ジェンキンス氏は、容疑の一部を認めて北朝鮮に関する情報を提供する代わりに刑を軽減する司法取引を通じての「不名誉除隊」などの形で決着することを望んでいる。司法取引により「事前審理制度」が活用されれば、刑の上限をあらかじめ決めることができ、軍法会議がそれ以上に重い処罰を言い渡しても上限が判決になる。但し、この場合、恩給などが受給できない。

 出頭後のジェンキンス氏は米軍への復帰手続きを済ませた後、米国の統一軍事裁判法に基づく司法手続きに入る。予備審問を経て、軍法会議が開催されることになるが、判決までの期間が長期化する可能性もある。 ダイクストラ米陸軍予備役大佐(国際法専門官)は同日午後記者会見し、「大まかな推測だが、判決が下るまで1−3カ月、裁判記録が作成されるまで2−3カ月かかる」と述べた。但し、「32条の手続き(予備審問)を放棄すれば、期間は大幅に短縮される。(ジェンキンスさんは)これを放棄できる」とも語った。

 軍法会議が適当かどうかを判断する予備審問は同法32条に規定されている。これは、中立な立場の調査官による告訴内容の調査を経たうえで、軍法会議の招集権限を持つ司令官が会議開催を判断する。軍法会議の開催が決まると軍人判事、検察官が任命されるが、日本に駐在していない判事や弁護人が必要となる場合には来日するための時間がかかる。陪審員には国内の陸軍部隊の将校などがなる。

 軍法会議は原則公開。期間は、証人の数や公判中にあがってくる動議や法律問題などの解決などの対応にもよるため、早ければ一日で終わるケースもあれば、長期化するケースもあるという。判決後は裁判記録が作成され、司令官が署名を行えば、手続きは終了。控訴されない限り、判決は確定する。 



【ジェンキンス氏の米軍復帰考】
 ジェンキンス氏は出頭後、米軍への復帰手続きを済ませ、陸軍の給料支払簿に再登録された。

 国防総省会計管理規則などによると、ジェンキンス氏に支給されるのは(1)基本給、(2)基本住居・食糧手当、(3)生活手当−の3種類。今年1.1日時点で脱走前にさかのぼるとジェンキンス氏の勤務年数は9.2カ月。「E−5」という下士官の給与階級が適用され、基本給は月額約2250ドルになる。住居・食糧手当は約254ドル。為替変動を補うための生活手当は扶養家族の人数などを考慮して、支給額が算出され、ジェンキンス氏の場合は月額約768八ドルになるという。現役軍人に復活したジェンキンスさんは早速、給与や生活費などを約40年ぶりに米軍から受け取った。9.11日に支給された額は明らかにされていないが、ジェンキンス氏には滞在中、諸手当を含め、毎月約3270ドル(約36六万円)が支給されるという。


 ジェンキンス氏一家は正式な住居が提供されるまでキャンプ内の宿泊施設に滞在する。当面ジェンキンス氏は事務職として施設内で勤務するが、許可がない限り施設外には出られない上、施設内でも、案内人などを常時伴わなければならないという。




(私論.私見)