更新日/2023(平成31.5.1栄和改元/栄和5).1.12日



 私の訴え

 私は2023年2月、「綱領と規約に違反し分派を形成した」として、共産党から除名されました。しかし私は、分派の形成などしたこともなければ、考えたことさえありません。党員になって半世紀近く、綱領と規約を批判したことすらなく、2000年の新規約、2004年の新綱領を誰よりも大切にしてきました。2024年1月の党大会で再審査(規約第55条)を実施するよう求めてきましたが、私の再審査請求書は代議員に配布されることもなく、21名だけの大会幹部団の責任で再審査は却下されました。この局面で私は、除名処分の撤回を求めて裁判に訴えることにしました。共産党中央委員会、京都府委員会、同南地区委員会の3者を「共同不法行為」で訴えます。政党の除名処分については、結社の自由を重視する最高裁判例が確立しており、それを覆して勝訴することは簡単ではありませんが、最高裁まで闘い抜く決意です。みなさんのご支援をお願いします。
 松竹 伸幸(まつたけ のぶゆき)

 1955年、長崎県生まれ。兵庫県立神戸高校卒、一橋大学社会学部卒。かもがわ出版編集主幹。自衛隊を活かす会 事務局長(正式名称「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」(代表:柳澤協二)9条を含む現行憲法下での自衛隊と安全保障のあり方を考える会。国際刑事法典の制定を国会に求める会 事務局長(代表:伊勢﨑賢治)。編集者・ジャーナリスト、日本平和学会会員。

【松竹伸幸「シン・日本共産党宣言」出版反応】
 結局、共産党の党首公選論事件の根本問題は、共産党が政教分離できていないところに原因があるんだな。かって公明党にさんざん説教し公明党はそれなりに政教分離したが、追及した方が政教分離できていないという、これもお笑いシアターやな。今や議会専一ソフト運動にシフトしているのに、規約は昔のままのコワモテにしているところが相まってお笑い度を深めているんだな。公明党は多少なりともマを取ったが、この党は恐らく無理だろう。しかし理論は科学的云々を重視として胸を張ろうとしているから、これがまたお笑いだわな。

 「」。
 弁護士伊藤真さんが記者と市民に語る──共産党松竹事件の裁判の意義はどこにあるのか 伊藤真弁護士は、講演の中で、政党による除名処分への司法審査の可否のみならず政党の公的機能や裁判を受ける権利などの人権が問題になる重要な憲法裁判であることを強調しました。 折しも、世論調査で「支持する政党がない」と答える人が激増している結果が報道されています。 政党は国民のためにいかにあるべきか? 「共産党松竹事件」は、人権に関わる重要なテーマと同時に政党のあり方を国民的に考えるきっかけを提供しているとも言えます。 1人でも多くの方にこの動画が届きますように。 伊藤真さんの講演のレジュメと資料は松竹伸幸公式ホームページからダウンロードできます。

 2024 年7月22日、弁護士 伊藤真「共産党松竹事件の裁判の意義はどこにあるのか」。
 1 政党と司法審査

  ⑴ 政党の位置づけ イ 政党の憲法上の位置づけ ⒜ 定義 政党:一定の政策を掲げ、それに対する国民の支持を背景に政府 機構の支配の獲得・維持を通じてその実現を図ろうとする、 自主的・恒常的な政治組織団体 ⒝ 役割 政党は国民が国家の意思形成過程に関与するための媒介をな すことから、議会制民主主義を支える重要な役割を担っている。 ⒞ 憲法と政党の関係(トリーペルによる分類) 敵視→無視→承認及び合法化→憲法的編入 ⒟ 現行憲法の政党に対する態度 「結社」としてこれを保障している(21条1項)。 →承認及び合法化の段階
 【最高裁昭和45年6月24日大法廷判決(八幡製鉄事件)】

 憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであ るが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待するこ とはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきで あり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国 民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民として の重大な関心事でなければならない。
 【最高裁昭和63年12月20日第3小法廷判決(共産党袴田事件)】

 政党は、政治上の信条、意見等を共通にする者が任意に結成する政治結社であつて、内 部的には、通常、自律的規範を有し、その成員である党員に対して政治的忠誠を要求した り、一定の統制を施すなどの自治権能を有するものであり、国民がその政治的意思を国政 に反映させ実現させるための最も有効な媒体であつて、議会制民主主義を支える上におい 1 1 てきわめて重要な存在であるということができる。したがつて、各人に対して、政党を結 成し、又は政党に加入し、若しくはそれから脱退する自由を保障するとともに、政党に対 しては、高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなけれ ばならない。 ロ 問題の所在 私的結社でありながら、統治機構としての議会に参加する限りで、純粋な市民社会 の内部組織とはいえなくなり、権力性を帯びるので法的規制が必要となる。 e.g.衆議院の第1党党首は総理大臣 ⑵ 裁判所が判断できる問題か イ 司法権 憲法76条1項 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に 属する。 司法権とは、具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを 裁定する国家の作用 司法権概念の中核をなす「具体的な争訟」(事件性)とは、「一切の法律上の争訟」 (裁判所法3条)と同義である。したがって、「法律上の争訟」に当たらなければ、 原則として裁判所の審査権は及ばない。 「法律上の争訟」とは ① 当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、 ② それが法令を適用することにより終局的に解決することができるものをいう。 ロ 司法権の限界 法律上の訴訟であったとしても裁判所が判断できない場合がある。 (イ) 憲法上の限界(55条、64条) (ロ)条約上の限界(治外法権、日米地位協定) (ハ)憲法解釈上の限界 a 自律権 b 裁量論 c 統治行為論(砂川事件、苫米地事件) d 団体の内部事項に関する行為(部分社会の法理) e.g.地方議会、大学、政党、宗教団体、労働組合。
 【最高裁昭和52年3月15日第3小法廷判決(富山大学事件)】

 裁判所は、憲法に特別の定めがある場合を除いて、一切の法律上の争訟を裁判する権限 を有するのであるが(裁判所法三条一項)、ここにいう一切の法律上の争訟とはあらゆる 法律上の係争を意味するものではない。すなわち、ひと口に法律上の係争といつても、そ の範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上裁判所の司法審査の対象外におくのを適当 とするものもあるのであつて、例えば、一般市民社会の中にあつてこれとは別個に自律的 な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民法秩 序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委 ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である。
 2 共産党袴田事件判例 ⑴ 判例の判断枠組

 【最高裁昭和63年12月20日大法廷判決(共産党袴田事件)】

 政党の結社としての自主性にかんがみると、政党の内部的自律権に属する行為は、法律 に特別の定めのない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に 対してした除名その他の処分の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのを相 当とし、したがつて、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有し ない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばないというべきであり、他方、 右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であつても、右処分の当否は、当該政 党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照ら し、右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則つてされたか否かによつて決 すべきであり、その審理も右の点に限られるものといわなければならない。 ⑵ 当てはめ イ 政党による除名処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題か 「昭和三五年三月九日大法廷判決は議員の除名処分を司法裁判の権限内の事項と しているが、右は議員の除名処分の如きは、議員の身分の喪失に関する重大事項で、 単なる内部規律の問題に止らないからであつて、本件における議員の出席停止の如 く議員の権利行使の一時的制限に過ぎないものとは自ら趣を異にしているのである。 従つて、前者を司法裁判権に服させても、後者については別途に考慮し、これを司法 裁判権の対象から除き、当該自治団体の自治的措置に委ねるを適当とするのである。」 (最高裁昭和35年10月19日大法廷判決) ロ 除名処分が適正な手続に則ってなされたものか ・形式的な手続に則ったか否かだけでなく、実体的な要件に該当するかの判断は? ・単なる手続ではなく、「適正な手続」を要請している点をどうみるか。
 3 判例変更

 判例の拘束力いかんにかかわらず、十分な理由がある場合には、判例の変更は可能であ る。例えば、判例を変更し得る理由としては以下の場合などが考えられる。 ① 時の経過により、事情が大きく変更した場合 ② 経験の教えに照らして調節が必要となった場合 ③ 先例の誤りが極めて明確となった場合 共産党袴田事件判例を変更する必要があるか、解釈による補充で足りるか。 ・実体判断するべきか否かに関する私見 本件で問題になっている実体的判断は、政策的な裁量の余地があり政治的価値判断が 必要な、政策の当否を判断するようなものではない。あくまでも、存在する内部規範に適 合するか否かを、証拠に基づいて事実を認定して、当てはめて判断するだけの問題であ る。すなわち、適正な手続きを履践したか否かの判断にすぎない。もちろん事実認定には 裁判官の価値判断、評価を当然に含むものであるが、その点は一般の裁判と何ら異なる ものではない。 これは司法権が十分に判断できるものであり、あえて憲法上の要請に基づく例外でも ないのであるから判断を避けることは、裁判を受ける権利の侵害となるのではないか。
 4 令和2年11月25日出席停止処分取消訴訟判決との関係
 【最高裁昭和35年10月19日大法廷判決(村議会議員懲罰事件)】

 司法裁判権が、憲法又は他の法律によつてその権限に属するものとされているものの 外、一切の法律上の争訟に及ぶことは、裁判所法三条の明定するところであるが、ここ に一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争という意味ではない。一口に法律上の 係争といつても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の 外におくを相当とするものがあるのである。けだし、自律的な法規範をもつ社会ないし は団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずし も、裁判にまつを適当としないものがあるからである。本件における出席停止の如き懲 罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。
 【最高裁令和2年11月25日第3小法廷判決(岩沼市議会出席停止事件)】

 出席停止の懲罰は、上記の責務を負う公選の議員に対し、議会がその権能において科 する処分であり、これが科されると、当該議員はその期間、会議及び委員会への出席が 停止され、議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることが できず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。こ のような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと、これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして、その適否が専ら議会の自主的、自律的 な解決に委ねられるべきであるということはできない。 そうすると、出席停止の懲罰は,議会の自律的な権能に基づいてされたものとして、 議会に一定の裁量が認められるべきであるものの、裁判所は,常にその適否を判断する ことができるというべきである。 したがって、普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法 審査の対象となるというべきである。 これと異なる趣旨をいう所論引用の当裁判所大法廷昭和35年10月19日判決その 他の当裁判所の判例は、いずれも変更すべきである。 ・宇賀克也裁判官の補足意見 法律上の争訟については、憲法32条により国民に裁判を受ける権利が保障されてお り、また、法律上の争訟について裁判を行うことは、憲法76条1項により司法権に課 せられた義務であるから、本来、司法権を行使しないことは許されないはずであり、司 法権に対する外在的制約があるとして司法審査の対象外とするのは、かかる例外を正当 化する憲法上の根拠がある場合に厳格に限定される必要がある。

 宇賀補足意見になぞらえて考えることができるのではないか
・例外を正当化する憲法上の根拠がある場合に厳格に限定される必要がある。
・地方議会の自律権を定めた明文規定はなく、92条の地方自治の本旨のみ。 住民自治により司法権に対する外在的制約を基礎づけながら、住民自治を阻害する 結果を招くこと背理である
・政党の統制権についての明文規定はなく、21条1項の結社の自由のみ。 結社の自由により司法権に対する外在的制約を基礎づけながら、結社の自由を阻害 する結果を招くこと背理である 結社の自由には、政党の統制権も含まれるが、その本質は個人の有する結社する自由 の保障にあるはず。

 この判例の令和2年判例解説によると 団体の内部紛争についての司法審査の可否につき、「それぞれの団体の目的・性質・機 能、その自律性・自主性を支える憲法上の根拠の相違、紛争や争われている権利の性質等 を考慮にいれて個別具体的に検討するという姿勢の現れである」(194頁)とある。 この観点からは、本件は、表現の自由、立候補の自由という重要な人権の侵害が問題と なっている点は重要な考慮要素と思われる。
 5 この事件の特殊性
  ⑴ 政党と内部の個人の問題であること

 ア 政党の公的役割からの観点 政党は、立憲民主主義国家である日本において権力を行使することにつながる団体 である以上は、内部統制の正当性を判断するにあたっては立憲民主主義、議会制民主 主義、個人の尊重(個人の尊厳の尊重、多様性の尊重)などの価値を尊重するべきで あり、その観点からの司法的統制を受けうることは甘受すべきである。純然たる私人 に憲法尊重擁護義務を課していない(闘う民主制をとっていない)こととは異なる対 応が必要ではないか。 また、ここで問題になっているのは、あくまでも個人の人権保障の観点から政党が 司法的統制を受けるべきか否の問題なのであり、政党法の制定など国会の多数派が 少数派を抑圧する手段として権力が介入する場面の問題とは区別して考える必要が ある。 イ 政党の目的の観点 判例が指摘するように、政党が「国民がその政治的意思を国政に反映させ実現させ るための最も有効な媒体であって、議会制民主主義を支える上においてきわめて重 要な存在である」以上は、政党も民意を十分に反映できる組織であるべきである。 ウ 私人間の問題ではあるが、憲法価値は重要 そもそも憲法は公権力を制限して自由を保障するものではあるが、公権力以外であ っても、強い力を行使して、そこに強弱関係、非対称関係がある場合には、そこでの 理不尽(人権侵害)を許さないという普遍的で客観的な価値として機能する。市民社 会における憲法秩序の維持もまた重要だからである。政党と党員の関係が非対称で あり憲法の趣旨を及ぼすべき場面であることは明らかである。
 ⑵ 重要な人権が問題となっていること

 本件では、原告の政党に加入し続ける自由(結社の自由)の侵害のみならず、間接的 に表現の自由、出版の自由、立候補の自由の侵害が問題となっている。表現等を自粛す るか、政党を離脱するか、市民的自由に関して理不尽な二者択一を迫ることは、たとえ 私人間であっても許されるべきではない。 特に表現の自由は、本人の自己実現のみならず、民主主義的価値も併せ持っており社 会全体にとって極めて重要な価値がある。裁判所が団体組織内部の問題であることを理 由にその侵害の救済を放棄することに関しては、よほど慎重な判断が必要なはずである。 こうした人権と政党の自律権(統制権)とが対立した場合、たとえ政党の自律権であ っても一定の制約を受けることは当然であり、仮に政党による統制権行使による深刻な 人権侵害が認められる場合に、裁 判 所 が 一 切 の 実 体 的 判 断 を 避 け な け れ ば な ら な い 理 由 はない。人権救済機関としての裁判所の職責の放棄は許されない。 特に裁判を受ける権利は、人権保障の前提となる権利(人権保障のための人権)であ り人権としての重要性は別格である。
 ⑶ 政治部門と司法部門の役割分担の問題ではないこと

 本件は、統治行為論などの他の司法権の限界の問題とは異なり、政治部門による救済 が期待できない事案であることに留意しなければならない。すなわち、本件は、自律権、 裁量論、統治行為論などのように政治部門と司法部門のどちらが当該人権の救済にふさ わしいかという役割分担の問題ではなく、当該人権侵害から救済すべきか救済しなくて もよいのかという判断が求められる場面である。よって、裁判を受ける権利の重要性、 侵害されている人権の重要性から考えて、裁判所がその救済を拒むのであれば、憲法上 の要請に基づく相当厳格な例外的な場合でない限り許されないといえる。 対立利益は、政党の自主性、自律性であるが、それが、立憲民主国家における政党の 在り方との関係で、個人の人権救済を拒むほどに重要なものとして憲法上要請されてい るのかを慎重に判断するべきである。
 6 結語

 共産党松竹事件の裁判の意義は、政党内部の紛争に裁判所が立ち入って判断できるか という司法権の限界に関する問題提起であり、特に団体による内部者への重大な人権侵 害が主張されている事案において、裁判所がその判断を回避することが個人の裁判を受 ける権利の侵害につながらないかという重要な問題を提起しているところに意義がある。 また、純粋に法的観点からの意義のみならず、昨今の政治情勢を踏まえて、政党の在り 方に関する国民的議論が活性化する事件としての意義も併せ持っていると考える。 以上

 資料①_R2.11.25最高裁判決
 平成30年(行ヒ)第417号 出席停止処分取消等請求事件 令和2年11月25日 大法廷判決
主 本件上告を棄却する。 文 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人阿部長ほかの上告受理申立て理由について 1 本件は,岩沼市議会(以下「市議会」という。)の議員であった被上告人 が,市議会から科された23日間の出席停止の懲罰(以下「本件処分」という。) が違憲,違法であるとして,上告人を相手に,その取消しを求めるとともに,議会 議員の議員報酬,費用弁償及び期末手当に関する条例(平成20年岩沼市条例第2 3号。以下「本件条例」という。)に基づき,議員報酬のうち本件処分による減額 分の支払を求める事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1) 被上告人は,平成27年12月20日に行われた市議会の議員の任期満了 による一般選挙において当選し,本件処分当時,市議会の議員であった者である。 (2) 市議会の定例会の回数は,岩沼市議会定例会の回数に関する条例(昭和3 1年岩沼市条例第78号)により,毎年4回とされており,その会期は,岩沼市議 会会議規則(平成7年岩沼市議会規則第1号)により,毎会期の初めに議会の議決 で定めることとされている。市議会の平成28年6月に招集された定例会(以下 「6月定例会」という。)の会期は同月14日から同月23日までの10日間,同 年9月に招集された定例会(以下「9月定例会」という。)の会期は同月6日から 同月28日までの23日間とされた。 (3) 本件条例によると,市議会の議員の議員報酬は月額36万3000円とさ れ(2条),一定期間の出席停止の懲罰を受けた議員の議員報酬は,出席停止の日 8- 1 - 資料①_R2.11.25最高裁判決 数分を日割計算により減額するものとされている(6条の2,3条3項)。 (4) 被上告人と同一の会派に属するA議員は,海外渡航のため,平成28年4 月25日に行われた市議会の教育民生常任委員会を欠席した。市議会は,同年6月 14日,6月定例会において,A議員に対し,上記の欠席について,議決により公 開の議場における陳謝の懲罰を科した。これを受け,A議員は,市議会の議場にお いて,陳謝文を読み上げた。 (5) 被上告人は,平成28年6月21日,市議会の議会運営委員会において, 上記(4)のA議員が陳謝文を読み上げた行為に関し,「読み上げたのは,事実で す。しかし,読み上げられた中身に書いてあることは,事実とは限りません。それ から,仮に読み上げなければ,次の懲罰があります。こういうのを政治的妥協とい います。政治的に妥協したんです。」との発言(以下「本件発言」という。)をし た。 (6) 市議会は,6月定例会の最終日である平成28年6月23日,本件発言を 問題として同月22日に提出された被上告人に対する懲罰動議を閉会中の継続審査 とすることとし,懲罰特別委員会における審査を経た上,同年9月6日,同日招集 された9月定例会において,被上告人に対し,本件発言について,議決により23 日間の出席停止の懲罰を科する旨の本件処分をした。 (7) 上告人は,平成28年9月21日,被上告人に対し,本件条例に基づき, 本件処分により出席停止とされた23日間の分に相当する27万8300円を減額 して議員報酬を支給した。 3 原審は,普通地方公共団体の議会の議員に対する地方自治法135条1項3 号所定の出席停止の懲罰の適否は,議員報酬の減額を伴う場合には司法審査の対象 となり,本件処分の取消し及び議員報酬の支払を求める訴えは適法であるとして, これを不適法とした第1審判決を取り消し,本件を第1審に差し戻した。 4 所論は,原審の判断は,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の 懲罰の適否は一律に司法審査の対象とならないとした最高裁昭和34年(オ)第1 9- 2 - 資料①_R2.11.25最高裁判決 0号同35年10月19日大法廷判決・民集14巻12号2633頁に反するとい うものである。 5(1) 普通地方公共団体の議会は,地方自治法並びに会議規則及び委員会に関 する条例に違反した議員に対し,議決により懲罰を科することができる(同法13 4条1項)ところ,懲罰の種類及び手続は法定されている(同法135条)。これ らの規定等に照らすと,出席停止の懲罰を科された議員がその取消しを求める訴え は,法令の規定に基づく処分の取消しを求めるものであって,その性質上,法令の 適用によって終局的に解決し得るものというべきである。 (2)ア 憲法は,地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則として,その施 策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則を採用して おり,普通地方公共団体の議会は,憲法にその設置の根拠を有する議事機関とし て,住民の代表である議員により構成され,所定の重要事項について当該地方公共 団体の意思を決定するなどの権能を有する。そして,議会の運営に関する事項につ いては,議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく,その性質上,議会 の自律的な権能が尊重されるべきであるところ,議員に対する懲罰は,会議体とし ての議会内の秩序を保持し,もってその運営を円滑にすることを目的として科され るものであり,その権能は上記の自律的な権能の一内容を構成する。 イ 他方,普通地方公共団体の議会の議員は,当該普通地方公共団体の区域内に 住所を有する者の投票により選挙され(憲法93条2項,地方自治法11条,17 条,18条),議会に議案を提出することができ(同法112条),議会の議事に ついては,特別の定めがある場合を除き,出席議員の過半数でこれを決することが できる(同法116条)。そして,議会は,条例を設け又は改廃すること,予算を 定めること,所定の契約を締結すること等の事件を議決しなければならない(同法 96条)ほか,当該普通地方公共団体の事務の管理,議決の執行及び出納を検査す ることができ,同事務に関する調査を行うことができる(同法98条,100 条)。議員は,憲法上の住民自治の原則を具現化するため,議会が行う上記の各事項等について,議事に参与し,議決に加わるなどして,住民の代表としてその意思 を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負うものであ る。 ウ 出席停止の懲罰は,上記の責務を負う公選の議員に対し,議会がその権能に おいて科する処分であり,これが科されると,当該議員はその期間,会議及び委員 会への出席が停止され,議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な 活動をすることができず,住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすこ とができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程 度に照らすと,これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして,その適 否が専ら議会の自主的,自律的な解決に委ねられるべきであるということはできな い。 そうすると,出席停止の懲罰は,議会の自律的な権能に基づいてされたものとし て,議会に一定の裁量が認められるべきであるものの,裁判所は,常にその適否を 判断することができるというべきである。 (3) したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適 否は,司法審査の対象となるというべきである。 これと異なる趣旨をいう所論引用の当裁判所大法廷昭和35年10月19日判決 その他の当裁判所の判例は,いずれも変更すべきである。 6 以上によれば,市議会の議員である被上告人に対する出席停止の懲罰である 本件処分の適否は司法審査の対象となるから,本件訴えのうち,本件処分の取消し を求める部分は適法であり,議員報酬の支払を求める部分も当然に適法である。そ うすると,本件訴えが適法であるとした原審の判断は,結論において是認すること ができる。論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宇賀克 也の補足意見がある。 裁判官宇賀克也の補足意見は,次のとおりである。 11- 4 - 資料①_R2.11.25最高裁判決 私は,法廷意見に賛成するものであるが,地方議会の議員に対する出席停止の懲 罰の司法審査について,補足して意見を述べることとする。 1 法律上の争訟 法律上の争訟は,①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する 紛争であって,かつ,②それが法令の適用により終局的に解決することができるも のに限られるとする当審の判例(最高裁昭和51年(オ)第749号同昭和56年 4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁)に照らし,地方議会議員に対 する出席停止の懲罰の取消しを求める訴えが,①②の要件を満たす以上,法律上の 争訟に当たることは明らかであると思われる。 法律上の争訟については,憲法32条により国民に裁判を受ける権利が保障され ており,また,法律上の争訟について裁判を行うことは,憲法76条1項により司 法権に課せられた義務であるから,本来,司法権を行使しないことは許されないは ずであり,司法権に対する外在的制約があるとして司法審査の対象外とするのは, かかる例外を正当化する憲法上の根拠がある場合に厳格に限定される必要がある。 2 国会との相違 国会については,国権の最高機関(憲法41条)としての自律性を憲法が尊重し ていることは明確であり,憲法自身が議員の資格争訟の裁判権を議院に付与し(憲 法55条),議員が議院で行った演説,討論又は表決についての院外での免責規定 を設けている(憲法51条)。しかし,地方議会については,憲法55条や51条 のような規定は設けられておらず,憲法は,自律性の点において,国会と地方議会 を同視していないことは明らかである。 3 住民自治 地方議会について自律性の根拠を憲法に求めるとなると,憲法92条の「地方自 治の本旨」以外にないと思われる。「地方自治の本旨」の意味については,様々な 議論があるが,その核心部分が,団体自治と住民自治であることには異論はない。 また,団体自治は,それ自身が目的というよりも,住民自治を実現するための手段 12- 5 - 資料①_R2.11.25最高裁判決 として位置付けることができよう。 住民自治といっても,直接民主制を採用することは困難であり,我が国では,国 のみならず地方公共団体においても,間接民主制を基本としており,他方,地方公 共団体においては,条例の制定又は改廃を求める直接請求制度等,国以上に直接民 主制的要素が導入されており,住民自治の要請に配慮がされている。 この観点からすると,住民が選挙で地方議会議員を選出し,その議員が有権者の 意思を反映して,議会に出席して発言し,表決を行うことは,当該議員にとっての 権利であると同時に,住民自治の実現にとって必要不可欠であるということができ る。もとより地方議会議員の活動は,議会に出席し,そこで発言し,投票すること に限られるわけではないが,それが地方議会議員の本質的責務であると理解されて いることは,正当な理由なく議会を欠席することが一般に懲罰事由とされているこ とからも明らかである。 したがって,地方議会議員を出席停止にすることは,地方議会議員の本質的責務 の履行を不可能にするものであり,それは,同時に当該議員に投票した有権者の意 思の反映を制約するものとなり,住民自治を阻害することになる。 「地方自治の本旨」としての住民自治により司法権に対する外在的制約を基礎付 けながら,住民自治を阻害する結果を招くことは背理であるので,これにより地方 議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象外とすることを根拠付け ることはできないと考える。 4 議会の裁量 地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象としても,地方議 会の自律性を全面的に否定することにはならない。懲罰の実体判断については,議 会に裁量が認められ,裁量権の行使が違法になるのは,それが逸脱又は濫用に当た る場合に限られ,地方議会の自律性は,裁量権の余地を大きくする方向に作用す る。したがって,地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象と した場合,濫用的な懲罰は抑止されることが期待できるが,過度に地方議会の自律性を阻害することにはならないと考える。 (裁判長裁判官 大谷直人 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 菅野博之 裁判官 山口 厚 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一 裁判官 宮崎裕子 裁判官 深山卓也 裁判官 三浦 守 裁判官 草野耕一 裁判官 宇賀克也 裁判官 林 道晴 裁判官 岡村和美)

 資料②_S63.12.20袴田判決
 主文      本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。   理由  上告代理人長谷川朝光、同大輪威の上告理由について  

 政党は、政治上の信条、意見等を共通にする者が任意に結成する政治結社であつ て、内部的には、通常、自律的規範を有し、その成員である党員に対して政治的忠 誠を要求したり、一定の統制を施すなどの自治権能を有するものであり、国民がそ の政治的意思を国政に反映させ実現させるための最も有効な媒体であつて、議会制 民主主義を支える上においてきわめて重要な存在であるということができる。した がつて、各人に対して、政党を結成し、又は政党に加入し、若しくはそれから脱退 する自由を保障するとともに、政党に対しては、高度の自主性と自律性を与えて自 主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならない。他方、右のような政党 の性質、目的からすると、自由な意思によつて政党を結成し、あるいはそれに加入 した以上、党員が政党の存立及び組織の秩序維持のために、自己の権利や自由に一 定の制約を受けることがあることもまた当然である。右のような政党の結社として の自主性にかんがみると、政党の内部的自律権に属する行為は、法律に特別の定め のない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に対して した除名その他の処分の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのを相 当とし、したがつて、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係 を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない というべきで あり、他方、右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であつても、右処 分の当否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情 のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に 15- 1 資料②_S63.12.20袴田判決 則つてされたか否かによつて決すべきであり、その審理も右の点に限られる ものと いわなければならない。  本件記録によれば、被上告人は前記説示に係る政党に当たるということができ、 本訴請求は、要するに、被上告人と上告人との間で、上告人が党幹部としての地位 を有することを前提として、その任務の遂行を保障する目的で上告人に党施設とし ての本件建物を使用収益させることを内容とする契約が締結されたが、上告人が被 上告人から除名されたことを理由として、本件建物の明渡及び賃料相当損害金の支 払を求めるものであるところ、右請求が司法審査の対象になることはいうまでもな いが、他方、右請求の原因としての除名処分は、本来、政党の内部規律の問題とし てその自治的措置に委ねられるべきものであるから、その当否については、適正な 手続を履践したか否かの観点から審理判断されなければならない。そして、所論の 点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし正当として是認する ことができ、右事実関係によれば、被上告人は、自律的規範として党規約を有し、 本件除名処分は右規約に則つてされたものということができ、右規約が公序良俗に 反するなどの特段の事情のあることについて主張立証もない本件においては、その 手続には何らの違法もないというべきであるから、右除名処分は有効であるといわ なければならない。  これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所 論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。 論旨は、ひつきよう、右と異なる見解に基づいて原判決を論難するか、又は原審の 専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用すること ができない。  よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。  

 最高裁判所第三小法廷 
 裁判長裁判官 坂上 壽夫            
 裁判官      伊藤 正己            
 裁判官      安岡 滿彦            
 裁判官      貞家 克己











(私論.私見)