ユダヤの告白1

訳者まえがき

 ADLは日本において「ユダヤ名誉毀損防止連盟」と称されている。これだけならば何の問題もない。ユダヤの権利を守る団体と受け取れる。
 しかしコインに両面があるように、ADLにも表と裏がある。
 ADLの表は「人権擁護」である。それゆえにアメリ力の人権委員会などのすべての背後にADLが存在していると言ってもよいだろう。
 しかしその裏で、ADLはそのルートに麻薬を乗せ、さらには組織犯罪の網をアメリ力中に張っていったことをこの本は証言している。ADLの力がますます大きくなっていく中、アメリ力の誰かが「麻薬をコントロールしているのはADLのユダヤである」「彼らの組織犯罪綱がアメリ力をコントロールしている」などと言おうものならADLはその言葉をとらえて「反ユダヤ」の焔印を仮借なく押し続けた。いったんその印を押されると職業を失い、社会的制裁を受けるほどのカを持つ。
 アメリカたちは「ユダヤ問題」について完全に沈黙を守った.その分ADLはアメリカの政界、財界、マスコミ、その他あらゆるところにその綱を張り巡らせていった。
 アメリ力などにいる日本のマスコミの特派員たちは「ユダヤ問題」に触れることはタブーとなり、アメリカの真実を日本に伝えることができなくなった。被害を受けているのは日本人である。日本人はアメリカの真相を知らされることなく今日にまで至った。
 日米経済摩擦、日米構造協議というとき、今でも日本人はマッ力ーサー時代のアメリカ、あるいは日本に温情溢るるアメリ力というイメージを持っている。甘えることのできるアメリカと言ってもよいだろう。
 しかし以上述べてきたように戦後四十五年間にアメリカは完全に変化を遂げてしまった。今や「ユダヤのアメリカ」になっている。
 日米経済摩擦とは日本とユダヤの摩擦と捉えるべきである。
 ADLがアメリカに君臨し、ADLが日本にその触手を伸ばしだしている。
 この本の著者P・ゴールドスタインとJ・スタインバーグは、この本を日本で出版してほしいと申し出てきたとき、次のように言った。
ユダヤのブナイ・ブリス、その中にあるADLはそう遠くない時期に日本に上陸しようと必死である。彼らはその組織犯罪を日本に拡めたがっている。日本がADLの侵略を阻止するためにはただ一つの方法しかない。それは彼らの本質が何であるかを日本人が正確に知ることである。中でも日本の指導者たち、政治家、財界、官僚のたちに知ってほしい。
 そうすれば彼らはおそらく上陸を躊躇するにちがいない。自分たち二ユダヤであるから、このことがよくわかる。
 ぜひ、この本を出版していただきたい。そうすればアメリカの再生の道も開かれるものと思われる」
 その後小生は、この言葉が本当かどうかを知るために多くのアメリカの知人、友人たちを訪ねた。彼らは異口同音に「その通りである」と言った。
 梶山法相のいわゆる黒人差別発言が日本以上にアメリカにおいて取り上げられ、騒ぎを引き起こした。
 アメリカの黒人連盟のメンバーは当然抗議行動に出ざるを得なかっただろうが、何よりも彼らをはやし立てたのはアメリカのマスコミであった。
 アメリカのマスコミとは言うが、この本の中でも述べられているように、ほとんどはADLの影響を受けている。黒人が差別反対を叫ぶ背後に、「人権委員会」という名のADLが潜んでいる。黒人たちが前に進めば進むほど、攻められた人々が退けば退くほど、ADLがそれだけの領分を占めていくことになるのである。
 一九六○年代のあのアメリカの革命と言われた民主化運動を思い出していただきたい。公民権法が通るために、黒人たちは常にその運動の先頭に立った。それから約二十年近い歳月が流れたが、今もアメリカにおいて黒人たちの生活は変わらないし、彼らは一層無気力に陥っている場合が多い。それと引き換え、ADLの周りにいるユダヤたちはどれほど豊かな生活をアメリカにおいておくるようになっていることか。
 大都市およびその郊外に広がる高級住宅街のほとんどは、彼らによって占められているではないか。
 人権運動の本質は何であるかをかいま見ることができる。
 さらにADLのことは日本において身近なことである。
 一九九○年十月十二日付の『産経新聞』および『日本経済新聞』において松下電器がアメリ力の映画会社MCAを買収するかどうかの交渉で、「米ユダヤ団体」が文句を言っているという記事を載せている。
 そのうちの『産経新聞』の内容を取りげる。
「米国のユダヤ文化教育促進協会(BB)の名誉毀損防止連盟(ADL)は十日、松下電器産業との身売り交渉を進めている米娯楽映画人手のMCAのワッサーマン会長に対して、交渉を打ち切りを申しれる方針を明らかにした。これは松下がイスラエル・ボイコットに参加しているためである」
「ワッサーマン会長はユダヤやイスラエルを指示する運動の有力な指導者の一の。同連盟(ADL)のポース・ワシントン支部長はロサンゼルス・タイムズ紙に対し、『会長はじめMCA幹部はボイコットに関わってるのは適切でない。こうした方針の企業と手を結ぶことによって生じる問題を会長に警告するつもりだ』としている」
 間題は松下電器がMCAを買収したいと申し出たのではないということである。これは向こうから持ち込まれたこと。しかしこのように松下電器が攻撃の対象とされ、アメリ力のマスコミにおいて大々的に取り上げられる。
 ADLとMCAがつながり合っていることを見るならば、ADLが何を狙っているかは明白と言わなければならない。
 日本の生命線は、中東の石油である。それらはアラブ諸国から産する。このアラブ諸国と日本、中でも日本の企業との間をADLは切りたい。
 そうするならば日本は没落し、日本の技術をイスラエルに流すように誘い込むこともできる。さらにアラブ諸国は最大の顧客を失うことになる。
 イスラエルの情報機関モサドが、イラクのクウェート侵攻以来、彼らの日本人のエージェントを便って盛んに日本企業に働きかけ、一億円で中東情報なるものを売り込もうとしている。もちろんそれは正確な情報によるだろう。しかし日本企業がこれを購入し続けるととんてもない落し穴が待っていることを知らなければならない。
 モサドと結び付く企業はその弱点を握られへたをすると脅しの材料まで握られてしまうかもしれない。なぜならばモサドは企業に情報を提供する企業ではない。イスラエルという国の情報機関なのである。スパイ組織である。
 モサドは儲けのために情報を売りつけようとしているのではない。日本企業を自らの手の中にコントロールしたいという目的を持っている。
 具体的なことはイスラエル・ボイコットの申し合わせからできるだけ多くの日本の企業を引き離したいというのが差し迫った彼らの狙いである。
 今や日本はモサドやCIAのターゲットになっていることをこの本はあますところなく証言し、日本人の甘さかげんに警鐘を鳴らしている。
 アメリ力は今や世界最大の借金国てある。それでもなおアメリカ政府は毎年三十億ドル以上の無償援助をイスラエルに送り続けている。
 なぜアメリカはここまでイスラエルに援助しなければならないのか。アメリカ自身が援助してもらいたいほどであるのに・・・・。
 ここで言うアメリカはアメリカ国民全体を指すそれではない、アメリカをコントロールしているグループということになるだろう。ADLの本拠としてアメリカとイスラエルは完全につながっている。
 彼らにとってアメリカがどうかというよりも、ユダヤ民族がどうであり、イスラエルがどうなるかが最大の関心事てあるのだ。
 ADLがなす組織犯罪が、アメリカという体を通していかに寄生し、いかに大きくなっていくかということが彼らの関心事なのである。
 先ほども述べたようにアメリカは完全に変質してしまったことを日本人は覚えておかなければならない。
 日米経済摩擦などでいくら誠意を尽くしたところで、日本に返ってくるのは感謝ではなく攻撃である。
 二の著者はあるとき次のように述べた。
「われれれ二は道義的に正しくあるようにと育てられたユダヤである。ユダヤとしてユダヤの組織ADLの内幕を日本人にぜひ知ってもらいたいと思った。これは情熱なくしてできることではない。この内容は日本人にとってまさにショッキングなことだろう。疑ってしかるべきものと思うのも当然である。しかし真実がこの本の中に書き留められていることに気が付いていただきたい。
 今後さらにアメリカと日本の関係は深まっていく。そのアメリカはもはやかつてのアメリカではない。ADLというまさに恐るべき犯罪組織がアメリカを支配してしまっている。ADLは表向きには「人権擁護委員会』などの看板を掲げ、差別反対、人権尊重を唱えてはいるが、その中身はそれとは裏腹に犯罪組織なのだ」
 この本の第一部は、ADLが戦後五十五年の間にいかに日本に浸透し、戦略を立て、それを実行してきたかについて述べられている。水野重雄氏と結び付いたアイゼンバーグ、ロッキード事件、さらにはリクルート事件なども取り上げられている。
 第二部は、ADLがいかにアメリカに浸透していったか、その結果アメリカがいかに深刻な事態になっているかが多くのデータと裏付けによって書かれている。
 そこにはアメリカでの多くの事例、多くの事件、そして多くの人物の名前が出てくる。
 これらは日本の読者にはなじみがなく.難解であると思えるかもしれないが、将来必ず役に立つことはまちがいない。アメリカでいま起きていることが、将来日本において起きないという保証はどこにもない。それどころか必ず日本に起きると考えてよいであろう。
 難解な部分にも挑戦し、その内容を理解しようとすることが、二の著者の言葉「これは情熱なくしてできることではない」に応えることになるのではないだろうか。


序文

V・マーケッテイ
(ワシントンDC在住ジャーナリスト
元CIA副長官付上級補佐官)

 事実だけをもとに書かれたこの特別の本は、アメリカでは出版しようとしてもできなかっただろう、アメリカでだめだということは、ヨーロッパで出版しようとしても駄目だということである。力があり資金力もあるユダヤ名誉毀損防止連盟(ADL)が、出版阻止に出てくるはずだから。
 だが、この日本ではADLの影響力は欧米ほどではない。この本に述べた警告や情報を日本の人々が心にとめそれに基づき行動することをしなかったなら、いつか日本も同じ状況下に置かれてしまうたろう。
 アメリカにおけるADLの力は凄いものがある。ADLはどのようなでもしかるべき地位や仕事を与えることができ、逆にそこから引きずり下ろすこともできる。また企業をも成功させることも失敗させることも自在にできる。今日のウォール街はADLや、いわゆるユダヤ「新興勢力」のなすがままになっている。アメリカ国内に張り巡らされたユダヤ組織網を使うことで、ADLは議会のメンハーを文字通り当選させることもクビにすることも好きなようにできる力を持っている。マスコミのたちも、ADLとADLを支持する人々に脅えながら仕事をしている。
 それでもなお、ADLは満足していない。すべての権力を手中にし、アメリカを完全にコントロールすることを目論んでいる。歴史上、アメリカに存在した組織の中で、ADLほど危険な存在はない。
 だが、いつの時代でもADLがこのような存在であったわけではない。アメリカには数多くの人種団体があって、ADLが人種組織の一つにすぎなかった時代もあった。
 第二次世界大戦後、アメリカにシオニスト・ヒステリーが蔓延するようになり、イスラエルに対する狂信的強迫観念が生まれた。その後、ADLはユダヤ社会を握り、組織化されたユダヤ系アメリカのプロパガンダ機関と秘密警察(ゲシュタボ)の役回りをするようになった。
 こういったことはすべて静かにかつ短期間に起こったので、アメリカの多くは気が付かなかった。ADLやアメリカのユダヤ社会におけるシオニズムや、親イスラエル主義のあまりの行き過ぎに対抗する動きが、やっと今になってアメリカ国内で起こり始めている。だがこの戦いの勝負はすでに決っしてしまっているのかもしれない。
 こういったことは、日本でも十分起こり得る。だが、そうさせてはならない。
この重要な本書の著者、ポール・ゴールドスタインとジェフリー・スタインバーグは、この本によって恐るべきADLの歴史、組織、活動を読者に知っていただきたいのである。アメリカで起こったこと、そして日本で起こり得ることを二は書いている。彼らは日本に対し、ADLの狙いとその力のほどを警告している。なぜならADLは今や日本をその標的にしているからである。
 これは、ADLが何を考え、彼らの行動の背景が何であるかをすべて知り尽くしている人物しか書けない本である。著者の二は、アメリカのユダヤ社会で生まれ育った。そして、二十年以上にもわたってADLとその活動を研究してきたので、どのジャーナリストよりもADLの考えをよく理解することができる。また、ADLや、アメリカの社会や政界の中でADLを支持する有力者たち相手の戦いに多くの時間を費やしてきた。だから、彼らが書いていることは、まさしく彼ら自身が自ら体験し知り得たことである。
 おそらくADL自身が自らを理解している以上に、この二の方がADLを知り抜いているにちがいない。


ユダヤの告白…〔目次〕

 

訳者まえがき・・・3

序文・・・9

序 章 イラクのクウェート侵攻とは・・・19

英国情報部の中東支配戦略/徹底した情報収集/生きている大英帝国の利権/シャ−たちは引き下ろされた/米国経済の崩壊と日本/世界経済混乱の企み

第一部 日本経済が狙われている

第一章 攻撃目標は日本である・・・29

日本攻略のチャンス/出版社ヘの攻撃/日本の卜ップとの会談/誰がその手先となるか/現代のシャイロック、キッシンジャ−/寄生虫的ネッ卜ワ−ク/バブル経済の推進/米国政府内ヘの政策誘導/日本・アラブ関係に楔を

第二章 日本への宣伝攻勢・・・54

自由経済政策の本質/リべラル経済で崩壊した米国/インテリを目覚めさせるな/日米でのプロパガンダ工作/ユダヤ系議員の日本攻撃/日本は反ユダヤか/イスラ工ルと断交すると/フグ計画がなぜ例外なのか/ ユダヤ・サイドからのみの称賛

第三章 ターゲットをあぶり出せ・・・75

的確なる指摘/乗せられた米国経済/凋落と哀退のアメリ力/対日政策の変化/盛田昭夫氏批判の理由/投機的資金調達の演出者たち/投機ブームの仕掛/途上国債務返済問題/日本を標的とするロスチャィルド/石原慎太郎氏の訪米/手強い人物、橋本蔵相/日本上陸を図るADL

第四章 ADLとCIAの癒着・・・71

対日経済戦争の布告/金科玉条の「安全保障のために」/ADLの代弁者サファィア/キッシンジャーの陰謀/ClAに浸透したモサド/キッシンジャーの情報機構ヘ/ADLと米国情報機構・・・・その歴史的関係/シオ二ス卜のアメリ力侵攻/政敵を葬るために/日立をはめたおとり捜査/侵蝕されたClA/ClAとジャパン・バッシング/.日本をターゲット」で常に一体

第五章 日本を操ったアイゼンバーグ・・・81

ドイツ脱出の謎/戦時下のドイツを脱出/キッシンジャーとは何者か/アンジェル卜ンの考え/上海から日本ヘ/ゾルゲと共に日本潜入/永野重雄氏とのコンタク卜/日本発進の網をはる/日本財界ヘの深き恨み/アイゼンバーグとADL/見えざるユダヤ組織の網/利用された、パキスタンの核」/ノリ工ガだけが悪玉か/マルコス政権転覆の真相/イラン・コン卜ラ事件の黒幕

第六章 ブナイ・ブリスの正体・・・109

アメリ力侵略の野望/アジア秘儀に由来するシオ二ズム/アメリ力独立戦争の背後で/アメリ力に渡ったフリーメーソン/ブナイ・ブリスの創設/リン力ーン大統領の暗殺/ユダヤ秘密結社の危険性/二股がけの戦術/ベルモン卜の活動/アメリ力解体の目論み/連邦解体の陰謀/誰が奴隷売買をしたのか/反連邦主義者の温床/コウモリのごときブナイ・ブリス

第七章 ブナイ・ブリスの秘密部門ADL・・・127

ブナイ・ブリスのアメリ力再侵攻/連邦解体工作は続く/ブナイ・ブリスが公的費用を醵出/ユダヤ移民の選抜/節目となったセオドア・ル−ズベル卜/なぜ自由国家にFBlか/ブナイ・ブリスから生まれたADL/反ユダヤ主義を拡めておいて組織拡大/ボルシェビキ革命ヘの序曲/ア−マンド・ハマ−なる人物/表はブナイ・ブリス、裏はADL/イタリア・マフィアとの連携/ユダヤ防衛のためにあらず/組織犯罪を支えるADL/イギリスの支援と支配/財務長官モーゲンソー/罰せられることなき犯罪者たち/米ソ情報部ヘの浸透/アメリ力全国ヘの勢力拡大

第八章 上納か、「反ユダヤ」の烙印か・・・149

最大の私設秘密警察/クラツ二ック、力ンべルマン、ブ口ンフマン/ADL組織、その表と裏/演出なしでは起きないこと/労働者組織ヘの潜入/全米自動車労組も傘下に/組織変更と活動の拡大/なぜ非課税法人なのか/常設委員会の構成員たち/先端金融商品の売り込み/隠れ蓑としての実態/搾り取られる米国企業/ADLヘの献金者リス卜

第九章 コインの両面、人権と組織犯罪

キャングから慈善家ヘの変身/ADLの資金源/ギャングの脱皮と変身/シンジケー卜の暗殺部隊「殺人会社」/犯罪とADLのドッキング/ADL用「洗浄」銀行/スターリング・ナショナル銀行の実態/訴えられてボ口が出た/NATO指令官誘拐事件/イタリア政府が乗り出す/政権内に巣をつくる/レーガン政権下の「金融手品師」/不起訴処分であったバーンズ/プライベ−卜情報は盗まれている/腐敗弁護士の悪だくみ/マネー・ローンダリング/国際信用銀行の悪用/ヤミ収益隠しのフロン卜・マン/ユダヤ・ギャングの活用/この巧みなる悪知恵/今やジュネーブ軍縮委員長、力ンべルマン/ADLの実態を隠し続ける

第十章 犯罪シンジケートへのイスラエル囲い込み・・・201

麻薬組織力ルテル、メデリン/力ーター政権内のADL/力ス卜ロと麻薬ヒジネス/中米をおおう麻薬汚染/イラン・コン卜ラの仲介者名簿/アメリ力ン・エキスプレスの買収/麻薬ルー卜をたどる/サフラが起訴されていたら/企業買収マ二アたち/ドレクセルのジャンク・ボンド/RJRナビスコ買収劇/イスラ工ルの乗取り/世界犯罪シンジケー卜本部に/エルサレムの「億万長者会議」/パレスチナ追放の理由/「占領地併合会議」のメンバ−たち/今日頻発する悲劇の背景/世界ユダャ 会議会長、ブロンフマンの正体/慈善団体を装う面/対米不動産投資の仲介者/東欧諸国の実態は何か/オース卜リア大統領ヘの中傷

第十一章 テロの黒幕ADL・・・229

PLO幹部暗殺事件/続いてスウェーデン首相、パルメ暗殺/パルメ殺害の動機/自作自演のカネ集め/目的のためには手段を選ばず/KKKとも組むADL/人種差別反対はただの表看板/悪魔からの知恵か/ユダヤ組織の公然たるテロ/ユダヤ防衛連盟(JDL)のテロ続発/「ユタヤの敵」ヘの殺人予告/「にせ預言者力ハネ」の著者/容疑者引渡しを拒むイスラ工ル/アラブ系弁護団を無視/イスラ工ル首相シャミルの素顔/テ口を指揮するADL支部長

終章 アメリカ骨抜き作戦・・・253

イスラ工ル独立の立役者/アメリ力に潜入するモサド/スパイ工作の最適拠点/ブナイ・ブリスも食い荒らすモサド/イスラ工ル政府のみヘの通報/アメリ力に巣喰う吸血鬼/恩を仇で返す/「私がモサドヘの情報ソース」/対米工作の極致、ポラード事件/常に二重忠誠心を抱く人々/白アリが食い荒していた/ボラ−ド事件をも仕組んだADL

関連年表・・・273
米国歴代大統領一覧・・・281
略語一覧表・・・284


 
序章 イラクのクウェート侵攻とは

 英国情報部の中東支配戦略

 本文執筆中の現在、ペルシャ湾の危機は最高潮に達し、戦争の可能性が高まりつつある。
 外交交渉による政治的解決もあり得るものの、われわれとしてはこの危機が長期的に見て日本にいかなる結果をもたらすかという点から、この問題に着目していかなければならない。
 西側の現在の指導者たちは、サダム・フセインのクウェート侵攻の理由をとやかく言ったり、フセインのサウジアラビアに対する野心について、云々したりしているが、今回の事件は徹底して疑ってかかる必要がある、というのは、このような危機を必要としているのは、英米の金融資本家や彼らの仲間のシオニストだからである。
 英米の金融資本家の中で主流を占めているのは、高利貸集団である。そして、この高利貸金融の中心は、ロンドンのシティやニューヨークに本拠を構えるユダヤ糸投資銀行なのである。
 歴史的に見ると、十八世紀末から十九世紀初頭にかけてロンドンやニューヨークの金融界で大きな力を奪うようになったのは、ロスチャイルド家であった。そして彼らは今、この時代に蓄積した資産や力を動員して、ユダヤ名誉毀損防止連盟(ADL)の支援を受け、反ユダヤを口実にして日本に攻勢をかけてきているのである。シオニズムの拡大と大英帝国のがつながっていることは決して偶然ではない。十九世紀、二十世紀と大英帝国は中東への軍事的進出を着々と図っていったが、この計画に経済的援助を与えたのがイングランド銀行、ロスチャィルド家、それにべアリングだった。
 現在のぺルシャ湾危機を理解するには、歴史を振返ってみなければならない。そこでこの中東地域にどのようないきさつでイギリスが入り込み、最終的にシオニストが大手を振って居座るようになったかを見てみよう。
 中東や中央アジアといわれる地域をイギリスが支配したやり方は、武力征服という従来の方法によるものではなかった。彼らは支配権を維持するために政治的な秘密工作、伝統破壊といった手段を用いた。イギリスが使った奥の手は、インドとパキスタンのように国を分割したり、民族や言葉の違いにしたがって国境の線引きをするなどして、いろいろな国を人工的につくることだった。彼らの中東支配は、民族の違いのみならず、スンニー派やシーア派、ワハビ (サウド家)派などイスラム教の宗派に見られるような文化的差異を利用するやり方によっても行われた。
 第一次世界大戦まで、この地域にはオスマントルコの勢力がまだ残っていた。だが、中国に対しアへン戦争を仕掛けた金融資本家と手を組んだイギリスは、もともと中東に住んでいた人々に対しても同じような手口を使った。アラブ民族の間に存在するオスマントルコへの反感を利用することにより、イギリスは諜報活動員として彼らの意のままに動く現地を簡単に見出すことができた。

 徹底した情報収集

 英国情報部のアラブ精神と文化に対する分析に基づいて事が進められ、工作は極めて単純なやり方で成功した。敵や標的とする人間の心を理解して事を進める方法は、イギリスの中で最も優れた中東専門家であったリチャード・バートン卿が、十九世紀後半に著した一冊の書物の中に集大成されている。
 その書物とは世界中で有名な『アラビアン・ナイト』である。バートンにとって必要な資料は、人類学者や考古学者、社会学者を動員するというイギリスの手法によってもたらされたのである。
 イランのシャーに仕えた元イラン情報将校によると、イギリスは人類学者、考占学者等からなるチ−ムをつくり、中東のすみずみまで旅して回ったという。彼らは索引カードを使っては、この地域全域の一つ一つの村の細々とした記録を書き留めていった。そして七十五年間もかけて、各々の村を治めている一族の名前、さらに治める側の一族と治められている村民との関係についての資料をつくり上げた。村の段階から始まって、村の支配者のさらに上に立つ社会のトップの支配者、王とか統治者に至るまでこうした調査は及んでいる。こういう作業をする過程で、イギリスは優秀とおぼしき若者を将来のために数多く採用した。こうした若者の中から、後にオックスフォードゃケンブリッジ大学に送られて学問を修める者も出た。
 時には、マハトマ・ガンジーの場合のように飼い犬に手を噛まれる事態が起きたこともあった。にもかかわらず、イスラエル情報部では今もこのやり方を踏襲している。
「アラビアのロレンス」の名で知られる英国諜報員は第一次世界大戦中に中東へ赴いた時、すでに英国情報部が前世紀中に収集した情報によって中東に関する知識を有していた。この知識のおかげで、イギリスはアラブの中に強力な親英勢力をつくるのに成功した。だがそのことは同時にアラブ・ナショナリズムの種を蒔き、それを成長拡大させる結果にもなった。
 戦争が終わった後、イギリスが自分たちの都合のいいように利用したのがこのアラブ・ナショナリズムである。だが、それをどのように利用したかを説明する前に、第一次世界大戦勃発以前の出来事を検証してみることにする。

 生きている大英帝国の利権

 第一次世界大戦が始まる前、イギリスがクウェートに当たる地域で石油を発見した際、英国植民地省はイラクとクウェートを分割する線を砂漠の中に引いた。そして、後、第一次世界大戦でオスマントルコが敗れてトルコ帝国が崩壊した際に、国際連盟はこのイギリスが引いた境界線を簡単に受け入れてしまった。一七五○年以来この地の支配者であるサバ家は、オスマントルコの支配下にありながらイギリスと同盟を結んだ。というのは、クウェートはそれまでイラクに組込まれていたからである。イギリスの支援に対し、サバ家はクウェートの石油の利権をすべてイギリスに与えた。その結果、この地域での石油開発事業はアングロ・ぺルシャ石油会社、今日のブリティッシュ・ペトロリアムの手によって行われることになった。イラクのクウェート侵攻以前、クウェートの海外資産と金融資産は事実上すべて、イギリスとスイスに置かれていた。イギリスは長年の緋を依然利用していたのである。
 第二次世界大戦後、それまで植民地であったか否かにかかわらず、アメリカはすべての人々の間で民族自決を煽り、植民地だった地域で影響力を行使しようとしたが、イギリスは依然として中東での支配権を保っていた。
 それを端的に示したのが、一九五○年代に起こったイランのモサデク政権の転覆事件だった。アメリカの情報機関の関与により一九五三年にモサデク政権は打倒されたが、この工作はイギリスの作戦の単なる延長にすぎなかった。CIAは資金と人間を提供しただけのことで、肝心のところはイギリスが計画したものだった。この工作のまとめ役は、カーミット・ルーズべルトなる優秀なCIA局員であったが、工作の頭脳の部分はあの悪名高い英国情報部の「アラブ局」が担当していた。今日に至るも、事情は変わっていないのである。

 シャーたちは引き下ろされた

 現在の中東、ぺルシャ湾地域の地図を描こうとすれば、次のようなことに気が付くはずである。
 一、イスラエルは基本的にイギリスがつくり出した国である。ユダヤに国をつくる権利を認めたバルフォア宣言がイギリス議会を通過した後にイスラエルが成立した。
 二、OPECは、イギリスが石油の生産や価格をコントロールするためにかけ引きを行う舞台だった。
独自の政策を取ろうとしたアラブの指導者や国家は、いままでことごとく暗殺されるか崩壊させられてきた。
イランのシャーが石油収入を使ってインフラ整備をし、原子力発電を行ってイランを近代的な工業国家に変身させようとしたとき、彼を権力の座につけた勢力そのものが、今度は彼をその権力の座から引きずり下ろした。
 三、ハシム家の王国、ヨルダンはもともとイギリスの支援を受けて成立した。フセイン国王がCIAと手を結んだにしても、彼の王国はイギリスによって守られていた。ところがフセイン国王がサダム・フセインのイラク支援を始めた途端、英・イスラェル諜報組織は国王を引きずり下ろすべく、その子飼いの組織であるムスリム兄弟団に指示を与えた。国王の立場は現在のところ極めて難しい状況にある。
 四、ムスリム兄弟団は一九二九年に英国情報部自身がカイロにつくった組織である。この兄弟団は彼らが戦略的に利用する要となる組織で、このような別組織をつくったのは、イスラム教徒が昔から科学や技術の進歩というものに敵意を持っていたことによる。こうしたイスラム教徒の後進性を利用することで、英国情報部はイスラム教徒の大衆をいわゆる「西側の脅威」に立ち向かうよう煽動することができる。
 イギリスが仕組んだこうした工作の多くは、時間とともに問題もつくり出した。だから、当初つくったものが、手に負えなくなることのないよう、時にはテコ入れも必要になる。さもなくば、時によっては、思わぬ事態へと発展して、戦争で世界が破局を迎えるということにもなりかねない。
 現在のところ、サダム・フセインが行動を起こさざるを得なかった根本的な問題の一つは、クウェートがイラクに対し、イラン・イラク戦争時に供与した借款の返済を要求してきたためだとイラクは主張している。イラクのクウェートへの軍事侵攻は、巷で言われているほど薦くべきことではなかった。情報機関関係者なら皆、何かが起こるだろうということは知っていた。

 米国経済の崩壊と日本

 アメリカの立場から言えば、同国の景気がその財政、経済政策が原因で悪化しつつあることははっきりしていた。ブッシュ大統領は、解決不可能な内政問題に直面していた。彼としては、国内の政治問題から何とか抜け出す必要があった。その点で、イラクのクウェート侵攻はチャンスだった。
 侵攻が起こったときに、サッチャー首相がアメリカにいたのは偶然ではなかった。イギリスとしては「英米(アングロ・アメリカン)の関係」というこの特別の関係を再構築する必要があった。ドイツの統合や日本の経済大国化に伴い、イギリスやイギリスの同盟国は凋落、あるいは成長が止まってしまった状況にあり、この英米の関係は難しい局向に陥っていた。イギリスはドイツと日本の問題に関しては、極めてヒステリックな対応をしてきた。
 イギリスとイスラエルの関係という点から見ると、イラクが侵略行為を働いたおかげで、イスラエルが今までサダム・フセインに関して言ってきた事柄の正しかったことが証明された。この点ではイスラエルのプロパガンダの勝利と言える。イスラエルとイギリスは人質事件に対するアメリカの怒りを煽ろうとしている。それによって、ブッシュは早急に手を打つ必要に迫られ、軍事対立の緊張がさらに高まるであろう。そうなれば、石油価格は暴騰し、その結果ドイツ統合にも影響が出、経済復興の足を引張ることにもなる。日本の方も株式市場が暴落して金融資産が大きく目減りする、彼らはこれを狙っていたのである。
 こうした事態になるかどうかは、多くの要因、それも抑制可能なものもあれば不可能なものもあるが、そのような要因がどう動くかにかかっている。日本としては、イギリスとイスラエルの金融、政治、情報のエスタブリッシュメントからなる勢力が、ADLに「秘密警察」の役回りをさせながら、今回の危機を日本への揺さぶりに利用しようとしていることを理解するのが最も重要である。

 世界経済混乱の企み

 彼らは、アメリカ経済の充全な空洞化を図るべく、アメリカが経済政策や財政政策を変更することを阻止するに違いない。アメリカが大規模な兵力をぺルシャ湾地域に展開したことを前向きに評価することはできたにしても、その後米国内では経済政策の方向を再検討することが大きな問題となる。一方、アメリカのマスコミの間では、すでにアメリカの軍事行動に対する日本の協力が足りないとして日本を攻撃する声が高まっている。イギリスの新聞は英米間の人々的な協力関係を連日自慢気に書き立てている。
 その一方で、イスラエルは戦争を企てたり、戦争になるようそそのかしたりして、フセイン・ヨルダン国王が没落しサダム・フセインが打倒され、アラブ産油国の指導者たちが怒りに燃えたアラブ人民によってその座を追われるといった事態が勃発することを狙っている。イスラエルは、パニックを引き起こしたり、混乱をつくり出したり、また暗殺を企てたりして、世界の流れを変え、日本もその中を通らざるを得ないように仕向けるため、今、工作員を世界中に送り出している。
 混乱や戦争ということになれば、世界経済における現在の日本の優位性も大きく変わってしまうだろう。
日本とドイツ、そして面白いことに中央アジアの日本になろうとしているトルコ、この三ヵ国を、英・イスラエル勢力は標的にしている。そしてこの勢力はアメリカ国内にあるADLと手を組んで事に当たっている。
 したがって、アメリカの政策が搾取と混乱を狙ったものである限り、日本はこれに反対しなければならない。日本は、ADLのごとき危険な勢力が国内に入り込むのを許してはならないし、日本の国の基盤を揺るがせるべく日本人の中から自分たちへの協力者を徴募し始めている彼らの試みを許してはならないのである。
 本書は第一部でまず、こうした工作がどのように進められているかを紹介する。日本の政策担当者や一般の人々がこうした事実を認識して知的武装を図り、前もって危険を察知していくのは大変重要なことである。もし日本がわれわれの驚告を気にもとめないなら、戦後アメリカに起こった事柄が日本にも起こることになるだろう。そして第二部では、どのようにしてアメリカがこうした勢力によってその基盤を破壊されてしまったかを詳しく検証していきたいと思う。


第一部 日本経済が狙われている。第一章 攻撃目標は日本である

 

 日本攻略のチャンス

 一九八七年三月二十三日、バートン・S・レヴィンソン全米会長とアブラハム・フォックスマン副理事、その他のADLの一行が、ワシントンで日本の松永駐米大使と会談した。
 彼らが日本大使と会談した目的は、日本での反ユダヤ的な書物や記事の増加に関し、日本政府に対して抗議することにあった。ADLは席上『世界征服を目指すユダヤ戦略』や『ユダヤが解ると世界が見えてくる』といった本の出現にとまどっていると伝えた。
 その際、この強力なユダヤ組織は日本に対していくつかの抗議を行っている。
「ADLはまた、自分たちが偏見と闘ってきた経験とノウハウを日本政府に提供すると申し出た。ADLは反ユダヤ書物が増えつつある事態に対処する方法として、日本の政府当局が教育や情報の面で何らかの手を打つべきことを申し入れた。その会談の席上、ADLの一行はさらに、日本がイスラエルに対するアラブのボイコットに同調し、それを依然として堅持していることに抗議した。西側同盟の一角を占めている二つの民主国家が、正規の経済、外交関係を持たないでいるのは『異常事態』だと、アブラハム・フォックスマンは日本側の出席者に告げた」
 以上の文章は、ADLが出しているインターナショナル・レポートの一九八七年四月号に掲載された「日本と反ユダヤ主義・・・反ユダヤ書籍の流行」と題する論文から引用したものである。これはADLが世界的なネットワークを使って対日揺さぶり攻勢に出たことを示峻している。
 その論文は日本大使との会談からわずか一ヵ月後に発表された。これは非常にソツのないうまいやり方である。日本大使や日本政府が何と言ったにせよ、実際のところADLは日本を標的にした作戦計画の着手をすでに決定してしまっていた。ADLは日本に吋して「宣戦布告」をしていたのである。
 われわれか彼らの企みを暴くのは大変だった。「日本叩き」計画が進んでいたことはわれわれにもわかっていた。ワスプ(WASP)の同調者と一緒になったユダヤ系投資銀行グループは、すでにカーター政権時代から当時のロバート・シュトラウス米通商代表主導の下で、日本叩き計画を立てていた。レーガン政権がスター卜するころには、この作戦に着手する準備は整っていたのである。
 この作戦実行の直接の引き金になったのは、アメリカが債権国から債務国に転落したことであった。ユダヤ系投資銀行を中心としたグループは、それまではアメリカから資金を巻き上げてきた。しかしアメリカの債務国への転落を機会にその目を日本に向け始めたのである。ADLが日本への活動を開始したのもまさしくこの時であった。
 ADLの宣戦布告は単なるプロパガンダではなく、二段階の作戦に基づく行動を準備しつつあった。

 出版社ヘの攻撃

「宣戦布告」に至った彼らの第一段階の計画は、アメリカが債務国に転じたことが発表されたその時に当たる一九八五年に着手された。ADLは国際問題部の中に日本を監視する部署を設けた。現在、その部署の責任者はケネス・ヤコブソンである。
 われわれが密かに入手したインタビュー発言の中で、ヤコブソンは日本がなぜADLの行動計画の対象になったかについて次のように述べている。
「日本で数多くの反ユダヤ書籍が出版されているばかりか、その中にはべストセラーになっているものまであるということを知ったわけだ。だからわれわれは行動を起こした。この件で報告書も書いた、日本側の代表者とも会ったし、アメリカの議員にもこの問題を取り上げてもらった。・・・・いいかい、日本にはほとんどユダヤがいないんだよ。だからこそ、われわれとしては注意して事を進めなければならないわけだ・・・・」
 ADLはユダヤ問題を扱った日本の出版物のうち、二、三の著作に注目した。日本でべストセラーとなった宇野正美著『ユダヤが解ると世界が見えてくる』は、ADLやイスラエルの人々の間にきな不安を引き起こした。この本が出版された後、日本にいたイスラエルのジャーナリストがイスラエル大使館と一緒になってまず「反ユダヤ書籍」問題を取り上げ始めた。宇野氏の本だけがこのような反応を引き起こした原因ではなく、この時期に国際ユダヤを扱った本や記事が数多く日本国内で出回り始めていたからである。
 これを遡る一九八四年四月に、ADLの全米委員アブラハム・フォックスマンが、「アメリカのマスコミを牛耳るユダヤたち」という記事を掲載した『中央公論』誌の発行者、嶋中鵬二氏に対して抗議文を提出したことがあった。この時のフォックスマンの抗議がもとで、ADLはアメリカの大学に対して日本で何が起こっているかを研究するよう要請した。
 その研究の一つが、ハーバード大学社会学部の博士課程の学生エバ・キャプランが行ったものである。彼女のいわゆる研究成果は、「日本の辞典に見るユダヤの定義」と題した論文の形で発表された。
 ADLの報告書によると、キャプランは日本人が「ユダヤ」という言葉をどのように定義しているかを見るために十六種類もの和英辞典を調べた。そして一部の定義は明らかに反ユダヤ的なものだったという。
 日本の辞書は反ユダヤ的だとしてADLが声明を出したのを受けて、キャプランの研究結果を紹介する記事が、一九八四年七月十日付の『アサヒ・イブニングニュース』紙に掲載された。この件は、辞書を出版した小学館の編集者が「われわれの定義が人種差別に当たるなど思いもかけなかった。と語ったことで一件落着した。この小さな事例をもって、ADLは最初の作戦が勝利に終わったとみなした。

 日本の卜ップとの会談

 日本の態度が弱腰であるとADLが判断したことが、この時の作戦の成功につながった。そして彼らはさらに次の一手を打とうとした。
 後でも触れるが、ADLというのは、世界中の反ユダヤ主義や不正に対抗するために作られた単なる「ユダヤ組織」などではない。この組織は実は、投資銀行家、見せかけの博愛主義者、組織犯罪者や国際的な麻薬密売人といった人々からなる、全世界の善意で素朴な数多くの人々を欺く大がかりな秘密のネットワークなのである。
 それゆえ彼らが作戦を遂行していくためには、自分たちの真の狙い、すなわち組織犯罪のシンジケートを日本に導入することの隠蔽工作が極めて重要になる。
 ヤコブソンは「われわれとしては日本にまだ問題はあるものの、その問題はある程度解消されたものと考えている.と語り、日本での問題が収まりつつあるかのように振る舞った。
 彼はさらに統けて、一九八八年春に日本を訪れたADLの一行が日本のトップの人々と会談できたことを自慢し、「通産省や大蔵省、それに経団連の人々と数多くの会議を持つことができた。もともとわれわれ一行は全国製造業協会と商工会議所の中の極めて重要なメンバーから構成されている。彼らは企業のトップのたちである」と語った。
 ADLの訪日の本当の目的は、彼らの作戦の隠蔽工作をすることにあった。それゆえ、彼らは、先に述べた教育や情報分野での計画を、彼らの汚いトリックを隠す隠れ蓑の一つに使おうとしたのである。
 彼らの「教育・情報」計画をさらに調べてみると、日本の政界、財界、学界の鍵を握る人物の調査は、彼らが日本にやってくる前にすでに進んでいたことがわかる。このことは、日本においてレべルの高い人々との会談できたというヤコブソンの発言からも窺うことができる。
 人物の調査という言葉を使ったが、この場合、この言葉には特別の意味合いがある。つまり相手の強みや弱点を知るために、相手の能力を探ることである。諜報合戦において、このやり方は相手方に対して仕掛ける工作の手段を決定するために欠かせないものである。
 そしてADLは、日本のエリートたちや国民が、アメリカの政策決定方法やその過程について、知識が欠けていることに対する批判に敏感であると判断した。したがって、アメリカの政策決定にユダヤか重要な役割を果たしているとして「ユダヤを非難」することは間違っている、とADLが日本に指摘することには、日本人のこの点に関する過剰なまでの心理を利用して日本側を困惑させ、あるいは恥じ入らせることにより日本側の譲歩を引き出そうという意図が存在するのである。

 誰がその手先となるか

 「ユダヤ問題」との関連で日本の状況をさらに調べるために、ADLは一般の日本国民の調査を行い、その結果が.一九八八年十一月の「日本の反ユダヤ主義−調査研究報告」というレポートにまとめられた。
 この調査は東京にある日本のリサーチ・センターが行ったものだが、同センターはギャラップ・インターナショナル・リサーチ・インスティテュ−ト社の関連企業である。この調査自体は特に目を引くようなものではないが、ただ一つ日本の学校でシェークスピアの『べニスの商人』を教えていることに、彼らが執拗にこだわっている点が注目される。このこだわりは、自分たちの本性が暴露されることを恐れる彼らの真情がはっきりと出たものである。
 ここにADLの気にしていることか何であるかを知る手掛かりがある。
 調査報告の中で彼らは次のように述べている。
「(日本人には)反ユダヤ文献、シェークスピアの古典、あるいは情報や金融の分野をユダヤが支配しているという見方などの中にあるユダヤ観の特定のケースを考えていくことで、その影響を最小限にとどめるような一般的傾向のあることがわかった。日本人の一部が外の世界(つまり非日本的なもの)を見る場合に狭い島国的プリズムを通して見る傾向があるのに対し、大半のは、外のことなど『私にはどっちもどっち、たいした違いはない』と考えている」
 これ以外にも、ADLはその調査の中で「ユダヤ」と、「イスラエル」に対する日本人の考え方、それも日本人が好意的な見方をしているかどうかの調査に焦点を当てている。そしてその調査レポートは最後に次のような一つの見解を述べている。
「大卒者や裕福な人々、それに少数ではあるにしても若年層の中に、ユダヤまたはイスラエル、あるいはその両方に対して否定的な見方をするたちが増えてきていることは注目に値する。このようなたちというのは、他の人々に比べて影響力ある立場についているか、影響力ある立場につくことを願っている人々である」
 実際にまずADLが計画しているのは、ユダヤあるいはイスラエルに対する日本人の見方を研究することである。そしてそこから、ユダヤおよびイスラエルに好意的になったりするや、すでに好意的になっている人物を日本人の中から見出して、ADLの手先に仕立てることを狙っている。
 言い換えればADLの汚い仕事を請負ってくれる日本人を探し採用することが、当初の目的の一つなのである。そしてここに述べてきた事柄は、まさしくADLがアメリカ国内で今まで実行してきた方法に沿ったたものなのである。

 現代のシャイロック、キッシンジャー

 ADLがこのような工作を行うようになった背景は、その内容から言って非常に興味深いものである。端的に言えは、彼らはユダヤの銀行家がやっていることに対して、シェークスピアの『べニスの商人』に登場するユダヤのイメージを持たれることを恐れているのである。
 シェークスピアの古典の中で出てくる「ユダヤ」という言葉は、ユダヤの銀行家の役割を意味したものである。つまりべニスの国王の代理で借金を取立てるのが彼らの仕事であった。
 ユダヤ銀行家シャイロックに関する記述の中で、彼が「肉一ポンド」を取立てる話がある。彼はべニスの法廷で、現に存在する反ユダヤ主義に異議を申立てる一方で、借金を背負った者に対し情容赦なくその返済を迫る。その結果人々は、彼は一の「ユダヤ」以外の何者でもないとますます思うようになるわけである。
 実際、彼は国王の汚い仕事を請負っているわけだが、それによって人情を失っているばかりか、彼自身の人間としての尊厳をも破壊されてしまっている。絶対的権力を持つ国王の奴隷になり下がって、その地位を守るためなら何でもする。これがあの有名な劇の中でシェークスピアが言おうとしたことである。
 シェークスピアが描いた悲劇の主人公は、今の世界にも存在している。
 たとえばアメリカの元国務長官ヘンリー・キッシンジャーである。ロンドンやニューヨークの銀行が、シェークスピアが指摘したのと全く同じ意図を持ち、同じ目的のために活動していることは決して偶然ではない。一九七○年代初頭に、卑劣にもロッキード事件を利用して田中政権を倒したときにキッシンジャーの後押しをしたのも、このロンドンやニューヨークの金融勢力であった。
 キッシンジャーはADLの幹部たちとともに活動している世界的重要人物の一である。また彼は日本の政治を動かしてきた重要人物の一でもある。
 彼が作った会社であるキッシンジャ−・アソシエーツ社が、ADLとは違ったレべルではあるものの、一部秘密工作を行うに際し決定的な役割を滅じていることはほとんど知られていない。
 一九七三年の中東戦争の後、キッシンジャーと彼に同調するユダヤ・ロビーは、日本がイスラエルに対するアラブのボイコットに参加しないようにと強い圧力をかけてきた。一九七○年代半ぱに、日本が中東産油国との間で重要な話合いをしているときに、キッシンジャーは日本のマスコミに一連のスキャンダルを漏洩して日本政府に揺さぶりをかけた。キッシンジャーとADLの狙いは、日本がアラブ産油国に何らかの支援をすれば、それがパレスチナ国家建設というさらに大きな支援につながりかねない旨を訴えることであった。
 ロンドンのS・G・ウォーバーグ・アンドサンズ社から創設に際して出資を受けたキッシンジャー・アソシエーツ社は、今でも同じような工作に従事している。
 現に、竹下政権崩壊を招いたスキャンダル(リクルート事件)の漏洩に、キッシンジャー・アソシエーツ社が一枚かんでいたのではないかといった強い疑惑ないし噂が、ワシントンに存在する。これが本当にせよ、あるいはまだ真相究明か必要なものにせよ、彼らがどのような工作をし、それに関与する人物や組織がこれをどう実行していくかについて、理解を怠ることは許されない。
 とは言え、アメリカのユダヤが一枚岩だというわけではない。ユダヤの指導者たちの中には、このような不正工作にADLを使うことに反対しているもいる。しかし大部分の人々はこのような悪行に対し、面と向かって異を唱えることができないでいる。
 国際的な問題においてユダヤの指導者の多くが何らかの役割を果たしていると、一概に言いきることはできない。とりわけ国家や政府の破壊工作に関与する者についてはそうである。この点を本当に理解するには、二、三世紀昔にまで遡り歴史的背景を探ってみる必要がある。特定のユダヤグループが、自分たちの仕える国王から与えられた任務を実行していたのであって、ユダヤ全部がそれを行っていたわけではない。
 この点をあまりに単純化してしまうと、彼らの思うつぽにはまることになる。

 寄生虫的ネットワーク

 いま世界中で大変革が起こっており、ロンドンやニューヨークに拠点を置く政治、金融勢力は、その力を維持するために懸命になっている。それに加え、彼らの「投機市場を意のままに動かす」力が弱まっているということもあって、対抗するすべての敵を打倒するには、その力は充分ではなくなりつつあると考えられる。
 金融市場全体は、アメリカ経済に破滅をもたらしたジャンク債市場の崩壊からまだ立直っていない。そのため彼らの寄生虫的ネットワークは、新たな寄生先を探している。ところでこれらの勢力はその「投機」を続けるために必要な資金を、長い間にわたって違法な国際麻薬取引から上がる利益に頼ってきた。
 彼らの投機的かつ暴利を貧る投資の大部分は、マネー・ローンダリング(資金洗浄)業務や、中米およびカリブ海地域、それに香港にあるオフショア銀行活動から入る資金によるものである。実際問題として、これこそが「自らの取引に精を出す」ために彼らに残された唯一の資金源である。事実、すべての人々をも含む全世界的金融状況は破産状態にあり、それが彼らをより一層自暴自棄でかつ危険な存在にすることになる。
 必要な資金が手に入らなくなると、彼らは勢い世界で最も繁栄している一つの国に目を着けるようになる。その国とは日本である。だがこれは単に彼らの貪欲がそうさせたというだけのものではない。その貪欲の背後にあるものは、彼らの「高利で金を貸す」という主義である。これはシェークスピアの、『べニスの商人』の中で描かれた「ユダヤ」となんら異なるものではない。
 ADLは高利を貪る銀行界に奉仕しており、ニューヨークやロンドンの銀行家たちの高利貸業務を擁護するために持てる力を行使している。これがADLが目下、対日攻勢に熱心な理由である。アメリカ政府は日本に対して金融市場の自由化や規制緩和を求めているが、現在進行中のこの工作の第一目的は、それによって日本にニューヨークやロンドン流のやり方を導入できるようにすることである。

 バブル経済の推進

 自分たちの投機狂いを維持し続けることが彼らの望みであり、そのために彼らは金融『バブル(あぶく)』と呼ぱれるものを作り出そうとする。「バブル」の基礎になるものは、投資家を引きつける高金利と、手っ取り早く高い収益が上がることである。彼らは「生産をする」という経済のもう一つの面には全く関心を払わない。ただ例外的に関心を示すとすれば、投機熱を煽るために生産活動を縮小するときだけである。
 投機家が取る行動の決め手は、不動産投機からはじまって為替投機に至るまで、すべての金融市場から規制を撤廃することである。それを行えば建物や建設、インフラ(社会基盤)などをべースにした実体のある付加価値とは全く無関係に、土地の値段を吊り上げることができる。投機家たちが初めの布石を打った後は、彼らの仲間である銀行家たちが金利を吊り上げる。それによってさらに多くの投資を投機に誘い込むことができ、現存する実体のある生産活動からその儲けを吸い上げることができる。この状態は「バブル」が破裂するまで続き、その後に不況がやって来る。
 このような状況は、ADLやそれを支援する銀行家たちがアメリカ政府を思い通り動かし、威圧し、堕落させる立場に置くことになる。投機や不当とも言える高金利といった金融政策を後押しするアメリカ政府の権力がなければ、借金を回収したり、金融バブルを持続させたり、あるいは新しい搾取の道を開いたりすることなどができないからである。銀行家たちは時には最後の手段として、自国の政府を戦争に引きずり込み、それによって借金を回収したり、新たに市場を作り変えたりといったことまでする。
 それゆえ彼らがアメリカ政府にその汚い真似をさせることができなければ、成功のチャンスは実際のところ皆無である。日本に対して、その抵抗を弱めたり揺さぶりをかけてきたりする試みこそ、その工作の本当の目的なのである。
 ブッシュ大統領と海部首相が金融市場の自由化規制緩和の件について何らかの理解に達したにもかかわらず、ウイリアム・ウェブスターCIA長官、ロバート・モスバッカー商務長官、カーラ・ヒルズ米通商代表などのブッシュ政権のメンバーは最近、大統領の欲するところとは別の言動を繰返している。この点について、ADLやそれを動かす人々は、大統領の個人的願いとは関係なく、日本を弱体化させ、自らの金融、貿易政策に日本を従わせるために大きな影響力を行使することができたのである。

 米国政府内ヘの政策誘導

 アメリカの対日政策を作り上げる上でADLが行っている政治的策略を理解するために、彼らが首都ワシントンのフォーシーズンズ・ホテルで一九九○年三月十八日から二十日にかけて開いた第十二回年次全国幹部大会を振返ってみたいと思う。
 会場へはブッシュ政権のトップ・メンバーの講演を聞くためだけではなく、個人的な会合を開いたり、運動方針を検討したりするために百六十近いADLの幹部たちが集まった。
 大会は三月十八日の日曜日に始まり、冒頭で全国幹部委員会会長のロバート・シュガーマンが演説を行った。
 シュガーマンに続いてソ連からの亡命者ディミトワ・シムズが、ソ連の現在の情勢並ぴにソ連在住ユダヤのイスラエルへの移住の見通しに関する自己の見解を述べた。シムズはカーネギー国際平和財団の研究員であると同時に、東西フォーラムの名で知られる組織にも関係している。この団体は、ADLの幹部の一であるエドガー・ブロンフマンから多額の資金を受けている。ブロンフマンについては後ほど詳しく述べることになるが、彼はADLの世界的な案件の決定に際し中心的役割を果たしている。
 シムズの演説の後、ADLは幹部会に関する議題を提出したが、その内容は主として次の三点から成り立っている。
一、シオニズムは人種差別主義だとする国連決議を破棄させる件。
二、シオニズムは「ユダヤの国家的解放闘争」だとする決議を国連に承認させる件、並びにソ連との関係改善を図る件。
三、反ユダヤ主義の台頭に関する件。
 日本が問題にされたのは、最後の議題に関連してであった。
 日曜夜の会議の後、広報担当大統領補佐官のボビー・キルバーグ、国家安全保障担当大統領補佐官でへンリー・キッシンジャーの会社、キッシンジャー・アソシエーツ社の元メンバーてもあるブレント・スコウクロフト、米国麻薬統制委員会委員長のウィリアム・べネット、保健省長官のルイス・サリヴァン、ヨーロッパ・ソ連問題担当国家安全保障会議(NSC)委員のコンドレッツァ・ライスといった人々など多数がホワイトハウスに集まった。
 そこでの議論の中心は先に述べた議題の初めの二つであった。しかし訪日の旅から戻ったぱかリのロバート・モスバッカー商務長官が基調演説を行った月曜の夜から、日本問題が議論の中心として注目を集めることになった。
 モスバッカーの「ジャパン・バッシング」演説は、ADLの内部で高まっている反日の声にさらに火をつけることを狙ったものだった。不公正な日本の通商政策や投資政策に対する念入りに練り上げられた痛烈な非難を聞くに及んで、三年前にADLの一行を引き連れて日本人使と会談したことのあるバ−トン・レヴィンソンが、「日本で反ユダヤ主義が高まりつつある」というとんでもない攻撃を始めた。
 力リフォルニアのビハリー・ヒルズの弁護士であるレヴィンソンは、主なユダヤ団体やシオニスト団体にはことごとく関係している。もともと広報マン・タイプのレヴィンソンは、モスバッカーと公の席上で日本と反ユダヤ主義を巡って議論するというやり方を利用して、日本がイスラエルと貿易しないことを理由にアメリカ政府が日本に対し厳しい姿勢で臨むよう仕向けた。

 日本・アラブ関係に楔を

 彼の仲間であるケネス・ヤコブソンは、レヴィンソン以上に突っ込んだ次のような意見を述べている。「イスラエルの貿易問題はわれわれが深い関心を持っている事柄である。われわれとしてもいろいろと努力してきたか、まだ十分ではない。
 ここ二、三年の間に日本の対イスラエル貿易は四倍に拡大した。これはわれわれの日本における影響力の成果である。アラブを恐れるあまりイスラエルと取引をしようとしない日本人に対して、われわれは四年ないし五年前から圧力をかけ始めた。そのような政策を取り続けることは彼らの利益にならないことを、われわれは様々な方法によって日本人に悟らせるようにしてきた。つまりアメリカがそのことで日本に対して制裁措置を取ることも有り得るというわけだ。
 アメリカ政府に関して言えることは、アメリカ議会がある一定の段階で日本に対し、貿易問題について大きな不満を持つというやり方で圧力をかけることである。この点に関しては、議員の中でもマツイ(民主党、カリフォルニア州)や下院のステファン・ソラーズ(民主党、ニューヨーク州)といったところがろがそれに協力してきたし、国務省もこれに手を貸してきた」
 こういった形の工作が政府にもたらした効果の中でも特筆すべきものは、議会が日本に対して「肉一ポンド」を要求するようになったことである。そして間髪を入れず、アメリカのマスコミは大物議員やブッシュ政権閣僚の長々とした攻撃演説を取り上げるようになった。
 ADLやその仲間たちが狙っていたのは、日本の政府やビジネス界が心理作戦の猛攻撃に対して過剰反応を起こすことであった。日本が公然とブッシュ大統領を攻撃するようになることを彼らは願っていたのである。
 もっとも、幸いなことに、マスコミが騒いだにもかかわらず、ブッシュ大統領と海部首相は大きな衝突を避けることができた。しかしその一方で、貿易やその他の問題について日本の譲歩を引き出すべく、すでに彼らは事を運ぼうとしているのてある。

第一章ここまで


第二章 日本ヘの宣伝攻勢

 自由経済政策の本質

 宇野氏が指摘した真実をごまかすため、ADLは氏の著作を云々するという伝統的な虚偽宣伝の方法を利用した。歴史的にみてもロスチャィルド、モルガン、ロックフェラー、メロンをはじめとする強大なアングロ・アメリカ系の銀行一族は、彼らの金融システムのからくりを隠すために何度もこの手を使ったものである。裏表のある主張で宇野氏の著作を攻撃したのも、卑劣な嘘をつく彼らのやり方そのものに外ならない。その上これらアングロ・アメリカ系の金融グループは、日本を自分たちの金融帝国の権益を脅かすものとみなしている。これらエスタブリッシュメントの中枢をなす人々からは、日本は単なる競合者ではなく敵とみなされている。
 彼らが抱えるいわゆる日本問題を正しく理解するには、これらの銀行が日本と中国に対して持つ先入観についてまず考えてみなければならない。これら大手銀行の大部分は中国に対し、ある種の神秘的かつロマンチックな考えを抱いている。
 彼らが中国に対して持っているイメージは、農民が耕す楽土中国、これら銀行家一族たちがアへン取引の拡大のために頑張った楽土中国というものである。中国は彼らが帰属する各々の国の政府が、特権的治外法権を手に入れた国でもある。そのおかげで彼らは金融帝国を築くことができた。したがって基本的に彼らは中国びいきの見方をする。そしてこの姿勢がアメリカの政権すべてに影響を与えている。
 一九七一年にキッシンジャーとニクソンによっていわゆるチャイナ・カードが行使されたときに、エスタブリッシュメントに属する多くの者が日本を潜在的脅威とみなす好機だと考えた。そのうえ中国や日本に対する彼らの態度は、日本と比べて中国から「搾取」「略奪」する方が容易であるという点がポイントになっている。

 リベラル経済で崩壊した米国

 金融で暴利を貪ろうとする者から見れば、日本の経済政策は現在のアメリカの政策とは正反対である。アメリカの政策は自由経済・貿易主義である。もっとも、いわゆる自由貿易政策とは言っても、これは実際には武力や経済戦争といった手を使って海外市場をこじ開けようとする十九世紀イギリス風の古典的なやり方である。この自由貿易という発想は、安い労働力さえ確保できれば安い製品を売ることができるという前提に基づいている。
 一方、各々の国ごとの経済発展ということを教育された者にとっては、日本は古典的な重商主義経済を採用しているように見える。それは国家や政府が産業を保護し、輸出のための基幹産業育成や国内の生活基盤向上のために、政府が長期投資を推進するような経済である。本当の意味での重商主義的政策が取られれば、アメリカの初代財務長官アレクサンダー・ハミルトンが行ったように、生産的投資によって実質的な富を国にもたらすような事業を目指している実業家には、充分な資金が提供されてしかるべきである。
 十九世紀の大部分の期間、そして二十世紀に入ってからも、アメリカがこのような重商主義の原則に基づき経済を運営してきたというのは大変な皮肉である。
 労働者やすべての市民の生括を向上させるために、科学技術開発への重点的投資を経済政策の根幹に据えることが、その考え方の特徴であった。そしてこのハミルトン流重商主義政策の結果、アメリカは工業大国にのし上がったのである。
 日米間の摩擦の根本的な原因は、アメリカがこのような経済哲学を放棄してアダム・スミスやミルトン・フリードマン流の経済思想を取り入れたことにある。日本の不公正取引慣行が原因などではない。

 インテリを目覚めさせるな

 本書の後半で触れるが、このようないわゆるリべラルな自由取引を求める金融政策は、数多くの大手ユダヤ系投資銀行がつくり上げてきたものだ。いや彼らに限らない。宇野氏がロックフェラー一族は「隠れユダヤ」だと指摘したことを、彼らは宇野氏の著作を攻撃する理由の一つに挙げているが、彼の指摘が全く的外れというわけではない。
 現実にはチェース・マンハッタン銀行とスタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー(エクソン)の上に築かれたロックフェラー金融帝国は、クーン・ローブ(現在のシェアソン・リーマン・ハットン)の手でつくり上げられたものだ。ラザード・フレル、ゴールドマン・サックス、べア・スターンズ、それにS・G・ウォーバーグといったニューヨークやロンドンに本拠を置くユダヤ系投資銀行が、イギリスの銀行や自分たちの銀行が、アメリカの大部分の銀行を買収するのに手を貸し、あるいはこれを行った。
 鉄鋼王アンドリュー・カーネギーや自動車王へンリー・フォードなど十九世紀末からニ十世紀にかけて活躍した大物実業家たちと組んで、彼らはそれを実行した。これら銀行グループが実際に行っていることは、大部分がロスチャィルド家の延長線上のものであるにすぎない。したがって宇野氏のようにロックフェラーを「隠れユダヤ」と簡潔に言い切ったとしても、それはロックフェラーや投資銀行グループが政治、金融面において連合を成している実態を端的に表現したものであると言える。
 それゆえADLインターナショナル・レポートが、上智大学の国弘正雄教授を使って宇野氏に反論させていることは、ごまかしである。またAP通信は、宇野氏の言っていることはたわごとでナンセンス」で、日本人は「そのような単純化された余りにも素朴な説明をつい受け入れてしまいがちである」という国弘氏の言葉を引用している。こうした行動から、ADLが日本のインテリや指導層の人々に対する宇野氏の著作の影響力を、減殺させようと試みていることがわかる。

 日米でのプロパガンダ工作

 ADLによるプロパガンダは太平洋をはさんだ双方で展開された。彼らは日本の新聞だけではなく、アメリカの新聞を利用してプロパガンダ工作に励んだ。
 一九八七年春にはニューヨーク・タイムズ』紙に『ユダヤ人に批判的な日本人作家』と題する記事が掲載された。ADLのインターナショナル・レポートは、その『ニューヨーク・タイムズ』の記事に関して次のように述べている。
「日本でユダヤ人に関する本や記事が立て統けに出ている・・・・題名に『ユダヤ』を冠した本が今では合計八十二冊も出回っている・・・・その内の多くはユダヤ陰謀論を扱ったものだ・・・・ニューヨーク・タイムズ』は一九八四年以来発売されているもう一つの本にも言及している。斉藤栄三郎著『世界を動かすユダヤ・パワーの秘密』である。著者は国会議員である。さらに一九八七年三月発行の『歴史読本』は.世界、謎のユダヤ』を特集しており、その中でウォーターゲ−ト事件やロッキード事件はユダヤ人が仕組んだものだと主張する論文を載せている」
 ではモルガン、ロスチャイルド、ロックフェラー一族のための新聞である『ニューヨーク・タイムズ』紙が、なぜこの問題を取り上げたのか。それは、『ニューヨーク・タイムズ』が、銀行家、政策担当者、オピニオン・リーダーといった仲間たちに、日本人がユダヤ人を標的にした宣伝攻勢を行っているという政治的シグナルを送るためであった。
 そのシグナルとは、ADLの以前からの調査やロピー活動にもかかわらず、『ニューヨーク・タイムズ』の社主やその支持者たちの言うには、日本人というのは手に負えない連中だという内容のものである。
 ニューヨークの日本領事館の日本情報センター理事のウメヅ・イタル氏は、『ニューヨーク・タイムズ』が挙げたそれらの本の著者たちの主張は日本政府の見解ではないと言って、同紙の読者から寄せられた反応を抑えようとした。しかしそれにもかかわらず、ADLは彼を信じなかった。
 ウメヅ氏はタイムズ宛の書簡の中で「日本文化の歴史には何ら反ユダヤの根は存在しない。日本政府も日本国民も人種的、宗教的、その他いかなる形にせよ差別には反対である。そしてわれわれはこのような立場を維持することを固く決意するものである。われわれの民主主義は様々な考えを持つ自由が存在するときに、真理、正義、礼節が、最終的に確立されるのだと信じることが前提になっている」と述べている。
 こうしたウメヅ氏の賞賛に値する努力も、ADLやその支持者たちがこうした説明に耳を貸す気が毛頭なかったことで失敗に終わった。

 ユダヤ系議員の日本攻撃

 一九八七年三月十四日付『朝日新聞』が『日本の反ユダヤ本困る…米議員、中曽根首相に書簡』と題する記事を載せた。それと同時に『ニューヨーク・タイムズ』は、何はさておいてもこういった本の出版を許していること自体がおかしいと、日本人を激しく攻撃した。ADLは事が自分たちの利害にかかわるときは、ある社会が民主的であることを好まないようである。
 中曽根首相宛の書簡を書いたのはアーレン・スぺクター上院議員(共和党、ぺンシルバニア州)とチャールズ・シューマー下院議員(民主党、ニューヨーク州)の二人で、両氏ともユダヤ人でかつADLに近い人物である。彼らが試みたことは、「日本での反ユダヤ的ムードがこれ以上拡がらないよう中曽根首相に手を打たせる」ことだった。
 さらにこういった宣伝工作を行う一方で、ADLは広範囲な経済問題を巡って日本に対する政治的攻撃を仕掛けていた。そういう中で日本史上最も大がかりな政治スキャンダルが明るみになり始めた。自由民主党にショックを与えたそのスキャンダルは、ADLが直接関係していないとしても、ニューヨークやロンドンの金融勢力が関係していたことはまちがいないし、こういった時期にその事件が明るみになったのも偶然の一致などではない。ADL及び中央情報局(CIA)とADLの関係を扱った後述の章で述べているように、CIAの代理としてADLが極めて重要な秘密工作を行っている。

 日本は反ユダヤか

 反ユダヤ問題を理由に日本を攻撃するプロパガンダは、単に日本で反ユダヤ現象が拡がっているから行われたなどというものではない。このキャンぺーンの背景には、日本は文化的に見て本質的に反ユダヤなのだという前提が存在する。前述のヤコブソンは、インタビューの中で「われわれはそれをユダヤ人無き反ユダヤ主義と呼ぶ。ある種の宗教的反ユダヤ現象である」と語っている。
 ADLやその支持者たちが、日本が「宗教的反ユダヤ」だという信念を持っているという事実は、日本がユダヤを実際どのように見ているかということ以上に、彼らの姿を明らかに一示している。国際銀行グループが抱く日本に対する文化的敵意は、日本は自分たちのことを「選民」だと考えているに違いないという認識が前提になっている。英語圏の国で発行された最近の日本に関する本を見ると、大部分の著者は日本人が文化的にこのような考え方を持っているとして憤慨している。マーヴィン・ウォルフェ著『日本の陰謀』もそのような本の一つである。
 このような偽リべラル主義者たちは総じて、欧米の人々には理解し難いその国々に根差した家族観や伝統的価値観から来る上下関係に対して、反感を覚えるものだ。その上そういった人々はまた、洋の東西を問わず規律に関する「権威主義的文化」というものを自動的に拒否するところがある。さらに覚えておかなければならない極めて重要な事柄は、そのようなとらえ方が戦後アメリカのアカデミックな機関の中で教えられてきたという事実である。
 この反権威主義は、デモクラシーの理想を追い求めるなどというようなものではない。むしろ科学や技術の進歩を通じてより完成されたものを目指すことが評価される文化風土を持つ社会に対し、露骨に敵意を抱くものである。この点からいえば、日本は今でも科学の発展を追求する社会の見本の一つになっている。基本的には日本は英語圏の国々の文化に移行することを拒んでいる。これに対し英語圏の国々では脱工業化社会がもてはやされ、政策を立てる上でも科学や科学的手段がもはや重要視されなくなってしまっている。
 反権威主義者たちが口にしているのは、まさしくこの科学的権威に対する敵意である。このような考え方は戦後米国ユダヤ委員会(AJC)などの世に言うアングロ・アメリカン・エスタブリッシュメントが周到に植え付けてきたものである。
 AJCはADLとは別の存在だが、最近はより寛大でリべラルなAJCの方がADLによって実質的に乗取られてしまっている。それにもかかわらず、反権威主義的パーソナリティと呼ばれる社会学的モデルを利用することに関しては、この二つの組織は共に賛同している。
 一九五○年、ドイツからのユダヤ人難民クルト・レヴィン率いるAJCとアイオワ大学での彼の何僚ゴードン・オールポートが、権威主義的パーソナリティと権威主義的文化に関する研究を行った。彼らの研究は、第二次世界大戦前と大戦時におけるナチス・ドイツと大日本帝国の動きをべースにしたものだった。この研究はアメリカにおける権威主義的パ−ソナリティに採用、適用され、一九六○年代には実行に移された。事実、その計画は反ユダヤ主義的と思われる事柄を支持した人物を、特に標的にした対抗措置に利用された。そして反ユダヤ的な人間は、誰でも権威主義的パーソナリティだということにされてしまった。

 イスラ工ルと断交すると

 もちろん中には紛れもなく本当に反ユダヤである場合もある。だが多くの場合は、ADLが反ユダヤ問題だと指摘しても、実際には何ら反ユダヤ主義とは関係がなかった。そうでなく彼らが、敵視する人物を政治的に攻撃する隠れ蓑としてそれを利用したことは、何度も述べてきた通りである。
 権威、継続性、そしてコンセンサスが重んじられる日本のような社会にあっては、反ユダヤ主義が果たす役割は何も存在しない。後でも見るように第二次世界大戦勃発前に、日本はナチスの手を逃れたヨーロッパのユダヤ人を救出する努力をしている。
 したがってADLが、日本文化を攻撃する方便として、過去の日本の反ユダヤ文献をいわゆる証拠として掘り起こそうとすることは、決して単なる偶然の一致などではない。 彼らのインターナショナル・レポートでは、「日本において反ユダヤ書籍が当初注目を集めたのは一九七○年代初めであった。その時の本の一冊が日本マクドナルド社長、藤川田氏の『ユダヤの商法…世界経済を動かす』である」と述べている。藤田氏は日本人の仲間に対して、日本人はユダヤ流のビジネスのやり方を取り入れなければならない、つまりユダヤ人の真似をすべきだと語っていたと、ADLのレポートは書いている。このように媚びヘつらったとしても彼らには何ら認められない。
 ADLはさらにここ何年間に出た記事についても触れている。
 その一つに、アラブ諸国が石油ボイコットを発表した後の一九七二年十一月二十二日付『ジャパン・タイムズ』に載った『日本、世界のユダヤ人の報復行動に直面」という記事がある。
 その記事の中で匿名の日本人外交官の次のような発言が引用されている。
「アラブ諸国からの石油を確保するためにイスラエルと断交すれば、日本は世界中のユダヤ人から深刻な報復を.受けることになろう・・・・日本がイスラエルとの関係を断つようなことになれば、世界の国際金触を実質的に支配しているユダヤ資本家か、あらゆる手を使って日本いじめに出てくるだろう」
 皮肉なことにその日本人外交官は基本的に正しかった。

 フグ計画がなぜ例外なのか

 ADLは日本における様々な関係者への接触を開始した。とりわけ日本のキリスト教徒に対しては「日本人とユダヤ人」と題するシンポジウムを通じて接触した。このシンポジウムは東京の世界ルーテル連盟が主催し、日本ルーテル神学校の宣教研究室と聖文舎が協賛したものだった。
 ADLのレポートによれば日本ルーテル神学校の清重尚弘神学校長は、「日本のビジネスマンの中には、先入観をどうしても捨てきれず、海外でのユダヤ人ビジネスマンとの取引から手を引いた人たちがいる」と述べている。清重氏はシェークスピアの『べニスの商人』と『浅はかな新約聖書解釈』が、一般的なユダヤ人をこのタイプの人々に見立ててしまったと、ADLに都合のいい発言をした。
 シンポジウムでは、第二次世界大戦中の日本における反ユダヤ主義の台頭をはじめとするいくつかのテーマが議論された。その中で日本のプロパガンダの中心が、アメリカとロシアの対日戦争の背景には国際ユダヤの経済的陰謀が存在したという点にあったことが指摘された。
 だがADLの言うように日本が反ユダヤ・キャンぺーンを行っていたその同じ時期に、日本政府がヨーロッパのユダヤ人を助けて満州の地に移住させる計画を立てていたことは皮肉なことではないか。もちろんADLは、フグ計画の名で知られるこの計画は単に「一部の日本人」が立てたものであるにすぎないという。
 フグ計画そのものの目的は、迫害されたヨーロッパ在住ユダヤ人が持っている技術や力を日本に取り込もうとしたものだった。その計画は当初、五万人のドイツ系ユダヤ人に満州に移住してもらおうというものだったが、最終的には百万人もの移住を想定していた。実際には二万人から三万人のヨーロッパ在住ユダヤ人が日本人によって助けられ、このうちの多くは直接日本に赴いた。
 一九七九年版ADL便覧の中でも、日本のユダヤ共同体の精神的リーダーとして日本にいたこともあるラビ、マーヴィン・トケイヤーが、この計画が存在したことを認めている。彼はさらに日本人は「(満州という)荒野に一つの独立国をつくろうとしており、それをソ連との間の緩衝地帯にすると同時に、アメリカの同意を取り付けアメリカからの投資を呼び込もうと考えていた。それによって日本が唱えた大東亜共栄圏を強固なものにすることを狙った」と記している。
 フグ計画の考え方を見れば、日本を「文化的反ユダヤ」国家と言うのは明らかに間違っていることがわかる。だがADLはその点をはっきりとさせることを望まない。というのもこれをはっきりさせることは、日本を相手に彼らが行っているプロパガンダ・キャンぺーンに反する上に、彼らにとってフグ計画の事実を自分たちの利益のためにねじ的げて利用するメリットをも失ってしまうからだ。言い換えればADLは、フグ計画の歴史的事実について慎重に言及するものの、それが日本の文化の中では例外的なものであるかのような言い回しをしたいのである。つまりADLは、フグ計画は歴史的事実だが、それは一部の日本人グループが実行したことで、日本全体がそれを実行したわけではないという。ADLの考えによれば日本は今でも「文化的に反ユダヤ」ということになる。

 ユダヤ・サイドからのみの称賛

 ADLはフグ計画を公にしたが、そのこと自体、特定の日本人を彼らの側に取り込む手段としている。フグ計画を「例外的な日本人の態度」の見本とすることにより、彼らはこれを日本人社会の中で鍵を握る人物を募る手段として利用している。そしてADLやADLをコントロールする人物たちに反対する人々に、彼らをして対抗させようとしているのである。
 この種の工作がどのように行われたかを示す典型的な例は、故杉原千畝氏の場合である。氏は一九四○年、リトアニアのコヴノにあった日本領事館で働いていた。この人物はドイツ軍が電撃進行中のさなか、外務省に相談することなく個人的理由だけで通過ビザを発行して、五千人に上るリトアニアとポーランドにいたユダヤ人を救出した。ユダヤ人たちは鉄道で極東に向かい、神戸や中国の上海に住みついた。一九八五年一月、イスラエル政府は杉原氏を日本人の中では最初で唯一の「善き異邦人」だと認定した。
 この後の章(第五章)で、ナチス・ドイツから逃れてきた難民の一部が、第二次世界大戦後のアジアでどういう活動を行い世界的な諜報網を作るようになったかを述べてみたい。モサド(イスラエル情報機関)の中で最も重要な人物の一人であるショール・アイゼンバーグは、日本で戦争中を生き延びたばかりか今日の世界的な経済情勢の中で、日本の敵の一人になった。そしてアメリカの情報当局が、これらの勢力とぐるになって日本の弱体化を図っているのである。


第三章 ターゲットをあぶり出せ

 的確なる指摘

「アメリカ人は『マネー・ゲーム』、つまり企業買収(M&A)により単にカネを右から左に動かすだけでカネを儲けている。例えば、為替レートは現在一ドル百二十円前後、コンピューターや人工衛星、電話などを使ってカネを動かすだけで巨額な利益が瞬時に手中にできる。・・・・為替ディーラーに私の考えを話すことは、証券会社に対して株価の変動そのものが間違っていると言うようなものだ。....カネというのは投機のためにあるのではないと私は言いたい。カネの基本的な役割は、銀行や証券会社を儲けさせることではなく、生産活動の流れをスムーズにすることだ。アメリカはサービス産業の比重が高まるいわゆる脱工業化社会になりつつあると言われてきた。だが物を生産することを忘れるという、今アメリカで起こっているようなことが起こると、人々は必要とする生活必需品まで自分たちで賄うことができなくなる」(アメリカで話題を呼んだ海賊版より)
 驚くべき、かつ極めて示唆に富むこの言葉は、石原慎太郎氏との共著『NOと言える日本』の中でソニーの会長、盛田昭夫氏が語ったものである。それは日米摩擦の原因の一つを的確に指摘している。盛田氏が言っている通り、一九五○年代にアメリカのエリートたちが取り入れた「脱工業化社会」の成立したことが、アメリカの貿易赤字の大きな原因になっている。盛田氏自身の言葉を借りれば、アメリカは資本財を生産しなくなったので活力ある経済を維持できなくなっているのである。
 この本はアメリカの政界各層の人たちに一騒動を引き起こしたと言っても言い足りないほどの反響を呼んだ。だが、この『NOと言える日本』という本の出版の詳しい事情を見る前に、脱工業化社会とは何かをまず考えてみよう。

 乗せられた米国経済

 「脱工業化社会」という政策を推し進める動きは、代表的民間財団のフォード財団や大学の政策立案集団の手で、一九五○年代終わりごろから始まった。この動きに最も関係した人物と言えば、ハーバード大学の社会学者で、後に代表的な新保守主義者になったダニエル・べルである。べルには多数の著書があり、その中でも『イデオロギーの終篤』の中で脱工業化社会の考え方を世に問うた。
 一九六七年の六日戦争でイスラエルが勝利を収めた後、べルはシオニズム(ユダヤ民族主義の意、イスラエルの国益を自分の国籍のある国の利益より優先させる)の熱烈な支持者になった。べルは『ザ・ナショナル・インタレスト・アンド・コメンタリー』誌をはじめ様々な雑誌を出している新保守主義者知識人の旗頭の一人であり、この脱工業化社会の到来を宣伝する数多くの人間の一人でもある。脱工業化社会を最初に推進しそれを支持したのは、ニューイングランドの名門の人たちとニューヨークにいる彼らの銀行家の友人たちだった。彼らは脱工業化社会を、開発途上国や第三世界を中心に人口ゼロ成長政策を進める手段にしようと考えた。彼らの真の狙いは、次のような考えに立っている。
 日本をはじめとする西側工業国が脱工業化政策を取ったなら、開発途上国にとって工業化をしたり、農業生産を改善したりすることが不可能になり、その結果自給自足もできなくなる。さらに銀行家たちは、脱工業化政策の結果として開発途上国への投資に回せる資金を十分調達できる国が存在しなくなると考えた。アメリカが輸出向けの資本財の生産をもはや行わなくなるので、米国内の産業基盤が縮小するとともに、開発途上国の潜在的市場も手付かずのまま放置されることになる。その一方で、国際通貨基金(IMF)や世界銀行といった国際機関がアメリカの支持により開発途上国に対して新植民地政策を取る。第三世界の天然資源の搾取、安い労働力の確保がアメリカの政策の基礎になる。
 もっと基本的なことを言えば、脱工業化社会というのは、産業基盤が鉄鋼、ゴム、工作機械、鉱業といった従来の重工業から、より狭い分野に限定されたハイテク産業へと移行した社会のことである。アメリ力というのは、ブレジンスキー元国家安全保障担当大統領補佐官の言葉を借りるなら、「テクノトロニックソサエティー」になり得る国であるが、ある意味では実際そうなってしまったと言うことができる。

 凋落と衰退のアメリ力

 つまり一九四六年から今日に至るまでの間に、アメリカはすっかり変容してしまったのである。第二次世界大戦にアメリカが勝利を収めることができたのは、その生産力と労働力のおかげだったが、もはやそれらが経済成長の維持や拡大に大きな役割を果たすということはなくなった。一九四六年においてはアメリカの製造業と、教師や医者も含めたサービス産業の比率は六十五対三十五であった。今日、一九九○年時点ではその比率は完全に逆転してしまっている上に、製造業の比率が下がり続けている。アメリ力はもはや昔のように科学や技術の発達に貢献することはできなくなった。
 ある時などは、大企業の一つ、ゼネラル・エレクトリックは宣伝用スローガンに「進歩はわれわれの最も重要な商品」という言葉を掲げていた。科学や技術の進歩を基本的に信じるということが、平均的アメリカ人の文化的推進力であった。それはとりもなおさず、「メイド・イン・アメリカ」の表示の下、世界最高の製品をを作っているのだという誇りであった。だが過去二十年間に、アメリカの社会には科学や技術を罪悪視するプロパガンダが充満し、工業化はガンを生むとか、原子力発電は危険といった人を脅かす手口が往々にして用いられるようになった。米国民を相手にしたこの心理作戦は、アメリカの文化から技術発展による人類の進歩を信じる思想を根絶してしまうことを狙ったものであった。
 科学や技術の優れた点を重んじる考えをアメリカ文化から排除してしまうということは、脱工業化政策の極めて重要な特徴の一つである。この中にあって唯一、科学や技術の進歩が引続き許されたのは、産軍複合体のみであった。民間の産業や科学の分野に関するものは、ことごとく「ウォール街のハゲタカ」どもの手に売り飛ばされてしまった。

 対日政策の変化

 だから「ジャパン・バッシング」計画の背景に日本への人種偏見があると指摘した石原氏は、重要な点を見逃していた。さらに氏が、日本はアメリカの国防産業にとって不可欠な半導体技術のアメリカへの供与を止めることができるなどと、いささか幼稚で知ったかぶりの主張をするのも、重要な点を見逃しているからだと言える。このような声高な応酬による対応は、「ジャパン・バッシング」計画促進に油を注ぐだけである。
 アメリカの政策担当者たちの人種偏見が問題でないわけではない。日米間の問題には、人種的要因が確かに存在する。アメリカの歴史を見ると、イギリスの影響が強まるにつれ「人種的なものの考え方」が強調されてくることがわかる。歴史的には二十世紀初めになって、アメリカの政治思想はイギリスの直接的影響下に置かれるようになった。アメリカに重要な変化が起こったのは、親英派のセオドア・ルーズべルト政権の時だった。彼の太平洋地域、特に日本に対する見方はイギリスによって形づくられた。その結果、明治維新時につくられた日米間のパートナーシップとしての関係が変化した。
 十九世紀までのアメリカの哲学的政治観はジョン・クィンシー・アダムズの思想に由来するものだった。各々の主権国家はその外交政策の基礎を、各主権国家の実り豊かな未来を目指すべく互いに努め協力するような規律ある関係に置くべきだ、という彼の考え方は、モンロー主義の中に見出すことができる。当然のことながらこのような考え方は、イギリス人の考え方やへンリー・キッシンジャー元国務長官の考え方、それに彼の「バランス・オブ・パワー」なるメッテルニヒ流の政治手腕とは全く正反対のものである。
 アブラハム・リンカーン大統領時代を見れば、アメリカが日本に対し現在とは全く異なったアプローチをしていたことがわかる。自らの工業化政策を取ることにより、南北戦争で北軍を勝利に導いたリンカーン大統領の経済顧問の一人が、一八七一年から一八七七年にかけて明治天皇の顧問を務めた。彼の名前はエラスムス.ぺシャィン・スミスという。スミスは「アメリカ政治経剤学説」として知られる経済思想の流れに属する。その説は低利の長期資金をアメリカ政府が調達し、それによって政府の手で運河・水路・鉄道、道路といったものを建設して、国内の社会基盤を整備することを強調する。
 この「アメリカ政治経済学説」と対照的なのが、アダム・スミスの自由市場経済学のイギリス学派であった。今日、この学説を支持するのはアングロ・アメリカ系の銀行界の首脳たち、とりわけ以前「高利貸集団」と称された人たちである。一八五三年のぺリー提督率いる日本遠征航海そのものが、アメリカでロスチャィルドのために高利貸事業をやっていた連中がそそのかしたものであったというのは、一つの歴史の皮肉である。
 フランクリン・ピアス政権時代(一八五三‐五七年)、民主党の首脳で、アメリカにおけるロスチャイルドの正式の代理人でもあったオーガスト・べルモントが、アへン取引の拡大を通じ極東地域でのアメリカによる最初の拡張主義政策をとろうとした。ぺリーの任務は、アへン取引の拡大を図るために「日本の開放」を果たすことだった。べルモントとぺリーの日本への遠征との関係は極めて単純なものである。ぺリーはオーガスト・べルモントの娘と結婚しており、その娘を通して作戦の実行を強制されたのである。

 盛田昭夫氏批判の理由

 ここに述べたちょっとした歴史的エピソードは、アメリカがこのような政策をとった理由を理解する鍵になる。金融における影響力や支配力を持ったことで、アメリカは国家としてこのような政策をとるようになり、その政策がもたらした特異な政治権力を手にするようになった。それは石原氏が言うように日本が「黄色人種の危険な存在」の代表だからというわけではない。アメリカが日本を攻撃するのは、それがアメリカの金融および経済政策の本質そのものだからであって、それが対立の原因なのである。
 だからといって、盛田氏と石原氏が問題の本質をわかっていないと言っているのではない。盛田氏は技術と企業の発展の間に決定的関係があることを理解している。この点について、彼は次のような言葉ではっきりと述べている。
「アメリカは物を造ることを止めてしまった。だからといって、それがアメリカには技術がないということを意味しているのではない。この技術と企業活動とがしっかりと結び付かない原因は、第二、第三のタイプの創造性が欠けているからである。つまり新しい技術でつくられた製品を企業化するところの創造性である。これがアメリカの大きな問題だと思う。そして今のところ、この分野がたまたま日本の強味になっている」(前出海賊版より)
 だが盛田氏はアメリカのどこが間違っているかを洞察力鋭く書いているにもかかわらず、なぜCBSテレビの「シックスティ・ミニッツ」なるニュース番組で自分が叩かれる結果になったかを理解してはいない。同番組の一部を構成する二十分番組ではダイアン・ソーヤーが世界中に盛田氏を追いかけてインタビューをしており、それを通じて日本の政策を攻撃している。これが起こったのが十年前だったにもかかわらず、彼は自著『NOと言える日本』の中で詳細を一つ一つ鮮明に思い起こしている。彼が触れなかったこと、おそらく知らなかったと思われることは、CBSのオーナーがローレンス・ティッシュだということだ。

 投機的資金調達の演出者たち

 ティッシュはADLの最高幹部の一人で、金融界やマスコミ界に大きな影響力を持っている。長年にわたって彼はウォール街の中でもとび抜けた大富豪の一人で、一大企業集団のローズ・コーポレーションを金融面で操る大立者である。同社は大劇場やホテル・チェーン、タバコ、保険といった事業を行っている。パーク・アヴェニュー六一番街にある自分のホテル、リージェンシーで開かれる悪名高いユダヤ人の権力者たちが集まる朝食会で、ティッシュはCBSの創始者でもある親友のウィリァム・パーレーと定期的に会っている。
 元イスラエル国防相のイツハク・ラビンが、ティッシュと金融界の人物フェリックス・ロハティンの招きで一九九○年七月に訪米したのは決して偶然ではない。それはシャミルが再び政権を取ったことに伴い、ラビンとしてはどのような支援をアメリカ政府から受けられるかを話し合うためのものであった。
 ロハティンはオーストリア生まれのユダヤ人投資銀行家で、ニューヨーク市当局の金融代理人である。この人間関係を見れぱ、国際的な政治・金融がどのように演出されているか、マスコミが前出の章で述べたようなある種の工作にどのように利用されているかがわかる。さらにイスラエルに関する金融や経済政策の大部分はティッシュ、ロハティン、マックス・フィッシャーをはじめとする「憶万長者クラブ」が取り仕切っているのである。
 したがって、盛田氏や石原氏がアメリカにかつて起こったこと、そして今起こっていることを政治的な面からわかっているとしても、完全に理解しているとは言えない。脱工業化社会ヘの移行、その結果レーガン政権時代に起こったLBOやジャンク・ボンドといった投機的な手段による資金調達ブームは、ロンドン、ニューヨークの一群の人々が演出したものだという観点からこれを見ていかなけれぱならない。これはアメリカ的なハメはずしなどといったものではない。したがって彼らが『NOと言える日本』で、ある特定の人物、例えばクライスラーの会長リー・アイアコッカといったような人物を攻撃しているのは見当違いであるように思われる。

 投機ブームの仕掛人

 投機ブームに火を付け、アメリカ産業の衰退を招いたのは誰かをアメリカの中枢にいる人たちはよく知っている。一九八○年代の投機ブームは、当時のFRB議長ポール・ボルカーの助言によりカーター政権がとった規制緩和策が引き金になって起こった。そしてレーガン時代にはそれが劇的な高まりを見せた。
 この投機ブームに大きな役割を果たしたのがクラヴイス・コールバーグ・アンド・ロバーツ社(KKR)に率いられたウォール街の企業乗取り屋たちだった。投機的な資金調達の手段としては一番重要なLBOのパイオニアがKKRである。
 KKRはべア・スターンズ社出身の二人の人物によって一九七六年に設立された。べア・スターンズ社の経営者は、アラン・グリーンバーグ。ローレンス・ティッシュの古くからの友人で、彼が主宰するかの権力者たちが集まる朝食会のパートナーでもある。アメリカの不動産王の一人で、サザビーズ仕のオーナーでもあるアルフレッド・トーブマンも、ティッシュやグリーンバーグと親密な間柄にある。KKRや、その他様々な「企業乗取り屋」たちの間には、このような複雑な関係が存在する。
 KKRのジャンク・ボンドを使ったLBO案件の法律問題を担当しているのがスカデン・アープス法律事務所で、その事務所がユダヤ・ロビーの代表的存在であるのも別段不思議ではない。スカデン・アープスの上席パートナーのケネス・ビアルキンは、組織犯罪とコネがあることが知られているし、大がかりな国際投資にも加わっており、KKRの手がけるLBO関係の人々の中でも中心的な人物である。ビアルキンは、各種有力ユダヤ人組織のトップからなる委員長協議会の元議長で、ADLの幹部の一人である。
 だから本当のところ、日米間の緊張の第一の原因は貿易問題などではなく、アメリカの金融政策や経済政策を決定し操作してきたロンドンとニューヨークからの政治的圧力に在るのである。

 途上国偵務返済問題

 銀行制度の規制緩和がきっかけで火が付いたアメリカの投機熱の結果、一九八二年にアメリカは危機的状態に陥った。
 一九八二年八月末、世界の銀行界はメキシコ政府の一連の動きに仰天した。当時、メキシコ政府は連銀のポール・ボルカー議長や、チェース・マンハッタン、シティバンク、バンク・オブ・アメリカといった有力債権銀行の代表者たちに会うために、高官をワシントンで開かれた秘密の会合に派遣した。そしてこのような人たちを前に、現行の金利では債務返済は続行できないと、八百憶ドルの負債に対する事実上のモラトリアムを宣言した。
 メキシコのシルヴァ・へルツォーク外相は、世界が金融問題に陥っており、ブラジル、フィリピン、アルゼンチン、ナイジェリアといった開発途上債務国も利払い不能の状態にあると述べた。これにより利払い危機の発生は避け難くなり、危機対処に当たっているロンドンやニューヨークの銀行としても対応に迫られることになった。そこで手持ちになった途上国の債券の名目価値を下支えするために、英米の金融家たちは銀行システムの一層の規制緩和を進め、IMFを通じて債務国の経済情勢をさらに引き締めるべく、債務国に厳しい条件を適用することにした。
 アメリカ側からは、二つのいわゆる負債軽減措置が導入されたが、これは共に金融崩壊を回避するための「危機管理」を目的にしたものだった。その一つは、べーカー・プラン。もう一つはブレイディ・プランである。両案とも金融面、経済面であまり大きな困難を伴わずに表向き負債総額を減らすことを狙ったものだ。しかし七年以上も経った一九九○年に、この債務対策は惨めな失敗に終った。結局両案とも、銀行の救済を狙うなかなかよく考えたインチキのようなものだった。途上国向け債権の多くを償却したのは日本、ドイツ、スイスの銀行だけであった。償却総額は負債残高全体の七○%前後になる。その結果、英米の銀行は第三世界の危機の解決からは手を引き、先進工業国を対象とする自らの市場拡大に向かい出した。新規市場の開拓の代わりに、既存の市場で日本やその他の国々の銀行と競争する方向を英米は選択したのである。さらに「ドル政策」の結果、一九八○年代には通貨が大きく変動し、この変動に目をつけた投機が盛んに行われた。新規の資本財の開発に民間資本を長期投資するなどといったことは、事実上不可能になってしまった。一九八八年の一括通商法や日米構造協議を持ち出してワシントンが貿易戦争に動き出したのは、このような状況下においてであった。またロンドンとニューヨークの金融枢軸連合が投機ゲームに火を付けたのも同じ状況の下においてのことであった。

 日本を標的とするロスチャイルド

 このような状況の中で、ロンドンに本拠を置くロスチャイルドは、アメリカを債権国から債務国にひっくり返すために持てる政治力、金融力を注ぎ込んだ。一九八二年から八六年の間にこの目的を達成した後、ロスチャイルドは今度は最大の債権国日本を支配下に置こうとした。彼らが注力したのはまず、日本の資金が流れる先をアメリカ市場に限定することだった。その次は、日本の技術が開発途上国、とりわけラテン・アメリカに移転するのを防ぐことだった。最後に、日本が貿易で手に入れた黒字を日本から取り上げることだった。そしてこの最後の点が最も重要な事柄だった。
 G7、IMF、世界銀行、アジア開発銀行、さらには日米構造協議などといったあらゆる政治的、金融的メカニズムを利用して、アメリ力政府はこれら銀行になり代わり日本の投資資金の流れを操作しようとしている。シオニスト・ロビー、ジャパン・バッシングに励む議会、それに農務長官、運輸長官、商務長官、財務長官といったブッシュ政権内の閣僚たちは、大がかりな硬軟取り混ぜた交渉術を駆使してきた。彼らは貿易黒字の形で日本が手にした資金をわがものにするためには、どのような罠を用いることをも躊躇しないであろう。
 いわゆる公平な取引慣行の要求とか、市場開放の要求といったことも、同じ策略の一環にすぎない。

 石原慎太郎氏の訪米

 日本の金融制度に深く入り込み、それを支配する方策を探るために、カール・レヴィン上院議員と彼の弟であるサンダー・レヴィント院議員のの後ろ楯となっている人々が、ワンントンやアメリカ各地、特にアメリカの伝統的工業地帯であるミシガン州やイリノイ州で講演させるために石原氏を招待した。
 レヴィン兄弟は、ともにミシガン州選出の議員である。二人は議会においては銀行、貿易、通商といった重要な委員会に属している。彼らはまた、かねてから日本の通商政策を人一倍激しく攻撃してきた。
 にもかかわらず、どういうわけでレヴィン兄弟がかねてからの敵、『NOと言える日本』の著者である石原氏を招いたのか。その問いに対する答えは、これがCIA長官ウィリアム・ウェブスターの協力のもとに発動された昔からよく使われるあぶり出し工作だったという事実の中にある。
 あぶり出し工作に関しては前章でも触れているが、アメリカにおける石原氏の敵は、この石原氏という人物がどのようなやり方をするのか、彼が書籍を出版したことによって米国民に実際どのようなインパクトがもたらされたかを自らの目でつぶさに見たかったのである。
 ここで述べておきたいのは、論争が大きくなったそもそもの原因が、『NOと言える日本』という書物を英語に翻訳したことにあったという事実である。国防省がこの本を手に入れ、訳書を出したところ、その翻訳に対して政府内の他の部署から、原書の中の手厳しい批判の一部について語調を和らげる手心が加えられているとの指摘があった。世間の人々がその本の内容についてほとんど知らない間に、水面下での大がかりな戦いが始まっていた。これも彼らが石原氏をアメリカに招いた理由の一つで、石原氏が通訳者を通してであっても、アメリカの大衆に向かってどのように自説を述べるのかを見たいということもあった。

 手強い人物、橋本蔵相

 レヴィン兄弟に話を戻そう。二人はあぶり出し工作にかかわっているばかりか、ADLによる議会工作にもなくてはならない存在である。レヴィン兄弟はミシガンでは有名な弁護士一族の出である。二人は弁護士としては三代目に当たり、彼らの母親はミシガンの極めて富裕なユダヤ人一族の出身である。政治的に彼らとつながっているのは、ホワイ卜・ハウスに近く、ユナィテッド・ブランズ・コーポレーションとマラソン・オイルのオーナーであるマックス・フィッシャー(見せかけの共和党員)、不動産の投機家でADLへの資金提供者の創始者でもあるアルフレッド・トーブマン、クライスラー会長のリー・アイアコッカ、反日の全米自動車労組委員長のオーエン・ビーバーといった人たちである。
 このグループの中から、ジャパン・バッシャー(日本叩き論者)の中心人物の何人かが出ている。彼らは石原氏に対し、好奇心と恐れが相半ばした気持ちを抱いている。というのも石原氏は日本の現大蔵大臣、橋本龍太郎氏と関係が深いからだ。アメリカの情報関係者の間では、橋本氏は危険な「日本のナショナリスト」の一人で、日本の歴代大蔵大臣の中で最も扱いにくい人物だとみなされている。レヴィン上院議員の事務所の話によると、石原氏を招いた理由の一っは、橋本氏が日本の「国際的責任」を遂行するつもりがあるのかどうかを確認することにあったという。つまり日本が「IMFやそれに類した機関が決定した国際金融ルールに従って行動」し続けるかどうかという点が問題だったのである。

 日本上陸を図るADL

 その一方で一九九○年春の石原氏の訪米期間中、あぶり出し工作のための情報はことごとく集められ、CIAとADLの手に渡された。CIAとADLの関係については、次章でその詳細を見ていくことにする。ここでは石原氏の訪米は、日本の新聞が大いに持ち上げて大成功と書いたのとは裏腹に、実際はアメリカにおける日本のイメージ低下を図るための次なる心理戦争の準備に利用されたと言うだけで十分だろう。加えて、その旅はADLに対し、日本事務所開設のための資金集めをしなけれぱいけないと思わせるに充分な一連のインパクトを残した。
 彼の旅から二ヵ月もたたないうちに、ユダヤ系投資銀行グループの代弁者として代表的な存在であるニューヨーク・タイムズ』紙が、七月十二日の一面で米国企業による日本攻撃の一大キャンぺーンを行う方針であると報じた。そのポイントは日本人による米国企業の買収であり、いかに日本がアメリカを買いあさっているかという点にあった。石原氏の発言から日本人の見方というものをより深く理解した上で、ADLやその手先のマスコミ、そしてその仲間の広告媒体は、次の作戦を開始したのである。



 

第二章





(私論.私見)