男女性の相似と差異考

 更新日/2023(平成31.5.1栄和改元/栄和5)年.8.1日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「男女性の相似と差異考」をものしておく。

 2023年.8.1日 れんだいこ拝


 2019.10.30日、山科正平「「男と女」 生殖器のビックリ仰天の造られ方 発生学では、男女、どちらが進化形?」。
 「男」と「女」の違いをしめす構造体は数多あるが、決定的な差異は男女の生殖器の構造に見ることができる。いまさらながらの疑問であるが、似ても似つかない男女の生殖器はどのようなメカニズムで生みだされるのか。最新の発生生物学の知見で、生殖器の分化のしくみを探っていくと、そこには造化の神の意思さえ感じさせる、なかなか巧妙なしくみがあった。なんと、人を創造した造化の神は、「最初に男女ともいずれの生殖器になる器官を用意してから、片方をぶっ潰す」というかなり荒っぽい方法を採用していたのである。
 なんといっても形が違う! ほかに特徴は?
 生殖器官は、大きな特徴を持っている。男女間の性差が極めて顕著だということである。一見しただけでも、男性のものか、女性のものかが明瞭である。それぞれ、まったく異なる器官を持っているかのごとくにも見えてくる。男性では尿の通路である尿道の一部を精子の通路として利用している事実もある。尿道もまた、男性が16〜18cmほどの長さなのに対して、女性は3〜4cmにも満たず、ここでも大きな性差を見ることができる。もう1点、それは、太いか細いかは別にして、泌尿・生殖器の器官はすべて、管そのもの、あるいは管の集合体だという点である。管も単純な管ばかりではなく、部分的にふくらむと袋のようになって、その両端が管につながる。そのようなわけで、泌尿生殖器に属する多くの器官は、細い管をいやというほどたくさん集めてできているということができる。たとえば、男性なら精巣、女性なら卵巣・子宮が主要な生殖器官で、精巣で生まれた精子、卵巣で生まれた卵子を運びだす"管"(導管)が精巣であり、卵管である。子宮は管がふくらんだ袋状のものだ。

 こうした、管はどのようにして、できてくるのだろうか? はじめから男性は男性の、女性は女性の、袋と管が独立してできるのだろうか? その生い立ちを追ってみたい。
 生殖器のもとになる細胞が動きだす
 精子や卵子のおおもとになるのは、「原始生殖細胞」である。原始生殖細胞は、卵黄嚢(将来、胃腸管などに変わる)という袋の壁に出現してくる。受精後4週目ごろになると、原始生殖細胞は原始腸管をからだにつなぎ止めている腸間膜という膜の間を通って、からだの背中側(後体壁)へ向けて大挙して移動し、生殖堤という集塊をつくるようになる。もしこの時期の胚子を解剖していけば、顕微鏡的ではあるが、生殖堤を高まりとして認めることができる。これが将来、精巣や卵巣のいずれか一方の組織になっていく。
 なんと、はじめは男女、両方の器官を用意する!
 受精後5週目ごろになると、未分化性腺と隣り合うように泌尿器官(腎臓)の前段階にあたる中腎もできてくる。そのため、中腎から尿を運びだす中腎管(ウオルフ管)、それと未分化性腺の導管であるミュラー管(中腎傍管)もできてきて、その末端は将来の膀胱の下端部になる尿生殖洞につながっている。この時、ミュラー管は右と左のものが正中部で合一して、尿生殖洞に開口するようになる。このようして、まず生殖器ならびに泌尿器の2系統の装置とそれらの導管が確保されるというわけだ。往々にして、生殖器は、泌尿器とともに「泌尿・生殖器系」とひとまとめにされることも多いが、こうした器官の出自を見ても、お互いに交錯する部分が多いため、その妥当性にも多いにうなづける。

 そして、見逃せないのは、この段階の胚子では、〈精巣ー精管〉の男性、〈卵巣ー卵管〉の女性、両様の性に備えて、どちらの性にも転がり込んでいける素地を装備している点である。
 不要なほうを削除! どう決まるのか?
 両方の性の素地を備えた状態を略図にすると、下のようになる。略図は、受精後6週目ごろをモデルにしているが、このころまでは男女両性の素地を備えている。では、どのようにして分化していくのか、まずは女性の場合から見てみよう。

 原始生殖細胞は卵細胞の祖先型である卵祖細胞に向けて発達し、それに呼応して生殖堤の組織(未分化性腺)は卵巣に向けて発展するようになる。この時その導管であるミュラー管は、まわりに平滑筋などを巻き付けて、卵管、子宮へと発展する。ミュラー管の発達には、女性ホルモンであるエストロゲンの作用を受けて行われる。一方、腎臓は後腎という組織から新たに生まれてくるので、中腎は中腎管ともども退化的な組織で、特別な手立てを求めることなく消滅していくので、胚子がそのまま素直に発達していくだけで、女性の生殖器官が生まれてくる。コンピューターの用語に、「なんの設定変更も実行せずにそのまま」を意味するデフォルト(default)というものがあるが、女性の生殖器官の発生にはこの言葉が当てはまる。
 男性になる場合は、ちょっとやっかい
 ところが、その個体がY染色体を持っていて、遺伝的に男性であるならば、話は少しややこしくなる。Y染色体の上にはSRYという男性を作る遺伝子が乗っていて、そのSRY遺伝子の作用を受けたSox9遺伝子によって、生殖堤の中にある原始生殖細胞は精子を生みだす細胞の祖先型である精祖細胞へと分化し、それにあわせて、未分化性腺は精巣に向けて発達していくのである。その途上で、精巣の中にホルモンやホルモン様物質を産生する2種の細胞が生まれてくる。1つは男性ホルモンであるテストステロンをだす間細胞で、もう一方はミュラー管抑制因子をだすセルトリ細胞である。ミュラー管抑制因子は、その名のとおりミュラー管の発達を阻害するので、女性の器官である卵管や子宮のもととなるミュラー管は消滅していく。

 一方、強力な男性ホルモンとして知られるテストステロンの作用によって、退化傾向にあった中腎管は勢いを盛り返しすばかりか、滅びる運命にある中腎には見切りをつけて、そばにある精巣に近づき、精巣の導管(精管や精巣上体管)へとなっていく。この後、後体壁の前にできた精巣は、鼠径部にある陰嚢に向けて降下していくという、次のステージに移る。間細胞は、成体になっても精巣中でテストステロンを分泌し、思春期の第二次性徴のころには男性らしいからだつきをつくるという大きな役割を果たす。また、ミュラー管抑制因子をだすセルトリ細胞は、精巣の精細管の壁にあって、この壁を保持するとともに、精子の形成場所を提供する。
 で、男性は進化形なの?
 このように男性に進む個体は、手を加えなければ女性の器官になるものを、強制的にワンランク上に進める手立てを使って男性の器官を生みだしてきたとみることができる。だから、この点だけを見ていれば、男性の方が女性よりも一段発展しているようにも見える。しかし、女性では、Wnt4という卵巣を決定する働きを持つ遺伝子が作動して、その効果により未分化性腺から卵巣に向けた分化が進行する一方、Wnt4の調節を受けて作用するDAX1遺伝子にはSox9遺伝子を阻害する効果があるとされている。つまり、女性も「男性にはならずに女性になるのだ」という強い意志のもとに発生が進行しているため、単純に女性がデフォルトで、男性が女性の発展型とはいえないようだ。

 このように、器官が生まれるまでには、驚くべきストーリーが隠されています。わたしたちが生きていけるのも、こうした物語をいくつも経てできたからだのお陰です。

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(私論.私見)

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