「解体的出直し」のはずが |
ジャニーズ事務所の記者会見に「指名NGリスト」が存在したことを10月4日夜、NHK「ニュース7」がトップニュースで報じた。このリストを作成したのは「FTI」という、聞き慣れぬ名称の外資系コンサルティング会社だった。このリストを作った同社の正体とは? 【相関図をみる】そもそも“解体”されるジャニーズってどういう組織だったの? 影響力の大きさが分かる、驚異的な“紅白出場回数”一覧も *****
10月2日に開かれたジャニーズ事務所による記者会見。開始前のNHKカメラが偶然捉えたのは、演壇の前を横切る運営スタッフが小脇に抱えた「氏名NGリスト」なる一枚紙だ。
「氏名」が「指名」の誤記であることはご愛嬌として、今回の会見では、質疑応答中ずっと手を上げているが指名されない一部の記者が声を荒げ、会場は大荒れになった。その裏で「指名NGリスト」が用意されていたとなると、確かに穏やかではない。
「ジャニーズ事務所としては、『SMILE-UP.』への社名変更と補償終了後の廃業、タレントは今後、新会社でエージェント契約を結ぶといった『解体的出直し』を宣言して、世間の理解を得る算段でした、しかし、『NGリスト』の存在をNHKに暴露されたことで、会見自体の信用性を失う予想外の事態に陥っています」(芸能記者)。 |
新宿にある外資系企業 |
この「NGリスト」に掲載されているのは、以下の6名だった。
尾形聡彦氏(Arc Times創業者兼CEO編集長)
望月衣塑子氏(東京新聞記者・Arc Timesキャスター)
本間龍氏(ノンフィクション作家、YouTube番組「一月万冊」)
佐藤章氏(元朝日新聞記者、YouTube番組「一月万冊」)
松谷創一郎氏(ジャーナリスト) 鈴木エイト氏(ジャーナリスト)
いずれも「うるさ型」というかスムーズに会見を進めたい側にとっては煙たいであろう「猛者」ばかり。 このリストを作成したのが、会見の運営を任された「FTIコンサルティング」。新宿にある外資系企業ということだが、「FTI」という名前を聞いたことがある人は多くあるまい。いったいどういう企業なのか。
FTIの元ディレクターで、現在コンプライアンスや情報戦略の専門家として知られる北島純教授(社会構想大学院大学)に聞いてみた。 |
FTIはどういう企業なのか。 |
「一部の報道ではPR会社と伝えられていますが、実際には金融や経営戦略からITや広報そして不正調査に至るまで、多くの部門を抱える『総合商社』のような巨大コンサルティング企業です。従業員は7800人、拠点は世界84ヵ所、2022年の売上額は30億ドル(約4504億円)で、ニューヨーク証券取引所に上場しています。社員にノーベル経済学賞受賞者がいるというのが定番の自慢ですね」。
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――FTIという名称の意味は。 |
「FTIの名称はもともとForensic Technologies Internationalの略です。フォレンジックというのは『法廷の』という意味で、『裁判の証拠となる鑑識』を指していましたが、今では広く、『不正の証拠調査』、『デジタル証拠の解析』といった意味も含めて使われています。そうした分野から出発した会社が世界中でM&Aを繰り返して、現在の巨大企業に成長した感じです」 。 |
FTIがなぜ記者会見を運営したのか |
――具体的にはどういう仕事をするのか。
「例えば、私がいたのはグローバルリスク&インベスティゲーション部門というところですが、企業から依頼を受けて贈収賄やカルテルといった不正行為について調査します。アジア太平洋部門(APAC)のヘッドは香港にあったのですが、元ロイヤル香港ポリスとか、警察官や軍人、外交官やジャーナリスト出身者を主としたインテリジェンスのプロ連中が集まっていました。当時の日本法人は警察トップの子息が率いており、たいへん優秀でした。 2020年にアマゾン創業者ジェフ・ベゾスのスマホが、サウジ皇太子のワッツアップ個人アカウントからハッキングされた事件がありましたが、そのフォレンジック調査を手掛けたのもFTIです」 ――そのFTIがなぜ記者会見を運営したのか。 「FTIの中には戦略的コミュニケーションという広報部門がありますが、昔は日本法人にその部隊はいなかったと記憶しています。詳しくは知りませんが、今回ジャニーズ事務所から依頼を受けた日本法人が新たに、記者会見と危機管理を仕切るようになったのかもしれません」。 |
最もやってはいけないこと |
――で、大失敗したと。
「大失敗かは分かりませんが、機密性の高い書類が表沙汰になって、クライアントの評判を更に下げるのは広報対応として最もやってはいけないことであることは間違いないと思います。藤島ジュリー景子前社長の手紙読み上げも、パニック障害(過呼吸)のご病気があることはお気の毒ですが、企業の代表取締役社長だった者の対応として、例えばビデオ中継とかビデオ録画の上映といった手段を取れなかったのか、事前の質問を受け付けた上で回答するとか、色々と工夫が出来たはずです。広報対応としては正直、心もとないという印象を受けました」。
――ジャニーズ事務所は今後どうすればよいのか。
「これだけ批判が広がっている以上、改めて記者会見を開くことは必須だと思います。10月17日に社名を変更するということですから、そのタイミングで会見を開き、改めて被害者救済の具体的なプランを説明したり、藤島ジュリー景子氏が代表権を返上した後、株式の帰属や新会社の役員構成がどうなるかといった疑問に答えたりする機会を作るべきでしょう」
ジャニーズ事務所にとっては当面、記者会見が鬼門となりそうだ。FTIは今回の件について、「限られた会場使用時間の中で会見の円滑な運営準備のために弊社が作成し、運営スタッフ間で共有したもの」と説明している。心機一転、次の会見をFTIコンサルティングは仕切れるのだろうか――。注目だ。
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