01 |
大學之書、古之大學、所以教人之法也。 |
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大学の書は、古(いにしえ)の大学、人を教うる所以(ゆえん)の法なり。 |
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「古」は、夏・殷・周の三代を指す。 |
02 |
蓋自天降生民、則既莫不與之以仁義禮智之性矣。 |
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蓋(けだ)し天の生民(せいみん)を降(くだ)してより、則(すなわ)ち既に之に与うるに仁、義、礼、智、の性を以(もっ)てせざる莫(な)し。 |
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然其氣質之稟、或不能齊。 |
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然(しか)れども其(そ)の気質の稟(ひん)、或(ある)いは斉(ひと)しき能(あた)わず。 |
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是以不能皆有以知其性之所有、而全之也。 |
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是(ここ)を以(もっ)て皆な以てその性の有する所を知りて、之を全(まった)くすること有る能(あた)わざるなり。 |
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一有聰明睿智、能盡其性者、出於其閒、則天必命之、以爲億兆之君師、使之治而教之、以復其性。 |
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一(ひとたび)聡明睿智(えいち)にして、能(よ)くその性を尽す者の、その間に出(い)づるあれば、則ち天は必ず之に命じて、以て億兆の君師と為し、之をして治めて之を教え、以てその性に復(かえ)らしむ。 |
03 |
此伏羲・神農・黄帝・堯・舜所以繼天立極、而司徒之職、典樂之官所由設也。 |
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此(こ)れ伏羲・神農・黄帝・堯(ぎょう)・舜(しゅん)の天を継ぎて極を立つる所以にして、司徒の職、典楽(てんがく)の官の由(よ)りて設(う)くる所なり。 |
04 |
三代之隆、其法寖備。 |
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三代の隆(さか)んなるや、その法寖(ようや)く備わる。 |
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然後王宮、國都、以及閭巷、莫不有學。 |
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然(しか)る後(のち)王宮・国都(こくと)より以て閭巷(りょこう)に及ぶまで、学あらざるは莫(な)し。 |
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人生八歳、則自王公以下、至於庶人之子弟、皆入小學。 |
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人(ひと)生まれて八歳なれば、則ち王公より以下、庶人(しょじん)の子弟に至るまで、皆な小学に入る。 |
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而教之以灑掃・應對・進退之節、禮・樂・射・御・書・數之文。 |
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而(しか)して之に教うるに灑掃(さいそう)・応対・進退の節(せつ)、礼・楽・射・御・書・数の文を以てす。 |
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礼・楽・射・御・書・数を六つの技芸を六芸(りくげい)と言う。 |
05 |
及其十有五年、則自天子之元子・衆子、以至公・卿・大夫・元士之適子、與凡民之俊秀、皆入大學。 |
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その十有五年に及べば、則ち天子の元子(げんし)・衆子(しゅうし)より、以て公・卿(けい)・大夫(たいふ)・元士(げんし)の適子と凡民の俊秀とに至るまで、皆な大学に入(い)る。 |
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而教之以窮理正心、脩己治人之道。 |
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而(しか)して之に教うるに理を窮(きわ)めて心を正し、己を修め人を治むるの道を以てす。 |
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此又學校之教、大小之節所以分也。 |
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此(こ)れ又学校の教え、大小の節の分(わ)かるる所以なり。 |
06 |
夫以學校之設、其廣如此、教之之術、其次第・節目之詳又如此、而其所以爲教、則又皆本之人君躬行心得之餘、不待求之民生日用彝倫之外。 |
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夫(そ)れ学校の設(もう)け、その広きこと此(かく)の如く、之を教うるの術、その次第(しだい)・節目(せつもく)の詳(つまびら)かなること又かくの如きを以てして、而してその教えを為す所以は、則ち又皆な之を人君の躬行(きゅうこう)して心得(しんとく)せるの余に本(もと)づけて、之を民生日用の彝倫(いりん)の外に求むるを待たず。 |
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是以當世之人、無不學、其學焉者、無不有以知其性分之所固有、職分之所當爲、而各俛焉以盡其力。 |
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是(ここ)を以て当世の人、学ばざるはなく、その学ぶ者は、以てその性分の固有するところ、職分の当(まさ)に為すべきところを知りて、各〻(おのおの)俛焉(べんえん)として以てその力を尽すことあらざるはなし。 |
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此古昔盛時、所以治隆於上、俗美於下、而非後世之所能及也。 |
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これ古昔(こせき)の盛時(せいじ)の、治は上に隆んに、俗は下に美にして、後世の能く及ぶところに非ざる所以なり。 |
07 |
及周之衰、賢聖之君不作、學校之政不脩、教化陵夷、風俗頽敗。 |
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周の衰(おとろ)うるに及んで、賢聖の君作(おこ)らず、学校の政修(おさ)まらず、教化陵夷(りょうい)し風俗頽敗(たいはい)す。 |
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時則有若孔子之聖、而不得君師之位、以行其政教。 |
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時に則ち孔子の聖の若(ごと)きあれども、君師の位を得て、以てその政教を行わず。 |
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於是獨取先王之法、誦而傳之、以詔後世。 |
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是(ここ)に於いて独り先王の法を取り、誦(しょう)して之を伝え、以て後世に詔(つ)ぐ。 |
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若曲禮、少儀、内則、弟子職諸篇、固小學之支流餘裔。 |
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曲礼(きょくらい)・少儀・内則(だいそく)・弟子職の諸篇の若(ごと)きは、固(もと)より小学の支流余裔(よえい)なり。 |
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而此篇者、則因小學之成功、以著大學之明法、外有以極其規模之大、而内有以盡其節目之詳者也。 |
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而してこの篇は、則ち小学の成功に因(よ)り、以て大学の明法を著(あらわ)し、外は以てその規模の大を極むるあり、内は以てその節目(せつもく)の詳(しょう)を尽すある者なり。 |
08 |
三千之徒、蓋莫不聞其説。 |
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三千の徒、けだしその説を聞かざるは莫(な)し。 |
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而曾氏之傳、獨得其宗。 |
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而して曾氏(そうし)の伝、独りその宗を得たり。 |
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於是作爲傳義、以發其意。 |
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ここに於いて伝義を作為し、以てその意を発す。 |
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及孟子沒、而其傳泯焉。 |
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孟子没するに及んで、その伝泯(ほろ)ぶ。 |
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孟子は前372~前289。戦国時代の思想家。魯の鄒(今の山東省鄒城市)の人。名は軻(か)、字は子輿。孔子の孫である子思(前483?~前402?)の門人の下で学んだ。亜聖(あせい、聖人につぐ賢人)と称される。 |
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則其書雖存、而知者鮮矣。 |
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則ちその書は存すと雖(いえど)も、知る者は鮮(すく)なし。 |
09 |
自是以來、俗儒記誦詞章之習、其功倍於小學而無用、異端虚無寂滅之教、其高過於大學而無實。 |
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これより以来、俗儒の記誦(きしょう)詞章(ししょう)の習いは、その功(こう)小学に倍すれども用なく、異端の虚無寂滅の教えは、その高きこと大学に過ぐるも実なし。 |
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其他權謀術數、一切以就功名之説、與夫百家衆技之流、所以惑世誣民、充塞仁義者、又紛然雜出乎其閒、使其君子不幸而不得聞大道之要、其小人不幸而不得蒙至治之澤。 |
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その他権謀術数、一切以て功名を就(な)すの説と、夫(か)の百家衆技(しゅうぎ)の流れ、世を惑わし民を誣(し)いて、仁義を充塞(じゅうそく)する所以の者と、又紛然としてその間に雑出(ざっしゅつ)し、その君子をして不幸にして大道の要を聞くことを得ず、その小人をして不幸にして至治(しち)の沢(たく)を蒙(こうむ)ることを得ざらしむ。 |
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晦盲否塞、反覆沈痼、以及五季之衰、而壞亂極矣。 |
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晦盲(かいもう)否塞(ひそく)、反覆沈痼(ちんこ)、以て五季の衰に及んで壊乱極(きわ)まる。 |
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晦盲 |
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世の中が乱れて暗いこと。 |
否塞 |
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閉じふさがること。物事が滞って進まないこと。 |
反覆 |
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上下がひっくり返ること。 |
沈痼 |
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救いようのない不治の病。悪い風潮が長く続いていることを指す。 |
五季とは五代(梁・唐・晋・漢・周)の乱れた世を指す。「季」は末世のこと。
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10 |
天運循環、無往不復。 |
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天運の循環、往(ゆ)いて復(かえ)らざるなし。 |
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宋德隆盛、治教休明。 |
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宋の徳は隆盛にして、治教は休明(きゅうめい)なり。 |
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休明 とは美しく明らかなさま。立派で麗しいさま。「休」は、美・善・麗の意。 |
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於是河南程氏兩夫子出、而有以接乎孟氏之傳、實始尊信此篇、而表章之。 |
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ここに於いて河南の程氏両夫子出で、以て孟氏の伝に接するあり、実に始めてこの篇を尊信(そんしん)して、之を表章(ひょうしょう)す。 |
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旣又爲之次其簡編、發其歸趣。 |
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旣(すで)にして又之が為にその簡編を次(じ)し、その帰趣(きしゅ)を発す。 |
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然後古者大學教人之法、聖經賢傳之指、粲然復明於世。 |
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しかる後に古の大学の人を教うるの法、聖経(せいけい)賢伝(けんでん)の指(し)、粲然(さんぜん)として復(ま)た世に明らかなり。 |
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雖以熹之不敏、亦幸私淑、而與有聞焉。 |
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熹(き)の不敏を以てすと雖も、また幸いに私淑して聞くあるに与(あずか)る。 |
11 |
顧其爲書、猶頗放失。 |
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顧(おも)うにその書たる、猶(な)お頗(やや)放失(ほうしつ)すと。 |
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是以忘其固陋、采而輯之、閒亦竊附己意、補其闕略、以俟後之君子。 |
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ここを以てその固陋を忘れ、采(と)って之を輯(あつ)め、間〻(まま)また窃(ひそ)かに己が意を附し、その闕略(けつりゃく)を補い、以て後の君子を俟(ま)つ。 |
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極知僭踰無所逃罪。 |
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極めて僭踰(ゆ)にして罪を逃(のが)るる所なきを知る。 |
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然於國家化民成俗之意、學者脩己治人之方、則未必無小補云。 |
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然れども国家の民を化して俗を成すの意と、学者の己を修めて人を治むるの方とに於いては、則ち未だ必ずしも小補なくんばあらずと云う。 |
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淳煕己酉二月甲子、新安朱熹序。 |
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煕(じゅんき)己酉(きゆう)の二月の甲子、新安の朱熹序す。 |
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淳煕己酉二月甲子 … 南宋孝宗の淳煕十六年(1189)二月四日。ちなみに朱子は年六十。 |
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大学の道は、明徳を明らかにするにあり。民に親しむにあり。至善に止まるにあり。止まるを知りて午(のち)定まるにあり。定まりて午能く静かなり。静かにして午能く安し。安くして午能く慮(おもんばか)る。慮りて午能く得(う)。 |