神歌 |
「都の空を後にして、○○国○○市を指して急ぐらん」。 |
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一畳の舞 |
八船 |
「さって、このところに舞い出す神をいかなる神とや思うらん。我こそは家造り八船命(やふねのみこと)なり」。 |
手置 |
「さって、これに控えたるいい男の、の―の―さんをいかなる者とや思うらん。我こそは手置方負(ておきほおい)の、の―の―さんなり」。 |
彦左 |
「まった、これに控えしの、の―の―さんは、八船命の一の子分、ひ、ひ、ひ、彦左知命(ひこさちのみこと)なり」。 |
八船 |
「我々三人の者、このところに舞い出すこと、余の儀にあらず。今度○○の○○様方において新築落成あいなり、我々に、こけら払いをなせよとの命(めい)なり。よってこれより○○様宅指して急がばやと存じ候」。
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二畳の舞 |
八船 |
「急ぐにほどなく○○様宅に着いたと心得たり。アイヤ、両名の者、当家には新築落成あいなり、我々にこけら払いをばせよとの命(めい)なるが、両名の者、こけら払いをやってはくれぬかの。なにぶん当家は金もあり、人望もあり、立派な普請であるによって、隅から隅までくまなく綺麗にいたしくれよ。最前にも申したごとく、金はいくらでもあるから、そのほうたちの望み通り出してやるによって、綺麗になし申せよ。それで、いくらぐらいで出来るか見積もりを立ててみてくれぬかの」。
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手置 |
「ハイハイ、それではゆっくり見させてもらって見積もりを立てますれば、しばらくお待ちくださりませ」。 |
八船 |
「早く見積もりを立ててみよ」。 |
手置 |
「オ―イ、相棒、御大将がな、この家のこけら払いをせよと言われるがどうだろうか。金はいくらでも出してやるから、いくらぐらいするか見積もりを立てて見よ、とおっしゃるが、なんと見積もりを立ててみようではないか」。 |
彦左 |
「オオ、こけら払いをせ―と言われるんか。そりゃあ、ありがたい。このごろ、いい仕事がなくて困っていたところだ。まあ久しぶりにしっかりもうけて、一杯飲み代稼ぎをするかな。しかし、相棒、このごろはあらゆる物価が値上がりだで、安うちゃあ請け合えんぞ」。
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手置 |
「そうだな。しっかりもうかるような見積もりを立ててみよう。オイオイ、大きな家だで、だいぶんコケラやカンナクズがたくさんあるぞ」。 |
彦左 |
「オイオイ、この大工は荒つかな大工だふうで、えらいほどコッパやカンナクズが出とるわい。とってもトラックへ二杯や三杯では取り切れんぞ。このごろ燃料も高いし、日当も高いけぇ―。安うては出来んぞ。どうだ、五万円ぐらいひっかけてみるか」。
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手置 |
「そいつぁ―よかろう。ほんなら、お前、行って交渉してみぃ―」。 |
彦左 |
「これはこれは、御命(おんみこと)様、相棒とよく話し合い、見積もりを立ててみましたが、なかなか大きな家でもあるし、大工も荒つかにして、コケラもカンナクズもたくさんあるんで、なかなか安いことでは出来んと言います。どうでしょうか、五万円ぐらいでいかでしょう」。
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八船 |
「これはしたり。五万円ぐらいで出来ると申すか。それは結構であるぞ。五万円出してつかわすほどに、隅から隅まで綺麗になし申せよ」。 |
彦左 |
「それでは五万円出してつかあさるかな。でもな、御命様、相棒はなかなかねじくれもんだて、後でとやかく言うてはいけませんので、もう一ぺん得心させますから、すこし待ってください」。
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八船 |
「早く相談なし申せよ」。 |
彦左 |
「オイ、やったやった、五万円ふっかけたら、すぐ出す言うた。ありゃあ、まだなんぼうでも出すらしいようだったぞ」。 |
手置 |
「オ―イ、やったのう。まだなんぼうでも出すようにあったかや。ほんなら、わしが行って、ず―っとすり上げて来るけえなあ」。 |
彦左 |
「オオ、行ってみい。なんぼうでも出すらしいぞ」。 |
手置 |
「コレハコレハ、御大将様。最前来ました相棒は、算用(さんにょう)もなにも出来んやつで、なんぼうなら出来るんやら、なんぼうなら損をするんやら、ちっとも分からんやつです。とてもじゃあないが、五万円や六万円じゃあ出来る仕事ではござんせん。ず―っと勉強しても一万円より下では出来ませんので、ひとつ一万円にしてください」。
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八船 |
「これはしたり。五万円では出来ぬによって一万円にせよと申するか。それは大変結構であるぞ。それでは一万円出してつかわすほどに、きれいになし申せよ」。
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手置 |
「これはこれは一万円に上げてくださるかな。ありがとうござんす。でも相棒は、さんにょうは分からんでも理屈ほどは言いますので、いっぺん得心さしちゃらにゃあいけません。ちょっと相談するまで待ってください」。
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八船 |
「早く相談なし申せ」。 |
手置 |
「オ―イ、やったやった。とうとう一万円にすり上げたぞ」。 |
彦左 |
「なに、一万円にすり上げた? えらいことをしたなあ。で、まだ出すようだったか?」。 |
手置 |
「オオ、まだなんぼうでも出すらしい。いかほどでも出してやるほどに、きれいになし申せ、とかなんとか言うとったから、なんぼうでも出すぞ」。 |
彦左 |
「そうか、それではわしがもういっぺん行ってず―っとすり上げて来るだ。コレハコレハ、御命様、先には、ぬけさくの相棒をこさせまして、ありゃあ、まぬけで、あれの言うことは信用出来ません。もう少しすり上げてもらわねば、とってもやれません」。
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八船 |
「それでは、いくらぐらいで出来ると申するか」。 |
彦左 |
「ハイ、とっても一万円どもでは出来そうもございません。これが最後だと思うて、ずっとすり上げたところで、千円ではどうでしょうか」。 |
八船 |
「これはしたり、一万円では出来ぬによって千円にしてくれと申すか。それは結構であるぞ。しからば千円に上げてつかわすほどに、隅から隅まで早くなし申せよ」。
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彦左 |
「オイ、相棒、びっくりすんなよ。とうとう千円にすり上げた」。 |
手置 |
「オ―イ、千円出すいうたか。えらいことをしたなあ。上出来だ。それではな、最後の本契約をして来るからな。ちょっと待ちょうてくれえ。コレハコレハ、御大将様、最前は千円まで上げてつかあさって、まことにありがとうございました。いつまでもご無理ばかり言うては申し訳ありませんので、ここらで手を打とうと思います。千円では安すぎますんで、ただでやってあげましょう。そうして出来上がった暁には酒を二升持ってまいりますので、それでやらしてもらえんでしょうか」。
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八船 |
「これはしたり、千円ではまだ安すぎるので、ただでして、竣工の暁には、酒二升買うて来ると申するか。それは結構であるぞ。しからば念には念を入れ、隅から隅まで、きれいになし申せよ」。
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手置 |
「ハイ、ありがとうございました。それでは御大将様には奥に控えて、しばらくご休息くださいませ。オ―イ、とうとうやったぞ。千円ではまだ安いので、ただでやることにした。そうして最後に出来上がった時には、酒二升持って行くことにしたぞ」。
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彦左 |
「そりゃあ、いいことをした。ただまですり上げたか。そりゃあ、大もうけだ。まだその上に酒二升買うて行くようにし たとは上出来だのう。それでは元気を出してやらにゃあいけんわい。早う片づけて、しっかりもうけてやろう」。
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二人が箒と熊手で掃除。 |
手置 |
「オ―イ、出来たぞ。大したゴミだなあ。オイ、これをどこへ捨てりゃあ」。 |
彦左 |
「そうだな、どこぞ前のほうで焼き捨てるか」。 |
手置 |
「そりゃあいけん、いけん。これに火を付けりゃあ、えらい煙が出る。そうすりゃあ、消防署がすぐ飛んで来てしかられる。焼くことはいけんいけん」。
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彦左 |
「ほんなら、前の川へ捨てるか」。 |
手置 |
「それもいけんいけん。前の川へ捨てりゃあ、このごろ市長さんが川をきれいにせえ、きれいにせえ、と言うとるけえ、このへんの婦人会の人がすぐ怒って来るけえ、川へは捨てられん」。
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彦左 |
「ほんなら、どうすりゃあ。焼いてもいけん、川へ捨ててもいけん。困ったなあ。オイ、いいことがある。太鼓の川(皮)へ捨てよう」。 |
手置 |
「そいつぁあ、いいところに気がついた。ほんなら、この川に捨てよう」。 |
彦左 |
「だが、なにに入れて捨てりゃあ」。 |
手置 |
「そうだなあ。どこかに、サゲモッコウがあるかなあ」。 |
彦左 |
「そうだ。○○のおっさんは、古い物を持っとるけえ、あるかも知れん。ちょっと借りてこうか」。 |
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二人のモッコウかつぎの所作。太鼓の 川へ捨てる。 |
手置 |
「このところに御大将はおわしまさんかな。おわしますなら、はやばや、おん立ち給えやな」。 |
八船 |
「これはこれは、両名には大変ご苦労であった。しからば、これにて退場つかまつろう。」 |
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三畳の舞 |
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祝詞 |
八船 |
「かけまくも畏(かし)こき三柱の大神、八船の大神、手置方負の大神、彦左知の大神、当所に鎮まります産土(うぶすな)の大神たちの御前に畏こみ畏こみ曰(もう)さく、今日の生日(いくひ)の足日(たるひ)に当所産土の大神、十二玉の氏子○○氏、新しく建て築きたる家宅の木片(こけら)払いの御祭り仕え奉り、幣帛(へいはく)捧げ持ちて御饌(ごせん)、御神酒、種々品置き、高なし、天の岩戸神楽奉納し、こい曰さく、この屋宅内外諸々の罪咎(つみとが)
あらむをば、朝風夕風の吹き払うことのごとく、大海原に吹き払い給いて、礎ゆらぐことなく崩るることなく、下津磐根(いたついわね)堅く、火の災い、雨風の災いなく、棟門(むねかど)高く栄えしめ給い、親族(うから)家族(やから)、諸々心あい睦み和み、子孫の八十(やそ)続きに至るまで家門(いえかど)
高く立ち栄えしめ給えと、畏こみ畏こみ曰す」。 |