国策逮捕考 |
(最新見直し2011.8.31日)
(れんだいこのショートメッセージ) |
れんだいこはまだ佐藤優・氏の「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、2005.3.26日初版)を読んでいない。そのうち読もうと思うが、とりあえずネット情報から取り出せたもので検証する。れんだいこが興味を覚えるのは、「国策捜査」の言葉である。何を隠そう、ロッキード事件こそ「国策捜査」の第一号ではなかったか。あれこれ思えば、「国策捜査」というよりも「当局奥の院指令捜査」と命名するほうがより的確だと思う。「国策捜査」とは、それをぼかした命名であろう。 佐藤氏がせっかく暴露した「国策捜査」を、例によってくだらなさ過ぎる論評によって値打ちが掻き消されようとしている。それは許さずとして、れんだいこが以下検証する。 2005.6.18日 れんだいこ拝 |
【佐藤孝行衆議院議員の告発考】 | |
1987.2.20日、佐藤孝行衆議院議員は、「検察おそるべし」と題して月刊誌「文芸春秋」誌上に寄稿している。これを確認する。
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Re:れんだいこのカンテラ時評その57 | れんだいこ | 2005/06/19 |
【「国策捜査」考
】 今日、ロッキード事件考サイトの中に「国策捜査考」(kakuei/rokiido_kokusakutaihoco.htm) を書き加えた。これは重要な指摘であるが、どうもそれを感知する力が足りないのだろう、早くも情報洪水の中で風化しつつある。もう一度、この貴重暴露を押し戻して俎上に乗せる。 佐藤氏は、自らの体験をもって検察の最近の政治主義化の異常を告発しているのではなかろうか。多少ソフトに書きぶりしているが、それは処世法上そうしているのであって、本来は怒り心頭に発した権力腐敗暴露なのではなかろうか。 それを忖度せず、ソフトにしている面を生真面目に受取り、この方面に意味有るかのごとくああでもないこうでもないと解釈していくのは如何なものだろうか。れんだいこには馬鹿げているように思える。 とはいえ、佐藤氏は、あまりにも穏和に書き過ぎているように思える。異例の長期拘留に対して怒りをぶつけず、自ら好んで体制側の懐に再び舞い戻ろうとしているように思える。自分に仕掛けられた仕打ちに対して、何とか善意に解釈しようとしているように見える。 れんだいこの臭いとして、日共内新日和見主義事件の被査問者の心理と似通っているような気がする。あの時も、査問された側は、査問した党中央の意図を勝手に善意に憶測し、怒りを向けるよりは理解しようと務めたことが体験報告されている。こういう処世法は日本人特有なのではなかろうか。 普通には、佐藤氏は、自分が生体験した「国策捜査」の背景を探り、それが小泉官邸の指令であるなら断乎として告発して闘うべきだろう。あまたの評論氏は何とかしてここへ向わせないような駄文を書き連ねているように見える。佐藤氏は、その第一号としてのロッキード事件にまで思いを及ぼし、田中角栄の悲哀を知るべきだろう。そして、その振幅が次第に乱脈になっていることを乱打して知らすべきだろう。 残念ながら、佐藤氏にはそういう姿勢が見えない。相変わらず田中真紀子批判を外務省高官と同じレベルで蒸し返していることでそれが分かる。真紀子と角栄とは違うとはいえ、このセンテンスでは同じだろう。本来なら憎き親米英ユ派の野上外務次官との意思疎通振りをも得々と披瀝している。 つまり、真に闘う相手が見えておらず、未だ自己が対自化できていない、そう思うのはれんだいこだけだろうか。それはともかく貴重な告発であることには相違ない。 2005.6.18日 れんだいこ拝 |
【佐藤外務官逮捕に纏わる背景考】 | |||||||||
ロッキード事件に於ける角栄逮捕が如何に「国策逮捕」であったか、思わぬところから明るみになってきた。衆議院議員・鈴木宗男の懐刀として知られてきた「外務省のラスプーチン」の異名を持つ元外務省国際情報局主任分析官・佐藤優・氏が、「鈴木宗男逮捕事件」に連座して逮捕され、一審で懲役2年6ヶ月、執行猶予4年の有罪判決を受け、その間「逮捕以来、一貫して容疑を否認」し続けた。 佐藤氏は、一年半有余に及ぶ異例の長期拘留を経て、執行猶予付きで出獄するまでの獄中エピソードを認めた「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、2005.3.26日初版)を出版し、その中で「国策逮捕」の実態を明らかにした。 本題に入る前に佐藤優・氏の概要履歴を見ておく。次の通り。
かくして、異能外交官がいずれにしてもケッタイナ容疑で逮捕されたことになる。「国策捜査」の被害者第一号田中角栄も外為法違反というケッタイナ容疑で逮捕されている。「佐藤外交官逮捕問題」の史的意義は、このケッタイナ容疑に基づく逮捕を明確に「国策捜査」と断定したことに有る。それも、取調べ検事自身の口からその言葉が漏らされたところにある。 そのことが「国家の罠」に克明に記されている。同書は、2002.5月の逮捕から、東京地検特捜部の検事による取調べ、512日間に及ぶ拘置生活、対ロシア外交の内幕、田中真紀子元外相と外務省の暗闘、外務省内の派閥などを明るみにしている。ノンフィクションとしては異例の7万部を超えるベストセラーとなっており、徐々に波紋が広がりつつある。 もっとも、れんだいこは、佐藤氏と政治的立場と観点が違う。特に次のくだりになると苛立ちさえ覚える。
佐藤が師事した鈴木が真紀子外相追い落としに活躍したのは衆知のところである。それ故にか、「真紀子外相の出現以降、外務省はおかしくなった」などと述べている。ならば、真紀子外相の出現以前は外務省は健全であったのかということになろう。そんな与太話を信ずるものは居ないだろうに。 次のような内幕話も暴露している。田中真紀子外相が佐藤氏の異動を求めていたとのことで、その時の野上外務事務次官と佐藤氏の会話を漏洩している。
この会話の重要性は、野上氏が外務事務次官という立場に有りながら公然と外相に楯突いていることにある。佐藤氏は何気なく漏らしているのだろうが、野上の過剰なまでの親シオニズム的立場を踏まえると、政治性を帯びてくる。 佐藤氏は、2002.5月、東京地検特捜部に背任容疑で逮捕されるや、突如「二元外交」の非難を浴び、政府提灯を得手とするマスコミから一斉に「ロシア外交を私物化した」として批判され始めた。それまで、佐藤氏は、日ロ外交のエキスパートして高い評価を得ていた外交官であったが、小泉政権になって、田中真紀子対鈴木宗男抗争を経て、田中外相罷免後、相打ちとして鈴木逮捕へと至り、最終的に佐藤氏も逮捕されていく。 佐藤氏は、「ロシア外交を私物化した」批判に対して、次のように抗弁している。
佐藤氏は、「「偽計業務妨害」批判に対しても、次のように抗弁している。
つまり、逮捕された後の佐藤氏に対する政府マスコミ一体となった批判はどれも根拠が無い冤罪であると抗弁していることになる。
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【「国策捜査」の遣り取り考】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
佐藤氏が明らかにした西村尚芳東京地検特捜部検事と佐藤氏の遣り取りは次の通りである。佐藤氏は、第5章、「『時代のけじめ』としての『国策捜査』」の冒頭でこう書いている。
佐藤氏と西村検事の国策捜査に関する主な会話を列記する。「国策捜査」という言葉は、西村検事が発した言葉(フレーズ)であると云う。次のような遣り取りの中で使われている。なお、この遣り取りはメモをとっておらず(恐らく許されなかったのだろう)、鈴木氏が必死で頭脳に記憶したものを懸命に再現したということである。 逮捕後すぐの取り調べでの西村検事と佐藤氏の会話は次の通りである。
ズバリ、検事の口から「これは『国策捜査』である」との言葉が為されている。ます、ここを踏まえておきたい。思うに、この遣り取りが成立した背景には、同じ官僚の同格同士という事情が作用しているのではなかろうか。佐藤氏は卑屈でなく、いわばサシで話しており、故に検事の本音が引き出されたということではなかろうか。
この下りも重要である。ロッキード事件で第一号の「国策捜査」が為されて以来、意訳概要「次第に基準が緩み始め、今ではハードルが下がり放しで、ますます恣意的になりつつある」と本音を晒している。こうなると、時の権力を握った者が政敵追放の為に乱用する怖れ無しとしない。このことを、「今の東京地検特捜部は、時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、断罪する」という風に述べている。つまり、検事自身が、「検察が政治検察に変貌している」ことを認めていることになる。 鈴木氏は、「私はこのフレーズが気に入った」と記している。れんだいこは、「国策捜査」という名付けも意味有ることとは思うが、より実体に即して命名するならば「当局奥の院指令捜査」の方がより的確だと思う。 鈴木宗男衆議院の逮捕、長期投獄を廻って、次の遣り取りが為されている。
つまり、鈴木宗男逮捕もれっきとした国策逮捕であったと公言していることになる。鈴木宗男氏は、一言で言えば、「政治権力をカネに替える腐敗政治家」として断罪された。佐藤氏は、その背景を学問的に縷々説明しているがつまらない。 ところで、検事曰く「国策捜査ではない」とのことである。次のような遣り取りが記されている。
この下りは重要で、ロッキード事件に於ける各被告逮捕の状況にそのまま当てはまる。意訳概要「誰でも叩けば埃が出てくる。それを引っかけて、犯罪に仕上げていく。被告が万一抵抗しても、長期裁判で吊るしあけるので、被告は観念して云うことを聞くようになる」と豪語していることになる。 西村検事は、官僚が「国策捜査で挙げられた事例」について次のように述べている。
佐藤氏は、「国策捜査」の仕掛けについて分かり易く解説し、西村検事の反応を引き出している。「要するに一旦、国策捜査のターゲットになり、検察に『蟻地獄』を掘られたら、そこに落ちた蟻は助からないのである。だからこのゲームは『あがり』は全て地獄の双六なのである。このような『体験的国策捜査感』を私は率直に西村検事にぶつけてみた」とある。
西村検事は、「国策捜査は執行猶予をつけるのが原則」として次のように述べている。
これも貴重な内実暴露である。れんだいこが言い換えれば次のようになる。意訳概要「『国策捜査』は、文字通り『上からの国策』で」理不尽な逮捕をしているのだからして好んでしている訳ではない。よって、被告の政治的威力を殺ぎさえすれば役目達成であり、執行猶予付きで釈放するのが倣い」だと云う。 しかし、時に例外がある。次のような遣り取りが交わされている。
これも貴重な情報開示である。田中派のプリンスであった中村喜四郎は、「過激派みたいにほんとうに黙秘」したと云う。それに対して、意訳概要「こっち(検察)だって『徹底的にやっちまえ』という気持ちになり、徹底的に痛めつけた」と云う。これを思えば、その尻馬に乗って「中村喜四郎の犯罪」をプロパガンダしたマスコミの責任は重いと云えよう。 佐藤氏は、次のような遣り取りも記している。2002.5.14日に東京地検に逮捕された佐藤は、東京地検の西村尚芳検事による取り調べがかなり進んだある日、こんなことを言われたという。
そして逮捕から3カ月後の8.26日日、捜査は突然終幕を迎える。次のような遣り取りをしている。
これも重大な内幕暴露である。れんだいこが解説すれば、意訳概要「官邸辺りからの指示で始まった『国策捜査』が、再び官邸辺りからの指示で突如捜査打ち切りになった」ということになる。或る評者は、「森喜朗前首相に累が及ぶのを恐れ、小泉本人かその周辺がブレーキも踏んだということなのだろう」と推理しているが詰まらない。これでは、森元首相が悪役になるではないか。なぜズバリ小泉首相の采配疑惑に向わないのだろう、向わせようとしないのだろう。 |
【「国家の罠」総評】 | |
佐藤氏著「国家の罠」は、現職の東京地検特捜部の検事をして「国策捜査」につい語らしめた経緯と内容を明らかにしている。これにより、「検察の厳正、公平、不偏不党の伝統は崩壊」し、ロッキード事件以降ますます迷走しつつある政治検察の実態が確認される。
佐藤氏は、「国策逮捕」に関与したと当然思える首相官邸の指揮について、わざわざらしく次のように記している。
つまり、どうあっても小泉首相を庇いたいらしい。れんだいこに云わせれば、そう書かないと何らかの不都合が有ってのことかも知れない。しかしながら、歴然としたことを隠すには頭も尻も出すぎてらぁ。もっとも、小泉を操る「当局奥の院」こそ真の黒幕では有ろうが。 2005.6.18日 れんだいこ拝 |
(私論.私見)