第080回国会 法務委員会 第7号 昭和五十二年四月二十一日(木曜日) 午前十時二分開会 ――――――――――――― 委員の異動 四月十二日 辞任 補欠選任 佐藤 信二君 塩見 俊二君 四月十三日 辞任 補欠選任 山本茂一郎君 石本 茂君 石破 二朗君 岩本 政一君 遠藤 要君 高橋雄之助君 藤川 一秋君 町村 金五君 望月 邦夫君 安井 謙君 斎藤栄三郎君 斎藤 十朗君 四月十四日 辞任 補欠選任 高橋雄之助君 木内 四郎君 安永 英雄君 田 英夫君 四月十六日 辞任 補欠選任 木内 四郎君 高橋雄之助君 田 英夫君 安永 英雄君 四月十九日 辞任 補欠選任 安永 英雄君 戸叶 武君 四月二十日 辞任 補欠選任 岩本 政一君 坂野 重信君 戸叶 武君 安永 英雄君 四月二十一日 辞任 補欠選任 石本 茂君 宮田 輝君 塩見 俊二君 河本嘉久蔵君 町村 金五君 藤川 一秋君 宮崎 正義君 矢原 秀男君 ――――――――――――― 出席者は左のとおり。 委員長 田代富士男君 理 事 大島 友治君 平井 卓志君 寺田 熊雄君 委 員 河本嘉久蔵君 斎藤 十朗君 坂野 重信君 高橋雄之助君 藤川 一秋君 宮田 輝君 佐々木静子君 安永 英雄君 矢原 秀男君 橋本 敦君 下村 泰君 衆議院議員 法務委員長 上村千一郎君 国務大臣 法 務 大 臣 福田 一君 政府委員 法務大臣官房長 藤島 昭君 法務大臣官房司 法法制調査部長 賀集 唱君 法務省刑事局長 伊藤 榮樹君 法務省矯正局長 石原 一彦君 最高裁判所長官代理者 最高裁判所事務 総局人事局長 勝見 嘉美君 事務局側 常任委員会専門 員 二見 次夫君 ――――――――――――― 本日の会議に付した案件 ○沖繩の弁護士資格者等に対する本邦の弁護士資 格等の付与に関する特別措置法の一部を改正す る法律案(衆議院提出) ○検察及び裁判の運営等に関する調査 (網走刑務所における身分帳閲覧問題に関する 件) ―――――――――――――
○委員長(田代富士男君) ただいまから法務委員会を開会いたします。 まず、委員の異動について御報告いたします。 本日、石本茂君及び塩見俊二君が委員を辞任され、その補欠として宮田輝君及び河本嘉久蔵君が選任されました。 ―――――――――――――
○委員長(田代富士男君) 沖繩の弁護士資格者等に対する本邦の弁護士資格等の付与に関する特別措置法の一部を改正する法律案を議題といたします。 まず、提出者衆議院法務委員長上村千一郎君から趣旨説明を聴取いたします。上村千一郎君。
○衆議院議員(上村千一郎君) 沖繩の弁護士資格者等に対する本邦の弁護士資格等の付与に関する特別措置法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。 この法律案は、沖繩弁護士に関する暫定措置の期間を延長しようとするものであります。復帰前の沖繩の弁護士資格者等のうち、復帰に際し本土の法曹資格を取得することができなかった者のため、暫定措置として、復帰の日から五年間に限り沖繩県において弁護士の事務を行うことができることとしたことは御承知のとおりであり、これが沖繩弁護士でありますが、沖繩県の復帰後における社会情勢等にかんがみ、この法律案において、右の特別措置法を改正し、暫定措置の期間をさらに五年間延長することといたしております。 なお、この沖繩弁護士は、あくまでも復帰に伴う暫定措置として特に期間を限定して認められたものであります関係上、この趣旨をあらわすため、沖繩弁護士は、今回の延長に係る期間内にそのすべての事務を完了するよう努めるものとし、その期間満了時において完了していない事務があると見込まれるときは、支障なく業務を打ち切ることができるようあらかじめ所要の措置を講じなければならないことといたしております。 以上が、この法律案の趣旨であります。 何とぞ慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいまするようお願い申し上げます。
○委員長(田代富士男君) 以上で趣旨説明聴取は終わりました。 これより質疑に入ります。 質疑のある方は順次御発言願います。
○寺田熊雄君 これは法務省の方にお尋ねいたしますけれども、現在この法律第七条の適用を受けるいわゆる沖繩弁護士ですね、これは何名おりますか。
○政府委員(賀集唱君) 私どもで正確に調査いたしましたが、現在二十名でございます。
○寺田熊雄君 それらの人々が沖繩弁護士の資格を取得しました経路といいますか、法令上の根拠といいますか、そういうものをちょっと伺いたいと思います。
○政府委員(賀集唱君) これらの人々は復帰の前日において、復帰前の沖繩の法令によって弁護士登録をしておれば沖繩弁護士になれたわけでございます。そこで復種別の沖繩の法令のことを申し上げますと、復通則の沖繩におきましては、昭和四十三年一月一日に弁護士法が施行されました。そして、弁護士の資格につきまして形の上では本土にやや似通った制度に切りかえたのでございますが、従前の琉球民裁判所制、これは昭和二十年代にできました戦後の初期の段階における米国民政府の布告でございますが、この布告により付与されました弁護士資格も、ただいまの四十三年の弁護士法の施行に伴う経過措置といたしまして同法による弁護士資格と見なされていたのでございます。これら復帰前の沖繩における弁護士資格でございますが、本土との間に格差のあったことは否定し得ないところでございます。特に布告で定められていました資格は軍政副長官などによりまして特別に任用された判検事を経験した人、それから法律学校卒業後二年以上弁護士事務員などの法律実務を経験した人、それから高等学校卒業程度でも受験可能とされています法曹資格のための試験の合格者など、本土と比較してきわめて緩やかなものでございました。ただいま申し上げました現在の沖繩弁護士二十名はいま三つほど類型ございましたけれども、そのうちの二番目の法律学校卒業後二年以上弁護士事務員等の法律実務の経験という要件に該当する民政府布告による資格者であるか、あるいはその二年の中途の段階で四十三年の弁護士法が施行されました関係上、その経過措置等によりまして所要の経験年数を経て四十三年の弁護士法による資格を取得したものでございます。
○寺田熊雄君 それらの人々の沖繩弁護士としての開業期間は大体どのくらいでしょうか。
○政府委員(賀集唱君) 沖繩弁護士というのは、いま御審議いただいております特別措置法によってできました制度でございますが、したがって、正確には沖繩弁護士というのは復帰後の制度で、それは本年五月で一律に五年になります。それらの人々の復帰前の期間について申し上げますと、最長で十三年四ヵ月、最も短いところで十七日でございます。十七日というのは、こういう制度があるものですから、急いで駆け込むようにして復帰直前に登録したから結局十七日になるわけでございます。平均いたしますと約一年と五ヵ月に相なっております。
○寺田熊雄君 弁護士法の第二条で、「弁護士は常に、深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければならない。」という規定があるわけですけれども、そこで私どもとしてはそれらの人々の法律的教養といいますか、弁護士としての能力それから徳性といいますか、それから一般の人々がどういうふうに評価しているか、これは現地でね。そういうことを一応伺っておきたいと思うのですが。
○政府委員(賀集唱君) そういうわけで復種別の沖繩の弁護士につきましては、復帰後本邦の弁護士といいますか、先ほど御朗読のありました弁護士法の適用される弁護士として十分な素質及び能力、これを有するかどうかという試験とか選考とかをいたしました。それは昭和四十五年と四十六年に二回にわたっていたしました。そしていま問題になっております沖繩弁護士は、その本邦の法曹資格を取得するための二回にわたる試験選考を受ける機会を与えられておったわけでございますが、これを受験しなかったかあるいは受験しても合格しなかったものでございます。したがいまして、その時点では合格者である正規の弁護士に比べて能力が劣っていたということは否定し得ないところではないかと思われます。問題は復帰後五年間において能力とか徳性とかあるいは一般の評価、これがずっと高まったかどうかということでございますが、担当事件を調べてみますと、やはり数は余り多くございませんし、それから二十名のうち七名までが、一般の正規の弁護士の法律事務所で働いている、それから私どもの同僚の判検事で沖繩の、ことに那覇の勤務から帰ってきた人に聞いてみますと、そういうところでいろいろ評価ございますけれども、そういうところから総合判断いたしますと、沖繩弁護士の法律家としての能力、一般の評価等が五年間に格段に上がったというようなことは考えられないと、こういうことでございます。
○寺田熊雄君 それぞれの人々の事件処理件数でありますとか、これはやはり徴税当局によって是認されたものになるのでしょうが、大体の所得額とかいうものは、いわゆる日本国全部にわたって弁護士の業務を行い得る普通の弁護士ですね、それとの間に差異がありますか。
○政府委員(賀集唱君) 弁護士事務は法廷ばかりではございませんけれども、法務省で入手した資料からいたしまして、那覇地方裁判所の民事事件、民事事件というのは裁判事件の中では弁護士さんの扱う事件の主流でございますが、この民事事件について試算いたしましたところ、明らかに沖繩弁護士の方が沖繩における正規の弁護士に比べて受任件数は低いといいますか、少のうございます。それで沖繩全般のといいますか、弁護士さん数が非常に多うございまして、全国で二位か三位かという、どう言いますか、弁護士の人口に対するパーセンテージでございますが、したがいまして、沖繩の弁護士さんの事件の関与率というのは、統計の上では最高のところにきているのでないかと思います。したがって、沖繩弁護士は沖繩における正規の弁護士さんよりも低いし、先ほど申しましたところからすると、日本全国の一般の弁護士さんよりも受任事件数が低いという計算に相なるわけでございます。それでも沖繩弁護士さんが特に大きな事件を担当したというのだったら、また所得額といいますか、収入の方も多くなるわけでございますが、そういう話も聞いておりませんし、結局受任事件数から判断いたしますと、沖繩弁護士の所得額は平均すれば正規の弁護士さんの所得額よりもかなり低いのではないかと、このように思われます。
○寺田熊雄君 この法律の第七条、いまはまあこの改正案によりますと、第一項になりますか、現行法では第七条ですね、その暫定措置期間というものが五年ということになっておったわけですが、今回延長が提案されて、その点現地ではどういうふうに理解しておるかおわかりですか、もしおわかりであったら伺いたいと思うのですが。
○政府委員(賀集唱君) 現行法のといいますか、沖繩弁護士に関する沖弁法と称しておる特別措置法でございますが、それによる沖繩弁護士の五年間の期間、これを延長といいますか、沖繩弁護士に再度選考しまして、そうして正規の弁護士資格を付与してほしいという日本弁護士連合会からの要請が一昨年の十月にございました。それで早速私どもで調べたわけでございますが、調べた結果ただいま御質問の点につきましては、沖繩では七条の暫定期間が将来延長されると思っていたものもいたようでございます。しかし、それは希望的観測にすぎないか、根拠のない思い違いであると思います。それは私どもでずいぶん資料を捜しましたけれども、そういう何といいますか、延長を期待していいような資料は出てまいりませんでした。と申しますのは、復帰に際しまして沖繩弁護士になろうと思えばなり得た者がほかに約百三十名もいたわけでございますが、そのほとんどの人は第七条の五年間に限りという文言を素直に受けとめまして、結局沖繩弁護士になることを断念したのでございます。したがって、沖繩弁護士の五年の期間が将来にわたって長く延長されるならば、これら約百三十名の人との間に著しい社会的不公平が生ずるからでございます。そして今回行われようとしております暫定期間の延長措置につきましては、すでに最高裁判所、日本弁護士連合会、法務省からなる三者協議会におきまして、再延長があり得ないことを相互に了解し合いまして、このことは日本弁護士連合会を通じて沖繩弁護士会及び個々の沖繩弁護士にも十分了解していただいたのでございますから、今回の措置につきましては、もはや誤解とか希望的観測とか思い違いを生ずることはないと考えております。
○寺田熊雄君 その日弁連と最高裁それから法務省の法曹三者の協議会で、そういうふうな全体としての理解に到達したのはいつのことでしょうか。
○政府委員(賀集唱君) 先ほどお答えいたしましたように、おととしの十月に日本弁護士連合会から沖繩弁護士につきましては選考によって正規の弁護士資格を取得するような特別の措置を講じてほしいと、こういう要望書が法務大臣に提出されました。それで早速その年の十二月に開催されました三者協議会におきましてこの問題を取り上げていただきまして、それから五十一年、昨年の四月まで五回にわたって三者協議会でこの問題につきまして日本弁護士連合会、それから沖繩弁護士会からの説明とか要望とかを聞きまして、また法曹三者で隔意のない意見を交換いたしました。その間にあって法務省といたしましては、その要望に応ずることは困難であるという理由を説明し、結局昨年の四月には三者協議会としてはこれ以上協議を重ねないという形でこの問題の協議は一応終了することとしたのでございます。 ところが、本年に入りまして沖繩弁護士問題に関心を有しておられる一部議員の方から法務省に対し、この問題については議員立法の形で収拾を図りたいので法務省で検討されたいと、こういう打診がございました。早速、法務省内で検討を進めますとともに、日本弁護十連合会との意見調整に努めましたところ意見の調整がつきましたので、その結果を議員の方に申し上げるとともに、ことしの二月二十八日に開催されました三者協議会の席上、私司法法制調査部長がその経過説明を協議会の席上いたしました。その説明の原稿が手元にございますので、それを朗読させていただきますと、三者協議会の、法曹三者のというか、話し合いというのがわかると思いますので、ちょっと朗読さしていただきます。 法務省においては、早速、日本弁護士連合会 に対し、以上の経緯を説明して意見の調整に努 めたところ、結局、「初めの二年間は従前どお りの形態による業務で新件受理を許すが、後の 三年間は残務整理のみとし新件受理を許さず、 したがって、一回限、五年の延長で再延長はし ないとの趣旨の議員立法がされても差し支えな い。」との線で意見の調整がつき、去る一七日、 日弁連会長が、事務総長とともに、法務事務次 官を訪れ、右の旨を確認するとともに、沖繩弁 護士会長はじめ関係者の了承を取り付けた旨申 し添えた。その席には、官房長及び司法法制調 査部長も同席したが、席上、議員立法の立法技 術に関する衆議院法制局との折衝については、 日弁連から一任を受けた。その後、法務省にお いては、司法法制調査部において、具体的に法 文化を試みる作業に入ったところ、新件受理と そうでないものとの間に明確な一線を引くこと が立法技術上極めて困難であり、訴訟上の無権 代理その他の問題を生ずるおそれも出てきたの で、要は一回限りで再延長はしないとの趣旨が 何らかの文言で明示されれば足りるとの観点か ら、別の案文を考え、衆議院法制局と数次にわ たり折衝を重ねたところ、去る二五日ようやく 成案を得た。正式の法案は、後日提出され次第、 直近の本協議会においてお知らせし議事録に添 付することとしたいが、その趣旨は、およそ次 のとおりである。このように私から説明いたしまして要旨を紹介し、さらに、 これは、去る一七日、日本弁護士連合会と法 務省との間で意見調整がついた範囲内のもので あることはいつまでもない。なお、右の成案を 得るまでの間、最高裁判所事務総局と随時連絡 をとってきた。以上で説明を終わるが、一昨年 の連合会からの要望書については、以上の説明 内容とともに、いま紹介した趣旨による議員立 法に対し法曹三者とも異議のないことを議事録 にとどめることによって、最終的な結末をつけ たい。このように説明いたしましたところ、最高裁判所も日本弁護士連合会もこれを了承し、ここに法曹三者の間では最終的な結末の話し合いがついた次第でございます。
○寺田熊雄君 そうすると、議事録が現存しておるようですが、その議事録というのはあれですか、作成者はだれになっておりますか。
○政府委員(賀集唱君) 法曹三者協議会においては議事録をつくっております。そして議事録の作成者は、メンバー全員が確認いたします。確認する前に原案をつくるわけでございますが、それは便宜、日本弁護十連合会の事務の方が原案をつくって、その原案で法曹三者、この議事でよろしいという確認を受けて議事録はできます。ただいまの朗読いたしました議事録は案が参っております。その案が五月の法曹一著協議会で確認される予定でございます。私は、議事録の案に基づいてでなくて、原稿、その当時、二月の法曹三者協議会で私が説明しました原稿に基づいていま朗読いたした次第でございます。
○寺田熊雄君 そうすると、その議事録はまだ三者が署名は終えていないわけですか。
○政府委員(賀集唱君) 議事録は署名という形はとらないで席上確認いたします。で、前回の議事録を今回確認したということを議事に載っけてそれが署名にかわると、そういう扱いにいたしております。
○寺田熊雄君 その議事録は法務省が持っておられるわけですね、現実に。
○政府委員(賀集唱君) 持っております。
○寺田熊雄君 では、それの写しを資料として当委員会に提出していただけますか。
○政府委員(賀集唱君) すでに確定した議事録、これは提出もできますが、ただいま朗読した分はまだ未確定の案の段階でございますので、御要望があれば確定次第お届けすることができます。
○寺田熊雄君 では、確定しましたら提出してください。 これは提案者である委員長にお伺いしたいのですが、いま法務省当局から伺ったこの法律を制定するに至った経緯なんですが、大体いま法務省の方から説明があったとおりにやっぱり委員長も認識していらっしゃいますですか。
○衆議院議員(上村千一郎君) ただいま政府委員が御答弁を申し上げました、そのように承知をいたしております。
○寺田熊雄君 終わります。
○委員長(田代富士男君) 他に御発言もなければ質疑は終局したものと認めて御異議ございませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(田代富士男君) 御異議ないと認めます。 ―――――――――――――
○委員長(田代富士男君) 委員の異動について御報告いたします。 町村金五君及び宮崎正義君が委員を辞任され、その補欠として藤川一秋君及び矢原秀男君が選任されました。 ―――――――――――――
○委員長(田代富士男君) それでは、これより討論に入ります。御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。――別に御発言もないようですから、これより直ちに採決に入ります。 沖繩の弁護士資格者等に対する本邦の弁護士資格等の付与に関する特別措置法の一部を改正する法律案を問題に供します。本案に賛成の方の挙手を願います。 〔賛成者挙手〕
○委員長(田代富士男君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。 なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(田代富士男君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。 ―――――――――――――
○委員長(田代富士男君) 検察及び裁判の運営等に関する調査を議題といたします。 さきの委員会において法務省当局より報告を求めることになっておりました網走刑務所における身分帳閲覧問題についての調査報告は、委員各位にその文書が配付されておりますので、委員会での報告はこれを省略いたします。 この問題について質疑のある方は順次御発言願います。
○橋本敦君 法務省から網走刑務所における身分帳閲覧問題について文書で詳しい報告をいただきました。調査の労を多とするものでありますが、これに関連をして若干の質疑を行わせていただきたいと思います。 〔委員長退席、理事平井卓志君着席〕 この鬼頭事件ということになりますと、まさにロッキード究明が国民的課題になっているさなかに一国の総理に謀略電話をかけるという、前代未聞と言いますか、まれな政治的謀略的な行為が現職裁判官によって行われたというまさにショッキングな事件が一つありました。 さらに、それに続いて法務省が厳重に秘密として管理をしておられる身分帳を閲覧をする、そして、これが外部に漏洩されるということで、わが党の宮本委員長に関する重大な人権侵害なり、政治的には不当な反共攻撃を激化させるそういうことに手をかしていったという、これもまた重大な政治的な謀略的な行為にかかわるという問題になりました。こういう問題が起こりまして裁判所でも法務省でも鋭意調査を遂げられるという状況になったわけでありますが、結果的には鬼頭判事補は弾劾裁判所によって罷免をされ、最高裁もそれを契機に調査を終わって調査委員会を解散され、そして一方検察庁は、謀略電話事件について鬼頭史郎を被告人と断定をして起訴をされ、さらに矯正局は先日この報告書を出されるということで一応裁判所及び法務省の調査が終結という方向に向かって大きく動いてきた状況でありますが、しかし、新聞各紙の主張なり論調なりをごらんいただいてもおわかりのように、一本この事件の背景は何であったか、そしてまたこの鬼頭史郎が謀略電話をかけ、身分帳を閲覧した真意と動機と目的は何であったか、そして実際にこれは彼の単独犯にすぎないのかどうか、さらにはまたこの身分帳閲覧問題について法務省内部の体制がまさに厳重な管理ということにふさわしい状況であったのかどうか、あるいはこの閲覧謄写されたものが、これがこの調査によっても松本明重の著書やあるいは東京新聞に掲載された春日一幸氏の提供したと言われる一部の書類と全く同一であるという断定をなされるに至ったにしても、果たしてどういう経路と方法でこれが鬼頭判事補のところから漏洩ということになっていったのか、ここらはこの報告書によってもきわめて解明できないということで不十分な状況になっております。 そこでまず私は新聞論調でもあらわれているように、この事件についてはまさに司法と裁判の信頼を著しく傷つけ、また政治的謀略のにおいの濃い事件として国民が注視したものですから、いま私が指摘した背景なり、またその動機、目的なり、そして犯行の事後の経緯、これについて徹底的に究明してほしいというのが国民の要望であり、また国会の要求でもあるし、同時にそれ自体が調査をなさったそれぞれの当局の職責でもあると、こう思います。いまに至って、まずこういう面で十分な調査を遂げ得たと考えておられるのかどうか、その任に当たられた裁判所としての勝見人事局長は現在どのようにお考えでありましょうか。
○最高裁判所長官代理者(勝見嘉美君) 率直に申し上げまして、このたびの鬼頭元判事補の事案につきまして、あるいは真相から大分遠いといいますか、あるいは周辺の事実しか解明できなかったのではないかというような御批判は十分私どもも覚悟しているところでございまして、ただ、私どもといたしましてはできる限りのことをやったつもりでおります。しかしながら、鬼頭元判事補のいわば主張といいますかは、もう限度がございますし、私どもの調査の能力等にも限度がございまして、御承知のとおりのような範囲でとどまったということになろうと存じます。あるいは御指摘のとおり、背後関係あるいは鬼頭元判事補一人のことなのか、あるいは多数でやったことなのかどうか等につきましては私どもとしては結局解明し得なかったところでございます。
○橋本敦君 最高裁としても十分な解明はできなかったということをお認めにならざるを得ない状況であるというのはまさに客観的な事実だと思うのですね。一方、法務省としてもそれなりの調査をお遂げになりました。その調査の結果として十分真相の解明ができたというわけにはいかないということはこの報告書を読んでもわかるわけですが、この点についてその任に当たられた矯正局長の御判断はいかがでしょうか。
○政府委員(石原一彦君) 私どもといたしましても、あとう限りの努力を尽くしまして、真相の解明に努めたのでございます。しかし、御指摘の鬼頭判事補の真意、動機、目的が何であったか、あるいは外部漏洩の経路がどうであったかということにつきましては、私どもの調査が任意調査ということでもあり、またいかんせんやや古くなったという点もございまして、十分なことはできなかったということを残念には思っておりますが、われわれとしてやれる範囲のことにつきましてはあとう限りの努力と全力を傾注したということだけは申し上げられると思います。また、二度とかような過ちのないように、今後会同等を通じまして身分帳の性格、特に秘密性の内容につきましては部下職員に周知徹底を図る所存でございます。
○橋本敦君 法務省の刑事局長に次に伺わしていただきますが、現在鬼頭の公判は延期をされ、五月になったとか新聞で報道されております。これに関して二点お伺いしたいのですが、あの謀略電話をかけたということについて捜査の結果、鬼頭がかけたという御認定になっているわけですが、その目的、動機は那辺にあったか、この点は捜査上解明されたのかどうか、第二点は公判が延期になったということについてどういう事情があったのか、そして今後の見通しはいかがであろうか、この二点お答えいただきたいと思います。
○政府委員(伊藤榮樹君) まず第一点の謀略電話のかけ主が鬼頭であるという点につきましては、検察としては諸般の情況証拠その他から確信をもって起訴しておるわけであります。で、その動機、目的等につきましては一〇〇%解明できかねた面もあると思いますけれども、それらは今後の公判において逐次立証していくことになると思います。 それから、公判の期日の関係でございますが、多少打ち明けた話になるかと思いますが、担当の裁判官の御定年等の関係もあったのではないかと思われますが、相当早目に第一回公判期日を指定されたわけでございます。しかしながら、その間弁護人が五名つきまして、それぞれ記録の開示はいたしておりますけれども、それらをよく検討した上で合議を尽くす必要がある、こういう理由で延期の申請がありまして、五月六日が第一回公判期日、こういうことになったわけでございます。その間検察、弁護、裁判所、各当事者が数回にわたって準備手続を行いまして期日を詰めております。弁護人の中には関西の方に居住しておられる方もありますので、なかなか期日の折り合いがすっきりとつきかねますけれども、近い将来相当集中した期日の指定がなされる予定でございまして、事案の内容は一面非常に複雑微妙な関係がありますが、何分罪名自体は軽犯罪法違反ということでございますのでそう多くの公判期日数を要しないと一応考えております。もっとも被告人、弁護人側がどの程度書証等に同意されるか、あるいは訴訟の促進についてどんな対応をされるか、そういうことにもかかわりますが、なるべく早い機会に適正な裁判を得られるように努力したいと思っております。
○橋本敦君 その第二点の問題は続いて若干お伺いをしたい点がございますが、以上法務大臣お聞きになりましたように、それぞれの関係機関が鋭意努力されたということではありますが、残念ながらこの鬼頭史郎の犯行並びに身分帳閲覧の真意は何であるか、背景は何か、動機は何か、そしてまたこの漏洩の経緯等については一体いかなるものであったか、残念ながらこれが最高裁、法務省等の調査によってもついに現実に明らかにならないという状況になっております。これは私は、ある新聞が書いておりますが、他の行政機関と違っていやしくも事案の真相をきわめる職責と権限と権威のある裁判所、法務省がこの事件については余すところなく解明し得るであろうし、してもらいたいという国民の期待、これに対してその期待にこたえなかったということになるのではないか、私はそのように危惧しておりますが、現在法務大臣としての御所見はいかがでしょう。
○国務大臣(福田一君) ただいま裁判所の方から、また法務省の刑事局長からその間における対処の仕方について御答弁申し上げておるところでありますが、私といたしましても、この種の事件が起きたことについてはまことに遺憾なことである。したがってこの問題は徹底的に解明をするよう努力をいたすべきであると、そのように考えておりましたし、検察の方でもその意味では非常に努力をいたしたと私は存じておるのでありますが、結果においていま御指摘があったように、十分明らかでない印象を受けるということについてはまことに残念だと思っておるわけであります。
○橋本敦君 法務大臣もそういう意味では遺憾であると、こうおっしゃっておられるのですが、何としてもやっぱりこの真相というものはきわめなきゃならぬと私は思っております。 そこで刑事局長にお伺いしたいのですが、巷間にこういう心配をしている向きがございます。つまり軽犯罪法違反で検察庁が起訴なさったけれども、端的に言って証拠不十分で鬼頭は無罪になるのではないか。なぜならば第一に鬼頭が自分が電話をかけたと、こういう供述を読売新聞の記者にしたと、こういうことになっているけれども、そしてまた告白文なるものを提供したと、こうなっていますけれども、新聞社のニュースソースの秘匿という新聞の守らなきゃならない倫理的使命、そういう面からいって、直接証拠を裁判所に提出、すること自体が、これ自体がむずかしい状況に検察庁はぶち当たるではないか。第二に声紋鑑定ということになれば、指紋鑑定とは違ってまだ犯罪科学上その確信性が経験的にも科学的にも一〇〇%これが信頼されている状況にはないし、第一に鑑定の対象となったコピーが果たして三木総理に電話をかけたコピーそのものなのかあるいはコピーのコピーなのかということによる鑑定の困難もあるではないか。さらには鬼頭史郎の供述はくるくると変転きわまりがないという状況になっているではないか。しかもこの電話をかけたというのは、第三者の、いわゆる目撃証人という有力な客観的証拠が存在しないという密室行為である。こういう点で証拠不十分ということでまたまた鬼頭史郎氏は無罪ということになっていくのではないかという危惧を多くの心配する向きがあるのは現実の事実ですね。これに対して検察庁はこの公判の維持についてどのような所信なり確信をお持ちなのか明確にしていただきたいと思うわけです。
○政府委員(伊藤榮樹君) 鬼頭公判についていろいろ御心配をいただいておるようでありますが、検察としてはただいまお挙げになりました声紋の鑑定というものも一つの利用すべき証拠と思っておりますが、その他各般の証拠を用意しておりまして、この点は万々間違いなく立証できるというふうに考えてやっておる次第でございます。なお、いま御質問の中でお挙げになりました、たとえば鬼頭の供述が転々としておるというようなことも仰せになりましたけれども、それは新聞記者とのインタビュー等において転々としておるかもしれませんが、それだからといって必ずしも検察当局の取り調べの際に転々としておったというふうなわけでもないかもしれませんし、諸般の証拠を十分集めておりますので、大丈夫立証できると思っております。
○橋本敦君 検察庁は起訴された以上は公判維持に確信を持っていらっしゃると、こういう御答弁というように承るわけですが、いずれ公判が開かれれば、冒頭陳述ということで証拠によって立証すべき事項を検察庁は明確になさる、その際にあの謀略電話をかけた目的なり動機なり、そしてどこからかけたかという場所なり、そのときの状況なり、こういう一連の重大な経緯事実、これは当然明らかにされると思いますが、その御方針はおありですか。
○政府委員(伊藤榮樹君) 冒頭陳述は検察官がその責任において作成し、陳述をいたすものでありますから、私どもの方でその内容について一々指示をするわけにはまいりませんし、事前に私どもの方へ報告をしてそれからやるというものでもありませんので、中身については、今日私どもまだ報告を受けてもちろんおりません。しかしながら、公訴事実に書かれましたこと及びその周辺の事情等につきましては、一般に冒頭陳述において明らかにするのが例でございますので、ただいま御指摘のような点を含めて、ある程度詳細な冒頭陳述をやるものと思っております。
○橋本敦君 次に矯正局長に、この報告を中心にお伺いさしていただきたいと思いますので、人事局長の方は私、この程度で結構でございますから御退席いただいて結構でございます。 この「調査経緯」という冒頭の部分に法務省が身分帳問題で調査を開始されたのは五十一年十月二十一日付の朝日新聞報道とわが党の前衆議院議員の諫山から矯正局長に対して、朝日新聞が言う現職裁判官というのは、実は鬼頭史郎判事補であるということを御連絡申し上げた、これによって同日から直ちに調査を開始したと、こういう記載がございますが、この点は間違いないでしょうか。もう少し早くから御存じだったのではありませんか。
○政府委員(石原一彦君) 私どもが本格的に調査を開始したのはここに記載したとおりでございます。ただその前、私の記憶に間違いなければ、昭和五十一年の三月ごろであったかと思いますが、御指摘の諫山前衆議院議員が網走刑務所及び帯広刑務所に行かれまして身分帳を見せたことがあるのではないか、あるとすればKという裁判官ではないかというお話があったようであります。その点につきましては、現地から直ちに報告がまいりまして、Kといいますと、かきくけこになるわけでございますが、私どもでそれではということで、職員録並びに写真版がございますから調べましたところ、たしか二百八十名ぐらいかきくけこの姓のつく裁判官がおるのでございます。鬼頭というお名前を最初から聞いていれば、まことに変わった名前というと鬼頭さんに怒られるかもしれませんが、でございますが、当時は思い及ばなかったのでございます。その当時、それでは何か身分帳を見せたことがあるではないかということは現地にたびたび聞いておりました。すでに程田所長は退職しておりました関係から、これは電話でございますが、電話等で聞いたのでございますが、当時は記憶がなかったのであります。昨年の十月二十一日の新聞が出まして、これは鬼頭という判事補ということだからよく記憶を喚起しろということで、たしかその日のその翌日から呼び出して調査を開始した次第でございます。
○橋本敦君 矯正局長はそうおっしゃいますけれども、諫山の調査によりますと、実際はKという裁判官、私どもは鬼頭であることを早くからつかんでおりましたが、刑務所側もこれは御存じであって、鬼頭裁判官が閲覧に来たということについては、これはだれにも口外してはならぬという箝口令が刑務所内に事実上しかれていて、そういう中で刑務所側としては鬼頭史郎という名前を、これを明らかにしないまま十月段階に来たというように私どもの諫山の調査では推定できる事情があるのですが、そういう気配は矯正局長ございませんか。
○政府委員(石原一彦君) 私といたしましては、確たるそうした事情については承知いたしておりません。
○橋本敦君 いずれにしましても、この五十一年十月二十一日にKという裁判官だということを諫山が申し上げ、Kという裁判官を探したけれども、多数でとても見当はつかない。そして局長として内部に照会をしたけれども、その段階ではまだ鬼頭史郎が閲覧に網走へ行ったという事実はつかんでいないと、こういうことですが、しかし刑務所では、閲覧したかどうかはともかく、刑務所を訪れた名簿というのがあるでしょうし、そしてまた、まさに本件の場合は単に訪れただけじゃなくて、後にも出てまいりますが、程田所長から身分帳の概要を説明し、メモをとって帰りましたと、管区の森部長まで報告電話を入れていると、こういう事実が明らかですね。こういう事実がありながら、Kという裁判官だと申し上げてもわからなかったというのは、そのこと自体が私は刑務所側の管理の体制に、本当にわからなかったとすれば、重大な手落ちがあるということになるし、わかっていて矯正局長までの連絡がおくれたのであるとすれば、これは内部の行政上の問題として責任の所在がどこかにあるし、私はこの点に疑問を持つのですが、いかがなものでしょう。
○政府委員(石原一彦君) まず第一に申し上げたい点は、網走刑務所というものの世間の方の受け取り方でございますが、私はたしか当委員会においても申し上げたと思いますが、まあ観光刑務所でございまして、年間の参観人員がきわめて多いのであります。それのみかは、これから夏場に入りますと、あすこの橋の前に観光客が非常にたむろをいたしまして、入所、出所に際しての受刑者が見られないようにするのに非常に苦労をしておる。私も視察に二回、これは矯正局長になる前でございますが、行っておりますが、なかなか刑務所から出るのがむずかしいと。写真が待ち構えておりまして、いかにも、私は最高検の検事あるいは秘書課長として行っているのですが、受刑者が出所をしてくるように思われるので困るものですから、非常に間隙を縫って出なきゃいけないというようなことでございまして、きわめて参観者が多いのでございます。 〔理事平井卓志君退席、委員長着席〕 しかのみならず、四十九年のたしか九月だろうと思いますが、刑法学会が札幌で開かれまして、それにつきまして刑法学者あるいは一般の御関心のある方が相当、網走刑務所以外にも行かれておりますけれども、参観が多かったのであります。そういうようなことがございまして、裁判官なり検察官なり、そうした者がおいでになるということにつきまして、刑務所側といたしましてはそれほどの関心が実はない、それほどたくさん来ているという状況にございました。そこで、私どもが最初Kという裁判官だということを伺いましたときに、参観簿の両方を調べさしたのであります。参観簿といいますのは、参観された方々を記載してある帳簿でございまして、表門簿といいますのは、表門の警衛している者が、出入りするところでございますが、たしか表門簿の方は一年で廃棄される書類であったかと思いますが、出てまいりませんでした。参観簿の方にもそれは載っていなかったのであります。そういう事情がございまして、もっぱら程田所長の記憶を出させるほかはないということで、だれか見ているのではないか、現在になってみますと、鬼頭裁判官が行ったということではっきりするのでございますけれども、当時といたしましては、われわれは一体裁判官であるのか、ほかの人であるとかそれはわかりませんものですから、当時行った者があって、身分帳に基づいて説明かなんかした者はないかという点で聞いたことはございます。しかし、その当時ははっきりした返事が返ってこなかったということが実情でございます。 それから二番目の、報告を管区長にしているとするならば、まあ管区長といいましても代理の者が受けるのでございますが、本省なり、そこに報告すべきではないかということですが、この調査報告をごらんいただけばわかりますように、確かに調査して帰ったということはありますが、一般的な事項にとどまっているのであります。もしこれが、宮本委員長の身分帳を写真撮影をしたという報告が程田所長から管区にあったならば、管区といたしましても、それは一体どういうことなんだということで、もっと詳しい事情を程田所長に聞き、また本省に即刻通報するということがあったかもしれませんが、一般的に調査に来られて、いろんなことを聞いていかれて、ただメモしていったと、それも程田所長が説明したところをメモしていったという受け取り方でございましたので、本省には報告がなかったというふうに思われるのでございます。
○橋本敦君 いろんな説明をなさいましたが、いずれにしても、結果として鬼頭史郎が現職裁判官を名乗り所長と面談をし、会議室まで提供され、そこで身分帳を閲覧し、そして帰っていったと。この鬼頭が来たというそのことさえ参観者名簿を見てもどこを見てもないということは、単に事情を聞いて帰ったというだけの報告が管区に上がっていないにしろ、こういう現職裁判官が入っていって後に記録も何も残らないというようなことでやすやすと身分帳が見られているという、この事態について、私はこれは重大問題だという認識でやっぱりとらえねばならぬと思うのですが、いまの局長の説明で、それでそれなりの事情があったから十分だというふうに私は思いませんが、いかがなものですか。深刻な問題ではないでしょうか。
○政府委員(石原一彦君) 橋本委員のおっしゃる点にはごもっともな点もございます。通常、裁判所なり検察庁なり警察署から身分帳の内容その他受刑中の事項について照会があります場合には、文書によってなされるのであります。その文書は、捜査でありますれば刑事訴訟法百九十七条に基づく捜査照会で参りまして、これは文書を受け、回答をしたというのが残ります。そういう事務になれているわけでございまして、今度の鬼頭前判事補による調査に当たりましては、裁判官みずから来たと、文書を出す暇もなかったのじゃないかという先入観等がございまして身分帳を見せてしまったということになるのでございますが、その文書にかわるべきように裁判官が来られたので、その点を何らかに記録しておくという点については確かに抜けていた点があったと認めざるを得ません。しかしながら、当委員会でも御報告申し上げましたように、七月の二十三日並びに二十四日の電話書きとめ簿にはその分の記載があるのであります。この二十三日の電話書きとめ簿がその後の調べによってこれはどうも二十二日らしいということで、私どもは二十二日ころということで認定をいたしておりますが、鬼頭裁判官が調査に来るという点は電話書きとめ簿に記載がございます。そのときの鬼頭というのは、オニガシラとはわかりませんでしたので、かたかなでキトウと書いてあるのでございますが、それがございます。それから、二十四日に管区からの電話のあった点は、これも記載がございました。そういうことから、特に鬼頭判事補が来てこういう調査をして帰ったという点の報告は、報告書の作成等はしなかったと思われるのでありまして、かような点につきましては先ほども申し上げました、今後身分帳の取り扱いを適正にする観点から、実は五月十三日に管区長協議会を開催することにいたしておりますが、その席上で問題点を言って、しかるべき措置をとるようにいたしたいと思っております。 それから、もう一点つけ加えさしていただきますと、現在この身分帳と同じようなものは、刑務所にある身分帳のほかに、少年院にある少年簿、それから婦人補導院にある婦人簿等がございますが、特に刑務所の場合には、御承知のとおり、もう明治四十一年から日本の監獄がございまして、その後しばらくして身分帳ができたものですから、その数が百二十万冊になっているのであります。その内容につきましての照会は、特に受刑事項について相当、裁判所、検察庁、警察からも照会が来るようなことになっておりますので、記載事項を余り詳しくやりますと、これは非常に事務に差し支えますので、いかなる程度に、どういう書き方をするかという点も含めて協議したいと思っているところでございます。
○橋本敦君 いま御答弁の中からも、電話の受信簿でかたかなであるが鬼頭ということがやっぱり記載されていたという受信簿が存在していたことはわかります。だから、したがってそれをよく調べれば、十月二十一日以前にもKという裁判官、これが受信簿で鬼頭ということにつらなって、もっと早くわかったという状況があり得るというように私はやっぱり思いますよ。私は、なぜこの点を聞くかといいますと、この問題について新聞社がフォローアップを始め、そしてまた私ども自身も調査をして早くから鬼頭ということをつかんだのですが、どうやらこの点について、当初、法務省は鬼頭ということを可能な限り隠したいという意向があったように思えてならなかったのでお伺いしたわけですね。こういう問題については、まさに速やかな調査ということが必要なんですが、これについてこの五十一年十月二十一日から直ちに本格的な調査を開始したということでありますから、その調査の結果について順次伺いたいのですが、まず第一に鬼頭氏が七月二十二日ごろにまず最初に電話をかけた相手が南部課長であった。そのことを南部課長が程田所長に報告し、その後で鬼頭史郎が直接また程田氏に電話をしたと、こういう事実が明らかにされている。 そこで問題は、この報告書の三ぺ−ジにも書いてありますように、鬼頭が「治安関係事件の裁判に関して調査、研究しているので」、「宮本顕治氏らの資料を調べるため、」云々と、こういうことで南部に電話をしているという事実が書かれています。こうなりますと、まさにこの身分帳を宮本顕治氏について直接見たいということが一つは明確であるし、もう一つは「治安関係事件の裁判に関して」ですから、あたかも治安関係事件の裁判を彼自身が担当しており、その裁判を行うについて、単なる一般研究じゃなくて、具体的な裁判の、みずから行っている裁判に関して必要だというように思わせる趣旨の電話であるという二つの面が特徴的だと私は思うのですね。この電話は非常に重大な電話ですから、ここでもう最初から鬼頭は宮本顕治氏らの資料を調べる目的であることを明確にしている。そうなりますと、これを受けた刑務所側の態様が実は重大でなくちゃならない、こうなります。だからこそ程田所長は、鬼頭から電話があったときに、こういう南部の報告を聞いているから、程田所長は鬼頭から電話を受けたときに、その問題であるならば本省あるいは管区あるいは裁判所の正式の要請がなくては困りますと、こう言ったのではないかと、こう私は十分考えられると思うのですが、局長、いかがですか。
○政府委員(石原一彦君) この三ページ以下は「事実の概要」と書いてありますように、詳しい点は膨大になりますので省いたのでありまして、そこを御質問くださって私どももむしろ感謝申し上げているところでございます。 この最初の言葉でございまして、実は程田所長、南部課長ともどもいまなお職務上「治安関係事件の裁判に関して調査、研究している」という主張をしているのであります。私どもといたしましては、鬼頭前判事補を直接調べる立場にございませんので聞いてはおりませんが、どうも職務上というのはこれは自分たちの内心の意思ではなかったかということで、この調査報告におきましてはできるだけ証拠ではっきりする点だけを書こうということで、それが外れております。そこでこの「宮本顕治氏らの資料を調べるため」という言葉がまさに重要でございまして、この点は再三にわたり詳細なる供述を求めるように程田、南部とも調べたのであります。このころ程田所長は宮本顕治氏が網走刑務所を出たという事実は知らなかったようであります。そこで、この電話を南部が受けて報告をされたときに、この資料というと身分帳ぐらいしかないじゃないかと、一体宮本氏は網走刑務所を出たのかどうかわからぬと、だから身分帳の有無をも調べろということを指示しているのであります。そこでこの三ページの末行でございますが、「有無を調べ、」ということで取りまとめて言葉の内容は書いてないわけでございます。そういうようなことで身分帳が後に出てまいりましたが、この当時における程田所長の認識といたしましては、何か宮本顕治氏の身分帳ではなくて、「宮本顕治氏らの資料」ということでございますので、大量な調べをされるのではなかろうかというようなことを思っていたために、本省なり管区の了解をとってくれと、こういうふうに話したと思われるのであります。で、この段階における程田所長の責任はどうかと申しますと、五ページの「応接の状況」の最初のところに書いてございますが、もし程田所長が南部課長から宮本顕治氏の身分帳を受け取ったときに、自分でじっくり読んでおりますれば、後に詳しいことを聞かれた際に宮本氏の身分帳を見せずに説明ができたのであります。そこを、程田所長はまあ一般的な調査だろうという先入観がありますから、詳しいことを調べなくてもいいだろうということで、たださあっとめくって見て、ずいぶん薄いものだなあということを言って、南部課長に渡してしまったという点に一つの問題があるのであります。その点につきましてはまさに仰せのとおり程田所長の対処の仕方にやや適切を欠く面があったということは認めざるを得ません。 それから、裁判に関連してということでございますが、この点は以下「職責」のところでるる書いてございますように、そういうような言葉がありましたので、裁判所による職務上の調査というふうに頭から思い込んでしまったという点が御指摘のようにございます。
○橋本敦君 この報告書を見ますと、身分帳を閲覧させるかさせないかの権限は刑務所長にあるというように書かれておりますね。だから、本来なら程田刑務所長は管区の了解を得てもらいたいというような趣旨のことを鬼頭に申すまでもなく、自分が判断をするということも可能であったわけです。しかし、私は程田所長がその際に、自分が直接会って判断するのではなくて、このような、身分帳に関連するような資料を見たいというようなことであるならば、矯正局あるいは管区を通すか、あるいは裁判所からの依頼状を持参されたい、こう鬼頭に言ったというそのこと自体は慎重を期したということにおいて私は何の落ち度もない、自分の権限で判断してよいのだけれども、そういうように管区を通すか、本省の許可あるいは了解もしくは裁判所の依頼状を持ってきてもらいたいと、こう鬼頭に言ったというそのこと自体はこれは責められるべき何ものもないことではありませんか。
○政府委員(石原一彦君) 程田所長が、御指摘のような言葉を言ったことの理由はどこにあるかという点につきましては二十五ページに書いてございますが、鬼頭前判事補の言葉から、どうも終戦当時収容された政治犯で網走刑務所を出た者全般にわたる、そうすると大規模な調査になる。そうすると一応管区に話しておいてもらった方がいいということで電話したのであります。むしろ私どもの見方から申しますれば、ここで程田所長がおかしな調査であるということを感じたならば、程田所長みずからが管区に電話をかけて、実は自分の留守中に南部にこういう電話があったけれども、どうしたらいいかということを言うべきであります。それを鬼頭判事補にそういうことを言ったという点におきましては、むしろ程田所長の方に事態を甘く見た責任があるのではないかと見ているのであります。もともと権限を程田所長が持っておりまして、その権限を行使するに当たって疑問がある場合には上司の意見を聞くということはこれは当然ございます。私どもも矯正局長として自分の職責でやることでありましても、他の方の御判断を求めなきゃならないという場合には、官房にも御相談申し上げますし、場合によりますれば大臣の御指示を仰ぐということもございます。しかしながら、この場合においては本人はそこまでは考えなかった。だからこそ自分では電話をかけないで鬼頭前判事補に対してだけ管区なり本省なり通す、あるいは裁判所からの依頼状を持ってきてくれ、こういうふうに言ったと認められるわけでございます。
○橋本敦君 その点は私とも若干見解が違うことになってしまったわけですね。私はやっぱりこれは所長としては南部氏の報告を聞いて大量であれ、あるいは個別的な宮本氏だけの問題であれ、事身分帳に関するということについては、自分の権限ではあるけれども、正確に言えばそのまま来てもらったって簡単にお見せできる性質のものじゃありませんよという意思表示ですから、それ自体私は適切な意思表示であったと、こう思うわけですがね。 しかし、その次の問題に進みまして、鬼頭が二十四日午前中に程田所長に電話をかけ、すぐさま今度は札幌矯正管区第二部長の森氏に電話を入れている。こうなりますと、この森氏も終戦直後に刑執行停止になった者について網走に調査に行くのでよろしく頼むという電話を受けているわけですから、電話の目的が宮本顕治氏の身分帳ということで具体的ではないにしろ、少なくとも終戦直後に刑執行停止になった者について云々ということであるならば、これは当然部長ともあろう人であれば、これは身分帳にもかかわるし、刑執行停止ということになれば具体的な刑執行停止を受けただれかについての問題であるということもわかりますから、まさに森氏はこの電話を鬼頭から受けた際に、どういう目的で何についてどういう調査をやるのか、幾ら権限が程田所長にあるとは言え上級官庁として指導責任がありますから、もっと鬼頭についてこの電話の趣旨、目的について追及をし、きわむべきであったのではないかということが一つ私は考えられる。これはいかがですか。
○政府委員(石原一彦君) この程田所長と森部長との当時の電話のやりとりにつきましては詳細に調査をいたしておりまして、御指摘のようなことを聞いております。ところが、程田所長の方から……
○橋本敦君 森が鬼頭に聞くべきだったと、こういう質問です。
○政府委員(石原一彦君) そうですが。その点は、これは先ほど来申し上げましたように、刑務所への参観その他という点が非常に多いのであります。そこで、一般的に調査に行くと、ただ参観に行く場合でも、たとえば工場の様子を見に行きたい。あるいは網走刑務所で終戦後いた人がどの程度出たのかというような一般的なこともあるわけでございますので、一体いかなる目的でいかなることだという点についてまでは聞かなかったといたしましても、これはむしろ自分の方に権限がないわけでございますから、取り次ぎ電話と思うのもこれは無理からぬ点があったのではないかと思います。
○橋本敦君 私はそんなふうに言って森氏の責任をかばうわけにいかないと思いますよ。権限がないといっても上級官庁として指導責任はあるのじゃありませんか。いかがですか。
○政府委員(石原一彦君) だからこそ五ページの最初に書きましたように、調査に行ったならば具体的に事情を聞いて所長の判断で処理できるものであれば処理するようにされたいということを言っているのであります。この点につきましては、私は森部長の当時の行為については適切なる処置であったと思っております。
○橋本敦君 私は、決してそうは思いませんね。だからこそ具体的に判断せよというのは、ボールをまたもとへ投げ返すだけの話であって、刑執行停止になった者について調査に行くのだと、こう言ってよろしくと言っているわけですから、みずからも指導責任があるわけですから、権限のある程田氏に対する適切な指導を行う上からも、このときに鬼頭に対してその目的なり内容をもっと聞くべきであった、私は依然としてこう思いますね。しかし、これは石原局長と私の見解の相違ということになるでしょう。私はそう思っていますよ。 問題は程田氏にとってみますと、森部長から受けた電話というのは、いまあなたがおっしゃったように、五ページに書いてあるように、鬼頭が行ったならば具体的に聞いて、そうして判断するようにというような電話であったかどうかについて程田氏はそうは言っていないのではありませんか、御調査の際に。いかがですか。
○政府委員(石原一彦君) 本日付赤旗によりますと、そのような記事になっておりますが、私どもが調べた限りにおいてはこの報告書に書かれたとおりであります。
○橋本敦君 私どもの調査では森部長から程田氏にあった電話は、要するに鬼頭氏が行くのでよろしくという趣旨の電話だったというように程田氏は終始法務省の調査に対しては申し述べたけれども、しかし、森氏との間で食い違いがあって、それは決着がつかなかったということを言っておるように聞いておりますが、そうではありませんか。
○政府委員(石原一彦君) それは違います。私といたしましてはこの赤旗のどなたが取材されたか知りませんが、これによりますと、二十日までに程田所長から聞いたところによればと、こうなっております。程田所長は、この報告にも詳しく書きましたように、二月一日を前後といたしまして供述の内容ががらりと変わっているのであります。その前は自己の責任を認めない供述であったのでありますが、二月一日以降録音テープが出たということによりまして自己の責任を認めるようになったのでありまして、この書かれた取材の根拠が二月一日以前の取材をもとにして書かれたものであるか、その後に書かれたものであるかによって内容は私は違ってくると思います。私どもは前にはそのようなことは確かに言っておりました。これは認めます。しかしながら、その後において十分調べた際にはさようなことは全然言っていないのであります。
○橋本敦君 前には言っておったということは、いまもおっしゃったことではっきりわかりましたが、実は前にも取材したときにそう言っており、そうしてあなたがおっしゃるような状況変化ということもあり得ると考え、この報告書が出たということもあって、実はきのう私がきょう質問するについてこの取材をした赤旗の記者が程田所長に電話をして確認をした、私はそのそばに一緒にいたのです、きょう質問する関係で。だから、そういう意味じゃこの赤旗記者の電話の取材は、きのう時点での取材は私と一緒の調査であるといってもいいような状況なんですよね。そのときでも程田所長は私が見せたのはなるほど私に責任がある。それは否定しないけれども、しかし、上級官庁の森部長からよろしく頼むということを言われたので、これは上級官庁が了承されたものだと私は受け取ったのだということをきのうも言っている。程田氏がそのように受け取ったということも、私は森部長の電話がよろしく頼むと、便宜を図ってやってもらいたいという趣旨に受け取れる電話であるとするならば無理からぬことだと私は思っているのです。この点についてもう一遍確認をして聞きますが、程田氏は森部長からの電話があったので上級の了解があったと受けとめたということについて、私は無理からぬものがあると、こう思っていることについて局長はいかがですか。
○政府委員(石原一彦君) 私といたしましては、程田所長が昨日でございますか、宮本氏の身分帳を見たいと言ってきているがということを果たして森部長に言ったのかどうか、この点をお確かめの上でお電話されたのかどうかをお伺いいたしたいと思っております。
○橋本敦君 要するに、私が石原局長に聞いているのは、森部長からの電話が、程田所長が、鬼頭が来たときにこれを見せるということについて、これを許すということに一定の誘因を与えたという状況事実については、これは程田所長が無理からぬことがある一因として理解してやるべきではないかと、こういうことです。
○政府委員(石原一彦君) その点はこの報告書にもそのことは書いてございます。職責のところの二十ページでございますが、「程田所長は、当初から、現職裁判官による来訪調査は、正当な理由に基づく職務上の調査であるとの先入観をもち、また、札幌矯正管区から事前連絡もあったことから協力する心情が先立ち、」という言葉がございますし、二十五ページの管区の関与について調査する際に、「程田所長が鬼頭前判事補に身分帳を閲覧させたことの背景には矯正管区から電話のあったことも影響していると考えられたので、」慎重な調査を行ったとしているところでございます。
○橋本敦君 その点はそういうふうに書かれている内容について、具体的に私は確かめたかったので質問したわけですね。問題はこの矯正管区の森部長に対して鬼頭が電話をかけ、そしてよろしく頼むというこの経緯も一因になっているということですが、この権限が刑務所長にあるとしても、上級官庁としての矯正局、あるいはそこらあたりに裁判官だということで電話をすれば取り次いでもらえるということは、やっぱり私は一般の者が電話をしても矯正管区は取り次ぐようなことはないと思うのですが、森氏が取り次いだというのもやっぱり現職裁判官だと名のられて、それで現職裁判官なら職務上何か必要があるのだろうという気持ちに森氏もやっぱりなって、それで取り次いでやったということはあるのじゃないですか。
○政府委員(石原一彦君) 必ずしもそうではないと思います。網走刑務所初めいろいろな刑務所を御参観になる方が多いのでございますが、私自身に御連絡されてこられる方もありますし、矯正管区に連絡してくる場合もあります。ただ、この場合において森部長としては現職の裁判官からの電話だから、職務上の調査であろうというふうに思ったということは十分推測されるところでありますし、また、森部長もそのようには述べているところであります。
○橋本敦君 ところでもう一つ、この点について先ほど局長がおっしゃった電話受信簿ですが、森部長から程田所長に電話をかけたその受信簿の記載は具体的にはどう書かれておるのですか。森部長から程田所長への電話、その受信簿には具体的にはどう書かれておりますか。受信簿の記載です。
○政府委員(石原一彦君) 網走刑務所の七月二十四日の電話によりますと、鬼頭判事補――これ先ほどかたかなでキトウと書いたと申し上げましたが誤りでございまして、鬼頭という名前がわかりませんで、木の藤と書いてあるのですが、鬼頭判事補から、貴所における終戦直後執行停止になった者のことについて調査したいとのことについて取り計らってください。で、今度程田所長が同人から昨日、きょう、この昨日という点は誤りだったという点は詳しく御質問があれば申し上げますが、このことを電話照会があったので、本省または管区の指示、それとも判事所属の長かの依頼状が必要とのことを回答したところです。そうしますと、森部長の方が、それで当方に照会があったことでしょうと、程田所長が、わかりましたと、御指示の範囲について許可することにしますと、こういう言い方になっておるのでございます。
○橋本敦君 その記載が局長私は一番大事だと、二点問題がある。 一つは、やはり取り計らってやるようにという趣旨の電話が森部長から行っている事実がそこに記載されているわけですね。それに対して程田所長が、御趣旨に沿って許可するようにいたしますと、こう明確に言っているわけですね。ここでまさに程田氏は上級官庁の森氏からの電話を受けて、そして許可をするということについて上級官庁も了解したということでそういう応答があったという状況がはっきりするわけですよね。だから、そういう意味で私は程田所長が上級官庁の指導によって許可するということになっていた一誘因というより以上に明確に許可するようにしますとまで言っているということは、森氏の行為が、これが程田氏にとっては許可してもよいということに受けとめたということの客観的な事実がそこにありますから、私は森氏のそういう責任はきわめてやはり大きいと、こう思うのですね。その点はいまの電話簿の記載からも、見方は局長と私と違うかもしれませんが、やはり考えられる。 さて、この調査によりますと、森氏は全然鬼頭氏とは面識もありませんし、何の関係もなかったと、こういうことですが、厳重にこの身分帳を秘密にするというたてまえで保管している所長に対する指導として、法務省の上級官庁はそのような程度のことでいいのだろうか。先ほど今後の問題として会同等で所長に厳重に示達するとおっしゃいましたが、上級官庁の姿勢自体は今後の課題としてやはり大事な問題だと思いますが、いかがですか。
○政府委員(石原一彦君) 前提として先ほどの電話書きとめの点でございますが、程田所長は鬼頭前判事補と違いましてすべての電話の内容等を録音する男ではございません。したがって、自分の認識に基づいて書いているのでございまして、まさにこの先ほど読み上げましたのは程田所長の認識で書いたものであります。電話書きとめ簿と言いますのは、全部のことを書くわけじゃなくて、話が済んでしまった後自分で頭に覚えたことを書くわけでございます。それのみかは、ここで具体的な事情を聞いて所長の判断で処理できるものであれば処理するようにというのにかかわらず、程田所長は鬼頭前判事補に具体的な事情を聞かないままに閲覧さしたという点にむしろ責任があるのでございます。何かどうも先ほど来伺っておりますと、私の部下である程田所長を橋本委員がきわめてかばっておられるようなことになって私としても非常に何かとまどっているのでございますが、私の方が客観的に公正に認定したつもりでございますので御了承願いたいと思います。 それから、身分帳閲覧等あったときにどのように管区に指示があった、させるか、また指示があつた場合にどうするかということでございますが、元来身分帳の閲覧等を開示する権限は所長にあるわけでございます。しかのみならず、今回の場合には非常に深い調査ということになって世間を騒がせたことになるのでございますが、裁判所等からあるいは公判の立合検事から、いつごろその当該刑務所を出たのかというような質問は相当多数あるわけでございます。このために全部の身分帳開示を管区の指示にかからしめるということをやりますと、これは裁判、検察、双方とも仕事が差し支えると思います。しかのみならず、勾留中の者であれば公判を一回延期するというようなことになりまして、不当に身柄を長く拘束しなければいけないということになりますので、管区の指示というのは私はしたくはない。むしろ助言である、問題があったときに所長が助言を求めたときの適切な指示をいかなることでやるのかという点に重点を置いて協議を進めたいと、こう思っているところでございます。
○橋本敦君 はい、わかりました。 時間がありませんのでちょっとお許し願って次の問題を少しお願いしたいと思います。 次の問題は、庶務課長が鬼頭からの再度の要求によって身分帳の一部、特に診断書部分等を書き写して送ったという問題であります。これについてこの調査では、程田所長が指示をし決裁をしてそして南部庶務課長が送ったと、それが雑書類つづりにつづられていたということが書かれておりますね。これについて私は局長に伺いたいのは、この南部氏が程田所長の決裁を得て鬼頭の要求にこたえて筆写して送ったと、こう言っているわけですが、この点は終始一貫程田氏は、私は指示をしたことも決裁をしたこともないと、こう言っておる、そのために、ここにも書いておりますが、両人を対質までさせて調査をしたと、こうなっておりますが、終始一貫この点は程田氏はいまもって自分が筆写して送ることを決裁し許可したことはないと、こう言い続けておるのではありませんか。
○政府委員(石原一彦君) 指示をした点については認めておりますが、決裁については記憶がないというような供述をしていることは事実であります。私どもは認定によりまして程田所長の指示決裁があったものと最終的にまとめたのでございます。
○橋本敦君 その点で、刑務所が外部に文書を出すときは必ず二通つくって一通は保管する、その一通は、外部に出す文書の場合は決裁の印を押して公文書つづりにとじるのが通常であるが、雑書類つづりにとじられていたのは奇異な感じがするというように私も程田氏の意見を聞いて思っておるのですが、その点はいかがなものですか。
○政府委員(石原一彦君) その点は私も同様でございます。そのために私どもといたしましては公文書の発送の点の書面を昨年の十月二十一日以来懸命に調べたのでございますが、出てまいりませんでした。そこでそれ以外の書類でも何か残っていやしないかというので倉庫の四十九年度の分を、全部の書類を捜索するように詳細に捜さした結果、雑件つづりから出てきたのであります。
○橋本敦君 その点は局長も奇異にお感じになるということですが、それはつまり、決裁ということで程田所長が判を押した正規の手続を経ないまま雑書つづりにとじられていると、こういう状況ですね。
○政府委員(石原一彦君) それは異なるのであります。程田所長は五十一年の四月一日に退職いたしまして、しばらくの間私の直属の部下でもあったので非常に申し上げにくいのでございますが、せっかくのお尋ねであるので申し上げますが、この調査に時間がかかりましたのは程田所長の記憶喚起がきわめて鈍いのであります。先ほどのお話の際も、五十一年の三月に諫山議員からお話がありましたときにもう少し書類を調査していればはっきりわかったのではないかという点がありますが、余り記憶力がないけれどもその自分の記憶に頼ったという点があるのであります。この指示と決裁についても十分調べました。ところが、南部課長というのは庶務課長であります。ここで書いてございませんが、網走刑務所というのは二部長制がしかれているところでございまして、総務部長がいるのでございます。総務部長はこうしたものについての相談を庶務課長から受けるのでございますが、その総務部長はたまたまこの時期東京に研修で参っておったのであります。南部課長の日ごろの性格及びたまたま、普通ならば部長の決裁を得てすべての仕事をやっているという状況から考えますと、程田所長の決裁を経ないということはあり得ないことであります。そういう点から程田所長はこの決裁をしたことについてははっきり言っておりません。これは決裁をしていないと言っているのではなくて、たくさんある報告書の中で自分があるいは判を押したのかもしれないと、こういう言い方をしているのでございまして、決裁がなかったとまでは否定していなくて、決裁をした記憶がないという供述を現在でも維持しているということでございます。しかし、それは私の方といたしましてはとても認定できることではございませんし、かえってそういう認定の方がおかしいので、やはりこれは通常の過程に従って程田所長が指示決裁したものであるという認定をしたのでございます。
○橋本敦君 その雑書類つづりにある書類に、付属書類に決裁印がないでしょう、私はそのことを聞いているのです、程田所長の。
○政府委員(石原一彦君) これは、南部課長はその書類に特に小さな紙を貼りましてそれで持っていって程田所長の判をもらったと、こう言っているのです。ところが雑書類つづりの中に実はその小片がなかったわけです。それをもって逆に今度程田所長は、紙がないのだからわしは決裁した覚えがないという言い方をしているのであります。私はこれ以上申し上げるのは御勘弁、差し控えさしていただきますけれども、程田所長としては、そうした事実で自己に有利な供述の方に変わっているといいますか、それを主張しているというのが真相であるというふうに認定しているのでございます。
○橋本敦君 いずれにしても、局長のおっしゃっているように、雑書類つづりというものにとじられていることも理解できないことだし、問題はやっぱり、認定ということで片づけられたけれども、やっぱり私は問題としてはまだあるような気がしますよ。 さて、時間がありませんから結論を急ぎますが、要するに、この鬼頭が現職裁判官であるということを言い、職務上ということをにおわし、そしてまた実際に言葉で治安関係裁判の調査研究とか、あるいは司法研究とかいう言葉を言いながら身分帳を閲覧したという事実は客観的に明らかなんです。私はこの点について刑事局長にお伺いをしたいのですが、これが外部に漏れて秘密漏洩ということになってまいりますと、これについての調査という問題をもっと真剣に鬼頭の罪責として考えねばならぬのではないか。つまり、教唆ということになりますと犯意を助長させる慫慂行為というように一般にいわれておりますが、その慫慂行為というのは、実際司法研究に書くつもりがなくても司法研究だと言い、実際は治安関係裁判に関するものでないにもかかわらずそうだというような欺罔行為でありますが、こういう欺罔行為であっても慫慂行為の一つであるというのはこれは学説でも出てくるわけですね。この点について刑事局長としては鬼頭の罪責についてさらに慎重な考慮を行うべきだという御意見があってしかるべきだと思いますが、いかがですか。
○政府委員(伊藤榮樹君) ただいまの身分帳の問題につきましては、検察当局が一応関係者を立件いたしまして、詳細事実関係を調べました上でそそのかしの構成要件に該当しないという判断をして不起訴にしておるわけでございますが、私はその判断は間違っていないのじゃないかと思っております。そそのかしという言葉は国家公務員法に御承知のように秘密の問題のほかにいわゆるストなんかのそそのかし、こういうところに出てまいりますが、それらのそそのかしという言葉の意義は、余り厳格過ぎる解釈もできないでありましょうが、だんだん広げていきますと、秘密のときには広げて、それからスト等の場合には狭めるというような解釈もできませんので、その辺はただ舌先三寸でだまして聞き取ったということではそそのかしにはちょっとならぬのじゃないかというような意味におきまして検察当局の法律判断は正しかったと思っております。
○橋本敦君 その点はもう不起訴処分にされたという結果がありますから、急に御見解は具体的な事実がさらに明確にならなければ変わらないでしょうけれども、議論として私はやっぱりまだまだ残ると思うのですね。 さてそこで法務大臣に最後に伺いたいのは、この報告書によっても鬼頭氏が閲覧をして謄写までさしてとった資料が外部に流れている、松本明重の著書の基礎になり、あるいは東京新聞に掲載された春日委員長提供の「刑執行停止ノ件」という書類はまさにそのものだという断定をして一応石原局長のまとめられたこの報告でも鬼頭がこれを流した疑いがあるということにはこれは客観的にそうなっているわけですね。この問題で私が法務大臣にお願いをしたいのは、この身分帳を完全に秘匿ということで厳格に処理されるというのは、開披された場合の重大な人権侵害、それから法務省における行刑政策上の信頼を確保するという重大な目的がございます。そうだといたしますと、現にそれが侵害されているわけですから、その侵害された経緯については、どういう経過でこれが漏洩されていったのかということについて法務省としてはやっぱりきわめる責任があるのではないか、局長は任意捜査で困難であるということを先ほど答弁されました。困難であるにしても、たとえば松本明重氏から直接事情を聞くなり、あるいは春日氏から直接事情を聞くなり、あるいは鬼頭自身にもう一遍重ねて任意であっても、出頭を求めてこの関係をきわめるなり、あとう限りまだまだやれる調査は私はあると思う。法務省としてはこの問題についてこの点をもっときわめる責任があると私は思うのですが、法務大臣の御見解はいかがです。私はこの点を強く要求したいのです。
○国務大臣(福田一君) この件はまことに遺憾なことでございますが、この報告にも書いてあるとおり、これが外部に漏洩するというか、外部に伝わったことについては疑いがあると、何らかの疑いを持っておるのだということまでは調べておるわけでありますが、さてそれ以上の問題についてどうするかということになりますと、私としては検察その他が自分の権限の範囲内において努力をし、そして調査をいたしたものだと私は考えておるわけでございます。したがいまして、それについて今後どうするかということについては、これは刑事局長あたりから答弁をした方がいいのではないかと思っております。
○橋本敦君 その刑事局長の答弁の前に一言。 法務大臣もこれが結果的に漏洩されていったという事実について法務省として重大な責任を感じないわけじゃないということだと思うのですよ。いかがです、その点は。
○国務大臣(福田一君) 報告には疑いがあるということを述べておるのでありますが、疑いがあるということについて、責任の問題までここで明らかにすることは困難だと思います。
○橋本敦君 ちょっと法務大臣、趣旨が違うのです。法務省に責任があるということを私直接言っているのじゃなくて、法務省が厳重秘匿しているこの身分帳が結果的に漏洩されたということで宮本顕治氏の人権が侵害され、かつ法務省の行刑政策上の信頼が棄損されたという結果をもたらしているという事実については、これは身分帳を秘匿する趣旨からいって、当然の結果として現に起こっているではありませんか。この起こっている結果については、したがって責任のある法務省は、調査をもっときわめるということで責任をお感じになる立場にあるのではないか、こういう質問なんですよ。そういう責任はお感じになって当然じゃありませんか。
○国務大臣(福田一君) この事件はまことに遺感なことでありますが、とにかく法務省としてはあなたが御指摘になったような問題疑いがあるような問題について極力調査をいたしたと私は認定をいたしておるわけであります。
○政府委員(石原一彦君) 私どもが調査をいたしますのは、この報告書の冒頭にも書いてございますが、関係職員の職責の有無、関係矯正行政で直す点がないかどうか、これは身分帳の取り扱いを中心にしてございますが、それを中心に調査いたしまして、国政調査に御協力申し上げる点から、詳細なる報告書をとりまとめたものでございます。ところで、法務省の調査といいましてもこれは万能ではございませんで、やはり関係職員を通じてあるいは関係の刑務所書類を通じての調査ということに相なるわけであります。そこでおのずからこの調査についてもおわかりのように、鬼頭判事補をめぐる周辺につきましては、最高裁判所がおやりになっていたのでございまして、私どもが仮に鬼頭判事補を呼ぶといたしましても、出てこなければもうどうにもならないわけであります。この刑務職員を呼べる、あるいは程田所長はやめましたけれども、これを呼べるといいますのは、法務省に勤めたことのある人間で、かつては指揮監督権があった。現に南部課長に対しては、指揮監督権を持っているからこそ調べられるわけでございます。そういう面であとう限りの調査をし、それから鬼頭判事補をめぐる周辺の事情につきましては、これは検察当局からお伺いするわけにもいきません。そこで新聞報道に出たところを十分しんしゃくいたしまして、結果をまとめたものでございます。それ以外の点につきますと、調査をしろとおっしゃると、第三者として調べるのと同じでございまして、私が聞くか、橋本委員がお聞きになるかという点についても余り差がないのではないかというふうに私は思うのでございます。しかしながら、この私どもの方から発見された筆写物がどういう経路でいったかというそこだけはやはり調べなければいけないということで調べた結果、疑いがあるというところまでは認定をしたのでございます。しかしその経路につきましては、報道機関等ということもございまして、私どもの調査のよく及ぶ範囲ではないというふうに認識しておりまして、矯正当局としては、これ以上調査を進めるといいましても、その手だてがないというふうに御了解願いたいと思います。
○橋本敦君 質問を終わりますが、私は結果的にはそういう手だてがない、あるいは限界がある、そうしてまた調査の目的が内部の職責を明らかにすることにあるという、そういういわばお役所的な、それも大事ですけれども、そういうことの限界性をおっしゃって、結果的には法務省自身が保管管理に厳重な責任のあるこの身分帳の開示漏洩ということについて、全般的な責任を果たすということには、私は熱意がないように思いますよ。それは結果的には鬼頭が行った行意の真意、背景、動機、これを事実上隠すことになるし、法務当局がこういう鬼頭の犯行の真相についてきわめないということで鬼頭をかばうという結果になりかねない。私はそのことを心配するということで指摘をして、引き続き可能な限りの調査を要求して、きょうはこれで質問を終わらせていただきます。
○委員長(田代富士男君) 本日の調査はこの程度でとどめます。 本日はこれにて散会いたします。 午前十一時四十七分散会
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