第70回国会、田中首相演説に対する各党の質疑に対する答弁 |
(最新見直し2011.12.10日)
(れんだいこのショートメッセージ) |
「田中角栄の国会演説と各党の代表質問」を読んでいる最中であるが、角栄の政治に対する真摯さと日本語の巧みさに敬服させられている。角栄の場合、官僚作成ではない自著の作風が認められ、どの程度かは自前で書き上げている。あるいは当人が下書きしているのかもしれない。質疑でも即興で答弁しているところもあるやに見受けられる。学ぶべし学ぶべしであろう。 2007.5.19日 れんだいこ拝 |
れんだいこのカンテラ時評№1006 投稿者:れんだいこ 投稿日:2011年11月26日(土) |
【1972.10.30日、衆議院における日本社会党・成田知巳の質問に対する田中首相答弁】 成田君の質問に対してお答えを致します。 まず第一は、日中国交正常化についてでございます。多年にわたり日中関係の改善、両国交流の促進に努力をしてこられた多くの方々に、衷心から敬意を表します。日中国交正常化の実現は、機が熟した結果、両国が合意に達したものと考えておるのでございます。 第二は、これからの日本の外交はいかにあるべきか、日米安保条約の極東条項、日米共同声明の台湾条項は削除すべきではないかという趣旨の御発言でございますが、世界的に見ても、緊張緩和の傾向が見られますが、アジア全域を見るとき、不安定な要素が残されていることも否定できません。我が国は、平和と独立を守る為に必要な防衛力を整備しなければなりません。(拍手) 米国との安全保障体制は堅持することによって、我が国の安全確保に万全を期す必要があります。(拍手) 我が国の安全は、極東の平和と安全なくして維持し得ないものであって、政府としては、日米安全保障条約の極東条項は、我が国安全確保の為に必要と考えており、これを削除するつもりはありません。(拍手) なお、1969年の日米共同声明のいわゆる台湾条項は、当時の日米首脳の認識が述べられたものでありますが、台湾を廻る情勢は、その後質的な変化を遂げており、これが現実に意味を持つような事態は起らないと考えておるのであります。 第三は、車両制限等の改正とB52の沖縄大量飛来等、ベトナム戦争についてのことでございますが、政府はベトナム戦争の平和的解決ができますように希望しておるのでございます。近時南北問題が円満な解決の方向に向かっているよう報道せられておることは喜ばしいことでございます。米軍車両の問題につき申し上げますが、8月上旬に米軍車両の通行問題が生じましてから、政府は法令の範囲内で円満に自体の解決が図れるよう、あらゆる努力をして参ったのでございます。しかしながら、通行許可の権限を持つ道路管理者が、道路の管理、保全とは関係のない理由をもって米軍関係の輸送許可を留保するなど、法令の適正な運用が阻害されるような状態が続いたのであります。我が国は、条約上米軍に対して国内における移動の権利を認めており、このような条約上の責任を果たす為に車両制限令を改正せざるを得なかったのであります。(拍手) また、B52の沖縄飛来につきましては、条約上我が国はこれを拒否できません。がしかし、国民感情に鑑み、政府として台風避難など真にやむを得ない場合以外は飛来させないよう求めており、米側もこれに応じているのであります。今回の飛来も、台風の接近により止むを得ない措置であり、天候の回復によりその全部がグアム島に戻ったことはご承知の通りであります。(拍手) 第四問は、四次防は防衛白書に基づいてつくられたものである。政府は、いまなお中国、朝鮮などを強硬外交だと考えておるかどうか、こういうお話でございますが、四次防は、我が国の自衛の為に必要最小限度の防衛力を整備することを目的として決定したものでございまして、去る45年の防衛白書発表当時の情勢に基づいて立案したものではございません。また、ご指摘の中華人民共和国及び朝鮮民主主義人民共和国は、日中外交の正常化や米中の接近並びに朝鮮半島における南北間の対話の開始等に見られますように、事態を平和裏に解決しようとする努力を示しておるものと考えられるのでございます。 政府は防衛力の限界をどこに置くのかという問題でございますが、四次防は、我が国が自衛の為に必要とする最小限度の防衛力を漸進的に整備するため策定したものであり、防衛力の限界を定めなければ計画の立案ができない性質のものとは考えておりません。しかしながら、我が国の防衛力の規模が、国際情勢、国力、国情に応じ、今後ともどの程度のものを適正とするかを見極める必要がありますので、おおよその整備目標を検討するよう防衛庁に指示をしておるのでございます。 他方、このたび決定された主要項目の整備において示される5カ年間の防衛費の総額は、一応4兆6千3百億円と見込まれておりますが、これがGNPに占める比率は、経済成長率との対比において、ほぼ現状横ばい程度に推移するものと見込まれ、長期的に見て、今後の経済運営支障となることはないと考えておるのであります。 四次防、日米安全保障条約の廃棄、日ソ平和条約の締結、日本と中ソ朝との友好不可侵条約の締結等々に対して言及がございました。我が国の防衛力は、自衛のため必要とする最小なものに限られており、かかる四次防において他国を攻撃するような防衛力が計画されていないことは、その内容をご覧いただければ明らかでございます。また、我が国が今後とも平和と安全を享受していく為には、日米安保体制を堅持することが不可欠であると考えておるのでございます。(拍手) 日本の防衛費が大きいかどうかと云う問題を例を挙げて申し上げます。防衛と云うものは、よその国の防衛なのではないのであります。自分を含めた国民全体の生命と財産をどう守るかというのであります。(拍手) まず、その防衛体制が妥当であるのかどうかという問題を考えるには、世界の国と比較することも一つの案であります。諸外国との国防費について見ますと、米ソ等の超大国はさておき、西ドイツ、英国、フランスの国防費は、年間2兆円であります。四次防の規模5年間の合計は、西ドイツの1972年の国防費2兆3千億円の丁度半分に過ぎないのであります。GNPとの対比につきましても、これら諸国の国防費は、GNPの3ないし5%を占めております。中立国スウェーデンにおいても約4%なのであります。スイスは約2%であります。(拍手) 国民一人当たりの国防費につきましても、西ドイツ、英、仏にありましては年間4万円に近く、我が国の一人当たり約8千円は、その5分の1でございます。(拍手) 中立国スウェーデンは約5万7千円であって、我が国の7倍。スイスも約2万7千円で、我が国の3.5倍の防衛費を負担しておるのであります。(拍手) このように、各国はそれぞれ自国の防衛の為に努力を払っておることを知らなければなりません。(拍手) その意味から考えてみましても、我が国においても、この程度の負担をするのは止むを得ないことだと思うのでございます。(拍手) 非武装中立論を前提にして国防論や防衛論をする方々との間には意見の相違があることは止むをえませんが、しかし、国防や防衛と云う問題をそのような観念論によって律することはできないのであります。(拍手) なお、ご発言がございました日中ソ朝友好不可侵条約の御構想については、その内容を十分承知する前に意見を申し述べることは差し控えますが、それが直ちに日米安全保障条約の廃棄、四次防の中止あるいは自衛隊の削減に結び付くものとの考えをとる必要はないと思います。なお、政府が、日ソ平和条約の締結について各般の努力を重ねていることは、グロムイコ外相の来日、大平外務大臣の訪ソを見ても明らかなことでございますので、ご了承賜りたいと存じます。 なお、ここで一言申し上げておきますが、周囲の情勢が変わってきたからといって、日米安全保障条約を廃棄しなければならないというような端的な議論には与しないのでございます。(拍手) それは、東西両ドイツの間に雪解けの状態があり、独ソ条約が締結せられる現状においても、NATО締約国の国々は、この条約を廃棄しようとはしておられないではありませんか。(拍手) 自らの見識において、自らの責任において、どうして自らを守るかと云うことについては、数字に立って、現実を直視して、後代の為にも誤りのないように努力をすべきであると思います。(拍手) これから経済運営について申し上げます。 一人当たりの国民所得は、ほぼ西欧水準に達しました。しかし反面、公害、住宅、社会保障等の問題が生じて参りました。政府は従来の生産、輸出の経済運営を改め、成長の成果を活用し、国民福祉の充実をはかるような方向に政策の方針を転換して参ります。私の提唱した日本列島改造案も、こうした国民福祉充実の為の基礎条件を整備することを目的と致しておるのでございます。 公害と生産の調整について申し上げます。住民の生活環境を破壊せず、自然を注意深く保全しながら、地域開発を進めなければなりません。志布湾等の大規模工業基地の開発に当たっては、我が国の国土利用の在り方、その地域の生活水準の向上と並んで、環境の保全が最も大きな問題であります。従って、その開発が環境に及ぼす影響を科学的なデータに基づいて十分チェックし、環境保全について十分な調整のうえ、しか地元住民の理解と協力のもとにその方向を決定すべきものであります。発生源からの汚染物質の排出等の規制については、これを一層強化して参りますが、一歩進めて総量規制など、適切かつ合理的な規制方式を検討して参りたいと存じます。 汚染の原因者が公害防止費用を負担すべきであるという考え方につきましては、我が国の制度は既にそのような考え方によっておるところでございます。企業が汚染者負担の原則を貫き、公害防止に万全を尽くさなければならないことは当然でございます。その上で、政府、地方公共団体も公害問題の早急な解決の為に最善の施策を講じなければなりません。公害訴訟における因果関係の立証につきましても、実際上なかなか困難な問題がございます。最近の判例では、因果関係の認定について緩やかな方向が出ておりますが、因果関係の推定については、このような判例の方向を見守りつつ、その法制化については、引き続き検討して参りたいと存じます。 公害に対する立ち入り検査権の問題でございますが、現行の公害規制法において、工場等に対する立ち入り調査権は都道府県知事が行うことになっておるのでございます。政府としては、都道府県知事などが立ち入り検査を適切に行うことにより、地域住民の期待にこたえるよう、十分指導して参りたいと存じます。 第九は、工業用地と農用地の問題でございますが、農業は国民の食糧を確保するとともに、国土を保全し、国民の生活環境を維持していくのに重要な役割を果たしておることはご承知の通りでございます。従って、優良な農用地を十分確保すべきであり、また、工業用地の確保に当たっては、合理的な土地利用を計画的に行うことにより、十分農用地との調整を図って参るつもりでございます。 老人医療無料化等についての御発言について申し上げます。 老人医療無料化等につきましては、70歳以上の者を対象として48年1月から実施をするものでございますが、年齢を65歳まで引き下げることについては、今後の実施状況を見たうえで考えたいと思っておるのでございます。乳幼児等の医療無料化につきましては、現在、未熟児など、保健上特に必要なものを対象として公費負担を行っておりますが、これを乳幼児の疾病一般にまで拡大をすることにつきましては、今後慎重に検討して参ります。 年金について申し上げます。 先般公にされた関係審議会の意見を考慮して、年金額について大幅な引き上げを行うとともに、物価上昇等の経済変動に対応して年金額を調整し得る措置を講ずる等、年金制度の整備充実を図って参りたいと考えます。年金の財政方式を直ちに賦課方式に移行してはどうかという問題でございますが、当面は現行の修正積み立て方式を、実情に即した配慮を加えながら維持していくことが適当ではないかと考えられるのでございます。年金積み立て金の運用のうち、加入者の福祉増進に直接寄与する分野に充てられる還元融資につきましては、明年度からその融資枠を、積立金の4分の1から3分の1に拡大する方針でございます。 物価の問題について申し上げます。 物価の安定は、国民生活の向上と安定の為に基本的課題でございます。しかし、国土の1%の地域に3千2百万人の人口が集中しておるという事実を前提にする限り、物価問題の根本的な解決は困難なのであります。従って、日本列島改造政策を根幹に据えつつ、低生産部門の構造改善、流通機構の近代化、輸入の促進、競争条件の整備などの施策を進めて参ることにより、物価安定に寄与して参りたいと考えます。(拍手) 地価安定政策に対して答弁申し上げます。 一定規模以上の土地の取得について何らかの規制措置については、民間の取引件数、取引態様等を勘案して、最も適切かつ効率的に土地取引を規制する措置を検討して参りたいと考えます。税制上の措置によってのみ土地需給の不均衡を図ることは、自ずから限界がございますが、法人の所有する土地について何らかの税制上の措置を講ずべきかどうかについても検討を続けます。現行の地代家賃統制令を全ての土地について適用することは、必要な貸し地の供給を阻害し、住宅の供給を抑制する恐れがありますので、適切な手段とは考えられません。むしろ、公的住宅の大量建設とともに、低利融資、税制上の措置等により民間住宅の供給を促進することにより、需給関係の緩和を通じて地代、家賃の適正化を図っていくべきものと考えられるのでございます。 人間を尊重する政治に流れを変えること、この御説に対して申し上げます。 私の日本列島改造の狙いとするところは、福祉が成長を生み、成長が福祉を約束すると云う、成長活用の経済環境のもとで過密と過疎の同時解消、公害の追放、物価の安定などをダイナミックに進めて、国民が安心して暮らせる、住みよい、豊かな日本をつくることにございます。具体的な処方箋につきましては、国民各位の理解と支持を得ながら、決断し、実行して参ります。(拍手) 公害法改正問題がございましたが、公害法問題に関しましては、公労法制定以来24年を経過を致しております。内外情勢も法制定当時から大きく変化を致しておりますので、公務員制度審議会に於いて、諮問に対する速やかな結論が出せることを期待しておるのが現状でございます。 最後に、政治資金規正法につきまして申し上げます。 政党政治の象徴、我が国の議会制民主主義の将来に関わる重大問題でありますが、幾たびか改正法案が国会に提案をされ、廃案になった経緯があることは、周知の通りでございます。これを今日の時点に於いて見ると、金のかかる選挙制度あるいは政党の在り方をそのままにして具体化するということにいろいろと無理があることを示しているように思いますが、工夫によっては、その方法も見出し得るものと考えられるのでございます。特に、現在、政党本位の、金のかからない選挙制度について選挙制度審議会で鋭意審議している時でもございますので、このような情勢を踏まえ、徹底した検討と論議を積み重ねて参りたいと考えるのでございます。以上。(拍手) |
れんだいこのカンテラ時評№1007 投稿者:れんだいこ 投稿日:2011年11月26日 |
【角栄答弁に対するれんだいこコメント】 「1972.10.30日、衆議院における日本社会党・成田知巳の質問に対する田中首相答弁」に下手な解説はいるまいが一応コメントしておく。 この答弁を通して、1970年代初頭の日本の国の形、国会質疑の質が確認できよう。今のそれと比べてみるが良い。角栄の質疑に対する真摯な応答、質問の内容を的確に捉えた答弁、その際の論理的弁証的な能力に敬服するが良い。駄弁や曖昧模糊なところが一切なく、見解の相違とするところ、宿題にするところ、取り組むところの別をはっきりさせている。取り組むとなると実効的な指針を打ち出しているのも特徴でもある。 その際に、角栄の施策が経済的発展を根底に据えて諸事対策しており、その果実として国民福祉に前向きであることを政治の使命としていることが分かり興味深い。現代政治の経済失速施策、その余波としての国民福祉の切り下げ切り捨てぶりに政治力を発揮せんと汲々としている政治家の姿と鮮やかな対比を為している。 70年代の日本が上り調子だったのに比して現下の日本は下り坂を転げ落ちている。その要因の解明も必要であろう。私見は、意図的故意の悪政の結果だと見立てている。これに伴い、70年代と今日では政治の在り方が根本的に違うところが分かる。そういう意味での現代政治の貧困ぶりを嘲笑すれば良い。 |
れんだいこのカンテラ時評№1010 投稿者:れんだいこ 投稿日:2011年12月 8日 |
【1972.10.30日、衆議院における自由民主党・桜内義雄の質問に対する田中首相答弁】 桜内君にお答えいたします。 まず第一は、日米経済関係の真の姿を理解する為、日米関係の改善に一層努力をする必要があるという御指摘でございますが、まさにその通りでございます。戦後四半世紀の状態を見るまでもなく、日本の安全は、日米安全保障条約という重要な協定によって確保されておるのでございますし、日本の戦後の経済復興は、ご指摘の通りのような経緯を経て今日の繁栄を迎えておるのでございます。特に貿易は、輸出入とも30%のシェアを占めるという重要な状態でございますので、日米間については、常に十分なる理解と意思の疎通を図っていかなければならないと思います。そう云う意味で、前回のハワイ会談の際、私は、日米両国の間に間断なき対話の必要性を強調して参った訳でございます。 なお第二は、日米安保体制は日本だけの問題ではなく、自由諸国家にも深い関係があり、一部反安保の批判的行動があることは遺憾であると云うことでございますが、誠にその通りでございます。安全保障条約というものは、誰を守るのでもなく、お互いを含めた日本の安全保障の為に存在をするのでございます。でございますので、これが必要性と云うものは、常に国民皆さんの中で理解を求められなければならないことは当然でございますが、しかし、日本の安全は、ただ日本だけの状態で確保できない。極東の、アジアの、世界の平和の中に大きな関連があることを十分理解をしなければならない、こう思うのでございます。 でありますので、先ほど私は成田君に答弁を申し上げたように、質問があったからその部分に対してだけお答えをするというのではなく、そんなに異論があるにも拘わらず、自由民主党も内閣も現安保体制を守っていかなければならぬというには、それなりの理由があるからであります。そういう理由を十分国民各層にご理解を賜るということでなければならない、こう思うのであります。(拍手) それから第三は、経済大国日本が軍事大国にならないかという問題でございますが、経済大国になりますと政治大国になるということは、これはもう当然でございます。日本が経済大国である。即ち、日本の輸出上の動向によって世界の情勢に影響を与えると云うことでありますから、好むと好まざるとに拘わらず政治的な影響を持つことは避けがたいのでございます。しかし、軍事大国にはならない。これは憲法が明定をしておるのでございす。国際紛争に対して日本は武力をもって解決できない、こういう大前提があるのでございまして、憲法を守ろうということを言う人は、特にこの事実を理解すべきでございます。(拍手) でありますから、日本の防衛力がどのような状態になろうとも、侵略的なものとか軍事的な大国と云うものには絶対に無縁のものである、日本を守るという全く防衛一筋のものであるということを理解すべきでございます。(拍手) 日台関係が第四点でございますが、日中国交正常化の結果、我が国は台湾との間の外交関係を維持できなくなりましたが、我が国と台湾との間に民間レベルで人の往来、貿易、経済等の実務関係が存続していくことは、いわば自然の流れでございます。政府としては、これら各種の民間交流が今後とも従来通り継続されて行くよう配慮して参りたいと存じます。 次は、日ソ平和条約交渉についてでございますが、日ソ平和条約交渉については、1月、グロムイコ外務大臣が来日した時に、今年の秋口から交渉を進めたいと云うことでございます。この申し出を踏まえて、過日大平外務大臣が訪ソ致した訳でございます。そうして日ソの間には第1回の交渉が持たれた訳でございます。第2回以後の交渉は来年の春以降ということになっておる訳でございます。でございますので、大平訪ソはこの日ソ平和条約交渉の第1回交渉と云うことになっておる訳でございます。 なお、その状態における北方領土問題に関するソ連の原則的立場というものでございますが、これは報道されるような少しかたい状態ではございますが、しかし、この問題が平和条約交渉において話し合われることまで否定すると云う態度は示さない。新聞に報道される通り、次には領土問題は問題となり、議題となるのだということを理解していただきたいと思います。しかし、ソ連側の態度は依然としてかたいものがあるということを前提にしてでございますが、政府は、国民的な願望を背景にして、これが返還実現の為に粘り強く、忍耐強く交渉を続けて参るつもりでございます。 日ソ経済提携、シベリア開発等に対する見解を述べよということでございますが、日ソの間には一年間に約10億ドルの交流がございます。これは年々大きくなりつつございます。なお、シベリア開発、チェメ二の石油開発等を中心にして、六つ、七つの明確なプロジェクトを今検討致しております。これらの問題につきましても、現在は、検討をしておるものもございますし、もうすでに三つばかり片付けたものもございます。内容が固まり次第、国益に沿うものであればその実施に協力して参る、日ソ経済関係は段々と大きくなる、こういう状態でございます。 それから、日中国交正常化後の国際的な我が国の使命、国際的な地位等でございますが、これはご指摘にある通り、日中の国交の正常化というものは、国際的にも我が国の外交を世界的な広がりというようなものに結び付けたものだと考えるわけでございます。また、先ほども申し上げましたように、経済的に大きな立場を持つ日本でありますので、政治的にも国際的な地位は段々と向上すると共に、国際的に日本の立場や義務も大きくなってまいるということでございます。我々は、平和を主軸として経済的な面から国際協調、拡大均衡というものを押し進めて行く為に、新しいジャパンラウンド、ニューラウンドを提案しておるような状態でございます。 それから、インドシナ復興に対してはどうするのかということでございますが、これはインドシナ問題が解決することが望ましいことは申し上げるまでもないということでございます。このインドシナ戦争が終われば、日本も民生の安定等に対して可能な限り十分な協力をして参りたい、こう考える訳でございます。これは具体的方策としては、国際的な協力、国際機関を通してというようないろいろな問題がございますが、関係各国との意見も十分調整をしながら、友好的な援助を実施たいと考えております。 それから、国防についての問題は先ほど申し上げた通りでございます。これは、世界の国々の国防費の状態等先ほども申し上げましたが、やはり、私もこの際申し上げたいのでございますが、ただ、四次防が三次防の数字に於いて倍であるとか、そう云うような意味でもって御質問また非難をされると、それはしかし、三次防の最終段階に於ける46年度から47年度の予算を見ると、今度の四次防の第一年度の金額が8千億でございます。8千億の5年と云うと、今年の予算をそのまま延ばしても、5、8の4兆円になるんだ、そういう答弁になるのであって、私はそういう発言はというものはあまり納得する問題ではないと思うのであります。 140も国があるのです。その中で、緊張をしておるところの国は別でございますが、全く緊張をしておらないような平和な環境の中にある国でも、一体どのくらい国防費や防衛費を計上しているのか。だから、日本の現行憲法のように全く世界に類例のないものをつくろうという考え方とか、しかも無防備中立がいいんだという前提に立っての考え方とは、我々の考えは合わないのです。どうしても合わないのです。(拍手、発下する者多し) ですから、本当に考えるならば、平和な国であると云うニュージーランドや、それから大洋州のオーストラリアや、スウェーデンやノルウェーや、そういう国々は一体どの程度の国防費を持っているのかと云うことと、まじめに比較をすべきなのであります。これは私が申し上げるのは、自民党と社会党の問題じゃないのです。日本人全体を守らなければならないのが国防であり、防衛であると云うことで、私は、感情とか、過去の行きがかりとか云うものは全然別にして、新しい立場に於いて日本の防衛は論じられるべきである、こう考えております。(拍手) それから、青少年の問題でございますが、日本の今日の青少年は、幸いにして戦禍を知らず、日本の目覚ましい復興を目の当たりにしてこられた世代であります。私は、これら青少年諸君が、平和国家として発展を遂げている我が国の防衛に大いなる気概を持ちあわせておると確信をしておるのでございます。 次に、全国的な土地利用計画の問題と日本列島改造について御発言がございました。日本列島改造というのは、私が常に申し上げておりますように、これはただ一つの政策として述べておるのではないのでございます。明治初年から百年間、90%あった一次産業人口は、今年15.9%になりました。なぜ90%もあった一次産業比率が15%台になったかと云うと、一次産業から二次産業、三次産業へと人口が移動したのであります。その過程に於いて、農村や漁村や山村の人口は減って、都市に人口が集中して参ったのであります。人口が二次産業、三次産業に移動する、即ち、二次産業や三次産業比率が高くなるという過程に於いて、国民総生産と国民所得は増大して参りました。ところが、百年経った今日、都市集中のメリットとデメリットというものは殆ど同じくなった。これからはデメリットの方が大きくなるんじゃないかという風に考えられるようになりました。 それは公害であります。それはうんと大きな投資をしても、なかなか交通問題は解決しないということであります。幾ら住宅を作っても、都市に集まる人よりも、住宅を作る数のバランスが取れないと云うことでございます。北海道に対する鉄道は、キロ当たり3億5千万円で済むものを、東京や大阪の地下鉄は、キロ当たり75億円かかってもできない。やがてキロ当たり100億になる。しかもその北海道の鉄道は、赤字だと云うのではなく、―初めから建設費の2分の1を補助してもなお大きな都市の地下鉄の運賃だけではペイしないという状態が起っておるのであります。(発言する者あり) だから、まず静かに考えていただかなければならぬのは、誰がやったか、現状をどうしたか、じゃありません。現状をどうしなければならぬのかというのが政治の責任であります。(拍手) そう云う意味で、都市集中の過程に於いては、月給が上がったり、国民所得や国民総生産が上がると云うメリットはあるのです。同時に、今度は公害を除去しなければならないと云うようなデメリットがあるのです。そう云う意味で列島の改造が必要だと述べておるのでございます。 皆さん、土地の価格を引き下げるとすれば、根本的な問題は供給増やすよりないのであります。供給を増やすにはどうするか。列島改造以外に解決の道はない、こういうことでございます。(拍手) しかも、列島改造が行われることによって、既存の都市は理想的なものに改造せられるのであります。(拍手) その意味で、全国的な土地利用計画が必要であるということは申すまでもないことでございます。これは今列島懇談会でも検討致しております。日本人のあらゆる英知を傾けて、60年展望、65年展望、70年展望という長期的な視野に立って、土地の全国的利用計画を定めて参りたい、こう思います。(拍手) それから、土地利用の問題ばかりではなく、土地の利用規制の問題、また、現に行われておる投機的な問題に対する税制上の問題、抑制等十分に配慮して参ります。 次に、物価問題でございますが、御指摘の通り、消費者物価は今年度は4%台に推移をする状態でございますが、卸売物価が遺憾ながら上昇過程にあります。ただ、その内容を見ますと、鉄鋼、繊維、木材等が値上がりをしておるのでございますが、鉄鋼に関しては不況カルテルの問題もございます。なお、繊維、木材については海外市況の問題がございます。これらの問題については十分な抑制が可能だと思いますけれども、この問題に対しては、一層注意深く見守り、適切な処置をとって参ります。ただ、消費者物価の問題については、いろいろ云われますけれども、私は、ここで率直に申し上げると、消費者物価の異常の高騰の直接の一番大きな原因は何か。これは、一つは都市に過度に集中をしておるからであります。過度集中というものが解決しない限り、物価の根本的対策にならないということが一つあります。 第二の問題は労働賃金の問題であります。低生産性部門の産業も一律に、生産性の高い産業と同じように賃金が引き上げられるという問題が物価に大きな影響を持つことは、これは避けがたい事実でございます。(拍手) こういう問題も、流通機構の整備、自由化の促進、また構造改善等々十分な配慮によって対処して参りたいと思います。年金の改善問題に対しては、先ほど申し上げた通りでございます。また、社会保障の問題についても先ほど申し上げましたので、細かくは申し上げませんが、心身障害者の問題、また重度心身障害児や非常に重い病気を持っておる方々、難病、老人の病気等に対しては特に配慮して参りたい、こう思います。年金の問題、一つだけ申し上げると、最も重要なものは、老人年金に対しては、少なくとも積極的な姿勢を示さなければならない、こう考えております。 それから、大型補正予算につきましては、インフレ予算との批判もございますが、これは、今回の景気回復は財政支出と個人消費を中心にしたものでございますので、在来のような状態でインフレ予算と考える必要はないと思います。また、インフレを招くとは考えておりません。しかし、物価動向につきましては、今後とも十分に配慮し、経済運営に全きを期して参りたいと存じます。 それから、円の切り上げ問題でございますが、これは昨年の暮れに初めて多国間調整が行われ、円平価の調整が行われました。しかし、これだけの大きな問題でございましたが、必ずしも初期の目的を達成してはおらないということでございます。でございますので、今度のIMF総会に対して我が植木大蔵大臣も演説をした訳でございますが、シュバイツァー専務理事が、日本に対してだけ円平価の再切り上げを求めない、こう云われたのは、求めるようなことによって全てが解決できないと云うことを端的に指摘しておる訳でございます。 しかし、円平価調整と云う大きな事態があったにも拘わらず、日本はその後依然として貿易収支は黒字を続けております。今度は、このような状態に於いて、よそからの圧力、よそから求められるというだけではなく、日本だけが貿易収支、経常収支の大幅な黒字を続けておると云う状態で、各国の理解や協力が得られるはずはないのであります。新しい国際社会の中に於ける日本として、日本自身の英知と努力によって、少なくとも三ケ年以内には経常収支をGNPの1%以内に押えなければならない。こう申し上げておるのでございまして、円の再切り上げ問題と云う問題は、もっと新しい角度から見なければならない問題だと思います。 今円平価を切り上げられて、中小企業はこれに耐えられるはずはありませんし、中小企業だけではなく、それは利益もなし、影響するところだけ非常に大きいということであって、平価の再調整を避ける為にも、あらゆる政策を進めなければなりません。その意味で、今度の補正予算もお願いをし、国際収支対策も議会でお願いをしておる訳でございます。(拍手) 総合農政の問題につきましては、これは総合農政、新しい国際的に競争できるようにと云いますが、それは理想であって、現実的には一歩ずつ総合農政を進め、適地適作等をやって参らなければなりませんが、ここで一言申し上げる問題は、日本の農村というものが純農政だけでやっていけるのかどうかという問題であります。これは、与野党を問わず考えていただきいのは、結局先ほども申し上げた通り、百年間に90%の一次産業人口が15%台に減ったのです。しかし、今なお減反政策を必要とするのでございます。その意味で必要なのは、申すまでもなく、これから15.9%という一次産業比率は10%、なお減るのでありましょう。 この二次産業や三次産業に転出をしなければならない一次産業人口をそのまま都市に集めるとなると、これは物価問題とか土地問題というものが破局的になると考えなければなりません。そこで考えたのが、与野党一致で通した農村工業導入化なんであります。それだけではありません。新産業都市建設法であり、地方開発を必要とするのはそういうことなんであります。ですから、一次産業人口からはじき出されるであろう、二次産業、三次産業へ移動しなければならないと云う人たちに、農村工業導入法や工業再配置法によって職場を与えよう、そして農工一体と云う新しい時代をつくらなければ―そこが本当に日本の農政のポイントであります。農業自体を専業農家と兼業農家というものに分けながら、どのような理想的な姿をかくかということでなければならない。それは、例を引いて申し上げると、返還された沖縄に、二次産業と三次産業の比率を上げなければ、沖縄の県民の所得は増大しないという事実を見れば、何人も否定できない事実であります。(拍手) 中小企業の問題は、今も申し上げましたように、円平価の問題に徴しても重大な問題であり、国際競争力に耐え得るような中小企業の育成に努力をして参ります。なお、新産業都市の建設、内閣機構の強化、行政機構の再編成、法制制度、慣例等の見直し、新しい政策を遂行し、責任政治を担う為に果たさなければならない幾多の問題に対して御指摘がございましたが、この問題に対しては、また予算委員会で詳しく申し上げることにします。以上。(拍手) |
れんだいこのカンテラ時評№1009 投稿者:れんだいこ投稿日:2011年12月 6日 |
【1972.10.30日、衆議院における公明党・竹入義勝の質問に対する田中首相答弁】 竹入君にお答えいたします。 まず第一番目に、日中正常化と国民世論の成果について申し上げます。ご指摘の通り、日中国交正常化は、国民世論の強力な支持のもとで政府が努力をしたから実現したものでございまして、先ほども申し述べましたが、多年にわたって日中関係の改善と交流の促進の為に努力をしてこられた方々に対して、重ねて敬意を表するものでございます。日中共同声明はなぜ国会の承認案件としないのかということでございますが、先般の日中共同声明は、政治的には極めて重要な意味をもつものでございますが、法律的合意を意味する文書ではなく、憲法に云う条約ではございません。この共同声明につき国会の承認を求めないということでございます。しかし、この日中共同声明につきましては、事柄の性質上、非常に重要な内容も含んでおりますので、国会に於いて十分ご審議を願いたいと考えております。 アジアの平和構想を確立する為、日米安保を解消し、非軍事的な日米友好条約を結んではどうかという御発言でございますが、毎々申し上げております通り、日米安全保障条約は、日本の安全と独立を確保する為に必要なものとして、これを廃棄するとか変更するとかという考えは全く持っておりません。しかも、日中の国交回復につきましては、これは日米安全保障条約というものと関係なく日中の国交の正常化が行われたものでございまして、日中の国交正常化が行われたから、安全保障条約を別なものに変えなければ親善友好の関係が保てないというものでは全くない訳でございます。極東の範囲につきましても、台湾条項につきましても、先ほど申し上げた通りでございまして、これを変更する必要はない、こういうことを基本的に致しております。 日中国交正常化の結果、台湾との問題についてのご質問がございましたが、日中正常化の結果、我が国が台湾との外交関係を維持し得なくなったのはご承知の通りでございますが、政府としましては、台湾と我が国との間の民間レベルでの交流を今後ともできる限り継続をして行くということを希望しておりまして、これが為に必要な措置を講じつつあります。それから、日中国交正常化の結果として、日華平和条約は終了したものと認められるので、同条約第3条に於いて予想されていた特別取り決めによる日台間の財産、請求権問題の処理は行えなくなったのでございます。 それから、アジアの不安定要因はどこにあるのかということでございますが、これは安定をしておって、全てをなくするような状態にないということを申し上げておるのであって、これはよくお分かりになると思います。これは今平和な方向に向かっておりますが、ベトナムにも問題はございます。南北朝鮮も、話し合いの機運の中にはございますが、纏まったという状態でもございません。いろいろな問題があることは、今日中の国交の正常化ということが行われただけでございまして、まだまだ東南アジア諸国だとか、また、中国とアメリカとソ連の利益も完全に一致はしておりません。このようなことは十分ご理解いただけることだと思う分けでございまして、アジアの不安定要因はこれとこれでございますというように言えるものでないことは、ご理解いただけると思います。 開発途上国に対する援助についてでございますが、これは御承知の通り、GNPの1%を主要工業国は援助することになっております。日本の実績から申し上げますと、もう既に0.96%ぐらいになっておりますので、申し合わせのGNPの1%にはなる訳でございます。しかし、問題は質の問題でございます。政府ベースの問題が問題になっておりますが、去る日のUNCTADの会議に於いて、愛知我が国代表は、70年代末を目標にして、この現に0.23%である政府ベースの援助を0.7%まで引き上げたいということを申し述べたわけでございます。実際、0.7%まで拡大できるのかどうかという南北問題に対しては非常に大きな貢献ができるわけでございます。実際、0.7%まで拡大できるのかどうかという現実問題が議論せられておることはご承知の通りでございまして、アメリカでもGNPの0.7%政府援助を行えるかどうかということでございますから、この問題が如何に大きいかと云うことはご理解いただけると思います。この0.7%ないし8%というのが、くしくも日本の防衛力に必要な金額と大体同じなのでございます。ですから、水田前大蔵大臣は、0.7%とやすく言うけれども、日本の自衛隊と同じような金額を開発途上国に提供しなければならないというのであるから、これは相当腹を決めてかからなければならないことでありますと、こう述べておるのは、その間の事情を申しておるわけでございます。 そういう意味から申しますと、人の為にもやらなければなりません。日本は国際的の中で当然信頼される日本にならなければなりませんし、貿易中心の日本でありますから、当然開発途上国に援助もしなければなりませんが、同じように、人にも援助をしなければならぬが、自分の生命、財産を守る為にもこの程度の金は使わなければならぬ、こういうことにもなる訳でございます。(拍手) そこらをひとつ、日本の防衛費とこれからの国際的援助という問題とのバランスを考えると、―バランス問題じゃありませんが、やはり真剣に検討すべき民族的課題である、こう思います。(拍手) 自主・等距離・中立外交のお話がございましたが、アジア諸国との中立、平和、連帯の為の構想、アジア太平洋平和会議と云うようなものの提唱についての御発言がございました。我が国は、政治信条、社会体制のいかんに拘わらず、全ての国との友好的関係を維持して参りますが、そのことが即等距離・中立の外交とはなり得ないのでございます。あくまでも自主外交でありますが、構造的に見ても、量的に見ても、我が国の平和外交は自由主義陣営の一員として、これと密接な関係の上に立って進めることが、より効率的であると考えておるのでございます。その意味で、アジア太平洋地域に於いて平和な国際環境づくりの為の提案が為されるならば、これは十分検討するにやぶさかでないということでご理解をいただきたい、こう思います。 日ソ平和条約につきましては、先ほどもお答えを致しましたが、既に開始をされており、去る日、大平外務大臣がモスクワを訪問した時に第1回の怪談が行われ、第2回会談以後は来春を期して行われることになっておるのでございます。なお、御指摘ががございました四つの島々、歯舞、色丹、国後、択捉、この四島につきましては、これは日本人の悲願であります。でございますので、御指摘の通り、この四島の祖国復帰を前提として粘り強い交渉を続けて参りたいと存じます。ご声援のほどを切にお願いをいたします。(拍手) 朝鮮問題についての御発言がございましたが、これは、現在の時点としましては、南北朝鮮の対談と云う事を特に歓迎を致しておりますということでご理解をいただきたい。それから、緊張緩和のもと、四次防というのは撤回しなければならないじゃないかということでございましたが、これは先ほど申し上げた通り0.7%。GNPに対する金額でございます。これと匹敵するものでございますし、この四次防というものは、三次防と比べてみると非常によくわかるのでございます。これは三次防の事実上の延長でございます。四次防の初年度である今年の防衛庁の費用が8千億でありますから、これを五ケ年間そのまま延ばすと5、8の4兆円でございます。それに6300億円というものをまずおおよその目途として付加しておるということでございまして、内容を仔細に見ていただけると、これはもうこの程度のものは最小限必要であるということが御理解いただけると思いますし、この程度のものを持っていることで、アジアの国々が脅威を感ずる、そんなことはありません。そんなことは絶対ありません。 なお、なぜこれほどの軍備増強をするか、日本に対する脅威の実体とは何かとか、自衛力の限界を示せ、兵器国産化は産軍複合体の危険がある、兵器輸出禁止法をつくったらどうか、こういういろいろな御指摘をいただきましたが、我が国国防の基本方針は専守防衛を旨とするものであり、四次防は、アジアの緊張を高めるような軍拡や軍備増強の計画では全くないと云うことは先ほど申し上げた通りでございます。 現在、我が国に対する差し迫った侵略の脅威は存在せず、我が国を廻る情勢は好ましい方向に進んでおります。しかし、限定的な武力紛争の生ずる可能性を否定することはできないということは、先ほど申し上げた通りでございます。四次防は、我が国が自衛のために必要とする最小限の防衛力を整備していく過程のものとして策定したものでございまして、防衛の限界を定めなければ計画の立案ができないという性質のものではない訳でございます。しかしながら、我が国の防衛力は、一次防以来の各防衛力整備計画によって逐次充実されており、今後どこまで伸びるかという問題に答える必要はあると思いますので、おおよその整備目標を検討するよう防衛庁に指示をしてある訳でございます。 それから産軍複合の問題でございますが、我が国の工業生産に占める防衛生産の比率はわずかに0.4%でございます。そう云う意味から考えまして、まぁ飛行機等の別な部分は別でございます。防衛庁生産以外にない飛行機のシェア等は別にしまして、防衛生産と純工業生産と云うものとの比率を考えると、0.4%というものであって、世界各国等の例に徴してもこれが産業癒着というようなものでないということはもう申すまでもないのでございます。(拍手) それから、兵器輸出禁止法案というものの提出と云うことは、間々問題になっておる問題でございますが、兵器は輸出しないという三原則を十分守っておりますので、その後、法律案として必要があるかないか、これはまた状態を見てまいらなければならない問題だとして御理解をいただきたいと思います。 政府は、沖縄国会の決議に基づき、基地の整理縮小に取り組むべし、御指摘の通りでございまして、過去長いことかかって、皆さんのご協力も得て、基地は段々整理縮小、合理化の段階になっておる訳でございます。この後も整理統合に努めてまいりたい、こう思います。真剣に整理縮小の為に関係各省で検討し、また米軍とも相談をして参りたい、こう思います。 それから経済政策についてでございますが、まず、経済政策の根本的な問題を申し上げますと、今までは確かに御指摘の通り生産第一主義と云われてもやむを得なかったんです。それは、30年代の国民所得の状態や国民総生産の状態を見れば数字的に明らかでございます。初任給8千円などという問題が国会で大きく問題になったのでございます。まず生産を上げ、給与を上げなければならない。こういう大きな大前提がありましたので、国民所得増大の為には、やはり生産を前面に押しで出しざるを得なかったわけでございます。しかし、その結果、ようやく国民所得は西欧諸国と比肩するような状態になったことは御承知の通りでございます。そう云う意味で、生産については生産第一主義から生活第一主義に、重化学工業から知識集約的な工業に移らなければならない、こういうことを政府は大きく国民の皆様の前に出しております。ただ、そういう過程における社会福祉の問題は西欧に比べて非常に少ないじゃないか、その通りであります。 社会福祉というのはどういうことかと云うと、まず国民所得を上げることが第一であります。その次には、生きていかなければならない、生活していかなければならないという前提に立つ社会資本の不足を補い、我々の生活環境を整備するということが第二なのであります。そうして第三は、必然的に社会福祉の拡大へと繫がって行くのであります。我々は、しかし、今第一の国民所得の平準化というものを為し遂げつつございますが。まだ自分の家の問題やいろいろの問題と合せて社会保障を向上せしめておるのであります。その意味で、社会的蓄積の多い西欧諸国に比べて、今社会保障費が低廉であるということは、今まで事実でございますが、今度は先ほどから御指摘にありますように、国際収支も黒字でございますし、ようやく我々もこれから本腰を入れて社会保障と取り組めるような前提ができたというのであります。成長を確保せずして、所得を確保せずして、その前提がなくて社会保障の拡大ができるはずがありません。(拍手) そういう意味で、これから社会保障の理想的な姿を描き、強力に進めなければなりません。(拍手) まず、御指摘がございました、西欧より低いが、西欧並みにする為に全力を傾けるかということでございますが、当然のことでございまして、ある時期には西欧を上回るように、地球上の最大の目標に向かって努力を進めなければなりません。(拍手) しかし、ここで申し上げるのは、社会保障の拡大は必ず生産の向上、国民所得や国民総生産のコンスタントな向上と云うものを前提にしていくから、初めて大きな理想的な社会保障体制ができるのだということを一つ十分ご理解いただきたい。 それから社会保障に対して年次計画を作るか。これはつくらなければなりません。ただ、ここで、与野党を問わず申し上げておきたいのは、やはり西欧諸国の社会保障を見ましても、イギリスの社会保障でも、その国の状態を見まして、必ずしも日本がそのまま真似ができるものでないということは御理解いただけると思います。日本には日本に最も理想的な社会保障が確立されねばなりません。そういう意味で、私は昭和60年展望に立った全国の列島改造論を前面に押し出し、理想的な青写真をかいて、それを前提にして社会保障の年次計画ができあがるということを申し上げておるのでございますから、まじめにご検討賜りたいと思います。(拍手)。 それから、老齢年金の拡充を来年重点的に行うということは先ほど申し上げましたが、竹入さんは、年金の引き上げは明年から大幅に引き上げるのではなく、昭和60年から実効をあげのだという風に御指摘ございましたが、これは明年からできるだけ年金は引き上げて行くということでありますので、この点は一つ誤解のないように御理解を賜りたい。 それから、公害問題につきまして申し上げますと、公害は、これはもう公害を除去する為にいろいろな政策を行っておる訳でございます。私は、公害問題はこの二、三年間に大きな問題になってきた訳でありますが、先進工業国と比べて日本は、制度、いろいろな問題に取り組むに対しては非常に積極的であるということだけは言い得ると思います。ただ、先ほども申し上げましたように東京、大阪、名古屋と云うような拠点に過度に集中を致しておりますのと、四日市やいろいろな過密な新しい拠点に複合公害というものが起っておるのでございますので、このような轍を踏んではならない。今過密のものは地方に段々と疎開をしなければならないし、新しいものは新しい立地にによって建設をしなければならない。そして工場が増えることが公害の拡散だなどと考えておることは、もう問題にならない議論であります。(拍手) それは、工場をつくれば全部公害の拡散だという考えで、もうそれは論議以前の論議でございます。(拍手) それは公害基準、立ち入り検査というようなものを強くすることによって、公害は防除できるのです。また、公害は防除しなければならないのであります。だから、排出基準を厳しくすることによって、そして工場法をつくる等によって、環境は整備され、公害のない生産は拡大をするのであります。(拍手) また、無過失賠償責任制度につきましては、民法の過失責任の例外を為すものございまして、無過失責任を典型公害の全てに適用するかどうかにつきましては、今後引き続き検討して参りたいと存じます。それから、御指摘ございました自動車の排気ガス規制につきましては、規制の抜本的強化を図る方針であり、昭和50年度以降、世界で最も厳しいアメリカのマスキー法による規制と同程度の規制を行なうことと致しております。従って、自動車メーカーに対しては、その方針に適合する自動車を早急に実現させるよう、今後さらに一層指導、助成を強化して参りたいと存じます。 土地問題について申し上げますが、最近の金融緩和を背景として法人による投機的な土地買い占めが進行しております。このような投機的土地取引を抑制するため、税制上の処置については現に検討致しております。それから、全国の土地利用に対する基本法を作れということでございますが、これはもう一日も早く作らねばならぬのでございます。これは都道府県知事及び市町村を中心にして全国土地利用計画ができるとすれば、土地の供給量はぐんと増える訳でありまして、そういう根本的、抜本的な制度が土地問題の最も基本にある政策でなければなりません。その意味で、全国的土地利用計画に対する基本法の制定に対しては、皆さんのご意見も十分斟酌致して早急に立案を図って参りたい、こう考えます。 それから、土地投機を行った法人の利得を制限するようにというような問題、これは税制上の問題について可能な限り措置をすべく今検討を致しておるのでございます。それから、千㎡、即ち300坪以上の土地の売買を禁止するという一つの提案。これは提案としては理解できますが、ただ反面、土地の取引件数や面積から見て、これをやるとすると膨大な機溝と予算、人員を伴うという問題もありますので、かかる問題は慎重に検討して参らなければならない問題だと思います。 それから、道路、公園、学校等の公共用地につきましては、本年の12月1日から公有地の拡大の推進に関する法律が適用され、先買い制度が施行される訳でございますので、効力を発すると思います。土地の保有税等に対しても、今鋭意検討致しております。 それから、物価の問題に対して申し上げますと、卸売物価は確かにこの2、3ケ月、対前年比上昇しております。ただ、内容を仔細に検討しますと、先ほども申し述べましたように、鉄鋼、繊維、それから木材等でございます。鉄鋼は、カルテルの問題がございますので、このカルテルをどうするのか、これはもう、当然この問題は処置しなければならない問題である。また処置することによって、今の消費者物価にはね返っておる面は十分是正できるという考えに立っております。それから繊維及び木材は海外市況の影響でございますが、これは処置できるという立場に立っております。しかし、卸売物価が今まで世界に類例のない横ばいを続けておったにも拘わらず、一面ではございますが、このような状態になっておる現況に徴し、推移を十分注視しらから適切なる措置をとって参りたい、こう考えます。 それから公共料金の抑制、これはもう厳に抑制をして参りたいというのが答弁でございますが、ただ問題は、公共料金というようなものは普通から云うと応益負担が原則でございます。応益負担が原則であるものを一般会計で賄う為に、市町村のバスや鉄道の赤字を全部一般会計で賄う為に、本当に市町村や国が為さなければならない業病とか難病とかいうものの患者を全部引き取るようなところに金が回せないというようないろんなものがある。だから、限られた予算の中で効率的に行うには自ずから取捨選択をしなければならないことは言うまでもありません。そういう意味で、公共料金の全面的ストップというのは政治姿勢としては当然貫かなければならないことでございますが、しかし、政府や地方公共団体が当面して国民に果たさなければならない責任と云うものの中で取捨勘案せられるものであるということは、ひとつ十分ご理解をいただきたい、こう思います。 管理価格の規制に対して法制化を行ってはどうかと云う御指摘でございますが、本件に関しては、独禁法等の適用によって十分配慮して参りたいと存じます。最後に、調整インフレの回避の問題でございますが、調整インフレとは学問的なものでございまして、今調整インフレ政策をとるなどということは全くありませんので、御懸念のないようにいただきたいと思います。 円対策は不十分ではないか。今度の国会の殆どの使命は国際収支対策でございます。この法律も、このご審議をいただいております予算も、ほとんどが円対策、国際収支対策といっても過言ではありません。しかし、去年の7月の7項目、8項目、今度の対策等、相当努力をして参った訳でございますが、本当にこれが万全であって、全ての国際収支対策になるのかということでございますが、全力を挙げて今の時点に於いて最善のものとしてご審議をお願いしている、こう申し述べる以外ありません。しかし、我々は、48年度予算編成に際しても、この国際収支対策というものが、お互いが望ましい日本、国際社会環境にあって最も信頼される日本とならなければならないと言っておりながら、こく国際収支対策が万全でなければ、全てが水泡に帰すという状態でございますので、困難な問題ではありますが、これは両3年の間にGNPの1%以内に経常収支の黒字幅を押さえられるまでに精力的に政策を進めて参らなければなりません。しかし、自由化や関税引き下げに対しても、大変面倒な問題があります。その意味では、与野党を問わず事実の上に立って御理解を賜りたいと思うのでございます。(拍手) それから、国際分業や産業調整という問題にお触れになりましたが、これは本当に重要な問題、日本の産業構造そのものを本当に根本的に考えないと、本当の国際収支対策にならないということは、もう御指摘の通りでございまして、政府も在野の英知を結集して、この問題に対しては勉強して参りたいと思います。 最後に、政治資金規正法の問題でございますが、成田君にもお答えを申し上げました。政治資金規正法改正の問題については、政党政治の消長、我が国の議会制民主主義の将来に関わる重大問題でありますが、幾たびか改正法案が国会に提案され、廃案になった経緯があることは周知の通りでございます。先ほど申し上げましたが、重大な問題だからもう一ぺん同じことを申し上げておるのです。これを今日の時点に立ってみますと、金のかかる選挙制度、あるいは政党の在り方をそのままにして、これを具体化することにいろいろと無理があることを示しているように思われるのでございますが、お互いが工夫をすることによってはその方法も見出し得るものと考えられるのでございます。特に現在、政党本位の金のかからない選挙制度について、選挙制度審議会が鋭意審議致しておる時でありますので、このような情勢を踏まえ、徹底した検討と論議を積み重ねて参りたいと考えます。以上。(拍手) |
れんだいこのカンテラ時評№1008 投稿者:れんだいこ投稿日:2011年11月30日 |
【1972.10.30日、衆議院における民社党・春日一幸の質問に対する田中首相答弁】 お答えを致します。日中正常化についてまずお答えを致します。 日中関係の正常化が実現をしたことは、アジアのみならず、世界の平和の基礎を固めるものとして画期的なできごとでございます。その為、多年にわたり努力をしてこられた多くの方々に、重ねて衷心より敬意を表するものでございます。日中国交正常化の実現は、内外に於いてその機が熟した結果、両国が合意に達し得たものと考えております。私は、中国と密度の濃い対話を維持して、せっかく実現を見た正常化を、日中両国民の安寧の為に、また広くアジア全域の安定の為に活用するつもりでございます。 日中共同声明は、国会の承認を求めるべきだという御議論でございますが、先般の日中共同声明は、政治的には極めて重要な意味を持つものでございますが、法律的合意を構成する文書ではなく、憲法にいう条約ではない訳でありまして、この共同声明につき、国会の承認を求める必要はないのでございます。もっとも、この日中共同声明につきましては、事柄の重要性に鑑み、その内容につきましては、国会に於いて十分ご審議をいただきたいと考えております。 台湾に対する外交関係、椎名特使の提言、貿易関係、輸銀資金の使用の問題、政府借款等々についてでございます。まず、台湾と我が国の関係について椎名特使の発言は、自由民主党日中国交正常化協議会の審議内容とその決議に基づいて、同特使の見解を説明したものでございます。 日中国交正常化の結果、台湾と我が国との外交関係は維持できなくなりましたが、政府と致しましては、台湾と我が国との間で民間レベルに於ける人の往来、貿易、経済関係はじめ各種の交流が、今後とも支障なく継続されて行くよう配慮したいと考えております。述べ払い輸出に対する輸銀融資につきましては、具体的案件に則し慎重に勘案をしつつ処理を致したいと考えます。各種の民間交流が続く限り、御質問の各種債権を含め、台湾に在留する邦人の生命、財産等が保護されるよう、できる限り配慮を尽くして参ります。 それから、台湾条項の消滅、台湾を極東の範囲から除外せよ、駐留なき安保というような問題について、お答えを申し上げます。今回の日中国交正常化は、安保条約に触れることなく達成されたものでありますので、台湾が極東の範囲にはいることについては従前通りであります。しかし、米中間の対話が始まり、台湾を廻る情勢は質的な変化を遂げ、米中間の武力紛争は考えられない事態になっております。従って現状のままで問題はありません。日米共同声明のいわゆる台湾条項についても同様でございます。 他方、駐留なき安保に向かって条約を改正してはどうかとの提案でございますが、駐留しておることが我が国の安全保障の為必要な抑止力を構成しておると判断をされますので、かかる効果を失わしめるような提案には、遺憾ながら賛成致しかねます。 平和条約はいつ締結するのかという問題について、お答えを致します。日中平和友好条約は、所用な準備を経て交渉に入りたいと考えております。平和友好条約の具体的内容について予測する段階ではございませんが、その基本的な性格は、将来長きにわたる両国間の平和友好関係を律するような前向きのものとすべきであるというのが、日中双方の一致した見解でございます。アジア集団安全保障の体制の推進、インドシナ半島経済復興資金の創設に対して御発言がございましたが、アジア集団安全保障体制の建設に取り組むべしという着想、ソ連のブレジネフ提案があると承知を致しておるのでございますが、諸般の情勢から各国の反応もまちまちであると承知を致しております。即ち、まだ機が熟していないというのが現実だろうと思う訳でございます。インドシナ半島経済復興基金の創設ということにつきましては、ご意見として承っておきたいと存じます。 それから、昨日の桜内議員に対する答弁につきまして、私の真意に対する御質問がございましたが、私も速記録を見てみまして、十分私の真意を伝えていないような点もございますので、ここに改めて考え方を申し述べます。 世界に類例のない我が国憲法の平和主義を堅持して参りますことは、申すまでもないことでございます。その前提には変わりはないのでありますが、無防備中立の考え方と、最小限必要な自衛力を持つと云う私どもの考え方とは合わないのであります。(拍手) この際、明確に致しておきます。第四次防計画を白紙に戻せ等の問題を中心にして、防衛の防衛、基本的な立場、戦略守勢の防御ではなく専守防衛に徹せよ、シビリアンコントロール、国家安全保障会議への改組、長期防衛計画は国会で承認案件にしてはどうかというような問題に合わせ、国土開発、公害の除去等の任務を加えてはどうかと云う問題でございますが、その前提となっております安全保障条約の改廃の問題について申し上げますと、これは申し上げるまでもないことでございますが、独立国である以上、独立を保持し、その国民の生命財産を確保して参る為には防衛力を持たなければならないということは、論のないところでございます。 理想的には、国連を中心にした集団安全保障体制が確立することが望ましいことでございます。しかし、現実の状態を見ますと、この機溝はは完備せられておりません。スエズが閉ざされても、これを開放する力もありませんし、ご承知のアラブとイスラエルが毎日報復爆撃をやっておっても、これを止めることのできないような状態に於いては、最小限自分で自分を守るだけのことはしなければならぬのであります。(拍手) そう云う意味で、最小限度の防衛力を保持するということは当然のことでございますが、しかし、もう一つの理想的な姿としては、自分だけで守るのか、複数以上の集団安全保障の道をとるかということでございますが、これは東側、西側を問わず、自分だけで守ろうという国はないのであります。みんな複数以上で集団安全保障体制をとっております。日本だけがそのれ以外になろうということは、それはできません。そう云う意味で、国民の生命と財産を守らなければならない、しかし、国民負担は最小限度で理想的な防衛体制でなければならないというと、どうしても日米安全保障条約が必要になることは、過去四半世紀近い歴史に明らかなところでございます。(拍手) そう云う意味で、いま日中の国交が正常化をしたとか、アジアの緊張が緩和の方向にあるからといって、日米安全保障条約そのものを廃止するがようなことは、到底考えられないことでございます。(拍手) それから、四次防を持ったことによって日本が軍事大国になるのではないかというような考えは全く持っておりませんし、そのような恐れは全くありません。きのう各国の比較を申し述べたことでも十分承知いただけると思うのでございます。それから、専守防衛ないし専守防御というのは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、専ら我が国土及びその周辺に於いて防衛を行うということでございまして、これは我が国防衛の基本的な方針であり、この考え方を変えるということは全くありません。なお戦略守勢も、軍事的な用語としては、この専守防衛と同様のものであります。積極的な意味を持つかのように誤解されない専守防衛と同様の意味を持つものでございます。 それで、シビリアンコントロールの考えということでございますが、これは国会に存在すると考えますので、安全保障を所管する常任委員会が設けられることが望ましいことだと考えておるのでございます。それから、国防会議を国家安全保障会議に改組する考えはないかと云うことでございますが、現在考えておりません。第四次防のような長期防衛力整備計画は国防会議に諮らなければならないことになっております。これは、国会の議決を要する事項とするよりも、行政府の責任に於いて策定することとした方が適当であるという考え方をもって居るのでございます。国会に於いては、国政調査の対象として判断を仰いでいくほうが適当だと考えるわけでございます。 それから、自衛隊法に、自衛隊の主たる任務として災害派遣、土木工事の受託等の民生協力を行うこととされております。先般決定された「四次防の主要項目」に於いても、「部隊の施設作業能力を増強して災害派遣その他の民生協力の為の活動を積極的に実施する」ことが明記されておる訳でございます。 車両制限令の問題で、独断専行的なことにならないかという、大変御同情のある御発言でございますが、そういう心配はございません。車両制限令という問題は、これは道路構造を前提として、道路管理者は全く事務的に許可をしなければならぬのであります。あの道路を長い鉄材を積んで走るトラックに対しては、警察に届け出れば、赤い布をつけて、一般の交通に支障のないようにしなさいよといって、自動的にこれは許可されるのであります。今度の車両の問題については、道路の構造以外の理由によって許可が与えられないという事態が起ったのであります。それは、私が申し上げるまでもなく、そのような事態を放置せば、条約による日本政府の任務さえも遂行できないということになるわけでございまして、その意味で、車両制限令の問題が解決をせられなければならないようになったことは、十分御承知のはずでございます。そういう意味で、この問題はこの問題としてご理解を賜りたいと存ずるわけでございます。 しかし、我が国の議会制民主政治は、敗戦と云う高価な代償の上に育ち、四半世紀の実績の上に定着を致しております。政治は国民全体のものでございまして、70年代のどの課題をとっても、国民の参加と努力なくして解決できるものはないのでございます。その意味で、民主政治を大事に育てて後代の人々に引き継いでまいりたい、こう念じておるのが私の基本的な姿勢でございます。(拍手) 経済運営の基本的な方向、また日本列島の改造のビジョン等についての言及がございましたが、明治初年から百年、百年間は、非常に低い国民所得、国民総生産の状態からどんどんと国民総生産が拡大する状況になって参りました。しかも、戦争が終幕をする事態に於いては、非常に困難な状態に立ち至った訳でございますが、しかし、その後四半世紀の間に今日の経済繁栄をもたらしました。そうして日本人がまず考えなければならぬのは、国民総生産を上げて国民所得を如何にして向上させるかということでございます。30年代にこの議場で、八千円の最低賃金を確保する為にどうしなければならぬのかということを真剣に議論したことを考えれば、まさに今昔の感に堪えないではありませんか。 我々はその意味で、まず、先進工業国である四―ロパ諸国と比肩するような国民所得を確保することができました。しかし、その第一の目標である、ヨーロッパ諸国と同じような国民所得を確保することはできたにしても、それは都市集中という一つの姿に於いて基盤が確保されたのであります。しかし、その都市集中が前提である限り、公害の問題が起って参りました。地価の問題が起って参りました。水の不足が起って参りました。交通を確保する為にも、税金の大きな部分をさかなければならないような事態が起って参った訳でございます。そこで、ここで第二のスタートを要求されるような事態になった訳でございます。それは申すまでもなく、明治二百年展望に立って、我々は新しい視野と立場と角度から、日本の新しい政策を必要とすると云う事態になっておるのであります。(拍手) その意味で、生産第一主義から生活中心主義へ転換しなければなりません。公害を伴う重化学工業から知識集約的な産業へと転換をしていかなければならないのであります。そういう努力をしなければならない。また、その努力をすれば、今我々が求めておる問題は解決できるのでございます。それが日本列島改造と云うテーマでございます。国民皆さんの前にこの問題を提案して、そして、まず第一番目の国民所得の向上はできましたから、社会資本の拡充を行い、生活環境を整備し、その土台の上に長期的な日本の社会保障計画を壌み重ねようと云うのが、政治の理想でなくて何でございましょう。(拍手) そう云う立場で、日本列島改造案を提案しておるのでございますから、新しい経済運営の基本は、成長活用型となり、社会保障を中心とした生活重点的なものに切り替えられていくことで、ご了解を賜りたいと存じます。 また、ご質問の無公害社会の建設について申し上げます。無公害社会の建設は、日本列島改造の目的の一つでございます。公害規制の強化、公害防止技術の開発、工業の全国的配置、いわゆる工場法の制定等を行うとともに、産業構造の知識集約化を進めることによって、公害のない形で成長を確保してまいろうと考えておるのでございます。また、損害賠償保障制度の創設につきましては、公害被害者に救済の実効を期して参りたいと存じます。 それから土地問題の解決についてでございますが、これは春日さんも申された通り、土地の供給量、絶対量を増やさなければならないのでございまして、土地需要の平準化を図ることと、全国的視野に立った土地利用計画をつくって参らねばなりません。知事及び市町村長を中心とした国土の利用基本法の如きものを早急に作らなければならないと考えております。通常国会には成案を得てご審議をいただきたいのでございますが、皆さんからも適切なる御意見があったら寄せられんことを期待します。(拍手) なお、この基本政策に加えて、投機的な土地の取引を抑制する為、取引の規制、税の活用等についても引き続き検討して参りたいと存じます。 物価対策について申し上げます。物価の安定は、国民生活の向上と安定の為、基本的問題でございます。しかし、昨日も申し上げました通り、物価は議論の中からだけでは抑制できないのであります。物価と云うものはどういうことによって起るかと云うと、一つには、国民の半分も3分の2もが小さいところに過度に集中すると公害が起ると同じように、物価問題が不可避の問題として起るのであります。(発言する者あり) もう一つは、低生産部門の給与が、高い生産部門の工業と同じように一律的にアップされるところに、物価は押し上げられるのでございます。その意味で、列島改造に拠ることと、低生産部門の構造改善、流通機構の近代化、輸入の促進、競争条件の整備等、各般の施策を広範に行う事によって物価を解決して参ろうと考えております。 社会保障等につきましては、先ほども申し上げた通り、長期経済計画を立てる時には、その中に長期社会福祉計画も併せて作らなければならないと考えております。急速に高齢化社会を迎えておりますので、老人対策は内政上重要な問題でございます。中でも年金制度につきましては、先般公にされた審議会の意見に沿って、年金額の大幅な引き上げを行ってまいりたいと考えます。年金の充実について長期計画を立てよということでございましたが、先ほども申し上げました通り、これからは社会保障に対しても長期計画、また年金計画を考えなければならないと思いますので、十分検討させていただきたく存じます。 租税政策に対して御提案がございました。夫婦子供二人を給与所得者の場合130万円まで免税にしたらどうかということでございます。130万円というと、一番高いのが、アメリカの132万4千円というのが、日本よりも高いのでございます。日本現在103万7千円までとなっております。英国においては79万9千円、西ドイツに於いては77万2千円、フランスは103万6千円でございますので、その限りにおいてはヨーロッパ三国を上回っておりますが、アメリカよりもまだ30万円も少ない訳でございますから、できるだけ所要の調整を加えて参らなければならない、こう考えます。(「それは数字のごまかしというんだ」と叫ぶ者あり) これは、数字は今年の数字でございますから、数字にごまかしはありません。(拍手) 事業主報酬の問題は、法人企業、個人企業、サラリーマン税負担のバランスを充分考えながら、早急に具体的結論を得るよう検討して参ります。 国際収支対策につきまして申し上げますと、昨年末、多国間通貨調整が実現し、さらに去る5月以降、緊急対策を実施して参りましたが、我が国の貿易収支は引き続き大幅な黒字基調を続けておるのでございます。政府が去る10月20日、対外経済政策の推進について当面とるべき施策を決定し、貿易、資本の自由化、関税の引き下げ、開発途上国への経済協力の拡充等の実施に踏み切り、また、公共投資の追加含む補正予算を今国会に提出をした次第でございます。国際収支につきましては、両3年の間に、経済収支の黒字幅をGNPの1%にし、この1%に当たる数字は、70年度の一番末には開発途上国に対する援助にしようということを世界に明らかに致しておる訳でございます。この両3年以内に経常収支の黒字幅をGNPの1%以内にとどめるということが基本的に必要でございまして、問題解決まであらゆる努力を続けて参りたいと考えております。 最後に、解散問題について申し上げますが、私が内閣を組織しては以来百十日余でございます。しかし、解決を要する内外の課題は山積を致しておるのでございます。特に円対策は緊急でございます。国民の審判を受ける方向にこれらの諸懸案をぜひ解決しておきたい、こういうのが現在の私の心境でございます。(拍手) |
れんだいこのカンテラ時評№1011 投稿者:れんだいこ 投稿日:2011年12月 9日 |
【1972.10.31日、衆議院における日本社会党・堀昌雄の質問に対する田中首相答弁】 堀さんにお答えいたします。 第一点は、先ほど春日委員長にお答えを申し上げましたが、昨日の成田委員長に対する答弁の中で、憲法に関する問題に対して誤解を招くようなところがございましたが、先ほど述べました通り、世界に類例のない我が国憲法の平和主義を堅持して参りますことは申すまでもないことでございます。こういうことでございますので、御了承を賜りたいと存じます。 消費者物価について申し上げますと、経済成長の過程で、給与所得者の所得が、消費者物価の上昇を上回る伸びを示し、国民生活の実質的な水準が茶実に向上してきたことは事実でございます。しかし、物価上昇の要因としては、生産性の高い企業の賃金上昇が、中小企業やサービス業など、御指摘の通り生産性の低い部民に波及するということも否定できない事実でございます。こういう状態の中から物価問題が起って参る訳でございます。御指摘の通り、消費者物価の上昇は預貯金を減価させ、あるいは利子、年金生活者等の生活を不安にするというデメリットがございまして、これは物価対策を強力に推進しなければならぬことは、申すまでもないことでございます。 物価の上昇を抑えるということについては、去年、おととし、5%余の年率でございましたが、今年は4%台の、1%以下低い状態で押さえ得るのではないかということが考えられる訳でございます。しかし、低生産性部門に対する施策を強化致しましたり、流通機構の整備を行ったり、自由化を行ったり、いろいろなものがございますが、やはり前々申し上げております通り、過度に拠点に集中しておるという問題にメスを入れながら、いわゆる日本列島改造を踏まえて消費者問題に十分な施策を行って参りたい、こう考えます。 第三は、管理価格をやめるべきであるということでございますが、生産性向上の成果が、自由且つ公正な競争を通じて消費者にも還元されることは望ましいことでございます。今後とも管理価格の実態把握に努めるとともに、競争条件の整備等、対策面においても十分配慮して参りたいと存じます。 公害問題に対して申し上げます。公害対策は、国民の健康生活を守る為、内政上の重要な課題であることは御指摘の通りでございます。関西新空港の問題について御指摘がございましたが、地元及び公共団体の意見等も十分尊重して計画を進めなければならないことは、申すまでもないことでございます。慎重に対処して参ります。瀬戸内海の赤潮対策について申し上げますと、下水道の整備、工業排水の規制等、瀬戸内海に対する十分な調査を行って、赤潮と云うだけでなく、瀬戸内海の汚染に対しては根本的な施策が必要であると考える訳でございます。 社会保障問題について申し上げます。日本のあ医療の問題はどうかということでございますが、これは、堀さんがお医者さんでございまして専門家でございます。日本のあるべき医療の理想図をかかなければならないことは、人命に関する問題でもございますので、本件に関しては、鋭意努力を続けて参りたいと存じます。第二点の医薬品の問題でございますが、医薬品の特質に鑑み、安全で有効な医薬品を供給し得るよう公的規制を加えており、薬価基準につきましても、市場価格の下落を反映して年々引き下げが行われているところでございます。しかし医薬分業の問題、根本的な問題もございますので、十分検討のうえ、結論を出したいと思います。 公的年金の併給問題について、堀木訴訟の件について御指摘がございました。御承知の通り、一審で決定しないということで控訴は致しておりますが、問題は別と致しまして、障害福祉年金受給者に対する児童扶養手当の併給問題、これは児童扶養手当についての併給が可能になるよう措置すべきであろうという方向で検討致しております。老人対策につきましては、寝たきり老人に対する援護、就労の場の確保等、十分なる措置を必要とする訳でございますし、医療の無料化等も必要でございますが、堀さんの御指摘は、電話を一台ずつつけたらどうかということでございます。この問題に対しては、まだ十分検討致しておりませんが、せっかくの御指摘でございますので、検討してみたいと思います。 円対策について、貿管令の発動だけでは実効を上げ難い、輸出税を徴収すべしという御指摘でございますが、これは、政府もこの問題に対して検討致しておったのでございます。ただ、先般の円対策につきましては、輸出課徴金につきましては、引き続いて検討しようと云う立場をとっております。それはなぜかと申し上げますと、西ドイツ等で輸出課徴金制度等を実行したのでございますが、そういう制度をただ実行すると、来年たつと、そのままその部分が平価の切り上げに繫がるというようなこともございましたので、学問的にももう少し検討を必要とするというのでございます。ただ、貿管令の発動というものと輸出課徴金というのは、裏腹の問題でもありますので、これらの問題は、政府、業界におきましても検討を継続しておるということで御理解をいただきたい、こう思います。角をためて牛を殺すということになってはならないのであります。(拍手) これは理論だけを追うことに汲々として、三ヶ月後、半年後に輸出課徴金、輪出税というものが、そのまま円平価の切り上げに繫がるということになってはならないのです。(拍手) 税の問題に対しての御指摘がございました。法人税は優遇に過ぎるのではないかということでございます。45年度から1.75%の付加税率を徴しておりますので、御指摘の通りでございますが、現在、国税、地方税を合わせて実効税率は45%強になっておる訳でございます。法人税負担のあり方等は、税の全ての問題と合せて検討しなければならぬ問題でございます。直接税、所得税中心から、間接税にどの程度ウェートが変えられるのかというような、税の根本的問題と、時の財政事情等を勘案して検討すべき問題でございます。これはもう堀さん専門家として十分御承知の件でございますので、以上申し述べておきます。 交際費税につきましては、逐年強化をして参りましたことは、御承知の通りでございますが、来年3月末に現行制度の適用期間が到来を致しますので、大蔵省を中心にして検討を進めております。配当控除につきましては、15%から12.5%に、そして来年から10%に引き下げられることになっておる訳でございますので、これ以上の問題は、税全般の中で勉強すべき問題だと思います。税は検討を必要とするのであります。 それから政治資金規正法につきましては、せっかくの御指摘がございましたけれども、改正案は、国会に間々提出をされ、廃案になっておる経緯がございますことは御承知の通りでございます。選挙制度、それから政党の問題、政党の在り方、金のかからない選挙等々、今選挙制度審議会で御検討いただいておりますので、その結果を待ちたいと思います。選挙区の是正の問題は、長いこと問題になっておることでございますが、これは、選挙制度をどうするかという問題と定数という問題を切り離してはなかなかできないのでございます。一回、大都市の幾ばくかの選挙区に対して、定数を是正した経緯もございますが、現在選挙制度審議会に於いて審査中でございますし、また、衆参両院を通ずる根本的な選挙制度改善、定数問題、こういうことで検討が続けられておる訳でございますので、この結果を待っていただきたい、こう思います。 それから、出稼ぎの実態、出稼ぎの投票参加というものに対しては、これは輸送の問題、有給休暇の問題、外国の事例等、さらに勉強する必要があると思いますが、不在者投票制度が積極的に活用が図られねばなりませんし、今の制度は少し面倒な気も致します。これは、お互いがこれらの問題に対しては十分承知しておる問題でございますので、出稼ぎ等が投票に参加できるように最善の道を開くべきだと考えておる訳でございます。以上。(拍手) |
れんだいこのカンテラ時評№1012 投稿者:れんだいこ 投稿日:2011年12月10日 |
【1972.10.31日、衆議院における日本共産党・不破哲三の質問に対する田中首相答弁】 お答えを致します。 極東条項、台湾条項を廃棄せよ、沖縄―台湾間の米軍海底ケーブルを撤去せよというような御質問でございますが、日中両国間の国交正常化は、海底ケーブルの問題も含め、安保条約に触れることなく達成されたものであり、台湾が極東の範囲に入ることにつきましては、従来とも変わりがないのでございます。我が国は、台湾を中国を代表する政府として認めることはできません。が同時に、米国その他の諸国が台湾と有している関係を否認する立場にはない訳でございます。私は、日中国交正常化を実現し、中国側との相互理解を深めるため訪中したのでありまして、私の訪中がそれ以外の目的を有しないことは明らかでございます。従って、貴党に対する問題などは話題にしておりません。 ベトナム和平に協力し、米軍の侵略に加担するな、ベトナム民主共和国、朝鮮民主主義人民共和国との正常化等についての御発言でございますが、ベトナム和平については、目下関係者が真剣な努力を重ねており、近くこれが実現するものと期待を致しております。事態が沈静化すれば、ハノイには本年初め、外務省の担当課長が訪問をしておることでもあり、北ベトナムとの往来は一層頻繁になるものと考えております。なお、朝鮮民主主義人民共和国とも、スポーツ、文化、経済と、段々交流を積み重ねておることは御承知の通りでございます。 安保条約を廃棄せよ、沖縄の毒ガスを点検せよ、四次防を国会に諮れという問題でございますが、安保条約の目的は、間々申し上げております通り、我が国の安全を確保することにありまして、政府としては、これを堅持して参るつもりでございます。同様の理由により、四次防を撤回する考えもございませんし、四次防は重大な国防の問題でありますので、国会に於いてはもとより、広く国民各界各層に於いて議論をして行きたい、こう考えるのであります。しかも、防衛問題に対する国会の審議機関としては、各党にもお願いを申しあげておりますが、安全保障に関する常任委員会の如きものを設けていただいて、十分国会でご審議いただくのが正しいと考えておりますし、政府もそうお願いをしておるのでございます。御指摘の沖縄の毒ガスは、昨年五月に全てが撤去をされておることが確認をせられておりますので、念の為御報告申し上げておきます。 経済政策につきまして申し上げますが、日本列島改造論の狙いは、福祉が成長を生み、成長が福祉を約束するという成長活用の経済運営のもとで、過密と過疎の同時解消、公害の追放、環境の保全、物価の安定などを勇断をもって行い、国民が安心して暮らせる、住みよい、豊かな日本をつくることにあるのでございます。なお、日本列島改造論は、御指摘にありました通り、46年5月、当時幹事長であった私の名前で発表した「統一地方選挙と我々の反省」に強調している政策の方向を発展させたものであることを御承知いただきたい、こう思います。 それから、列島改造は、60年国民総生産を304兆円にすることを目的として、とお考えになっておるようでございますが、46年の国民総生産を基準にし、60年まで年率10%の成長を続ければ304兆円になるし、8.5%の成長を続ければ248兆円になるという、一つの目途を示した数字であることを誤解のないようにしていただきたい、こう思います。即ち、日本の持つ潜在成長率を数字で積算をし、それによって農業から転化しなければならない人員を吸収することも可能であるし、なお、我々の15年間に於いて国民総生産を4倍にすることも可能である、そう云う数字を前提にして、理想的な将来図を描く基礎数字として提供したものであることを御理解賜りたい、こう思います。 公害、物価、社会保障について申し上げますと、汚染の原因者が公害防止費用を負担すべきとの考え方につきましては、我が国の制度は、既にそのような考え方をしておるところでございますが、公害防止には万全を尽くさなければなりません。また、発生源からの汚染物質の排出等の規制については、これを一層強化致しますが、さらに総量規制等、適切且つ合理的な規制方式を検討して参ります。物価安定の為には、日本列島合改造を始め、各種の施策を講じて参ります。また、独占禁止法の厳正な運用によって、不当な価格形成は排除して参りたいと存じます。また、年金の財政方式につきましては、直ちに賦課方式に移行するのではなく、現行の修正積み立て方式を、実情に即した配慮を加えながら維持していくことが適当だと考えます。以上。(拍手) |
(私論.私見)