七
さて、前述の如く世界征服の毒蛇の頭は、1881年まではソ連に足溜(あしだま)り、いな首溜りをしているが、それから既に60年を経過している。60年前と云えば、我が国の明治14、5年の頃である。その後、毒蛇の鎌首は何処に向って進んだのか。恐らくユダヤの秘密文書の中には、その鎌首の行方が明示されてあろうが、遺憾ながら筆者の手許にはその秘密文書が入手されていない。しかしながら、我らは確信を以て言える。即ちその蛇は、第八の足溜りの予定地になっていたトルコ行きを変更し、新たなる好餌を発見して大西洋を横断し、アメリカ大陸に上陸し、大陸を西に匍(は)って更に太平洋に向っていることを。何となれば、アメリカの国情は、思想、経済、政治、外交、軍事等悉くユダヤの蛇の目的とするがままに動いているからである。殊に、金貨をその金庫に流れ込ます為に、あらゆる国際国の闘争を画策し、アメリカ自身が既に事実上の参戦をしていることは、明らかに毒蛇の思ふ壺に嵌(はま)り込んだものである。否、嵌り込ませたのである。今やアメリカにおけるユダヤ人の有力者は、その経典にある「超政府」を組織しその逞(たくま)しき力によって、アメリカの一切を自由自在に操縦しつつあるのだ。
彼らユダヤ人の「超政府」と称するのは、国家の政府にあらずして、その政府以上の実力を有する個人的結合、いわゆる同志的結合である。むろん、この中にはユダヤ人ばかりでなく、彼らに利用され、あるいは買収され、あるいは彼等の為に都合よくでっちあげられた「理論」に魅惑されて、それが真理であるかの如く信じながら、真剣にユダヤの提灯持ちをやっている者もあろう。即ち、ユダヤ人が非ユダヤ民族を去勢するために拵(こしら)えた「自由主義」、「民主主義」を擁護せんとして、起きあがった者がそれである。賢(かしこ)さうな顔をしていても、ユダヤ人から見れば、人面の顔をして労働している家畜にすぎないのだ。我らは、アメリカのユダヤ人が、「いよいよ幾千年間待望せる我らの時代が近づいた」と、歓喜しながら、ありとあらゆる手段方法によって大車輪の活躍をなし、さらに世界各国に散在するユダヤ人は、これを鼓舞激励するために一生懸命になっていることをハッキリと見定めることができる。
八
しからば日本はどうであるか。支那はどうであるか。はたして毒蛇の影響を受けているか、いないか。既に毒蛇は太平洋を渡って日本に上陸しさらに支那大陸に上陸しているような様子はないのか。ここでも筆者確信を以て言おう。正しく毒蛇は、日本を経て支那大陸まで延びていたと。そして、満州事変及び支那事変は、この毒蛇を払い除けることが、一つの大きな動機であったと云うことを。そして今や毒蛇は完全に日本及び大陸の主要地から払いのけられ、太平洋を遠く迂回してフィリッピンに出で、さらに豪州、蘭印を過ぎ、マレイ半島の南端シンガポールを横ぎり、ビルマのラングーンに上陸して北上し、ビルマ・ルートを過ぎて、いわゆる蛇の執念により、執拗にも雲南を経て好餌重慶にその鎌首を擡(もた)げている。彼の尻尾(しっぽ)は、未だ東地中海の附近にあるから、既に地球を一巻きしようとしている形だ。ここで我等は、毒蛇が日本に禍ひしていた時代の世相を思い起してみる必要がある。筆者がこれを詳述するまでもなく、読者諸賢は、往時を顧(かえり)みて明らかに当時の状態を思ひ浮べることができるであらう。
即ち、ユダヤ人の企図するままに自由主義に基く資本主義の跋扈跳梁(ちょうりょうばっこ)によって、一部階層のみ富の集積をなし、且つ国防費の支出を以て国力を消耗するものとしてこれを阻害し、自由経済の幣(ぬさ:おかね)、滔々(とうとう)として止む所を知らず、また政治的には民主主義的政治が全盛を極め、思想的には自由主義、共産主義が公然と、又は地下鉄運動をなして国体を不明徴にし、甚だしきは国体を変革せんとするが如き不逞(ふてい)極る企図をなす者さえあった。而して、この経済機構、この政治体制、この思想の潮流は、次第に国家の伸暢力を衰退せしめ、遂に世界各国より我が国を軽侮するに至らしめ、なかんずく隣邦支那は、侮日、排日、抗日の攻勢的態度に出で、果ては我が同胞が血によって贏(か)ち得たる満州の特殊権益を奪還せんとし、さらに支那大陸より全面的に日本勢力を駆逐せんとしたのである。しかもなお国民の大多数はこれを対岸の火災視し、奢侈(しゃし)、虚栄、享楽を追ってひたぶるに亡国の一途を辿っていたのである。これは、云うまでもなくユダヤの策謀の陥穽(かんせい)にかかって踊れる姿であった。また、支那が同文同種、堅く相(あい)提携して東亜の安定に協力すべき日本に対し、かくの如き暴挙に出たことも、これ亦明らかにユダヤの謀略によるものであった。
かくて我が国は遂に起きあがった。即ち満州事変、支那事変がこれである。つまりユダヤ謀略を一掃せんとするための聖戦である。而して日本及び満州、支那大陸の一部よりは完全にユダヤの蛇を駆逐したが、前述の如くユダヤの蛇は東亜こそ近代における唯一の好餌として、執拗に東亜侵略を志し、遂にA・B・C・D包囲陣を形成するに至った。しかるに、我が国民中には、今なお毒蛇の吐き散らした毒菌に禍いされて、この重大時局を顧みず、依然として間接敵国に加担するに等しき行為を継続している者が少なくない。これが果して戦時国民の態度と云えるかどうか。今後もし、我が国がヨリ重大なる危機に立ち至った場合は、陰険なるユダヤの策謀はますます熾烈(しれつ)を極め、遂に我が国をして前大戦にドイツが敗戦したる原因に等しき国内紛争の魔手を振ることは火を見るよりも明らかである。我等国民は今こそユダヤの正体、ユダヤ謀略の真相をハッキリと認識し、以てこれに対処し、これを撃滅することに全力を挙げねばならぬ。
筆者は、過去二十年間にわたって、専らユダヤ謀略の研究に没頭してきた者であるが、今や彼らの毒手がこの重大時局に当ってますます猛威を発揮しつつあるの状態を見、拱手傍観(きょうしゅぼうかん)するに忍びず、これが撲滅の一端に資せんとする微衷(びちゅう)の下に本書を世に問わんとするものである。読者諸賢が本書に記述せる以外、更に言外の意味を汲み、以てユダヤ謀略排撃の一資料となされるならば筆者の本望これに過ぎない。
なお、本書刊行に当り、筆者が財的に孤立無援なることに同情し、また今日の国民の姿を見て憤慨してユダヤ謀略排撃の急務なることを痛感し、多大の援助を与えられたる任侠憂国の士印刷技術家渡辺熊吉氏並びにスメヨ夫人に深甚の謝意を表するものである。
昭和16年12月25日発行