モーゼの律法考

モーゼに「十戒」下される
 モーゼの「十戒」を確認しておく。
 ユダヤの民は、エジプトの国を出て三月目、レフィディムを出発して、シナイの荒れ野に着き、ここに天幕を張り宿営した。モーセがシナイ山の頂山へ呼び寄せられた。この時、主がモーゼに語りかけて次のように言われた。
 「ヤコブの家にこのように語り、イスラエルの人々に告げなさい。今、イスラエルの民が私の声に聞き従い、私との約束を守るならば、あなたたちはすべての民の間にあって私の宝となる。あなたたちは、世界の全ての国々を司る祭司の王国、聖なる民となる。これが、イスラエルの人々に語るべき言葉である。私は主、あなたの神、あなたをエジプトの国、奴隷の家から導き出した神である。次のことを命言する」。

 そして、次のような「十戒」を授けられた。
 汝、私の他に何者も神としてはならない。
 汝、いかなる偶像も造ってはならない。私に対しても然りで形有るものを造って拝してはならない。
 汝、神(主)の名をみだりに唱えてはならない。みだりにその名を唱える者を主は罰せずにはおかれない。
 汝、安息日を心に留め、これを聖別せよ。
 汝、父母を敬え。そうすればあなたは、あなたの神、主が与えられる土地に長く生きることができる。
 汝、殺してはならない。
 汝、姦淫してはならない。
 汝、盗んではならない。
 汝、隣人に関して偽証してはならない。
10  汝、貪る無かれ。隣人の家を欲してはならない。隣人の妻、男女の奴隷、牛、ろばなど隣人のものを一切欲してはならない。

 主はシナイ山でモーセと語り終えられたとき、二枚の掟の板、即ち神の指で記された石の板をモーセにお授けになった。この地でヤハウェと契約を結び「十戒」が授けられた。
 

「モーゼ律法」定まる
 モーゼは引き続いて「十戒に基づく律法」を制定した。まず、祭事の定めをし、諸作法、聖なる幕屋の作り方、祭壇、捧げ物の器、香炉などの諸々の祭具の取扱いを定めた。続いて、社会生活上の諸作法を定めてこまごまと指図している。概要次のような戒めであった。
1 【偶像崇拝禁止の定め】
 銀の神々も金の神々も造ってはならない。上は天にあり、下は地にあり、また地の下の水の中にある、いかなるものの形も造ってはならない。あなたはそれらに向かってひれ伏したり、それらに仕えたりしてはならない。わたしは主、あなたの神、わたしは熱情の神である。私を否む者には、父祖の罪を子孫に三代、四代までも問うが、私を愛し、私の戒めを守る者には、幾千代にも及ぶ慈しみを与える。
【祭壇の定め】
 私のために土の祭壇を造り、焼き尽くす献げ物、和解の献げ物、羊、牛をその上にささげなさい。私の名の唱えられるすべての場所において、私はあなたがたに臨み、あなたがたを祝福する。しかし、もし私のために石の祭壇を造るなら、切り石で築いてはならない。のみを当てると、石が汚されるからである。あなたがたは、階段を用いて祭壇に登ってはならない。あなたがたの隠し 所があらわにならないためである。
【奴隷の取扱いの定め】
 奴隷は、7年目には自由の身にしなさい。男でも女でも独り身で買ったのなら独り身のまま、自由の身にしなければならない。夫婦であったのなら、夫婦のまま自由の身で去らせなさい。
【嫁の取扱いの定め】
 娘の奴隷を他人に売ることはできない。息子の嫁には、実の娘同様に等しく扱いなさい。息子が別の女を嫁としても、生活のすべての面で差別してはならない。
【刑罰の定め】
 父や母を殺すのは勿論、父や母への恨み、傷害は死をもって償う。奴隷を酷使し打って死なせた場合、罰せられる。妊娠している女奴隷を酷使し流産させた場合、罰を与える。命には命を、目には目を、歯には歯を、火傷(やけど)には火傷を、傷には傷をもって償う。
【賠償の定め】
 牛が角で人を殺した場合、その牛は殺さなくてはならない。その肉は食べてはならない。自分が飼う牛が兇暴であることが族長に警告されていたのに。聞き入れないで起ったことであれば、牛の所有者も又死刑。賠償金で償う場合には、被害者側の要求額を速やかに受け入れ支払う。

 殺された者が奴隷の場合、銀30シェケルを支払う。牛一頭盗んだ者は、牛五頭で償わなければならない。羊一匹は、羊四匹で償う。償う力の無い者は、身を売って償う。

 自分の家畜が他人の畑を荒らし作物を食べてしまった場合、自分の畑の作物が最も豊かな時期に、被害にあった者の家畜に食べさす。 火事で害を与えた場合、火を出した者が誠意を持って償う。
 他人に金銀を預けてそれが盗られ、その盗人が捕らえられた場合、盗人は2倍にして償う。盗人が捕らえられない場合、金銀を預かった者は神の前で自分は盗っていないと誓う。
【結納の定め】
 処女を誘惑して肉体的に関係したならば、必ず結納金を払って妻としなければならない。彼女の父親が拒んだ場合、結納金に相当するだけのものを、銀で支払わなければならない。
【その他死罪の定め】
 女呪術師は生かしておいてはならない。全て獣姦する者は死罪。
【臨時雇用労務者の定め】
 臨時雇用労務者を虐げてはならない。あなた達は臨時雇用労務者の気持ちを知っているはずである。
10 【その他してはならないことの定め】
 未亡人や孤児を苦しめてはならない。神をののしってはならない。又、あんなたがたの上にある者を悪く言ってはならない。あなたの敵対する者の家畜が迷っているのに出会ったら、連れ戻さなければならない。
11 【利子の定め】
 貧しい者に金を貸す場合、彼らに対して高利貸しになってはならない。彼から利子を取ってはならない。
12 【法廷の定め】
 根拠の無い噂を流して法廷を煩わすようなことはしてはならない。悪人に加担して不法を引き起こす証人となってはならない。多数者に追随して悪を行ってはならない。法廷の争いに於いて、多数者に追随して証言し、判決を曲げてはならない。弱い者の訴訟に於いても曲げて庇ってはならない。訴訟に於いて、乏しい人の判決を曲げてはならない。偽りの発言を避けねばならない。罪無き人、正しい人を殺してはならない。私は、悪人を、正しいとすることはないからである。
13 【賄賂の定め】
 賄賂を取ってはならない。賄賂は目の開いている者の目を見えなくし、正しい人の言い分を歪めるからである。
14 【休耕の定め】
 。6年間耕作した土地は、7年目には休ませて休耕地としなければならない。
15 【安息日の定め】
 6日の間仕事をしたら、7日目には仕事を休まなければならない。七日目は、あなたの神、主の安息日であるから、いかなる仕事もしてはならない。あなたも、息子も、娘も、男女の奴隷も、家畜も、あなたの町の門の中に寄留する人々も同様である。元気を回復するためである。安息日には、あなたたちの住まいのどこででも火をたいてはならない。六日の間に主は天と地と海とそこにあるすべてのものを創造し、七日目に御業をやめて憩われたからである。主は安息日を祝福して聖別されたのである。最も厳かな安息日を守りなさい。それは、あなたたちにとって聖なる日である。それを汚す者は必ず死刑に処せられる。だれでもこの日に仕事をする者は、民の中から断たれる。イスラエルの人々は安息日を守り、それを代々にわたって永遠の契約としなさい。これは、永遠にわたしとイスラエルの人々との間のしるしである。
 あなたの豊かな収穫とぶどう酒の奉献を遅らせてはならない。あなたの初子をわたしにささげねばならない。

 モーセは戻って、主のすべての言葉とすべての法を民に読み聞かせると、民は皆、声を一つにして答え、「わたしたちは、主が語られた言葉をすべて行います」と言った。モーセは主の言葉をすべて書き記し、朝早く起きて、山のふもとに祭壇を築き、十二の石の柱をイスラエルの十二部族のために建てた。彼はイスラエルの人々の若者を遣わし、焼き尽くす献げ物をささげさせ、更に和解の献げ物として主に雄牛をささげさせた。モーセは血の半分を取って鉢に入れて、残りの半分を祭壇に振りかけると、契約の書を取り、民に読んで聞かせた。彼らが、「わたしたちは主が語られたことをすべて行い、守ります」と言うと、モーセは血を取り、民に振りかけて言った。「見よ、これは主がこれらの言葉に基づいてあなたたちと結ばれた契約の血である」。

 モーセはアロン、ナダブ、アビフおよびイスラエルの七十人の長老と一緒に登って行った。

 主はモーセに仰せになり、ユダヤの民の人口を調査させ、登録させ、各自は命の代償を主に支払わねばならない、とした。登録を済ませた二十歳以上の男子は、主への献納物としてこれを支払う。豊かな者がそれ以上支払うことも、貧しい者がそれ以下支払うことも禁じる。

 これ以降、ユダヤの民は、ヤハウェの民としての結束を強めることになった。

モーゼの主への諌め
 主は更に、モーセに言われた。
 「私はこの民を見てきたが、実にかたくなな民である。今は、私を引き止めるな。私の怒りは彼らに対して燃え上がっている。私は彼らを滅ぼし尽くし、あなたを大いなる民とする」。

 モーセは主なる神をなだめて言った。
 「主よ、どうして御自分の民に向かって怒りを燃やされるのですか。あなたが大いなる御力と強い御手をもってエジプトの国から導き出された民ではありませんか。どうしてエジプト人に、『あの神は、悪意をもって彼らを山で殺し、地上から滅ぼし尽くすために導き出した』と言わせてよいでしょうか。どうか、燃える怒りをやめ、御自分の民にくだす災いを思い直してください。どうか、あなたの僕であるアブラハム、イサク、イスラエルを思い起こしてください。あなたは彼らに自ら誓って、『私はあなたたちの子孫を天の星のように増やし、私が与えると約束したこの土地をことごとくあなたたちの子孫に授け、永久にそれを継がせる』と言われたではありませんか」。主は、御自身の民にくだす、と告げられた災いを思い直された。

 主は、御自身の民にくだす、と告げられた災いを思い直された。





(私論.私見)