その2 | 「当時のユダヤ社会に与えたルネサンスの影響考」 |
(最新見直し2006.10.9日)
古代から千数百年にわたりユダヤ人コミュニティは周辺文化から孤立した状況のなかで存続してきた。近代ヨーロッパの啓蒙思潮はこの状況を大きくゆさぶった。人間性の解放として始まったユダヤ人の思想と慣習の西欧化は、一部の西ヨーロッパ諸国やアメリカにおけるユダヤ人への市民権付与とともに、ユダヤ教の歴史に新しい時期を画すことになる。 18世紀のドイツに生きたモーゼス=メンデルスゾーンは,このような思潮のなかでの先覚的指導者であった。正統的信仰をもち,伝統的な日常生活上の規範を守ることに忠実で,ユダヤ人の解放が信仰を犠牲にしたものであってはならないとしながらも,彼はユダヤ人が自ら文化的閉塞状況にとじこもって自己解放を阻害すべきではないと考えた。そのため,教育といえばタルムードの学習に明け暮れていたユダヤ人に,ドイツ語や数学をはじめとする一般教育と職業技術の習得を勧めた。 人間性の解放というこのような動きは,時代精神に順応しようとするユダヤ人側の真摯な努力であったが,宗教の近代化とも結びつくのは必然的な勢いであり,ここに改革派ユダヤ教の誕生を見る。彼らは時代を超えた普遍性に富むものを強調しようとした。その結果,倫理性の高い預言者の教説はとくに評価される反面,伝統的な戒律のかなりの部分を否定し,また宗教儀式や祈祷書のなかに保持されていた民族性を極力排除することになった。このような改革派のあり方は伝統を重んじるユダヤ人の目にユダヤ教の堕落・否定と映じたのは言うまでもない。 近代主義と伝統主義への分極化のなかで,伝統的ユダヤ教の本質を残しながらも時代に適応し得るユダヤ教のあり方を求める動きが保守派ユダヤ教の誕生につながった。これは改革派の行き過ぎに対抗する形で登場した。彼らは歴史的に根拠をもち客観的に実証され得るものである限りにおいて改革を受け入れる立場をとり,進歩と伝統保持の統合をめざしている。 改革派にも保守派にも属さないユダヤ人はすべて正統派と総括されるが,一切の変革を拒否し,頑なに中世的伝統主義ユダヤ教を固持しようとする人々はそれほど多くない。新正統派と言われる大部分のユダヤ人は,現代社会の文化価値(たとえばテレビ・新聞などに象徴されるような)を受け入れることが時代への迎合とは考えず,時代を超えた啓示の妥当性を主張しつつ現代社会のなかでその価値と思想を表現し,生きようとしている。 改革派は伝統の束縛のないアメリカで最も発展し大きな勢力となっている。一方,イスラエル国では正統派以外の二派は認知されていない。 |
(私論.私見)