FLCCCの提言以前から、イベルメクチン使用に向けた動きは、国会でも活発化していた。立憲民主党の松原仁衆院議員が言う。
「厚労省が新型コロナ『診療の手引き』で適応外使用を認める、イベルメクチンなど10種の薬剤の緊急使用に関する法案を、6月8日に議員立法で提出しました。私が加わったのは、コロナの診療経験が少ない大島など島嶼(とうしょ)部の有権者から、服用が簡単で常温保存できるイベルメクチンを望む、多くの声が寄せられたから。16日に閉会した通常国会の会期中には成立させられませんでしたが、時間がかかっても可決させる意義は大きいと思います」
この法案を主導したのは、先に花木氏の談話に登場した中島克仁議員で、医師としてイベルメクチンを処方した経験もあると話す。
「40年前から世界各国で年間3億人に服用され、副作用がほとんどなく安全性が確立されている。感染初期に自宅待機する人も安心して飲めます。投与してみて、経過がよくなったこと以上に、自宅で医師に相談できず薬は解熱剤程度というなかで、患者さんの不安を取り除く効果も感じました」。
議員立法については、
「これが求めるのは、薬の承認ではなく緊急使用許可。厚労省はコロナの『診療の手引き』で、事実上使っていいと言っています。つまり1年以上前から、レセプト(診療報酬の明細書)を詳記すれば保険適用の対象ですが、国の健康被害副作用救済制度の対象になっていません。また、一般の医師がガイドラインに沿って使いたくても、販売規制がかかっていて使えないのが現実です。厚労大臣が使用を事実上許可した以上、法的根拠をもって緊急使用を許可し、命を救うための選択肢を広げてほしい、国の救済制度の対象とし、供給確保に努めてほしい、というのが法案の内容です」
やはり医師でもある、立憲民主党の吉田統彦(つねひこ)衆院議員によれば、
「欧米の多くの国にコンパッショネートユースという制度があります。生命に関わる疾患等を有する患者救済を目的に、代替療法がない場合など、限定的な状況下で未承認薬の使用を認める制度で、未承認の医薬品が、副作用被害救済制度の対象になるケースがほとんどです。米国ならFDA(食品医薬品局)などが判断すれば、未承認薬の使用が可能で、その際、製薬会社でなく医師の意向でも申請できる。日本に同様の制度があれば、イベルメクチンはメルク社が承認申請をしていなくても、承認された薬剤と同等に使えます」
「国民の命と健康を守る」といった言葉をお題目で終わらせないためにも、ここは欧米に倣(なら)うべきだろう。
だが法案は審議すらされず、中島議員は「憤りを感じる」と語り、効果が確認されながら厚労省が動かない原因は「メルク社の圧力ではないか」と疑う。メルク社とは、イベルメクチンの製造および販売元、米国の大手製薬会社である。
「現在、メルク社は新薬開発に力を入れており、イベルメクチンのように特許が切れている薬は、効果が認められても投資するメリットがない。薬の承認システムは、平時は製薬会社主導でも、有事には既存薬に関しては、国の主導で使えるようにすべきです」(同)
メルク社の日本法人MSDの広報の説明では、
「メリットがないから生産を増やさないのでなく、科学的に、有効性と安全性のエビデンスが不足し、確実なデータは存在しないと考えているのです」
だが、同社が開発中の経口薬「モルヌピラビル」を米国政府が「12億ドルで購入」と報じられたばかりである。結果として、治験に協力している東京都医師会の、角田徹副会長によれば、
「もともと疥癬の薬なので、その対象分以上の数をメルク社が卸しておらず、使いたくて注文しても、品薄で手に入りません」
長尾院長は、「不足したことはない」そうだが、「使っている医師が少ないからではないか」と加える。ともかく厚労省は、コロナへの使用と保険適用を認めるなら、流通量の確保にも努めるべきだ。そのうえで一刻も早く、緊急使用を認めてほしい。梅村議員が言う。
「イベルメクチンは歴史が古い薬で、使えることになればジェネリックのほうが売れると思う。すると先発メーカーは、治験への投資に見合う利益を得られません。ただ、これはどんな薬にも起きうること。緊急使用を認めた場合、国が製薬会社の利益もセットで保障することなども、必要ではないでしょうか」
メルク社が動かないなら、ジェネリックを、日本でも開発し、海外から輸入する。そういう機動性が「安全、安心」の実現のために、いま求められるのではないか。
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