2008岩国市長選考

 (最新見直し2008.2.3日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 
 2008.2.3日 れんだいこ拝


Re:れんだいこのカンテラ時評367 れんだいこ 2008/02/05
 【2008岩国市長選に寄せて】

 2008.2.3日、岩国市長選が公示された。2.10日の開票へ向けて7日間の選挙戦に突入した。この選挙の持つ意味は大きい。一言で云えば、権力の理不尽な押し付けに対して、人民大衆側がどう戦うのかの問題である。住民はどこまで耐えればよいのか。原発然りで、補助金を餌に将来取り返しの付かない愚行に手を染めてもよいのか。これが問われている。

 前市長・井原勝介候補(57)は、日米政府が推し進める米軍再編問題に絡んで、岩国基地に厚木基地から艦載機59機を移転させようとする基地強化問題が浮上するや、この間一貫して反対してきた。これに対しこたび、自民党が刺客候補として前衆院議員の福田良彦候補(37)を掛け合わせ、一騎打ちとなっている。

 在日米軍の再編問題をめぐって3度目の審判と云え、日米政府のゴリ押しの限度が問われている。福田氏の衆院議員辞職に伴い、4.27日、岩国市を大票田とする衆院山口2区補選が実施される。市長選の結果は同補選へも影響するとみられる。

 この間の経緯を見ておく事にする。

 1999年、井原氏が初当選。どの時点かは判明しないが在日米軍の再編が浮上し、2005.10月、在日米軍の再編に関する中間報告がまとめられた。それによると、米軍普天間飛行場に代わる施設の建設地やキャンプ座間の改編とともに、山口県岩国基地の強化が計画されていた。井原市長は、普天間飛行場にある空中給油機の移転を受け入れると表明したが、空母艦載機の移転については負担が過大になるとして拒んだ。政府は懐柔策として岩国市の新市庁舎建設費を補助することを決め、2005年度3億円、2006年度11億円の補助金を交付している。

 2006.3月、住民投票が行われ、移転反対派が87%を占め拒否した。住民は圧倒的に拒否した事を意味する。

 2006.4.23日、市長選が行われた。現職の井原氏は、「岩国基地増強化計画撤回」を訴え、自民党の全面バックアップをうけた味村太郎氏に大差をつけて当選した。当日有権者数は12万2079人(男性5万7083人、女性6万4996人)。投票率は65・09%。井原氏が5万4144票、味村太郎氏が2万3264票、田中清行氏が1480票、無効票が576票であった。

 2006.5月、在日米軍の再編に関する最終報告が固まり、日米両政府は14年までに再編を完了することで合意した。政府は何としてでもゴリ押しし始める。

 2006.12月、政府は、米軍再編事業の円滑な実施ができないとして、移転反対を理由に2007年度に予定していた新市庁舎建設補助金約35億円を凍結した。これを機に、井原氏と移駐容認派が多数を占める市議会との対立が激化した。井原前市長は代替財源として補助金を合併特例債で穴埋めする予算案を提出したが、市議会が4回にわたり否決するという異例事態になった。

 2007.12.26日、井原市長は、予算成立と引き換えに市長を辞職した。

 以上がこたびの市長選の伏線である。以下、れんだいこが、岩国市長選について檄を飛ばしておく。

 岩国市長選は、現職市長派がお上に楯突いて、地元の百年の計を御旗に正面から闘いを挑むという稀有な事例となっている。れんだいこは、市長派を断然支持する。岩国市民は、広島原爆の二の舞になる将来に於ける岩国被爆撃危険の愚を招き入れてはならない。それは、原子力発電所を引き込むに等しい。僅かばかりの一時の資金餌に誘導されてはならない。

 現代国際金融資本帝国主義の発動する米軍基地再編にひたすら従順に御用聞きする日本政府に対して、投票箱に弾我のごとく撃ち込まねばならない。補助金ストップで立ち往生させるという卑怯姑息なやり方そのものに対して、怒りをぶつけねばならない。岩国市民よ、ゼニに目がくらんで地元を売ることのないようしゃんとしんしゃい。

 2008.2.5日 れんだいこ拝

 2008.1.31日、大阪府知事選に当選した橋下氏は、岩国市長選に絡み、移転容認派の福田良彦前自民党衆院議員を支援。大阪府庁で記者団に「防衛政策に自治体が法律上の手続きを使って異議をさしはさむべきではない」と発言した。

 2008.2.5日、民主党の小沢一郎代表が大阪市内で記者会見し、大阪府知事選に当選した橋下徹氏が山口県岩国市長選にからみ、米空母艦載機部隊の移転をめぐる住民投票を疑問視した発言について次のように語った。
 「理解できない。国政の大きな背景はあるが、住民の納得を得なければ実際にはできない。住民がどういう判断を下すか見極めるしかない」

 安保政策であっても岩国市民の判断を優先すべきだとの考えを示した。小沢発言は間接的に井原氏を援護した形になる。(2008.2.5日付毎日新聞記事参照)

 琉球新聞の「岩国市長選 問われる「アメとムチ」政策」は次の通り。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-31096-storytopic-11.html

 米軍基地を抱える山口県岩国市の出直し市長選が告示された。米軍厚木基地(神奈川県)の米空母艦載機部隊を受け入れるかどうかが最大の争点である。

 米軍再編に伴い政府から新たな基地の負担を迫られ、民意に基づいて反対を貫こうとすると「アメとムチ」の政策が容赦なく降り掛かってくる。結果、受け入れの是非をめぐり地域や市民が真っ二つに分断され翻弄(ほんろう)される。

 わたしたちが過去に幾度か直面させられ、「苦渋の選択」を強いられたあの構図である。無関心ではいられない。

 選挙は、移転容認派が多数派を握る議会との対立から、民意を問うため任期途中で市長の職を辞した井原勝介氏と、移転賛成の立場から立候補した前自民党衆院議員の福田良彦氏による一騎打ちの争いである。

 艦載機の岩国への移転は、2005年秋の米軍再編の中間報告で明らかになった。これに対し、当時市長だった井原氏は受け入れを拒否。翌年3月に実施された住民投票では「反対」が約9割を占め、
その直後の市長選では井原氏が容認派候補らに圧勝した。これだけでも、民意の所在がどこにあるかは明らかだ。なのに同じテーマを短期間に、なぜ3度も問わねばならないのか。

 理由は、米軍再編推進法に基づく交付金を盾に、要求を一方的に押し付けようとする政府の手荒な手法にある。

 既に建設に着手していた市庁舎の建て替えに対し、政府は、受け入れない限り補助金35億円は凍結すると、強権的な姿勢をむき出しにしてきた。「アメとムチ」のこの強引さは、政府が昨年、北部振興費を凍結した際に見せたのとまったく同一だ。

 政府に異議を申し立てるや、露骨な「兵糧攻め」に出る。地域の声を無視したこうした理不尽なやり方は、問題をこじらせ、政府への不信、ひいては防衛政策への不信を増幅するだけだ。
 今選挙では「最新の民意」と同時に、政府の姿勢や政策に対し市民の審判が下される。


 「今週末の岩国市長選は、歴史に残る選挙です = 上原公子(前国立市長)」は次の通り。 

http://www.magazine9.jp/usarmy/002/index.php

岩国市長選挙の焦点は、米軍基地艦載機移転問題だけではありません。「アメとムチ」に屈し、国の傀儡となることをずるずると許すのか? 毅然と地方自治と真の民意を守りきれるのか? 日本の民主主義が問い直される、重要な選挙だと上原公子さん。その意味について、緊急にお聞きしました。

 日米再編に伴い、地方自治つぶしが始まっている

 2月10日に山口県岩国市で行われる市長選は、歴史に残る選挙だと私は思っています。その理由は、今、岩国で起こっている問題は、大規模な米軍の部隊が、厚木から移転してくることだけではないからです。もちろん、そのことも大問題です。しかしもう一つの大きな問題は、市民自治つぶし、地方自治つぶしがあからさまに「法的」にやられていることです。

 2007年、補助金の特措法、「米軍再編推進法(駐留軍等再編円滑実施特別措置法)」が作られました。この特措法では、「(国の)言う事を聞く地域にはお金をあげるけれど、そうじゃない地域には一銭もださない」とあからさまに兵糧攻めがやれるのです。国民投票法成立の陰に隠れて、メディアはほとんど取り上げませんでしたが、これは恐ろしい法律です。私も国立市長の時に、住基ネット切断などで、国から補助金をめぐってじんわり圧力を受けましたが、それは見えないようにやられていましたし、国もそれなりの削減根拠を作ってきていました。

 岩国市は「市民の負担を重くする今以上の基地強化は認められない」という立場をとっていますから、米軍再編に伴う交付金対象から外れてしまっているのです。岩国には基地がすでにこんなにあるのにです。

 市庁舎建設のための補助金カットは、あまりにも強引

 岩国市は、以前に前の市長が約束をしていた、普天間基地から岩国基地への空中給油機移転の見返りによる交付金をあてて、3年計画で市庁舎建設を進めていました。それなのに突然工事の最終年度になって、35億円をカットされるという事態になり、市庁舎は未完成のまま工事はストップ。この35億円については、今回の米軍再編に伴う基地移転とは、何も関係ないのにです。

 厚木艦載機の基地移転については、これまで2回も反対の民意が示された、それなのにつぶさんとする、それも「お金」をつかって。国は、地域の地元住民や市長と話し合いを持つこともなく、いきなりの補助金カットを決めたのです。このえげつなさには、日本は本当に民主国家なのか? と疑いたくなる思いです。

 憲法92条をつぶすな

 先日、「国の言うことに、地方は口を出すな」と間違ったことを言い出す知事が誕生したことに、また危機感をつのらせています。大阪で行われた記者会見で彼は、「国の専権事項に、地方があれこれ言うのもおかしい。憲法を勉強してください」そう言ったそうですが、私は彼にこそ、憲法の第8章、「地方自治」の章、92条をしっかりと読んで理解してほしいと思います。

 92条の条文は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。」そうあります。

 この条文は、国と地方が対等であり、対立するものである、ということを保障しています。92条についての伊藤真さんの解説を引用しますと、「この“地方自治の本旨”とは、一般には「住民自治」と「団体自治」という言葉で表します。住民自治とは、地方自治は住民の意志に基づいて行われるべきという民主主義的な要素、団体自治とは、地方自治は国から独立した団体に委ねられ、その団体自らの意志と責任の下で行われるべきという自由主義的な要素です。」

 私がどうしても「ここで井原さんをつぶせない」と考えているのは、このままでは、この92条をつぶすことになるからです。民主主義、地方自治、国民主権をつぶしてしまうことになる。だから、この選挙は「歴史に残る選挙」なのです。

 この岩国の問題について、全国のみなさんが我が地域の、自分自身の問題にして、問い直してもらいたいのです。ただ単に、「岩国が大変だ、岩国がかわいそう」という問題ではありません。

 “民主主義の学校”を守れ

 「地方自治」は、明治憲法下にはなかった規定です。明治時代には、地方自治体は、中央政府の出先機関であり、知事も中央政府から派遣されて仕事をしていました。

 地方自治が日本国憲法で明確に規定されたことには、「自由主義的な意義」と「民主主義的な意義」という二つの意味があると言われています。自由主義的な意義とは、中央の権力が強大化するのを抑えるために地方に分散させるという権力分立の発想があります。戦前のファシズムが再び起こらないように、国が暴走しないようにということからも考えられたことです。

 それなのに今、「国のことに地方自治体が口を出すなんて“憲法違反”」というような、とんでもない府知事が登場し、それがまた人気を博していたりと、このことが、非常にあぶないと思います。

 そして地方自治は、そこに暮らす人たちが、自分たちで考え、自分たちでやることです。だから直接民主主義的な制度も多く取り入れられているし、「地方自治は民主主義の学校」という言い方もされています。人々が、より直接的に政治的な関わりを持つことで、主権者としての意識を持つためです。「今の状況を変えたいから、強いリーダーに頼っておこう」ということではないはずです。もちろん地方が国の傀儡となるものではありません。

 心身を蝕む基地の爆音、恐怖

 ところで、多くの人にはなかなかイメージできないかもしれませんが、基地がわが町にやってくるというのは、どういうことでしょうか? まず私たちの日々の生活に、ものすごい爆音や危険が入り込んでくるということです。それも一過性や期限付きのものではありません。

 厚木基地訴訟であんなに長い間、市民ががんばっているのは、それはもう殺人的な爆音が耐えられないからです。凄まじい音をたてる空母艦載機の訓練を昼夜かまわずやる。夜中、早朝それらが続くと、誰だって心身共におかされていきます。私は実際に、現場の人に話を聞きましたが、その騒音、ひどい時には30分に36回、飛び立つというのだから、じつに、爆音がずっと継続していると考えた方がいいでしょう。

 その見返りとしての補助金があるじゃないか、と言う人もいるでしょう。しかし、横田基地や厚木基地のある場所が、抜群にうるおっているでしょうか?現実を見たら、ぜんぜんそうじゃないことがわかるでしょう。

 岩国では、市長が替わって受け入れに賛成したら、交付金が1兆円くるという、デマが飛び交っているそうです。そして各戸に2万円渡されるというデマもあるそうです。それに2万円もらって、眠れない日々を一生送らなくてはならないなんて、なんて愚かしいことと思います。誰だって自分の命や家族の命のことの方がずっと大切なはずです。

 変質し強化される日米同盟

 一度、基地を受け入れたら、基地に依存する街になってしまいます。そういう街は、全国のあらゆる場所にあります。今、地方はどこも大変です。財政赤字で苦しんでいます。しかし、基地で一時的に潤ってもすぐに枯渇し、また基地を受け入れていくことでしか、自立できない自治体になってしまっては、未来はありません。ここには様々な問題があります。しかし地方は、たくさんいいものを持っているのだから、それを活かすまちづくりをもっと考えていかなければ、と思います。

 そしてこれは、遠い地方の問題ではありません。米軍再編が拡大する中、日米同盟が強化されつつある中、あなたの街にも、家のすぐ近くにも、ある日突然、米軍基地が、米軍住宅がやってくるかもしれない。

 私たちは、米軍再編によって変質した日米同盟についても、根本から国民の側から、改めて問い直す時期にきているのではないでしょうか。

 (2008年2月3日インタビュー)

上原公子(うえはら・ひろこ)宮崎県生まれ。法政大学大学院修士課程中退。元東京・生活者ネットワーク代表、東京国立市市会議員、水源開発問題全国連絡会事務局、国立市景観裁判原告団幹事を経て、1999年5月、国立市長に立候補し当選。2期8年務め、2007年4月に退任。著書に『〈環境と開発〉の教育学』(同時代社)『どうなっているの?東京の水』(北斗出版)など。『マガジン9条』 の発起人の一人。






(私論.私見)

論.私見)