イラク派兵違憲訴訟考

 (最新見直し2008.4.22日)

 (急遽サイト化したので不十分であるがとりあえず)

 (れんだいこのショートメッセージ)

 2008.4.22日 れんだいこ拝


【2008.4.17判決】
 2008.4.17日、自衛隊イラク派遣の差し止めや派遣の違憲確認などを求めて全国の市民3千人以上が提訴した集団訴訟の控訴審判決が名古屋高裁で下った。2004.2月の1次提訴から5次まで3251名の1審原告の中から控訴した原告と、1審途中で分離した天木直人元レバノン大使、そして第6次・7名の、合計1122名の原告による3つの控訴審に対し、民事3部の青山邦夫裁判長ら3裁判官が、一括採決の主文として原告の請求を退けた一審の名古屋地裁判決を支持、「1、本件控訴をいずれも棄却する 2、控訴費用は控訴人らの負担とする」として控訴を棄却したが、判決理由の中で「現在の航空自衛隊のイラクでの活動は日本国憲法9条1項に違反している」との判断を示した。

  裁判は2004.2月に最初の提訴があり、7次にわたって3237人が原告として名を連ねた。名古屋地裁は2006.4月、派遣差し止めを却下、慰謝料請求を棄却、憲法判断を避ける判決を言い渡していた。控訴審には1122人の原告が参加した。審理の中ではイラクの現状を記録したDVDを見たり、原告側が申請した証人2人が陳述するなどして、裁判官側も原告の主張に耳を傾ける姿勢を示した。

 イラク派遣差し止めをめぐっては、2004.1.28日、元郵政大臣・箕輪登氏(故人)が、「イラクおよびその周辺地域への派兵禁止と、その行為の違憲確認を求めた」訴訟を提訴して以来、全国で北海道、仙台、栃木、東京、静岡、京都、大阪、岡山、熊本等12件に上り、原告総数約5800名、弁護団は800名を超えている。これまでいずれも原告敗訴の判決が出ている。全国で起こされたイラク派遣をめぐる訴訟で、一、二審を通じて違憲判断が示されたのは初めてとなった。


 今回の名古屋高裁判決は形式的に原告敗訴ではあるが、内容で実質勝訴となっていることから原告側は上告しないため、このまま判決が確定する。

【2008.4.17判決の法理論】

 判決は、【派遣の違憲性】について次のように述べている。

 自衛隊の海外活動に関する憲法9条の政府解釈は、自衛のため必要最小限の武力行使は許されるとし、武力の行使とは、わが国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいうことを前提としている。

 自衛隊の海外での活動については(1)武力行使目的の「海外派兵」は許されないが、そうではない「海外派遣」は許される(2)他国による武力行使への参加に至らない輸送や補給などの協力は、他国による武力行使と一体となるようなものは自らも武力を行使したとの評価を受けるため許されないが、一体とならないものは許される(3)一体化の有無は、戦闘活動の地点と行動場所との地理的関係や行動の具体的内容、協力する相手の活動状況などを総合的に勘案して個々的に判断される。

 イラク特措法はこうした政府解釈の下、人道復興支援活動または安全確保支援活動を行うこと(1条)、活動は武力による威嚇または武力の行使に当たるものであってはならないこと(2条2項)、戦闘行為が行われることがないと認められる地域で実施すること(2条3項)を規定。「国際的な武力紛争」とは国または国に準じる組織の間で生じる国内問題にとどまらない武力を用いた争いだ。

 認定できる事実によると、2003年5月のブッシュ大統領による主要な「戦闘終結宣言」後も、米軍を中心とする多国籍軍はバグダッドなどの都市で、多数の兵員を動員し武装勢力の掃討作戦などを繰り返し、標的となった武装勢力は海外の勢力からも援助を受け、米軍の駐留に反対するなど一定の政治的目的を有して相応の兵力を保持し組織的、計画的に多国籍軍に抗戦している。

 その結果、多数の死傷者が出ており多国籍軍の活動は単なる治安活動の域を越えている。イラクでは宗派対立に根差す武装勢力間の抗争や武装勢力と多国籍軍との抗争があり、これらが複雑に絡み合い泥沼化した戦争の状態になっている。多国籍軍と国に準じる組織と認められる武装勢力との間で、治安問題にとどまらない武力を用いた争いがあり、国際的な武力紛争が行われている。

 特にバグダッドは07年に入っても、米軍がシーア派、スンニ派の両武装勢力を標的に掃討作戦を展開。武装勢力も対抗し、多数の犠牲者を出しており、国際的な武力紛争の一環として殺傷や破壊行為が現に行われ、イラク特措法にいう「戦闘地域」に該当する。

 航空自衛隊は、米国の要請を受け06年7月ごろ以降、バグダッド空港への空輸活動を行い、輸送機3機により週4、5回、定期的にクウェートの空港からバグダッド空港へ武装した多国籍軍の兵員を輸送している。

 空自の輸送活動は、主としてイラク特措法上の安全確保支援活動の名目で行われ、それ自体は武力の行使に該当しないとしても、現代戦では輸送なども戦闘行為の重要な要素であり、多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているといえる。

 空自の空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍の武装兵員を、戦闘地域のバグダッドへ空輸するものについては、他国による武力行使と一体化した行動で、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない。

 空自の空輸活動は、イラク特措法を合憲としても、武力行使を禁止した同法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、憲法9条1項に違反する活動を含んでいる。

 【平和的生存権】について次のように述べている。

 平和的生存権はすべての基本的人権の基礎にあり、単に憲法の基本的精神や理念を表明したにとどまらず、憲法上の法的な権利として認められるべきだ。

 裁判所に対し、その保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求できる具体的権利性が肯定される場合がある。憲法9条に違反する戦争の遂行や武力行使などで個人の生命、自由が侵害される場合や、戦争への加担・協力を強制される場合には、裁判所に対し違憲行為の差し止め請求や損害賠償請求などにより救済を求めることができる場合がある。

 【控訴人らの請求】について次のように述べている。

 本件の違憲確認請求はある事実行為が抽象的に違法であることの確認を求めるもので、現在の権利や法律関係に関するといえず請求は確認の利益を欠き不適法だ。

 本件の差し止め請求は防衛大臣による行政権の行使の取り消し変更またはその発動を求める請求を含む。このような行政権の行使に対し、私人が民事上の請求権を有すると解することはできず、訴えは不適法だ。

 控訴人らの切実な思いには平和憲法下の国民として共感すべき部分が多く含まれるが、本件派遣によって具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められない。損害賠償請求で認められる程度の被侵害利益がいまだ生じているとはいえず、本件損害賠償請求は認められない。


【2008.4.17判決の反響】
 判決後、原告団集会が中区桜華会館で開かれ、原告、弁護士、支援者が実質勝訴を確認した。「日本の司法の良心が示された」、「9条がある国に生きていてよかった」、「戦後61年、初めて憲法違反の判決が出た」などと喜びの渦に沸きかえっていた。

 集会の最後に川口創弁護士が概略次の声明を読み上げた。

 「自衛隊が現在行っている米兵等の輸送活動は、他国による武力行使と一体化したものであり、イラク特措法2条2項、同3項、かつ憲法9条1項に違反する」と判決文にあり、これは自衛隊のイラクでの活動が違憲であると司法判断を下したものである。加えて「平和的生存権は全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基本的権利である」とあり、平和的生存権の具体的権利性を正面から認めた」。

 「憲法と良心に従い、憲法を守り平和と人権を守るという役割を認識し、勇気をもって裁判官の職責を全うした名古屋高裁・青山邦夫、坪井宣幸、上杉英司の諸氏に敬意を表するものである。同時に、本判決が我が国憲政史上、高く評価される歴史的判決として長く記憶されことになるであろう」。

 集会で弁護団長の市川弁護士は次のように述べた。
 「裁判の判決では四日市公害裁判のとき以来、初めて法廷で涙を流しました。よくぞここまで踏み込んだと…。司法はまだ生きているとしみじみ痛感しました。3裁判官は命を懸け、職を賭して、あの判決を書いたと思います」 。

 「自衛隊イラク派兵差止訴訟の会」の池住会長は次のように述べた。
 「私の人生のなかで誇りを持って語れる日です。生きているものの1人として誇りを持って語れる判決がでました。全国の人々に訴え続けて4年2ヶ月。原告の方、弁護団の皆さん、そして支援者の方々、本当に多くの皆さんの声がうねりとなり、力となって戦い続けた結果がこの判決です。この違憲判決を元に、後は実質的に政治を動かすこと。これから本当のわれわれの行動が始まります」。

  「憲法9条は生きている。力があると認めた画期的な判決です」と述べた川口弁護士が、会場のほぼ全員が涙ぐみ、そして笑顔がこぼれるなかで、閉会を告げた。参加者の拍手はいつまでも鳴り止まなかった。平和を求める多くの国民の訴えは見事に通じ、4月17日は憲法9条再生の日となった。 「実質的な勝訴判決」と受け止めた原告側は上告しない方針を表明している。勝訴した被告の国側は上告できないため、今回の高裁判決は確定する見通しだ。集会の最後、撮影の要請に応じ「笑顔の原告と代理人代表たち」18日に上京し政府に申し入れをするという。





(私論.私見)