2003年宣言

 (最新見直し2007.8.7日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここに「広島平和宣言を収録しておくことにする。「長崎平和宣言」はリンクにとどめる。

 2007.8.7日 れんだいこ拝


秋葉広島市長と小泉首相の鮮やかな対比考 れんだいこ 2003/08/09
 2003.8.6日、広島で原爆慰霊祭が行われた。れんだいこはたまたまその時テレビを付け、その様子を見た。前後は失念したが、小学生か中学生か男女それぞれが平和の訴えを真剣に為した。広島市長秋葉忠利氏が、以下のようなメッセージを読み上げた。昨今珍しい歯に衣着せぬ宣言文で、心を打った。「日本の洗濯」は、各員がそれぞれの持ち場からかような態度を旗幟鮮明にしていくことからもたらされるのでは無かろうか。

 滑稽なことは、秋葉市長の力強く怜悧な告発の後を受けて小泉首相が登壇し、通り一片の官僚作文を棒読みしたことである。鮮やかな対比であった。この時、一国の総理の器に在らざる様子を見て取ったのはれんだいこだけであろうか。

 宣言文は云う。核不拡散条約体制が崩壊の危機に瀕(ひん)しているのは、「『核兵器は神』であることを奉じる米国の核政策が最大の原因」である。胸のすくような指摘では無かろうか。続いて、今や我が国が、「国連憲章や日本国憲法さえ存在しないかのような言動が世を覆い、時代は正に戦後から戦前へと大きく舵(かじ)を切っている」状況にあると懸念を表明する。「『戦争が平和』だとの主張があたかも真理であるかのように喧伝(けんでん)」されているとも告発する。リンカーン大統領の「全(すべ)ての人を永遠に騙(だま)すことはできません」の言葉を引用して、「暗闇を消せるのは、暗闇ではなく光だ」、「力の支配は闇、法の支配が光」だと訴える。

 米国のブッシュ大統領の広島訪問を呼びかけ、日本政府に対しては、「唯一の被爆国」としての日本の国際責務を果たせと要望する。「同時に、世界中の人々、特に政治家、宗教者、学者、作家、ジャーナリスト、教師、芸術家やスポーツ選手など、影響力を持つリーダーの皆さんに呼び掛けます。いささかでも戦争や核兵器を容認する言辞は弄(ろう)せず、戦争を起こさせないために、また絶対悪である核兵器を使わせず廃絶させるために、日常のレベルで祈り、発言し、行動していこうではありませんか」とも呼びかける。

 政治を執行する立場の者が変われば、これだけ表現が変わる。おざなりの官僚作文が退けられ、こんなに生き生きとした言葉に変わる。それが確認できたような平和宣言であったと思う。及ばずながられんだいこも何がしか寄与してみたいと思う。

 ちなみにれんだいこは被爆二世です。親父が緊急召集に応じ、投下直後に広島入りしたことに因ります。その親父はやはりガンで逝った。平和がなぜ大事かというと、戦争が常に本来何の憎しみも無い人民大衆同志の犠牲で成り立ち、仕掛け人の方はいつも後方でぬくぬくしているという許し難さにもある。前線を「天皇陛下万歳」で送り出した司令官が逸早く逃げ帰った例は枚挙に暇ない。今日の戦争屋も又然りであることは疑いない。

 例の、「フセインが見つからないといって、フセインが居ないということにはならない。イラクで危険兵器が見つからないといって存在しないことにはならない」なる詭弁を弄び、各国の元首に興じて披瀝する脳タリン野郎など、さしづめ人には戦地に赴かせ、おのれは歌舞伎に興じる手合いだろう。漬ける薬が無いとはこういう手合いのことを云うのだろう。

 せっかくだから、小泉に返答しておこう。「明らかに存在していたフセインが隠れた例と、未だ存在そのものが確認できない危険兵器とを同一条件で設定し、『どちらも見つからないといって存在しないことにはならない』などと結論づけ得意がる」汝は、言動記録が克明に残される首相として、恥ずかしくないか。れんだいこは、歴史にこれほど汚濁を垂れ流す首相を知らない。

 悪いことは云わない。日本史上の恥の上塗りになるから、一刻も早く引退しなさい。その小泉にあやかって選挙戦を乗り切ろうなどというさもしい根性の政治家も同様である。君らは十分飯食ってきた。もうこれ以上我が国を悪くせんといてくれ。頭丸めて総辞職し、二度と議事堂へ立ち寄りしなさんな。

 2003.8.9日 れんだいこ拝


【2003.8.6広島原爆忌:平和宣言(全文) 】(「平和宣言」
 今年もまた、58年前の灼熱(しゃくねつ)地獄を思わせる夏が巡って来ました。被爆者が訴え続けて来た核兵器や戦争のない世界は遠ざかり、至る所に暗雲が垂れこめています。今にもそれがきのこ雲に変わり、黒い雨が降り出しそうな気配さえあります。

 一つには、核兵器をなくすための中心的な国際合意である、核不拡散条約体制が崩壊の危機に瀕(ひん)しているからです。核兵器先制使用の可能性を明言し、「使える核兵器」を目指して小型核兵器の研究を再開するなど、「核兵器は神」であることを奉じる米国の核政策が最大の原因です。

 しかし問題は核兵器だけではありません。国連憲章や日本国憲法さえ存在しないかのような言動が世を覆い、時代は正に戦後から戦前へと大きく舵(かじ)を切っているからです。また、米英軍主導のイラク戦争が明らかにしたように、「戦争が平和」だとの主張があたかも真理であるかのように喧伝(けんでん)されています。しかし、この戦争は、国連査察の継続による平和的解決を望んだ、世界の声をよそに始められ、罪のない多くの女性や子ども、老人を殺し、自然を破壊し、何十億年も拭(ぬぐ)えぬ放射能汚染をもたらしました。開戦の口実だった大量破壊兵器も未(いま)だに見つかっていません。

 かつてリンカーン大統領が述べたように「全(すべ)ての人を永遠に騙(だま)すことはできません」。そして今こそ、私たちは「暗闇を消せるのは、暗闇ではなく光だ」という真実を見つめ直さなくてはなりません。「力の支配」は闇、「法の支配」が光です。「報復」という闇に対して、「他の誰にもこんな思いをさせてはならない」という、被爆者たちの決意から生まれた「和解」の精神は、人類の行く手を明るく照らす光です。

 その光を掲げて、高齢化の目立つ被爆者は米国のブッシュ大統領に広島を訪れるよう呼び掛けています。私たちも、ブッシュ大統領、北朝鮮の金総書記をはじめとして、核兵器保有国のリーダーたちが広島を訪れ核戦争の現実を直視するよう強く求めます。何をおいても、彼らに核兵器が極悪、非道、国際法違反の武器であることを伝えなくてはならないからです。同時に広島・長崎の実相が世界中により広く伝わり、世界の大学でさらに多くの「広島・長崎講座」が開設されることを期待します。

 また、核不拡散条約体制を強化するために、広島市は世界の平和市長会議の加盟都市並びに市長に、核兵器廃絶のための緊急行動を提案します。被爆60周年の2005年にニューヨークで開かれる核不拡散条約再検討会議に世界から多くの都市の代表が集まり、各国政府代表に、核兵器全廃を目的とする「核兵器禁止条約」締結のための交渉を、国連で始めるよう積極的に働き掛けるためです。

 同時に、世界中の人々、特に政治家、宗教者、学者、作家、ジャーナリスト、教師、芸術家やスポーツ選手など、影響力を持つリーダーの皆さんに呼び掛けます。いささかでも戦争や核兵器を容認する言辞は弄(ろう)せず、戦争を起こさせないために、また絶対悪である核兵器を使わせず廃絶させるために、日常のレベルで祈り、発言し、行動していこうではありませんか。

 また「唯一の被爆国」を標榜(ひょうぼう)する日本政府は、国の内外でそれに伴う責任を果たさなくてはなりません。具体的には、「作らせず、持たせず、使わせない」を内容とする新・非核三原則を新たな国是とした上で、アジア地域の非核地帯化に誠心誠意取り組み、「黒い雨降雨地域」や海外に住む被爆者も含めて、世界の全(すべ)ての被爆者への援護を充実させるべきです。

 58年目の8月6日、子どもたちの時代までに、核兵器を廃絶し戦争を起こさない世界を実現するため、新たな決意で努力することを誓い、全(すべ)ての原爆犠牲者の御霊に衷心より哀悼の誠を捧げます。

 2003年(平成15年)8月6日 広島市長 秋葉忠利

【2004.8.6広島原爆忌:平和宣言(全文) 】
 「75年間は草木も生えぬ」と言われたほど破壊し尽された8月6日から59年。あの日の苦しみを未(いま)だに背負った亡骸(なきがら)――愛する人々そして未来への思いを残しながら幽明界(ゆうめいさかい)を異(こと)にした仏たちが、今再び、似島(にのしま)に還(かえ)り、原爆の非人間性と戦争の醜さを告発しています。

 残念なことに、人類は未(いま)だにその惨状を忠実に記述するだけの語彙(ごい)を持たず、その空白を埋めるべき想像力に欠けています。また、私たちの多くは時代に流され惰眠(だみん)を貪(むさぼ)り、将来を見通すべき理性の眼鏡は曇り、勇気ある少数には背を向けています。

 その結果、米国の自己中心主義はその極に達しています。国連に代表される法の支配を無視し、核兵器を小型化し日常的に「使う」ための研究を再開しています。また世界各地における暴力と報復の連鎖は止(や)むところを知らず、暴力を増幅するテロへの依存や北朝鮮等による実のない「核兵器保険」への加入が、時代の流れを象徴しています。

 このような人類の危機を、私たちは人類史という文脈の中で認識し直さなくてはなりません。人間社会と自然との織り成す循環が振り出しに戻る被爆60周年を前に、私たちは今こそ、人類未曾有(みぞう)の経験であった被爆という原点に戻り、この一年の間に新たな希望の種を蒔(ま)き、未来に向かう流れを創(つく)らなくてはなりません。

 そのために広島市は、世界109か国・地域、611都市からなる平和市長会議と共に、今日から来年の8月9日までを「核兵器のない世界を創(つく)るための記憶と行動の一年」にすることを宣言します。私たちの目的は、被爆後75年目に当る2020年までに、この地球から全(すべ)ての核兵器をなくすという「花」を咲かせることにあります。そのときこそ「草木も生えない」地球に、希望の生命が復活します。

 私たちが今、蒔(ま)く種は、2005年5月に芽吹きます。ニューヨークで開かれる国連の核不拡散条約再検討会議において、2020年を目標年次とし、2010年までに核兵器禁止条約を締結するという中間目標を盛り込んだ行動プログラムが採択されるよう、世界の都市、市民、NGOは、志を同じくする国々と共に「核兵器廃絶のための緊急行動」を展開するからです。

 そして今、世界各地でこの緊急行動を支持する大きな流れができつつあります。今年2月には欧州議会が圧倒的多数で、6月には1183都市の加盟する全米市長会議総会が満場一致でより強力な形の、緊急行動支持決議を採択しました。

 その全米市長会議に続いて、良識ある米国市民が人類愛の観点から「核兵器廃絶のための緊急行動」支持の本流となり、唯一の超大国として核兵器廃絶の責任を果すよう期待します。

 私たちは、核兵器の非人間性と戦争の悲惨さとを、特に若い世代に理解してもらうため、被爆者の証言を世界に届け、「広島・長崎講座」の普及に力を入れると共に、さらにこの一年間、世界の子どもたちに大人の世代が被爆体験記を読み語るプロジェクトを展開します。

 日本国政府は、私たちの代表として、世界に誇るべき平和憲法を擁護し、国内外で顕著になりつつある戦争並びに核兵器容認の風潮を匡(ただ)すべきです。また、唯一の被爆国の責務として、平和市長会議の提唱する緊急行動を全面的に支持し、核兵器廃絶のため世界のリーダーとなり、大きなうねりを創(つく)るよう強く要請します。さらに、海外や黒い雨地域も含め高齢化した被爆者の実態に即した温かい援護策の充実を求めます。

 本日私たちは、被爆60周年を、核兵器廃絶の芽が萌(も)え出る希望の年にするため、これからの一年間、ヒロシマ・ナガサキの記憶を呼び覚ましつつ力を尽し行動することを誓い、全(すべ)ての原爆犠牲者の御霊(みたま)に哀悼の誠を捧(ささ)げます。

 2004年(平成16年)8月6日 
広島市長  秋葉忠利

【2005.8.6広島原爆忌:平和宣言(全文) 】

 被爆60周年の8月6日、30万を越える原爆犠牲者の御霊(みたま)と生き残った私たちが幽明(ゆうめい)(さかい)を越え、あの日を振り返る慟哭(どうこく)(とき)を迎えました。それは、核兵器廃絶と世界平和実現のため、ひたすら努力し続けた被爆者の志を受け継ぎ、私たち自身が果たすべき責任に目覚め、行動に移す決意をする、継承と目覚め、決意の(とき)でもあります。この決意は、(すべ)ての戦争犠牲者や世界各地で今この(とき)を共にしている多くの人々の思いと重なり、地球を包むハーモニーとなりつつあります。

 その主旋律は、「こんな思いを、(ほか)(だれ)にもさせてはならない」という被爆者の声であり、宗教や法律が(そろ)って説く「(なんじ)殺すなかれ」です。未来世代への責務として、私たちはこの真理を、なかんずく「子どもを殺すなかれ」を、国家や宗教を超える人類最優先の公理として確立する必要があります。9年前の国際司法裁判所の勧告的意見はそのための大切な一歩です。また主権国家の意思として、この真理を永久に採用した日本国憲法は、21世紀の世界を導く道標(みちしるべ)です。

 しかし、今年の5月に開かれた核不拡散条約再検討会議で明らかになったのは、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタン、北朝鮮等の核保有国並びに核保有願望国が、世界の大多数の市民や国の声を無視し、人類を滅亡に導く危機に陥れているという事実です。

 これらの国々は「力は正義」を前提に、核兵器の保有を入会証とする「核クラブ」を結成し、マスコミを通して「核兵器が貴方(あなた)を守る」という偽りの(まじな)いを繰り返してきました。その結果、反論する手段を持たない多くの世界市民は「自分には何もできない」と信じさせられています。また、国連では、自らの我儘(わがまま)を通せる拒否権に(たの)んで、世界の大多数の声を封じ込めています。

 この現実を変えるため、加盟都市が1080に増えた平和市長会議は現在、広島市で第6回総会を開き、一昨年採択した「核兵器廃絶のための緊急行動」を改訂しています。目標は、全米市長会議や欧州議会、核戦争防止国際医師の会等々、世界に広がる様々な組織やNGOそして多くの市民との協働※7の輪を広げるための、そしてまた、世界の市民が「地球の未来はあたかも自分一人の肩に懸かっているかのような」危機感を持って自らの責任に目覚め、新たな決意で核廃絶を目指して行動するための、具体的指針を作ることです。


 
まず私たちは、国連に多数意見を届けるため、10月に開かれる国連総会の第一委員会が、核兵器のない世界の実現と維持とを検討する特別委員会を設置するよう提案します。それは、ジュネーブでの軍縮会議、ニューヨークにおける核不拡散条約再検討会議のどちらも不毛に終わった理由が、どの国も拒否権を行使できる「全員一致方式」だったからです。

 さらに国連総会がこの特別委員会の勧告に従い、2020年までに核兵器の廃絶を実現するための具体的ステップを2010年までに策定するよう、期待します。

 同時に私たちは、今日から来年の8月9日までの369日を「継承と目覚め、決意の年」と位置付け、世界の多くの国、NGOや大多数の市民と共に、世界中の多くの都市で核兵器廃絶に向けた多様なキャンペーンを展開します。

 日本政府は、こうした世界の都市の声を尊重し、第一委員会や総会の場で、多数決による核兵器廃絶実現のために力を尽くすべきです。重ねて日本政府には、海外や黒い雨地域も含め高齢化した被爆者の実態に即した温かい援護策の充実を求めます。

 被爆60周年の今日、「過ちは繰返さない」と誓った私たちの責任を謙虚に再確認し、
(すべ)ての原爆犠牲者の御霊(みたま)に哀悼の誠を(ささ)げます。

 「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」

 2005年(平成17年)8月6日 広島市長 秋葉忠利


【2006.8.6広島原爆忌:平和宣言(全文) 】
 放射線、熱線、爆風、そしてその相乗作用が現世(げんせ)の地獄を作り出してから61年――悪魔に魅入られ核兵器の奴隷と化した国の数はいや増し、人類は今、(すべ)ての国が奴隷となるか、(すべ)ての国が自由となるかの岐路に立たされています。それはまた、都市が、その中でも特に罪のない子どもたちが、核兵器の攻撃目標であり続けて良いのか、と問うことでもあります。

 一点の曇りもなく答は明らかです。世界を核兵器から解放する道筋も、これまでの61年間が明確に示しています。

 被爆者たちは、死を選んだとしても(だれ)も非難できない地獄から、生と未来に向かっての歩みを始めました。心身を
(さいな)む傷病苦を乗り越えて自らの体験を語り続け、あらゆる差別や誹謗(ひぼう)・中傷を()ね返して「(ほか)(だれ)にもこんな思いをさせてはならない」と訴え続けてきたのです。その声は、心ある世界の市民に広がり力強い大合唱になりつつあります。

 「核兵器の持つ唯一の役割は廃絶されることにある」がその基調です。しかし、世界政治のリーダーたちはその声を無視し続けています。10年前、世界市民の創造力と活動が勝ち取った国際司法裁判所による勧告的意見は、彼らの
(もう)(ひら)き真実に目を向けさせるために、極めて有効な手段となるはずでした。

 国際司法裁判所は、「核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法に反する」との判断を下した上で、「
(すべ)ての国家には、(すべ)ての局面において核軍縮につながる交渉を、誠実に行い完了させる義務がある」と述べているからです。

 核保有国が率先して、誠実にこの義務を果していれば、既に核兵器は廃絶されていたはずです。しかし、この10年間、多くの国々、そして市民もこの義務を真正面からは受け止めませんでした。私たちはそうした反省の上に立って、加盟都市が1403に増えた平和市長会議と共に、核軍縮に向けた「誠実な交渉義務」を果すよう求めるキャンペーン(Good Faith Challenge)を「2020ビジョン(核兵器廃絶のための緊急行動)」の第二期の出発点として位置付け展開します。さらに核保有国に対して都市を核攻撃の目標にしないよう求める「都市を攻撃目標にするな(Cities Are Not Targets)プロジェクト」に、取り組みます。

 核兵器は都市を壊滅させることを目的とした非人道的かつ非合法な兵器です。私たちの目的は、これまで都市を人質として利用してきた「核抑止論」そして「核の傘」の虚妄を暴き、人道的・合法的な立場から市民の生存権を守ることにあります。

 この取組の先頭を切っているのは、米国の1139都市が加盟する全米市長会議です。本年6月の総会で同会議は、自国を含む核保有国に対して核攻撃の標的から都市を外すことを求める決議を採択しました。

 迷える羊たちを核兵器による
(のろい)から解き放ち、世界に核兵器からの自由をもたらす責任は今や、私たち世界の市民と都市にあります。岩をも通す固い意志と燃えるような情熱を持って私たちが目覚め()つ時が来たのです。

 日本国政府には、被爆者や市民の代弁者として、核保有国に対して「核兵器廃絶に向けた誠実な交渉義務を果せ」と迫る、世界的運動を展開するよう要請します。そのためにも世界に誇るべき平和憲法を遵守し、さらに「黒い雨降雨地域」や海外の被爆者も含め高齢化した被爆者の実態に即した人間本位の温かい援護策を充実するよう求めます。

 未(いま)だに氏名さえ分らぬ多くの死没者の霊安かれと、今年改めて、「氏名不詳者多数」の言葉を添えた名簿を慰霊碑に奉納しました。(すべ)ての原爆犠牲者の御霊(みたま)に哀悼の誠を(ささ)げ、人類の未来の安寧を祈って合掌致します。

 2006年(平成18年)8月6日 広島市長 秋葉忠利


【2007.8.6広島原爆忌:平和宣言(全文) 】

 運命の夏、8時15分。朝凪を破るB−29の爆音。青空に開く「落下傘」。そして閃光、轟音−静寂−阿鼻叫喚。

 落下傘を見た少女たちの眼は焼かれ顔は爛れ、助けを求める人々の皮膚は爪から垂れ下がり、髪は天を衝き、衣服は原形を止めぬほどでした。爆風により潰れた家の下敷になり焼け死んだ人、目の玉や内臓まで飛び出し息絶えた人−辛うじて生き永らえた人々も、死者を羨むほどの「地獄」でした。

 14万人もの方々が年内に亡くなり、死を免れた人々もその後、白血病、甲状腺癌等、様々な疾病に襲われ、今なお苦しんでいます。

 それだけではありません。ケロイドを疎まれ、仕事や結婚で差別され、深い心の傷はなおのこと理解されず、悩み苦しみ、生きる意味を問う日々が続きました。

 しかし、その中から生れたメッセージは、現在も人類の行く手を照らす一筋の光です。「こんな思いは他の誰にもさせてはならぬ」と、忘れてしまいたい体験を語り続け、3度目の核兵器使用を防いだ被爆者の功績を未来永劫忘れてはなりません。

 こうした被爆者の努力にもかかわらず、核即応態勢はそのままに膨大な量の核兵器が備蓄・配備され、核拡散も加速する等、人類は今なお滅亡の危機に瀕しています。時代に遅れた少数の指導者たちが、未だに、力の支配を奉ずる20世紀前半の世界観にしがみつき、地球規模の民主主義を否定するだけでなく、被爆の実相や被爆者のメッセージに背を向けているからです。

 しかし21世紀は、市民の力で問題を解決できる時代です。かつての植民地は独立し、民主的な政治が世界に定着しました。さらに人類は、歴史からの教訓を汲んで、非戦闘員への攻撃や非人道的兵器の使用を禁ずる国際ルールを築き、国連を国際紛争解決の手段として育ててきました。そして今や、市民と共に歩み、悲しみや痛みを共有してきた都市が立ち上がり、人類の叡智を基に、市民の声で国際政治を動かそうとしています。

 世界の1698都市が加盟する平和市長会議は、「戦争で最大の被害を受けるのは都市だ」という事実を元に、2020年までの核兵器廃絶を目指して積極的に活動しています。

 我がヒロシマは、全米101都市での原爆展開催や世界の大学での「広島・長崎講座」普及など、被爆体験を世界と共有するための努力を続けています。アメリカの市長たちは「都市を攻撃目標にするな」プロジェクトの先頭に立ち、チェコの市長たちはミサイル防衛に反対しています。ゲルニカ市長は国際政治への倫理の再登場を呼び掛け、イーペル市長は平和市長会議の国際事務局を提供し、ベルギーの市長たちが資金を集める等、世界中の市長たちが市民と共に先導的な取組を展開しています。今年10月には、地球人口の過半数を擁する自治体組織、「都市・自治体連合」総会で、私たちは、人類の意志として核兵器廃絶を呼び掛けます。

 唯一の被爆国である日本国政府には、まず謙虚に被爆の実相と被爆者の哲学を学び、それを世界に広める責任があります。同時に、国際法により核兵器廃絶のため誠実に努力する義務を負う日本国政府は、世界に誇るべき平和憲法をあるがままに遵守し、米国の時代遅れで誤った政策にははっきり「ノー」と言うべきです。また、「黒い雨降雨地域」や海外の被爆者も含め、平均年齢が74歳を超えた被爆者の実態に即した温かい援護策の充実を求めます。

 被爆62周年の今日、私たちは原爆犠牲者、そして核兵器廃絶の道半ばで凶弾に倒れた伊藤前長崎市長の御霊に心から哀悼の誠を捧げ、核兵器のない地球を未来の世代に残すため行動することをここに誓います。

 2007年(平成19年)8月6日 広島市長 秋葉忠利






(私論.私見)