2017年、東芝は連結総資産5兆4333億円、従業員数18万7809人、連結売上高5兆6686億円はトップ20には入る日本を代表する総合電機メーカーである。冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、掃除機、電子レンジなどの白物家電から液晶テレビ、半導体、パソコン、スマートフォン、メディカル機器、原子力発電、火力発電、水力、自然エネルギーなどの重電、地対ミサイルなどの軍事機器、このほか通信、上下水道、鉄道、放送機材などの社会インフラなど幅広く展開してきた。財界総本山のよばれる経団連の会長に石坂泰三や土光敏夫、経団連の副会長だけでも西室泰三、西田厚聰、佐々木則夫、日本商工会議所会頭には岡村正を輩出しており、財界の頂点に君臨してきた企業である。 |
1979.3.28日、スリーマイル島原発事故発生。以来、アメリカの原発新設は滞ってきた。安全性に大きな問題があることが現実の懸念となって重くのしかかり続けてきたからである。アメリカにとってスリーマイル島原発電で発生した重大な原子力事故は,もともと採算重視で利用してきた原発の位置づけを根本からみなおす契機となっていた。「2013年から13基も原子炉停止が表明された。原発産業をどうするのか」(米原子力エネルギー協会NEIのマリア・コスニック最高経営責任者=CEO)。「米原発市場の競争力があるとはいえない」(米原発運営会社サザン・ニュークリア・オペレーティング・カンパニーのスティーブ・ククズンスキーCEO)。だが、日本では2011年3月11に発生した東電福島第1原発事故までは積極的に原発を新設して行く。 |
1986.4.26日、チェルノブイリ原発事故が発生。原発産業が震撼させられた。ところが、原発推進派は、あいも変わらず「気候変動や大気汚染が国際的に深刻な問題になる中で,CO2 や有害のガスを出さない原発の長所を,筆者は重視している」などと原発の技術的な本質にして初歩知識の欠如ぶりを露呈させた。 |
1996年、8人抜きで社長の座に就いた西室だ。1990年代前半のDVDの規格争いで、ソニー・フィリップス連合を打ち負かした実績が買われての抜擢だった。慶応大学卒、非重電の営業畑は、明らかに非主流。東京大学卒・重電畑という慣例を崩したトップ人事だった。東芝で国際派トップの源流になる。 |
2004年3月6日、専務に就任するとその期の第3四半期まで営業赤字だったパソコン事業を最後の四半期で黒字に転換し社内外から「西田マジック」と賞賛される。その勢いで2005年6月に社長に就任した。しかし東芝関係者によると西田率いるパソコン部隊は、この時期からバイセル取引に手を染めていた疑いがある。このころ資材調達を担当していたのが西田の次の次に社長になる三悪人の一人、田中久雄である。 |
2006年、東芝が米原発メーカー、ウェスティングハウス(WH)を6600億円を投じて買収し海外の原子力事業を強化させた。WHは、1979年のスリーマイル島の原発事故以来、34年間、米国内では新規の原発を建設しておらず、東芝が買収した時点で、その経営状態はボロボロだった。WH買収を決めたのは当時社長の西田厚聰。実際の交渉に当たったのは当時、原子力事業の担当役員で西田の次に社長になる佐々木則夫だ。
その時点ですでにアメリカでは原発事業は斜陽産業となっていたわけだが、当時のブッシュ政府は「原発ルネサンス」などとぶち上げ、日本政府に原発推進策をとらせ、東芝にWHを法外な価格で買収させ、日立とゼネラル・エレクトリック(GE)を提携させて損失を押しつけ、三菱重工にもフランスのアレバと提携させ結局は経営不振の尻拭いを日本企業に押し付けている。世界のすう勢は、1979年のアメリカのスリーマイル島原発事故や1986年の旧ソ連のチェルノブイリ原発事故を受けて明確に原発撤退に転換している。東芝の倒産騒動まできて、日本の原子力メーカーがWHやGEといったアメリカ巨大原子力メーカーにまんまとはめられ、巨額の負債を押し付けられたという顛末が浮き彫りになっている。当時、専門家の間では、衰退傾向にあるWHの市場価値は、最大その半分の3000億円か、あるいはそれ以下といわれ、「東芝は高い買い物をした」とみなされていた。 |
2008年、リーマンショック。以降、東芝の業績は急速に悪化した。 |
2009.6月、佐々木が社長を任された。リーマンショックのあおりで、直前期は3435億円の最終赤字を出していた。後継として佐々木を推したのはほかならぬ西田だった。西田は異色の経歴の持ち主。イラン法人から本社へ転籍、海外のパソコン事業で頭角を現した。世界初のノート型パソコン「ダイナブック」を開発した東芝は、欧米での販売拡大が至上命題。得意の語学と国際感覚を武器に、西田は販路を着実に広げた。気配りも欠かさず、「欧州販売店の社長夫人の誕生日には花束を贈り、西室をはじめ上司にワインを送っていた」(東芝元役員)。佐々木は原子力事業畑を歩んできたエキスパート。2006年に東芝が約6300億円を投資して、原発大手の米ウエスチングハウスを巨額買収した際、実務面で社長の西田を全面的にサポートした。国際派の西田はグローバル企業のトップと積極的に交流。海外出張も頻繁にこなし、スピーチする機会も多かったが、佐々木は「独身で、飼っている猫の世話を理由に海外出張を断っていた」(東芝幹部)。佐々木は、引き続きの構造改革、重電へのシフト戦略を打ち出し、これが功を奏し見事に回復した。
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2011.3.11日、東日本大震災。超円高も深刻、欧州の金融危機。東芝とWHが30年ぶりに米国で受注した4基の原発は、安全基準が大幅に厳格化されたことで、当初の見積もりを大きく上回ることが確実になった。本来ならこの時点で、事業計画を見直し減損損失などを計上するべきだった。米国の監査法人は減損処理を要求したが東芝は拒否。「原発事業は順調」と言い続けた。この時期の東芝社長が田中久雄。 |
11年の福島原発事故後、ドイツのメルケル首相は22年までの原発全廃を宣言し、その直後に同国最大の原子炉メーカー・シーメンスは原発事業からの撤退を表明した。東芝がこの時期にシーメンスと同様に、原子力事業を売却・撤退し、新規資金を成長事業に投入する決断をしていれば、今日のような苦境に追いまれることはなかったであろうと専門家は指摘している。 |
2013年の社長交代で佐々木が後任に推した役員は1人いた。だが西田と社外取締役2人で構成される指名委員会が選んだのは、それとは別の、パソコン事業をはじめ調達畑を歩んだ田中久雄だった。 |
西田厚聰と佐々木則夫の確執が表面化したのは2013.2月の田中新社長の就任会見の場だった。西田氏(当時会長)が「固定費を削ったことで売上高がどんどん落ちている」と言えば、「利益を出しているので文句を言われる筋合いはない」と佐々木氏(当時社長)が応じ、トップ同時が公然と批判し合った。西田(当時会長)が「固定費を削ったことで売上高がどんどん落ちている」と佐々木(社長)時代の経営を批判すれば、「数字を出しているから文句を言われる筋合いはない」と佐々木も応酬した。
西田は「周囲から引き続きやってほしいと言われた」として会長にとどまり、佐々木は上場以来で初となる副会長職に就き、異例の3トップ体制が構築された。結果、相談役を含めて4人の歴代社長が、現役社長の“上”に並ぶ重層構造ができた。
田中社長のプロフィールはツギの通り。1950(昭和25)年、兵庫県の神戸生まれの神戸育ち。神戸商科大学(現兵庫県立大学)入学。学生時代は少林寺拳法をやっていて当時は2段の腕前。3段に挑戦する試験前の練習でケガをした為にそれ以上は進めなかった。大学卒業後に上京し、1973年に東芝へ入社。調達・生産を中心に経験を積み、その間にイギリスに2回、米国2カ所、そしてフィリピンと、都合15年間余り海外駐在の経験があります。営業と開発技術は経験したことがないが、それ以外の部門はだいたい回っている。2006年執行役常務、08年執行役上席常務。09年執行役専務。11年取締役。代表執行役副社長を経て、13年6月25日から現職。趣味はゴルフ、読書、旅行。座右の銘は「一期一会」。2015年7月に社長を辞任。
2013年の就任時に次のように語っていた。「利益を犠牲にしなくても、新しいビジネスの創出、新市場の開拓はできると思っています。それができたらさっさとやれよと言われるかもしれませんが、二律背反をやりたいと思っています」、「過去最高の売上高はリーマン前の2007年度の7兆6680億円です。私が社長を何年やるか次第ですが、過去最高売り上げは達成したい」。田中は社長就任後、「自由に経営している」、「やりにくさというものはない」と強調していた。3000億円を上回る固定費削減を行った。07年度は過去最高の7兆6680億円の売上高。09年度にV字回復を果たす。
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2014.5.8日、東芝の3月期決算が発表され合計600億円もの一時的損失を計上した。 原子力事業が足を引っ張る内容になった。 米テキサス州マタゴルダ郡でABWR型原子力発電所を2基新設する案件「サウス・テキサス・プロジェクト」が大きな誤算だった。同プロジェクトの事業性が不安視されていることから、現地の開発会社であるNINA社の資産価値を保守的に見直さざるをえなかった。この1件だけで310億円の営業益押し下げ要因となっており、「NINA社の件がなければ過去最高益だった」と東芝の久保誠副社長は悔しがる。今回の営業利益実績2908億円に310億円を単純に足し込むと3218億円となる。確かに、1990年3月期に記録した3159億円の過去最高益を24期振りに更新するはずだった。東芝のライバルである日立製作所は2月4日に2014年3月期の営業利益見通しを従来の5000億円から5100億円へと上方修正。1991年3月期の5064億を上回り23年ぶりに過去最高益を更新する見込みだ。東芝は、久方ぶりの過去最高益をライバルと同時に祝うことができなかった。
巨額損失の原因は原発建設・サービス会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)。米国の規制強化などで原発建設のコストが膨らむ中、電力会社やS&W、東芝の原発子会社ウェスチングハウス(WH)の間で費用をなすりつけ合う事態になっていた。そんな中、WHがS&Wを買収。それからわずか1年で巨額損失が表面化し、東芝が抱え込む羽目に陥った。 |
WHはジョージア州とサウスカロライナ州で計四基の原発を受注したが、工事は予定通り進まずに3年もの遅れが出ており、電力会社から損害賠償を請求されていた。コストは膨らみ、WHとS&Wどちらが損失を負担するかで衝突し、訴訟合戦が泥沼化した。
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2014.6月25日、東京・両国の国技館で、東芝の定時株主総会が開かれた。一連の「不適切会計問題」発覚後、初めて株主との直接対話を行った。第三者委員会の調査報告が7月中旬に出るため、東芝は本来6月末までに有価証券報告書を提出すべきところ、2カ月の延長を申請、認められていた。今回の定時株主総会では、9月に開かれる予定の臨時株主総会までの取締役16人の選任が提出された。田中社長は「9月の臨時株主総会までの一時的な再任をお願いするものでございます」と、株主に理解を求め、会社提案は可決された。株主提案の「株主総会における議決権行使に関する定款変更の件」など7つは全て否決された。会場に訪れた株主は、3178人(昨年は6396人)と半減。が、閉会までの時間は3時間16分(同2時間11分)と、過去最長だった。
冒頭、田中久雄社長は、「多大なご迷惑、ご心配をおかけしていること、決算をいまだに発表できないこと、期末配当を無配とさせていただいたことを、心から深くおわび申し上げます」と謝罪した。またこの総会で、2月12日に証券取引等監視委員会から工事進行基準案件について開示検査を受けたのがすべての問題発覚の端緒だったことが、初めて明らかになった。質問に立った株主は計25人(昨年は14人)で、不適切会計問題に質問が集中。「役員どもは高給取って、利益追求で部下をいじめるのはやめろ」、「不適切会計、いい加減にせえ」など、一部の株主が声を荒げる場面もあった。ただ、退場者や警備を必要とするような、大きな混乱はなかった。不適切会計についての質問で多かったのが、組織ぐるみを疑う声だ。「社外取締役や監査法人、会計の責任者が、不正を全く認識できなかったのはなぜか」、「不正が分からなかったということだが、ルールの下にやっていたはずで、薄々気づいていたのではないか」、「これは課長や部長ではできない、トップダウンだ」など。これらについて田中社長は「原因究明は第三者委員会が示してくれる」と語っただけで、具体的な言及はなかった。
不適切会計が表面化する以前、西室は「私も相談は受けているが、具体的な数字の相談は西田さんが受けている」と語っている。その話とはどこまで踏み込んだ内容だったのか。今回の問題を受けて歴代3社長は一斉に辞任。7月21日、ほおがこけ、疲れ切った様子で会見に臨んだ田中。佐々木と西田は、最後まで公の場所に姿を見せることなく、東芝を後にした。
2014年3月期に計上されたインフラ事業の収益。インフラ事業というのは、数年から数十年にわたって行われる息の長い事業です。このような長期のプロジェクトの原価や収益を計算するとき、一般的には「工事進行基準」という考え方を適用します。これは、工事の進み具合によって、売上高や原価、利益を計上するというものです。工事の完成まで、決算期ごとに進行状況をチェックできるというメリットがある一方で、原価や進捗が意図的に操作できてしまうというデメリットもある。今回は、このデメリットが問題になった。報道によると、一部の工事で原価を少なく見積もったことで、過去3年間で合計約500億円もの利益が、かさ上げされていた。6月12日の日経新聞朝刊によれば、インフラ事業のうち、「電力のスマートメーター」、「自動料金収受システム(ETC)」などインフラ9案件の会計処理で疑念が生じたと報道されている。
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2015.5.8日、2015年3月期の業績予想を未定としつつも営業利益見通しは3300億円とした。電子デバイス部門の営業利益が1800億円(前期比25%減)に落ち込む一方で、原発関連の損失がない電力・社会インフラ部門の営業利益は2.2倍の700億円を見込む。さらにテレビや白モノなどのライフスタイル部門が赤字を脱却することで、過去最高益を更新する計画だ。しかも、この目標はさまざまなリスクを織り込んだ保守的な数字だという。「4000億円を目指しており、3300億円は最低限としてのコミットメントだ」(久保副社長)。過去の営業利益実績を振り返ると2011年3月期2402億円、2012年3月期2066億円、2013年3月期1943億円と減益が続いていた。そこから反転し、2014年3月期は2908億円。そして今度は4000億円を目指すわけであり、停滞期を脱し収益拡大期を迎えているのは間違いない。残された大きな課題は、原子力事業が、依然として同社を揺さ振る大きなリスク要因になっていること。電力・社会インフラ部門は、原発に過度に頼らず、成長事業を複線的に備えていく必要がある。 |
7.20日、第三者委員会の報告書が7月20日に発表された。会社が独自に調べたものと合わせて決算の修正を行った。東芝は2008年度から2014年度第3四半期までの7年間で1562億円にも及ぶ粉飾決算が行われ、2016年3月期には7087億円の営業赤字に転落。当期純損失は4600億円にも上り、自己資本比率は前年の17.1%から6.1%に減少した。 |
7.21日、東芝の不適切会計問題に関する第三者委員会が記者会見した。冒頭で、第三者委員会の委員長である上田廣一弁護士(元・東京高等検察庁検事長)は「経営トップらの関与に基づき、組織的に不適切な会計処理をしていることが認められた」と、不適切会計の病巣が経営陣にまで及んでいたことを明らかにした。第三者委員会による調査対象は(1)工事進行基準案件、(2)映像事業における経費計上、(3)半導体事業における在庫評価、(4)パソコン事業における部品取引など、の4つに関する会計処理。2009年度から2014年度第3四半期までの期間を調査した結果、連結税前利益ベースで合計1518億円もの不適切な会計処理が行われているとわかった。ただし、東芝の決算処理は「不適切会計」であるとしたものの、経営者が意図した間違い、つまり「不正会計」ではないとした。その違いについて、「会計的な理解からいうと、虚偽表示には「誤謬」と「不正」が2つの種類がある。経営者および職員が意図して間違えたものを不正という」としている。1500億円もの利益の水増しがあったことを認定した。「日本を代表する大手の会社がこんなことを組織的にやっていたということで、衝撃を受けた」とコメントしている。不適切会計問題を受けて、東芝の歴代3社長ほか6人の取締役が辞任した。
1500億円を超える不適切な会計操作が行われていたとの第三者委員会からの指摘を受け、田中久雄が同日付で東芝社長を辞任した。新社長に就任したのが室町正志。 |
2015.10.28日、東芝がWHによるS&Wの買収方針を発表した。その直前に取締役会で承認されたようだ。当時の東芝は不正会計問題に揺れ、歴代3社長らが引責辞任。9月末の臨時株主総会で新経営体制が発足したばかりで、取締役11人中7人を社外取締役にして、「体制一新」を示そうとしていた頃だ。昨年6月の綱川智社長体制でも6人の社外取締役がいるが、いずれも15年9月末に就任した人たち。それも大物ぞろいである。まず経営者が3人。小林喜光氏は三菱ケミカルホールディングス会長で経済同友会の代表幹事を務める。もう一人は前田新造氏。資生堂の社長、会長を務めて今も相談役。池田弘一氏はアサヒビール(現・アサヒグループホールディングス)の社長、会長を務めて今も相談役だ。加えて弁護士1人と公認会計士が2人。古田佑紀氏は検察官出身で05年から12年まで最高裁判事を務めた。会計士の佐藤良二氏は監査法人トーマツでCEO(包括代表)を務めた人物。野田晃子氏は中央青山監査法人の代表社員だった会計士で、証券取引等監視委員会の委員も務めた。いずれも名だたる経営者、専門家たちである。そんな大物たちはS&Wについて、一体どんな説明を受け、何を質し、WHによる買収を承認したのか。その年の12月に買収を完了するが、巨額の損失が発生する可能性をまったく考えずに承認していたのか。1年後の16年12月に巨額損失の可能性を知らされると、取締役会は大騒ぎになったという。社長の綱川氏ですら12月中旬に初めて報告を受けたようだ。WHがS&Wを買収しなければ、原発建設の遅れに伴うコスト増は発注電力側の負担になっていた、という指摘も東芝社内にある。つまり、巨額損失を抱えたS&WをわざわざWHが買収する理由とは何だったのか。 |
2015.11.7日、東芝が歴代社長・副社長の5人を訴える異例の裁判が東京地方裁判所で始まった。事件番号は「平成27年(ワ)31552」。当初の損害賠償請求額は3億円だったが、証券取引等監視委員会の勧告により73億7350万円の課徴金を支払ったことから東芝は2016年1月、請求額を32億円に引き上げた。均等に割ると一人6億円強。負ければ退職金も水の泡になりかねない金額だから、被告の5人は必死である。裁判は被告の希望により非公開とされており傍聴できない。しかし裁判の記録は東京地裁に残されており、閲覧は可能だ。 |
12.21日、「新生東芝アクションプラン」を発表、事業の大幅な構造改革を推進することを明らかにした。東芝の事業部門は当時、「電力システム社(重電)」「社会インフラシステム社(送配電、太陽光、産業用の電気機器、鉄道関連などのインフラ関連)」、「コミュニティーソリューション社(エレベーターや業務用の空調、照明、ビルなどの電気機器など)」、「ヘルスケア社(医療用機器)」、「セミコンダクター&ストレージ社(半導体関連)」、「パーソナル&クライアントソリューション社(家庭用電気機器とパソコンとテレビなど)」、「インダストリアルICTソリューション社(IOTなどカンパニーを横断的な技術)」の7つのカンパニーが存在した。アクションプランではこうした7つのカンパニーを「エネルギーソリューション社」、「社会インフラシステム社」、「インフラシステムソリューション社(旧社会インフラシステム社の一部と旧コミュニティーソリューション)」、「ストレージ&デバイスソリューション」、「インダストリアルICTソリューション」の4つに集約。2015年から2016年上期にかけてリストラされたのは1万4450人(3100人がグループ内での再配置、ソニーへの移籍1100人)だ。パソコン事業は国内での個人向けの製造販売を大幅に縮小して法人向けの営業に集中して1300人の人員を削減。4月1日にはパソコン事業部を分割して東芝情報機器と吸収。システムLSI事業を手掛ける大分工場の一部を分割して岩手東芝エレクトロニクスに吸収、社名を「ジャパンセミコンダクター」に変更、生産を大幅に縮小した。テレビ事業は国内外の人員の8割に当たる3700人を削減して、製造販売からは全面的に撤退。家庭用電器事業は人員を1万4600人から1800人を削減。そのうえでテレビ事業を除いた家庭用電器事業は中国の美的集団に売却された。さらに旧「ヘルスケア社」は3月末で廃止され、中核事業だった東芝メディカルシステムズをキヤノンに6655億円で売却、ヘルスケア事業からは完全撤退した。
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2015年末、東芝の原子力子会社となった米ウエスチングハウス(WH)が現地の原子力サービス会社・CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を買収した。計4基の原発建設を手がけているが,工事が大幅に遅れ、人件費や材料費などコストが想定より膨らんだことにより、買収時の想定を上回る巨額のコストが発生する事態に陥った。東芝は,買収時点でコスト増加分を過小評価していた。東芝は当初,買収価格と実際の企業価値との差額を示す「のれん」を約105億円と見積もっていた。買収した会社の収益性が悪化し、追加コストの発生が判明し昨年末に損失額が数千億円規模になるとの見通しを公表したが,金融機関には最大で5000億円になるとの見通しを示していた。追加コストを精査した結果,直近では4000億円から最大で5000億円を超えるシナリオを提示している模様だ。実際に東芝の連結決算にどれだけの損失を反映させるか,監査法人と協議を進めている。同事業の損失額は最大で7000億円程度に変動する可能性もある。
東芝とWHも、実はS&Wのような建設会社を求めていた。WHは原子炉などの機器製造に強みを持つが、原発建設プロジェクトで大きなカネが動くのはエンジニアリングなどの領域だ。そうした「おいしい部分は米ベクテルなどに持っていかれてしまい、悔しい思いをしていた」(東芝の原子力関係者)。「設計・調達・建設」を意味する「EPC」を手掛ければ原発ビジネスをさらに成長させられると、東芝社内では以前から検討されていた。買収の事情をよく知る関係者によると、WHのダニー・ロデリック社長(当時)がS&Wの子会社化を積極的に提案し、原子力を所管する東芝の志賀重範副社長(同)が後押ししたという。この関係者は「資産査定の時間は限られていたが、減損を回避するためには決断せざるを得なかった」と打ち明ける。 |
2016年、1月9日,ニューヨークの中心街マンハッタンから約70キロ離れた場所にあるインディアンポイント発電所の原子炉2基の閉鎖が発表された。運営主体であるエンタジー社のレオ・デナルトCEOは「天然ガス価格の歴史的な低下や運営コストの上昇が響いた」と閉鎖の理由をコメントした。シェール革命で天然ガス生産が急増した米国では,天然ガスの価格(2016年平均)が10年前に比べて6割強下落した。燃料費だけではない。設備の技術革新もあり,天然ガス発電全体のコストは10年間で45%低下した。天然ガス発電が普及した結果「電気料金は過去10年で45%下がった」(エンタジー社のデナルト氏)。一方,米エネルギー情報局(EIA)によると,米原発の発電コストは2015年までの10年間で4割も上昇した。電気料金が下がったにもかかわらずコストが上昇したため,苦境は深刻になった。コスト増の背景にあるのが設備の老朽化だ。 |
2016年5月26日、米スキャナ電力が、同社が発注し、東芝の米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)がサウスカロライナ州で建設中の「VCサマー2/3号機」について、一定額以上のコスト負担を拒否するという内容のプレスリリースを配信した。「排他的かつ取り消し不能の固定価格オプションが発効したら、EPC(設計・調達・建設)契約が変更され、プロジェクトの残りのコストが確定する」。具体的には5億500万ドル(約570億円)を支払って「固定価格オプション」を行使することで、スキャナ電力が支払う原発建設コストの総額を最大76億7900万ドル(約8680億円)に固定する。建設工事に関してこれ以上のコスト超過が発生した場合は、スキャナ電力ではなくWHが支払うように契約を変更する。11月に米国の規制当局が承認し、実際にオプションが発動した。東芝は本件を開示していないが、広報担当者が上記の内容を認めた。ある関係者は、WHが米ジョージア州で建設中の「ボーグル3/4号機」についても同様の契約になっている可能性を指摘する。「契約変更の結果、WHは“無限責任”を負わされることになった」と、東芝原子力部門の元幹部は説明する。東芝の米原子力事業における損失が雪だるま式に膨れあがった原因の1つがこれだ。固定価格オプションが発動されたことで、WHはコスト超過分を電力会社に転嫁したり、交渉したりできなくなった。 |
医療事業をキヤノンに約6600億円で売る。 |
6月、綱川智が社長に就任。は「重電部門」と「半導体のNAND型フラッシュメモリー」「社会インフラ」を事業の3本柱に据えて再スタートを切ろうとしていた。しかし年末になって急浮上してきたのが米国の原発子会社ウエスチングハウス(WH)が買収した「CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)」ののれん代と含み損失だった。東芝が粉飾決算の事後処理に忙殺されていた2015年10月、WHがCB&Iの建設子会社「CB&Iスティーブ・ウェブスター(S&W)」を買収することで合意したと発表した。ジョージア州とサウスカロライナ州で2基ずつ計4基の原発を建設していたが、この工事がついてくるという代物だ。原発一基が一般には5000億円といわれるから総工費で2兆円の工事が入ってくる。実はS&Wは債務超過で多くの訴訟を抱えていたことから工事に集中することができず、負債も含めてすべて引き受ける形でWHが引き受けた。現金の支払いはなかったという。ところが2016年1月に買収が完了し、WHが乗り込んでみるととんでもない事実が発覚した。15年12月31日の時点で、11億7400万ドル(約1326億円)の想定運転資本額があるはずだったが、WHの算出値は9億7770万ドル(約1173億円)のマイナスだった。差異は21億5100万ドル(約2581億円)。売却先と差異が生じた場合は第三者の会計士を選任することになっていたが、相手側は逆に選任差し止めで提訴。さらにジョージア州とサウスカロライナ州の原発工事でも、今後提携して工事を進めていくことになったフルアーが見積もりを取り直すと、数千億円の損失があることが発覚。東芝は2016年12月、あわててこれを発表した。損失額は最大で7000億円になるといわれている。東芝の資本金は3600億円、経常利益の見通しは1300億円、損失が5000億円を超えれば債務超過になる。このような中で今後は虎の子の半導体事業を分社化。今後は株式を売却して外部から資金調達を図ることになるかもしれない。
主力事業を次々に売却し、3本足打法のはずが重電とインフラ事業ぐらいしか残っていない東芝。しかし重電の花形、原発はいまだにほとんどが稼働できずにおり、国内では新しい原発の建設は難しいといわれている。綱川社長もまた今後は新規では原発の建設工事からも撤退する可能性を示唆している。タコが足をくうように自分の事業を次々に売却してきた東芝。メインバンクは支援を表明しているが、今後こうした状況で再建はできるのか。2月14日の2016年度第3四半期の決算発表で全貌が明らかにされる。
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2017.1.19日、日本経済新聞朝刊記事「東芝,米原発事業の損失5000億円超も 政投銀に支援要請」。東芝の米原子力事業で発生する損失が,最大で5000億円を超える可能性が出てきた。2017年3月期の連結決算に反映する損失額は算定中だが,最終赤字は避けられない。自己資本が大きく毀損する見通しとなり,東芝は日本政策投資銀行に資本支援を要請した。今後,他の取引銀行にも協力を求め,財務や事業構造の立て直しを急ぐ。 |
2017年1月19日、トランプ米政権の原子力行政を担うエネルギー長官に指名されたリック・ペリー氏は上院公聴会で、「核廃棄物の処理の問題にも注意深くとり組んでいく」と述べ,原子力の技術革新や廃棄物処理問題に関心を示した。同氏はテキサス州知事時代にシェール開発と風力発電で実績を上げている。オバマ前政権は「パリ協定の目標は原発なしでは達成できない」(サウザン・ニュークリア社のククジンスキーCEO)とする立場から原発推進を表明していたが、トランプ氏は選挙期間中、パリ協定からの脱退を訴えている。トランプ政権は石油・石炭業界の振興を鮮明にしている。トランプ氏は「米国は核能力を大幅に拡大しなければならない」とツイッターで述べている。これは兵器としての核でありエネルギーではない。トランプ政権内に有力な原発推進派が見当たらない。 |
2017年1月27日,コロラド州で「米原発」をめぐる討論会が開かれ,先行きを懸念する声が相次いだ。世界の原発発電量の3分の1を占める米国で稼働している原子炉は99基で,ピークだった1990年から15基減った。NEI前CEOのマービン・フェーテル氏は,今後5~10年でさらに15~20基が停止する可能性があると指摘する。 |
2.11日、「東芝の原発損失どうなる? 米子会社,5700億円規模に」(nikkei.com,2017/2/11 2:00)。東芝の2016年4~12月期決算の確定作業が大詰めを迎えている。米原子力事業で発生する損失額は50億ドル(約5700億円)規模になったもようだが,2017年2月14日に発表する連結決算にどう反映するか作業は難航中だ。 |
2.14日、東芝は、WHが米国で建設中の4基の原発について、労務費や設備調達費用などの合計が当初の想定より「61億ドル(約6900億円)」増加したと発表。米子会社ウエスチングハウス(WH)を中心とする原子力事業全体で7125億円の減損損失を計上する事態になった。記者会見で綱川智社長は、分社化する半導体のフラッシュメモリー事業の株式売却について「マジョリティー(過半数)のキープにこだわらないことに変えた」と述べ、2割未満から、過半の売却への方針転換を表明した。
この日の記者会見で畠澤守・執行役常務は「現時点からプラントが完成するまでのコストを保守的に積みあげた」と説明し、コスト超過分を含めた7125億円を減損損失として計上した。WHに対する「債務保証」があり、次のように書かれている。「米国AP1000プロジェクト(注:4基の建設計画)において、WHの客先への支払義務(プロジェクトを完工できなかった場合の損害賠償請求を含む)を履行できなかった場合、当社はWHの親会社として、スキャナ電力など米国での原発建設の客先にこれを支払う」。東芝はWHの親会社として、7934億円の債務を保証している(2016年3月末時点)。巨額減損によって財務基盤が極めて脆弱になった東芝にとって、原発の完工を諦めるという選択肢は存在しない。2月14日の記者会見で「WH買収は正しい経営判断だったか」と問われた綱川社長は、力の無い声でこう述べた。「数字を見ると正しいとは言いにくい」。東芝社外取締役を務める経済同友会の小林喜光代表幹事は、14日の同社取締役会直後の記者会見で、原発事業に関して「このような産業が一企業で成り立つのか考えなくてはならない」と述べ、民間企業が運営する是非を問い掛けた。 「悪い原発を残して、良い半導体を売る。これが果たして正しい経営なのか」。
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2.15日、東芝の原子力事業を統括してきたのは志賀重範。志賀氏は巨額損失の責任を取るため会長を辞任した。4基の原発完工までにかかるコストの見積もりが想定から61億ドル増加した。
東芝は現在、WH株の87%を保有している。綱川社長は「興味のあるパートナーがいれば一緒にやっていきたい。出資比率は引き下げることを考えている」と話す。だが、これだけ巨額の債務保証を認識したうえで、出資に応じる企業があるかは不透明だ。安全保障の観点からも、WH株を売却できる相手は限られる。原子力事業で7000億円を超える損失を計上する東芝。今期末に債務超過を解消できず、東証2部に降格する情勢だ。
みずほ銀行など主力3行は3月末までの融資継続を決定したが、東芝が15日に開催した取引銀行向け説明会では、ガバナンスや情報開示に厳しい意見が飛び交った。ある銀行関係者は「東芝は何が起こるか分からない」と警戒感を隠さない。決算延期をめぐる混乱は東芝をさらに窮地に追い込む。同社は現在、東京証券取引所の上場廃止の恐れがある特設注意市場銘柄に指定中で、審査期限の3月15日以降も、監理銘柄に移行して審査を継続することが決まっている。審査を担当する日本取引所グループ傘下の自主規制法人の幹部は「東芝は多様な問題を抱えているので審査には時間がかかる」と述べる。
この日、東芝は、米国原発サービス子会社の減損損失額は、7125億円になったと発表した。自己資本3600億円の東芝は、そのままでは債務超過(事実上の倒産)に陥るため、唯一残った成長事業の半導体事業を分社化し、株の一部を売却する。これで東芝本体の主力事業は原発のみとなり、自力再生の可能性は限りなくゼロに近づく。つまり2月14日は、日本を代表する名門企業、東芝が消える日なのだ。
21017年は年間約1100億円の利益を生む"虎の子"の半導体事業も売却する方針だ。すでに一般消費者向けの事業を大幅に縮小し、同じく16年には、洗濯機や冷蔵庫などの白物家電事業の8割を中国・美的集団に約500億円で売却している。
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(「週刊現代」2017年6月3日号参照)
5.15日、東芝本社39階の会議室で開かれた会見は、「前代未聞の事態」が交錯する舞台となっていた。午後2時、100人超の記者が詰めかけた会場に現れた綱川智社長は、
「('16年度)通期業績の数値は、期末から45日を経過することも考慮した上、情報開示の観点から重要であると判断し、本日公表させていただくことといたしました」と頭を下げた。東芝は、一度ならず二度までも(第3四半期の業績に続いて2回目となる)「監査を受けない」業績を発表した。監査法人のPwCあらたが東芝の業績に『お墨付き』を与えなかったからである。監査法人は、『もはや東芝の決算に対してまったく責任を持てない』と表明している。
この日の会見は、あくまで'16年度の業績の「見通し」を伝えるものになった。正式な決算を発表する際に必要な監査法人の「意見表明」を受けていない、その場しのぎの業績発表に過ぎなかった。'16年度の当期純損益が9500億円の赤字。株主資本は5400億円の赤字、つまり、同額の債務超過となるという。9500億円の純損益は、製造業では過去最大の損失である。
この数字を受けて綱川社長は、「このように、大きな当期純損失を計上する見通しとなったことを重く受け止め、早期に財務基盤立て直しを図ってまいります」と、謝罪した。
東芝はこれまで、巨額の債務超過のリスクを、メモリー部門を分社化した「東芝メモリ」を売却し、資金調達することで乗り切ろうと考えていた。しかし、東芝と半導体、メモリーに関して合弁事業を行っていたウエスタンデジタル(WD)が「契約違反だ」としてメモリー事業の売却に待ったをかけた。両社の主張は真っ向から対立しており、5月10日にはスティーブ・ミリガンCEOと綱川社長による「トップ会談」も行われたが、ほとんど議論は進展しないまま物別れに終わる。さらに、5月15日にはWDが国際仲裁裁判所に、売却の差し止めを申し立てる事態に至った。「このままトラブルが長引いてメモリー部門の入札が失敗すると、東芝は債務超過を解消することができない。来年3月までに売れなければ2期連続の債務超過。東証のルールによって自動的に上場廃止になります。それどころか、資本不足を解消する必要から、部門別に売却される事実上の解体も視野に入ってくる」(元共同通信経済部記者で名古屋外語大教授の小野展克氏)。
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