神田沙也加さんの報道についての事務所と両親の要望
年の瀬に衝撃の事件が相次いだ。ひとつは12月17日に起きた大阪ビル放火殺人事件だ。そしてもうひとつは18日に松田聖子さんの娘、神田沙也加さんが亡くなったことだ。21日に沙也加さんの事務所はこういうコメントを発表している。
《本日、ご親族のご希望により、密葬という形で家族にて葬儀を執り行わせていただきましたことをご報告申し上げます。警察による詳細な検証の結果、事件性はなく、転落による多発外傷性ショックが死因であるとの報告を受けました。転落の原因につきましては、神田本人の名誉と周囲の方々への影響を踏まえて公表を控えたく、お含みいただけましたら幸いです。》 そして最後にこう付け加えた。 《なお、ご親族やご友人のプライバシーに関わるような記事の掲載、過剰な取材行為、インターネット上での根拠のない誹謗中傷に関しまして、お控えいただけますよう改めてお願い申し上げます。》
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厚労省も素早くマスコミにメッセージ
この件については、19日という早いタイミングで厚労省が「メディア関係者各位」というリリースを出した。こう書かれている。
《昨日12 月18 日、女優の神田沙也加さんが逝去され、死因が自殺である可能性があるとの報道がなされています。著名人の自殺に関する報道は、その報じ方によっては、著名人をロールモデルと考えている人(とりわけ子どもや若者、自殺念慮を抱えている人)に強い影響を与え、「模倣自殺」や「後追い自殺」を誘発しかねません。ご承知の関係者の方も多いと思いますが、昨年は 11 年ぶりに自殺者数が前年比で増加しました。いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)が日次データで分析したところ、7
月19 日と9 月27 日から10 日間程度、自殺者数が急増していることが明らかになりました。いずれも、著名人の自殺と自殺報道が強く影響しているとみられ、自殺報道は極めて慎重にしていただく必要があります。》
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23日発売の『週刊文春』に衝撃の記事が
さて、これで話が終わっていれば、私がこの記事を書くこともなかったろうが、その後、思わぬ展開になった。『週刊文春』があえて一石を投じる報道を行ったのだ。同誌編集部も、報道自粛を促す流れができていることは意識したうえで決断したのだろう。記事に日時などの細かいデータが多いのは、曖昧な報道をすれば非難が来ることを考えてのことだろう。ある意味で衝撃とも言える記事は『週刊文春』12月30日・1月6日号「神田沙也加『遺書』交際俳優と確執 聖子との7年絶縁」だった。これまでの報道では警察取材をもとに、遺書などは見られなかったとされていたのだが、この記事では遺書の存在を具体的に記し、一部の引用も行っていた。沙也加さんにかなり近しい関係者の情報提供がなければ書けない記事だ。ネットでは、その内容を信じないとして、「捏造に違いない」という書き込みまでなされている。記事内容については文春オンラインで読めるので下記を参照いただきたい。
https://bunshun.jp/articles/-/51026
この文春オンラインの記事公開は、紙の雑誌発売前日の午後4時だった。同時に『週刊文春』が1日早く読めるという触れ込みの「週刊文春電子版」でもその時間に記事を配信した。芸能マスコミは一斉に確認に走った。その記事に書かれていたのは、沙也加さんが主演を務める予定だったミュージカル「マイ・フェア・レディ」で共演していた俳優と交際しており、三角関係でごたごたしていたという内容だった。彼女が宿泊していたホテルの部屋には2通の遺書が残されており、うち1通はその俳優・前山剛久さん宛で、こう書かれていたという。《一緒に勝どきに住みたかった。2人で仲良く、子どもを産んで育てたかったです。心から愛してるよ》 記事によると2人は、勝どきのマンションで同棲するため、12月には契約する予定だったが、突然、前山さんが同棲の話を白紙にしたいと言い出し、沙也加さんがショックを受けていたという。もちろんたとえ自殺だったとしても、その理由は単純でない可能性もあり、断定はできない。記事を読むと2人は破局に至ったわけではないようで、記事の通りだったとしてもなぜ?という疑問は残る。
コメントを受けて芸能マスコミも一斉に報道
さてこの内容が配信されるとすぐに、前山さんの事務所に取材が殺到したのだろう。何とその夕方のうちに前山さんは事務所を通じて、交際していたのは事実だというコメントを発表。それを受けて23日のスポーツ紙は一斉にこれを報道。テレビも22日夕方のニュースでそのコメントを報じたところもあった。前山さん自身もショックを受けており、ミュージカルを降板することはもちろんだが、今後の芸能活動についても続けられるかどうかわからない状況だという。『週刊文春』の記事には前山さんが送ったLINEの中身まで書かれている。報道自粛の流れの中で『週刊文春』がこの報道に踏み切ったのはもちろん、関係者の情報を得られただろうし、LINEの文言まで書かれていることから、誰が情報提供したかについては憶測は成立するのだが、言及は控えておこう。
さてこの件、この後の展開はどうなるのか、予断を許さないが、『週刊文春』が報道に踏み切ったことを含めて、著名人の自殺報道に関わる議論をもう少し深めておいた方がよいように思う。異様なほど目に付いた「いのちの電話」の告知にしても、自殺か事故死か明示しないという報道にあれだけ付け加えてしまえば、別の意味合いを生じてしまう。厚労省の報道向けリリースにもその旨書いてあるから機械的に現場がやったのだろうが、きちんとした議論を踏まえてなされているようにはどうしても思えない。マニュアルを見てあまりよく考えずに処理しているようで疑問が残る。
いろいろな意味で大きな波紋が…
ついでながら、月刊『創』(つくる)は1年以上前の三浦春馬さんの自殺の後、それに衝撃を受けた女性たちがそこから脱け出せないでいるという社会的現象をきっかけもう1年以上、そうした人たちの動きを誌面で追っているのだが、中高年の女性が多い彼女たちの間で、今回の神田沙也加さんの死は大きな衝撃をもってうけとめられている。ちょうど松田聖子さんと神田沙也加さんの関係を見て育った年代ということもあるが、亡くなったのが18日土曜日、三浦春馬さんの月命日にあたったからだ。偶然とは思えないと受け止めた人が多かったようだ。神田沙也加さんの死が大きな衝撃として受け止められた要因のひとつは、中高年世代にとってアイドルの象徴として存在している松田聖子さんと、その有名な母親のもとに生まれ、常に「松田聖子の娘」と言われて育ってきた沙也加さんとの母子の関係に多くの人がある種の思いを抱いていたという事情もあるだろう。実は『週刊文春』の記事はその問題にも踏み込んで、母子の関係をたどってもいる。記事によると、この間、両人は全くの没交渉で、弁護士経由で連絡しあう仲になっていたという。沙也加さんは、有名芸能人の母親の存在が、自分の生き方を後押しすることにもなっていたが、同時にある種の桎梏(しつこく)にもなっていたというわけだ。
そうしたことも含めて、今回の神田沙也加さんの死は多くの人に衝撃を与えた。故人の冥福を祈りつつ、松田聖子さんが出場予定という紅白歌合戦などへの影響も含め、今後の経緯を見守りたい。
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