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http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261412012-n1.htm
【神隠し公判】「性奴隷」は夢想の産物、動機に酌量の余地なし 検察側論告(1)
検察官が法廷で読み上げた、星島貴徳に対する住居侵入、わいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の論告の要旨は次の通り。
「人間の顔をした悪魔」
事件は、星島貴徳被告が全く付き合いのなかった東城瑠理香さんを自分の思いのままになる「性奴隷」にしようと、自室に拉致したが、警察の捜査が始まると、捜査から逃れるため、東城さんを殺害して切り刻んで捨て、存在を完全に消し去ることで、第三者による連れ去りや失踪(しっそう)のように装い、事件を闇に葬り去ろうと計画し、躊躇(ちゅうちょ)なく冷酷に実行した事件です。 過去に類を見ない、極めて残忍で悪質な事件であることは明らかです。星島被告は東城さんを人格ある1人の人間として認めませんでした。性欲を満たすための「道具」としてしか扱いませんでした。警察の捜査から逃れ、消し去らなければならない邪魔な「物」としてしか扱いませんでした。被害者の人格や生命の尊厳を全く考えず、相手を思いやる気持ちをつゆほども持ちませんでした。「人を人とも思わない」残忍性は、被告が「人間の顔をした悪魔」であることを物語っています。矯正(きょうせい)の余地はありません。東城さんは誰もが安全で安心と考える自宅から突然拉致され、23歳という若さで生涯を閉ざされました。東城さんの無念や切り刻まれた骨片や肉片しか戻ってこず、対面することさえできなかった遺族の悲しみと苦しみは察するに余りあります。 被告に厳しい刑を持って望むべきことは、誰の目にも明らかです。
殺害は必然
星島被告は若い女性を性の快楽のとりこにして、思いどおりになる「性奴隷」にしたいと思い続けていました。相手は若ければ誰でも良く、時間をかけて強姦すれば性奴隷でできると考えていました。星島被告にとって性奴隷にする女性の人格は邪魔でした。被告の言うことなら何でも聞く、人間に作り替えようとしました。被告には女性と対等に付き合い、人格を尊重したり、思いやる気持ちはみじんもありませんでした。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261412012-n2.htm
星島被告はマンションの自室に連れ込みやすいという理由だけで、2つ隣に住む女性を標的にしました。女性の顔も名前も性格も知りませんでした。性奴隷にするために襲ったのがたまたま東城さんでした。当初から被害者の人格、尊厳を踏みにじる考えしか持っていませんでした。人を人と思わない身勝手極まりない考えで、この点だけでも被告の犯行は許し難いものです。弁護人は「殺人だけでなく、住居侵入やわいせつ略取についても計
画性がない」と冒頭陳述で主張しました。しかし、これは誤りで、女性の部屋の電気メーターを診て帰宅時間を推定したり、ベランダから押し入るか、玄関から押し入るか検討し、帰宅した瞬間を玄関から押し入ると決めると、その方法を検討し、実際に待ち伏せして犯行に及んでいます。
女性を脅迫や暴力でねじ伏せられると考えていたため、脅迫するための凶器や縛り上げるタオルなどを準備していませんでしたが、そのことで、計画性がないとは言えません。被告は犯行日の夜、東城さん方前の通路に立つ警察官を見ました。東城さんが連れ去られたことを警察が知り、自分に捜査の手が伸びるのは時間の問題と考えました。そのとき、東城さんは被告の部屋で3時間にわたり、全身を縛られ、口にはタオルを詰め込まれ、声も出せませんでした。抵抗するすべが全くなく、恐怖と不安で狂わんばかりになりながら生還を信じ、あきらめることなく、必死に生きようとしていました。しかし、星島被告に被害者を思いやる気持ちは全くなく、東城さんに謝罪して解放することが浮かぶことはありませんでした。考えたことは、逮捕されれば、楽な仕事をして毎日のようにタクシーで通勤して「ステータス」を味わうという生活や体面を失うことだけでした。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261412012-n3.htm
生活や対面を失うことは「自分の人生が終わりになること」と考えました。東城さんの存在を消してしまえば、行方不明事件として闇に葬り、永久に摘発されない、完全犯罪を成し遂げることができると考えました。このとき、星島被告は狼狽(ろうばい)していたのでも、感情的になっていたのでもなく、東城さんの命と自分の生活や体面をてんびんにかけたのです。その結果、自分こそ重要との結論を冷静に導き、東城さんを殺すことを選んだのです。被告は被害者を初めから自分の性欲を満たすための「道具」にすぎない存在として扱っていました。自分の生活や体面を守るために被害者が邪魔になれば「物」同様に消そうと考えました。星島被告はこのように東城さんの人格、尊厳、生命を踏みにじり、自己中心的で身勝手極まりない考えに終始したのです。いかなる意味でも、動機に酌量の余地はありません。
東城さんの死亡を確認すると、死体の解体準備に入りました。そのとき、殺害を反省する気持ちも後悔する気持ちも、遺族の悲しみを考えることも全くありませんでした。東城さんの殺害は存在を消し去るための道半ばにすぎなかったのです。それから長い時間をかけて被害者の死体を切り刻んでいきました。東城さんの「存在自体を消し去る」との決心が揺らぐことは一度もありませんでした。東城さんの存在を消すことを決してあきらめようとせず、やり遂げました。人としての思い、心情はかけらもありませんでした。弁護人が指摘した通り、最初から殺害を意図していませんでしたが、殺害が偶発的だったとは到底言えません。むしろ東城さんを自室に拉致した時点で必然になっていました。拉致した時点で殺す意図がなくても有利に酌量すべきではありません。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261412012-n4.htm
星島被告はこの部屋の女性がひとり暮らしだと思っていたことから金曜日夜に連れ去れば、月曜日朝まで犯行が発覚せず、十分な時間をかけて「性奴隷」にできると考えました。こうして女性を平成20年4月18日金曜日夜に拉致する計画を立てました。 星島被告は月曜まで失踪はだれも分からないと妄信していたようです。しかし、社会生活を送る女性の失踪が3日も発覚しないことはありえず、いずれ発覚していたはずで、発覚と同時に東城さんを殺害していたであろうことは明らかだと考えます。たとえ、金曜日夜から月曜日朝まで強姦し続けたとしても被害者が星島被告の思い通りに従う「性奴隷」になるはずがありません。東城さんの母や姉が証言したように自立した女性を目指して努力を続ける東城さんが被告の夢想の産物にすぎない「性奴隷」になどなるはすがなかったのです。星島被告がそれに気付いたとき、東城さんを解放して自由にしたでしょうか。被告の身勝手さに照らせば、到底考えられません。自らも供述する通り、警察の捜査の手から逃れ、自己の生活と体面を守るために東城さんを殺害し、遺体を解体して捨てたことは疑いようがありません。
苦しむ東城さんを見下ろす冷酷さ
「刃物で首を1回刺して殺す行為」は殺害方法として珍しいものではありませんが、自由に動ける人に刺すのとは比較にならないほど残忍で冷酷です。姉の通報で警察官が駆け付けたとき、東城さんは1つ隔てた部屋で生きていました。しかし、身動きもできず、目隠しされた東城さんには抵抗するすべは何もなかったのです。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261412012-n5.htm
星島被告には東城さんの存在を消すことしか頭にありませんでした。恐怖と不安に陥り、心理的にも無抵抗な状態の東城さんを見下ろし、その状態を哀れむどころか、むしろ殺害に利用しようとしました。暴れられては殺しにくいと考え、落ち着いて、前触れなく左からそっと近づきました。そして、右手で口を強く押さえて頭を固定し、ためらうことなく、包丁で首を刺し、上半身の体重をかけ、一気に突き刺していったのです。東城さんはうめき声を上げ、体をのけぞらせるように腰を浮かせましたが、何の抵抗もできませんでした。星島被告は腰を素早く押さえ付け、東城さんの命を早く絶とうと、大量に出血させるつもりで、包丁を抜き去りました。星島被告は血が流れるのを間近で見下ろし、両手で口を塞ぎ、体を押さえながら東城さんを確実に殺したのです。東城さんはうめき声を残して筆舌に尽くしがたい恐怖と激痛、苦しみの中、無念と絶望の底で殺されたのです。東城さんが殺されたとき、東城さんの姉が壁のすぐ向こう側にいました。父がマンションに到着したころでした。母が長野から東京に向かっている間のことでした。警察官が東城さんを懸命に探している最中のことでした。殺害のわずか前に警察官がドアをノックした音は東城さんにも聞こえていたはずです。希望の一筋の光明が見えたとたん、東城さんの命は星島被告の卑劣な行為で永久に断ち切られました。星島被告の殺害方法は、長い時間深い恐怖にさらした挙げ句、激烈な苦痛を与えた点でむごいというほかなく、残忍で冷酷です。
=検察側論告(2)に続く
【神隠し公判】卑劣な行為…遺族をいつまでも苦しませ続ける 検察
側論告(2)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261449015-n1.htm
検察官が法廷で読み上げた、星島貴徳に対する住居侵入、わいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の論告の要旨は次の通り。
遺体を“物”として扱った
星島貴徳被告は、東城瑠理香さんを殺害したあと、後悔の念にとらわれることなく、直ちに遺体の解体を始めました。包丁やのこぎりなどを準備し、浴室にこもって胴体から頭部や両足、両腕を順番に切り落としました。遺体を自分にとって不利益になる“物”として扱い、冷蔵庫などに隠しました。
(殺害)翌日の晩には、東城さんの手足から肉をそぎ取り、まな板の上で切り刻みました。その翌晩には、東城さんの胴体から腹や胸の肉をそぎ取り、臓器をまな板の上で切り刻みました。さらに翌晩…、耳をそぎ、頭蓋骨(ずがいこつ)をのこぎりで切りました。骨はゴミ袋に入れて隠していましたが、腐らせて強烈な腐臭が発生したため、犯行が発覚しないように鍋でゆでました。星島被告は東城さんの遺体を、自己の生活と体面を守るために邪悪な“物”として無残に扱いました。東城さんは、生前このようなことになると想像したことがあったでしょうか。遺族は耐えられるでしょうか。およそ、人が人間の心を持っている限り、同じ人間に対してできることでは到底ありません。人を人とも思わない星島被告だからこそできた、まさに鬼畜の所業です。星島被告は、切り刻んだ東城さんの臓器や脳みそ、細かくなった骨などを、水洗トイレから、汚物同様に下水道に流しました。また、少しずつ骨をマンションから持ち出し、ゴミ捨て場などに捨ました。こうして、星島被告はもくろみ通に東城さんの存在を完全に消してしまいました。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261449015-n2.htm
(平成20年)5月28日、現場マンションから流れる下水道管をたどると、東城さんのあばら骨の一部が見つかりました。同時に、東城さんが大切にしていたマニトバ州立大学の図書館利用カードの切れ端が見つかりました。自分の名前が書かれたカードとともに、1カ月以上も汚水の水流に耐えた骨片は、忍耐強かった東城さんの悔しさ、無念さを訴えかけているかのようです。発見された遺体はわずかで、生前の東城さんをしのべるほどのものではありませんでした。遺族は、現在も東城さんの死を受け入れることができません。遺族にとって、東城さんは(事件のあった)4月18日朝に「行ってきます」と言って出かけたまま、今も行方が分からないのです。星島被告の卑劣な行為は、遺族をいつまでも苦しませ続けます。そして、遺体が汚物にまみれて見つかったことや、見つかってない遺体が巨大な埋め立て地のどこかに埋まっていることなどを考えるとき、遺族の胸には激しい怒りと悲しみ、喪失感がわき上がることでしょう。
被害者1人でも死刑是認
この事件では、犯人は被害者を殺害する前から、遺体を解剖して捨てることで被害者の存在を消し、完全犯罪を計画しています。こういった事件では、死体の損壊や遺棄といった行為を情状としても十分に考慮するべきです。この点で、過去の判決例でも同様の評価がされており、悪質性は高く評価されています。例えば、昭和54年に北九州市で発生したバラバラ殺人事件です。この事件では、犯人はあらかじめ被害者から金を強奪する方法や殺害後に始末する方法などを計画し、被害者を甘い言葉で誘い出しました。犯人は金の強奪に失敗すると、粘着テープで被害者の全身を縛って首を絞めて殺害し、首や手足を切断してフェリーから海に投げ捨てました。この事件は、昭和57年3月16日に福岡地裁小倉支部が死刑を言い渡し、59年3月14日に福岡高裁が控訴を棄却、63年4月15日に最高裁が上告を棄却して、死刑判決が確定しました。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261449015-n3.htm
この事件で裁判所は、犯人がいわゆる完全犯罪を目指し、被害者を殺害して遺体を解体して遺棄するという計画を立て、実際にそれを実行した点をとらえて、被害者が1人で犯人にさしたる前科がないにもかかわらず死刑を是認しました。この事案のように、完全犯罪を企てていた殺人事件の場合、被害者が計画通りに“消され”、事件の存在が闇に葬られる蓋然性が高まるため、その犯情は著しく悪いものとして評価されなければなりません。星島被告が起こした事件において、星島被告は東城さんを殺す前の時点で、殺害後に解体して遺棄し、東城さんの存在を消すことを決意していました。そして、殺害した後は細かく切り刻み、星島被告はいつもと変わらない生活を続けながら、東城さんの存在を消す目的を遂げたのです。星島被告が行った遺体の解体と遺棄は、東城さんの失踪(しつそう)を第三者、あるいは東城さん自身のせいにして、発覚を防ごうとするもので卑劣です。また遺族の感情を著しく害し、社会にも悪影響を及ぼしました。
この事件で、星島被告に対して殺人罪に定められた刑罰を適用する上で、星島被告が東城さんの遺体を徹底的に切り刻んでごみのように捨てた行為は、もっとも悪質な情状として考慮すべきです。星島被告は、幸せに暮らしていた前途ある1人の女性を、無残なやり方でこの世から消し去りました。東城さんは、自然豊かな長野市で姉妹やいとこに囲まれて、健やかに育てられました。高校時代から海外留学を目指し、英語を熱心に勉強していました。大学進学後は留学を実現させ、同大学出身者として初めて英語教員資格も取得し、大学は主席で卒業しました。留学費用も、自らの力で賄いました。勤め先の会社でもチームの一員として楽しく、一生懸命に仕事に取り組みました。わずか23歳。この若さで、星島被告の手によって1つしかない命を永久に奪われたのです。
=検察側論告(3)に続く
【神隠し公判】あまりにもむごい所業、万死に値する 検察側論告(3)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261509018-n1.htm
検察官が法廷で読み上げた、星島貴徳に対する住居侵入、わいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の論告の要旨は次の通り。
「助けて」と何度も心の中で叫んだに違いない
母や友人、勤め先の上司が一致して証言するように、東城瑠理香さんは努力家でした。おとなしそうに見えて負けん気が強く、目標にがむしゃらに突き進むタイプでした。多くの友達に囲まれ、希望に満ちた活動的な女性でした。やりたいこともたくさんありました。幸せに結婚し、男の子をもうけ、英語をさらに勉強するつもりでした。周囲の誰もが、才能豊かで努力を惜しまない東城さんが、こうした夢を実現させるだろうと確信していました。東城さんは「旅の途中」だったのです。星島貴徳被告は、その東城さんの将来を根こそぎ奪いました。
東城さんは大学進学後、仲の良い姉妹と一緒に暮らしていました。916号室に転居してからも、日中は仕事に取り組み、夜は仲の良い姉と楽しく過ごしていました。事件のあった(昨年)4月18日も、いつもと同じように出勤し、夕方は姉と連絡を取り合い、午後7時半過ぎには916号室の玄関まで帰宅しました。東城さんにとって、この夜も、ここまではいつもと変わりない平穏な日常だったのです。東城さんに、もし玄関にカギをかけるわずかな時間があれば、後から帰宅してくる姉と部屋でお菓子を食べたり、一緒にお風呂に入ったり、おなかがすいたらコンビニにアイスを買いに行ったりして、いつものように楽しく過ごすはずでした。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261509018-n2.htm
いつもと違ったのは、2つ隣の918号室の玄関ドアに隠れて待ち伏せていた星島被告が、突然押し入り襲ってきたことです。東城さんは星島被告を押し出そうとしましたが、星島被告から殴りつけられ、両手を縛られ、刃物を突きつけられて918号室に連れて行かれました。東城さんは918号室に入れられると、手足をきつく縛られ、口の中にタオルを入れられました。逃げ出すことも、助けを求めることもできず、閉じこめられていることを誰かに知らせることもできませんでした。東城さんは、星島被告の暴力により、赤子同然の圧倒的に弱い立場に置かれたのです。東城さんは、自分が自宅の1つおいて隣の部屋に連れ込まれたことは分かっていたはずです。そして、すぐ近くの916号室に姉が帰ってくることも分かっていました。東城さんは、心の中で何度も「お姉ちゃん、助けて」と叫んでいたに違いありません。午後8時43分ごろに帰ってきた姉は、その声が聞こえたのかすぐに警察に連絡しました。やがて、玄関ドア外側の共用通路では警察官が捜査を開始しました。
無慈悲な首の激痛と断末魔の苦しみ
東城さんは、918号室で縛り上げられ、不気味な静けさのなかで恐怖に震えていました。それでも、東城さんは生きたかったはずです。生きてすぐそばにいる姉のところに帰りたかったはずです。午後10時20分ごろ、918号室のドアがたたかれた音を聞いて、東城さんは「やっと助けに来てくれた。お姉ちゃんが警察に電話してくれたんだ」と、生還への望みをふくらませたに違いありません。本当は身をよじり、タオルを吐き出し、あらん限りの声を上げて助けを求めたかったのだと思います。しかし、お姉さんが「(東城さんは)叫んだりしなければ、(犯人から)なにかされても、生きて帰してくれると思ったと思います。だって生きて帰してくれれば、なにかされてもまた笑って暮らせる日がくるから」と証言するように、希望を信じていたからこそ、星島被告を刺激しないようにあえてじっと耐えていました。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261509018-n3.htm
それからわずか数十分で、東城さんは突然、口を星島被告の手によってふさがれました。生還の可能性を信じ、震えながら祈り続けていた東城さんの恐怖は、このとき極限に達したはずです。一体自分はこれからどうなるのか。極限の恐怖の中で、手も足も動かせない東城さんは次の瞬間を待つしかありませんでした。東城さんを待っていたものは、無慈悲な首の激痛と断末魔の苦しみでした。大量の出血で薄れゆく意識の中で、東城さんは何を思ったでしょうか。東城さんの母が証言するように、東城さんは「なかなか死ななかった」わけではなく、「絶対に生きようと思って、死ねなかった」のです。しかし、「死にたくない、助けて、お姉ちゃん」と声なき声を上げながら、無念の中で絶命していったに違いありません。東城さんの恐怖感や痛み、苦しみ、絶望感は、遺族でなくても憤りの涙を禁じ得ません。大学時代の親友が「人の人生を奪っておいて、のうのうと自分だけ生きてるなんて信じられないと思いました」と、高校時代の親友が「この犯人だけは絶対に許さないし、死刑になったとしても、自殺して勝手に死んでも、こいつのことは絶対に許さないし、本当に憎いです」と、涙ながらに証言するのも当然のことです。あまりにもむごい星島被告の所業が万死に値するのは、誰の目にも明らかだといえます。
残忍な被告の餌食
東城さんは、平成20年3月初めから姉と暮らし始めたときも、防犯カメラなどが完備されていて、安全で安心できる916号室を選びました。9階の部屋は家賃が高くなりますが、それを我慢し、もっとも安全であると考えてあえて916号室を選ぶほど、東城さんは安全に気を使っていました。1人暮らしを避け、帰宅前には姉と連絡を常に取り合い、お互いの安全を気遣っていました。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261509018-n4.htm
(事件に巻き込まれた)4月18日も、帰宅するまでは何も変わらない一日でした。いきなり星島被告に玄関に踏み込まれ、殴られ、部屋まで連れていかれ、完全に無抵抗な状態にさせられたことについて、東城さんに落ち度はまったくありませんでした。自宅は、もっとも安全で安心できるところのはずです。被害者は、その自宅内までたどり着いていました。時刻も午後7時半で、遅い時間帯ではありません。それにもかかわらず、東城さんは見ず知らずの星島被告に突然襲われたのです。いかに注意深く生活していようと、東城さんが事前にこれを避けることは絶対にできたはずがありませんでした。この事件では、被害者である東城さんになんの落ち度もなかったことはもちろんです。しかし、それ以上に、東城さんには星島被告の襲撃から身を守るすべがなかったことを強調しておきたいと思います。東城さんは、残忍な星島被告の餌食になったとしか言いようがないのです。
=検察側論告(4)に続く
【神隠し公判】遺族の処罰感情厳しく…「今も帰りを待ちわびる」 検察側論告(4)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261536019-n1.htm
検察官が法廷で読み上げた、星島貴徳に対する住居侵入、わいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の論告の要旨は次の通り。
厳しい遺族の処罰感情
星島貴徳被告に殺害され、遺体をバラバラにされた東城瑠理香さんには、父、母、姉、妹の家族がいました。そして、叔母夫婦といとこたちも、一つの家族同様でした。姉は、916号室に帰宅した際、東城さんがいないことをおかしいと思い、マンションの内外をすぐに探しました。被害者がどうしても見つからず、再度、916室に戻ったとき、玄関の壁についていた血に気付いて、すぐに110番通報しました。「自分が取り乱したら警察の捜査が進まなくなって、瑠理香が見つけられなくなる」と考え、体を震わせながらも「瑠理香が必死で頑張っているから、私もがんばらなきゃ」と思い、夜を徹して警察の捜査に協力しました。その後、捜査がなかなか進展しなくても、必ず東城さんが帰ってくると信じ続け、東城さんのことだけを考えながら、仕事も辞めて被害者の帰りを祈り続けました。父は姉から連絡を受け、すぐに916号室に駆けつけました。しかし、東城さんが殺害された(昨年4月)18日午後11時ごろの直前、(東城さんと姉が住んでいた現場マンションに)到着していたのに、何もすることができませんでした。母も姉から連絡を受け、東城さんを心配する叔母夫婦ら3人とともに長野市から東城さんの元に駆けつけました。しかし、19日午前2時前ごろ、東城さんを心配するあまり、足がふらついて立っていることすらままならない状態で母がマンションに到着したとき、2軒隣の星島被告の部屋では、東城さんの遺体の損壊が始まっていました。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261536019-n2.htm
姉も父も母も、一つ置いて隣の918号室で、東城さんが殺され、その遺体が損壊されて捨てられ、東城さんの存在が消されていくことを知らないままでした。遺族は、東城さんの生存を信じ続け、帰りを待っていました。姉が「あんなにそばにいたのに、全然気付かなくてごめんね」と話したように、遺族は近くにいながら、東城さんを助けることも、見つけることもできなかったことを、悔やみ続けています。下水道管から発見された骨片や組織片が、DNA型の鑑定により東城さんのものと判明しました。しかし、遺族はそう聞かされても、東城さんの死を受け入れることはできませんでいした。誰も東城さんの遺体と対面し、最後のお別れをすることができなかったからです。事件から9カ月がたちました。母は「私たちはまだ、瑠理香の死を受け入れていないから、まだ仏壇はつくりません」と話しています。また、「瑠理香が大きなバッグを持って、『ただいま、ルリだよ』って帰ってきてくれそうな気がします」とも話しています。父は「瑠理香が殺されてバラバラにされ、下水道に流されたという話が、どうしても夢の中の話のように思えてなりません」と話しています。
「お墓は、私たちみんなが、本当に瑠理香が死んだと理解できてから、つくるつもりです」。姉はこう言います。遺族はいまだに東城さんが死亡したことを心から現実のこととして受け入れることができません。母はいつも、食事も飲み物も東城さんの分まで用意して、「ルンちゃんの分だよ、一緒に食べようね」と語りかけているそうです。姉も東城さんの24歳の誕生日には「そこにいると思って、みんなでお祝いしました」と話しています。遺族は今も、東城さんの帰りを待ちわびているのです。遺族の悲しみから目をそらせてはならない星島被告は遺族に何ら謝意の措置も講じていません。もちろん、今後もその見込みはありません。星島被告は、遺族に謝罪すらしていません。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261536019-n3.htm
遺族の苦しみ、悲しみ、つらさは、姉や母の証言、父の供述調書に現れているとおり、計り知れないものがあります。「他の殺人事件の遺族に共感が持てなくなり、自分から人間らしい心が失われてしまったような気がしてなりません」。母はこう話しています。姉は「うちらは何も悪いことをしていないから、神様とか先祖とかがきっと守ってくれるから、瑠理香は絶対に見つかると思っていたのに、こんなことになってしまって、何も信じられない」と話しています。父も「(東城さんの)無念を考えると、私は何もかもがいやになってしまいました。死にたいと思いました」といいます。遺族は、事件後、星島被告の身勝手きわまる犯行のために苦しみ続けています。遺族のこの苦しみから目をそらせてはならないと考えます。「瑠理香に何もしてあげられなかった母親として、すごく情けないという気持ちでいっぱいです」「大きな、とても大切な宝物をなくしてしまい、心が固まってしまい、私も長女も泣くことができません」と母親は話しています。姉が「自分の心はぽっかり穴が開いて、なくなってしまったと思います」「せめて、もうデザインも決めていたウエディングドレスを着せて、顔の周りをお花でいっぱいに埋め尽くしてあげて、棺に入れてあげたかった」などと話したように、宝物にしてきた東城さんの存在を失った遺族の悲しみは、測りがたいほどに深く、癒しがたいものです。遺族のこの悲しみからも、やはり目をそらせてはならないと考えます。母は「なんで瑠理香が埋め立て地のようなところに捨てられなきゃいけないのか。瑠理香は気が狂っちゃっているような気がします」「被告人は本当に、人間じゃない」と話しています。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261536019-n4.htm
姉も「人の命を何だと思っているんだ。そんなに簡単に決められたくない」「(葬式の日からきょうまで)絶対に犯人を死刑にしてやると思って、頑張ってきました」「(被告人が)死んでも許さない。お墓ができたら、ハンマーを持って殴りにいきたい」と話したように、理不尽な理由と残酷な殺し方で東城さんを奪われた遺族の怒りは激しいです。遺族のこの激しい怒りは、十分に理解できます。遺族にとって被害者は、自慢の娘であり、記憶にある最初の日からともに人生を歩んできた妹であり、あこがれの姉であり、目標とするいとこでした。その大きく大切な存在を、被告人の身勝手きわまる動機から「消されて」しまった遺族の思いは、察して余りあるものがあります。 被告人が死刑に処せられることを遺族が強く望むのは、当然なのです。もはや、誰も東城さんの声を聞くことはできません。母が「瑠理香は体を切り刻まれ、すべてバラバラにされて顔も体も見られなくなってしまったんですけど、でも、魂だけはみんなの元に帰りたいという一心で、第2頸骨(下水道から見つかった東城さんの骨の一部)に魂を込めて帰ってきてくれたんだと思います」と証言するように、東城さんの魂は、今、遺族とともにあります。東城さんが法廷に現れることも、自分の気持ちを伝えることもできないからこそ、遺族の気持ち、そして遺族の言葉を重く受け止めなければなりません。法廷で自分の言い分を主張できる被告人に目を奪われ、遺族の素直な気持ちが軽視されるようなことは絶対にあってはならないと考えます。
=検察側論告(5)に続く
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261541020-n1.htm
【神隠し公判】被告の反省の念、凶悪な犯罪性向を否定する理由にならない 検察側論告(5) (1/4ページ)2009.1.26 15:37
論告求刑公判に臨んだ星島貴徳被告(左から2人目)=26日午前、東京地裁(イラスト・今泉有美子) 検察官が法廷で読み上げた
、星島貴徳に対する住居侵入、わいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の論告の要旨は次の通り。
徹底した隠蔽工作
星島被告は、東城さんを918号室(星島被告の自室)まで連れ去った後、東城さんの額から出血の痕跡を消そうと考えました。そのため、916号室(東城さんの自室)に戻り、落ちていた血をきれいにふき取ったほか、自分の指紋を消すため、台所下の物入れの扉などをふくなどしました。星島被告は、東城さんの衣服や所持品も、細かく刻んで水洗トイレから下水道管に流すなどしてすべて廃棄しました。東城さんの遺体をすべて捨て終わると、東城さんの血や肉片などが室内に残らないように、床に敷いていたコルクマットを1枚1枚洗い、業務用の強力な洗浄剤を入手して配水管内を洗うなど918号室を徹底的に掃除しました。星島被告は、東城さんの存在と同様に、自己の生活と体面を脅かす証拠をすべて消し去ろうとしたのです。星島被告は事件当日の(昨年)4月18日午後10時40分ごろ、916号室前の共用通路に警察官が3人立っているのを見たとき、警察官に対して、「不審な物音には一切、気付かなかった」とうそをつきました。星島被告は同月19日午前2時ごろ、警察官が918号室を訪ねてきたとき、手足に付いた血をシャワーの湯で洗い流した上、玄関ドアを開け、入浴中であったかのように装って警察官に対し、「何も聞こえなかったですね。もう眠いんで、寝ていいですか」などとうそを言いました。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261541020-n2.htm
星島被告は同月19日正午ごろとその日の夕方、また、翌日の夕方にも、訪ねてきた警察官を自ら進んで918号室に入れ、警察官に怪しまれないように平静を装って対応し、捜査に協力するかのように偽って、まるで東城さん失踪とは無関係であるかのような振る舞いをしました。星島被告は4月18日から5月1日までの間、夜を徹して東城さんの遺体を類を見ないほど細かく徹底的に損壊し、トイレから下水道管に流すなどして着実に罪証隠滅を図りました。その一方で、星島被告は、日中は平然と勤め先に出勤し、マンションで事件とは無関係の住民のふりをして周囲の目を欺いてきました。4月19日に外出したさい、マンションの周囲に集まっていたマスコミ関係者に対し、笑みを浮かべてインタビューに応じました。同月20日ごろ、エレベーター内で、東城さんを心配して不安でいっぱいだった父に偶然会ったときも、父に平然と話しかけて事件との無関係を装いました。
5月16日ごろ、勤め先の同僚と酒を飲んだときには、事件が「被害者の自作自演ではないか」と平然とうそぶいて同僚たちを欺きました。当初、星島被告は、捜査の対象とはされていませんでした。これは、星島被告が警察官や周囲を欺くために徹底して平然と振る舞った結果にほかなりません。ここにも、星島被告の冷酷さと根深い犯罪性向が現れています。
徹頭徹尾、人を人とも思わぬ非人間的な行為
今回の事件は、星島被告の「人を人とも思わぬ」冷酷な人間性が露顕した事件です。星島被告は、被害者に襲いかかってからその存在を消し去るまで、決して、場当たり的に行動していたのではありません。常に性欲の充足、あるいは自己の生活と体面を守るという目的に照らし、その時点で何が最も有効なのか、何が最も危険なのかを冷静に計算し、それに従って自らの行動を制御し、今回の事件を実現したのです。ここに、従前の日常生活では決して表に現さず、法廷でも見せることがなかった、星島被告の真の人間性が現れています。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261541020-n3.htm
星島被告は、かねてからの強姦願望を実現し、若い女性を「性奴隷」にしようとしました。暴力で被害者をねじ伏せ、邪魔になれば躊躇(ちゅうちょ)なく殺害しました。遺体をみじんに至るまで損壊し、平然と事件との無関係を装いながら、徹底した罪証隠滅工作に及びました。星島被告は、徹頭徹尾、人を人とも思わぬ非人間的な行為を貫いたのです。一方で、東城さんの人格、尊厳、そして生命までも踏みにじりながら、他方で保身のための足場を刻んでいく星島被告の冷たい内面には戦慄(せんりつ)を覚えます。星島被告のこうした卑劣な性格の形成に、その生い立ちが影響しているでしょうか。
星島被告は1歳11カ月のとき、下半身に大やけどを負いました。星島被告はそれを気に病み、いじめられることを嫌がるがあまり、人付き合いを避けてきたことは同情に値します。しかし、仕事が順調であったことから自分を特別視し、他人を見下し、女性を自分の性欲を充足する対象としてしか見ず、その人格を無視し、その痛みや苦しみなど歯牙にもかけない自己中心的な性格をはぐくんだことは、星島被告がやけどの痕にコンプレックスを感じていたこととは全く無関係です。星島被告に前科、前歴がなく、反省の言葉を口にしていることから、星島被告の犯罪性向は進んでいないとの結論が導けるでしょうか。確かに前科、前歴があることは、その者に犯罪性向があることを示す要素の一つです。しかし、すべてではありません。それまで露見しなかった残忍で冷酷な人間性、顕著な犯罪性向が、一つの事件で一気に露見することもあり得ます。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261541020-n4.htm
星島被告は、罪を認めています。しかし、自首したわけではありません。星島被告は、自ら供述するように、5月25日に警察に逮捕されるまで、遺族のことを考えたことも、被害者のことを考えたこともなく、警察の捜査を振り切って、これまで通りの生活を続けることだけを考えており、自首しようと考えたことは一度もなかったのです。そして、星島被告は、警察の調べに対し、当初から自発的に罪を認めていたわけでもありません。担当の警察官から、918号室から血液反応が出たという厳然たる証拠を突きつけられ、もう逃げ切れないと観念して罪を認めたにすぎないのです。星島被告は、法廷で、「上京して数年すると、両親をいつかは殺してやろうと思うようになった。殺さないと気が済まなかった。今まで一度も謝ってくれなかった。私の足をかばってくれなかった。もっと早くに何か一言あったらと、そんな恨めしい気持ちでいる」「もし、やけどの痕がなければ、人を殺したりはしていない」と供述しました。星島被告が幼少期にやけどを負ったことと、星島被告が人を人とも思わぬ身勝手な人間になったこととは、明らかに関係がありません。 星島被告はこれだけの事件を起こして、なお、自分の都合が悪いことをすべて他人に押しつけようとしています。星島被告は、口先の言葉とは裏腹に、何の反省もしていないのです。また、星島被告は法廷で、「世の中のすべての人間が、自分のやけどのことをばかにすると思っていた」「やけどの痕のことを気持ち悪いといわれることが絶対に嫌だった。もし、そんなことを言われたら、殺してしまうかもしれない」と供述しました。やけどの痕をからかわれたくないという、ただそれだけの理由で、脆弱(ぜいじゃく)な自己を守るために人殺しを辞さないという星島被告の性格は、著しく危険であるというほかないと考えます。総じて、星島被告に前科、前歴がなく、罪を認めていること、今さら口先で空疎な反省の念を示していることは、星島被告に根深い凶悪な犯罪性向があることを否定する理由にはなりません。今回の事件で露顕した根深く、顕著な凶悪犯罪性向をみれば、これを矯正することは到底不可能であると結論付けざるを得ません。
=検察側論告(6)に続く
【神隠し公判】姦淫の有無は量刑に影響しない 検察側論告(6)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n1.htm
検察官が法廷で読み上げた、星島貴徳に対する住居侵入、わいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の論告の要旨は次の通り。
模倣犯の種をまいた
この事件は、防犯設備の整ったマンションで忽然(こつぜん)と女性が消えた事件として社会を震撼させました。「東城瑠理香さんがマンション内のどこかにいるのではないか」。あるいは「防犯ビデオの死角から連れ出されたのではないか」などと報じられましたが、星島貴徳被告が逮捕され、死体を損壊してトイレに流し、マンションのごみ捨て場に捨てたことが明らかになったとき、社会は人が消されたことに著しい衝撃を受けました。特に1人暮らしの女性の受けた不安感は見過ごせません。マンションの居住者の中には、恐怖感、不安感から退去した人も現れました。この事件は、人を殺害しその死体を細かく損壊してトイレに流せば人を消すことができることを、社会に知らしめた面があります。模倣犯の発生が懸念され、次の同様の犯罪の種をまいたと言えます。そして、いかに注意していても被害者側からは絶対に防ぎ得ない事件の態様は、次に誰が被害者になってもおかしくない態様です。このような態様の犯行には一般予防の必要性が特に高いと言えます。東城さんの姉は証言の最後に「今、人を殺そうとか、誰かを犯してやろうとか犯罪をしようって考えている人、どうか思いとどめてください。幸せになりたいと思っている女の子の希望、夢、未来を奪わないでください。お願いします」と涙ながらに訴えました。この涙が無駄にされてはならないと考えます。量刑にあたっては、それをこの種の犯罪の再発を防止できるものにしなければなりません。
類似3事件は死刑を選択
これまで論じたように、今回の事件は自己の性欲を満たすため、乱暴する目的で何の落ち度もない女性を略取し、警察が捜査を始めたことを知ると、捜査の手を逃れ、自らの生活や体面を守るためにその女性を殺害したものです。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n2.htm
落ち度のない女性に対してわいせつ行為を行う目的で略取や誘拐をし、監禁した後、検挙を免れるためにその女性を殺害した事件については、これまでの我が国の司法は、被害者が1人であり当初から相手を殺害することを計画していない事件であっても、厳然と死刑を選択してきました。
【前橋事件】
平成16年10月29日に東京高裁が死刑を言い渡し、確定済みの、前橋市(旧大胡町)内で発生したわいせつ略取・殺人事件では、女子高生を拉致監禁して乱暴するとともに人質にして、児童相談所に対し、暴力や生活態度に愛想を尽かして逃げ出した妻や娘を連れてこさせることを要求しようと計画。道を尋ねるふりをして女性=当時(16)=を車に押し込み、山中まで連行して乱暴し、その後、逃げようとした女性の首を絞めて失神させ、その頭にビニール袋をかけ、コードで首を絞めて殺害したうえ、死体を山中に放置し現金と携帯電話を奪い、女性の親に生存を装って身代金を要求して、23万円を交付させた事件です。
【奈良事件】
18年9月26日に奈良地裁が死刑を言い渡し確定済みの、奈良県平群町内で発生したわいせつ誘拐・強制わいせつ致死・殺人・死体遺棄事件では、自転車に乗ってわいせつ行為の対象とする女児を物色し、甘い言葉をかけて小学校から帰宅途中の女児=同(6)=を車に乗せて部屋に連れ込み、全裸にして入浴させ胸を弄(もてあそ)び始めたところ、女児から拒絶反応を示されたため、検挙を免れるために女児を風呂水に沈めて殺害し、死体の口に陰茎を入れるため歯をサバイバルナイフでえぐり取り、死体を車で搬出して町道の側溝に遺棄したうえ、女児の親に死体の写真などを送りつけて脅迫した事件です。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n3.htm
【三島事件】
さらに17年3月29日に東京高裁が死刑を言い渡し、20年2月29日に最高裁が上告を棄却して確定した静岡県三島市で発生した逮捕監禁・強姦・殺人事件では、深夜に三島市内の国道を車で走行中、アルバイトを終えて自転車で帰宅途中の女性=同(19)=を、乱暴目的で車に無理矢理押し込み、車を走らせて約3時間に渡り監禁。山中に停めた車内で女性を乱暴した後、犯行発覚の恐れと覚醒(かくせい)剤仲間のところに早く行って覚醒剤を使用したいとの思いから、女性の殺害を決意。ガムテープを両手首に巻き付けて後ろ手に縛り、口にも貼り付けて路上に座らせ、頭から灯油を浴びせて頭髪にライターで点火し焼死させた事件です。これらは、いずれの事件でも、自己の性欲を満たすために無差別に選んだ落ち度のない被害者に対して、わいせつ行為を行う目的で略取または誘拐して監禁した後、検挙を免れるために相手を殺害したものです。それぞれ、被害者は1人で監禁後に被害者の始末に困って検挙を免れるために殺害したものであり、当初から相手を殺害することを計画していた事件ではありません。
姦淫をできなかっただけ
前橋事件では、姦淫行為が既遂に達している▽余罪として住居侵入、強盗事件がある▽女性を殺害した後にその親に対して身代金を要求している-ことが今回の事件と異なっていますが、犯人に前科がないことは共通しています。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n4.htm
奈良事件は、わいせつ行為に及んでいる▽犯行後に女児の親を脅迫している▽余罪として強制わいせつ事件、窃盗事件などがある▽女児に対する強制わいせつ罪などにより懲役刑に処せられた前科が2犯ある-ことが、今回の事件と異なっていますが、被害者の死体の歯をナイフでえぐり取り死体を損壊している点は類似しています。三島事件は、姦淫行為が既遂に達している▽犯人に覚せい剤取締法違反、強盗致傷により懲役刑に処せられた前科が2犯ある-ことが今回の事件と異なっています。星島被告は東城さんを姦淫するには至りませんでした。しかし、被告は「性奴隷」を手中にするため計画を立てたうえ、手近な標的として916号室の女性を待ち伏せ、力ずくで東城さんの自宅に踏み込み、暴力で東城さんをねじ伏せて、918号室に連れ込んで完全に自由を奪い、東城さんを思うがままにできる状態においたのです。被告は、東城さんに乱暴するため、アダルトビデオを見ながら陰茎を勃起させようとしていました。姦淫するに至らなかったのは、「(乱暴を)した、しないとかじゃなくて、できなかっただけです」と被告が供述しているように、陰茎が勃起する前に警察の捜査が開始されたからに過ぎません。従って、この点は刑を選択するうえで考慮すべき有意な差とは考えられません。
=検察側論告(7)に続く
【神隠し公判】「自身の生命で罪を償わせるべき」 検察側論告(7完)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261555022-n1.htm
検察官が法廷で読み上げた、星島貴徳に対する住居侵入、わいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の論告の要旨は次の通り。
愚弄、欺き…悪質な犯行態様
逆に、今回の事件は他の3つの事件(前橋事件、奈良事件、三島事件)と比較し、被害者の自宅に侵入し、殴りつけて縛るなどして反抗を抑圧して略取した▽微塵に至るまで著しく死体を損壊し尽くした▽被害者の尊厳を愚弄する態様で遺棄した▽冷然と捜査機関や社会を欺いて時間を稼ぎ、徹底した罪証隠滅工作を行った-ことにおいては、より悪質と言えます。突然、包丁で首を刺して押さえつけ、大量に出血させるために約5分後にあえて包丁を抜き去って失血死させたという殺害態様は、被害者の首をコードで締め上げた前橋事件、被害者を浴槽で溺死させた奈良事件、被害者が生きたまま火をつけて焼き殺した三島事件と、その態様が被害者に与えた苦しみが想像を絶するほど大きいという点で異なるところはなく、刑を選択するうえで考慮すべき有意な差とはなりません。東城瑠理香さんは年齢が当時23歳と、これら3つの事件の場合と異なって成人に達していますが、将来を夢見る若い女性であったうえ、これまで述べてきた通り、星島貴徳被告に対して抵抗する術がなく、極度の恐怖と不安、苦しみと無念の中で、尊い命を絶たれたことについて相違はありません。被害者の年齢のわずかな相違が、刑を選択するうえで考慮すべき有意な差になるとは考えられません。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261555022-n2.htm
従って、総合すればこれら3つの事件と今回の事件との間に、刑を選択する上で考慮すべき有意な差はないものと結論づけることができます。
最高裁の死刑基準と照らして…
死刑とは、人間存在の根本である生命そのものを奪い去る極刑です。
昭和58年7月8日の「永山事件」の最高裁判決は、犯行の罪質▽動機▽態様、特に殺害の手段方法の執拗(しつよう)性▽残忍性▽結果の重大性、特に殺害された被害者の数▽遺族の被害感情▽社会的影響▽犯人の年齢▽前科▽犯行後の情状-などを併せて考察したとき、その罪責が誠に重大であって罪刑均衡の見地からも一般予防の見地からも、極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択も許されると判断し、考慮される重要な量刑要素を列挙して明らかにしました。そして、この永山事件の判断が示した量刑基準は死刑適用の一般的基準として、その後のいくつもの最高裁判決によって、その内容が明確化されてきました。
その中で、平成18年6月20日の「光市母子殺害事件」の最高裁判決は、永山事件の判断で示した犯行の罪質▽動機および経緯▽態様▽結果の重大性▽死体損壊などの犯行後の情状▽遺族の被害感情▽社会的影響-を総合すると、「被告人の罪責は誠に重大であって、特に酌量すべき事情がない限り、死刑の選択をするほかないものといわざるを得ない」としています。その上で、特に酌量すべき事情の有無について検討を行い、「殺害についての計画性がないことは、死刑を回避する特に有利に酌むべき事情と評価するには足りないものというべきである」としました。
光市母子殺害事件での被告が「犯行時、18歳になってまもない少年であったことは、死刑を選択するかどうかの判断にあたって相応の考慮を払うべき事情ではあるが、死刑を回避する決定的な事情であるとまではいえず、本件の罪質▽動機▽態様▽結果の重大性▽遺族の被害感情-と対比・総合して判断する上で考慮すべき、ひとつの事情にとどまる」と示しました。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261555022-n3.htm
この判決により、永山判決が列挙した情状のうち犯行自体にかかわる情状、つまり犯情を基本に考察し、これにより罪責が誠に重大であるときは、年齢、前科などの犯罪的傾向、反省などの犯行後の情状、改善更正の可能性など被告人の属性にかかわる主観的情状のみでは死刑を回避すべき決定的な事情とはならず、死刑を回避するに足りる「特に酌量すべき事情」が認められない限り、死刑を回避できないとの判断基準が示されたものと解することができます。
「特に酌量すべき事情を認められない」
事件は、星島被告自らの保身のため、東城さんの存在を消し去ったものです。被告は、東城さんの人格を踏みにじって獣欲の標的とし、自分の「性奴隷」として、物同様の支配下に置くことを企て、自ら招いた警察捜査の開始という事態に対し、急転して東城さんを犯行を裏付ける証拠となる危険で邪魔な存在と考え、東城さんの人格や生命、尊厳を踏みにじり、ためらうことなく殺害してバラバラに損壊し、汚物やゴミ同様に遺棄しました。 この事件の罪責は、誠に重大です。過去に類を見ない、人を人とも思わぬ、悪質きわまりない犯罪です。
永山判決や光市母子殺害事件判決が示した考え方に基づいて考察するとき、今回の事件は犯情に照らせば、被告が現在34歳であること、前科がないこと、一応は罪を認めて反省の姿勢を示していることなどは、死刑を回避するに足りる「特に酌量すべき事情」とは認められません。 罪刑の均衡の見地からも、一般予防の見地からも、被告を自由刑に処する余地は到底認め難く、被告自身の生命をもって、その罪を償わせるべきだと考えます。(完)
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