「ファイル交換ソフト・Winny(ウィニー)事件」考

 (最新見直し2006.12.5日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 「ファイル交換ソフト・Winny(ウィニー)事件」について、れんだいこはメカのことが分からないので及び腰になるが、この事件の本質は、進化し続けるインターネットソフト産業に対し、全方位著作権者と権力機関当局が結託して、その芽を潰そうとしている現代版ラッダイト運動のように思える。

 一体全体、ファイル交換ソフトの開発自体が非である訳が無かろう。その開発者を逮捕するなどとは野蛮の極みである。文明の利器とは常に双刃であり、人がそれをどう活用するのかその主体性が問われるべきものである。誘引論を満展開させたならば全てが犯罪に繋がろう。

 その論理で行けば、包丁も使用禁止にすれば良い。インターネットそのものがいとも容易く情報を交叉させる媒体であるからして、それをも禁止することになろう。そったら馬鹿な取締りが許されて良いだろうか。開発者には何の責任も無い、むしろ人間知力の可能性をどんどん証させていくべきだろう。唯一規制される理念は、人類全体の倫理と福祉の観点からのものであり、権利的なものではなかろう。

 開発者の著作権侵害意図的誘引行為でさえ、元々発明にはその種の動機が付き物でそれ自体の背徳を責めるのは如何なものであろうか。生殺与奪的な社会犯罪的要件が立証された場合のみ問題にされるべきで、発明によって既成の産業的権利が打撃を受けることは致し方ない。歴史にはそういう例があふれかえっている。してみれば、決して、近時の全方位包括的承諾要件式著作権理論の偏狭な様式に従わされるべきものではなかろう。そういう意味からも著作権法の正確な理解が無ければならない。近時の全方位包括的承諾要件式著作権理論には実は法的裏づけが無い。

 「ウィニー事件」は、著作権法について原点からの問い直しをするのに格好教材であるように思われる。今こそ文明のシロアリ理論に対して正当なる疑問を呈していくべきではなかろうか。れんだいこが「ウィニー事件」を評すれば、本来激賞されるべき者が逮捕される、という本末転倒事象が生起しているということになる。

 2004.8.3日 れんだいこ拝


【「ファイル交換ソフトとは」】
 「ファイル交換ソフト」とは、コンピューターの利用者同士がネットを介して音楽や映像などのファイルをやり取りするソフトのことである。国内の利用者は推定200万強に上るとみられる。

 ウィニーは、P2P(ピア・ツウ・ピア=個人対個人)と呼ばれる技術の一つで、利用者が手持ちのファイルを直接検索し合う仕組みを構築している。ウィニーを使っている人が、ある情報を自分のパソコンに保存すれば、他の利用者もこの情報を取り込めるようになっており、これにより、映像や音楽などの情報を共有、交換し合えることになる。欲しい情報を短時間で検索できることにもなる。

 ウィニーは、匿名者間でのネットワーク上での情報複製を可能にする。この効能が違法コピーの流通による著作権侵害の温床になっているとの指摘がある。実際に、ウィニー利用者によって京都府警の捜査関係書類が流出する不祥事も起きた事例が報告されている。しかし、それは、「ファイル交換ソフト・ウィニー」を取り締まる方向においてではなく、別の手立てを講ずる必要が生まれた、ということではなかろうか。

【「ファイル交換ソフト・Winny(ウィニー)事件」の概要】
 10歳のころからパソコンソフトの作製を手がけたという経歴を持つ東京大大学院助手の金子勇容疑者(33歳)は、インターネット掲示板でファイル交換(共有)ソフト「Winny(ウィニー)」の開発を宣言し、約1カ月で完成させ、これをネット上で公開して無償で配信した。「これにより、金子氏は『インターネットソフト界の伝説の天才』になった」。ウィニーを配信していたホームページでは、「従来のデジタルコンテンツビジネスモデルはすでに時代遅れ」と指摘、「デジタル証券システム」といった試論を登場させていた。

 これに京都府警が監視の目を光らせた。2001.11月、別のファイル交換ソフト「WinMX」の利用者を逮捕。昨秋以降、金子氏を任意聴取していた。金子氏は既存秩序を否定する刺激的な供述を繰り返した、という。これに対し、京都府警は、金子氏が著作権侵害の現状の深刻さを分かった上で、ウィニーによってさらに広げようとしており悪質として逮捕に踏み切った。金子容疑者がウィニーによる著作権侵害が広がっていることを知りながら、236回のバージョンアップを繰り返したことについても、「ウィニーが違法に利用されることを認識していた」と判断し、逮捕の根拠とした。警察側は金子氏の「挑発的な態度」を逮捕の要因とした、という情報もある。

 京都府警による金子被告逮捕に抗議の声が挙がっている。ウィニーによる捜査関係書類流出の仕返しと読む声もあり、京都府警はいら立ちを隠さない。「Winny(ウィニー)は、『次世代のネットシステム』か『プライバシー侵害ソフト』か」を廻ってホットな議論が続いている。

 京都府警による金子被告逮捕問題は、インターネット上で音楽や映像などの情報を直接やりとりできるファイル交換プログラムソフトの開発者に対し、著作権法違反の「幇助」罪の適用が出来るのかどうかにある。 捜査当局は、開発の「意図」を問題にして事件化したが、日進月歩のデジタル技術と利用者の爆発的拡大に対する対応として取り締まり一辺倒でよいのかどうか、勇み足ではないのか等々難しい問題が宿されている。米国ではソフト開発者ではなく、利用者の責任を問うのが主流になりつつある」。

 金子助手の知人でソフトウエア開発会社社長・新井俊一(26)氏は、「今回は幇助の範囲をとても広く解釈している。これではいつでもソフトウエア技術者を逮捕できるようになる」と懸念している。

【警察及び検察の論理】

 2004.5.31日、京都地検が、ファイル交換(共有)ソフト「Winny(ウィニー)」の開発者・東京大大学院助手の金子勇容疑者(33歳)による同ソフトのインターネット上での公開行為に対し、同ソフト利用者の著作権侵害を幇助したとして著作権法違反(公衆送信権の侵害)幇助罪で起訴した(「Winny(ウィニー)著作権法違反事件」、略して「ウィニー事件」)。ソフトの開発者の刑事責任が問われるのはきわめて異例であり、成り行きが注目される。

 起訴状によると、金子助手は2002.5月上旬からウィニーをネット上で公開して無償で配信。ソフトが著作権侵害行為に利用されていることを知りながら、不特定多数が最新版を入手できる状態にし、昨年9月、群馬県高崎市の風俗店従業員(41)=同法違反罪で公判中=らがウィニーを使って映画やゲームソフトを不特定多数のネット利用者に送信できるようにした著作権侵害を手助けしたとされている。 

 地検の見解は次の通り。地検は、ウィニーは映像や音楽の違法コピーソフトであるとし、この見地から実際の使われ方を追跡していった結果、「被告自身、ウィニーを違法コピーにしか使っていなかった。著作権侵害の意図は明らか」として著作権法違反(公衆送信権の侵害)幇助罪に該当すると判断した。「ウィニーによる著作権侵害が広がっている事実を雑誌などの報道で知りながら、ソフト改良を繰り返しており、悪質性は高い」とした。高田明夫・次席検事は、「ソフトのやり取り数十万件のうち、適法なものは2%にすぎなかった」と指摘している。


【金子氏の反論】
 金子氏の見解は次の通り。
 「インターネットが普及した現在、デジタルコンテンツが違法にやりとりされるのは仕方ない。新たなビジネススタイルを模索せず警察の取り締まりで現体制を維持させているのはおかしい」。
 「著作権侵害をさせるためのものとして開発したのではない。侵害をした正犯者の二人と面識がなく彼らが著作権違反をするなど全く分からなかった(金子被告は逮捕当初、容疑を認める供述をしていたとされるが、現在は全面否認に転じている)」。

 地検は、金子容疑者のこの主張をもって「確定的な故意が認められる」、「その後のソフト改良の動きも含めて悪質性が高い」と判断したと云うが、まことに物言えば唇寒しとはこのことだろう。

【「金子勇氏を支援する会」結成される】
 ソフトウエア開発会社社長・新井俊一(26)氏は、金子逮捕という局面を受け、仲間のソフトウエア技術者らと「金子勇氏を支援する会」を結成した。2週間余りで約1500万円の支援金が集まり、応援メールも200通近く寄せられた。壇弁護士は、「今回の不当逮捕への関心の高さを実感する」と自信を見せる。

 インターネットサイト「FreeKaneko.com 」が立ち上げられ、支援活動している。

【急増するファイル交換ソフトの利用者】

 2004.5.31日付け毎日新聞は、「急増するファイル交換ソフトの利用者」との見出しで、次のような記事を掲載している。

 自分のパソコンにある音楽、映像などをインターネットを通じて交換し合う「ファイル交換ソフト」の利用者は、ここ数年で急増している。

 コンピュータソフトウェア著作権協会と日本レコード協会によると、利用・経験者は昨年1月で185万人と、前年から40万人も増えた。特にウィニーは暗号化されたデータが管理者なしで自動転送されるため、利用者が特定されにくく人気を呼んだ。昨年1月には約22万5000人が使ったことがあると答えた。

 違法なファイル交換に対し、米国では民事上の解決が一般的だ。リサーチ会社「ガートナーG2」のアナリスト、マイク・マクガイア氏は「刑事事件としてソフト開発者を摘発するのは極めて異例だ」と指摘する。

 全米レコード工業会(RIAA)は99年、音楽ファイル交換サービス会社「ナップスター」を著作権法違反で提訴。サンフランシスコの連邦地裁は00年、業務停止の仮処分決定を出し、同社は閉鎖に追い込まれた。

 RIAAは、ナップスターとは違って利用者同士が直接やりとりするソフトの開発企業も提訴したが、ロサンゼルスの連邦地裁は昨年4月、「開発・配布だけでは違法と言えない」と、違法コピーした利用者とは線引きした。RIAAは昨秋以降、利用者個人の民事責任追及を本格化させている。【柴沼均、ワシントン河野俊史】


【金子助手の逮捕後の対応の様子】

 金子助手の逮捕後、「違法なファイルはやり取りしなくなった」(会社員・31歳)という利用者もいる。だが、ネット上では金子助手に代わって一部の利用者がウィニーの改良を続けている。

 99.10月に創刊され、ウィニーの紹介もしてきた上中級者向け雑誌「ネットランナー」発行元のソフトバンクパブリッシング広報は、「ウィニー自体は違法ではないと考えるが、著作権法違反が広がっていると認識しているので、違法だと疑われるファイルのやり取りは掲載せず、使用方法の紹介にとどめてきた。今後も倫理的な編集方針を守る」としている。


【司法の場での論点考】
 事件はさまざまな波紋を広げており、法廷でネット社会の著作権論争が行われる見込みで、ネット上を巻き込んだ論議は司法の場に移った。@・ファイル交換(共有)ソフト「Winny(ウィニー)」はネット社会に何をもたらすのか。A・違法コピーに使われたファイル交換ソフト開発の是非、B・金子被告の開発行為は著作権法違反の手助けに当たるのか。C・利用者による違法コピーという犯罪を被告が予見できたか否かや、故意の有無、などが争点となり初めて法廷で争われる。
 
 捜査当局は、「著作権侵害幇助の意思が開発者にあり、ウィニー自体も幇助するシステム」だとして、開発の「意図」を重視したが、開発者よりも違法コピーした利用者側の民事責任を問うのが主流の米国では、異例のことと受け止められている。日進月歩のデジタル技術と利用者の爆発的な拡大に、法整備はなかなか追いつかない。ネット社会の著作権保護のあり方が問われている。

 概要「インターネットが普及した現在、デジタルコンテンツが違法にやりとりされるのはやむを得ない。これを新たなビジネスチャンスととらえず、そのビジネススタイルを模索せず、警察の取り締まりで既存の体制を維持しようとする企業の方が問題だ。著作権の概念を変える必要がある」。

 弁護団は、「ホームページに『違法ダウンロードをしないように』と注意書きをつけており、違法行為を広める意図はなかった」、「利用者と意思の連絡が無く、ほう助罪を認定するのは乱暴」と著作権侵害の意図自体を争う姿勢だ。有志のソフト技術者らは「金子勇氏を支援する会」を設立し、ホームページで支援を呼びかけている。弁護団によると、1879件1507万円もの支援金(31日現在)が集まった。

 著作権法に詳しい小倉秀夫弁護士(東京弁護士会)は「(被告が)個々の利用者レベルの具体的な使用を明確に認識していたかが問題。不正使用を助長するかのような掲示板への一連の書き込みとは別次元の話で、それを元にした逮捕・起訴は解釈を広げ過ぎている。これでは150キロで走れる車を製造した会社は、速度違反に問われた運転手のほう助になる。産業界全体の商品開発にも波及しかねない問題を含んでいる」と指摘する。

 検察側は「著作権侵害ほう助の意思が開発者にあり、ウィニー自体もほう助するシステムだ」と立証に自信を見せる。弁護団は「(利用者と)意思の連絡がなく、ほう助罪を認定するのは乱暴」と全面的に争う方針だ。


【「ウィニー被害裁判」提訴される】 

 2004.6.1日、「ウィニー」で捜査資料流出、19歳会社員被害男性が賠償求め提訴。 ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」が原因で、北海道警江別署巡査の私物のパソコンから、逮捕された際の捜査関係資料をインターネット上に流出されたとして、江別市内の会社員少年(19)が「著しい精神的打撃を受けた」として6.1日、北海道庁を相手に200万円の損害賠償を求める訴えを札幌地裁に起こした。

 訴えによると、少年は3月25日、同市内で道警江別署に道路交通法違反の現行犯で逮捕されたが、その後、同署の男性巡査が作成し、私物パソコンに保存していた8人分の捜査報告書などが、ウィニーを通じてインターネット上に流出。氏名、住所、生年月日、勤務先などが記されており、交通違反の詳細な内容が不特定多数に閲覧され、精神的損害を受けた、としている。

 この巡査のパソコンから流出した捜査資料は、現行犯人逮捕手続書や実況見分調書、捜査報告書など5種類6件で、計8人分の個人情報が含まれている。

 ウィニーによる捜査資料流出は、京都府警でも発覚しているが、原告の弁護士は「賠償を求める訴訟は全国で初めてではないか」としている。

 原告側は「巡査の軽率な行為が直接の不法行為だが、道警が私有パソコンの(業務への)使用を容認し、禁止してこなかった組織的不作為が問題だ」としている。


【「ウィニー事件」初公判】

 2004.9.1日、インターネットを通じて映画や音楽のファイルを交換できるパソコン用ソフト「Winny(ウィニー)」を開発して著作権侵害を助けたとして、著作権法違反(公衆送信権の侵害)の幇助(ほうじょ)罪に問われたいわゆる「ウィニー事件」の金子被告に対する初公判が京都地裁(氷室真裁判長)で始まった。著作権侵害事件でソフトウエアの開発者が刑事責任を問われるのは初めて。

 検察は、起訴状で、金子被告は自分が開発したウィニーをインターネットのホームページに公開し、だれでも自由に入手できるようにし、これにより、群馬県高崎市の風俗店従業員(42)=同法違反罪で公判中=らがウィニーを使って映画やゲームソフトを不特定多数のネット利用者に送信する著作権侵害行為を幇助した、などと述べ告発した。

 検察側は冒頭陳述で、「被告は現行の著作権法は時代遅れだという疑問を持っていた」と指摘。犯行の動機について「匿名性の高いファイル交換ソフトを作れば、警察に摘発されることがなく、著作物の提供者は新しいビジネスモデルの開発に着手することになると考えた」と述べた。

 さらにウィニーの利用実態のほとんどが著作権のある音楽や映像の違法コピーであることを指摘したうえで、被告は著作権法違反を増長させることを意図していたとした。 

 弁護側は、「実際に著作権侵害をした被告らとは面識もなく、利益も得ていない」などとして、ソフトの開発は罪にあたらないと主張し、インターネットを通じてさまざまなファイルを共有できるウィニーの有用性を強調するなど、起訴の不当性を訴える方針を示した。「起訴状ではウィニーが違法であるとする根拠やウィニーの開発が著作権法違反幇助となる理由が明らかにされていない」などと検察側に釈明を求めた。

 金子被告は、「ウィニーは技術的な実験として開発・公開したもので、著作権侵害行為を手助けする意図はなかった」と述べ、無罪を主張した。その後、金子助手は用意した意見書を朗読。「技術の進化は止まらないし、止めようとしても止まるものではない。技術そのものを有効活用する方向を目指すべきだ。ソフト開発が犯罪の幇助に当たるという前例が作られれば、開発者には大きな足かせになってしまう。私は無罪です」と述べた。


【「ウィニー効果」と悪用事例】

 「ウィニー効果」。

 ネット起業家として知られる伊藤穣一さんは「コンピューターを利用して曲や映像をつくるアマチュア制作者が増えている。作品をできるだけ多くの人に見せたい側からすれば、こうした技術は有効。技術は良いことにも悪いことにも使える」と云う。

 摘発後の10日夜もインターネット上には、ウィニーを入手できるホームページが多数あった。データ量の小さなプログラムなので、瞬時に自分のパソコンに取り込める。起動した画面で、テレビドラマのタイトルなどを指定してやると、いろんな人が持っている該当のドラマのファイル名の一覧が表示され、選択すればコピーできる。そのたび検索しなくても、キーワードを指定して自動的にコピーされるようにも設定できるので、留守中や夜間でも欲しいものが手に入る。見逃したドラマ、新しい曲やゲーム、映画などの取得が多いという。

 悪用事例。

 一方ウィニーでは管理サーバーがなく、ファイル検索は利用者間で直接行うため、曲などの提供者や取得者の匿名性が高まり、違法コピーのソフトの交換やウイルスの流布といった悪用も目立つようになった。


 (只今精査工事中)

【「ウィニー事件」に対する視点その一】
 「どこまで問えるソフト開発者の責任 ウィニー逮捕の波紋」(2004.5.10日付朝日新聞)、ウィニー論争さらに過熱 批判派『プライバシー侵害ソフト』、擁護派『次世代のネットシステム』私の意見・見解 誰のための権力なのか、それが問題だ(2004.5.21日)その他が参考になる。以下、検証する。
 
 ウィニー擁護派の見解は次の通り。

 概要「金子氏のプログラミングの腕前は一頭地を抜いている。理想にあふれた研究者で、インターネットソフト界の伝説の天才」と評されている。竹内郁雄・電気通信大教授(計算機科学)は、概要「(被告は)コピーを自由にできる代わりに、正当な対価を自動的にコピー元に支払えるシステムの構築を夢見たのかもしれない。既存秩序の先に新たな秩序を思い描いていたのではないのか」と推測している。

 弁護団は、ウィニーの特徴として、大容量のデータをやりとりするのに適した次世代のシステムとして有用で、匿名性が高く自由な言論を保障するのに有効だと主張する。
 匿名性についてはむしろプライバシーが守られるソフトとして評価する専門家も多い。「従来のサーバー/クライアント型ネットワークの場合、末端の個々のパソコンはすべて情報を配信するコンピューターであるサーバーにつながり、サーバー側は利用者の特定が可能だ。そのため利用者が発信する情報がサーバー管理者に問題があると判断された場合、その利用者との接続を断ち切られたり、発信情報を削除される場合もある。

 これに対し、ウィニーのような「ピア(仲間、人の意味)トゥピア型(P2P)ネットワーク」は、個々のパソコン同士が結びついており、サーバーはない。管理者もおらず、情報発信などやりとりは自由だ。新たなネットビジネスにつながる可能性を秘めている。この仕組み自体が従来のネットに置き換えられうる可能性があり、むしろ激賞されるに相応しい」。

 「このようなすばらしい技術の開発者を幇助という理由で逮捕されたり処罰を受けるとすれば、ほかのプログラマーまで不安を感じ、ソフト開発者が萎縮(いしゅく)する。技術の発展が止まる」と懸念されている。
 概要「Winnyは単なる道具であって、実際に著作権を侵した人物とはなんら関係がない、道具を作っただけの開発者を犯罪幇助とするのは無理がある。切れ味のいい包丁を作ったからといって、包丁が悪用された場合、包丁を作った人まで悪いというのはおかしい。電子ネットワークを経由して生じた問題は、末端の利用者同士の自己責任で解決すべきだ」との声もある。
 弁護士十数人でつくる「Winny弁護団」事務局長の壇俊光弁護士は次のように指摘している。「法定速度以上で走ることができる自動車を作り、運転者が速度違反で逮捕されても、自動車メーカーの技術者は逮捕されない。金子被告は違法なファイルをやりとりしないように求める説明書をウィニーに添付しており、利用者が悪用したにすぎない。結局は利用者のモラルと著作権侵害をしやすいウィニーの周辺環境の問題だ」。他にも「ウィニー開発を裁くのではなく、音楽CDやゲームソフトのメーカーがソフトをコピーされないような技術を導入し、対応すべき問題だろう」との提言が為されている。
 「映像でも音楽でも文章でも、ものごとを公表する従来の秩序をゲリラ的に破壊しながら進み、事件や論争を経て徐々にビジネス化、合法化してきたのがインターネットだ。数年前なら電子商取引など危なくて信頼できなかったが、それは使ってみて問題点が明らかになったから。ウィニーも同じだ」

 ウィニー批判派の見解は次の通り。
 「ウィニーは著作権侵害だけではなく、一般市民のプライバシーを侵害する装置として使える」。
 独立行政法人産業技術総合研究所グリッド研究センターの高木浩光・セキュアプログラミングチーム長は、技術の未熟に拠る弊害を次のように説いている。概要「ウィニーの問題点の一つは、一度ネット上に提供されたファイルは、削除することができない点だ。ある特定の人物を攻撃する目的で、その人物の盗撮映像をウィニーに出すと、途中で削除できないままどんどん広がる。回復不能で重大なプライバシー侵害を引き起こすことができる。ウィニーにも削除機能はあるという主張もあるが、機能していない」、概要「個々のパソコンがファイルを中継し、分散して効率的に通信処理を行うこともウィニーの特徴だが、それを実現するため、中継に使われたパソコンにはファイルが残り、暗号化されて表示される。ユーザーは中継したファイルの多くが違法だと知っていたはずだが、暗号化されているから自分が権利侵害に加担していることを認識しにくい。ユーザーのモラルを低下させ、うそつきにするシステムだ」。
 高木氏は更に、「言論の自由の保障や匿名性を保証するシステムの研究は大事だ」と前置きした上で、そもそもウィニーが生まれた経緯を疑問視する。「外国人が作ったWinMXというファイル交換ソフトを使い違法なファイル交換をした学生二人が二〇〇一年に逮捕された。これを機にMXでは匿名性が低く違法なファイル交換が当局に発覚するということで、次のソフトが模索され始めた。匿名性を高めたウィニーが登場したのはこういう経緯からで、金子被告つまり47氏も盛んにこの点を宣伝していた」と指摘。「P2P利用の新しいビジネス展開などという理屈は後付けだ」と手厳しい。
  

 社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会見解。
 社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会は「ソフトの開発者が、悪用されることを予見した上で開発・配布した場合は、一定の責任が生じると考える」との趣旨の声明を出し、開発者側の責任を指摘した。

 

 アメリカの事例。

 米ナップスター社による音楽ファイルの交換サービスも、インターネットを介して不特定多数の人が映像ファイルなどを交換できるソフトの一種であり、注目を集めた。同社のコンピューター(サーバー)は、利用者がそれぞれ持っている曲をリストにして管理し、リスト中に欲しい曲を見つけた他の利用者が求めると、曲の所有者のコンピューターから曲のデータ(ファイル)を受け取れる仕組みになっていた。

 このソフトの登場により、アメリカの音楽CD業界は打撃を受けた。00年に9億4200万枚だったアルバムの出荷は、03年には7億4500万枚に減じた。業界団体の全米レコード協会(RIAA)は、「人気曲などが無料でファイル交換されていることが音楽CDの売り上げ減につながっている」、「その影響で数千人が解雇されている」として、ファイルを交換している個人を、著作権違反で民事提訴した。

 以前はファイル交換ソフトを開発した会社を訴えることが多かった。代表的事例として、米ナップスターに対し、音楽業界が著作権法違反だとして提訴したことがある。裁判所は、01年に交換差し止めの判決を出し、ナップスターはサービス停止に追い込まれた。しかし、03年4月、米裁判所がファイル交換ソフト会社の責任を認めず、米レコード・映画業界の訴えを退ける判断を下している。

 ナップスターの場合、同社のサーバーの手助けによって利用者がファイルを交換できる仕組みであったが、ファイル交換ソフトは更に進化した。それ以降の「グヌーテラ」などの交換ソフトは、サーバーを仲介しない方式になっている。RIAAは、03年秋から、ファイルの提供を行っている個人に対する大量提訴を開始し始め、これまでに2400人以上の個人を提訴している。潮目が変わった。


【「ウィニー事件」に対する視点その二】

 「共同私通信」2004.6.21日付私の意見・見解の「誰のための権力なのか、それが問題だ」が貴重な分析をしている。それによれば、「ウィニー事件」の背景には、当局に取締りを要請する「著作権エージェント」達の暗躍があるとの見解が披瀝されている。「著作権エージェント」とは、「著作者ではなくその権利で商売している連中」のことであり、いわば「著作財産権を持つ版権者」達のことである。企業名を挙げれば、JASRAC、ニンテンドー、ソニーコンピュータエンタテインメントが該当する。

 筆者は、「この問題を考えるに当たって、持ちたい視点の一つが『誰が得をするか─誰のためになるか、という視点だ」と述べ、「この事件で警察はどこの為に動いたか、というと企業の為に動いた。資本を増やすことが主義であるところの、企業というものの為に動いた、というところが肝心だ。警察という大きな権力が、個人のためではなくて、企業の為に動いた。それは現在の社会=資本主義&似非民主主義(半社会主義)という日本の体制を維持するために、権力が使われたということだと思う」と云う。 

 縷々見解を述べた後、「この争いは、現体制 対 現体制を変えようとする人 という図式として見えることもできるということを読者の皆さんは覚えていて欲しい。ネットで事実上、自由に発言する権利まで奪われたら、この国はおしまいだ」との観点を披瀝している。


【第一審判決】
 2006.12.13日、ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を開発し、ゲームや映画ソフトの違法コピーを容易にしたとして、著作権法違反ほう助の罪に問われた元東大助手、金子勇被告(36)に対し、京都地裁(氷室真裁判長)は、罰金150万円(求刑懲役1年)の判決を言い渡した。京都地裁判決で有罪となったウィニー開発者の金子勇元東大助手は、閉廷後の記者会見で、 「判決は残念。控訴して技術開発の在り方を世に問う」、「技術者が、あいまいなほう助の可能性に委縮して有用な技術開発を止めてしまう」と用意した文面を淡々と読み上げた。桂充弘弁護団長は、「一体どうすればほう助にならないのか全く明らかでない。今後の技術開発に悪影響を与える。控訴して逆転無罪を勝ち取る」と断言。同席した別の弁護士も「海外では無罪。国際的な潮流に反する判決」と批判した。

【第一審判決要旨】

 判決文は、インターネット上の著作物の著作権に関する法理論を解析しないまま、ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」開発者に有罪を科した恨みが残る。

 まず、「被告が開発、公開したウィニー2は、それ自体はセンターサーバーを必要としない技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものだ。技術自体は価値中立的であり、価値中立的な技術を提供することが犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助(ほうじょ)犯の成立範囲の拡大も妥当でない」としながらも、「結局、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様によると解するべきである」として、その利用のされ方が問題となるとする立場を採った。

 その上で、「被告は、ウィニーが一般の人に広がることを重視し、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を十分認識しながら認容した。そうした利用が広がることで既存とは異なるビジネスモデルが生まれることも期待し、ウィニーを開発、公開しており、公然と行えることでもないとの意識も有していた。そして、ウィニー2がウィニー1との互換性がないとしても、ウィニー2には、ほぼ同等のファイル共有機能があることなどからすれば、本件で問題とされている03年9月ごろにおいても同様の認識をして、ウィニー2の開発、公開を行っていたと認められる。ただし、ウィニーによって著作権侵害がネット上に蔓延(まんえん)すること自体を積極的に企図したとまでは認められない」との判断を示した。

 「幇助の成否」を廻って、「
ネット上でウィニーなどを利用してやりとりされるファイルのうち、かなりの部分が著作権の対象となり、こうしたファイル共有ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されている。ウィニーが著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ、広く利用されていたという現実の利用状況の下、被告は、新しいビジネスモデルが生まれることも期待し、ウィニーが上記のような態様で利用されることを認容しながら、ウィニーの最新版をホームページに公開して不特定多数の者が入手できるようにしたと認められる。これらを利用して正犯者が匿名性に優れたファイル共有ソフトであると認識したことを一つの契機とし、公衆送信権侵害の各実行行為に及んだことが認められるのであるから、被告がソフトを公開して不特定多数の者が入手できるよう提供した行為は幇助犯を構成すると評価できる」と認定した。

 
「被告は、ウィニーを開発、公開することで、これを利用する者の多くが著作権者の承諾を得ないで著作物ファイルのやりとりをし、著作権者の有する利益を侵害するであろうことを明確に認識、認容していたにもかかわらず、ウィニーの公開、提供を継続していた。このような被告の行為は、自己の行為によって社会に生じる弊害を十分知りつつも、その弊害を顧みることなく、あえて自己の欲するまま行為に及んだもので、独善的かつ無責任な態度といえ、非難は免れない。

 また、正犯者らが著作権法違反の本件各実行行為に及ぶ際、ウィニーが、重要かつ不可欠な役割を果たした▽ウィニーネットワークにデータが流出すれば回収なども著しく困難▽ウィニーの利用者が相当多数いること、などからすれば、被告のウィニー公開、提供という行為が、本件の各著作権者が有する公衆送信権に与えた影響の程度も相当大きく、正犯者らの行為によって生じた結果に対する被告の寄与の程度も決して少ないものではない。

 もっとも被告はウィニーの公開、提供を行う際に、ネット上における著作物のやりとりに関して、著作権侵害の状態をことさら生じさせることを企図していたわけではない。著作権制度が維持されるためにはネット上における新たなビジネスモデルを構築する必要性、可能性があることを技術者の立場として視野に入れながら、自己のプログラマーとしての新しい技術の開発という目的も持ちつつ、ウィニーの開発、公開を行っていたという側面もある。被告は、本件によって何らかの経済的利益を得ようとしていたものではなく、実際、ウィニーによって直接経済的利益を得たとも認められないこと、何らの前科もないことなど、被告に有利な事情もある。以上、被告にとって有利、不利な事情を総合的に考慮して、罰金刑に処するのが相当だ」と判示した。

 開発者の利用責任論という新たな法理論を生んだことになる。



 



(私論.私見)