ハングルは表音文字である。ひとつひとつの文字が音節を表す文字体系だが、子音と母音の字母(자모、チャモ)を組み合わせて文字を構成する。このような文字体系をフィーチュラルスクリプトと呼ぶ研究者もいる。
子音字母は基本字母が14個、合成字母が5個の計19個、母音字母は基本字母が10個、合成字母が11個の計21個であり、合成字母を含めた字母の総数は40個である。それぞれの字母は以下の通りである。
なお、1446年当時と現在とでは文字の構成要素も変化している。朝鮮語の音韻に関する諸々の事柄については「朝鮮語の音韻」を参照のこと。また、ハングルの成り立ちについては「訓民正音」を参照のこと。
ローマ字は2000年大韓民国文化観光部告示第2000-8号「国語のローマ字表記法(국어의 로마자 표기법)」による。
字母「ㅇ」は音節頭の位置にあるときには子音がないことを表し、音節末にあるときには鼻音[ŋ]を表す。
訓民正音創製当時には中期朝鮮語の音韻を表す子音字母として
ㅿ [z],ㆁ [ŋ],ㆆ [ʔ] があったが、現代朝鮮語の表記には用いられない。
ローマ字は2000年大韓民国文化観光部告示第2000-8号「国語のローマ字表記法(국어의 로마자 표기법)」による。合成字母の配列順序は大韓民国の順序に従う。
訓民正音創製当時には中期朝鮮語の音韻を表す母音字母として
ㆍ [ʌ] があったが、現代朝鮮語の表記には用いられない。
字母の組合せ [編集]
字母(チャモ)を2つ以上組み合わせて1文字を成す。1文字の構成は子音字母 + 母音字母あるいは子音字母 + 母音字母 + 子音字母のどちらかである。音節頭の子音字母を初声、母音字母を中声、音節末に来る子音字母を終声またはパッチム(받침。「支えるもの」の意)と呼ぶ。
初声と中声の組み合わせ方には3つのタイプがある。
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가 ga |
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中声が「ㅏ、ㅑ、ㅓ、ㅕ、ㅣ、ㅐ、ㅒ、ㅔ、ㅖ」のときは、初声を左に、中声を右に配置する。 |
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고 go |
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中声が「ㅗ、ㅛ、ㅜ、ㅠ、ㅡ」のときは、初声を上に、中声を下に配置する。 |
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과 gwa |
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中声が「ㅘ、ㅙ、ㅚ、ㅝ、ㅞ、ㅟ、ㅢ」のときは、初声を左上に、中声を下から右にかけて配置する。 |
終声があるときは、これらの下に終声を置く。
なお、終声として用いることのできる子音字母は、ㄸ dd,ㅃ bb,ㅉ
jjを除いた16個である。また、朝鮮語の形態音素表記のために、終声では2つの子音字母を左右に組み合わせることがある。正書法で認められている組み合わせは、ㄳ gs,ㄵ nj,ㄶ nh,ㄺ lg,ㄻ lm,ㄼ lb,ㄽ ls,ㄾ lt,ㄿ lp,ㅀ lh,ㅄ bsの11種類である。
音価 |
終声字 |
複合終声字 |
前 |
後 |
ㄱ |
ㄱ, ㅋ,
ㄲ |
ㄳ |
ㄺ |
ㄷ |
ㄷ, ㅅ,
ㅆ, ㅈ, ㅊ, ㅌ, ㅎ |
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ㅂ |
ㅂ, ㅍ |
ㅄ |
ㄼ, ㄿ |
ㄹ |
ㄹ |
ㄼ, ㄽ,
ㄾ, ㅀ, (ㄺ) |
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ㄴ |
ㄴ |
ㄵ, ㄶ |
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ㅁ |
ㅁ |
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ㄻ |
ㅇ |
ㅇ |
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文字コード [編集]
完成型と組合型
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字母を組み合わせて作られる文字の理論上の組み合わせは11,172文字だが、実際に使用されるのはその半分以下である(1987年に韓国の国家標準となったコンピュータ用の文字セット(KS完成型、KS C
5601-1987)には日常の99%が表記できる範囲として2,350字しか含まれなかった)。なお、1994-1995年ごろまでは11,172文字全部を表現できる文字セット(組合型、johab)が圧倒的に多く使われていたが、Windows
95でKS完成型を拡張した文字セット(拡張完成型、UHC(Unified
Hangul Code))を採用し、後のWindowsにも使用されたため、現在は組合型文字セットはほとんど使われていない。なお、Windows NT系ではUnicode
2.0(KS C 5700、現:KS X 1005-1)以降をサポートしている。
Unicode [編集]
Unicodeにはハングルを符号化するための文字が数種類あり、標準的に使用されるものは、ハングル字母(U+1100-11FF)とハングル音節文字(U+AC00-D7A3)である。
ハングル字母はハングルを構成する字母で、これらを合成する事により15世紀から現代までのハングル音節文字を作成できる。U+1100-115Fは初声子音、U+1160-11A2は中声母音、U+11A8-11F9は終声子音が定義されている。
ハングル音節文字は、2つの字母からなる音節399文字、3つの字母からなる音節10,773文字の合計11,172文字で構成されている。
この他にハングル互換字母(U+3130-318F)があるが、KS完成型(KS C 5601-1987、現:KS X 1001:1998)との互換性のために存在する。
ハングル大移動
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Unicodeでは、Unicode 1.1以前とUnicode 2.0以降ではハングルを定義する領域が異なっており互換性がない。
Unicode 1.1まではU+3400-4DFFにハングルが定義されていたが、Unicode 2.0制定時に、新しくU+AC00-D7AFにハングルが定義され旧領域は破棄された。その際、韓国の要求によりKS
C 5601-1992の組合型文字セットに基づく現代ハングル音節文字11,172文字が網羅されている。なおUnicode 2.0で破棄された領域は、Unicode
3.0制定時にCJK統合漢字拡張A集合としてU+3400-4DBFに定義されている。
その他 [編集]
- 漢字復活論
- 表音文字であり多数の意味に通じる(同音異義語が多い)ことから、漢字の見直しが始まっている。しかし漢字を使うことに反発を覚える人も多く、あまり進んではいない。日本語と違い韓国・朝鮮語では音節が多様なので同音異義語が相対的に(完全に回避は出来ないが)少ないことも理由である。ベトナムで漢字復活論が下火なのも、ベトナム語の発音の複雑さ、声調により同音異義語が(完全ではないにしろ)回避されているからだという意見もある。
- ハングルの起源
- ハングルの起源は、その構成法などからウイグル文字に影響を受けた契丹文字(契丹小字)であると考える学者もいる(西田龍雄など)。
- 朝鮮語以外のハングル表記
- 言語学の知識に乏しい韓国人の中には「ハングルは世界中のあらゆる言語を正確に表記できる文字体系である」と主張する者もいる。これは韓国においてハングルが民族の誇りとして扱われており、また実際にハングルの文字体系としての一定の合理性が指摘されているため、それを言語学に無知な人間が誤解したものである。無論朝鮮語を表記するのには優れた文字であるが、世界中の言語を正確に表記することは、他のあらゆる文字でそうであるように、ほとんど不可能である。
- 例えば日本語をハングルで表そうとする場合、濁音、「ツ」を標準的表記法(一例)で正確に表すことは難しい。さらに、ㄱㄷㅂㅈは、原則として語頭で無声音になるため、例えば「다시」が、「ダシ」ではなく「タシ」に近い音となる。「ザ行」も「ㅈ」[tʃ/dʒ]で代用するため、代用表記そのままで発音すると「ざる」が「チャル」、「かざり」が「カヂャリ」に近い音になる。長音も短音で代用するので、「庄原」(しょうばら)は、「쇼바라」(ショバラ)となる。またハングルには "F"
にあたる子音字がなく(通例外国語を表記する際はㅍで代用するが、ㅎで代用される場合もある)、後に母音が来ない子音は何らかの母音をつけて表記する場合もある(例:psi(ψ)→프시/pɯsi/)。
- 主要言語のハングル表記
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- オンヌリ・ハングル
- ただし、通常のハングルでは無理だが、ハングルの造字原理に沿って文字数を拡張した「オンヌリ・ハングル表記法」を使えば、世界中の言語を正確に表記できると主張する学者もいる(オンヌリは「全世界」の意)。この表記法によれば、例えばv音は凵、f音は工の字形で表記される。オンヌリ・ハングルの考案者である鄭元洙(チョン・ウォンス)忠南大学教授は「この方式で日本語の350種類、中国語の420種類の音節をほぼ完全にハングルで表記できる」「複雑な中国語をハングルで表記できる以上、ヒンディー語やタイ語、アラビア語などにも十分に適用できる」「読み書きがし易く、科学的なハングルで、文字を持たない民族の言語を表記できる日も必ずやってくるだろう」と主張している[6]。
- もっとも、既に文字のあるヒンディー語等や、朝鮮語話者には難しい発音をわざわざ表記するメリットは不明。
- 世界で最も優秀な文字
- 国際神学大学院大学が主催して、ハングル学会などが後援する第1回世界文字オリンピックでハングルが1位となり、世界最高の文字と認められた。しかし、韓国で開催される・ハングル学会が後援する・変化の少ない文字を数年間隔で比較するなど、明らかに合理性に欠けた出来レースだと思われる点が多々存在する。第2回世界文字オリンピックは、2011年に韓国の釜山で開催予定。