西アフリカ・マリの仮名トンブクトゥ文字考

 更新日/2019(平成31).2.3日

 (れんだいこのショートメッセージ)
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  2019(平成31).2.3日 れんだいこ拝


 2019.1.28日付け山陽新聞5面の「76億人の海図」の「命を懸けた古文書移送」その他を参照する。

 西アフリカ・マリの世界遺産の町・トンブクトゥの古文書約38万冊の大半を、アブデル・ハイダラが首都バマコへ命がけの移送を演じた。文書はページ1枚1枚に金箔が貼られており、ヤギの皮の表紙に幾何学模様が刻印されていた。14-16世紀、トンブクトゥは金と塩の交易で栄え、「黄金の都」と呼ばれていた。大学などの研究機関が発達し、アフリカや中東から集まった学者が、アラビア語やアフリカ語の言語で執筆した文書とその写本が市場で交易されていた。このことは、「アフリカには文字で残された歴史がない」とする通説のウソを告発している。フランスは、マリを1960年まで植民地化し、貴重な古文書を持ち去っている。住民は略奪を恐れ床下や洞窟に隠した。こうして、古文書は歴史の表舞台から姿を消した。アブデル・ハイダラが、市内35箇所の図書館に保管されていた占星術や哲学、詩、医学などの古文書の移送に取り組み、約1千キロの道のりを毎回1週間ほどかけて運び出した。伯父で図書館員のアブデル・ハイダラが作戦を指揮し、トゥーレをはじめハイダラの親戚ら200人以上が参加した。6ヶ月間で延べ100回以上往来した。

 「地球ことば村・世界言語博物館」の「アフリカ固有の文字」(  英 Indigenous writing systems of Africa)。
ヴァイ文字(3.1)が 1833 年に「発明」されるまで,アフリカには,ヒエログリフ(2.1)やコプト文字(4.2.12),エチオピア文字(4.3.2)などアフリカ固有の文字は極めて少なかった。サブサハラ・アフリカは,長い間「無文字社会(=未開社会)」とも呼ばれ,誤解されてきた。19 世紀から 20 世紀の初頭にかけて,サブサハラ・アフリカの西部において,独自に作成された固有の文字体系がいくつか誕生した。これらの文字は,いずれも作成者,制作年代,製作の状況が分かっているという点で注目される。ここでは,20 世紀末までにアフリカ各地域に登場した様々な文字のサンプルを掲載する。
《使用地域》 アフリカ固有といえる文字が分布する主要な地域は,2 箇所存在する。1 箇所は,西アフリカであり,もう 1 箇所は,ナイル渓谷からエチオピア高原にかけてである。西アフリカの伝統的社会において,様々な文字使用が見られる。アジャミーヤ文字(4.1.1),ティフイナーグ文字(4.1.2)や,19 世紀以降に発明された文字と,伝統的な絵画,彫刻,彫像などから発達してきた「文字」の系統がある。以下,文字名に続けて,それらが用いられる地域を略語で示す。[C]entral Africa, [E]astern Africa, [N]orthern Africa, [S]outhern Africa, [W]estern Africa

《制作年代》 20 世紀前半,特に第一次世界大戦後の 1920・30 年代,民族固有の文字が多数出現する最初のピークを迎えた。西アフリカのメンデ文字(3.2),クペレ文字(3.4)など各種音節文字,バサ文字(4.2.3)などのアルファベットが出現した。次のピークは,「アフリカの年」と呼ばれた 1960 年前後十数年で,ベテ文字(3.5), フラ文字(4.2.6), オロモ文字(4.3.3)などが現れた。その後も,70 年代のマンドンベ文字(3.10),80 年代のハウサ文字(4.2.7)など独自に工夫・作成された文字がいくつか見られる。
《文字体系》 アフリカで用いられる様々な文字をここでは,ピクトグラム,表語文字,音節文字,表音文字の文字体系に沿って紹介する。西アフリカには 11 の音節文字あり,その中, 8 つの考案者が,文字の着想を夢にでてきた神の啓示によると主張している(3.1~3.6, 3.8~3.10)。 一方,オベリ・オカイメ文字(4.2.1)とヨルバ文字(4.2.4)は同様に神の啓示によるが,アルファベットに分類される。これらの発明の背後には,心理的および宗教的・魔術的な刺激があったといわれる。


1.1 アディンクラ Adinkra [W]
アディンクラは,ガーナのアカン族やコートジボワールのギャマン族によって作られた視覚的シンボルで,観念や格言などを表し,壁,陶器,木製の彫刻,ロゴなどによく使われる。布製のアディンクラはスクリーンプリントの他にも木版に調印して作られる。これらのシンボルは,人生の一部または人生の周りで起こることを表現している喚起メッセー ジを伝えあうためにも使われ,それぞれが独自の外観と意味を持っている。
1.2 ンシビディ文字 Nsibidi signs [W]
ナイジェリア南部において,イグボ語やエフィク語,エコイ語のような様々な言語を話す人々の社会の中に秘密結社が存在し,ンシビディ文字は,それらの成員によって用いられている。この文字の起源について,次のように伝えられる:「イグボ語の話し手の中のウグアキマの人々は,ヒヒを恐れず,彼らとヒヒの間に友情が生まれた。すると,ヒヒは,人間に分からない文字を地面に書き始めた。そして,パントマイムで地面に書かれた文字の意味を演じた。ウグアキマの人々は,これらの文字をンシビディ(イグボ語で「演ずる」)と名づけた」。⇒ ンシビディ文字
1.3 ドゴン・イデオグラム Dogon Ideograms [W]
西アフリカの非イスラム民族の間には,イニシエーションを経たのち,人々が参加する秘密結社が少なくない。この秘密結社に関わる仮面,彫刻,絵画などそれぞれが,一定の呼称と意味をもち,秘密結社のキーワードというべきものであり,どれも高度に様式化を遂げている。ドゴン族はその芸術性のおかげで,世界に広く知られているが,男性の秘密結社入社式のとき,岸壁に描かれる動物,人間などの絵には,具象的なものから,抽象度の高いものまで,文字の発展の過程が見られる。

2.1 ヒエログリフ Hieroglyph [N]
紀元前 3100 年頃成立した古代エジプトの聖刻文字。ヒエログリフの名称はギリシア語の ἱερογλυφικά (hieroglyphiká ヒエログリュピカ)に由来し, ἱερός (hierós,聖なる) + γλύφω (glýphō,彫る)を意味する。古代エジプト遺跡で主に碑銘に用いられていたためこう呼ばれた。⇒ エジプト聖刻文字(ヒエログリフ)
2.2 ヒエラティック Hieratic [N]
ヒエログリフの行書体で,ファラオの時代を起源としてエジプトとヌビアで使用された古代エジプト帝国の聖職文字である。⇒ エジプト神官文字(ヒエラティック)
2.3 デモティック Demotic [N]
ヒエラティックの更にくずれたもの。エジプト民衆文字とよばれる。デモティックは古くは紀元前 660 年に使われているのが見つかっており,紀元前 600 年には古代エジプトでは標準的な書体となったと見られている。 4 世紀にはエジプトでもギリシア文字を基にしたコプト文字が使われており,デモティックはそれ以後使われなくなった。⇒ エジプト民衆文字(デモティック)
2.4 バガム文字 Bagam (Eghap) [C]
カメルーンのバガム族が使用するメンガカ語 (Mengaka, ニジェール・コンゴ語族バミレケ諸語)を表記する文字。隣接している領域で使用されるバムン文字(3.8)に何らかの類似性を持っている。バガム文字は,19 世紀後半から 20 世紀始め頃バガムの Pufong 王によって作成されて,私信と記録保存に使用されたのみで,普及した記録はない。1917 年,イギリス人の陸軍士官マルコム (L. W. G. Malcolm) がこの文字を発見し,1921 年学会誌へ論文(採集した文字のリストは省略)を投稿したことで,文字の存在が知られるようになった。ケンブリッジ大学に保管されていた文字リストを含む完全な論文は,1999 年に Tuchsherer によって発表された。

3.1 ヴァイ文字 Vai [W]
リベリア共和国で使われる言語は 31 といわれる。その一つ,上ギニアの沿岸地域に住むヴァイ族が用いるヴァイ語(Vai マンデ語派)を表記するために,モモル・ドゥワル・ブケレ (Mɔmɔlu Duwalu Bukɛlɛ: ~1850)が作成した文字。1833 年頃,ブケレの夢の中に一人の男が現れて彼に一冊の本を見せた。その中に書いてあった文字をほとんど忘れてしまったものの,それは神の啓示だと信じたブケレは 5 人の友人とともに文字を創出したと伝えられる。ブケレの夢の真偽はともかく,ブケレは,幼少のころローマ字を学び,その後も奴隷商や貿易商のもとで働き,文字の効用を思い知らされた。ブケレは,ヨーロッパ人,植民者である解放奴隷,およびムスリムといった文字を持つ者たちの覇権と文字を結びつけ,それが自分たちの固有の文字を持ちたいという欲求につながったと考えられている。⇒ 古賀 (2003),⇒ ヴァイ文字
3.2 メンデ文字 Mende [W]
シエラ・レオネ (Sierra Léone) 地域に分布する,ニジェール・コンゴ語派マンデ語群に属すメンデ語を表す文字。霊感が強いと評判だったキシミ・カマラ (Kisimi Kamara) が,夢に触発されてこの文字を作ったといわれるが,詳細は不明である。以前から存在は知られていたが,1935 年にエベル・エルベル (Eber Elber) がその地域を調査して,はっきりとした字形を紹介した。一般には,ヴァイ文字と同じく音節文字と考えられているが,実際には 190 字形あるうち, 42 字は,子音字と母音符号の規則的な結合形である。⇒ メンデ文字
3.3 ロマ文字 Loma [W]
リベリア北西部に分布する,ニジェール・コンゴ語族マンデ語派に属すロマ族によって用いられるロマ語を表す文字で, 1930 年代から 1940 年代に,個人間の私信に使用された 185 の音節文字からなる。伝説によると, あるとき Widɔ Zɔbɔ なる人物が夢の中で,神を人々から文字を奪い取って彼らを無知な状況に陥れている,として責めた。神は,その後,人々が彼らの伝統を捨てないという約束の下で,人々に文字を与えた,と伝えられる。⇒ ロマ文字
3.4 クペレ文字 Kpelle [W]
クペレ文字は 1930 年代に Sanoyea (リベリア)の Chief Gbli によって作られた,ニジェール・コンゴ語派マンデ語族に属すクペレ族の言語を表す文字。 1930 年代および 40 年代の初めにかけて,リベリアとギニアにおいてある程度まで使用されたが,普及するまでには至らなかった。文字の起源は,夢に現れた天使が Gbili にこの文字を示したという説,他の説では,Gbili が神秘的な病気を患っている 7 年間の間に文字を発明したと伝えられている。⇒ クペレ文字
3.5 ベテ文字 Bété [W]
ベテ文字は,ある鉱物の結晶が示す『不可解な』形や,伝統的な子供たちのゲームからインスピレーションを得た,コートジボワールの都市ダロア (Daloa) 出身の Frédéric Bruly-Bouabré によって 1956 年に考案された。
3.6 ンワグ・アネッケ イグボ文字 Nwagu Aneke Igbo Script [W]
ナイジェリア連邦共和国南東部で話されるイグボ(イボ)語(igbo ベヌエ・コンゴ語群)を表記するこの文字は,霊 (ndị mmụọ) から読み書きを学んだという Nwagu Aneke によって 1960 年に発表された。
3.7 バンバラ文字 Bambara (Masaba) [W]
バンバラ語は,マリ共和国,コートジボワールで話されるニジェール・コンゴ語族マンデ語派西マンデ語に属する言語である。この文字は, 1930 年にマリの Woyo Couloubayi によって創案された。現在,バンバラ語は,ラテン文字およびンコ文字(4.2.2)で記述される。
3.8 バムン文字 Bamum syllabary [C]
バムン文字は,カメルーンのバムン王ンジョーヤ(ヌジョヤ, Ibrahim Njoya)によって,1903 年にバムン語(セミ・バントゥー語)を表記する目的で作られた。ンジョーヤは,夢の中で木製のタブレットから小箱を引きだし,それをきれいに洗って水を飲むように指示された。次の日,彼は指示通りに行い,秘密の「法廷-言葉」の作成に着手した。当初は象形的な表意字形が考案されたが,漢字の仮借法のように,その表意字形が固有名詞や複音節単語の表記に運用された結果,表音節文字として成立していった。 ⇒ バムン文字
3.9 ジュカ音節文字 Ndjuká [C]
南米,スリナム共和国の内陸部で話される英語語彙ベースのクレオール言語,ジュカ語を話す黒人社会で用いられる文字。西アフリカで発達した伝統的な絵文字に起源を持つといわれる。文字の起源について,この文字を作成したアファカ・アツミ (Afaka Atumisi) は,1910 年ハレー彗星が地球に最接近する直前に夢に現れた神から白紙をわたされ,その上に文字が現れるであろうと告げられた,と伝えられる。⇒ ジュカ音節文字
3.10 マンドンベ文字 Mandombe (Mandomb) [C]
マンドンベ文字は, Wabeladio Payi によって,コンゴ民主共和国で用いられる 4 つの国民語,コンゴ語(キコンゴ),リンガラ語,ルバ語およびスワヒリ語(キスワリ)を記述することを意図し,1978 年に提案された文字である。アフリカで新たに誕生した文字と同じく,この文字の形成も夢に負っている。Wabeladio は,夢の中で キムバング(Simon Kimbangu)からこの文字を示された,と述べている。現在この文字は,アンゴラ,コンゴ共和国およびコンゴ民主共和国においてキムバング教会学校で教えられており,また,CENA(Centre de l'Ecriture Négro-Africaine)のマンドンベアカデミーは,他のアフリカの言語の転写ににも取り組んでいる。左下図:マンドンベ文字表,右下図:キコンゴ語「主の祈り」
3.11 ムワングウィゴー Mwangwego Script [S]
ムワングウィゴー文字は,マラウィ共和国で用いられる,バントゥー語群に属すチュワ語(Chichewa)やベンバ語(Chibemba)などを表記する方法として, ザンビアの Nolence Moses Mwangwego (1951 年 7 月 1 日~)によって 1979 年から 2003 年にかけて作成された。

4.1.1 アジャミーヤ文字 Ajamiiya [W]
西アフリカの伝統的社会において,様々な文字使用が見られる中で,その使い手の数から見ると,最も多いものは,アジャミーヤ(文字)と呼ばれる変形アラビア文字があげられる。この変形アラビア文字は,19 世紀に,フータ・ジェロン(Fouta Djallon)のフルベ族が侵攻してくるフランス軍に対する抵抗を呼びかけた文書を作った際に使用されたことで有名である。西アフリカのイスラム教徒の教養のある人たちの間で,広く使われてきた。次のサンプルは,左:ウォロフ語(特に Wolofal と呼ばれる),右:フラ(フルフルデ)語の例である。
4.1.2 ティフィナグ文字 Tifinagh [N]
ティフィナグ文字(Tifinagh [tifinaɣ])は,モロッコ,アルジェリアなど主にアフリカの北西部およびサハラ周辺に住む,セム・ハム語族に属するベルベル人が話すベルベル諸語を表記するための文字。古代のリビア文字(ヌミディア文字)と,近現代のティフィナグ文字を総称してベルベル文字と呼ばれる。⇒  ティフィナグ文字

4.2.1 オベリ・オカイメ文字 Obɛri Ɔkaimɛ [W]
オベリ・オカイメ文字は, Sɛminant (聖霊)の指示によってナイジェリア東部出身の Akpan Udɔfia と共同発明者 Michael Ukpon,および彼らの宗派の他のメンバーと 8 年間の隠遁生活を送り, 1930 年に発表した文字である。この文字は 'Christian' Spirit Movement (Obɛri Ɔkaimɛ) のメンバーによって宗教的な文書で用いられ,イビビオ語エフィク語そのものの転写のために使われることはなかった。
4.2.2 ンコ文字 N'Ko [W]
「N'Ko ンコ」はマンデ諸語で共通して「私は言う」の意味。1949 年にギニアの作家ソラマナ・カンテ(Solomana Kante, 1922-1987)がマンデ諸語のマニンカ語表記のために考案した文字。⇒ ンコ文字
4.2.3 バサ文字 Bassa Vah [W]
リベリアの首都モンロビア(Monrovia)の東方で話されている,ニジェール・コンゴ語族大西洋コンゴ語派に属すバサ語の表記に用いられる。バサ語名称はヴァハ (Vah),また,文字順の最初の 4 文字をとってンニカセファ (Nni-ka-se-fa) とも呼ばれる。1920 年代に,医師 Thomas Flo Lewis によって考案された。この文字は,活発な普及活動もあり,現在でも個人的な手紙などでかなり一般的に用いられている。 ⇒ バサ文字
4.2.4 ヨルバ文字 Yoruba ‘holy’ [W]
ナイジェリア西部生まれの Josiah Olunowo Oshitelu は,1926 年 4 月 4 日夢のなかで,開いている本に書かれている奇妙なアラビア語を見て,直ちに神聖な文字の作成に取り掛かったといわれる。1928 年までにヨルバ語を表記するいわゆる「聖なる文字」が作られた。
Yoruba african alphabet
この文字はアラビア文字のように右から左へ書き進むが,語中・語末形は持たない。母音記号は子音字の上に付加する。
4.2.5 ウォロフ文字 Wolof (Garay) [W]
ウォロフ語を記述するための文字が 3 種類提案された。1)アジャミーヤ文字(4.1.1)。2)1961 年にセネガルの Assane Faye による Wolof Garay 文字。3)Saliou Mbaye による Wolof Saaliw Wi 文字である。 Faye による文字は,アラビア文字と同じく右から左に書かれ,字形のいくつかはアラビア文字を想起させる。 名称は,「綿の花の白さ」の意。⇒ ウォロフ文字
4.2.6 フラ文字 Fula [W]
セネガンビア・ギニアからカメルーン・スーダンにかけて分布するフラニ人(フラ人,Fula people)の言語フラニ語(フラ語,フルフルディ語)は,従来,アラビア文字で表記されていた。20 世紀の中旬に入り,2 種類の固有文字, Fula Dita と Fula Ba が現れた。
Fula Dita
フラニ語を表記するこの文字は, Oumar Dembélé (1936 年,Bamako)によって 1958 年から 1966 年にかけて作成された。 Oumar Dembélé は,アラビア人の勢力が拡大する以前にマリにあった「伝統」(多数の固有の図形記号など)と,アラビア語と神秘的なアラビア文字に対する関心によって触発されてこの文字を創案した。文字名の “Dita” は, Dembele が使用したノートの「正面を示す」ための文字名である
Fula (Ba)
この文字の成立時期は確かではないが,1964 年以前には存在していたと考えられている。考案者 Adama Ba は,1920 年代初頃マリで生まれたイスラム教徒であり,少なくとも 2 巻のフラニ語詩集を残している。
4.2.7 ハウサ文字 Hausa [W]
ハウサ語は,アフロ・アジア語族のチャド諸語に属する言語である。主にナイジェリア北部からニジェール南部にかけて用いられる。ハウサ語は 17 世紀以降,アラビア文字(Ajami)で記され,続いてキリスト教伝道師と植民地時代にはラテン文字がもたらされアラビア文字は衰退した。ハウサ語にはラテン文字表記法の他に 3 つの文字体系が提案・発見された。1)1990 年代に Bachir Attoumane によって発表された,アラビア文字・ラテン文字・ティフィナグ文字を参考にして作られた Gobiri 文字。2)1980 年代に現れた Raina Kama による文字。3)1970 年代に提案された Tafi (ハウサ語で「手のひら」)と呼ばれる文字の 3 種類である。。
Gobiri (Salifou)
Raina Kama new script
Tafi
4.2.8 アカ・ウムアグバラ文字 Aka Umuagbara [W]
アカ・ウムアグバラ文字は,ナイジェリアの Ogonna Anaagudo-Agu によって 1980 年代にイグボ語を表記する文字として作られた。文字の字形は部分的にナイジェリアのイグボ族に伝わる伝統的な図形 Uli symbols を模している。
4.2.9 イグボ(ンデベ)文字 Igbo (Ndebe) [W]
ラテン文字に替わるイグボ語の文字として作成されたアルファベット。母音字は声調によって区別される。子音字の見た目はインド系文字のようである。母音字と子音字が合体して音節文字となるが,母音字は子音字の上部に置かれる。
4.2.10 ザガワ・ベリア文字 Zaghawa Beri [C]
1980 年代に作成されたチャドのザガワ・ベリア語を表記するためのアルファベット。大文字と小文字の別が存在するが,大文字はラテン文字と異なり,文字の基本ラインの下部に伸びている。発
4.2.11 ソマリ文字 Somali [E]
東アフリカの「アフリカの角」と呼ばれる地域を領域とするソマリアでは,1920 年代から 1950 年代にかけて 3 種類の独自な文字が作られた。
Osmanya alphabet
1920 年から 22 年にかけて創られたこの文字は,考案者イスマーン・ユースフ・ケーナディード(ʻIsmân Yûsuf Kênadia)の名を取ってイスマニア文字(Ismania)あるいはオスマニア文字(Osmania)と呼ばれ,1 文字が 1 音を表すアルファベットである。1945 年以降のナショナリズムの勃興に伴い,1948 年には 5 万人が修得したといわれ,また,名前もファル・ソーマーリ(Far Somaali)「ソマリ文字」と呼ばれるようになったが,全国的に広がるまでには至らなかった。 ⇒ ソマリア文字
Gadabuursi (Borama)
ソマリ族の長老 Abdurahman Sheikh Nuur が 1933 年に創案したソマリ語を記すための文字であったが,彼の身近な範囲でしか用いられなかった。
Kaddare alphabet
この文字は, Xuseen Sheekh Axmed Kaddare によって 1952 年に設計された。それは,ソマリア政府がラテン文字に基づく正書法を採用する以前に提案された 1 つの書記体系であった。
4.2.12 コプト文字 Coptic [N]
24 のギリシア文字に,エジプト文字の民衆書体(デモティック)から採られた 6 文字(サイード方言)~ 7 文字(ボハイラ方言ほか)を加え,全部で 30 文字~ 31 文字の表音文字からなるアルファベット式の文字体系。これらの文字によって表記された古代エジプト語の最終段階に当たる言語をコプト語という。⇒ コプト文字
4.2.13 ヌビア文字 Nubian script [N]
およそ 6 世紀から 13 世紀の間,北アフリカのナイル渓谷に存在したキリスト教王国で使用されていた文字。キリスト教を受容したヌビア王国では礼拝用言語としてギリシア語が採用されたが,時々,コプト語やヌビア語で書かれた聖典が存在する。これら聖典においてヌビア文字で書かれた言語を,古ヌビア語と呼んでいる。 ⇒ ヌビア文字
4.2.14 古ノビイン文字 Nobiin [N]
ナイル・サハラ語族ヌビア諸語に属し,8 世紀から 15 世紀にかけて用いられた古ノビイン語を表す文字。この文字の構成は,ギリシア文字(24 字)とコプト文字(3 字),メロエ文字(3 字)それぞれから影響を受けた文字から成っている。現在でも,古ヌビア語の末裔であるノビイン語 (Nobiin) が話されている。
4.2.15 ポエニ文字 Punic [N]
古代地中海の海洋交易に従事したファニキア人の言語フェニキア語の方言ポエニ(ピューニック, Punic)語を表記するため,前 6 世紀から後 2 世紀にかけて使用された文字である。⇒ ポエニ文字
4.2.16 アファール文字 Feera Qafar (old afar script?) [N]
2001 年 1 月 26 日,エチオピア南部の牧草地で,アファール文字の原型と見られる文字が刻まれた長円形の石板 (Seeka) が発見された。Qafar Feera と名づけられたこの文字は,Melka Werer Research Center の研究者によって,子音 17 字,母音 5 字からなるアルファベットであることが判明した。
4.2.17 アフリカ・アルファベット Africa alphabet
1928 年に制定されたアフリカ少数民族語用アルファベット。特殊文字が多数追加されている。全て「ユニコードラテン文字拡張B」に登録されているが,ユニコードの標準字形と異なる字母もある。

4.3.1 メロエ文字 Meroïtic Hieroglyphs/Cursive [N]
今日のスーダン共和国北部に位置するメロエ(古代ヌビアの都市国家)で使われていた銘文の文字で,クシュ語群に属する古代ヌビア語が記されている。紀元前 3 世紀頃にエジプト聖刻文字(2.1)を範型にして作られた記念碑体と,民衆文字体(1.3)を模して作られた草書体がある。紀元 4 世紀前半まで使われたが,その後はコプト文字(4.2.11)に取って替わられた。⇒ メロエ文字
4.3.2 エチオピア文字 Amharic [E]
エチオピアのセム語派に属すゲエズ語(Ge'ez)を表記するための文字であったが,その後,アムハラ語(Amharic)やティグリニア語(Tigrinya),エリトリア北部のティグレ語(Tigre)の表記にも用いられるようになった。なお,かつては系統の異なるクシ語派のオロモ語(Afaan Oromo)でも用いられた。⇒ エチオピア文字
4.3.3 オロモ文字 Omoro [E]
エチオピア東部のハラルのシャイフ・バクリ・サパロー(Shaykh Bakri Sapalo)が,エチオピア文字の影響を受け,オロモ語表記のために, 1950 年代半ばに作った文字。システムとしては 1 文字が「子音+母音」を表す音節文字であり,同一子音で始まる字形は一群をなし,母音の違いは,互いに部分的にその字形を少しずつ変形することによって示される。書記方向は,左から右への横書きである。この文字はオロモ語の 10 母音すべてを書き分けられる点でエチオピア文字による表記の欠点を克服しているが,エチオピア政府当局の言語政策に反するために敵対視されたこともあり,彼の周辺以上に広がることはなかった。⇒ オロモ文字

  • 江口 一久(2001)「西アフリカの文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
  • 稗田 乃(2001)「アフリカの文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
  • 古閑恭子(2003)「ヴァイ文字再考―サブサハラ・アフリカの社会状況との関連において―」『アジア・アフリカ文法研究』 31
  • Dalby, David. (1967) A survey of the indigenous scripts of Liberia and Sierra Leone: Vai, Mende, Loma, Kpelle and Bassa. African Language Studies, VIII.
  • ― (1968) The indigenous script of West Africa and Surinam: their inspiration and design. ibid., IX
  • ― (1969) Further indigenous scripts of West Africa: Manding, Wolof and Fula alphabets and Yoruba "holy" writing. ibid., X
  • ― (1970) The historical problem of the indigenous scripts of West Africa and Surinam. In: Dalby, David (ed.): Language and history in Africa. (Franke Cass)
  • Diringer, David. (1968) The alphabet: a key to the history of mankind. v.1 v.2 (Funk & Wagnalls)
  • Haarmann, Harald. (1991) Universalgeschichte der Schrift. (Campus)
  • Jensen, Hans. (1958) Die Schrift in Vergangenheit und Gegenwart. (VEB deutscher Verlag der Wissenschaften)
  • Kootz, Anja & Pasch, Helma (hg.) (2008) 5000 Jahre Schrift in Afrika. (Universitäts- Stadtbibliothek Köln)
  • Numerical Notation in Africa
  • Rovenchak, Andrij. (2010) Development of fonts for african scripts: using computer technologies to preserve africa's written heritage. Afrikanistik - Aegyptologie Online
  • Scripts of Africa Native Writing Systems of Africa
  • Wikipedia Writing systems of Africa
[最終更新 2018/08/20]







(私論.私見)