加藤尚文「名言百選」

 (最新見直し2006.6.19日)



【加藤尚文「名言百選」】
 加藤尚文氏の「名言百選」より。
 「書道だけではない。いわゆる稽古ごと、習い事の奥義もまたここにある。まず真似びごとから入ってやがて厳密に定法(じょうほう)を身に付ける。この間は全く自己を殺すのである。定法が身についたとき真似びは学びに移っている。真似びからの離脱である。更に長い年月の後に学びも脱して自在の境地にいく。ここに至って殺されていた自己は最高に発揮されて、真の自由がくる。否定が否定されたのである。基礎をゆるがせにしてはならない。その時は理屈なしである。熟達しても時々基礎に立ち返るといい。自在への第一歩に妙手はない」。
 「習い事(芸事)は人生の縮図である。それは、定石と波長との組み合わせ、といっていい。ルールを厳密すぎるくらい遵守しながら、遂にはそこを破って飛躍する長い長い実践過程である。であるから、定法を身につけるあいだの冗長な時間に堪えられなければ、独創自在の域には、到底到達することが出来ない。ここには『自由と必然』の妖しい予告すら、潜在している。この一見無限連続に見える過程は、であるから、一瞬一瞬の忘我没入を尚ぶ。ある時、量は質に転化している。実は無限地獄ではなくて、弁証法だったのである。従って、完結という思想がここにはない。直観で完結を予知すると、危険を回避するために、わざと未完を創造する。それほど、行き止まりを恐れるのである」。





(私論.私見)