平家物語

 (最新見直し2006.6.19日)



 祇園精舎の鐘の聲、諸行無常の響あり、沙羅雙樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢の如し。猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

 遠く異朝をとぶらへば、秦の趙高、漢の王莽、梁の朱、唐の禄山、これらは皆舊主先皇の政にも従はず、楽しみを極め、諫めをも思ひ入れず、天下の亂れん事を悟らずして、民間の憂ふる所を知らざりしかば、久しからずして亡じにし者どもなり。

 近く本朝をうかがふに、承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、此等は猛き心も奢れることも、皆とりどりにこそありしかども、まぢかくは、六波羅の入道前太政大臣、平朝臣清盛公と申しし人の有様、傳へ承るこそ、心も言葉も及ばれね。

 其の先祖を尋ぬれば、桓武天皇第五の皇子、一品式部卿葛原親王九代の後胤、讃岐守正盛が孫、刑部卿忠盛の朝臣の嫡男なり。彼の親王の御子高視王、無官無位にして失せ給ひぬ。其の御子、高望王の時、初めて平の姓を賜はって、上総介になり給ひしより、忽ちに王氏を出でて人臣につらなる。其の子、鎮守府将軍良望、後には國香と改む。國香より正盛に至るまで六代は、諸國の受領たりしかども、殿上の仙籍をばいまだゆるされず。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色。盛者必衰の理をあらわす。




(私論.私見)