川柳集「誹風柳多留」(はいふうやなぎだる)

 更新日/2019(平成31).1.12日



 誹風柳多留(はいふうやなぎだる)とは、江戸時代中期から幕末まで、ほぼ毎年刊行されていた川柳の句集である。単に「柳多留」と呼ぶこともある。柳樽とも。

 明和2年から天保11年(1765-1840)にかけて167編が刊行された。「誹風」と角書がある。 書名は、婚礼の結納に用いる「柳樽」(やなぎだる)にかけたもので、江戸座俳諧(はいかい)の高点付句集(『武玉川』など)をまね、川柳評の前句付(まえくづけ)から付句のみを抜粋した本書が、江戸座俳諧と雑俳前句付との仲をとりもつものであるという意味を込める。本書の出版により、川柳評前句付はしだいに付句のみが独詠化され、ついに「川柳」という新文芸が誕生する。

 初編~二十四編は初代柄井 (からい) 川柳評,二十五~百六十七編は代々の川柳の評に成る。 第1編の発行は1765年(明和2年)7月。創始者は柄井川柳呉陵軒可有(ごりょうけんあるべし)。柄井川柳が前句附興行の「万句合」で選んだ句の中から、呉陵軒可有が掲載作を選考した。柄井川柳が編纂にたずさわった24編までが、特に評価が高い。その後は、選句の仕組みが曖昧になり、選者も一部の作者が任意に行なうようになり、やがて単なる句会発表誌となってしまった。天保11年までに全部で167編が発行されたが、最後は9年間で55編が出版されるという粗製濫造となった。評者や序文の筆者には、柳亭種彦十返舎一九宿屋飯盛葛飾北斎らが名を連ねている。寛政の改革や天保の改革では、幕府の干渉を受け、過去の内容を修正した異本が出されたこともある。前句附興行は、柄井川柳の号である「川柳」の名が宗家として代々受け継がれたことから、「川柳」と呼ばれるようになり、この誹風柳多留が刊行されていた期間の川柳を、特に「古川柳」と呼ぶことが多い。川柳は世相を映す鏡だ。

 我が好かぬ 男の文は 母に見せ
 好きではない付け文の男を母に断ってもらう気弱な娘。
 捨てられぬ 文が島田の しんになり
 愛しい人の手紙は髷(まげ)の芯(しん)に用いて大事にする娘心。
 子が出来て 川の字形(なり)に 寝る夫婦
 子沢山 州の字なりに 寝る夫婦
 本降りに なって出ていく 雨宿り
 かみなりを まねて腹がけ やっとさせ
 役人の 子はにぎにぎを 能覚(よく覚え)
 是(これ)小判 たつた一晩 居(ゐ)てくれろ
 はへ(え)ば立て たてばあゆめの 親心
 物さしで ひるねの蠅を 追つてやり
 孝行の したい時分に 親はなし
 寝て居ても 団扇(うちわ)のうごく 親心
 姑を 今でもいびる ひいばゝあ
 泣きながら 眼(まなこ)をくばる 形見分け
 泣き泣きも うかとは呉れぬ 形見分け
 門松の かはり(代わり)をするも 秋田者(もの)
 三味線と 鼓は江戸の 飾り物
 三人で 一人魚(うを)食う 秋の暮れ
 新古今集の三夕の歌(「秋の夕暮れ」を結びとした三首の名歌)が前提になっている。だから、三人は寂蓮法師、西行法師、藤原定家となる。
  さびしさは その色としも なかりけり 槙(まき)立つ山の 秋の夕暮れ 寂蓮
  心なき 身にもあはれは 知られけり しぎ立つ沢の 秋の夕暮れ    西行
  見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋(とまや)の 秋の夕暮れ 定家
 寂連と西行は僧だから魚は食べない。定家だけは俗人なので魚を食べるだろうと言ううがち(表に現れない事実・世態・人情の機微を巧みにとらえること)。
 真つ白な 名歌を赤い 人がよみ
 これは和歌を知らないと分かりにくい。「田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞふじの高嶺に雪はふりける(万葉集・山部赤人)」を背景に「真つ白」と「赤い人」を縁語にして詠んでいる。「田子の浦にうち出てみれば白妙のふじの高嶺に雪はふりつつ(新古今集)」に対して赤人を白妙にした新古今と和歌に素早く対応した見事な川柳が詠まれている。

 「KOJIMA's HOMEPAGE」の誹風柳多留初篇、誹風柳多留二篇(未)、誹風柳多留三篇(未)、誹風柳多留四篇(未)、誹風柳多留五篇、誹風柳多留六篇、誹風柳多留七篇(未)、誹風柳多留八篇(完)、誹風柳多留九篇、誹風柳多留十篇を参照した。

【誹風柳多留/序篇1~100】
1 五番目は 同じ作でも 江戸産れ
2 かみなりを まねて腹掛 やっとさせ
3 上がるたび いっかどしめて 来る女房
4 古郷へ 廻る六部は 気のよわり 六部=巡礼
5 ひよひよの うちは亭主に ねだりよい
6 番頭は 内の羽白を しめたがり 羽白=歯白(娘)
7 鍋鋳掛す てっぺんから 煙草にし
8 人をみな めくらに瞽女の 行水し
9 米つきに 所をきけば 汗をふき
10 すっぽんに 拝まれた夜の あたたかさ
11 斎日の 連れは大かた 湯屋で出来
12 入髪で いけしゃあしゃあと 中の町
13 百両を ほどけば人を 退らせる
14 じれったく 師走を遊ぶ 針とがめ
15 九郎介 代句だらけの 絵馬を上げ
16 使者はまづ 馬からおりて 鼻をかみ
17 梅若の 地代は宵に 定まらず
18 投入の 干からびてゐる 間の宿
19 鞠場から りっぱな形で ひだるがり
20 初物が 来ると持仏が ちんと鳴り
21 こはそうに 鯲の枡を 持つ女 泥鰌は量り売り
22 唐紙へ 母の異見を たてつける
23 捨てる芸 始める芸に うらやまれ
24 新発意は たれにも帯を して貰ひ
25 内にかと 言へばきのふの 手を合はせ
26 美しい 上にも欲を たしなみて
27 四五人の 親とは見えぬ 舞の袖
28 天人も 裸にされて 地者なり
29 いつとても 木遣の声は 如在なし
30 身の伊達に 下女が髪まで 結うてやり
31 菅笠の 邪魔になるまで 遊び過ぎ 宿場女郎と
32 片袖を 足す振袖は 人のもの
33 お初にと ばかり姑 楯にとり
34 銅杓子 貸して野呂松に して返し
35 七草を むすめは一ツ 打って逃げ
36 赤とんぼ 空を流るる 龍田川 大和の紅葉の名所
37 饅頭に なるは作者も 知らぬ智恵 絵島事件
38 取揚婆 屏風を出ると 取り巻かれ 男か女かと
39 呵っても あったら禿 炭を喰い
40 水茶屋へ 来ては輪を吹き 日をくらし
41 ふんどしに 棒つきのいる 佐渡の山
42 主の縁 一世へらしれ 相続し 主従の縁は三世
43 親ゆゑに 迷うては出ぬ 物狂ひ 子ゆえに迷う親心
44 よい事を 言へば二度 寄り付かず 忠言をしたら
45 初会には 道草を喰ふ 上草履 客はじらされる
46 喰ひつぶす やつに限って 歯をみがき 房楊子
47 子が出来て 川の字形に 寝る夫婦
48 取次ぎに 出る顔のない 煤払ひ
49 煮売屋の 柱は馬に 喰はれけり
50 療治場で 聞けばこの頃 おれに化け
51 足洗ふ 湯も水になる 旅戻り
52 まま事の 世帯くづしが 甘えて来
53 朝めしを 母の後ろへ 喰ひに出る
54 弁天の 貝とは洒落た みやげもの 江の島の弁天
55 三神は なぶるとよみし 御すがた 人麿、弁天、住吉明神
56 いただいて 受けべき菓子を 手妻にし
57 緋の衣 着れば浮世が 惜しくなり 僧衣の高官
58 太神楽 ばかりを入れて 門を閉め
59 付木突 腰におどけた 拍子あり
60 馬かたが ゐぬと子供が 芸をさせ
61 水かねで 胸のくもりを 磨いでおき 水銀で堕胎
62 袴着にゃ 鼻の下まで さっぱりし 七五三の五歳
63 習ふより すてる姿に 骨を折り
64 無いやつの くせに供へを でっかくし 正月飾り
65 国ばなし 尽きれば猫の 蚤をとり
66 藪入の 綿着る時の 手の多さ 帰り支度
67 武蔵坊 とかく支度に 手間がとれ
68 勘当も 初手は手代に 送られる 内証勘当
69 五六寸 かき立てて行く 寝ずの番 妓楼の夜
70 新田を 手に入れて立つ 馬喰町 訴えの願いが叶った
71 どこぞでは あぶなき娘 ゆふべやり
72 仕切場へ 暑い寒いの 御挨拶 芝居小屋の札売場
73 紅葉見の 鬼にならねば 帰られず
74 お内儀の 手を見覚える 縫箔屋 図柄の指図で
75 泣がけも 尊氏已後は もうくはず 楠正成の謀略、女郎の手管
76 しばらくの 声なかりせば 非業の死 歌舞伎十八番「暫」
77 伊勢縞の うちは閻魔を 尊がり
78 役人の 子はにぎにぎを よく覚え
79 女房が あるで魔をさす 肥立ぎは 直り際に不養生を
80 鑓持は 胸のあたりを さし通し
81 白魚を 子にまよふ頃 角田川
82 帯解は 濃いおしろいの 塗り初め 女児七歳
83 灯籠に 甚だくらい 言訳し
84 逆王を 貰ひに出たる 料理人 長引く将棋
85 花守の 生れかはりか 奥家老
86 あかつきの 枕に足らぬ かるた箱 奥女中のかるた遊び
87 出てうせう 汝元来 みかん籠 お前は捨子だ
88 二箇国に たまった用の 渡りぞめ 両国橋
89 鼻紙で 手を拭く内儀 酒もなり
90 病み上がり いただく事が 癖になり 薬湯の習慣
91 橙は 年神さまの 疝気所
92 合羽箱 どろどろどろと かしこまり
93 定宿を 名乗ってひどい 場を逃れ
94 井戸替に 大屋と見えて 高足駄
95 立臼に 天狗の家を きりたふし
96 禅寺は 彼岸の銭に ふりむかず
97 たそがれに 出て行く男 尻知らず
98 隣から 戸をたたかれる 新世帯 もう起きな
99 うりものと 書いて木馬の 面へ張り
100 むかしから 湯殿は智恵の 出ぬ所 義朝、頼家
101 神代にも だます工面は 酒が入り
102 盃に ほこりのたまる 不得心
103 跡月を やらねば路次も たたかれず
104 指のない 尼を笑へば 笑ふのみ
105 鉢巻も 頭痛の時は 哀れなり
106 ぼた餅の 精進落は ゐのこなり
107 穴ぐらで 物いふような 綿ぼうし
108 急度して出る八朔は寒く見え
109 傀儡師十里ほど来た立ち姿
110 鶏は何か言ひたい足づかひ
111 手拭にきんたま出来る一さかり
112 杖突の酔はれた所は盛り直し
113 婚礼を笑って延ばす使者を立て
114 すっぽんを料れば母は舞をまひ
115 椋鳥が来ては格子をあつがらせ
116 振袖は言ひそこないの蓋になり
117 せめて色なれば訴訟もしよけれど
118 葭町へ羽織を着ては派が利かず
119 壁のすさむしりながらの実ばなし
120 国の母生れた文を抱きあるき
121 塩引の切り残されて長閑なり
122 江戸者でなけりゃお玉が痛がらず
123 お袋をおどす道具は遠い国
124 菅笠で犬にも旅の暇乞ひ
125 飯焚きに婆アを置いて鼻あかせ
126 後ろから追はれるやうな榊かき
127 上下で帰る大工は取り巻かれ
128 前あれで手をふく下女の取り廻し
129 跡乗の馬は尾ばかり振っている
130 疝気をも風にしておく女形
131 塗桶はいっち化けよい姿なり
132 寒念仏みりりみりりと歩くなり
133 衣類までまめでゐるかと母の文
134 向うから硯を遣ふ掛人
135 迷ひ子のおのが太鼓で尋ねられ
136 脈所を見せて立板申すやう
137 上下を着て文盲な酒をのみ
138 半兵衛雛の頃から心がけ
139 喰積がこしゃくに出来て壱分めき
140 捨子ぢやと坊主禿をなで廻し
141 藪入をなま物知りにしてかへし
142 流星のうちに座頭はめしにする
143 禿よくあぶない事を言はぬなり
144 客分といはるる女立のまま
145 正直にすりゃ橙は乳母へ行き
146 護国寺を素通りにする風車
147 雪見とはあまり利口の沙汰でなし
148 寒念仏千住の文をことづかる
149 松原の茶屋はいぶかる景になり
150 ぼた餅を気の毒さうに替えて喰ひ
151 孕ませた詮議はこれで山をとめ
152 落ちて行く二人が二人帯がなし
153 親分と見えてへっつい惣金具
154 日傘さして夫の内へ行き
155 縫紋を乳をのみのみむしるなり
156 藪入にうすく一きれ振舞はれ
157 根ぞろへの横にねじれて口をきき
158 庵の戸へ尋ねましたと書いて置き
159 隅ッこへ来ては禿の腹を立て
160 小座頭の三味線ぐるみ邪魔がられ
161 舌打ちで振舞水の礼はずみ
162 義貞の勢はあさりをふみつぶし
163 関寺で勅使を見ると犬がほえ
164 乳貰ひの袖につっぱる鰹節
165 これ小判たった一晩居てくれろ
166 琴やめて薪の大くべ引き給ふ
167 状箱が来ればよばれる太夫坊
168 飯焚に百ほど頼む豆腐の湯
169 迷惑な顔は祭りで牛ばかり
170 桶伏をはじいて通る日和下駄
171 親類が来ると赤子の蓋を取り
172 江の島を見て来たむすめ自慢をし
173 明星が茶屋を限りの柄ぶくろ
174 御自分も拙者も逃げた人数なり
175 還俗をしても半分殊勝なり
176 細見の鬼門へなほる遣手の名
177 袖口を二ツならして娵をよび
178 幽霊になってもやはり鵜を遣ひ
179 羽織着てゐるお内儀にみな勝たれ
180 権柄に投げ出して行く質の足し
181 おびんづる地蔵の短気笑ってゐ
182 弐三歩が買ふとうるさい程はなし
183 お袋は不器な姿に雁を書き
184 あんまりな事に一人でふせて見る
185 御一門見ぬいたやうな銭遣い
186 このしろは初午ぎりの台に乗り
187 祭り前洗ひ粉持って連れて行き
188 隣へも梯子の礼にあやめ葺き
189 天人へ舞とはかたいゆすりやう
190 御后のわる尻をいふ陰陽師
191 歩と香車座頭の方は付木でし
192 御勝手はみな渇命におよんでゐ
193 黒文字をかぎかぎ禿持って来る
194 源左衛門鎧を着ると犬がほえ
195 仲人へ四五日のばす低い声
196 傾城も淋しくなると名を替へる
197 深川の土弓射習ふ草履取
198 黒木売り大事に跡をふりかへり
199 駕籠賃をやって女房はつんとする
200 煤掃きの下知に田中の局が出

【誹風柳多留/五篇1~100序】
1 つつがなく茶わんを戻す太神楽
2 座頭の坊木馬にのせてみんな逃
3 いたづらなお手だとげい子わるびれず
4 つれ合いの日さと遣り手はなしを喰い
5 乳母が顔あやしてごぜは笑はれる
6 せがき船松を置く場へめしを置
7 藪入の妹はつきについて居る
8 将棋ばんさし上げていて是乳母よ
9 毒だてに鼻の先きのはいひにくし
10 はだかっててふのを遣ふ材木や
11 気斗さなどと御隠居酌へさし
12 事かけになぶった婆婆アすりみがき
13 馬喰町きうじの手でもにぎらせず
14 増上寺生酔の出る所でなし
15 かけ取りの泊り迄来る手のわるさ
16 うたれたる訳は女房がかたやなり
17 その沙汰を聞いて宿下り廻り道
18 天井を男の見るはふがいなし 女性上位の入婿
19 妹は母よりはぐに骨がおれ
20 遣り手の子あの女郎衆がなごと泣 すぐに告げ口をする
21 太神楽たばさんだのが上手也
22 まだ来なんせんかとゑんへこしを懸
23 あくた川鍋取りめがとおっかける
24 柳原樽をちょこちょこすててにげ 夜鷹に
25 かがみとぎ手前ばなをの下駄をさげ
26 きつい目が出たと口から壱分出し
27 銭の無い奴は窓から首を出し
28 六あみだ土蔵作りが仕廻いなり
29 座敷牢腰縄で出る十三日
30 たいこ持べんにまかせてかりたをし
31 根津へでも遣りたいといふあぶれ駕
32 旅あんまはちにさされるやうな針
33 若いものしつけとりとり江戸へ出る
34 うらやんでぢぢいを起すしうとばば
35 おらがのは年季を待と薬とり
36 初かつほあつかましくも百につけ
37 棒鼻でかつぎくぐりをおし明ける
38 船頭も跡のばばあは義理で抱き
39 春まけはいしゃの手ぎわにいけぬなり 恋患いは
40 ぢん笠でつみ草に出る浅ぎうら
41 はへぬのを十六七はくろうがり
42 地紙うり芝のやしきでくどかれる 薩摩藩上屋敷
43 高砂は今もついでに行くところ 播州高砂の浦
44 じょうだんをしいしい捨る鳥のはね
45 すががきの中を手代は出て帰り
46 留守ねらうやつはあいつとあいつなり
47 仲人もすこしくどいた男なり
48 うそをつく事がきらいです顔也
49 ぞう兵は又来ましたと後三年 前九年、後三年の役
50 けいせいはかたきが知れて捨られる
51 らく中は女を丸で見せぬ所
52 大名の着く日もだしを売て来る
53 入王に成ると見物碁へたかり 碁・将棋会所
54 おしそうに姿を崩す雨やどり
55 五六度覗いて嫁の夕すずみ
56 三会め国府の下へ弐両置
57 知行から来る内寺で五俵かり 幕臣の窮乏
58 何事ぞおこったように千鳥立つ
59 吉日が遠くて柱壱本たて
60 針売のいらざる後家を立て通し
61 おとといはむごくしたなと十五日
62 信長へお国ものだと申上げ 藤吉郎を
63 ぼたもちとぬかしたと下女いきどおり 醜女と
64 六月のしちやは見世へ柵をふり
65 どこでどふ習ふて来たか後家の拳
66 草履取よろけるなりに供をする
67 合びんおもった程はちがえなし
68 旅むかいすやをした日の面白さ
69 切れ小口名代出すがさいご也
70 あたりますなどとよしずへけさをかけ
71 かこいものぢっとしているたちでなし
72 白酒屋などは戸をさす手負猪
73 あま酒へみやげをすぐにおろし込
74 人形と同じ嶋着るくわいらいし
75 病人のみんな見て置くいしゃのくせ
76 おっかけて行くとしんぞうちぢこまり
77 ぶんぶんに寝るが夫婦のすがれ也
78 七乞食などとからこふ奥家老 初鉄漿の奥女中を
79 駕の者おろして願ふむし薬 酒手をねだる
80 万歳は雑煮半ばの春の輿 松の内
81 鼻紙をつかんで遣り手のんで居る
82 初鰹めしのさいにはあぢきなし
83 上下で上るり余程ひどく酔
84 首っ引帆柱たてるようにまけ
85 蚊や一と重でも夜ばいにはきつい邪魔
86 顔へ筋出るととうめうせんといひ
87 みみづでも掘るやうに見る払蔵
88 傘でいって紺屋にいひまける
89 ごぜの供知ったのが来りゃ舌を出し
90 針打をおったて跡へござをしき
91 お妾の親元薬とりも来ず
92 下女が髪にしめのにへる内に出来
93 ふぐ汁もくわざらにゃあとしうといい
94 ぬき足でかへるていしゅはじゃすい也 女房を疑って
95 又寄って来なと出しなに一つやき
96 口ばたをたいこやり手につめられる
97 はらがけに成ると子共はあたまがち
98 行水のわく内うらで二ばん取
99 まだほへて居ますかと聞くしうとばば
100 おやたちの前から取ると茶屋はいい

【誹風柳多留/四篇1~100】
1 鳥追ひを扇子の先でよけて出る
2 奥のちん木綿ものさへ見るとほへ
3 草市のききょうの切れる中の町
4 常念仏折ふしたんが引かかり
5 女湯へおきたおきたとだいて来る
6 もっと寝てござれに嫁は消へたがり
7 材木屋さわぐとぎうをよび付ける
8 ごぜの灸跡で一だんのぞむぞへ
9 平産の折も折とて飯がきれ
10 丸の内井戸へおろしてしょい直し
11 いうとめの屁を笑うのも安大事
12 出来ぬやつおよしなさいとかたくいひ
13 そばがきをねこまの供へやたらしい
14 蔵宿でよんどころなくそりを打
15 藪入のみやげによしごそへて出し
16 壱人物ほころび壱つ手を合
17 みみのわきかきかきお七そばへ寄り
18 かわたびや四五けん先をふところ手
19 しゃか十のやうに火の見の顔を出し
20 草り取茶屋のむす子とかしへ行
21 ねがわくは嫁の死水とる気也
22 へどをつくせなかを御用たたく也
23 女房をたのしんで来るすけん物
24 おやたちは井戸と首とでむこを取
25 夜そばうり欠落ものに二つうり
26 麦ばたけ小一畳ほどをおったおし
27 かま祓しもげたおやぢ箱をもち
28 てんば下女寝所へ薪を壱本もち
29 大磯へ馬子はせいせい追て来る
30 朝がへり首尾のよいのもへんなもの
31 病み上り喰はせずにおきやうにいひ
32 八文の事で火鉢で顔を見せ
33 あぶれ駕かね四つ迄は見世をはり
34 海あん寺真赤なうそのつき所
35 下女がはれなんぞというと黄八丈
36 印籠をくれなと尻でゆりおこし
37 小侍女郎の中でべそをかき
38 みつものを下女は値斗聞て見る
39 あまだるい声で殿さまおっかける
40 紫震殿よく化ものの出るところ
41 とうしゅこう見切って銭をつなぐ也
42 やうきひのうたい宵から二度通り
43 座敷らう手代も一人宿預け
44 掛とりの手をひいて行にわか後家
45 中直り鏡を見るは女なり
46 すり小木でなぶって通るやうじ見せ
47 はつ鰹旦那ははねがもげてから
48 つばなうりよくよく見れば女の子
49 顔見せのお供はどれもくじつよし
50 和尚さまひざへ来る子にじゅずを出し
51 奥がたへゆひ言はなしみなと川
52 あいそうも男へすれば疵になり
53 たいこもちしゃれて内儀にしめられる
54 銀ぎせるあったら事に手ではたき
55 やみやみと座頭へ渡る町やしき
56 米つきのなげ込んでやるそれた鞠
57 見せもせず無筆は文をもてあまし
58 角田川しゃばいらいだをいふところ
59 御家老の知行百首の内に入
60 大一座となり座敷はさし向ひ
61 青首で猫などおどすりょうり人
62 おくり人はならちゃぐらいに目は懸ず
63 武士のけんくわに後家が二人出来
64 弥陀しゃかの違ひ不縁の元となり
65 白状をむすめはうばにしてもらい
66 一弐番産婦もよみを打て見る
67 おはぐろの尻へだかってだだをいふ
68 釣台で高尾へおくるしのぶずり
69 三郎は毛虫を筆ではらひのけ
70 産の伽口が動くで持たもの
71 美しい流人大めしくいに成り
72 舟宿にあるのが本のからごろも
73 切れぶみは一ぱいのんでかかりきり
74 じっとしていなと四五枚口でとり
75 おどり子はつめるぐらいはゑせ笑ひ
76 せんがく寺旦那を壱人おんなくし
77 柄杓うりなんにもないを汲んでみせ
78 三人で下女はあかるく蔵を出る
79 お月見をていしゅに十五丸めさせ
80 師匠さま一うねづづにねめ廻し
81 囲れはいひわけ程の見世を出し
82 ふり袖でぶたれる御用気さく者
83 中直り初而に笑ふは恥のやう
84 十二月人をしかるに日をかぞえ
85 光秀は不断うぬ見ろうぬ見ろよ
86 一葉づつきしをはなれる柳ばし
87 ごぜの供何をはなすかにこつかせ
88 見もふしたやうだと遣り手呑んでさし
89 七つ迄そだてさしょうとわりをいひ
90 義さだの勢は念仏ふみよごし
91 手を帯にはさんではなす乳母が宿
92 遣ひたてましたと下女へいとまごい
93 わたし値でけん見の供は弐反買
94 花嫁に時時化るひのへ午
95 根津の客ゆしまの芝居ねだられる
96 秋葉だけ湯屋は四五日先へたち
97 晴天に仕合わるく馬子の蓑
98 たかのぎう箱てうちんをさげて居る
99 蔵前のゑんまにちるを帳に付
100 伏勢のあぶれはのろりのろり来る

【誹風柳多留/六篇1~100】
1 松が枝のとなりへからむ町の春
2 かわらけは浅い深いの草で出来
3 旅むかい遠見を出して揚て居る
4 しかられたしんめうつういついとこき
5 遣り羽子をたいこたんぼへつきなくし
6 おきおきのきげんは只の事でなし
7 呑む礼者朝の勘定大ちがい
8 酒のちり筆で伴頭ちょいとはね
9 ちとしめてくりやうと親父ねずに居る
10 たがかけもちっとかそっとかんなくづ
11 けんやうは手引が有るでへびにおぢ
12 嫁のよみ気のどくそうにあざをたて
13 子をだいて惣身のすくむ角力とり
14 なんじらは何を笑ふとゐんきょのへ
15 茶屋女せせなげほどなながれの身
16 こんじきの男蜆に喰いあきる
17 玄関番かつぶし箱をあてがわれ
18 蚊やうりはめりやす程なふしをつけ
19 なんになりますと大工は切ってやり
20 九郎どの五常を守り守りにげ
21 文遣ひ道など聞いておびき出し
22 もうせんを敷とほろほろ落て来る
23 とうしんをだれに聞いたか嫁はのみ
24 とむらいのあたまにしては光り過
25 けいせいもやっこにされぬ江戸の張り
26 ぶどう棚なったと旦那大さわぎ
27 おんなきゃく先づ重箱をはしらかし
28 柄杓のゑ出して湯番はめしをくい
29 あっぱれでござると師匠三んを下げ
30 まけたやつ百を手玉にとって居る
31 しまわずと置いてくれろとあるきいひ
32 かんがくをしたと下女へはよごれもの
33 うなされるろせいしゃくしでつっつかれ
34 六づきだ見なと日なしに内儀いひ
35 此がきめみやげどこかと鳥の町
36 百だんなまさか衣もりゃくされず
37 御殿者湯がいて喰へばあてられず
38 麦秋に書出しを遣るかるい沢
39 嶋の子を願って呼んであばたにし
40 鳶しらみ女房にゆすりんyかれたり
41 安玄関御用はらばへうって居る
42 手拭を人じちにする五十ぞう
43 根津のぎうつとめを土場に取に来る
44 煮やっこで堂をほめほめのんで居る
45 曽我祭するから芝居金がなし
46 うけ出して鈴をふらせるかるい沢
47 そらじぎをするなと下女をつかまえる
48 門部やにたしない目玉ひけらかし
49 御子孫は西の国でも大あたま
50 つれの部屋迄ついて来るむまいやつ
51 神楽堂跡引っさがりがはじめ也
52 傘出せばひっちなぐって供は飛
53 かたみわけ已後はいんしん不通也
54 日のながい事と杉戸に寄かかり
55 御紋より留守居の口は能くまわり
56 黒がもをつれて妾の高がしれ
57 祐つねは一っかいのがれするおとこ
58 小判ではいやだとにげるつくし売
59 和尚さまくるしいわけは二た世帯
60 京だんをまねて綿つみどうづかれ
61 上ぞうりころしてあるくにくらしさ
62 子の尻をはしょってはなす御殿山
63 庚申のあした二人の宿をよび
64 あくる日は夜討としらずすすをとり
65 雛の酒茶わんでのんでしかられる
66 薬種屋でとそを買ふのは無病也
67 中宿へ御用小ぎくを持ってかけ
68 初がねはぱちぱちとした顔に也
69 あてはめた内をお袋たばかられ
70 御刀をよけたが座頭越度也
71 女房の聞くようによむにせ手紙
72 よめの留守孫も味方におびきこみ
73 お局の出たに大部やは四人泣
74 乳母が尻たたいて御用うきめをみ
75 蚊を追っておすすめ申す源三位
76 妹の無げいは姉のふらちゆへ
77 にげ足で嫁の出て居る門涼
78 又それへふんばぎやすと産婦いひ
79 湯屋へ来て咄すは安い女郎かい
80 御蔵前ぬれて通るは地かた也
81 笠のじぎたがいにふちをなでて行
82 こし元はどど御ろう下を一ついき
83 茶を直切るやつが役者の名をも聞
84 見世へ出る年迄ちりけすへて遣り
85 どぶさっておろうとてい主たきつける
86 雪をたべやるなと帯を〆て出し
87 小言かと思へば女せいぞろへ
88 金時は鬼が出ないとねかしもの
89 金がつづかぬと若後家地をかせぎ
90 竿先に成ってとあやめ達ってとめ
91 神道者守屋十ぶん理だといふ
92 つき出しのまたへ遣手はせこを入れ
93 めがたきと思へど嶋田歯がたたず
94 女にはいっそ目のある座頭の坊
95 不心中遣手へがわらりぶちまける
96 居酒をば仕らずとむごくかき
97 御預り申て置くと勝ったやつ
98 ぶんさんに狆をばいしゃへおっ付る
99 長つぼねたった四五寸不足なり
100 もも引で和尚のつれる村小性

【誹風柳多留/七篇1~100】
1 干鯛箱へだててあたま二つさげ
2 からかったうへで三つ組かしてやり
3 おめかかけははらみこじれてゑんにつき
4 中の町いけんもしたりすすめたり
5 かんがえて見なよとごぜへ久しぶり
6 世の中の姿は御こうかぎりなり
7 つみ有てむす子てうしの月を見る
8 はご板をなげて女房礼をうけ
9 此あばた見つけなんだと中のよさ
10 かつがれる宵にしげしげうらへ出る
11 茶屋かぶが先僧正のかたみなり
12 そらどけのせぬのはしゅすの年にはぢ
13 おめかけの書物めりやす斗なり
14 こひ聟を入れたで男弟子は来ず
15 座頭のをかりて座頭の鳴りをとめ
16 それもして見たとおこりはじれて居る
17 数の無いはしたお出がはるといひ
18 神事だなどとおやぶん気の若さ
19 藪入りをしかるをきけばきうの事
20 かけぬけて芝にねてみる野がけ道
21 わっちらが内も内さと門に立
22 不動さまうられそもないお顔つき
23 ごぜの手を引を黒かもせつながり
24 仲人の謳野がけで出したまま
25 不細工の内にして置くおんなの子
26 お妾はおもしろがってしからせる
27 さらしつくきねでおしへる三笠山
28 遣り手ばばおんなじようにつまを取
29 あてもなく下女ぶらぶらと恋やまい
30 にくらしい口だぞといふ待女郎
31 品川はぶしゃれなやつが為になり
32 安げんくわ御用干ものを買て来る
33 居酒屋のけんくわかたりの方へおち
34 つかまへるそうだとあるき一本きめ
35 上下で乞食に聞いておっかける
36 ふるせでは無いと仲人しゃれをいひ
37 あのあめをよしんばおれがしたにせい
38 御てん山三味のとなりはふせる音
39 きんたまをかくふり弐百くすねこみ
40 藪いしゃへ断いふて御やくゑん
41 あら世帯ひょっと日なしをかりはじめ
42 おさまらぬものだとおやぢ雪をかき
43 是がうるさいとどう取奉加帳
44 あらら程小僧をいびり遣ふ也
45 御祭に出たのを下女はきついみそ
46 御経も宝づくしはみみぢかし
47 五丁町殿にゑんじゃく付きまとい
48 からたちに成てかん当ゆるす也
49 口ばたのみそをふきふき堀へさし
50 源三位きうくつそうな腹をきり
51 十三日長おひをしてとつかまり
52 あればかり男かと母じゃけん也
53 四つ手駕杉土間近くよこにつけ
54 よし原を大念仏ですすめこみ
55 手のひらへ赤子をのせてしかられる
56 ほうづへで見て居る文のくろうそう
57 祐つねは久しいなりでうたれたり
58 謳こう上でうしなも二三人
59 拾両の馬宿宿へぱっと知れ
60 伴頭はやぐらへ乗って来た男
61 あてこともないと産所へ追こまれ
62 身ごしらえ禿が帯は茶屋が〆
63 ごふく屋のめし安がねでくゑぬ也
64 国に無い船と店ものあぶながり
65 後三年とふとふこすい方がかち
66 日本ばし馬鹿をつくしたさし向い
67 ごふく店夫婦げんくわで行ところ
68 長髪で大師へ参るむづかしさ
69 角田川までにあれこれやっとまき
70 下紐といふは木綿の事でなし
71 万歳を下女ありったけ笑ふ也
72 人さまの居るのに御用気がつかず
73 元日の生れ近所で知って居る
74 品川はあんま斗の下駄の音
75 よしの丸是は是はとしゃれてのる
76 人二人かばって局不首尾也
77 吉野だといへばげい子はよしといふ
78 だらけずに廻って来なとこしをあて
79 白酒に酔て公家衆の供をわり
80 清玄でござりますると吹矢いふ
81 かばやきも斗ですまぬ所なり
82 小間物屋たどんを一つのみつぶし
83 後家の文子もりたのむが越度也
84 おどり子へ気ばっかりさと堀部いひ
85 正とう寺大切米のさかり也
86 神楽堂立聞らしくあるく也
87 けいせいのちからでうごく石のふた
88 おやぢのはむすこが買た妹なり
89 美しい斗でせいしはりはなし
90 内が茶をうりやすと乳母はばで行
91 やきたてのこはだつきやへちそう也
92 宇治川のそこには馬のわなをかけ
93 あそこへはいやと藪入気の高さ
94 若殿もうきにはもれぬかすり疵
95 ひまな時ちんぴをきざむ玄関番
96 お直段に御ふそくないと座頭いひ
97 はねの有いひわけ程はあひるとぶ
98 おととしの門に寝て居る車牛
99 ぶん廻しあんまり人の持たぬもの
100 おも手代不慮な事にてかさをかき

【誹風柳多留/八篇1~100】
1 雛の箱まだふみも見ず明けたがり
2 よりたまへあがりなんしとあら世帯
3 役人に成ると小児もむづかしい
4 おやは子の為にかくして溜めるなり
5 あついばん表二かいのかやが見へ
6 女房の言伝ていはぬ若ざかり
7 雲程に女房は月へさしさわり
8 ねじ上げて手をやってみる雨やどり
9 九代目に坊主が出たでばれた也
10 少し名の立つもうれしき若ざかり
11 それともと母は朝湯をのぞく也
12 高砂もばばあの方はくま手なり
13 猿廻し黄色な糸は三ばかり
14 大小で配ってあるくかしわもち
15 女客てい主ちそうに他出する
16 母おやに顔をあてがうくろうなし
17 嫁の事しうと身ぶりをしてはなし
18 奥さまのおはらはぬしの御はら也
19 あの通りだとしづかへは浪を見せ
20 山川万里へだてても江戸に住
21 掛けとれぬ頃は雲迄よこに成る
22 買ってみぬ内に女房をよんで遣り
23 まく事がならぬでむす子行はぐり
24 そう行と六郷さまの御門だよ
25 おふくろと身はばの事で一けんくわ
26 年わすれしたとはけちな女郎買
27 顔をする前に見て居てしかられる
28 御ゆるしと猪牙から飛ぶの其早さ
29 のりのにわとは浅草で言ひはじめ
30 百両をかけると首をふって見る
31 我すいた男の前をかけぬける
32 ゐのししはおきると歌によまぬ也
33 上るりが出ますと師匠しかる也
34 売る程もなしと金しゃをじゃまにする
35 縞がらのわるい小袖でこわがられ
36 じゃ気のあるばばあとたいこ申上げ
37 かんりゃくをおそわって居るいたわしさ
38 かん病にはり合いの有る事が出来
39 けいせいの能書は顔のたしに成
40 舟宿の女房ふかみへついとつき
41 袴着て真先に居るもふけ筋
42 むらさきの幕をのぞけば金屏風
43 余のきゃくはいらぬとすがた海老やいひ
44 御留守居のかたるを笑ひ笑ひひき
45 あっちだのづだの丁のと本田いひ
46 手前ものだけに菊水出来のよさ
47 旦那をば出しなとしゃれる女きゃく
48 仕合は嫁だと石屋朱をつぶす
49 ぬかる道とばれるだけはとんで行
50 僧はさし武士は無腰のおもしろさ
51 だいてはいるとは二位どのが言はじめ
52 熊坂も頭巾一つの祖師となり
53 僧正へ知れて盗人百もらい
54 品川であれ切かのとたわけもの
55 庚申の夜の一人寝は地ものなり
56 小児いしゃ坊や坊やとにじり寄
57 壱歩とは下女ばくだいの無心也
58 長刀じゃしょせんいかんと五郎丸
59 御局はげい子にいっそあやなされ
60 二かいからおやわんみせて母をとび
61 雛祭是からこふは姉さまの
62 船頭へのめと秋葉へ上りしな
63 旅がえり品川からはいんぎんこ
64 よめまいとないら薬に馬を書
65 わが口で切れたと禿しかられる
66 縞に紋ぬわせるやつは数がなし
67 六月は日帰り春は御とうりう
68 かし本屋無筆な人につき合ず
69 もふ外に死に人なしかと鰒をかい
70 帰りゃるかきついやつだと角田川
71 かんぶくろいつともなしにかけふやし
72 だあれでも無いと綿の師屁をかぶり
73 御ていしゅが死んで逃るがやめに成
74 しゃば中にかりは無いぞとおっかぶせ
75 がまんして中形を着る地紙うり
76 元日はまだこわいから戸を明けず 掛取が来る
77 光るのを知らせる役はまれよなり
78 直次第で四五本いると長局
79 ほうそうでおしい隠居が一人きれ
80 熊坂がさいごは五つまへと見へ
81 しつをかくたいこしんだいはめつ也
82 きぬぎぬに手綱かいぐりかるい沢
83 とむらいをよろしい筋とむすこいひ
84 見つかってしいのみ程にして逃る
85 いやならばいやといやれといやみ也
86 つめられぬやうにと禿願をかけ
87 桜ざめとは下女のするいろの事
88 もんもんのはんてんかざりものを売
89 香のものさいかくに出る壱人者
90 ちゃんころが無いとみみずを掘て居る
91 よし原はいたし音羽はかゆいなり
92 石灰のたんと入ったを馬子はのみ 石灰入の安酒
93 そうはもうつかぬと小よりよって居る
94 根ぞろへをして髪結はさぐらせる
95 帆じらみをしょって来たかとおりやういひ
96 おっかないまくばいをするい世の留守
97 引け四つに明けた駕かきゆでたやう
98 とくしんをさせて質屋は縄をかけ
99 まきこまれきったと話す姑ばば
100 さがみ下女相手にとってふそくなし

【誹風柳多留 九篇 1~100】
※1から40までは上野不忍池中島弁財天への奉納句
1 水無月の池に宝珠を盛り上る
2 一ひろでまします時の有がたさ
3 清らかな花水鳥の留守に咲
4 ほのぼのと人丸堂を矢のごとし
5 毘沙門は弁財天のふせぎ也
6 半夜程勾当運がたらぬなり
7 人間のからだで首は茶釜なり
8 火をとぼす頃大川へ猪牙をまき
9 鐘供養おどり子が来てらりにする
10 最おまへ三年程と爪をかけ
11 花嫁を百貫道具だとほめる
12 ふとんから首松へ出し椎へ出し
13 生酔のつっかい棒にげい子なる
14 鉄漿の礼覚て居なと帰る也
15 神楽堂淋しくたたく定直段
16 二尺程飛んで渡しにしかられる
17 あの金をどふするのだと息子いひ
18 厄どしをげい子むしょうに長くする
19 渡し場の意趣だとそびく花の暮
20 花の山足よわづれがぜっぴ出来
21 隣国へやっつかえしつわたし守
22 づぶになるつもりで下戸を誘ふ也
23 宿引のやうに遣り手のすみだ川
24 うるしくさく無い道具は二度め也
25 つれに迄うとんぜられるしわいやつ
26 はしたない事をいふのでお末なり
27 秋の夜を二十八日むす子しょい
28 こわいろへ御経のまじる御縁日
29 手水場の垣に楊子が二三本
30 駿河もの手前のもののやうにいひ 富士山
31 繻子の帯百度参りの帯でなし
32 不忍の方迄槌でぶっこぬき
33 是むちう作左と起こす花の山
34 きげんをとると女房はゆだんせず
35 みんみんがなくぞとむす子おこされる
36 歌がるた乳母はにぎってたたきつけ
37 都鳥どらの伝授をうける所
38 おしい事あったらむす子りちぎ也
39 そう行と岩付だよとわらはれる
40 松茸の出そうな名也男山 京都八幡山
41 かんりゃくと大気の中に母はたち
42 子どもよく湯づけにうなぎそへて喰
43 曽我の後又宿下りのひがし山
44 夫とは向きをちがへて昼寝する
45 寒念仏世に捨られた月をほめ
46 花の山ごぜ松の木の方へむき
47 惣仕廻けっきの勇と茶屋はとめ
48 是でまあ夜食夜食としんをきり
49 太神楽島の財布へばちをいれ
50 十三日ふだんの顔はぶしやうもの
51 筆まめは名迄せいしやうなごんなり
52 あっけない右大臣だと政子泣
53 すけてやるやつさと酒をふき出させ
54 ゑん天にすべるを見れば瓜のかわ
55 いったあすおっつき合て湯屋へ来る
56 三きね程あててつきやは布子ぬぎ
57 けだものを壱疋まぜるくわいらいし
58 花の雨座頭つっかけものにされ
59 大三十日又来たぞえとけちな事
60 屋ね船で高まんをいふにわか雨
61 うろつけばなでなでといふごふく店
62 くすぐれば禿ちひひと笑ふなり
63 銀ぎせるつまった時も銀でほり
64 ていしゅをばいいこめ内義市へたち
65 五万石すてれば五百石ひろい
66 初て三火はふり袖に似ぬけちな顔
67 みさををばていしゅのたてる気の毒さ
68 生酔をおかしい内にかへすなり
69 片道はしやうじやうで行御代参
70 鳴こんで来るがたいこの年始也
71 その客が来て三ひろ程反古に成
72 さまづけに禿を遣ふふきげんさ
73 もふ何か嫁は御ぜんをしそこない
74 囲れのしつっこいのはかくごなり
75 元日に女のあるくひどい用
76 手の墨を洗ふをしかる渡し守
77 御忍びの供はしあんの有る男
78 てうし口おれが米でもうまるはづ
79 うたたねは何かふそくのすがた也
80 碁を打て居るは屋かたのしゃばふさげ 娑婆塞げ=ごくつぶし
81 上ぞうり跡じっさりに客へかし
82 間男の傘は四五間にげてさし
83 米つきはみごをくわへてこしをかけ
84 そり橋を先へ渡って口をきき
85 三味線もおきゃととぼでもさせぬ也
86 鳥追ひはあを向てからひきはじめ
87 あれは元うばのずるずるべったりさ
88 若旦那よばりは母の能いきげん
89 紋つけにひいきをはぶくひつこらさ
90 おりはをばやめてくりゃよと産婦いひ
91 はづかしい顔へでっちりもりつける
92 お笑ひとはごのこばかり外へ知れ
93 もふせんへのるが碁石のかくしげい
94 またぐらをのげにさされる麦の中
95 花聟のなぶられるのは四十こく
96 ちんまりとあるきなさいと御菜いひ
97 うづらでも能いと藪入よわく出る
98 畳がへひっ付き合てめしをくい
99 あの船を寄せて見しやうと三を下げ
100 楊子みせちとおやすみとわきへ寄り

【誹風柳多留/十篇1~100】
1 不二を夢見て番頭に直るなり
2 十度目の盃事がしんの事
3 いとなまめける奥様の御名代
4 袴着た初心むしやうに手を入る
5 門松のすっこむ時分嫁の礼
6 十斗水をこぢると松に成
7 あづけるの嫌ひな礼者づぶに成
8 気の知れた男女房をよぶとやめ
9 九千巻程よんだ時松をとり
10 女房の智恵には鎰をかくす也
11 連れて来た下女斗嫁しかる也
12 ころすたびしっ声の無い笑ひやう
13 薺うり鉦をたたかぬ斗なり
14 嫁の手へ生酔ばちをおっ付る
15 嫁入の時もあばたは荷がおもし
16 十かえりの松だと牽頭わるっ口
17 市に寄りいよいよつみがおもくなり
18 随分たっぷり出来ますと天がいや
19 琴の音も止んで格子でわるい咳
20 りっぱなるもの花嫁の丸はだか
21 行きなりさんぼう男の雨やどり
22 なじまぬも道理禿が蚊やを釣
23 母の文まづい顔してよんで居る
24 生酔をふみ台にして花を折
25 後家の琴ゑんりょなさいと支配人
26 はへぬきと見えてするどい内儀也
27 壱度いったらいいはなと角田川
28 和漢の書ちんば引引そらんずる
29 門松に大勢立ておかしがり
30 取りたての肴一月置に喰
31 死ぬと直がすると画書をむごい評
32 色文を拾って御用百にうり
33 功能はうつ症を治す三つぶとん
34 金ざいふひろふとつつきおこされる
35 したく金惣身にたった六つ出来
36 端ちかな所でのんでる中の町
37 本の年いひないひなとひざでおし
38 仁王さま二人ならんであつ湯好
39 大ばすに切て松魚を安くする
40 おやゆびを鼻へ入るなと土弓いひ
41 うれ残りまっかなやつが五六人 赤い振袖の新造
42 ばくたいな振袖の出るかるい沢
43 下女が来ておしんぽっちが出来やすよ
44 生門を明けて岡場所ゆだんせず
45 あかぎれの有る内ぜげんうらぬ也 磨きを掛けてから
46 二年程番頭をして嫁に行
47 まだも有るやうに金入仕廻也
48 餅の有る内はなまける壱人者
49 下手にうろたへると干死ぬ掛人
50 下女が白状大ぜいのそこね也
51 吉原で黒介根津はかさもりだ
52 六弥太は一人ものだとかぶじまい
53 人よくの甚だしきはやりてなり
54 げくわなどにかかったも有る松が岡
55 品の客酒たけなわにおよんだり
56 言葉多くて品川へ四つ手かけ
57 見へすいたやうな五だよと手を広げ
58 ばあさまはしゃかと青二をならべる気
59 まきを出し申候とて小はん時
60 物置は身にもかわにもしまぬ恋
61 髪置は白髪のたねをまきはじめ
62 ぬかぶくろえりへ廻ると口をまげ
63 中宿は義理で勘当二日おき
64 こびついて居ると女房はきげん也
65 さり状を書くと入婿おん出され
66 入りは落ちたかと柏筵土用ぼし
67 初に来た座頭のじぎの手の長さ
68 けんぎやうと座頭のじぎに人だかり
69 駕供の下女杖のたび子をあひし
70 御局の去り状にぎりころす也
71 明店の前で鳥追乳を呑ませ
72 まっ白な犬合羽屋でゑどられる
73 やうがんをくづして禿引っつめり
74 ちょき舟をあんじるように罷也
75 大門を一合にしてふけわたり
76 はたちにもたらないたねを後家やどし
77 送り膳ゑゑ病人とみなくらい
78 年忌かづけがお局の宿さがり
79 さあのきなさいとおはぐろあたためる
80 九尺店琴をならわせそねまれる 不相応
81 来る程なやつおやたちに用は無し
82 銀ぎせるけさんに置てうなる也
83 戸つかだと思った晩にとつかまり
84 なんにするのだとやげんを貸て遣り
85 夜着ふとんいつか親父の耳に入
86 平太夫扨もふきつななのり也
87 なんだかと左官ろんごをめっけ出し
88 かぐ事もならずさし身をぺろり喰
89 女房の留守塩からでのんで居る
90 あさっぱらいとしや母はしちを置
91 草ぞうしおうばつぶさに申上
92 あさってはあのあたりから月が出る
93 手を組んでそらせる娘出来る也
94 一とにぎり有るを舟宿ことづかり
95 すばしりを桟敷で見たがはじめ也
96 すがた見へ近く寄っては顔がなし
97 安かつほとく心づくでなやむ也
98 あまでらは男の意地をつぶす所
99 まくわ瓜壱つよじよじ持て来る
100 夕すずに成て出よふとなまけもの





(私論.私見)