4612−31 | ドキュメント(1) |
爆弾テロ:約170人死傷 エルサレムの繁華街で
エルサレム市中心部で1日深夜、パレスチナ過激派によるとみられる爆弾テロが連続して3回あり、警察幹部などによると、少なくとも六人が死亡、160人以上が重軽傷を負った。最初の2回は自爆テロで、犯人2人も死亡した。
昨秋にイスラエルとパレスチナの武力衝突が発生して以来、最大規模のテロ。米国の特使として現地入りしているジニ前米中東軍司令官の停戦調停活動に大きな打撃となることは確実だ。
イスラエル政府当局者は「事件の責任はアラファト(パレスチナ自治政府議長)にある」と非難した。
現場は、歩行者天国になっている同市最大の繁華街ベンエフダ通りとその付近で、8月に市民ら15人が死亡した自爆テロ現場も近い。
通りの入り口付近で最初の爆発があった数分後、通りの中ほどにあるレストランの前で2度目の爆発があり、さらに20分後、約40メートル離れた場所で車が爆発した。
ブッシュ米大統領との首脳会談のため訪米中のシャロン・イスラエル首相は、事件の報告を受けて、ペレス外相やベンエリエザー国防相らと対応を協議した。(エルサレム共同)
[毎日新聞12月2日] ( 2001-12-02-10:38
イスラエル:「対テロ戦争」を宣言 シャロン首相がTV演説
【エルサレム海保真人】イスラエルのシャロン首相は3日夜、国民向けのテレビ演説で、パレスチナ自治区に対する軍事報復を「テロとの戦いであり、イスラエルと米国はともにある」と強調した。また、アラファト・パレスチナ自治政府議長を「中東における和平と安定の最大の障害だ」と名指しで糾弾した。米同時多発テロを受けたブッシュ米大統領と同様の論法で「対テロ戦争」を宣言したものだ。
首相は「テロによる戦争が我々に向けられている。その目的は我々をこの地から追い出すことだ。アラファト(議長)に起きていることすべての罪がある」と語った。また、「我々はテロ犯とその支援者を追い続ける」と力説した。
これに対し、パレスチナ自治政府のエラカト地方行政相は「シャロン(首相)はパレスチナに向けて宣戦布告した」と語り、激しく反発している。
[毎日新聞12月4日] ( 2001-12-04-11:09
中東和平:イスラエル政府がアラファト議長との断絶を決定
【エルサレム海保真人】イスラエル政府は13日未明、緊急の治安担当閣議を開き、パレスチナ自治政府のアラファト議長との接触を一切断つことを決定した。パレスチナ過激派によるテロ行為が激化することに対応した措置で、イスラエル軍は自治区への攻撃をさらに強化する。パレスチナ情勢はかつてないほど混迷を深めている。
3時間以上の緊急会議後、サール官房長官は「内閣の決定はアラファト議長自身への直接攻撃を含むものではない」と説明したが、シートリト法相は「我々はもはやアラファト議長を和平構築のパートナーとはみなしていない」と議長を交渉相手として認めない考えを強調した。
また政府筋はテロ容疑者の逮捕と武器押収のため、ヨルダン川西岸とガザ地区での本格的な軍事作戦を承認したことを明らかにした。
アラファト議長との接触断絶が一時的なのか、永続的な方針を意図しているのかどうかは現時点では明らかではない。ただ、進行しつつあった米欧の仲介工作に悪影響を及ぼすことは確かで、イスラエル政府内で噴出している「アラファト排除論」が加速することも避けられそうにない。
一方、停戦仲介のため米政府特使として現地入りしているジニ前中東軍司令官は12日、テロ事件を強く非難する声明を発表。「アラファト議長と自治政府は、犯人逮捕とテロ支援組織の壊滅に即座に着手する必要がある」とし、早急な対応を求めた。
[毎日新聞12月13日] ( 2001-12-13-11:38
パレスチナ:ユダヤ人入植者のバス襲撃 イスラエル軍は報復
【エルサレム海保真人】ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地イマヌエル近郊で12日、入植者が乗った路線バスが人武装集団に襲撃され、イスラエル人10人が死亡、約30人が負傷した。またパレスチナ自治区ガザでも同日夕、自爆テロで4人が負傷、犯人2人が死亡した。
イマヌエルは自治区ナブルス近くに位置している。目撃者によると、襲撃は乗客45人が乗ったバスがイマヌエルに到着する直前で、武装集団はバスが通るのを待ち伏せ、路上に仕掛けた爆弾を爆発させたうえ、3人が自動小銃を乱射、手投げ弾も投げ込んだ。
目撃者は「バスから逃げようとする乗客にも発砲した」と証言しており、無差別テロだった。犯人のうち1人はイスラエル警官に射殺され、2人は逃走した。
バス襲撃事件後、アラファト議長の支持基盤「ファタハ」に属する武装組織「アル・アクサ殉教団」は犯行声明を出した。
これに対し、イスラエル軍は同日夜、報復として西岸のパレスチナ自治区ナブルスやアラファト議長のいるガザ地区ラマラ、ガザの議長親衛隊施設、沿岸警備隊本部を含む5施設以上に対し、武装ヘリや戦闘機でミサイル攻撃。自治区からの情報ではナブルスとガザで計数十人が負傷した。
また、イスラエル軍は、ラマラにあるアラファト議長の親衛隊施設に対し、戦車による攻撃を開始したほか、ラファでも攻撃を行った。双方の衝突は再び危機的事態に発展している。
[毎日新聞12月13日] ( 2001-12-13-11:22
バス襲撃10人殺害 イスラエルも報復攻撃パレスチナ武装集団
12日、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地、イマヌエル近郊で、襲撃されたバスの犠牲者の遺体を収容する警官たち=AP |
【エルサレム小倉孝保】ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地イマヌエル近郊で12日、入植者が乗った路線バスがパレスチナ人武装集団に襲撃され、イスラエル人10人が死亡、約30人が負傷した。またパレスチナ自治区ガザでも同日夕、自爆テロで4人が負傷、犯人2人が死亡した。
イマヌエルは自治区ナブルス近くに位置している。目撃者によると、襲撃は乗客45人が乗ったバスがイマヌエルに到着する直前で、武装集団はバスを待ち伏せ、路上に仕掛けた爆弾を爆発させ、3人が自動小銃を乱射、手投げ弾も投げ込んだ。
犯人のうち1人は警官に射殺され、2人は逃走した。
事件後、アラファト議長の支持基盤「ファタハ」に属する武装組織「アル・アクサ殉教者団」とイスラム原理主義組織「ハマス」が共同で襲撃したとの犯行声明を出した。
イスラエル軍は同日夜、報復として西岸の自治区ナブルスやアラファト議長のいるガザ地区ラマラ、ガザの議長親衛隊施設を含む5施設以上に対し、武装ヘリや戦闘機でミサイル攻撃した。
(毎日新聞2001年12月13日東京夕刊から
中東緊迫、オスロ合意の崩壊寸前−−イスラエル、強硬な右派
【エルサレム海保真人】パレスチナ過激派による自爆テロ、イスラエル軍の報復攻撃、テロという悪循環は、13日、イスラエル政府によるアラファト・パレスチナ自治政府議長との絶縁宣言という事態にまでなった。93年に交わした歴史的なパレスチナ暫定自治合意(通称オスロ合意)を基盤とする和平の枠組みは完全崩壊の危機に直面している。
「アラファト議長は自ら(交渉の)不適格者となった。今後、彼との接触は続けられない」
シャロン・イスラエル首相は13日未明、相次ぐテロを抑止できない議長の責任を糾弾、「関係断絶」の声明を発表した。
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地イマヌエル近郊で、12日起こったバス襲撃事件は、3人組の犯人が道に仕掛けた爆弾でバスを立ち往生させ、乗客に自動小銃を乱射するという非情さだった。
パレスチナ自治政府に即時逮捕を要求してきたテロ犯33人のリストに、今回の犯行にかかわったイスラム原理主義組織「ハマス」メンバー2人が含まれていたことが判明、これが、断交への引き金となった。イスラエルはすでに自治政府を「テロ支援団体」と指定しており、断交を契機に、イスラエルがパレスチナ解放機構(PLO)をゲリラ組織と見なした「オスロ合意」前の時代に逆戻りしてしまったといえる。
12日深夜から未明に及んだ緊急閣議は紛糾した。右派閣僚が「アラファト(議長)を追放すべきだ」と主張。オスロ合意締結などへの貢献でアラファト議長らとノーベル平和賞を受賞したペレス外相をはじめ和平派が異議を唱えたという。結局、閣議は「アラファト議長を直接攻撃の対象とはしない」とくぎを刺したが、強硬論が目立った。
イスラエルは今後、独自に過激派逮捕を進める方針だ。だが、パレスチナ治安当局の協力なしに摘発を進めるには限界がある。一般市民を巻き添えにしかねない攻撃が、過激派の報復をあおる恐れもある。イスラエル政府の戦略は破たんしかねないのが実情だ。
戦車、議長府前100メートルまで迫る
【エルサレム小倉孝保】イスラエル軍は13日、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラの議長府周辺に戦車部隊を展開し、軍事圧力を強化した。アラファト・パレスチナ自治政府議長のルデイネ顧問はイスラエルの決定を「パレスチナ住民への戦争宣言だ」と非難した。イスラエル軍はガザ空港を攻撃。ラマラでも戦車が議長府本部から約100メートルの地点まで迫っているほか、パレスチナ放送局を破壊した。
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オスロ合意
93年9月、アラファト議長とラビン・イスラエル首相(当時)との間で結ばれたガザ地区とヨルダン川西岸を対象とするパレスチナ暫定自治に関する合意。ノルウェーのオスロを舞台に秘密交渉が進んだ。
(毎日新聞2001年12月14日東京朝刊から
オスロ合意の危機 国際社会は調停を続けよ
イスラエル政府はパレスチナ自治政府のアラファト議長と今後一切の関係を断つことを決めた。
これはその直前、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸でユダヤ人入植者が乗った路線バスがパレスチナ武装集団に襲撃され10人が死亡したのをはじめ、自治区のガザでも自爆テロで4人が負傷した事件を受けた措置である。イスラエル政府はこの決定後、自治区に大部隊を投入し、過激派の摘発と武器の押収を開始した。
今月1、2日、イスラエルで起きたパレスチナ過激派組織の連続テロ事件後、自治政府は180人以上の過激派活動家を逮捕し、反テロで最大限の努力をしていると強調していた。イスラエル政府当局者も「自治政府は真剣に摘発をはじめた」と米特使に語っていた直後だった。その意味で、今回のテロは「アラファト議長外し」をもくろむシャロン首相に絶好の口実を与えることになった。
これまでイスラエル軍は報復攻撃で自治区に侵攻しても、程なく撤退し、過激派摘発を自治政府に任せていた。名目的にもパレスチナ自治政府とその統治領域を尊重していた。しかし、今回の決定は、今後はそのような自制と配慮は行わず、場合によっては自治区を制圧すると表明したに等しい。これはパレスチナ和平の枠組みを定めた93年のオスロ合意の否定に直結しかねず、大きな危惧(きぐ)を抱かざるを得ない。
確かにパレスチナ住民の間には、自治政府の腐敗や同議長の和平に対する指導力不足に対する不満が強くある。しかし一方で、32年間にわたりパレスチナ人を指導してきた同議長は依然、象徴的存在である。イスラエルが期待するような指導者が現れるのは、いまの反イスラエル感情からは難しいだろう。
それにアラファト議長が失脚しても問題は解決しない。80年代のインティファーダ(反イスラエル民衆蜂起)のように、パレスチナ住民とイスラエル軍の直接衝突という収拾不能の構図を再現する可能性が高いからだ。
こうした点を勘案すると、オスロ合意は、目下、考えられるパレスチナ和平の唯一の枠組みであり、それ以前の状態に戻してはならない。そのためにはまず強者の立場にあるシャロン首相は自重が必要だ。かさにかかった攻撃はテロの悪循環を生むだけである。
アラファト議長は政治生命をかけてテロ防止に取り組む必要がある。米同時多発テロを体験した国際社会はテロに対し極めて厳しくなっている。これはパレスチナ側に同情的だった欧州連合(EU)が、10日の外相理事会で武力によるインティファーダの中止を求めたことにも表れている。
米欧が調停に乗り出している最中の今回のテロは、和平協議再開への流れに水を差した。しかし国際社会は調停努力を放棄すべきではない。そして国際社会という点でイスラム諸国も例外でない。事態を煽(あお)るのでなく、いまの混迷を座視せず、調停への関与をちゅうちょしてはならない。
(毎日新聞2001年12月14日東京朝刊から
アラブ諸国 手詰まり 「テロ」か「抵抗」か 立場の違い鮮明中東緊迫
【エルサレム小倉孝保】イスラエル・パレスチナ関係の破局を避ける有効な手立てを、アラブ諸国は打てないでいる。米同時多発テロ後の国際社会の変化で、アラブ各国は身動きを封じられ、アラブ連盟外相会議を13日中にも開くとの情報もあるが、打開策を見いだせそうもない。イスラエルに対するパレスチナ人の自爆攻撃を「テロ」とするか「正当な抵抗運動」とするかにアラブ諸国の立場の違いが表れている。
アラブ連盟(21カ国1機構、本部カイロ)は9日、カタール・ドーハで外相会議を開催することを決定していた。連盟は直前になって「手続き上の問題」で開催延期を表明した。これは表向きの理由で、「開催しても成果が期待できないことが実際の延期理由」(外交筋)だ。背景には、パレスチナ人による自爆攻撃を非難するエジプト、ヨルダンと、「正当な抵抗運動」と擁護するシリアなど強硬派の立場の違いがある。
ムバラク・エジプト大統領、アブドラ・ヨルダン国王は3日、イスラエル、パレスチナ双方の暴力を批判した。さらに、イスラエルを訪問したマーヘル・エジプト外相は6日、「エジプトは一般市民へのいかなる攻撃も非難する」とパレスチナ人過激派による暴力を非難した。
自爆攻撃を支持すれば国際社会から「テロ支援国」と見なされかねないとの配慮が見え隠れする対応だ。
一方、ムバラク大統領と会談したアサド・シリア大統領は9日、イスラエルの攻撃を「侵略攻撃」と批判、パレスチナの攻撃に触れなかった。シリアは一貫して「イスラエルに対するパレスチナ人の攻撃は、占領に対する正当な抵抗だ」と主張している。
(毎日新聞2001年12月14日東京朝刊から
パレスチナ情勢の事態収拾、米国仲介しかない−−中島勇・中東調査会研究員
パレスチナ情勢が「和平」から「戦争」の時代に突入するとは思えない。イスラエルにとって、戦争の代償が大き過ぎる。海外からの投資は止まり、観光客も来なくなり、経済情勢は悪化するだけだ。パレスチナの「独立したい」という気持ちを抑える効果もない。
アラファト自治政府議長との断交を決めた今回の決定は「いじめ」のようなものだ。最後にはイスラエルの思惑通りの和平案を力任せにのませようという狙いだろう。
イスラエルが今後、独自に過激派を大量逮捕する可能性はあるが、市街戦を行うまでには及ばないだろう。パレスチナ人の多数が銃を所持し、イスラエル側の流血も避けられないからだ。
住民の支持を失いつつある議長が生き残るには「イスラエル領内でのテロは厳重に取り締まるが、西岸、ガザのイスラエル軍と入植者に対する攻撃までは止められない」との姿勢をはっきり打ち出す手もある。それなら、米国やイスラエルは正面から反論できない。
事態収拾の仲介ができるのは米国しかない。イスラエルは国際社会の中で唯一の支援国家ともいえる米国の意見にしか耳を傾けないからだ。
米国はいずれ、「対テロ戦争」に勝利するため、アラブ・イスラム諸国の協力を得なければならず、パレスチナ情勢の鎮静化に努めるはずだ。(談)
(毎日新聞2001年12月14日東京朝刊から
中東和平破局寸前 動けないアラブ諸国
【エルサレム小倉孝保】イスラエル・パレスチナ関係の破局を避ける有効な手立てを、アラブ諸国は打てないでいる。米同時多発テロ後の国際社会の変化で、アラブ各国は身動きを封じられ、難局打開のため予定されていたアラブ連盟外相会議は延期されたままだ。イスラエルに対するパレスチナ人の自爆攻撃を「テロ」とするか「正当な抵抗運動」とするかに、アラブ諸国の立場の違いが表れている。
アラブ連盟(21カ国1機構、本部カイロ)は9日、カタール・ドーハで外相会議を開催することを決定していた。連盟は直前になって「手続き上の問題」で開催延期を表明した。これは表向きの理由で、「開催しても成果が期待できないことが実際の延期理由」(外交筋)だ。背景には、パレスチナ人による自爆攻撃を非難するエジプト、ヨルダンと、「正当な抵抗運動」と擁護するシリアなど強硬派の立場の違いがある。
ムバラク・エジプト大統領、アブドラ・ヨルダン国王は3日、イスラエル、パレスチナ双方の暴力を批判した。さらに、イスラエルを訪問したマーヘル・エジプト外相は6日、「エジプトは一般市民へのいかなる攻撃も非難する」とパレスチナ人過激派による暴力を非難した。自爆攻撃を支持すれば国際社会から「テロ支援国」と見なされかねないとの配慮が見え隠れする対応だ。
一方、ムバラク大統領と会談したアサド・シリア大統領は9日、イスラエルの攻撃を「侵略攻撃」と批判、パレスチナの攻撃に触れなかった。シリアは一貫して「イスラエルに対するパレスチナ人の攻撃は、占領に対する正当な抵抗だ」と主張している。
エジプトでも報道機関は政府系メディアを含め、パレスチナ人による自爆攻撃を「殉教攻撃」と表現。国民の間にパレスチナの攻撃を正当化する考えが強いことを政府は認識している。こうした国民感情から、「エジプトやヨルダンでさえ、国際会議の場でパレスチナ人の自爆攻撃に反対しにくい」(外交筋)とのジレンマがある。
汎アラブ紙「アルハヤト」カイロ支局のムニール記者は「シャロン・イスラエル首相は自爆攻撃をテロと国際社会に認識させることに成功した。アラブはこの点で外交的にイスラエルに敗れた。今、アラブ諸国は行動を止められている」とみている。
[毎日新聞12月14日
クリントン前大統領、中東和平交渉再開を訴え 訪問先のグラスゴーで
アラブ首長国連邦紙「ガルフ・ニュース」のインターネット版が12日付で報じたところによると、米国のクリントン前大統領は訪問先の英国北部グラスゴーで、イスラエルとパレスチナの停戦と中東和平交渉の再開を訴えた。
クリントン前大統領は、グラスゴーのホテルで開かれたユダヤ系団体主催のチャリティー晩さん会で、「我々は和平プロセスに戻らなければならない」と述べた。
同晩さん会には760人が出席したが、ホテルの外では反イスラエルを掲げる約300人が抗議デモを行った。デモ参加者らは、「イスラエルの戦争犯罪を止めよ」「イスラエルのアパルトヘイト(人種隔離)政策を止めよ」などと書かれた横断幕を掲げ、ホテルに到着した出席者らに向かって「人種差別主義者」、「パレスチナに平和を」などのシュプレヒコールをあげた。(了
イスラエル:パレスチナ自治区の町を戦車部隊で占領
【エルサレム海保真人】イスラエル軍は15日未明、パレスチナ自治区ガザの北部の町ベイト・ハヌーンに戦車部隊で侵攻した。ガザからの情報によると、部隊は装甲車などを含めて30台以上で、町全域を事実上「占領」し、極めて危険な状態になっているという。町内に住むイスラム原理主義組織「ハマス」の軍事部門幹部らに対する掃討作戦の一環とみられる。
戦車部隊は拡声器で「住民は自宅から出ないように」と警告しながら侵入したという。侵攻の際、警ら中のパレスチナ人警官ら5人が撃たれ、負傷した。ガザ市に通じる幹線道路は完全封鎖された。ベイト・ハヌーンにはハマス軍事部門の有力幹部や、パレスチナ解放機構(PLO)の最大組織「ファタハ」の武装組織幹部らが住んでいるとされ、逮捕か暗殺を意図した作戦とみられる。
これに先立ち、14日夜、ガザ市には戦闘機による3夜連続の空爆があり、アラファト・パレスチナ自治政府議長の親衛隊「フォース17」の拠点ビルが大破、議長が外国首脳らを招くゲストハウス(迎賓館)も弾片で被害に遭った。
一方、米国のジニ特使は同夜、ヨルダンでアブドラ国王と会談した。国王はイスラエル軍の過剰な攻撃が「中東全域の安定を損なう」と非難、アラファト議長を擁護するとともに、米政府が仲介努力を強めるよう要請した。
[毎日新聞12月15日] ( 2001-12-15-13:00
イスラエル:住民巻き込みパレスチナとの衝突激化 混迷深める
【エルサレム海保真人】イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ北部の町ベイト・ハヌーンへの侵攻は、シャロン・イスラエル政権がかねて予告していた本格的な過激派掃討作戦の一環と言える。だが、パレスチナ自治政府治安当局の存在を全く無視した独自の強攻策は、民衆を巻き込んだ新たな衝突を招いており、事態は混迷するばかりだ。
イスラエル政府は13日の閣議後、軍がイスラム原理主義組織「ハマス」や「イスラム聖戦」に対する新たな作戦を近日中に行うと予告していた。それまで、報復措置は自治政府の治安当局施設を主な標的に進められたが、次第に過激派への直接攻撃へと移っている。
ベイト・ハヌーンはハマス軍事部門の主要な活動拠点とされる。イスラエル放送などは、今回の侵攻で同軍が指名手配中の過激派約10人を逮捕し、大量の武器を押収したと伝えた。同軍はパレスチナ治安当局の力を借りず、自ら徹底した「ハマスつぶし」に乗り出した格好だ。
しかし、侵攻後、若者らを含む住民の多くが反発し、イスラエル兵に対する投石行動に参加、銃撃戦を含む衝突に発展した。住民の間ではハマスに対する同情と支持が一層、増しているとの見方もある。一般の死傷者が増える事態になれば、反イスラエル抵抗闘争は広がり、収拾がつかなくなる恐れが強い。
[毎日新聞12月16日] ( 2001-12-16-00:27 )
国連安保理:パレスチナ自治区監視機構の設置求める決議案否決
【ニューヨーク上村幸治】国連安保理で15日、緊迫するパレスチナ衝突収拾に向け、事態打開のため、監視機構設置などを求める決議案の採決が行われたが、イスラエル寄りの米国が拒否権を行使したため否決された。米国の拒否権行使は、今年3月のパレスチナへの国際監視団派遣要請決議案の採択時以来。アラブ諸国は米国の拒否権行使に反発しており、パレスチナ情勢に影を落としそうだ。
採決では、安保理常任理事国15カ国のうち英国とノルウェーが棄権票を投じ、ロシアと中国、フランス、アイルランドなど計12カ国が賛成に回った。
決議案はエジプトとチュニジアが共同提案したもので、決議案では、パレスチナ情勢悪化に警告を発し、暴力の即時停止を求めるとともに、ヨルダン川西岸とガザ地区での監視機構の確立を求めていた。
米国は「決議はイスラエルの孤立化を狙ったものだ」「安保理で対応すべきでない」と主張し、拒否権を行使した。これを受け、「反テロ包囲網」構築の行方に影響が出る可能性もある。
エジプトなどアラブ諸国は、イスラエルがアラファト・パレスチナ自治政府議長との断交を表明しているだけに、事態がさらに悪化する危険があるとみている。
[毎日新聞12月15日] ( 2001-12-15-20:04
イスラエル軍、ガザの難民キャンプ攻撃
【エルサレム16日共同】パレスチナ自治区ガザからの情報によると、イスラエル軍は16日未明、ガザ北部のジャバリヤ難民キャンプにある警察施設を武装ヘリコプターでミサイル攻撃した。負傷者は伝えられていない。
一方、AP通信によると、軍は15日夜、ヨルダン川西岸の自治区ナブルス近郊の村を包囲。パレスチナ過激派がイスラエルへ侵入するのを防ぐ作戦という。
同キャンプに近いベイトハヌーンでは同夜、軍がパレスチナ過激派の摘発作戦のため、半日以上展開させていた戦車などの部隊を撤退させた。
15日早朝から始まったベイトハヌーンでの作戦では、軍は戦車など20台以上を使い、一時は町の9割を占拠。イスラム原理主義組織ハマスの軍事部門創設者サラハ・シャヘド氏の自宅など数棟を破壊した。さらに女子校の校庭に戦車で乗り入れてテントを立て、校舎にイスラエル国旗を掲げたという。米CNNテレビによると、パレスチナ治安当局は15日、ガザと西岸ラマラで、ハマスとイスラム聖戦の関連事務所計13カ所を閉鎖した。(日経)
アラファト議長:テレビ演説で暴力やテロ停止を呼び掛け
【エルサレム海保真人】パレスチナ自治政府のアラファト議長は16日夕(日本時間17日未明)、パレスチナ人向けにテレビ演説を行った。議長は「シャロン・イスラエル政権はパレスチナ人と自治政府に戦争を仕掛けている」とイスラエルの強硬な軍事攻撃を非難しつつ、停戦実現へ向けて、暴力的な闘争やテロの停止を呼び掛けた。
アラファト議長が公に演説したのは、3日にシャロン・イスラエル政権に自治政府を「テロ支援団体」と指定され、13日に議長個人との「関係断絶」を宣告されて以来、初めて。
議長は演説で、イスラエルの軍事攻撃が治安当局施設をはじめ病院やモスク(イスラム寺院)などに対して行われていることを強く非難した。しかし、「我々は(イスラエルとの)停戦を支持している」とも述べ、過激派のテロ活動を認めず、摘発を進めることを宣言した。
自治政府筋によると、議長はシャロン政権の強硬措置によって自身と自治政府が危機的状況に追い込まれている一方、イスラム原理主義組織「ハマス」など過激派勢力が民衆からの支持を強めていることを憂慮しているという。こうした事情から演説で自治政府への支持を改めて求めた模様だ。
[毎日新聞12月17日] ( 2001-12-17-01:50
イスラエル軍、ハマス幹部を射殺 新たな確執の火種か
【エルサレム海保真人】イスラエル軍は17日、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ヘブロンで、イスラム原理主義組織「ハマス」の軍事部門幹部1人を射殺した。ハマス側は強く反発しており、アラファト・パレスチナ自治政府議長の「武力闘争停止」宣言が功を奏するかどうかは、また難しくなってきた。
イスラエル軍部隊が幹部の自宅を急襲し逮捕しようとしたところ、幹部が逃走したため射殺したという。西岸地区の別のハマス幹部は「イスラエル側が停戦を守らない限り、我々も守ることはできない」と語っており、報復を求める声も出ている。
一方、イスラエル警察は同日、パレスチナ解放機構(PLO)の東エルサレム担当トップであるサリ・ヌセイベ氏が、PLO主催のレセプションを東エルサレムのホテルで開こうとしたとの理由で一時拘束した。
イスラエルのランダウ警察相が「イスラエル領内での開催は不法だ」と禁じたためで、ヌセイベ氏ら5人はホテルから連行され、約1時間、事情聴取を受けた後、釈放されたという。
パレスチナ側は東エルサレムを将来のパレスチナ独立国家の「首都」と位置付けており、新たな確執の火種となりそうだ。
[毎日新聞12月18日
「イスラエルが先」 暴力停止でパレスチナ民衆
【ガザ(パレスチナ自治区)小倉孝保】アラファト議長の武力闘争停止の呼び掛けについて、多くのパレスチナ民衆からは「暴力を止めるのはイスラエルが先だ」と批判的な意見が相次いだ。
ガザの難民キャンプのジャリエール君(15)は反イスラエル抵抗闘争に参加し、今年3月にはイスラエル軍の銃撃で右脚を弾が貫通し入院。5月には頭部を撃たれ、8日間、意識が戻らなかった。アラファト議長の見舞いも受けたという。
ジャリエール君はアラファト議長の呼び掛けを聞き、「イスラエルが攻撃しなかったら、僕たちは戦いたくはない。いつも、攻撃は向こうが仕掛ける」と語った。
母スミアさん(39)も「この子がイスラエルと戦うことには反対です。できることなら、力ずくでも止めたい。でも、イスラエル軍がパレスチナ人を殺害している限り、この子たちの怒りのエネルギーを抑えることは不可能なんです」と、呼び掛けには効果がないと話す。
一方、ガザ市の喫茶店「スルターナ」では、若者たちが議長の演説をテレビで見ていた。衣料品店店員、アブラフィさん(20)は「我々は繰り返し停戦を求めてきた。(イスラム原理主義組織の)ハマスにしてもイスラエルの攻撃から自分たちを守るため、やむなく自爆攻撃をしているだけだ。イスラエルが攻撃停止を決めていないのに暴力を止めるべきだと言ったところで、意味はない」とそっけない。
会社員、アブファディさん(22)は「我々が内部紛争をすれば、シャロン(イスラエル首相)の思うつぼだ」と話し、自重が大切との考えを示した。
(毎日新聞2001年12月17日東京夕刊から
「自爆攻撃を辞さない」ハマス軍事メンバー語る
【ベイト・ハヌーン(パレスチナ自治区ガザ)小倉孝保】パレスチナのイスラム原理主義組織ハマス軍事部門メンバー、ハーリド・アルカファルナ氏(38)が16日、ベイト・ハヌーンで毎日新聞のインタビューに応じた。同氏は「状況次第で私も自爆攻撃を辞さない」と徹底抗戦を誓った。
イスラエル軍は15日、戦車約30台をベイト・ハヌーンに侵攻させ、アルカファルナ氏の自宅などを破壊した。同氏は逃走中だったが、16日に戻るとすでに自宅はなく、隠していた機関銃とピストル各1丁、4000ドルの現金が押収されていたという。
同氏は機関銃を持ち、ピストルを腰に巻いていた。携帯電話にはたびたび連絡が入り、仲間との情報交換に忙しい。イスラエル軍の攻撃について、同氏は「私自身は怖くないが妻と12歳の一人息子のことが心配だ」と話した。
アラファト・パレスチナ自治政府議長ら自治政府幹部が暴力の自制を要求していることに対し、「シャロン(イスラエル首相)はパレスチナ人と平和に暮らそうとしていない。土地が占領され、住民が連日、殺害されているのを黙って見ている訳にはいかない。アラファト議長が何を決めようと、イスラエルが変わらなければ武力で戦うしかない」と語った。
さらにハマスの自爆テロについては、「パレスチナ同胞のために自己を犠牲にする尊い行為だ。イスラエルのやり方がそれを誘発している。それ以外に我々を守る道がない場合、私も自爆を選ぶだろう」と自爆攻撃も辞さないとの考えを示した。
また、最近厳しくなっている自治政府によるハマス摘発について、「自治政府は真剣だ。私たちは逃げ回り、1カ所に止まることができない。しかし、パレスチナ住民が我々を応援しているため、誰も私を逮捕することはできないだろう」と述べた。
[毎日新聞12月18日
具体的な行動要求 アラファト議長の宣言 懐疑的な反応 イスラエル
【エルサレム海保真人】パレスチナ過激派による反イスラエル武力闘争とイスラエルの軍事報復が続く中、アラファト・パレスチナ自治政府議長は16日の演説で、パレスチナ人感情に配慮しながら「武力闘争の即時停止」を呼び掛けた。米欧の圧力にも応えた「テロ阻止宣言」と言えるが、イスラエル側は「具体的な行動で示せ」と依然、懐疑的で、衝突収拾に結び付く保証はない。
議長は演説の全編を通じ、シャロン・イスラエル政権への非難を繰り返しながら、「あらゆる武力闘争、特に自爆攻撃の完全なる停止を改めて求める」と訴えた。米欧から再三、「パレスチナ人向けにテロとの対決姿勢を示せ」と求められてきたことへの答えだった。
ただ、一部で予想されたインティファーダ(反イスラエル抵抗闘争)終結への言及はなく、むしろ「エルサレムを首都とする国家独立への道を歩もう」と一般的な闘争の続行を掲げた。パレスチナ民衆の人心が離れるのを避けるための判断だったと言える。
イスラエルのギシン首相顧問は「武力闘争停止」宣言について、「言葉でなく行動で判断したい。アラファト(議長)はやる気さえあれば状況を統制できるし、行動をとることができる」と語った。シャロン首相は公式にコメントしていない。議長演説を受け、イスラエルが強硬措置を緩めるかどうかは、見えにくい状態だ。
(毎日新聞2001年12月17日東京夕刊から
イエメン:治安当局がアルカイダ支援者を攻撃、12人死亡
【ガザ(パレスチナ自治区)小倉孝保】イエメン治安当局は18日、イエメン・マーリブ州でウサマ・ビンラディン氏が率いる「アルカイダ」の支援者などを攻撃した。一部で地元住民と銃撃戦になり治安当局、住民双方で計12人が死亡、多数のけが人が出た。
イエメンからの報道では、治安当局は戦車とヘリコプターから、アルカイダ支援者が多いとされるアルフスーン村を攻撃、一部で民家を破壊した。マーリブ州は中央政府の影響が及びにくく、保守的な部族社会が色濃く残るとされる。一部には「アフガニスタンで戦っていたアルカイダのメンバーが最近、この地域に戻った」とする情報もある。
イエメンはビンラディン氏の父の出生地。昨年10月には、アデンで米駆逐艦コールへの自爆テロが発生し米兵17人が死亡している。アルカイダ・メンバーらの潜伏を許せば、米国や国際社会から批判が強まるとして、イエメン政府がテロに厳しく対決する姿勢を示すため思い切った掃討作戦に出たとみられる。
[毎日新聞12月18日] ( 2001-12-18-22:48