戦前日共史(補足)「日本の共産主義者への手紙」考

 二 日本の共産主義者への手紙 1936.2.10日
 岡野(野坂参三) 田中(山本懸蔵)

 親愛なる同志諸君 我が党はプロレタリア独裁を目指し、先ずブルジョア民主主義革命を遂行せんとしている。この基本方針は全く正しい。けだし今日の近代的我が日本にはなお非常に多くの封建的残滓があるからである。我が国には軍事的、警察的天皇制があり、寄生的封建的土地所有制度が存在し、亦封建的遺制は労資関係にさえも残っており、社会生活、家族関係の全面に亘って存続しているからである。封建制度の残滓がかくも強力に存在するという事実によって、まずブルジョア民主主義革命任務解決の為の闘争が必要である。

 換言すれば君主制の打倒と労働者農民の革命的民主主義的独裁の樹立、地主の土地無償没収と土地の農民への分配、8時間労働制と労働者及び全勤労民の生活の急激なる改善、即ちこれらのために闘争することが重要である。ブルジョア民主主義革命の発展と、それを更に社会主義革命にまで押し進めるための闘争こそが、日本プロレタリヤ独裁、ソビエト社会主義制度の樹立、人による人の搾取制度の撤廃への唯一可能の真実の道である。これこそが社会の全成員が享楽し得る裕福と文化生活への道である。

 ◇ 過去のセクト的誤りを正せ

 昔の如き正しい戦略的方針によって、我が党は進んでいるが未だ党は大衆を彼らを当面の利益のための闘争に動員し、これによってブルジョア民主主義革命の基本的任務達成のための闘争に導くように巧妙に具体的に大衆に接近するということは成功していない。我々は大衆的方法を用いる代わりに、革命の基本的スローガンの抽象的宣伝に甘んじるという嫌いがあった。またこれと関連して広汎な大衆はまだ天皇制打倒のために直接公然たる闘争を行う用意をまだしていないという事実を考慮に入れなかった。というのは広汎な大衆は排外主義的偏見や天皇制に関する一切の幻影からまだ完全に脱し切っていないという事実をはっきり見なかったのだ。大衆は自分自身の政治闘争の経験によってのみこの幻影を打ち破ることが出来るのだ。

 ◇ 当面の主要敵は軍部

 コミンテルン第7回世界大会の決議及び現下の国際情勢の具体的分析に基づいて、我々はこの戦術的方針を是正し、一層適確なものたらしめなければならない。(中略)

 さて今日於いて闘争を敢行せねばならぬ主要な敵がファシスト軍部だということは極めて明瞭である。軍部は天皇制機構のうちの最も反動的な最も野蛮な帝国主義者である。

 軍部は中国に於いて開始した過去4年間の侵略的軍事行動を利用して、彼らの特権、時には独裁権をも拡張し、自由と民権の最後の片鱗に対してさえも極度の攻撃を加え、美濃部博士の如き天皇主義者さえも処罰するという程度にまで発達した。軍部は軍事費を未曾有に膨張させ、国富を放蕩し、国民大衆を塗炭の苦しみに陥れた。だがこれらの戦争気狂共にとっては国民の惨苦などはどうでもよい。彼らの代表者が公言している如く「天の使命」たる「新大戦争」の準備促進のためには国の経済的破綻の危険を考慮する必要なく、そのためには日本を「焦土」と化すことも敢えて辞せずといっている。

 ファシスト軍部は我が国を「ファシスト的野蛮」、経済的軍事的惨禍に導き又我が国民を、国際反革命の肉弾たらしめんとしている。

 ◇ 軍事独裁の危険を過小評価するな。
  以下略





(私論.私見)