428412−3 「南京事件はなぜ起ったか」について

 南京大虐殺の原因については、数多くの解釈がある。「戦場心理」、「復讐心」「下克上」等、他にいくらでもあげられるがとして、肯定派は次のように推定している。

@、中支那方面派遣軍の既定の方針としての捕虜処置

 日本軍はみずからの将兵が捕虜になることを不名誉なこととして厳しく禁じていました。このような精神の自然の延長として、戦争において敵兵の捕虜を得た場合に、彼等を虐待し、虐殺してもよいとする風潮が生ずることになりました。さらに実際に南京攻略時のように大量の捕虜が発生したときには、下の3)で述べるように自軍の補給でさえも確立していなくて、まして捕虜への給養など考えていませんでした。

 そこで、中支那方面派遣軍の既定の方針として「捕虜」の虐殺が指令された。「大体捕虜ハセヌ方針ナレバ片端ヨリコレヲ片付クルコト」(第16師団長、中島今朝吾の陣中日記)にも見られるように、捕虜虐殺は組織的に実行された。 大虐殺の規模からいって、数万の捕虜、あるいは数万の一般市民の一回あるいは数回にわたる虐殺は、周到詳細な計画が必要であることは疑いの余地がなく、また多くの日本軍を使って組織的に処理しなければならない。こうした捕虜虐殺の命令と多くの捕虜と一般市民の虐殺は、第16師団だけに起こったことではなく、第13師団や第6師団等の日本軍部隊でも同様のことが起こっている。こうした一致点をみると、これもまさに松井石根のいう、いわゆる「万全な研究」の具体的な表現であることを見いだすことができる。

A、日本軍のなかの頽廃

 日本の軍隊の内部は、例えば野間宏の『真空地帯』に描かれたように、天皇=上官の命令には絶対服従、苛酷で恣意的な懲罰など、抑圧構造が兵士たちを圧迫していました。このような抑圧構造の最下層にあった兵士たちが、その憤懣をより弱い者、無力な捕虜や一般市民に向けることになりました。

B、食糧の「調達」

 日本軍の作戦には、現実的な兵站(へいたん=弾薬・食糧などの補給)の計画が軽視されていて、弾薬はともかく、食糧は多くを「現地調達」に頼っていました。従って戦闘の合間に、小部隊単位で民家に入って食糧を「調達=掠奪」せざるをえなくなり、これが次第にこうじて食糧以外の金品財産を強奪し、拒まれると虐殺し、あるいはレイプなどの性暴力に及ぶ過程を生んでいきました。(この兵站軽視が、敗戦の前には「名誉の戦死者」の大部分が餓死であったという、自滅の道に導くことになります。)

C、「神国優越」の思想による「膺懲」の方針

 南京大虐殺のようなすさまじい暴虐行為の根底には、自国民優越すなわち他民族蔑視の思想が働いていたことを否定できません。明治維新以後いちはやく「脱亜入欧」に走った日本は、近隣諸国を「遅れた国」であり、帝国主義支配の対象であるとのみ考えました。江戸時代には文化の源泉として崇拝していた中国を、日清戦争に勝ったあとは一転して侮蔑の目で見るようになり、国民の間に「神州不滅」の優越思想をすり込みました。
日清戦争のなか旅順陥落のときにおこった虐殺事件は、南京大虐殺の原型であり、さらに日中戦争で中国全土にわたって「三光作戦」として広がっていきました。


 日本軍国主義が南京に手痛い打撃を与える「膺懲」の方針を決定した。これが南京大虐殺の直接の原因である。いわゆる「膺懲」こそは暴力的な手段で中国人の抗戦意志を消滅させ、中国を服従させるものである。南京占領前、松井石根は南京の近郊で、一つの訓令を下した。そのあらましは「南京は中国の首都であり、南京を占領することは国際上の事件である。従って万全な研究が必要であり、日本の武威を発揚することによって中国を畏服させなければならない」。日本軍の南京占領後の12月14日、日本の大使館員は南京安全区国際委員会に、「陸軍は南京に手痛い打撃を与えると決定した」という方針を漏らしている。戦後、極東国際軍事法廷の判決文では「都市と農村の住民に対して虐殺をおこなった。…これはいわゆる‘膺懲‘の行為である。こうした行為は中日戦争の中でずっと止むことはなかった、その中で最も悪い例証こそが、南京の住民に対する大虐殺であった」と指摘している。

D、軍国主義思想の感化

 長い間にわたる軍国主義思想の感化によるものである。南京大虐殺の規模の大きさ、持続期間の長さ、被害人数の多さ、殺人手段の残酷さは、人類の文明史上希にみる事件である。こうしたものは、これまで述べてきた論点ではすべては解釈できない。明治維新以降、日本軍国主義は絶えず日本人民に対して大和民族の優越意識と忠君愛国の思想を注ぎ込み、多くの軍国主義に忠実な信徒を養成してきた。そして彼らを心から望んで軍国主義の殺戮道具にした。大和民族の優越意識は中国人を蔑視する考え方と心理に密接に関連している。このため日本兵は中国人を思いのままに殺害することができるとみなしたのである。

 否定派は次のように推定している。但し、「まぽろし派」と「フレームアップ派」に分かれるるので必ずしも論調は同じではない。

@、戦争責任と賠償問題に絡めての「過度のフレームアップ」である。
A、「西のホロコースト、東の南京事件」という構図で謝罪させつづけようとさせる意図がある。
B、米軍の原爆投下の歴史責任論を隠蔽し、または帳消しにさせようとする狙いがある。





(私論.私見)