428956 自衛隊の動き

「文民統制」めぐる議論、内局と制服組に激しい対立

 02年版防衛白書原案に対する防衛庁幹部の議論中で、「文民統制」(シビリアンコントロール)における事務次官ら内局(背広組)の位置づけをめぐって、内局と制服組の間で、激しい対立があったことが分かった。防衛庁内では、米国の同時多発テロ後の対米支援や、不審船事件などで同庁の意思決定に対する制服組の影響力が強まっているが、対立の背景には、こうした現状に対する内局側の警戒感があると見られる。

 朝日新聞が入手したのは、防衛白書原案に対する幹部の議論をまとめた「意見及び回答」。それによると、陸海空の幕僚監部は「文民統制の確保」の項目のなかで「事務次官が長官を助け事務を監督することとされているほか、基本的方針の策定について長官を補佐する防衛参事官が置かれている」との記述にそろって異議を表明。

 「事務次官と防衛参事官がシビリアンコントロールと関係があるかのような誤解を与える」(陸幕)、「一般的な行政機関としての姿であり、シビリアンコントロールのため特別に置かれているわけではない。長官を補佐するという観点では各幕も同様」(海幕)、「政府として意見がわかれ対外的に説明が困難」(空幕)と削除を求めた。

 これに対し、内局側は内閣府設置法や防衛庁設置法を挙げて、「シビリアンコントロールを確保するための仕組みの一部として位置づけられている」として「原案通り」と結論づけた。

 文民統制は、軍部が政治に介入するのを抑止するため、「文民」である政治の側が軍を統制するというもの。日本の場合は首相や防衛庁長官らが内局も含む自衛隊の指揮権を持ち、防衛出動などには国会の承認が必要とすることが規定されている。ただ、防衛庁内で、長官を補佐する背広組が制服組をコントロールすることを文民統制とする見方があり、国会の場などでは必ずしも結論が出ていない。

 背広組と制服組の対立の背景には、防衛庁としての意思決定に、制服組が影響力を強めつつあることに対する、背広組の危機感がある。

 防衛力の増強などが安保政策の主眼だった冷戦時代と違って、米軍支援や不審船対処など、安保政策が実際の部隊運用と密接に絡むようになったことが制服組の影響力を強めている。

 有事法制などで自衛隊の活動の幅を広げる動きが進むなかで、統制をめぐる防衛庁内の対立は、今後、シビリアンコントロールのあり方として国会などでも論議になりそうだ。(朝日2002.5.5日)
4月26日 23:53
朝鮮半島情勢を注視、「省」昇格の希望も 防衛白書原案
 02年版防衛白書の原案が4日、明らかになった。米国での同時多発テロを受け、「国際情勢は依然、不透明・不確実」と分析。今後の防衛力整備の基本的な考え方を示す防衛大綱見直しに向けた作業を進めるうえで、引き続き朝鮮半島情勢などに重点を置いて注視していく方針を表明している。また、国会で審議中の有事法制の必要性も強調。与党内でなお結論が出ていない「防衛省」への昇格の希望も白書として初めて盛り込んでいる。

 原案は防衛庁内での事務的な手続きをほぼ終えており、7月上旬に閣議報告する方針だが、「有事法制の国会審議の状況を盛り込むため若干遅らせる可能性もある」(防衛庁幹部)という。

 原案では、防衛大綱見直しに向けて「防衛力のあり方の検討」に着手していると紹介。そのうえで朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のミサイル開発や、一連の不審船事件などを念頭に、「朝鮮半島における関係改善に向けた努力が軍事情勢にいかなる影響を及ぼすことになるか」として、朝鮮半島を軸に国際情勢を引き続き注視することの必要性を強調した。また、情報通信技術の進歩やテロなど新たな事態への対処などの新大綱作成の方針も示している。

 昨年6月に保守党が提出した防衛庁の省昇格を求める防衛省設置法案についても白書で初めて触れた。「安全保障、危機管理に取り組む国の姿勢を内外に示すことになり重要である」と評価。「防衛庁として早期成立を望んでいる」としている。

 防衛庁の省昇格をめぐっては、橋本内閣での省庁再編に向けた論議のなかで、自民党が「国の防衛は国家存立の基本だ」と主張したが、当時、連立与党だった社民党が「アジア諸国などに軍事力強化の警戒感を与える」と反発。さらに自自公連立政権になって以降の与党内の論議でも、公明党が「憲法9条の立場と違う」と反対し、結論が先送りされている。こうしたなかで今回の白書の記述は踏み込んだものといえる。

 有事法制については、「我が国の平和と安全を確保するため不可欠」と記述。「法令の範囲内で部隊がとり得る対処行動の限度を明確に示す」ため「部隊行動基準」を作成しているとした。

 また、テロ対策特措法に基づく米軍支援の状況を詳細に紹介。「姿の見えないテロの脅威を警戒しつつ与えられた任務を完全に果たした」「誇りをもって職務に黙々と取り組んだ」と国際貢献を強調し、自画自賛した。

 さらに、昨年末の奄美大島沖の不審船事件で、首相官邸や海上保安庁への連絡の遅れが批判された点について、当初は「一般の外国漁船と判断」し、「写真の精緻(せいち)な解析」を経て、「速やかに官邸などに連絡を開始」したとし、反省点を明確にしなかった。ただし、写真の電送能力強化などの改善措置は紹介した。(朝日2002.5.5)