336―1 世界各国政府の対応考

 シュレーダー独首相(社会民主党)、フィッシャー外相。フランスのドビルパン外相。


2003年02月10日[毎日新聞]イラク問題:独仏が攻撃回避へ計画 安保理に提案へ

 【ミュンヘン藤生竹志】ドイツの有力誌シュピーゲル(10日発売)は、ドイツとフランスが米国などのイラク攻撃を回避するため、国連平和維持軍が査察団の活動を支援するという秘密計画を策定していると報じた。シュトルック独国防相は9日、「提案は具体的なものだ」と報道内容を認め、14日にも同案を国連安保理に提出する意向を明らかにした。

 同誌によると、独仏両国は今年初めから、査察要員を3倍に増やす▽イラク全土を飛行禁止空域とし、国連部隊が数年間にわたって管理する形にしたうえで、フランスのミラージュ戦闘機が上空から査察団を護衛し、独連邦軍も派遣する▽イラクの石油密輸を防ぐため、イラク周辺国と協定を締結する――などを柱とする共同提案を秘密裏に策定している。

 同誌の中でシュレーダー独首相は「もはや攻撃反対を唱えるだけでは意味がない」と語っており、武力行使に批判的なロシアや中国などから独仏案に一定の支持を得た上で安保理に提案する意向とみられる。秘密計画の策定は今年初めから始まったという。

 仏外務省は9日、「仏独には秘密提案は何もない」としながらも「5日に安保理で査察強化を提案している」と述べ、伝えられる独仏提案が仏の従来の立場に沿っていることを強調した。


2003年02月11日[毎日新聞]イラク問題:米英VS仏独露の構図 安保枠組み、変化の可能性

 【ロンドン岸本卓也】イラク攻撃に向かう米国と攻撃に反対するフランス、ドイツの対立は、ロシアが仏独と連携したことで国連や北大西洋条約機構(NATO)という世界平和を支える国際協調体制を根底から揺さぶっている。イラク問題は、一国中心主義の米国に追随する国々と米国に歯止めをかける国々の対立に発展し、世界の安全保障の枠組みを大きく変える可能性が出てきた。

 米英の性急なイラク攻撃に反対する仏、独、ベルギーの3カ国がイラク攻撃を想定したNATOのトルコ防衛支援策に拒否権を行使したことは盟主の米国にとって背信行為になる。さらに、イラク攻撃を回避したい仏独は冷戦時代にNATOの敵国だったロシアと手を結んだ。予想もしない事態に欧州各国は同盟崩壊の危機感を募らせている。

 NATOのロバートソン事務局長は10日の会見で「情勢は深刻だ」と打つ手がないことを嘆いた。先月末に英、スペイン、イタリアなど8カ国は「米国と結束するべきだ」という趣旨の共同書簡を公表し、仏独を怒らせた。仏独のNATOでの事実上の拒否権行使は、英など米国支持派への報復でもある。

 一方、ラムズフェルド米国防長官は仏独を「古い欧州」となじり、NATOに新規加盟した東欧諸国を「新しい欧州」とたたえた。東欧諸国は一斉に米国の対イラク強硬路線を支持した。長官は米国の世界戦略に従わない独仏を振り落とすことが狙いだったようで、米国が欧州の分裂を誘発した点が重要だ。

 米国にとっての懸念は欧州連合(EU)に強力な欧州独自の軍事力を与えようとする仏独の動きだ。長官の仏独への挑発的な発言は仏独を欧州内部で孤立化させ、EUの軍事機構化を阻止することを意図したとみてよい。英国のフィナンシャル・タイムズ紙は「ラムズフェルド長官は欧州の分裂を喜んでいる」と指摘している。

 しかし、米国から締め出された欧州の大国である仏独がロシアと連携したことは欧州だけでなく世界の安保体制にも大きな影響を与える。特に仏露は国連安保理常任理事国。米英主導の安全保障政策に抵抗する場面が増えれば、国連の権威や機能が低下する。「欧米列強の駆け引き」という前世紀の危険な世界の再現もありうる。


2003年02月13日[毎日新聞] イラク問題:ロシア、拒否権発動も プーチン大統領が表明

 【モスクワ田中洋之】タス通信によるとフランスを訪問中のプーチン・ロシア大統領は12日、イラクへの一方的な軍事行動は「絶対に容認できない」と表明、米英が準備しているイラク攻撃容認の国連安保理決議案に関連して「ロシアは拒否権を持っており、必要あれば行使する」と述べた。地元記者団の質問に答えた。大統領は「ロシアは何度も拒否権を行使してきた」とする一方、「今はこの問題を先鋭化させるべきではない」と述べ、イラクをめぐり意見が対立している安保理内の共同作業を進める用意を表明した。

 また大統領は、米国の強硬姿勢がなければイラクから国連査察への協力を得ることはできなかったと評価し、「米国は軍事行動を開始せずに面目を保てる」と指摘。問題解決の外交的手段が残っているうちは「許された範囲を超えて戦争を始めてはならない」と米国に自制を求めた。


2003年02月14日[毎日新聞]イラク問題:冷え切った米独関係 修復見通し立たず

 イラク攻撃を進める米国に対して、ドイツのシュレーダー首相は戦争絶対反対の立場を打ち出し、イラク攻撃反対の急先ぽうとなっている。第2次大戦以降、米国に忠実な同盟国だったドイツの強硬姿勢に、米国は「同盟国の裏切り」ととらえ、米独間にかってない深い溝が出来始めた。【ベルリン藤生竹志】

 「申し訳ないが、私には納得がいかない。納得がいかないものを国民に説明することは出来ない」。今月8、9日にミュンヘンで開かれた第39回安全保障政策会議でラムズフェルド米国防長官と同席したフィッシャー独外相は、長官に向かってその部分だけ英語で、語気を強めて訴えた。フィッシャー外相の視線の先でラムズフェルド長官は無言で苦笑を浮かべただけだった。

 同長官は会議の席上、「すべての国に攻撃に協力してもらおうとは思っていない」と語り、ドイツをけん制した。さらに、会議前には「独仏は古い欧州」と切り捨て、「キューバやリビア、ドイツなどいくつかの国は何もしようとしない」とドイツをリビアなどと同列視した。

 ラムズフェルド長官の発言は、「ドイツがあくまで攻撃に反対すれば切り捨てるぞ」という脅しとも受け取れた。

 安保会議後、シュレーダー首相はベルリンでプーチン・ロシア大統領と会談し、イラク査察の規模拡大などを盛り込んだ戦争回避の独仏・査察強化案への支持を取り付けた。

 安保理議長国のドイツは査察団の第二次報告を受けて始まる国連安保理協議の場で、査察強化案を提出し、あらためてイラク問題の平和解決を訴える見通しだ。

 シュレーダー首相は13日の連邦議会(下院)本会議で「安保理でも攻撃に反対する国は多い」と述べ、各国の支持を得る自信を示した。

 フィッシャー外相も、イラクが国連決議で定められた射程距離を越えるミサイルを保有していることが判明したにも関わらず「重大違反は今のところ見当たらない」と述べ、査察継続の必要性を強調した。

 ドイツはナチス時代への反省から反戦機運が強く、シュレーダー政権の主要閣僚は反核・平和を党是とする「緑の党」出身のフィッシャー外相はじめ、戦後教育で反戦を徹底的にすりこまれた世代である。イラク攻撃反対の圧倒的世論を背景に強気な姿勢を緩めない。

 しかし、「イラクが協力しなければ査察の延長は意味がない」と主張する米国が戦争回避の査察強化案に反発するのは必至だ。

 そして、ドイツと共同歩調をとっているフランスやロシアの態度が軟化し、戦争容認に向かえば、ドイツは取り残される可能性がある。

 逆に、独仏案が支持されれば米国のメンツはつぶれ、戦争反対の急先ぽうに立つドイツへのいら立ちがさらに膨れ上がる。

 どちらに転んでも、完全に冷え切った米独関係は簡単に修復出来ないレベルに達している。


2003年03月02日イラク問題:トルコ国会が米軍駐留を否決 賛成が過半数届かず

 トルコ国会は1日夜(日本時間2日未明)、イラク攻撃に向けた米軍の国内駐留とイラク北部へのトルコ軍派遣の承認を求めた政府議案を否決した。

 国会は与党、公正発展党(AKP)が多数を占め、駐留承認はほぼ確実視されていたが、否決されたことによりイラク北部からの侵攻ルート確保を目指していた米国は、部隊展開の遅れなど作戦上の影響が避けられない情勢となった。

 昨年発足したばかりのギュル政権にとっても大きな痛手。米国からの経済支援やイラク再建時の発言力確保など「長期的な国益を守る」として米軍駐留承認を求めてきた政府は、一両日中に修正案を再提出するかどうかなどの判断を迫られることになった。

 採決では賛成が264票で反対251票を上回ったが、出席議員534人の過半数に達せず、議長が憲法に従い否決と判断した。

 政府議案では承認から半年間、最大で6万2000人の米軍の駐留を求めていた。議案は2月25日に提出されたが、国民のイラク攻撃への反対が強く、国会審議は先送りされていた。(アンカラ共同)

[毎日新聞3月2日] ( 2003-03-02-08:17 )