338 日本左派運動の反戦闘争考

破産するイラク占領政策 日本はアメリカのATM+無料セコム
2003-10-25
【高まる反米気運】
【深まるブッシュの苦悩】
【国連がだめでも日本がある?】
【自衛隊はイラクに行くな】

 イラクのフセイン政権が崩壊して、半年が過ぎた。質・量ともに圧倒的なはずの米英の軍事力にもかかわらず、米兵が攻撃を受けて死亡したというニュースが毎日のようにイラクから届く。9月17日にはアラブ首長国連邦の衛星放送アルアラビアから、フセイン元大統領のものとされる音声テープが流れた―「愚かな侵略者にたいし、あらゆる手段を使って聖戦を挑め。遅かれ早かれ、米軍のイラクからの撤退は不可避だ」。これに呼応するかのごとく、米英軍に対する攻撃が9月以降急増し、その頻度はブッシュ大統領が戦闘終結宣言を出した5月の4倍以上になった。戦後の米英軍の戦死者は事故、自殺者などを含めて150名以上となり、戦闘終結宣言以前の138名を上回っている。しかも米兵らが死亡して報じられる事件は氷山の一角にすぎない。イラク全土では連日20件以上の攻撃が続くなど、まさにイラク情勢は英米の占領の理不尽さを説明するばかりだ。

【高まる反米気運】

 フセイン政権「残党」によるゲリラ襲撃ばかりではない。親米的といわれてきた国内最大派閥であるシーア派も、「米軍がイラクに来てから、多くの人々が殺された」と反米気運を急速に強めている。10月8日には反米デモを扇動したという容疑で、シーア派指導者が米軍に連行された。これに抗議する数千人規模のデモや、警察署爆破テロがおき、10数名が死亡した。この事件を受けてシーア派指導者モクタダ・サドル師は「司法・財政・情報省など、複数の省庁からなる独自の政府を発足させた」と、米英占領軍主導のイラク統治評議会との訣別を宣言するに至っている。

 こうした混乱の最大の要因は、インフラ整備や治安回復・失業対策などの戦後復興が、米英軍の占領政策のもとでは一向に実現しえていないからだ。フセイン独裁政権下であったかつての湾岸戦争時においてすら、戦後3ヶ月もすれば市民生活は安定した。米英軍の占領政策はフセイン政権以下であるという失望と怒りが、イラク市民に広がっているのだ。

 バグダッドでは職を求める失業者のデモが暴徒化(10月1日)したり、給付金を求める元イラク兵と米軍が衝突(10月4日)した。失業率は推定で65%。しかも米英軍の空爆や戦闘の巻き添えによって、民間人の死者は9月26日までに少なくとも7376人、多ければ9178人にのぼる。クラスター爆弾の不発弾や劣化ウラン弾による放射能被曝も加わって、今後被害は拡大するばかりだろう。ブッシュは「独裁からイラク民衆を解放した」と強弁するが、イラク民衆は英米の侵略と闘っているのである。

【深まるブッシュの苦悩】

 フセインのイラクがいかに独裁政権であったとしても、主権をもった国家に対して、他国の軍隊が攻め込んでこれを転覆することなど国際法では認められていない。それゆえブッシュにとって今回の戦争の大義名分は「独裁からの民衆の解放」ではなく、イラクが大量破壊兵器を開発・保持しアメリカを攻撃しようとしているとされた。米英はそこで査察継続を求める国連や国際社会を振り切って、武力行使を強行した。だがフセイン政権崩壊後半年を過ぎても、その手がかりすら見つけられない。イラクの大量破壊兵器を捜査しているCIAのデビッド・ケイ顧問は10月2日、暫定報告と銘打ちながらも「具体的な証拠は見つかっていない」との議会報告を行った。米メディアによると、フセイン元大統領に開発の意図はあったが、兵器そのものは保有していなかったとの見方も含まれるという。半年間にわたって約1200人もの捜査員を動員して行われた結果がこれだ。民主党のロックフェラー上院議員は「議会が開戦に同意する根拠となった兵器そのものや、差し迫った脅威に関する話題はなかった」と批判するなど、ブッシュの嘘つきがあらわになっている。

 この暫定報告についてブッシュは「報告書は最終のものではない。しかしすでにフセインが国際社会を欺き、国連安保理決議に明白に違反し、世界の脅威だったことは明らかだ」とイラク攻撃の正当性を強調した。だがイギリスでも、参戦に抗議して開戦直前に辞任したクック前外相が日記を公表し、ブレア首相がイラクが大量破壊兵器を持っていないことを知っていながら米国に引きずられて参戦したことが暴露された。さらにオーストラリアでは、ハワード首相がイラク参戦に向けて大量破壊兵器に関する情報を誇張するなど国民を誤った方向に導いたとして、首相問責決議案が採択された。国際社会を欺いてきたのは他ならぬ米英なのだ。

 さらに、ブッシュを悩ます新たな火種も出てきた。イラク核疑惑の調査にあたったウィルソン元駐ガボン米大使の夫人が、CIAの秘密工作員であることをブッシュ政権の高官が暴露した疑惑が追い打ちをかけているのだ。ウィルソン氏は、イラクがニジェールからウランを購入するという情報の真偽を調査し「可能性は極めて疑わしい」との報告を行っていた。それにも関わらず今年1月ブッシュの一般教書演説で「フセインはアフリカから大量のウランを購入しようとした」と述べている。それに対してウィルソン氏は「イラクの脅威を誇張するため、核兵器開発をめぐる情報をねじ曲げた」と告発していた。夫人の素性暴露は、ブッシュ側近らによる意趣返しなのだ。それが政権中枢を巻き込んだ政治スキャンダルとなっている。

進まぬ戦後復興と増え続ける戦死者、揺らぐ戦争の大義の中で、政権内部からも不協和音が生まれ続けている。中でもイラク戦争の立て役者だったラムズフェルド国防長官に対して、政権を支えてきたネオコン勢力から批判が噴出している。「ラムズフェルドはサダムを放逐した後は知らん顔だ」(ウィリアム・クリマドル・ウィークリー・スタンダード誌編集長)「歴史は国防長官にイラク再建については敗北者の名札をつけるだろう」(アメリカン・エンタープライズ研究所トーマス・ドネリー研究員)など。

 ネオコンの英雄だったラムズフェルドは今や悪役なのだ。しかもネオコン達は戦争を煽ってきた自分たちの責任を回避しようとしている。

 米国民はあきらかにブッシュ政権に失望している。最近出されたギャラップ社の調査では、ブッシュの支持率はついに50%で、就任後最低となった。2年前の9・11テロ直後に80%を越えていたのがうそのようだ。9月8日付ABCニュース世論調査によるとブッシュのイラク問題への対処の仕方についても、4月30日には支持率が75%であったものが、9月には49%と激減している。パパブッシュ同様、来年の大統領選挙におけるブッシュ再選の夢はいまにも消え去りそうだ。われわれもそれに手を貸したいものだ。

【国連がだめでも日本がある?】

アメリカはイラク占領により多くの国々を参加させることで、事態を打開しようとしている。しかし、国連も国際法も無視して先制攻撃を行い、イラク軍事占領を強行して混乱させてきたのはアメリカなのだ。イラク単独の軍事占領が混迷を深めた今になって、各国に協力しろというのはあまりにも虫が良すぎる。

 10月2日、ブッシュ政権はイラクでの兵員と復興資金の分担を求める新決議修正案を国連安保理に提出した。この新決議をめぐって、かねてから米英主導との批判が独・仏などから出されていた。今回アメリカの提出した修正案では国連の役割拡大、主権委譲の早期実現、多国籍軍の任務明確化などの文言が散りばめられている。だがそこでも米国と暫定占領当局(CPA)がイラクの統治に当たると定めた安保理決議1483は前提とされていた。それに対し10月7日「国連は今のような状況下で政治的役割を十分にはたせるふりをしてはならない」と、アナン国連事務総長が真っ向から異を唱える演説を行った。結局アメリカはイラク統治権を保ったまま、多国間主義の隠れ蓑が欲しいだけなのだとアナンに批判されたのだ。

 アメリカは23、24日にマドリードで開かれるイラク復興会議までの採択を目指し、3度目の修正案を提案したが、一方でバウチャー報道官は「決議が支援を集める唯一の方法ではない」と言明する。

 米政府内にはトルコが7日にイラク派兵を決定したり、日本が相当規模の資金援助と自衛隊派遣を決定していることから、「決議がなくてもいい支援国会合が開ける」との意見が台頭している。「古いヨーロッパ」の抵抗により国連が動かないなら、周辺の親米国から支援を引き出して巻き返しを図ろうというわけだ。

 10月17日のブッシュ来日は、まさにそのためにのみある。アーミテージ米国務副長官は先月、加藤駐米大使に「billions(数十億ドル)」という表現で日本の資金援助を求めた。日本政府は、世界銀行がイラク復興資金として見積もった04年から4年間で550億ドル(約6兆円)の1割に当たる、50億ドルを軸に拠出額を調整しているという。アーミテージは先に国連テロで自衛隊派遣を逡巡する日本政府に対し、「逃げるな。復興支援はお茶会への出席じゃない」と恫喝した。アーミテージはゴッド・ファーザーのつもりなのだ。情けないのは日本の小泉首相である。小泉はブッシュのいうがままにどこまでも付き従おうとしている。倒産や失業にあえぐ日本国民には財政赤字から「改革の痛み」を強調し負担を強いているくせに、アメリカの戦争支援には巨額の資金をATMのようにポンと出し、自衛官の命まで差し出そうという。小泉政権はアメリカ政府の日本支部なのだ。

【自衛隊はイラクに行くな】

 政府はイラク特措法に基づいて12月に航空自衛隊100人前後をイラクに派遣する。クウェートとイラク間や、イラク国内で米軍物資や救援物資を輸送させるという。また、陸上自衛隊についても12月中に先遣隊100人を、年明けには1000人規模の部隊をイラク南部の都市ナーシリアなどに派遣し、給水・浄水活動を行わせる方針だ。9日に帰国した政府調査団が米英軍などから聴取した結果、ナーシリア周辺はシーア派住民が多く治安が安定しているとの結論に達したのだという。

 しかし、輸送機が離着陸するバグダッド空港周辺でも襲撃事件が相次いでおり、シーア派も反米気運を募らせている以上、今後治安が維持される保証などどこにもない。米兵が守ってくれる? そんなことを信じているのは、自分がイラクにいくわけではない永田町の政治家だけだ。それこそ「お茶会に参加するわけではない」のだ。

 また調査団報告には、治安もさることながら深刻な問題が抜け落ちている。米英軍が全土にばらまいた劣化ウラン弾の汚染の問題だ。イラク南部では91年の湾岸戦争時に多量の劣化ウラン弾が使用されている。今回の攻撃でも英軍は南部地域での劣化ウラン弾使用を認めている。

 イラクでは駐留している米軍兵士の一部で肺炎や皮膚疾患などが広がっており、急死する例も出ている。7月、バグダッド空港周辺に配置された兵士の間で発熱やかゆみ、皮膚に茶褐色の斑点が出るなどの「奇病」が流行し、兵士3人が米国に送還された。7月2日にバグダッドで倒れ搬送先の病院で急死した兵士について、担当の医師は「肺に何らかの毒素が入り、肺炎を起こした」と説明した。劣化ウラン弾に詳しい慶応大学の藤田祐幸助教授はこれらについて「急性の放射線障害の可能性が高い」としたうえで、「自衛隊が汚染地域に派遣されれば同様の被害を受ける可能性がある」と警告している。政府の調査はこうした劣化ウラン弾汚染の懸念になんら応えていないのだ。

 国内外の研究者・NGO・ジャーナリストの警告にも関わらず、イラクにおける劣化ウラン弾汚染の問題について、日本政府はアメリカ追随の姿勢を堅持しているのだ。政府は8月29日、社民党福島瑞穂議員が提出していた質問趣意書に答え、「アメリカ合衆国が今回のイラクに対する軍事行動において劣化ウラン弾を使用したかについては承知していない」との見解を示した。また「政府としては劣化ウラン弾の影響について国際的に確定的な結論が出ているとは承知していない」と、その危険性すら認めようとしていない。なんという政府だ。兵士を虫ケラのように差しだそうというのだ。

 「唯一の被爆国」が聞いてあきれる。アメリカが認めていないから承知してないではなく、「人道支援」を口にするならなぜ自ら調査しようとしないのか。広島・長崎では残留放射能に汚染された何十万の人々が、晩性被害で苦しみ命を落とした。

 イラク攻撃においては、1000トンを越える劣化ウラン弾が使用されたとの試算もある。このまま放置されればイラク国民に深刻な「サイレント・ジェノサイド」が進行するばかりか、現在イラクにいる米英兵、派遣されようとしている日本の自衛官の被曝も免れ得ない。ブッシュや小泉はゲリラ攻撃で出る戦死者については気にするが、自分の任期をすぎれば数年後の兵士たちがどのようになろうと関係ないと思っているのだ。

 いま日本に求められていることは、破綻した米英軍のイラク軍事占領を助けるために、軍服を着た自衛官を戦場に派遣することではない。イラク民衆はもちろんのこと、戦場に送り込まれる兵士たちの命を守るためにも、早急に劣化ウラン被害の実態を調査し、汚染の除去・被曝治療を行うための専門家や医師を送ることだ。また、それを実現するためにも米英軍の軍事占領を止めさせる必要がある。

 小泉首相はイラク特措法をめぐる国会答弁などで「日米同盟の必要性」を繰り返す。しかし、9・11を契機としたブッシュ・ネオコンの戦争戦略に付き従うことが、日本の国益とはならない。アメリカではブッシュの支持率は50%、米国民の半分は支持していないのだ。さらに国際世論調査「トランスアトランティック・トレンズ2003」の世論調査によると、ブッシュ外交の支持率はフランスとドイツではそれぞれ15、16%でしかない。国内外で孤立を深めるブッシュにたいし、先進諸国のなかで日本の小泉政権だけが突出して支えようとしている。ブッシュやアーミテージにNOといえない小泉首相に対して、派兵反対・平和を求める日本民衆の声を突きつけていこうではないか。

 10月25日、インターナショナル・アンサーはワシントンでの大行進を準備し、「人々の真の大衆運動のみが犯罪的なイラク占領を終わらせることができ、米軍をアメリカに連れ戻すことが出来る」と全世界での統一した反戦行動を呼びかけている。この闘いに合流しよう。そして小泉によってイラクに送られようとしている自衛官に対し、イラクに行くな、殺すな、殺されるな、の声を届けよう。





(私論.私見)